ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
知波単学園機甲科。
チハを主戦とした戦法を取る決死隊軍団。ある意味で負けるときには物凄く潔いのであるが。その分、戦車の修理費がバカにならない。よってコストがあまりかからないチハ以上の戦車を所有するに至っていない現状がある。
チハを愛し、チハと生き、チハと散る。
ある意味、戦車への愛を貫いているこの機甲科であるが。その実、練習試合などで負ける事が頻繁にありすぎる学校でもある。
「もったいないなぁ…ほんまに。あ、そこ抑えてもらえへん? いまからバーナーで溶接するから」
「はいよ」
「いやー、本当勿体無いよ! リーダー! うちに来たらみんな可愛がってあげるのに!」
「あ、いや、そういう訳には…」
「ちっちゃくて可愛いからねーリーダー」
「身長138㎝くらいだっけ?」
「なおバストは…」
「永瀬、後でお話な?」
「ひぃ! …じょ、冗談っすよ! リーダー!」
「しげちゃん怒ると怖いぞー?」
そう言いながら繁子の戦車の装甲の溶接を手伝う立江。
永瀬はそんな立江の言葉に顔を引きつらせながら苦笑いを浮かべる。長年いるのだから永瀬にも繁子がどんな人物かあらかた理解している。
特に胸の事に関しては繁子にはNGワードである。
あまり小さすぎるというわけではないのだが、着瘦せするタイプの繁子の胸は身長もあってか普段からキレイなフラットに見えてしまうというコンプレックスがあるとかないとか。
「ほんまにウチはこう見えてC近くあるんやで?」
「大きく見積もった場合じゃんよ、それ」
「ぐっちゃんってたまにえげつないよな」
「いやー照れるよリーダー」
「褒めてへんわ」
そんな他愛のない会話を交わしているうちに溶接の作業が終わり、繁子はバーナーの火を止める。
繁子はバーナーを片付けると次はスパナを取り出し、汗を拭いながら次の作業に移りはじめる。
「さて、次はと…」
「いや、ちょっと待てお前達。何やってんの?」
「あ、隊長じゃん。どうしたの?」
「どうしたのじゃないだろう! そっちがどうしたんだよ! いったい何作ってるんだ!」
「何って…。そりゃ…」
「最近、廃車になった他の高校の戦車の部品と自前の部品使って特二式内火艇を1から作ってるだけですよ?」
「カミ車作ってるのか!?」
そう言いながら何気なく平然と言葉を返す多代子に機甲科の隊長、辻は目をまん丸くして唖然とした。
特二式内火艇。通称カミ車は大日本帝国海軍(海軍陸戦隊)の水陸両用戦車である。
九五式軽戦車をベースに開発されており、砲塔は二式軽戦車を流用。
戦時中の前期型では主砲の間に合わせに九四式三十七粍戦車砲もしくは九八式三十七粍戦車砲を使用。
第二次世界大戦後期型では本来の一式三十七粍戦車砲を搭載していた。また、車体前方左側に九七式車載重機関銃を装備していた水陸両用戦車である。
「名前はもう決めてるから安心して大丈夫やで! 隊長!」
「いや、そうじゃなくてだな…」
「チハ以外に戦車を増やすのは戦力増強にもなるからね、試合に勝つためには仕方ない」
「普通は一年生は基礎からだな…」
「基礎からですか? これが基礎です」
「…うん、そうだな」
辻は満面の笑みを浮かべてスパナを持ちながらそう告げる繁子にもはや何も言えなかった。
確かにこの一週間、繁子達にチハを操縦してもらい、その腕前を辻は見せてもらった。
彼女達の乗るチハはひたすら強かった。一年生どころか二年生、三年生の乗る戦車まで倒してしまう始末。
チハに対する戦い方を熟知し、さらにチハを理解している者達の戦い方だった。それが、これが原点だと言われれば辻とて返す言葉が無いだろう。
「こ、こほん。あのな、うちの伝統は突撃だ。つまり、君たちにはその伝統に習ってだな…」
「突撃ってどのレベルからはじめるんですか?」
「いや、レベルも何も敵に突っ込むだけだろ…」
「いえいえ、突っ込むだけではダメです。相手を突撃だけで粉微塵にするレベルじゃないと」
「一体どんなレベルだっ! むしろそっちの方が怖いわ!」
「つまり、ダンプカー並みにごつい戦車作れば良いんですねわかりました」
「いや、しなくていい! しなくていいから!」
冷静に自分の言葉を素直に間違った方向で受け取る永瀬、国舞、立江の返答に苦笑いを浮かべて制止をかける辻。
確かに一筋縄ではいかないとは思っていた。一年生から戦車道のエース候補のこの五人組。特に繁子は整備科から頂戴とねだられるほどの人材だ。
しかし、辻も隊長であるからにはこのとんでも一年生軍団を使いこなさなければならない。
「ふぅ…わかった。わかったよ…。君らが好きなように練習させてやる。練習試合も近いしな」
「え? 練習試合? 何処とですか?」
「プラウダ高校だ。古豪と呼ばれる戦車道名門校だぞ」
「やっぱりダンプカー並みにごつい戦車いるね」
「おい馬鹿やめろ」
そう言って、時御流全員に同意を求める立江を制止する辻。
本当に戦車を自家製作できるこいつらは作りかねない。それだけの凄みが彼女たちにはある事を辻はわかっていた。
「なるほど…。練習試合かぁ〜」
「楽しみだねーしげちゃん」
「このつれたか丸(特二式内火艇)はまだ完成できてへんけどまぁ、以前作った山城ならなんとかなるやろ」
「なんだかよくわからんが…その山城はチハではないみたいだな」
「チハが二段階進化したみたいな戦車とだけ」
「なんだその戦車!?」
繁子の言葉に目をまん丸くする辻。
チハが二段進化した戦車と言われてもピンとはこないだろう。しかしながら特二式内火艇を自作で作ることにも驚いたがまさか以前にも戦車を作っていると聞けば辻が驚くのも無理はない。
それを練習試合に持ち込もうとするこの5人娘もとんでもないのであるが…。
「とりあえず今日は練習試合に向けたブリーフィングがあるからな! しっかり聞いておくんだぞ」
「ちなみにそのブリーフィングはどのレベルからはじめるんですか?」
「え?」
古豪、プラウダ高校。
繁子達の初の戦車道の試合がすぐそこまで迫っている。
果たして勝敗は…どうなるのか、辻隊長はどう立ち回るのか、練習試合で時御流が再び邁進するのか。山城とは一体…?
それぞれ、いろんな思惑を抱いたまま繁子達は機甲科の者達とブリーフィングに参加するのであった。
ここはところ変わって、西住流本家。
彼女、西住しほは緑茶を飲みながらふと先日の葬儀の事について思い出していた。そう、その葬儀とは時御流の城志摩 明子の葬儀である。
「まさか、先に逝ってしまうなんてね…」
彼女は勝利至上主義を掲げる西住流戦車道の師範。日本戦車道連盟の重要ポストに就いており。
今現在、娘の一人が戦車道の王者、黒森峰女学院に入っている。
そんな彼女がふと、先日の葬儀について懐かしそうな顔つきで呟くのでその場にいた西住しほの秘書は首を傾げていた。
「先日の葬儀の話ですか?」
「ん? まぁ…そんなところでしょうか」
そう言って、しほは秘書の言葉にフッと笑みをこぼして笑う。その笑みは何処か意味深でなんだか秘書には気になる笑みだった。
彼女はさらにしほにその葬儀に出た女性についてしほに掘り下げて質問することにした。
「其れ程までにしほ様が気にされるような方だったのですか?」
「そうですね…。しのぎを削りあったライバルの一人と言ったところですかね」
「はぁ…」
「時御流…ね。懐かしいですね…」
「時御流?」
西住しほの言葉に首を傾げる秘書。
島田流と西住流が主流の現在、そんな名前の流派は聞いたことがない。ましてや、西住流の師範であるしほが一目置くほどの流派にも関わらずだ。
しほはさらに秘書に話を続ける。
「聞いたことないですか? 西住流と島田流を差し置いて実戦では最強かもしれないと言われた流派ですよ」
「に、西住と島田流を差し置いて!? どんな流派ですか! それ!」
「そうねぇ…どこから説明したら良いでしょうか?。 現在の戦車道の規定が確立される前ですかね? 無差別での戦車を使ったエキシビションマッチを私が高校生の頃行った事があるんですよ」
「はぁ…。そんな事が…」
「その時は第二次大戦の戦時中に使われた戦車を使った物であればなんでも使って構わないというルール。自作でも改造でもなんでもですよ?」
「えぇ!? ありですか! そんなの!」
「実際あったんですよ。その時に私が戦った選手の中に明子が居ました」
しほは当時を思い出すように嬉しそうに笑みを浮かべていた。
城志摩 明子。 旧姓、時御 明子。
時御流の全盛期時代、戦車道においても島田流、西住流と流派三角を成した人物。そんな彼女の戦い方もそうだが、何よりも当時、西住しほが驚かされた出来事がある。
「それで、そのエキシビションマッチ。私はいつもの如くVI号戦車ティーガーIに乗り参戦したんだけれど。 そして、明子ですね…。
貴女、戦車達の中でも最大級の17.4cmという破格の口径を誇るPak46砲を積んだ時速50kmで走り、砲弾を3連射する駆逐戦車を見た事あります?」
「え…?」
西住しほからその話を聞いていた唖然とした。
そして、次の瞬間、そのエキシビションマッチに持ち込まれた時御流の戦車の性能に思わず声を上げる。
そんな戦車があれば普通にどんな戦車にも勝てるだろう。インチキどころの話ではない。
「はぁっ!? なんですかその戦車っ!?」
「当時、彼女が持ち込んできた戦車です、それも自作で5台」
「馬鹿じゃないんですか!? いや頭おかしいでしょう!」
「私も戦慄が走りました、もはや頭を抱えるくらいね…。あっと言う間に全滅ですよ、こちらは」
「そりゃそうなりますよ…なんて物を作るんですか…」
「それが時御流。 …他にも戦車の試合中に森林伐採して地形を変えるわ、自作で作ったスコップで沼地を形成するわ。ともかくとんでもない流派だったんですよ」
「えぇ…」
その言葉にもはや秘書は苦笑いを浮かべるしかない。
戦略が練りにくいなら練りやすい地形に無理矢理変える。敵の戦略自体の根底を無理矢理ぶち壊しに掛かる。
西住しほが現役時代、体感した時御流がまさにそれだった。
しかし、今の定められた戦車道の規定ではこんな馬鹿みたいな戦車を自作で持ち込むような人物は存在しない。
だが、かつて、しのぎを削りあい戦車道を通して友人となった西住 しほに時御 明子が当時語った夢がある。
「明子は…そうね…。あの頃、彼女の夢は戦艦大和に積む46cm砲をいつか戦車にひっ付けると語っていましたね…」
「もう学園艦自体吹っとばせるレベルですよね? それって…」
「まぁ、当時はそれだけの事が時御流には出来たんですよ」
そう言って懐かしそうに語る西住しほ。
そんな彼女の顔を見た秘書は時御流がいかに凄かったのかを感じた。そのレベルはもはや戦車道という枠からは明らかに逸脱しているといっても過言ではない。
そして、西住しほはここまで話をするともう一つ、楽しみな事がある事を思い出した。
それは、彼女、時御 明子の一人娘についてだ。
「…今年の戦車道全国大会は例年以上に盛り上がるかもしれないですね」
「はい?」
「いや、こちらの話ですよ」
彼女の一人娘となれば当然ながら時御流を学んだ事だろう。
戦車道にて、西住は最強。それは変わらない、だが、かつてのライバルの娘がその常識を超えるかもしれないという期待も少なからず湧いてくる。
戦車を1から作り、愛する戦車道。
その戦車道が果たしてどうなるのか、西住しほは黒森峰に入った娘への期待と共に明子の娘に関しても何処の高校かはわからないが期待をしている。
西住が最強である事を証明する礎として。