ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
戦車強襲競技。
それは、なんでもありの戦車による野良試合。10トン以下の戦車を使い互いに死力を使い戦う戦車戦である。
時御流はかつて、この競技で猛威を振るった事は特に良く知られている。
だが、戦車強襲競技(タンカスロン)は王道のフラッグ戦、殲滅戦の戦車道競技よりもマイナーな種目。
この競技で結果を出したところで世に時御流が知れ渡る事はまずなかった。そう、先日の戦車道全国大会があるまでは…。
西住流に敗れはしたものの、その知名度は以前に増して格段に増えていた。そして、繁子もまたそれに伴い、有名な人物であることが世に知れ渡りつつある。
さて、そんな繁子だが、先日、継続高校に入学してから数日、戦車道から離れて自分を見つめ直す事を決めた彼女はミカ達から誘われ戦車強襲競技に参加することになった。
「おー永瀬! 来たか!」
「おまったせー! しげちゃん! 持って来たよ!」
「うわ! 本当にケホ車だ!」
軽戦車、ケホ車から登場した永瀬に驚きながらも彼女の乗ってきた戦車に目を輝かせるアキ。
五式軽戦車ケホは10トンの重量の軽戦車。このケホはそれをさらに軽く改造し機動性を上げた時御流改造ケホ車である。
しかも、重量だけでは無い、このケホの持つエンジンは世界最速を誇るクロムウェル戦車が持つミーティアエンジンを小型化したものを搭載。
さらに主砲は手を加えて軽量化を施した主砲を搭載、4連射式の主砲で場合によってはあの超重量級マウスすらも撃沈させてしまう程のトンデモ主砲である。
まさに魔改造に魔改造を加えたタンカスロンの為の時御流が誇る鬼神戦車。
この変態的なケホ車の改造を施したのは永瀬と立江、そして、真沙子の三人である。
そして、この魔改造戦車を1輌だけ繁子は持ってくるように永瀬に頼んだ。
「サンキュー永瀬、助かったわ」
「いいっていいって! 立江が後からクレーン持って来るからよろしくね!」
「仲間との友情は不滅か…戦車が絆を紡ぐんだね」
そう言いながら、カンテレを持ったアキは早速魔改造を加えたケホ車に寄りかかるとポロンとカンテレを鳴らす。
さて、本題はこのケホ車を使って何処の学校と戦うかである。
繁子はタンカスロンを行うにあたり、その対戦相手まだ決めていない。
しばらくして、立江がクレーン車に乗ってやってくる。時御流のメンバーは全員、クレーンとユンボ、シャベルカーの様な働く車は全て運転する技術を兼ね備えている。
タンカスロンにおける地形変化は主にこれらを使って行うからだ。
戦車戦にはもちろんクレーンやシャベルなんかは使わない、使うのはむしろ試合に加担しない者たちだけだ。
タンカスロンのギャラリーは基本的には安全を保証しない代わりにどんなところでも試合観戦が行う事ができる。
逆に言えばそれは…。
「まぁ、タンカスロンのルールでギャラリーがクレーンやシャベル使って地形変えたらアカンなんてルール無いもんな」
「…なんか今、ひどい話を聞いた気がするんだけど…」
「気のせいさ、風の戯れだよ」
「いや、聞いたよはっきりと…なんてこと考えつくんだろうか」
そう言いながらアキは顔を引きつらせて冷静なミカに顔を真っ青にしながらそう告げる。
時御流が用いる自分達が戦いやすい環境作りは十八番。クレーン車にシャベルを取り寄せた繁子の考えはよくわかった。
そして、なおかつ、10丁の対戦車ライフルもおそらくは同じような理由だろう。
観戦していたギャラリーがもし、試合中に対戦車ライフルを使って敵戦車に撃ち込んだとしても一発ぐらいは誤射かもしれない。
そう、繁子は最大限に使えるものは全部使う。
「んで、継続高校の軽戦車は…」
「T-26戦車だよ、私達が手塩にかけて改造した自慢の戦車さ」
「いやそれプラウダからパクッてきた戦車やろ…、まだ隠しとったんかい」
「さぁ…?」
「すっとぼけなさんな」
そう言ってどこから取り出したのか繁子のハリセンがスパンッとミカの後頭部に炸裂する。
ハリセンが直撃し頭を抑えるミカ、しばらくしてムスーと頬を膨らませると繁子の方に振り返り口を尖らせてこう話をし始める。
「痛いじゃないか」
「痛いじゃないかやのうて反省せんかい、軽戦車くらい自作して作れるやろ?」
「え? 自作するってどのレベルから?」
「まず、鉄鉱石から集めます」
「そこからなの!?」
ミッコの質問に対して、永瀬のなんの躊躇もない言葉に仰天するアキ。
鉄鉱石から軽戦車を作るという発想は無かった。というより繁子達は普通に鉄鉱石から戦車を作ることになんの抵抗もないあたりでもはや普通の女子高生の枠から外れてしまっているのだろう。
まさに、戦車道をする女子高生達にとっては彼女達の存在は、はぐれメタルである(鉄だけに)。
「試合を組むにしてもどの学校とするの?」
「そうやなぁ…まずは全国回るところからはじめようか」
「いや、おかしいおかしい」
とりあえず、試合相手も未だに決まってない。
戦車強襲競技をするにしても相手をまず見つけなくてはならないだろう。だが、そのレベルが全国を回るレベルからだと全国回るだけで繁子の短期転入が終わってしまう。
そして、そんな中、案を出したのはミカである。彼女はポロンとカンテレを鳴らすと繁子にこう告げた。
「そのうち風が運んで来るさ…」
「そぉい!」
「ぴゃあッ!?」
だが、その宛のない返答に遂に業を煮やした繁子が牙を剥く。
繁子はミカの背後から近寄るとその豊満な胸を持ち上げた。のらりくらりなミカの性格を見る限りしっかり冷静な考えを示さないのは思考が全て胸に行ってるからだと繁子は結論つけたのである。
ちゃんと考えてるなら戦車なんてよその学校から盗まない。しかも、戦車強襲競技をする対戦相手の学校ものらりくらりと来ればこれは鉄槌が必要である。
「あんたこんなおっぱいしとるから反省せぇへんのやろ! 謝れ! この歳になってもCあるか無いかわからへんウチに謝れ!」
「…やっ…ん…っ!…はぁ…っ…。 ま、待ってそこは…っ!」
「しげちゃん、思うんだけどそれ地味に自分にダメージ受けてるよね」
「永瀬…。それは言うたらあかん」
繁子は心の中で泣いた。いや、泣くしか無かった。
ミカもそうだが、永瀬も大概プロポーションが良いため、彼女にお灸を据える時は毎回このやり方なのであるがこれは単に繁子にもダメージが入る。
それは何故か、彼女の胸に聞けばわかるだろう。フラットでは無いが着瘦せして慎ましい繁子の胸がこの時ばかりはより痛々しく永瀬には思えた。
そして、繁子は一通りミカの胸を揉み終えるとため息をつきこう話し始めた。
「まぁ…冗談はさておきやな、戦車強襲競技やるならウチら流のやり方でもええねんけど」
「しげちゃん流のやり方? 何それ?」
「それはやな」
繁子はそこで言葉を区切ると首を傾げるアキにニヤリと悪戯そうな笑みを浮かべている。
どうやら、戦車強襲競技の対戦校を見つける手っ取り早い方法があるらしい、アキ達三人は顔を見合わせ、その話を聞いていた永瀬は苦笑いを浮かべていた。
北富士戦車道演習場。
現在、繁子から連れられてきたアキ達三人はものすごい状況の渦中の中にいた。
繁子は知波単学園に連絡を取り、合流した山口立江、松岡真沙子と共に先ほど話していた戦車強襲競技の対戦校を調達中なのであるが…。
「どうしてこうなったの…」
アキは現在に至る状況に顔を引きつらせるしか無かった。
それもそのはず、戦車強襲競技の対戦校を見つけるのに援軍を呼んだと繁子は確かに言っていた。
言ってはいたが、その調達の仕方が途方もなくとんでも無いやり方であったのである。それは…。
「ほんじゃええんやな? ここにいる全員で文句は無いな?」
「上等よ! 戦車1輌しか使わないでここにいる全員相手にできると本当に思ってんの?」
「おう、思ってるわよ、おら! とっとと雁首揃えて来なさい! その喧嘩買ってあげるわ」
「ほらほら他の娘達もママのいる家に帰って本隊呼んで来きなよ! 戦車がなんぼのもんじゃ! 何輌でも持って来な!」
北富士戦車演習場で盛大に啖呵を切り辺り構わず喧嘩を吹っ掛けていた。
というのも繁子達の作戦のうちで戦車1輌だけでこの北富士戦車演習場に乗り込めば笑われるのはわかっている。
だからそれを利用して盛大に敵を作ってしまおう作戦というわけである。しかし、啖呵の切りかたからして真沙子がしっくりきているあたり完全に輩さんである。
それに便乗して立江と繁子がまくし立てたり、煽ったりしてあっという間に対戦相手がバンバン増えていた。
いや、対戦相手というよりはもはや規模がでかすぎる、挙げ句の果てに助っ人好きなだけ呼んでこいという始末だ。
「…しげちゃんってなんかすごいね」
「今日は…風が騒がしいな…」
そう言いながらポロンとカンテレを鳴らすミカ。
この場合、風が騒がしいのではなくギャーギャーと啖呵を切りあっている繁子達とギャラリーが煩いのであるがミカは全く動じてないようであった。
すると、そんなカンテレを鳴らしたミカの横からすっと見知らぬ女の子がアキ達の前に現われる。
そして、ミカの言葉に続けるようにこう語り始めた。
「でも少し…この風…泣いています…」
「え? …だ、誰?」
「急ぐぞ、ミカ、風がこの演習場に良く無いものを運んで来ちまったらしい…」
「ちょっとミッコ? 何? どんな世界観なの?」
見知らぬ女の子、国舞多代子の一言に便乗しはじめる自分の仲間達に目を丸くするしか無いアキ。
いきなりこんな意味不明な会話がはじまれば誰だってそうなるだろう。しかも、何やら話が繋がっているようである。
すると、ミカはすっと立ち上がってカンテレをポロンと鳴らすと儚げな表情を浮かべこう語り出した。
「急ごう…風が止む前に…」
「ねぇ! ねぇ! あそこのコンビニ! コロッケ半額だって! これ終わったら行こうよ!」
「ふん!」
「あいた!? なんで!?」
そして、狙いすましたかのような永瀬の登場に多代子のチョップが炸裂する。
いつものことだが、空気を何事もなくブレイクする永瀬のメンタルの強さには多代子も感服するばかりである。
一方、その頃、北富士戦車演習場に来ていた全員と盛大に啖呵を切りあう三人はどうやら話が着いたらしくこちらに戻ってきた。
どうやら、話はうまくまとまったようである。
「いやー、久々に昔の血が騒いじゃったわ」
「えっと…それで試合は…?」
「とりあえずやるみたいやで、向こうさんは全員合計して25輌使うんやと」
「2、25ォ!? えぇ!?」
「いや、それぞれから雁首揃えてこいって啖呵切っちゃったもんだからさー、ごみんごみん」
「まぁ、あれだけ人数おって各自高校から助っ人持って来いって言うたんやからそれくらいはどうにでもなるやろ」
そう言いながら繁子は肩を竦めた。
とりあえず対戦校は確保したらしい。それも『大量に戦車を持ち込んでくるから首洗って待ってな!』状態である。
しかしながら、そんな中でも繁子は飄々し全く動じる素振りは見せなかった。
そんな中、アキは恐る恐る繁子にこんな質問を投げかける。
「ち、ちなみに私達が使う戦車は…」
「ケホ1輌だけやで」
どうにでもなるレベルではない。
繁子の話を聞いたアキは『きゅう…』と言って卒倒しそうなところをミカとミッコに支えられる。
何処の世界に25輌の戦車に1輌だけで挑む無謀な戦車戦があるのだろうか、だが、繁子達はそれに関しては全く動じる気配が無い。
ミカは繁子を見つめるとにこやかに笑みを浮かべていた。
「何やら…勝算があるみたいだね」
「ま、そんなところやね」
そうミカに告げた繁子は笑みを浮かべていた。
時御流、対戦相手確保方法。それにより繁子とミカ達の戦車強襲競技は25輌の戦車からなる連合チームとの試合となった。
戦車強襲競技は戦車道にあらず。
戦車を駆り、敵戦車を焼け野原にするのが目的である。
手段、やり方、戦い方に制限は無くその戦術に限界は無い。
果たして、ミカ達三人と繁子の戦車強襲競技はどうなるのか…?
「ほんじゃ私ら帰るからしげちゃん」
「うん! ありがとな! 立江!」
そう言いながら手伝いに来てくれた立江達と別れる繁子。
立江達が手伝ってくれた戦車強襲競技の試合を組めた。形はどうあれ、あの戦車25輌とやり合うのは継続高校の城志摩 繁子としてである。
ミカ達三人とこれから戦術についての打ち合わせもしていかなくてはいけないだろう。
「これは楽しみになってきた…」
ミカはそう呟いてカンテレを静かに鳴らす。
繁子と共に行う戦車強襲競技。果たして、時御流がどんな試合を繰り広げるのか楽しみであった。