ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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仲間達

 

 北富士演習場の一件から暫く経ち。

 

 繁子はミカ達と共に戦車強襲競技に挑むことになり、現在、ケホ車とT26との模擬演習を行なっていた。

 

 当然、対するはミカVS繁子。

 

 繁子の乗るケホには運転手にアキを乗せ、繁子が作戦の指揮を執っていた。公式戦で操縦士を務めていたミッコはミカが乗るT26に乗り込む。

 

 

「ここやで!」

 

「うん!」

 

「やるね…停車」

 

「はいよ!」

 

 

 戦車強襲競技を視野に入れた模擬戦。

 

 両者の戦車がギリギリのドリフトで射線を外し交差する。だが、その互いに構えた主砲は車体を外してはいない。

 

 しかしながら、暫くすると繁子の乗るケホのドリフトの勢いが増した。いや…加速したと言うべきだろうか。

 

 小型ミーティアエンジンを積んだ高機動のケホの動きにT26はついていけず背後を取られる。そして、四連式の主砲が火を吹いた。

 

 

「くっ…! ミッコ!」

 

「わかってるってば!」

 

 

 しかし、それでもミカ達は一発、二発の主砲を軽々と捌いて見せた。

 

 公式戦や練習試合で積み上げて来た勝利数は伊達ではない。紙一重で弾頭をかわして車体をすぐさま反転し攻撃に転じるT-26。

 

 しかし…。

 

 

「…なっ!?」

 

 

 攻撃に転じる前に残り二発の弾頭は見事、ミカ達が乗るT26の車体を貫いた。

 

 T26は煙を上げ、白旗を掲げる。行動不能に陥ったのだろう。完璧に車体を逸らして射線を外した。いや、外したつもりだった。

 

 それでも直撃させられた。その事実がミカ、ミッコには信じられない出来事であった。

 

 圧倒的な機動性、連射式の強力な主砲。

 

 言うなればまさに、あのケホは…。

 

 

「…鬼神だね…。本当に…」

 

 

 ミカは停車したT26の中で煤だらけになりながらそう呟くしかなかった。

 

 そのケホを駆る繁子達の腕もそうだが、ケホの圧倒的な性能差にミカは唖然とさせられた。鬼のように強い、まさに、このケホはそんな戦車だった。

 

 この戦車なら戦車強襲競技でも凄まじい戦果を挙げれる事だろう。

 

 ミカと繁子達四人は一週間後に控えた試合に向けて繰り返し、T26と改造ケホとの模擬戦を繰り返し行うのだった。

 

 

 

 それから約6日後…。

 

 試合前に繁子達は25輌の敵戦車を迎え撃つ策、そして、準備を万全に備えて戦場となる北富士戦車演習場に足を運んだ。

 

 翌日に試合を控え、事前の下見を行うからである。

 

 敵戦車をどう陥れるか、撹乱をどう行うか、1輌の戦車の立ち回り方…。

 

 そんな考えを張り巡らせて繁子は北富士戦車演習場を視察しながら歩き回り、時には戦車を使い移動した。

 

 戦車を駆るミッコと共に繁子のその真面目に戦場を下見する姿を眺めていたミカは隣にいるアキにこう言葉を溢す。

 

 

「…城志摩 繁子…。なんだかあれだね彼女を見ているとふと前に見た歴史の番組を思い出すな」

 

「…ん…? どんな番組? ミカ?」

 

「当ててごらんよ?」

 

 

 そう呟くとミカはいつものようにカンテレをポロンと鳴らし、アキに問う。

 

 だが、当然、歴史にあまり関心が無いアキにそれがわかるわけがなかった。アキは唇を尖らせミカにこう告げる。

 

 

「いや、わかんないし…」

 

「ヒントは六文銭」

 

「…六文銭?」

 

「そう、六文銭さ、三途の川の渡し賃」

 

 

 ミカはそういうとカンテレを鳴らしてニコリと笑顔を浮かべた。

 

 三途の川の渡し賃、六文銭。だが、これだけではわかるわけが無いアキは首を傾げるばかりである。

 

 するとミカは淡々とこんな話をし始めた。

 

 

「真田昌幸。歴史の番組の特集でそんな人物の話があったのさ…。北条、徳川、上杉と三つの大大名の勢力を退け信濃を守ったとされる大名だね」

 

「へぇ〜…ってミカ、歴史に詳しいんだね…」

 

「うちの高校も同じようなものだからね、真田の様な学校さ、継続高校は」

 

 

 カンテレをポロンと鳴らしてミカはフッと笑みを溢す。

 

 確かに力が無い継続高校が強豪と呼ばれる名門の高校と戦車で渡り合うには策が無ければならない。

 

 その為に戦車をプラウダから調達もしたし、できる手は全て打って継続高校は勝ちを得てきた。その点においては繁子達の知波単学園と似通っている部分もあるだろう。

 

 繁子達の知波単学園も正攻法から戦車戦を挑んではいない。むしろ、策を練り、びっくりするような連携や発想で勝利を収めてきた高校だ。

 

 

「私たちには繁子達のように戦車を作ったり、地形を変えたりする策はできなかった…。それさえあればきっと継続高校は今年優勝出来てたかもしれないね」

 

「繁ちゃん達が継続高校に居たらって事?」

 

「そういうこと」

 

 

 ミカはアキの言葉を肯定するように頷いた。

 

 繁子が考えつく策なら、迷わず実行できる環境をこの継続高校で提供する事は簡単にできる。策を講じて勝つという事にミカはなんの抵抗も無い、他の二人もそうだ。

 

 そして、自分達の纏める継続高校の戦車道を行う者たちも同じように思うことだろう。

 

 繁子なら自分の右腕にも、ましてや自分の相方にふさわしいとミカはそう感じていた。

 

 

「しげちゃんが真田昌幸ならミカは?」

 

「さしずめ真田幸村ってところかな」

 

「それはまた大層な…黒森峰は?」

 

「あれは信長かはたまた家康じゃないかな?」

 

 

 ミカはそう言うとカンテレをポロンと鳴らす。

 

 その黒森峰に対する評価はあらがち間違ってもいないだろう。何連覇も全国優勝を果たしている黒森峰女学園には強力なドイツ戦車群がいる。

 

 だが、黒森峰が家康や信長であるなら尚のこと燃えてくるというものだ。家康ならば幸村のように首を取りにいきたいものだとミカはそう思う。信長ならば明智となりてその寝首をかいて継続高校の全国優勝を果たしたい。

 

 ミカにはそんな静かな野望が心のうちにあった。

 

 そして、あの城志摩 繁子。あの娘がいれば事を成すのは容易くなる。その事をミカは把握していた、繁子の事は人としてもミカは大好きである。

 

 しばらくして、下見を終えた繁子はミカ達の元に帰ってくる。

 

 

「下見はだいたいこんな感じか…、ま、ええやろ」

 

「それで…?」

 

「立地は把握できた。後で立江達から借りたシャベルとクレーン使って罠を張るで」

 

「…ほぇ…」

 

「まぁ、これが大まかに把握した北富士戦車演習場や…まずはな」

 

 

 繁子はそう言うとミカ達と共に明日の試合について見取り図を用いて話をし始めた。

 

 明日の試合は負けられない。フラッグ車を倒せば試合は終わるが繁子は25輌の戦車を全て撃破して倒すつもりだ。

 

 ケホ1輌での戦い、厳しい戦いになる事を見越しながらもミカ達は繁子と共にその策と計画を共に考える事となった。

 

 

 

 それから翌日。

 

 繁子は練りに練った策と前日に行った地形の下見と変形を生かして試合に臨むこととなった。

 

 そして、地形を変えたこの北富士戦車演習場はもはや時御流の難攻不落の城である。前日に試合場所を変えてはいけないというルールはもちろん戦車強襲競技には存在しない。

 

 そんな事情を知らない対戦校達はぞろぞろと戦車を携えてこの北富士戦車演習場にやってくる。

 

 一目、戦車強襲競技を観戦しようとギャラリーも増え始めた。

 

 

「なかなか人が増えてきたねぇ」

 

「ま、宣伝して触れ回った甲斐があったってもんやね」

 

「んで、しげちゃん、その携えてるギターはところで何かな?」

 

「…あ、ばれてもうた?」

 

「いや見ればわかるっしょ」

 

 

 そう言うと繁子はミッコの指摘に笑顔を浮かべながら頭を掻く。

 

 実はこのだんだん増えてくるギャラリー、これにはある理由が存在した。

 

 戦車強襲競技は未だにマイナー競技である。だが、そんなマイナー競技で継続高校が金銭を得るにはどうすれば良いか?

 

 簡単である。戦車強襲競技以外のエンターテイメントを用いて資金を得れば良いのだ。繁子はその為にこのエレキギターをわざわざ持ってきた。

 

 

「いや…ばれたって何するつもり…」

 

「あ! しげちゃん! ライブ見に来たよ!」

 

「ライブ!? え? 何それ!?」

 

「おー来たか! ちゃんと受付した?」

 

「モチのロンだよ! 楽しみにしてるからね! じゃ! 私ら待ってるね!」

 

「はいよ! 毎度おおきに!」

 

 

 そう言うと繁子は現れたクラスメイトとそんな他愛ない会話を交わして別かれる。

 

 それから他にも繁子にいろんな人達が声をかけたり『楽しみにしてる』と言ったりしては別れていく。

 

 この光景にはアキも目を丸くするしかなかった。だが、繁子はそんなアキにこう話をし始めた。

 

 

「見た通り、これが時御流の資金集めの方法や、まぁ、他にも写真撮影やらいろんな事しとったけどね」

 

「…はぁ、いや、私達でも戦車強襲競技しに来てるんだよね…」

 

「まだ試合開始にはだいぶ時間があるやろ?」

 

「おーい!しげちゃん! みんな準備出来たよ!」

 

「わかった! ほんじゃ行ってくるわ」

 

「あ、ちょっと!?」

 

 

 繁子はアキにウインクをしてそう告げると呼ばれた方へとギターを携えて駆けてゆく

 

 繁子はそれから、足を運んだ箇所でギターを肩から下げて準備を終えた。繁子が居る場所はステージの上。

 

 前日、手配したステージ用トラックの上で繁子はギターを肩から下ろした。

 

 

「おっそいじゃんしげちゃん、みんな待ってるよ」

 

「いやー普段から農具ばっか使ってるから久しぶりの楽器だよほんと」

 

「なんかしっくりくるようでこないわよねこれ」

 

「久しぶりだもんね、仕方ないね」

 

 

 そう言いながら繁子をステージで待っていたのは立江達四人。そして、カンテレを持ってポジションについているミカである。

 

 どうやらこの簡設ステージで今から繁子達はギャラリー達にライブを見せるつもりのようである。

 

 受付で金銭を回収している辺り抜け目がない。早い話が資金調達を行う為の余興のようなものだ。

 

 

「本当によかったのかい? 私が入っても?」

 

「カンテレ弾ける人なんて珍しいからね!むしろ大助かりだよ!」

 

 

 そう言って、マイクを握る永瀬は笑顔を見せてミカにそう告げた。

 

 時御流が全員揃い、さらにミカが加わったこのライブ。必ず上手くいく事は間違いはない。

 

 ちなみに編成は…。

 

 

 ボーカル:永瀬智代

 

 ドラム:松岡真沙子

 

 ベース:山口立江

 

 キーボード:国舞多代子

 

 ギター:城志摩繁子

 

 カンテレ:ミカ

 

 

 という編成である。新たにミカのカンテレが加わったこの編成はかなり強力な事だろう。

 

 そして、準備が万全に整い、マイクを使って永瀬は皆に話をしはじめる。わざわざ、戦車強襲競技を見に来てくれた皆さんに感謝と御礼を伝えるためだ。

 

 

「みんな! 今日は来てくれてありがとう! んじゃ早速、歌に入るね! 真沙子!」

 

「あいよ! まかせんしゃい!」

 

 

 そう告げた真沙子が巧みにドラムを鳴らしはじめ曲がかかりはじめる。

 

 皆はその曲に合わせて歓声を上げた。まさか、戦車強襲競技に来てこんな面白そうなものが見れるとは思ってもみなかったからだ。

 

 永瀬はその曲に合わせて歌い始める。

 

 

「〜〜〜♪〜〜〜〜♪」

 

 

 それにつられて観客も熱気が上がる。

 

 繁子はギターを巧みに操り曲を奏でる。多代子もキーボードを鳴らし、ミカもカンテレを弾く。

 

 そして、ボルテージが上がるにつれて永瀬の声は辺りに響き渡る。

 

 

「〜♪ 冒険者よ〜♪」

 

 

 綺麗な歌に観客達はうっとりとしながらもライトを掲げたり、歓声を上げた。

 

 こんなステージでミカもカンテレを弾くのは初めての体験である。そして、また一曲、また一曲と曲をどんどんと流していく。

 

 背中合わせにベースとギターを弾く立江と繁子。

 

 その息はぴったりで思わず、見ていたアキもうっとりと見惚れてしまった。

 

 そして、最後の曲へと移り、永瀬は高々と宣言する。

 

 

「ラストは。…眠れる本能」

 

 

 繁子はギターを巧みに弾き始め、それに合わせて永瀬は曲を歌い始めた。

 

 カンテレ、ギター、ベース、キーボード、ドラム。

 

 その全てが噛み合い幻想的な曲という名なの芸術を生み出す。観客達はその曲という名なの芸術を聞いて試合前だというのにテンションが上がりっぱなしである。

 

 

「〜〜♪〜〜♪〜〜♪」

 

 

 永瀬は綺麗な歌を歌いながら汗を拭う。

 

 これが、明子から教えてもらったもう一つの術。

 

 皆が協力して綺麗な芸術を作り上げる。これが時御流である。どんな形でも皆が集まれば大きな力となり巨大なものでさえ動かせる。

 

 それを繁子達は今、形にしているのだ。

 

 

「みんな! ありがとう!」

 

 

 戦車強襲競技の前の余興。

 

 ライブを終えた繁子達はやりきった様にフッと皆が笑みを浮かべていた。永瀬がマイクで挨拶する中、繁子はギターを肩から外す。

 

 久しぶりのライブだったが、農具で無い分、何かと繁子には新鮮でもあった。

 

 

「ほんじゃ、しげちゃんがんばりなよ!」

 

「たり前やん!」

 

 

 繁子はそう告げて立江と拳を付き合うとミカと顔を合わせて頷く。きっと戦車強襲競技でも勝てるはず、そんな自信がなんだか不思議と湧いてくるようであった。

 

 これから、始まる戦車強襲競技。

 

 その余興にはこれほど十分な余興は無い、後は心置き無く戦うだけである。

 


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