ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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練習試合 繁子の初陣

 

 前回までの大まかなあらすじ。

 

 城志摩 繁子は時御流同門の永瀬達と共に知波単学園へと無事入学を果した。

 

 知波単学園は戦車道の名門。名門であるがゆえこの学校で良い成績を残すことができれば再び西住流、島田流といった主流の戦車道の流派と肩を並べることが出来ると思い立っての入学と知波単学園の機甲科だった。

 

 機甲科だったのだが…。

 

 

「辻隊長! 7番戦車やられました!」

 

「ならば是非もなし! 弔い合戦だ! とつげーき!」

 

「アイアイサー!」

 

「待ってました!」

 

「ねぇ、リーダー…私達は…」

 

「待機、んな突撃してやられる方がアホみるで。できるだけ修理する戦車は減らしたいからなぁ」

 

「了解」

 

「スパナや工具は一応持ってきといたよー」

 

「さすが多代子やなー」

 

 

 新入生の力と知波単学園機甲科の実力を見るために組まれた練習試合。

 

 

 念入りにブリーフィングを行い、作戦(突撃)を仕掛けるシュミレートを重ね、今日この日、繁子達は知波単学園での初陣。

 

 繁子達の戦車道を飾るにはもってこいの舞台である。

 

 相手は古豪プラウダ高校。ソビエト海軍キエフ級空母に類似した学園艦に所在し、保有戦車も全てソビエト製といった名門校だ。

 

 所有戦車はT-34/76。T-34/85。IS-2。KV-2。

 

 T-34/76はバルバロッサ作戦時より実戦に参加したソ連軍の中戦車。大戦中に最も大量に生産された戦車である。

 

 1943年頃より砲塔を大型化し85mm砲を装備したT-34/85に生産が移行。これによりドイツ軍はベルリンまで押し返された。

 

 果たして、そんな戦車を相手に知波単学園の持つ九七式中戦車で対抗できるのか…。

 

 

「まぁ、言うてもこれは実践やのうて戦車道やからな。やり方次第で勝ても負けもするやろうが、うちの伝統のあれは負けてもしゃあないやり方や」

 

「んじゃどうする?」

 

「突撃は囮やね、とりあえず隊長達が突撃で相手引きつけてくれとる間にウチらは迂回。1輌だけなら気付かれへんやろ、向こうは知波単学園のやり方を知っとる」

 

「カモフラージュ自作で作っといたからね」

 

「大将首さえ取れば戦は勝ち。世の常やからな、そんじゃ行こか?」

 

 

 そう言いながら、突撃し、追撃をされる知波単学園の戦車を見送るように全員に指示を出す繁子。

 

 案の定、辻が撤退をしはじめたところで森林に身を潜めていた繁子はゆっくりと車両を気付かれない様に相手戦車の背後に回り込むように移動させる。

 

 この戦術を取るような人間は知波単学園にはいないとプラウダも知っている。だからこそ、そこに隙が生まれ、好機が訪れる事を繁子は知っていた。

 

 文字通り突撃して潔く散っていく仲間達。繁子はそんな光景を横目にジッと時が来るのを待った。

 

 

(鳴かぬなら、鳴くまで待とうホトトギスってな。あんたらの仇はちゃんと大将首取って晴らしたる)

 

 

 そして、大将首はゆっくりと繁子達の前を通りかかる。この時を待ってましたと言わんばかりに繁子はすぐに操縦席に座る多代子と装填手の永瀬。砲撃手である真沙子に指示を飛ばした。

 

 

「右! 旋回! さぁ、ぶちかますで!」

 

「やっとね!」

 

「敵戦車はフラッグ車を合わせて3輌もいるわよ?」

 

「かまへん、撃ったら次のポイントをすぐさま移動、敵が追ってくるように誘導するのを忘れたらあかんで」

 

「アイアイサーリーダー!」

 

 

 一発だけ車輌に撃ち込みすぐさま後退をするように指示出す繁子。

 

 プラウダ高校のフラッグ戦車の傍にいたT-34に茂子達の戦車の砲身が向く。しかしながら繁子達の乗る戦車はチハではない。

 

 四式中戦車、チト。それがこの戦車だ。そして名前は繁子と立江の城志摩と山口の1文字から取り山城と名付けられた。

 

 大日本帝国の戦線を支えたチハ車輌の後継機。

 

 

 車長:城志摩 繁子

 装填手:永瀬 智代

 通信手:山口 立江

 砲手:松岡 真沙子

 運転手:国舞 多代子

 

 

 以上がこの四式中戦車の編成である。

 

 チハばかりの知波単学園。なぜ、繁子達が四式中戦車に乗っているのか、答えは簡単だ。この四式中戦車は繁子の所有戦車である。

 

 

 時御流は没落しつつあるとはいえ、かつては栄えた流派。戦車に愛をもって接する時御流は決して戦車を解体したり無下に扱うような事はしない。

 

 何かしらに再利用、もしくは戦車を生かす。これが時御流である。

 

 時御流の同門。ぐっちゃんこと、山口 立江曰く。

 

 

『え!? その戦車! 捨てちゃうんですか!?』

 

 

 と繁子を含めて皆がその精神である。なんとも地球に優しい精神だろうか。

 

 そして、この四式中戦車の車輌は繁子、もとい明子が持っていた所有物の一つに過ぎない。他にも残した戦車は数あれど、繁子は知波単に入るという事でこの戦車をわざわざ取り寄せ用意した。

 

 四式の砲撃にさらされ、砲弾の直撃を受けたT34は爆煙と共に弾けると、再起不能の白旗が上がる。

 

 そして、それに驚いたように旋回をはじめるフラッグ車輌ともう一台のT34。

 

 だが、すでに繁子の四式中戦車は撤退をはじめカモフラージュを捨てると森林の中へと入っていった。

 

 

「やったね! リーダー!」

 

「この山城(四式中戦車)は真沙子が砲撃手やってる間は無敵だからね!」

 

「油断大敵や。さてと、んじゃ次の行動に移るで…っとその前に…。 辻隊長! 聞こえますか?」

 

『ん…! なんだ? あぁ、繁子か! 悪いが今交戦中でな!』

 

「ほぇー、まだ生きてたんだ…」

 

「てっきり突撃して散ったもんかとばかり」

 

『心配無用! あと3分後にはその予定…』

 

「あかん言うとるでしょうが…。その戦車ぶっ壊したら隊長、自分で修理させんで?」

 

『え、えぇ…! ど、どうかそれだけは勘弁を!?』

 

 

 整備科から入学早々慕われている繁子。

 

 そんな繁子や永瀬達が行う戦車の修理や整備は知波単学園の整備科の者達を持ってしても尊敬する腕前だ。

 

 リーダーと繁子を慕い可愛がる先輩、同級生の彼女達は繁子のお願いであれば大抵聞き入れてしまうという現在、壊した戦車を整備科全員から自分で直せと言われれば隊長の辻とて逆らうことは出来ない。

 

 自分の物は自分達で直す。

 

 戦車を毎回ボロボロにされ、そんな戦車を修理させられている整備科の者達の苦労を知っているからこそ繁子は隊長に念を入れて忠告しているのである。

 

 

「よろしい、なら、ちょっと頼まれて来れませんかね? ウチら敵フラッグ車輌と交戦になりまして」

 

『…な、なんだと!?』

 

「まぁ、それは置いときましょうか? ひとまず隊長は他を引きつけといてください、大将首はウチらがあげるんで」

 

『無茶な!? ここは一旦合流した方が…!』

 

「今合流したところで残った車輌はたかが知れてるでしょう? 敵戦車から包囲されますよって」

 

『ならどうすれば…』

 

「森林に突撃してください、突撃はお手の物なんでしょう?」

 

『おぉ! なんか知らんが分かったぞ! 皆! 私に続け! 森林に突撃だー!』

 

 

 そう言って、隊長との通信を一旦切る繁子。

 

 森林に突撃、つまりは撤退である。

 

 言い方さえ変えれば素直に辻が聞き入れてくれるあたりは繁子としてもやりやすい。こういったところに関しては隊長の辻に感謝している。

 

 その会話を聞いていた永瀬達は顔を見合わせるとすぐに繁子に今後の方針を踏まえてこれから取るべき動きを質問する。

 

 

「そんでしげちゃんどうする?」

 

「まぁ、今は時間稼ぎを向こうがしてくれとるやろ、とりあえずウチらはウチらでやるで」

 

「なんか作戦あるんだねー」

 

「まぁね、作戦名はもう決めてる」

 

「聞いてあげるから聞かせなさいよ」

 

「その名も…『オペレーションK』や」

 

「え? 何そのKって…」

 

「それはやな…」

 

 

 そう言って、全員にゆっくりと作戦内容を告げる繁子。

 

 その作戦内容を聞いた全員は目を丸くしつつもそれぞれ納得した表情を浮かべて頷き、その作戦を行う事に関して異議なく意見がまとまっていた。

 

 茂子の作戦内容の全貌を聞き終えた真沙子はニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「へぇ…なるほどね、面白そうじゃん。『オペレーションK』」

 

「Kってそう言う意味かー。なるほどなるほど」

 

「分かりにくいわ! てか普通に言えばいいんじゃないの?」

 

「多代子、そこはロマンやで。オペレーションって付けるとなんかかっこええやん」

 

「あ! リーダーのその気持ちなんとなくわかる!わかる!」

 

「えぇー…。永瀬わかっちゃうんだ…」

 

 

 納得して頷く永瀬に顔を引きつらせる多代子。

 

 とりあえず、繁子が提案した作戦。その名も『オペレーションK』を実行する事に方針が固まった。

 

 作戦内容を聞いた真沙子は森林内にて撤退中の四式中戦車の中でガサゴソと何やら持ち出す。

 

 

「ほい! 隊長!」

 

「お! おおきにな!」

 

「斧かぁ…このずっしり感いいよねー」

 

「スピード勝負やからな、そんじゃやるで!」

 

 

 そして、斧を持ち出し戦車の外に出ると再び自前で用意し、戦車内にしまっておいたカモフラージュをかける繁子達。

 

『オペレーションK』とは…一体…。

 

 時御流の恐るべき作戦は四式中戦車に乗る斧を持つ少女達と共にプラウダ高校に牙を剥かんとしていた。

 


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