ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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真・乙女麦

 

 鶴姫しずか。

 

 簡単に説明をするならば、彼女は城志摩繁子の従姉妹である。

 

 さて、前回、鉄腕&パンツァーではビアガーデンを開くためにビール製造のため鶴姫酒造を訪れたわけだが…。

 

 いきなり従姉妹である鶴姫しずかから抱きつかれた繁子は彼女を宥めて落ち着かせると書道に使っていた部屋で改めて向かい合う形で正座をしていた。

 

 もちろん、その場にはまほや立江達も居る。

 

 

 当初、いきなり繁子に鶴姫しずかが抱きついた事に対して数人が眉を顰めたが従姉妹ということもあり、それ以上は責めたてる事なく今はこうして大人しく繁子と共に座っているわけだ。

 

 従姉妹同士なら仲が良ければ多少のスキンシップもあり得るだろう。

 

 今回、眉を顰めた数人はとりあえず今回はそういうことにしておいた。

 

 正座をして向かい合う中、最初に口を開き繁子に質問を投げかけたのは鶴姫しずかからだった。

 

 

「さて、御館様、今回はどういった用件で来られたのですか?」

 

「…いや、…うん相変わらずで安心したで、しずちゃん」

 

「いえいえ、以前、私の無理なお願いを聞いていただき立派な日本刀を頂きました故、そのご恩に報いたく思っておりました」

 

「日本刀打ったの真沙子やけどな?」

 

「まぁ、包丁作りの延長線みたいなもんだからお安い御用だけどね、あれくらい」

 

 

 そう言いながら座敷部屋で正座したまま、礼儀よく頭を下げるしずか姫に苦笑いを浮かべながら答える繁子と何事もないかのように告げる真沙子。

 

 ちなみにその時調達した木炭は多代子の作った木炭を使用したという事もここに付け加えておこう。

 

 さて、話は逸れたが、見た限りどうやらここの酒造施設を使う分には許可がおりそうなようである。

 

 

「ビアガーデン…なるほど、しかしまた不思議な事を…、して、そちらの方々は?」

 

「あ、そう言えば紹介がまだやったな実は…」

 

 

 そう言いながら繁子は続けて先ほど徳蔵さんに紹介したように同じく鶴姫しずかにもまたまほやミカ達を簡単に紹介した。

 

 だが、それを聞いたしずか姫の反応はというと驚いたように目を見開いていた。

 

 それはそうだろう、聞けば繁子の側に座る女性があの天下の西住流、西住まほというではないか。

 

 

「…貴女が…西住流の…」

 

「すまないが今回は世話になる。学校同士の交友の場を作る為、こちらでノンアルコールビールを作らせて頂きたいのだが…」

 

「…いえ、構いませぬが、まさかこんなところにいらっしゃるとは思いもよらなかった故。多少戸惑ってしまいました、ウチの設備なら遠慮なく使ってもらって構いませぬ」

 

「それなら良かった、なら使わせて頂こう」

 

 

 そう言いながらまほは凛とした鶴姫しずかを見据えたままフッと笑みを溢す。

 

 しずか姫はと言うと、そんなまほの顔を見ると何やら思うところがあるのか複雑な表情を浮かべていた。

 

 目の前にあの西住流がいる。そして、隣には没落した流派であれ前回あの戦車道全国大会で活躍し名を知らしめた時御流もいる。

 

 戦車で名を轟かせる二人の怪物の姿がしずか姫の中に燻る何かに訴えてきてるようなそんな気がした。

 

 そんなしずか姫の表情を察してか、首を傾げたミカが彼女にこう問いかける。

 

 

「鶴姫しずかさん…と言ったかな? 君は戦車道はやらないのかい?」

 

「ちょっ!? ミカ何言ってるの!?」

 

 

 それは、二人の姿を改めて目の当たりにしたしずか姫に対するミカの単純な質問であった。

 

 まほの名を聞いてあの驚き方や徳蔵さんの話を聞いた限りでは前回の戦車道全国大会はおそらくしずか姫も見ていた筈だ。

 

 今や、女性の中で戦車道に興味がないという女性は少ない傾向になりつつある。

 

 それに、時御流の分家となればなおさら戦車道に興味を持っていても不思議ではないとミカは感じた。その上での質問であった。

 

 しかし、鶴姫しずかは凛とした表情で何事もないようにミカに対してこう告げた。

 

 

「生憎、戦車道ならせぬ。私は道が付くものが嫌い故」

 

「あれ? でもさっきまで書道してたんじゃ…モガ!」

 

「はーい、智代ちょっと静かにしてようかー」

 

 

 そう言いながら多代子は余計な事を言いそうになっていた永瀬の口を無理矢理閉じさせる。

 

 しずか姫が戦車道をやりたがらない事に関して何かしら理由があるのだろうと気を使っての事だ。

 

 しかしながら、その言葉を聞いたミカは首を傾げると不思議そうにしずか姫を見つめたまま悪戯そうな笑みを浮かべていた。

 

 

「へぇ…、見た感じ、君は戦車道をやりたいように見えたけど気のせいだったようだね」

 

「…さぁ、なんのことか」

 

 

 そう言いながら、ミカから視線を外す鶴姫しずか。

 

 戦車道、確かに今やメジャーな競技であり戦車道の全国大会となればその名声や名誉は世の中に轟くほどだ。

 

 大半の女生徒の憧れであり、そして、強さ、賢さ、団結力といったものが求められる。

 

 前回の全国大会の試合を見た者ならば、あんな試合に心が踊らない者などいないだろう。少なくともミカはそう感じた。

 

 だからこそ、鶴姫しずかの燻る戦車への憧れをミカはなんとなく察することができた。

 

 だが、一言だけ、ミカは鶴姫しずかにこう話をしはじめる。

 

 ミカ自身が感じた戦車道というものについての価値観についてだ。

 

 

「なら、そんな君に良い事を教えてあげよう。『戦車道には人生の大切なものが詰まっている』んだよ。なにもかもね」

 

「何がおっしゃりたいか判りかねまする」

 

「早い話が戦車道に興味があるならとっととやればいいのにって言いたいわけだよ」

 

 

 そうミカはバッサリと言いたい事を簡単に鶴姫しずかに告げた。

 

 燻っている闘争心、戦車に対する興味。

 

 鶴姫しずか、彼女はそれが非常に強いにも関わらずそれを表に出そうとはしない。

 

 道が付くものが嫌いという価値観は戦車道に誇りを持っているミカには理解しがたい事だったのだろう。

 

 しかし、鶴姫しずかはフッと笑みを浮かべるとミカにこう話をしはじめた。

 

 

「時には我慢も必要。生憎ながら私は今は戦車に関わろうとは思っていませんので」

 

「それはまたなんで?」

 

「まだその時ではない。…と言う答えでは納得してもらえませんか? ミカ殿」

 

「いや、そこまで強要するつもりはないさ。時を待つという答えで十分だよ」

 

 

 そう言いながらミカはニコリと笑みを浮かべ鶴姫しずかに応えた。

 

 時を待つ、すなわち、まだ彼女の中で戦車に関わる強いきっかけが無いという事なのだろう。

 

 興味はあるが、戦車道という道が付くものが嫌いである。すなわち、彼女には規定やルールという縛りに括られたものが合って無いのかもしれない。

 

 だが、繁子とまほの戦車道全国大会決勝を目の当たりにしてその道を付くものが嫌いで戦車道をやらないという意思が揺らぎかけているのも確かだ。

 

 戦車でいつか自分も輝いてみたい。

 

 だが、それなら道を違う事なく戦車道をしなければならない。

 

 その意思の狭間で鶴姫しずかは揺れていた。

 

 今ももしかしたら自分には戦車以外にも他の才能があるのでは無いかと様々な物事に取り組んで迷っている最中なのだろう。

 

 

「大偉業を成し遂げさせるものは体力ではない、耐久力である。元気いっぱいに1日3時間歩けば、7年後には地球を一周できるほどである」

 

「それは…一体」

 

「イングランドの文学者、サミュエル・ジョンソンの残した言葉さ…、いつか君も戦車で輝ける日は訪れる、悩め、若き乙女」

 

「いや、ミカ、貴女もまだ高校生でしょうが」

 

「そう言えばそうだったね」

 

 

 ミカは思い出したようにアキに告げながら、いつものように飄々とした表情を浮かべる。

 

 そんな、ミカの反応がおかしかったのか、クスリと思わず鶴姫しずかも笑みを溢してしまった。

 

 まさか、戦車道を否定した自分を戦車道に誇りを持っているミカがそんな風に見てくれるとは思いもしなかったからか、はたまた、掴みどころが無い彼女の人柄かわからないが自然と出てしまった笑みだった。

 

 

「いやはや、やはりお館様のご友人は面白い方ばかりですな」

 

「せやろ? ちょっと曲が強すぎるのばかりやけどな?」

 

「気に入り申した。ノンアルコールビール作りでしたか? 私もご尽力させて頂きたく申しまする」

 

「え! しずちゃんもいっしょにつくってくれるの! やったー!」

 

「智代、はしゃぎ過ぎだってば…」

 

 

 そう言って、嬉しがる永瀬に苦笑いを浮かべる多代子。

 

 どうやら、今回は鶴姫しずかも加わり、ノンアルコールビールの製造を行えるようである。人手は多い方が良い、実にありがたい話をもらったと繁子達も安心した。

 

 こうして、仲間が一人加わり、鶴姫酒造でのノンアルコールビール作りが本格的にスタートを切る事になった。

 

 

 

 さて、鶴姫酒造の酒造に移動した繁子達一同。

 

 ここから、本格的なノンアルコールビール作りに入る訳だが、まずは今回作るであろうノンアルコールビールについての話をしておこう。

 

 今回製造する予定のものはビールテイスト飲料、ノンアルコール飲料の一種でビール風味の発泡性炭酸飲料である。

 

 日本でビールが高級品扱いだった大正末期に代用品としての「ノンアルコールビール」が流行したことがあったが、技術や材料の不足で質の悪い物が多く流通していた事もあり、現在ほどの需要は無かった。

 

 そして、外国では米国で禁酒法の施行時代、アルコール度数0.5%未満の酒を造ることは合法であったことから、ビールの代替品としてニア・ビールと呼称されるアルコール度数が低いノンアルコールビールが生産された。

 

 製法としてはアルコール除去法と発酵抑制法が使われ、当然ながら原材料は麦である。

 

 しかし、麦芽酵母菌の不足により味が落ち売上が悪化、

 

 このような出来事からニア・ビールには工業用アルコールを注入することが行われたり、禁酒法施行時代には大多数の醸造業者が閉鎖し、闇ルートの酒を巡ってギャングが暗躍したりと様々な事が起きたりしていたという話まで存在する。

 

 さて、話は戻るが、今回製造する予定のノンアルコールビールはこのニア・ビールに近いものを目指して作ろうという訳である。

 

 ビールの原材料には福島産、時御流本家が製造している大麦、『真・乙女麦』という麦芽を使用する。

 

 

「発酵方法とかは…徳蔵さんはご存知ですか?」

 

「そりゃもう! 昔はお酒作りは自分の家で自家生産でしたからな!」

 

「頼もしい! 流石、徳蔵さんだ!」

 

「なんだか明子さんみたいだね!」

 

 

 そう言って、作業服に着替えた繁子達は酒造場に入り、既に戦闘体制に入っている。

 

 本職は一体なんなのか、女子高生とは一体なんなのか?

 

 様々な疑問はあるかもしれないが、彼女達にはこれが最早、普通なのだろう。そして、まほやミカ達も馴染んでるあたり既にその領域に入りつつあるのかもしれない。

 

 さて、通常のビールを作る過程では、以下の通り

 

 1、お湯に麦芽の一部、米、コーン、スターチなどの副原料を加え煮る

 

 2、残りの麦芽にお湯を加えさらに煮込み釜で煮た物を加える。

 

 3、仕込み釜でできた麦汁を濾過し、透明な麦汁にする。

 

 4、麦汁にホップを加えて煮込む。

 

 5、よく冷やした麦汁にビール酵母を加えて発酵、麦汁中の糖分がアルコールと炭酸ガスに分解され数十日間じっくり熟成させる。

 

 6、熟成したビールを濾過。

 

 

 という過程を踏む事により、ビールが製造される。

 

 ではノンアルコールビールの場合はどうだろうか?

 

 

「ノンアルコールビールにはアルコールを完成してから抜く方法、ビールを作る過程で抜く方法、香辛料とかを使ってビールに近い味にする方法って三パターンあるわね」

 

「今回はどうするんだ?」

 

「今回は通常のビールと同じ原料、同じ製法で、しかもアルコールを低くにすることで、麦汁濃度や酵母を働かせる時間、その時の温度などを調整して出来る限り低アルコールにして味に違和感の無い方法を取ろうかと考えとるで」

 

 

 繁子はノンアルコールビールの製造についての質問を投げかけできたまほに笑顔を浮かべたままそう告げる。

 

 つまりは味の質をそのままに、皆が違和感無く飲めるノンアルコールビールを作ろうという訳だ。

 

 

「よし! それじゃ取り掛かるで! …やり方は順を追って説明するから安心してや」

 

「なんかもうしげちゃん達。できない事って何かあるのかな?」

 

「ないんじゃないかな?」

 

「よーし、ほんじゃ気合いいれてやるかー」

 

 

 そう言って、二人で顔を見合わせて話し合うミカとアキ。そして、妙にやる気になってるミッコの三人は繁子の言葉通り早速、作業服のままノンアルコールビールの製造に取り掛かりはじめる。

 

 ちなみにノンアルコールビールを作るために訪れた鶴姫酒造の酒造蔵にテケ車が置いてあったので修理がてら立江が知波単学園の生徒に持っていかせた事をここに付け加えておこう。

 

 さて、ノンアルコールビール作りに戻るが、立江達も手馴れたようにしながらノンアルコールビールの製造に取り掛かりはじめた。

 

 それを見る限りでは手慣れたもので米やコーン等の副原料を加えて煮る作業を徳蔵さんと共に平然と行なっていた。

 

 

「お酒作りはまごころが大切ですぞ」

 

「いやぁ…私達この作業初めてだけど意外と大変よね」

 

「だねぇ…、なかなか難しいかも」

 

「嘘つけ! どの口が言ってるの! 一体!」

 

 

 そう言って、手馴れた様に酒造りをしはじめる真沙子と立江の二人にアキは思わず突っ込みを入れた。

 

 片方は日本刀や包丁を打てる腕前を持ち、板前ばりの職人技を持つスーパー女子高生。

 

 もう片方は漁師の技術に加え、機械を直し、さらに、土の知識がかなり豊富で加えて納屋を作るほどの大工の匠ばりの腕前を持つスーパー女子高生。

 

 そんな二人は何事もなく作業に溶けこんでいる。

 

 一体、彼女達はなんなのだろうか、そんな疑問が湧かない同じ女子高生はおそらく地球上、探しても存在しないだろうとアキは思った。

 

 さて、ノンアルコールビール作りははじまったばかりである。

 

 完成はどうなるのか?

 

 続きは! 次回、鉄腕&パンツァーで!


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