ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
小高い地雷が張り巡らせた丘から抜け道を使い降った繁子達。
そして現在、凄まじい勢いで追撃してくる敵戦車との追いかけっこを繰り広げていた。
丘から降りれば当然ながら、丘の付近まで移動してきた戦車に見つかるのは容易い。いくら改造ケホとはいえど大量の戦車を相手にすればやられてしまうのは明白である。
そういうわけでの撤退しながら、アンチマテリアルライフルをぶっ放しながらミッコの巧みな運転で敵戦車から逃げている訳である。
「ほら!食らえ! しげちゃん製! 無農薬手榴弾や!」
「…ぎゃあああ! 何これぇ! 目が! 目がぁ!」
「後、何この匂い! 強烈っ…!」
「はい、いっちょあがりだね」
そう言って無農薬手榴弾に苦しむ追撃してきた戦車をミカのアンチマテリアルライフルが撃ち抜き沈黙させる。
これを見る限りでは戦車戦というよりはもう戦争である。これを間近で見ていたアキはスナイパーライフルを構えるミカの姿が心なしか板についてきた様な気がしてきた。
「今のは多分、射的ならボコのぬいぐるみ位の価値がある筈だよ」
「知らないけど…何だか慣れてきてない?ミカ」
「あぁ…今なら聞こえてくるよ…風の囁きが…」
「ん…? なんて言ってるんや? その風」
「ステンバーイ…ステンバーイ…って言ってるかな? 後、ビューティフォーとも言ってた気がするよ」
「絶対言って無いよミカ。それ幻聴だよ」
そう言ってアンチマテリアルライフルを構えるミカの言葉に顔を引きつらせるアキ。
どんな風の囁きかは不明だが、そんな囁きをしてくる風ならば気味が悪いことこの上ない。アンチマテリアルライフルを構えるミカには何が聞こえているのだろうか…。
シモ・ヘイへさんがもしかしたら乗り移ったのかもしれない。
そんなこんなで追撃を撒くために奮闘する繁子達。
その甲斐もあってか次第に敵からの追撃は緩まってきた。地雷の丘作戦も型にはまり敵の戦車は今は半数近くに減らせている、好機は近い。
「この後は?」
「そのままつっきればええ! …後、連絡しとかないかんな」
「連絡? 誰に?」
「ん…? 気付かへんかった? …まぁええわ、みとけばわかるよ」
「次は何企んでるんだろう…」
そう言いながら何やら連絡を取り始める繁子の姿に顔を引きつらせるアキ。
気付かなかったと言われても別に気づくような事は無いように思える。強いて言えばミカがスナイパーに成り切ってきている事だろうか。
繁子が言うには何やら策を講じていたらしい。
「盗んだ戦車で走り出す行く先もわからぬまま」
「スナイパーライフル構えたままなんちゅうこと言ってるの!?」
「いや…盗んでへんし、これ自作やし」
「そうだったね」
そう言いながら繁子は苦笑いを浮かべ、ミカは納得したように頷く。
これらは全て自作である。逃走を図るミカ達のケホは戦車を疾走させながらもう一つの策を講じている繁子の指示を待つ。
盗んだ戦車はだいたい継続高校の車庫にしまってある。クーリングオフは不可である。
そして、携帯端末を持つ繁子はニヤリと笑みを浮かべた。
「来たで、…ほら聞こえてくるやろ?嵐の前触れや」
「…え? 何を言って…」
その瞬間、敵戦車から凄まじい炸裂音と火の手が上がった。
繁子達を追撃をしていたルノーやスチュワートの背後からだ。そして、繁子はこの時を待っていた。
敵戦車に紛れさせていたユダ。
それが今、敵戦車に牙を剥いたのだ。25輌の戦車も戦車があればその大量にある25輌の敵戦車群にいつの間にか戦車が紛れ混んでいてもわからない、繁子はそこに目を付けた。
そして、盛大に敵戦車群の殿から追撃を開始するII号戦車とスウェーデン戦車Strv-103が2輌。砲撃を放ちながら物凄い勢いでやってきた。
その戦車にはスケスケな衣装と中に水着を着た変わった姿の五人組。
「よっしゃあ! 私らの五人組のデビュー戦だよ! 景気良く行くよ! リーダー!」
「いや…なんでこの衣装なの…?」
「そりゃ生前、明子さんが選んだ衣装だからに決まってんじゃん」
「そうさ私らスーパーガール!」
「お、いっちゃう?」
「いっちゃいますか」
そして追撃を開始する二輌の戦車は凄まじい勢いで次々と後ろから敵戦車を撃沈してくる。
その敵戦車を混乱に陥れていく様はまさに台風の如し、たった二輌とは言えどその実力は折り紙つきだった。
繁子もその隙を見逃さない、すぐさまミカに援護射撃を行わせる。
そう、敵戦車に紛れ込まれていたストームさんチームが繁子達の援軍に加わっていたのだ。
戦車強襲競技は裏切り、同盟、乱入までなんでもあり、隣人が敵になり、敵が味方にもなり得る戦車競技なのである。
「マイソーソー! いつも、すぐ側にいる」
「譲れないよ〜」
凄まじい炸裂音とともに次々と敵戦車を撃沈させていく二輌の戦車。
まさに、乱入したストームさんチームはそのチーム名に相応しい活躍でルノーやスチュワートは次々と沈黙させていく。
さらに、それに戸惑いを隠せない混乱に陥れられた敵チームはさらなる出来事に直面する事になる。
「くっそ! 1輌じゃなかったの!? 私らの中にスパイが…!」
『…大変よ! こっちも不味い状況!』
「な、何? 次は何が…」
『あ…、あ…なんで、なんでこんなところにッ!?』
動揺を隠せない味方の言葉。
繁子は策が成った事を確信しほくそ笑む、確かに最初はケホ1輌で彼女達とやってやると言った。
しかし、何も『最後まで1輌だけで戦ってやる』とは繁子は一言も言った覚えはない。
なら、別にこの北富士演習場に伏兵を潜ませておいても何一つ不思議ではないのだ。
「一晩泊まり込みでようやってくれたわ、ほんと」
「しげちゃん?」
「反転して敵を叩くで! ミッコ!」
「待ってましたァ!」
そう言いながらケホを反転させて敵戦車に主砲を向ける繁子達。
反撃の時は満ちた。ちまちました戦い方はこれまでだ。これからはこちらが狩る番である。
繁子は戦車強襲競技がどんなものか理解している。
「しかし…あのスケスケな衣装にビキニってもうちょっとなんかあったやろ…中学生のする格好やないで」
「中学生のプロポーションに見えないんだけど…」
「落ち込む事はないさ、アキ」
「やめて!? なんか変な慰めは胸が痛い!」
そう言いながら反転したケホも次々と砲撃を始める。
4連射式の主砲は凄まじい連射で敵戦車は行き場を無くし、そこを狙い澄ました様にストームさんチームの戦車が轟沈させる。
今でさえ、手が取られるこんな状況で一体他に何が起きたというのか…。
「何があったの!? こっちもやばいんだけど!?」
『く…、く…』
「く…?」
聞き取り辛い味方の通信に首を傾げる敵戦車の車長の女の子。
今でさえ、色んな事が起きすぎて押されているこの状況下でこれ以上何があるというのだろうとこの時は思っていた。
そして、次の瞬間、動揺を隠せない味方の通信を通して次の報告を聞いた瞬間。彼女の思考は考える事を完全に放棄せざるえなかった。
『く…黒森峰女学園の戦車がなんで参戦してくるわけぇ!?』
そう、なんと、黒森峰女学園の戦車がどこからともなく現れたというのだ。
全く予想外の展開に度肝を抜かされるルノーに乗る車長の女生徒、何故、この場に前回の戦車道全国大会の名門中の名門が乱入してくるというのか…。
しかも、ドイツ戦車を率いる黒森峰女学園といえば機能的にも性能的にも化け物戦車ばかりそろえてくるイメージしかない。
いや、しかし、こんなマイナーな戦車強襲競技だ。
まさか、主力が出張ってくる事はあるまい、この時は敵フラッグ戦車の車長の女生徒はそう思っていた。
「ど、どこから現れたの?」
『突然よ! 突然! 前触れなく背後から!』
「そんな馬鹿な!?」
敵のフラッグ車の車長はそう言いながら声を荒げる。
戦車強襲競技はギャラリーが身近で観戦できる競技だ。だから、試合前にはある程度のギャラリーがいるのかは把握できる。
黒森峰女学園の女生徒の姿は無かった筈だ。では一体どこから…。
しかし、繁子はどこから黒森峰女学園が現れたのか理解していた。というのも、昨日の晩から黒森峰の戦車はこの北富士演習場に来ていたのだから。
「泊まり込みでカモフラージュで潜んでくれたまほりんには後でマグロかなんか捌いて振るまわなあかんなぁ」
「まほりんって誰? しげちゃん?」
「ん…? 黒森峰女学園の隊長やで、今、立江と一緒に暴れとるんやないかな?」
そう言いながら笑みを浮かべて答える繁子。
だが、同時にこの瞬間、ケホ車の中の空気が一瞬にして凍りついた。それはそうだろう、黒森峰女学園といえば全国大会連覇中の化け物学校である。
そんな化け物に匹敵する繁子も十分化け物であるのだが、それに黒森峰と聞けば当然ながらアキ達も目を丸くするしかない。
「え…?」
「…ちょ、ちょっと待って? 黒森峰って言わなかった?」
「言うたで? 黒森峰の西住まほ、ウチの幼馴染の大親友や」
「しかも隊長!? 隊長がこの試合に参戦してきたの!? えぇ!?」
度肝を抜かされるとはこの事だろう。
それも敵とて同じであった。この時は黒森峰とは言えど主力を使ってはこないだろうと思っていた。
まさか、こんなマイナーな戦車強襲競技に西住流本家のその名を轟かせる西住まほが北富士演習場に来るとは夢にも思っていないだろう。
そして、その事実は敵の戦車群を絶望のどん底へ突き落とした。
「黒森峰! 西住まほ! 推参! しげちゃん! 待ってろ! 今助けに行くぞ!」
「落ち着いてください、まほさん。タツエ、貴女もなんか言ってくださいよ」
「しゃらくさいわねぇ、突っ込んで全部ボコボコにしてしげちゃんのところにいかない? ノンナ」
「…はぁ、全く…貴女らしいと言えば貴女らしいですけど、一応、参謀なんでしょう?」
「血が騒ぐってやつかしら?仕方ないじゃない」
「答えになってませんよ…貴女にお任せします」
そう言いながらも援軍にやって来た立江、まほ、ノンナの三人が乗るII号軽戦車は敵戦車を次々と粉砕していく。
繁子とストームさんチームと合わせてたった4輌の戦車、しかし、敵25輌あった戦車はこの4輌の戦車に蹂躙されるしかない。
このII号戦車は立江がケホと同じく戦車強襲競技用に改造に改造を加えて同じく魔改造したII号戦車である。
ちなみに今回、立江の呼びかけでプラウダ高校からノンナを援軍に呼んできた次第である。
側から見れば、プラウダ、黒森峰、知波単の名の知れた戦車乗りがたった1輌の軽戦車に勢ぞろいしているわけだ。
しかも、黒森峰の隊長が堂々の名乗りを上げる始末。敵の士気は一気に氷点下まで下がりきっていた。
「は…、はは…く、…黒森峰の隊長ですって…? 勝てるわけないじゃない…」
そう呟く、敵フラッグ車の車長は通信機をぼとりとルノーの車内で落とした。
黒森峰の西住まほ。知波単学園の山口立江。プラウダ高校のノンナ。そして…継続高校の城志摩繁子とミカ。ストームさんチーム。
このたった4輌の戦車に乗るのは凄まじい腕を持った戦車乗りばかりである。
これとまともにやりあう高校のメンバーとなればアールグレイ、ジェーコ、辻、ダージリン、カチューシャ、ケイ、メグミあたりを揃えてこなければならないだろう。
この瞬間にフラッグ車の車長が戦意を完全に喪失してしまっていた
25輌、敵の戦車乗り達は数では勝っている筈なのに勝てる筈が無いとそう思ってしまった。
戦闘開始から大体、25分弱。
敵のフラッグ車は何の手立てを打てぬまま、II号戦車とケホからの挟み撃ちに会い、その試合を終える事になってしまうこととなった。