ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
北富士演習場。
ここでは今、盛大なビアガーデンが開かれていた。というのもアルコールが入ったビールではなく、ノンアルコールのビール祭りというやつである。
主催は黒森峰女学園。隊長である西住まほの呼びかけにより主催されたビール祭りである。
今回、この祭りを開いたきっかけは全国大会での黒森峰と知波単学園の交流会を開いていないというのがきっかけであった。
それに、戦車強襲競技を終えた今なら、ついでに相手チームも招いて交流会もできるという一石二鳥な思惑もある。
そして、西住まほにはそれにも他に最大の思惑があった。
「しげちゃんのディアンドル姿が見たい」
「え…えぇ…」
「だって、先日の全国大会の時はそんな状況ではなかったじゃないか、だから、今ならやれるって思ってね」
「まほりん、やはり天才か」
という感じで話が進んだ訳である。
顔を引きつらせる繁子は御構い無し、それには立江も賛同する始末、これは後には引くに引けないという状況になってしまった。
そして、このビアガーデン祭りに腰を上げたのが当然ながら継続高校に短期転入している繁子と知波単学園の時御四天王の四人組である。
という訳で、ビアガーデンを控えた一週間くらい前、継続高校の戦車道会議室ではある会議が開催される事になった。
メンバーはノンナとストームさんチームを除く先日の援軍に来てくれたメンバーがだいたい固定である。ノンナとストームさんチームは各自、試合に私用がある為に今回は参加しない形をとった。
兎に角にも、早速、一週間まえに控えた黒森峰、知波単学園によるビアガーデン祭りについての会議が繰り広げられていた。しかも、継続高校の会議室で。
「それで、ビアガーデンだっけ? どのレベルから作るの?」
「そうだねぇ」
「やっぱ、ビールって言ったら麦からだよね」
そう言って、何やら納得したように頷く時御四天王と繁子達。
だが、アキは苦笑いを浮かべたまま、放置されたままの重大な出来事について彼女達に質問を投げかける。
「いや、一つ言っていいかな?」
「ん? なんだい、アキ?」
「戦車関係ないよね!? なんでウチの会議室を使ってるの!?」
そう言って、冷静な突っ込みを入れるアキ。
そう、このビアガーデンを作るためになぜか継続高校の会議室を使うという意味のわからなさにアキも突っ込みを入れざる得なかったのだ。
戦車にまったく関係ないのだからそうなるのも致し方無い。継続高校としてもメリットは何も…。
「パーティーに無料参加なんていいじゃないか、貰えるものは全部貰っておこう」
「ミカぁ…。そのなんでも取っていこうの精神は捨てたんじゃ…」
「そんなことは無いさ、私は元からこんな性格だよ」
「ダメだっ! どうにもならない!」
全く好転する兆しの見えない展開にアキは頭を抱えるしかない。
しかし、人生とは諦めも肝心である。
アキは縋る気持ちで何故か継続高校の会議室に黒森峰の戦車ジャケットを着て鎮座している西住まほへこう問いかけた。
「ま、まほさんはいいんですか? あの…黒森峰の訓練とかは…?」
「心配は無用だ、公休を2日ほど取って来た。それに、これは黒森峰と知波単学園の交友も含めたイベントだ。学校側が配慮しても何ら不思議では無いだろう」
「本音は?」
「しげちゃんのディアンドル姿が見れるなら一向に構わんっ! 妹のみほからも写真撮って来てと頼まれていてだな…」
「うん、まぁ、もうわかりました…はい」
それ以上の事を言うのをアキが諦めるのにはさほど時間はいらなかった。
この件に関しては密かにまほの母親のしほも同乗していることをここに付け加えておこう。繁子の謎の人気はどうやら西住流には異様に高いようである。
しほの場合は明子から繁子の事を頼まれている部分があるのでもう一人の娘のようなものなのだろう。しかも、明子の娘とあっては愛娘同然というのもなんとなく頷ける。
そんな訳で本題に戻るが、今回はそのビアガーデンの開催に伴い、多代子が言うようにどのレベルから作るのかから始まる。
まず、その本題について再び口を開いたのは真沙子だった。
「麦から作る? なら福島かな?」
「福島には麦畑あるもんねぇ」
「それじゃ福島の麦種を持ってきてさ」
「あんたらホンマにアホちゃう? 一年後にビアガーデン開く気かって言う話になるやないか!」
「あ、ほんとだ」
「んじゃ…どうせなら、お邪魔しよっか?」
そう言って、永瀬は繁子の言葉に代案を提示する。
しかしながら、一体何処にお邪魔するというのか? 我々、継続高校戦車道部はこの一部始終をしかと映像に残しつつ彼女達についていく事になった。
栃木県。
ここではビールに使われるビールオオムギの名産地である。
ビールオオムギとは醸造用に用いる麦芽原料となる大麦の名称で、日本では二条オオムギがビールオオムギとして生産されている。
さて、繁子達が今回訪れたのは栃木にある一軒のビール製造を行うビール製造の為の工房である。
「こんにちは〜」
「ん…? どなたですか?」
「あ、私たち、一応、こんな者でして」
そう言って、こんにちはーと元気よく工場に突撃した永瀬は工房で働く方に自己紹介をしはじめる。
永瀬からの自己紹介を聞いた工房の方は納得したように頷く。
さぁ、果たして、永瀬の突撃はうまくいくのか…?
「あー、時御流のお嬢さんたちやないね、噂には聞いとるよぅ」
「どもーです! 今回、実はビール製造を行おうかと企画がありましてですね」
どうやら、繁子達の事は認知されているようだった。
これはあと一押しで行けるだろうか? 繁子達が遠目に永瀬の姿を見つめる中、交渉が始まった。
さて、その結果は…?
数分後。
話を終えた永瀬が繁子達の元へと帰ってきた。だが、その足取りは何処か重たい、何やら表情からして突撃の結果が芳しくなさそうである。
しばらくして、繁子達の元へと帰ってきた永瀬はビール製造についての要件をゆっくりと語り始めた。
「ダメみたいだったー。今はシーズン中で注文が殺到しててそれどころじゃないんだって」
「あちゃー、ダメやったか」
「あ、でも、代わりと言っちゃなんだけど、長野にある一軒の酒造屋を紹介してくれたよ?」
そう言って、永瀬が繁子達に見せてきたのは紹介状。
どうやら、ビール製造を行っている酒造屋さんを紹介してくれたようである。これは、良い成果を得られたと言って良いだろう。
栃木県から長野に移動する羽目にはなるが、何もないまま移動して再び断られるよりはマシであると言える。
さて、長野にある一軒の酒造屋を紹介して貰った事だが、繁子達は早速、その紹介していただいた酒造屋についての名前を確認した。
「鶴姫酒造?」
「代々、酒造してる伝統的な酒造屋なんだって」
「いや、でも日本酒とかじゃないかな? ビールって感じじゃ…」
「うん、確かにビールはドイツが発祥だ。代々酒造屋というならビール製造はしてないかもしれないな」
そう言って、紹介された酒造屋についての意見を述べるアキ達。
それを見ていたまほも同意するように頷く。ビール製造と日本酒の製造は似ているようで違う。
日本酒は米から、ビールは大麦から。素材からして違うし、製造自体がまんま異なっている。それを踏まえるとやはり、ビールに使う大麦を使い製造できる施設が好ましいのが事実だ。
的外れだったか、そこにいたまほ達は肩を落として残念な表情を浮かべる。
だが、しかし、その名前を見た繁子は首を傾げたまま目を真ん丸くしていた。
「あれ? これ、ウチの従姉妹の家やん」
「ん…?」
「え? し、しげちゃんの従姉妹!?」
「せやで、従姉妹やね。ほぁー、こんな偶然もあるんかいな」
「鶴姫って言ったらしずちゃんのとこ?」
「せやせや、前、『チヨダニシキ』っちゅう母ちゃんの作った米をあそこで日本酒にしたことがあるんよね!」
「いやー懐かしいね! 何年前だろう? 中学くらいだから3、2年前くらい?」
そう言って、繁子達は懐かしそうに昔の事を思い出しながら語る。
繁子達が長野の地を訪れたのは数年前、彼女達は鶴姫酒造でお酒を造った事があった。
初めての酒造、わからないことばかりだったが母、明子から習い、鶴姫酒造の従姉妹と共にお酒を作り上げた。
まずは、『精米』。初めに米の表面を削ってたんぱく質や脂肪を落とす。食用米の精米歩合が約90%なのに対し70~50%まで削りとった。この割合、中々最初はうまくいかず失敗品も何個も出したことを覚えている。
『あーあかんわ』
『最初は慣れだからね、がんばりんさい』
『ふぇぇ…難しいよぅ』
『永瀬、あんたは不器用すぎだって』
『真沙子が器用すぎなんだってば!』
次に行ったのは『洗米』、精米した米の表面の糠を水で十分洗い落とす。綺麗に落としてなるべく余分なものが入らないようにしておく事を忘れてはいけない。
そして、『浸漬』、白米に吸水させることにより糖化されやすくなる。よく吸水させ、糖化をしっかりと行う事を意識して繁子達は行った。
なお、吸水させる時間は精米歩合や米の種類によって異なるのでそこにも気をくばる事を忘れてはいけない。
続いて『蒸米』、白米を水切りし、こしきで蒸して糖化しやすくします。蒸米は麹用と仕込み用に分けられる為、繁子達は二つの種類に丁寧に分けて使用することにした。
時御流に捨てるという発想はない。
そして、重要な『酒母』。蒸米、酵母、麹、水をまぜ、もろみを発酵させるのに必要な酵母をつくります。「もと」とも呼ばれ、酵母は味に関わるため、明子の手法を真似しながら繁子達は酵母の作り方には様々な工夫を考えた。
それから、『麹』カビの一種である麹菌を蒸米にふりまき、麹米をつくります。微妙な温湿度管理が要求される作業である。
さらに『仕込み』酒母に蒸米、麹、水を加え、タンクの中で発酵させるともろみとなる。これを3回行うこといわゆる三段仕込みといわれている。
続いて『しぼり』もろみを酒袋に入れて搾りとる作業。ここで酒粕と液体、すなわち酒に分けられる。別名、上槽ともいう。
加えて『ろ過』をさせることを忘れてはいけない。しぼった新酒を沈殿させ、澱引きした後、不要な残存物を除くためろ過を行う。
それからようやく『火入れ』酵母や微生物による変質を防ぐため60度くらいの低温殺菌を行い身体に良く、無害なお酒を作り出す。火入れする前に蔵出しされるのが生酒である。
そして、最後に『貯蔵』。
熟成 火入れされた生酒をタンクで熟成させる。熟成期は数ヶ月であるが、1年以上熟成された古酒もありその価値は熟成されるたびに高まると言われている。
「とまぁ、日本酒の作り方はざっとこんなもんやね」
「意外と覚えてるもんだね」
「でも今回はビールだからねぇ…。ビール造りに詳しい知り合い誰かいるかなぁ…」
「いや、今回はノンアルコールビールだ。栄養が摂れて、かつアルコールが入ってなければそれでいいだろう」
「風のようにふらりふらりと回されてるね…。こういうのもたまには悪くない」
「いや、そのせいでウチら栃木から長野に移動せなあかんくなったんやけどな…?」
そう言って、繁子は苦笑いを浮かべてカンテレを弾くミカに告げる。
確かに栃木県から長野への移動は思いの外大変だ。この後、繁子達は移動用のヘリコプターを黒森峰から借り移動する事となった。
さて、長野県であるが、一説によるとこの県は魔鏡と呼ばれる辺境である事が有名である県である。
一種によると空前の麻雀ブームが流行り、一時期魔王の住処だとか、世紀末長野だとか、様々な噂が立ったとかなんとか。
そんな、長野県。有名なのはスキー場! ではなく、『馬刺し』、でもないそれは熊本が名産地であると言っても過言ではないだろう。
ちなみに熊本出身の西住まほ。彼女なら馬刺しをよく食べた経験もあると思われる。
さて、話が逸れたが、長野と言えば日本三大そばの一つ、『戸隠そば』が有名である。
「戸隠そばかぁ…、一度、時御流本家でも作り始めたっけ?」
「真沙子が弟子入りしたんよね?」
「まぁね、数週間だったけど、要領をつかめば作るのに苦労はしなかったかしら」
「ウチらの料理長は言う事が違うねーやっぱ」
そう言って、繁子達は他愛の無い会話をしながら鶴姫酒造を目指し足を進める。
今回の目的はビアガーデンに開くためのノンアルコールビールの製造である。さて、酒造の作り方は違うが果たしてそこはどうするつもりなのだろうか?
まず、繁子が考えていたのは酒造施設を借りて原材料を別のところから調達し、鶴姫酒造でビールを造ると言う段取りである。
こうすれば、酒造の作り方が異なっていたとしてもノンアルコールビールを造るにあたり、施設をノンアルコールビール製造に利用させてもらう事くらいはできるだろう
問題は味、美味いノンアルコールビールを作れるかどうかが鍵になる。
さて、そうこうしているうちに繁子達は鶴姫酒造の屋敷の前にやってきた。見る限り、かなりデカイ屋敷である。
「ほぁーおっきな屋敷…」
「ウチの方がデカイな」
「いや、西住流本家はそりゃデカイに決まっとるやろ。まほりん…、なんの対抗心?」
アキの言葉とは反対に何事も無いように言葉を発するまほに苦笑いを浮かべる繁子。
正直に申せば、城志摩の屋敷も時御流本家の屋敷もかなりのデカさを誇る。
第一次産業を網羅する家とあっては時御流は戦車道の流派が失墜したとしていてもそれだけの資金や経済力を兼ね備えている家柄なのである。
話を戻すが、繁子達はひとまず栃木の工房の紹介と繁子が従姉妹である事を逆手に早速、永瀬を使い突撃を敢行した。
「こんにちはー」
なんの躊躇もなくズカズカと鶴姫酒造屋敷に入っていく永瀬。
さぁ、果たして今回は永瀬の交渉が成功するのか否か、伝統ある鶴姫酒造、そこに待ち受ける出来事は?
美味いノンアルコールビールは果たして、完成し当日に間に合うのだろうか
そして、繁子の従姉妹とは一体…?
次回、その謎が明らかに!!
ザ・鉄腕&パンツァー!は次回に続く…。