ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
敵を陥れるにはどうすれば良いか。
心理的にまずは隙を作ることが鉄則である。形はどうあれ、敵が慢心や油断をしているか。更に内部に離反する者がいるかどうかを知ることからはじまる。
繁子達が行った、この資金集めのライブには二つの意味があった。
一つは敵に繁子達が試合前だというのにこんなライブをするような者達だと思わせること。
当然、試合会場なのだからこのライブは敵の学園の耳や目に入ってくる。
そして、こう思うことだろう。
『試合前なのに、あの娘達舐めてるわね』
『流石に試合に勝てないからせめて資金集めってカンジ? はぁ、抜け目無いわね』
『てか、何しに来たの? ライブしに来たのかしら?』
戦車強襲競技をする前にあんな趣向を見れば、敵対する者ならばそう感じる。
ライブを行うというのは言わば、戦車戦とは全く関係無い事柄である。歌って、バンド組むとか何考えてるんだと思っても仕方のない事だ。
だが、そこにこそ、繁子が戦車強襲競技において資金集めと共に狙っていた心の隙を作るための策であった。
これが二つ目の理由である。
「…てな感じに思うとるやろうねぇ」
「向こうに啖呵を切って、わざわざ険悪的な印象を与えた甲斐があったわね」
「…なるほど…ね…」
「ミカは分かってたの?」
「うん、おおよそは見当がついたよ」
そう言うとミカは繁子達の話を聞いてポロンとカンテレを鳴らした。
相手はケホが1輌だけ、しかも、こちらがライブをする事で戦車強襲競技を舐めくさった連中だと思って居るはずだ。
ならば、それを逆手に取りやすい。頭に血が上っている事だろう。昨日の下見の時点でこの北富士戦車演習場はすでに繁子達の城と化している。
「さて、後はどう料理するかやけど」
「しげちゃん! 敵対チームの隊長さんが来たよ!」
「…もう来たんか、んじゃ挨拶だけしとくか、試合開始は30分後やし」
繁子はそう言うと敵対チームの隊長に顔を合わせに行く。
そんな繁子の後ろ姿をケホから見送りながら、ミカ、アキ、ミッコは試合の準備に取り掛かる。
いよいよ、戦車強襲競技がはじまる。ミカ達にとっても繁子と共に戦車戦を行うのはこれが初めてだ。
そんな最中、繁子が行うライブの為にやって来た立江達はミカ達の準備の傍で話をしはじめた。
「んで、勝つだろうけど何分くらいでケリつくか…どう見る? 立江」
「んー…そうねぇ、早ければ30〜40分くらいかな」
「は、はや! えっ!? わ、私達が負ける時間じゃないですよね?」
「いんや、敵チームが負ける時間よ、ま、私らなら20分あれば余裕だろうけどね」
そう言うとベースを肩から下げる立江は肩を竦めてアキに何事もないように告げる。
30〜40分程度、1輌しかないケホでそんな事が果たして可能なのかどうか…、いくら改造して強くなったと言えど所詮は1輌の戦車だけである。
そんな短い時間でそれらを全滅させるなんて無理に等しいとアキは思っていた。
「ま、しげちゃんの腕とミカっちがいればそんくらいはできるわ、間違いなくね」
「根拠はなんですか?」
「そんなものはない!」
「ちょっとっ!? だいぶ無責任すぎやないですかね!」
そう言って自信満々に根拠のない宣言する立江に仰天するアキ。
確かに勝てる見込みがあるかどうかわからない、というより確実にこちらが無いと言うならわかるが勝ったと言い切る彼女達の謎の自信はどこから来るのだろうか。
敵チームの隊長と顔合わせを終えて帰ってきた繁子は戦車に乗り込みながら、そんな不安げな表情を浮かべるアキを見るとニカッとか笑いこう一言だけ告げた。
「大丈夫やって、楽しんで試合したらええんよ。こんな楽しそうな試合は楽しまな損やで」
「いや…楽しいも何も…敵が多すぎてそれどころじゃないよね…」
「武者震いはしてもええが、鼻っから勝てる気でおらんと勝てるもんも勝てへんよ、な? ミカっち」
「うん、確かにしげちゃんの言う通りだね」
「ちょっ…! ミカァ…」
「私も負けるのは嫌いなのさ」
そう言ってミカもまた繁子に続くようにケホに乗り込むといつものようにカンテレを膝上に置く。
負けるのが嫌い。これは一番大切な事だ。
どんな勝負にでも勝敗がつく、大切なのはその勝ちをいかにして自分たちに持ってくるかだ。ミカもまた、冷静ではいるが繁子と同じように負けるのが嫌いな性分である。
さて、それは繁子とて同じだ。問題はこれから戦う敵をどう料理していくかである。
「ほんじゃ、やりますかねぇ…。準備はええか?」
「今乗り込んだ! いつでもいけるよ!」
「よーし、それじゃ立江、よろしく!」
『あいよ!』
そう言って、インカムを使い試合開始の合図を立江に出させる繁子。立江もそれに応える様に空砲を空に向かって打ち上げた。
火の手が上がり、空砲は空で炸裂、試合開始だ。
すぐさま、25輌の戦車が一斉に動き始める。
敵戦車の編成はルノーFT-17、軽量化したM3スチュアート。I号戦車、L6/40いった様々な種類の戦車で構成されている。
一方、繁子達はケホ1輌である。ただし、このケホはミーティアエンジンに4連射式の変態主砲を積んだ化け物戦車だ。
繁子は試合が開始されると同時に小高い丘に戦車を移動させてからケホから乗り出すと双眼鏡を使い、敵戦車の動きを確認する。
「おー…。おるわ、おるわ、サンダース並みの物量作戦かいな」
「しげちゃんどうする?」
「とりあえず待機や」
「あいよ」
敵戦車を確認した繁子はミッコにそう告げると戦車を止めて敵戦車の様子を伺う。
一方、敵戦車はというと、そんな双眼鏡でこちらを確認する繁子達に気がついたのか進路を変更し小高い丘に戦車を進め始めた。
それに気がついたミカが繁子にこう告げる。
「どうやら相手は私達を見つけたみたいだね」
「なんで?」
「履帯の音が聞こえるからさ、位置的にそんなに遠くないだろう」
「えぇ!? そ、それって大丈夫なの!?」
「ま、ほんまはあかんで? ほんまはな。けど、これは戦車強襲競技や。こっちに気づいたところならむしろ願ったり叶ったりやね」
繁子はそう告げるとニヤリと悪戯そうな笑みを浮かべていた。
何かしら作戦があるのだろう。しかし、物量作戦で敵戦車が動いてきてるなら自然と流れからどんな作戦を取るかは理解できる。
繁子はそんな予想をアキたちに告げ始めた
「包囲網はもう完成してる頃やろうねぇ」
「包囲網?」
「せや、もうこの丘はしばらくしたらすぐさま囲まれる」
繁子は淡々と今の状況を簡単に述べた。しかし、そんな簡単に話す様なものではない。それが事実なら間違いなく危機的な状況である。
当然、アキも顔を蒼白にした。包囲網を張られるかもしれないに繁子もミカも平然とした表情を浮かべている。
「や、やばいんじゃない!? それって…」
「いんや、全然」
「なんで!? 良い的になるよ!?」
「せやからもう手は打ってあるんよ、試合前にな」
「へ…?」
「見とけばわかるわ」
繁子はのんびりと身体を伸ばし呑気にアキにそう告げる。
特にこれといって、非常事態だとかそういった素振りは全く見せない繁子にアキも首を捻る。敵戦車から包囲された段階で果たして大丈夫なのかアキが異様な不安を感じても致し方ない事だろう。
だが、繁子はそれでも時が来るまで待つ。
そして、その時はすぐさま訪れる事になった。
鳴り響く凄まじい爆発音、繁子はその音を聞くと同時に笑みを浮かべた。
「…お! かかったみたいやな!」
「な、何!? 今の音!」
「むふふ、それはやな…」
繁子は凄まじい爆発音に驚くアキに自身の携帯端末から丘の図面を見せる。
そこにあったのは現在、自分達のいる丘、そして丘の周りに仕掛けてある大量の対戦車用の地雷の設置場所であった。
当然ながら、この図面を見たアキは仰天する。
「な、何!? この丘、地雷ばっかじゃない!」
「一つだけ抜けられるルートを確保してるんよねぇ、まぁ、うちらがこの丘を登って来たルートやね」
「い、いや、ミッコはこの事知ってたの!?」
「ん…? あぁ、しげちゃんから事前に説明されたし、分かってはいたよ」
ミッコは何事もないようにアキにそう告げる。
地雷の丘、繁子は北富士戦車演習場を視察する際にこの丘に事前に地雷を張り巡らさせた。場所、ルートを立江達とミカ達と打ち合わせし、今日に至るわけである。
アキが何故知らなかったかと言えば、アキはその時、戦車強襲競技に使うケホの点検に真沙子、永瀬と入っていたからである。
というわけで地雷の丘にこうしてアキは何も知らないまま繁子達と共に陣取っていた訳だ。
「んじゃ丘を降りるとしますか、ミッコ」
「了解、しげちゃん」
「しげちゃん、この後はあれだね?」
「せや、ほんじゃミカ頼んだで」
「え!? な、何? なんなの?」
そう告げる繁子の言葉にニコニコと笑顔を浮かべて頷くミカ。
アキは何がなんだかわからない状況下でひたすら目を丸くするだけである。そして、そんなアキにも笑顔を浮かべた繁子からあるものを手渡された。
それは…。
「はい!アンチマテリアルライフル♪」
「あ、わざわざ、ありがとう♪ ってぇ!? 何これぇ!?」
「アンチマテリアルライフルやで、なぁ? ミカっち」
「そうだね、アンチマテリアルライフルだよ」
「見ればわかるけど!? なんでアンチマテリアルライフルがここに!?」
「なんでって、作って持ってきたからやで」
「うん、アンチマテリアルライフル、似合うと思うよアキ」
「いや…似合うって…というよりこんなごついのどうやって」
「だからこそ私の出番って訳さ、二人がかりなら持てるだろう?」
そう告げるミカはすかさずアキと共にアンチマテリアルライフルを担ぐ、ケホのハッチを開くとミカはアキと共にルライフルを担いだまま外に出た。
アンチマテリアルライフル。別名、対戦車ライフル。
今回、使用する対戦車ライフルは25mmのXM109ペイロード、大型セミオート式狙撃銃である。
「シモ・ヘイへさんもスナイパーやったんやから大丈夫、大丈夫!」
「いや…私、狙撃するのなんて初めてだし」
「安心してアキ、私が撃つ」
「え? ミカが?」
「うん、任せて、これでも祭りの射的は得意なんだ」
「…もうダメかもしれない」
アキは頭を抱えるとそう呟きながらミカの構える対戦車ライフルを支える。
そうこうしているうちに敵戦車のルノーが1輌、繁子達のケホの目の前に現れた。すぐさま、対戦車ライフルを構えたミカに繁子が指示を飛ばす。
「あ! 来たで! 撃…」
「あ…っ」
そして、ミカに指示を飛ばす前に目の前に出てきたルノーが爆ぜた。
なんと、知らぬ間にミカが対戦車ライフルのトリガーを引いたらしい。所謂、誤射というやつである。
兎にも角にも敵戦車は沈黙した。しかしながら、これには繁子も苦笑いを浮かべる。
「…あっ…て言うたやろ今の」
「なんの事かな? 試しに引き金引いたら弾が出ただけだよ」
「ま、まぁ…倒したし良しとしようか、ほんじゃ逃げよ逃げよ」
「あいよー」
そう告げる繁子の言葉にミッコはケホを発進させ丘を降り始める。
その間、対戦車ライフルを担いだアキとミカの二人は敵戦車が接近して来ないかの偵察を行った。
地雷の音があちらこちらから聞こえてくる。おそらく戦車が地雷に引っかかっている音だろう。
繁子達の戦車強襲競技のデビュー戦はまだ始まったばかりである。