ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
アンツィオ高校。
19世紀に来日したイタリア人商人が母国の文化を日本に伝えるために設立した歴史があり、イタリアの戦車を主力として戦う学校である。
学校そのものの本籍地が海の無い栃木県の為、静岡県の清水港を母港代わりに借りている。その為、静岡県や愛知県から越境入学している生徒が多い。
前までは戦車道実力校として華々しい成績を残したこともあった。
だが、学校そのものが財政難であることに加えて保有車両がイタリア軍のものばかりな事もあり、車両の性能の割に難易度の高い戦術を駆使しようとするし、燃料不足のせいで練習時間が少ない為になかなか習得には至らず、大会での勝率は芳しくないなどのことも重なり、近年ではその実力も年々落ちてきていると言われていた。
ここまで聞くとどこか時御流と似通ったところがある学校であると言えるだろう。
さて、そんなアンツィオ高校との練習試合を控えた繁子達はそのアンツィオ高校に訪問していた。
「おー! 見てよ! しげちゃん! コロッセオだよ! コロッセオ!」
「ほんまやなー!…って、あんなん作るなら財政難って嘆くの間違ごうとらんかな…」
「私はイタリアならフィレンツェが好きなんだよねー」
「えーヴェネチアじゃないの? つれたか丸で巡れるじゃん」
「ヴェネチアで釣りかー。ありだね! 私はローマだけど」
「お洒落と言えばミラノやろ」
「ミラノ? リーダーが?」
「なんかミラノって感じじゃないよね、リーダーってどちらかといえばど田舎方面じゃない?」
「ほんまにウチをなんやと思うてんねん!お前ら!」
そう言って散々な言われようの繁子は顔を曇らせて突っ込みを入れる。
さて、こうして、アンツィオ高校に戦車を引き連れて来た繁子達であるが本題は練習試合である。
今回の練習試合、これが繁子の隊長としての初陣。知波単学園の皆も東浜のもと過酷な訓練に励みその戦車道の腕を磨いて来た。
それを発揮する機会が今日である。
「やぁやぁ! 諸君! 我が校によく来てくれた! 歓迎するよ!」
そんな風に繁子達が話し込んでいると黒リボンで結んだドリルツインテールが特徴の女の子が話しかけてきた。
アンツィオ高校の校章が入った軍服のような格好をしたその女の子の登場にアンツィオ高校を見渡していた繁子達は思わず首を傾げる。
「ん…?」
「貴女は…」
「おぉと! 自己紹介が遅れたな! 私の名はアンチョビ! このアンツィオ高校で隊長をやらせてもらっているんだ! 今日はよろしくだ! 」
「おぉ、あんたがそうなんか! これはご親切にどう……」
「あー!!!」
そう言って、アンチョビと名乗る少女と繁子が握手を交わそうとしたその時だった。
隣にいた多代子がいきなり驚いたような声を上げる。繁子達一同はその多代子の声にびっくりして目を丸くした。
「な、なんや多代子いきなり、びっくりするやない…」
「安斎ちゃんじゃん!!! わー!アンツィオに居たんだー!」
「…あ、も、もしや、た、多代ちゃんか? 」
「ひっさしぶりだね!」
そう言って、多代子は親しげにアンチョビに近寄ると手を握り目を輝かせた。どうやら、話の流れを見るに多代子とアンチョビは知り合いだったらしい。
多代子は嬉しそうに笑みを溢しながら、アンチョビの手を勢いよく上下に振る。
「なんや、多代子、顔見知りやったんか?」
「そうだよ! リーダー! 安斎ちゃんとは小学校と中学の時にクラスが一緒だったんだ! ねー!」
「あぁ、転校してからは連絡は取ってたんだが…まさかこんな形で再会するとは思ってもみなかったぞ!」
「戦車を一緒に乗ってた時期もあって! えーと、チームNDKNDKって名前でやってたんだ!」
「なんやそのチーム名…」
「そりゃ、『ねぇねぇ? 今どんな気持ち? ねぇどんな気持ち?』の略だよ。しげちゃん」
「うわ、めっちゃウザそうなチーム名やん、絶対負かしたチーム煽ってるやん」
そう言って、繁子は顔を引きつらせて多代子が自信満々に語るチーム名についての感想を述べる。
酷いというレベルじゃない、由来を聞けば間違いなく報復されること間違い無しの名前だろう。少なくても繁子ならそうする。
さて、話はそれたが、どうやら、安斎ことアンチョビは多代子の知り合いであり友達であることが判明した。
「んで、戦車道の腕は…」
「ふふん、言わずとも戦えばわかるさ」
「安斎ちゃんは強いよ? 私も何回か安斎ちゃんの戦車を動かしたことあるけど、指揮能力ならズバ抜けてたと思う」
(…多代子がそこまで言うってことは…辻隊長クラスの指揮能力があるかもしれへんってことか、油断できへんな)
そう言って繁子は多代子の言葉と自信ありげなアンチョビの言動にそう感じた。
戦車を指揮するだけでなく、もしかするとまほの様に全軍を指揮する能力にも長けているかもしれない。
少なくとも、時御流を学んだ多代子がそれだけ言い切ると言うことが妙な不気味さを感じさせた。
「それじゃ、今日はよろしく頼むで」
「あぁ、こちらこそ、多代ちゃんの友人だからな! 良ければ我が校を案内しよう!」
「あ! さっすが安斎ちゃん! 太っ腹じゃん!」
「…えと、多代ちゃん、一応、ここではアンチョビで通ってるからアンチョビって呼んで貰えたら嬉しいなーとか思ったり?」
「えー…んー…、わかった! んじゃアンちゃんね!」
「お兄ちゃんになっとるやないか! 性別変わっとるやないか!」
「いやー、リーダーの突っ込み今日も冴えてるね」
「さっすがリーダー」
そう言いながら我らが知波学園一同は安斎改めアンツィオ高校隊長、アンチョビから校舎を観光がてら案内してもらうことになった。
イタリアをイメージした校舎はどことなく芸術を思わせる様な光景である。校舎の道脇には屋台が立ち並び、他校の生徒やアンツィオ高校の生徒達が賑やかに食べ物を頼んだり雑談している光景が目立った。
「我々の大事な資金源だ。うちの高校は貧しくてな? 財政的に資金難でなかなか戦車を揃えられないんで困ってるんだよ」
「そうなんだ、苦労してるんだね」
「なんならウチらが手伝おうか? 屋台から何やら0円で作るで?」
「そ、それはありがたい申し入れだが…0円って…」
「なら、まず屋台の木材の調達からだね」
「プラウダいけば無料で伐採し放題っしょ? ノンちゃんに連絡取ってみようか?」
「え?」
「0円食堂はうちらの十八番やからね、試合終わったら屋台とか何個か作れるし、戦車も作れるからお礼に何台か作ったげようか?」
「あ…、え? お前達それマジで言ってるのか?」
「本気と書いて、マジです」
「ラーメンも麦から作るくらいマジです」
そう言い切る繁子達にはそれを実行するだけの凄味があった。やると決めた時には既に行動に移しているだけの凄味が彼女達にはあった。
時御流の真骨頂、なんでも1から作ってしまうのでこんなものは御安いご用である。
ちなみに立江が言っていたプラウダからの木の調達はプラウダ伝統のツンドラで強制労働30ルーブルの事だろう。
木の調達をする為に他校の木を伐採してくる辺り抜け目がない。これにはプラウダの隊長を引き継いだカチューシャも困惑必須だろう。
どこの世界に木を0円で伐採するために寒いツンドラで労働しようとする物好きがいるのか、なんとここに居た。しかも五人もである。
「いや…、まぁ、と、とりあえず試合が終わってから考えよう。な?」
「あ! ノンちゃん? 今ねー、アンツィオ高校にいるんだけどさー」
「話聞いてたかな!? なんでもう木材調達の段取りつけてんの!?」
「立江は棟梁やからなー」
「仕方ないね、本職大工だもん」
「本職は女子高生じゃないのか! おかしいだろ!」
アンチョビのいう事も全くもってその通りである。
本職大工と言い切る永瀬も大概だがそれに違和感を感じさせない立江はもっととんでもない。アンチョビは改めてそう感じた。
すると、ここで永瀬があることに気づく。
「てか雪子さんは?」
「ん? 今日は自分の試合があってアメリカまでひとっ飛びしてるよ? 昨日の晩には飛行機乗ってたみたい」
「あの人ホンマに鉄人やな」
どうやら、内容はこの場にいない東浜雪子のことの様だった。
先日、臭い缶詰めに挑戦した雪子、本日は知波単学園の練習試合と自分の試合が重なり昨晩までにアメリカまで飛んで行ってしまったらしい。
あれだけきつい特訓や訓練をこなしてアメリカまで飛行機で飛んでいくのはあの人くらいであるだろう。まさに、Ms.パーフェクトと言わざる得ないと繁子達は思った。
「それにしても…」
「ん?」
「あの、天下の西住流と互角にやり合った時御流と練習試合ができるとは思わなかったよ、これは私達が『全国制覇』するには良い経験になるな」
「…なんやて?」
そのアンチョビの言葉にピクリと反応する繁子。
練習試合前の啖呵としては十分である。どうやら、練習試合を行うアンツィオ高校はこちらを土台と見ているらしい。
これには繁子も負けてはいられないなと密かに感じた。
「ま、互いに良い練習試合にしよう。ウチらも今日は良い経験になると思うわ」
「おや、今の言葉に突っかかってくると踏んでたがあてが外れたかな?」
「はっはー、そりゃいつもウチらが使う手やからなー。心理戦に」
「リアルNDKだよね?」
「ちなみに心理戦は多代子の十八番や、煽るのは得意やからな、ウザいけど」
「ちょっ!? しげちゃん酷くないっ!? あんまりじゃない!?」
「まー私らの中じゃ一番腹パンしたくなるんじゃないかな?」
「実際、立江と真沙子に私、腹パンやられたんだけど…」
「そりゃ、初対面の時にお前の面覚えといてやるよ! なんて言われればねぇ…」
「すいませんあの時は調子に乗ってました」
「よろしい」
そう言って素直に謝る多代子。
アンチョビが啖呵を切って精神的に揺さぶりをかけてきたにも関わらず全く違うところに飛んで行ってしまった。
そして、繁子はというとそんな多代子をさて置き、アンチョビと熱い握手を交わしていた。
「あの啖呵のきり方、気に入った! なかなかの癖者やね!」
「いやいや、こちらこそ試す様な事をして申し訳ない。 なんだか君らにはシンパシーを感じるよ」
「アンちゃんはもしかしたら新たな時御流の使い手になるかも?」
「あははー、まさかね?」
そう言って一同は賑やかなアンツィオ高校の屋台の道を通り、戦車の演習場へと向かう。
雪子から鍛えられた実力を発揮する場。繁子も継続高校での戦車戦を通して大きく成長した。
果たして、アンツィオ高校とはいかなる戦術を使ってくるのか? アンツィオの隊長、安斎ことアンチョビの実力はいかに。
気になる続きは…!
次回、鉄腕&パンツァーで!