ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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繁子のプラウダ戦

 

 

 

  プラウダ高校との練習試合。

 

 プラウダ高校三年生。プラウダ高校機甲科の隊長を務める『プラウダの天王星』ことゲオル・ジェーコは隣で再起不能となった味方戦車を見て突然の出来事に唖然とさせられた。

 

 だが、彼女も名門プラウダ高校の隊長である。ただやられて唖然とするだけではなくすぐさま状況の把握に移る。

 

 長い銀髪の髪を風に流されないように押さえながら戦車から顔を出すと鋭い目つきを光らせて何処から砲撃が飛んできたのかをすぐさま察知できるようにあたりを見渡した。

 

 

「チッ…! なんてこと! !」

 

「…隊長…!」

 

「アルミィーがやられるなんて…! くっ…完全に誤算だったわ!」

 

「しかしながらまだ我がプラウダ高校の戦車は上回っていますし、そこまで…」

 

「違うわ、あれは狙われてたのよ、下手すれば私がやられていたわ」

 

 

 そう言って隊長であるジェーコはすぐに勝った気でいる部下を咎めるように注意する。

 

 射線に入っていたのならばやられていたのは間違いなく隊長である自分であることを彼女は自覚していた。

 

 知波単には突撃ばかりしか戦術が無いとたかを括っていたのを完全に足をとられた形での撃破。

 

 隊長のジェーコは思わず苦虫を潰した表情を浮かべる他なかった。完全に不意を突かれた形であるがゆえの失態。敵に見事と言葉を贈りたいほどの不意討ちだった。

 

 戦車から顔を出したジェーコは双眼鏡を通してすぐさま、その不意を突いてきた戦車の走る影を見つける。

 

 おそらくはカモフラージュしていたのだろう。その戦車はあからさまについて来いと言わんばかりの逃走模様だった。

 

 

「…なるほどね、森林に消えたか」

 

「どうしますか?」

 

「知波単の車両も森林に逃げたと通信に入って来たわ。行くしかないわね」

 

「しかしながら危険では?罠かも…」

 

「Ваше предложение стоит тогочтобыегорассмотреть.(貴女の提案は考慮するのに値するわ)」

 

「………え?」

 

「けれど、日本語にはこんなことわざがある、虎穴に入らんば虎子を得ずっていうね?それにこれは練習試合よ。アルミィーがやられて黙っていられるほど私も大人じゃ無いの」

 

「つまり追撃なさると?」

 

「Да(もちろん)」

 

 

 そう言って、T-34/76に再び乗り込むジェーコ。

 

 隊長の判断に隊員が従わないわけにはいかない、ジェーコの言葉を聞いた部下の少女もまた戦車に乗り込むと先ほど砲撃を撃たれた方角へと進軍する旨を仲間達に伝える。

 

 腹心である部下の一人をやられたとなれば名門プラウダ高校の隊長としても黙っているわけにはいかない。

 

 アルミィーを撃破した奴らを倒す事でそれに応えるのが筋であるというのがジェーコの考えだ。

 

 

「隊長が追撃なさる。行くぞ」

 

「Понятно」

 

「…ん、んん…あとそれと…隊長。一つだけ良いでしょうか?」

 

「何かしら? スタルシー?」

 

 

 ジェーコは金髪の髪を両側に束ねた腹心である部下の少女、スタルシーにそう訪ねる。

 

 スタルシーは何やら少しばかり言い辛そうに顔をモジモジとするとひとまず率直に自分が感じている事を隊長のジェーコに話し始めた。

 

 

「私、ロシア語弱いの知ってるでしょう!? 途中何言ってるかさっぱりわかりませんでしたよ! 日本語で話してください!」

 

「…はぁ!? スタルシーまたなの? 貴女この間もロシア語さっぱりだったから上達させるって意気込んでたじゃないのよ!!」

 

「人には向き不向きがあるんですぅ! おい! お前達も日本語で話せ!」

 

「Да!」

 

「違うわ!それもロシア語だから!」

 

「それは威張って言うことじゃないわよ! こら!」

 

 

 何やら言い合いが始まるプラウダ陣営。

 

 ひとまず、一通りやりとりが終了したところでジェーコとスタルシーは戦車に改めて乗り込むと砲撃を撃ち込んで来た方角へと戦車を進めはじめる。

 

 とりあえず、知波単学園の隊長である辻つつじの討ち取りはもちろんの事だが、アルミィーを撃破した戦車を潰す。それがジェーコ達にとっての目標だ。

 

 標的は定まった。

 

 

「潰すわよ、全員いいわね?」

 

「「Ураааааааа!」」

 

「やってやるぞー! いけー!」

 

「一人だけ我が校の生徒じゃないみたいだから背後から撃ってよし」

 

「Понятно」

 

「ちょ…っ! 冗談きついでしょう! 隊長〜」

 

 

 全員の掛け声と裏腹に日本語で気合いを入れるスタルシーに手厳しい言葉を吐くジェーコ。

 

 しかしながら、そんなプラウダ陣営の戦車道と連携は強力だ。他愛の無い雑談を交わすほどの余裕もプラウダにはある。

 

 さて、繁子と知波単学園の機甲科の者達は果たしてこの強力なプラウダ高校の戦車群とどう立ち回るのか…。

 

 T-34を主力とした戦車達は音を立ててそれぞれ知波単と繁子達が逃げ込んだ森林へと進軍してゆくのだった。

 

 

 

 一方、その頃、繁子達はというと。

 

 森林にて、斧を振りかざし木に向かいそれを振り落としていた。そして、現在、戦車を用いて倒した木は七本ほど。これで一体何をするというのか?

 

 ある程度、木を切り倒したところで繁子は手を止める。木々が転がる中、繁子はそれを丁寧に扱いながら器用な手先でそれを形にしていった。

 

 時御流の基本は速さ、職人的速さにて地形を変えて自分達に有利な地形を作り上げる。

 

 そして、繁子は立江と国舞と連携し、斬り崩したを木用いてあるものを作った。それは…。

 

 

「うん、スピード完了できたな、これでプラウダの奴らが来ても大丈夫や」

 

「しかしながら考えたねー、木を使ったトラップなんて…」

 

「ぬふふ、オペレーションKのKは木こりのKってな!」

 

「開拓のKともいうね」

 

「んじゃ、平地になった部分は立江と智代が落とし穴作ってたからとりあえずオッケーね」

 

「向こうがこちらに気づいていない今だからこそのこの戦術やけどな、時間稼ぎはうまくいってるみたいや」

 

 

 繁子はそう告げるとと斧を仕舞い、今の置かれている状況を判断する。

 

 あとは挑発したプラウダのフラッグ車両が罠にかかるのを待つだけ、まさか、彼女達も戦車道をしている山の中にトラップや落とし穴があるなんて思いもしないだろう。

 

 これらを即席で作る。それが時御流の戦車道流儀である。

 

 

「さてと、ほんじゃ敵さんが来たみたいやね」

 

「うん…早く戦車に戻ろう」

 

「勝つで、ぐっちゃん」

 

「当たり前でしょ? 相棒」

 

 

 そう言ってにっこり笑うと拳をつき合う二人。

 

 

「勝って辻隊長からパフェでも奢ってもらおうよ!」

 

「それ、名案」

 

「後で言っとかないかんな、ナイスやぞ多代子」

 

 

 そして、二人は背後にいる国舞へと振り返りハイタッチを交わすと駆け足でカモフラージュしている四式中戦車へと走り戻り出す。

 

 このお手製のカモフラージュだが、完成度はかなり高い。一見したとしても初見で見破れる者はそうはいないだろう。

 

 自作カモフラージュの種類はたくさんあるが、これ全てをなんと手作りしているのは永瀬と真沙子である。

 

 早速、戦車へと乗り込んだ3人。

 

 

「もー、3人とも遅いっすよ」

 

「敵さん来ちゃうよー?」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

 

 しかしながら、一足先に座っていた永瀬と真沙子。

 

 どうやら繁子達よりも先に落とし穴を作る作業を終えてしまっていたらしい、そして、カモフラージュをつけたままの戦車に揃った五人は各自、それぞれの配置につく。

 

 戦車の走る音がだんだんと近づいてくるのがわかる。

 

 おそらくはプラウダ陣営だろう。

 

 

「さぁ、こっから正念場やで、辻隊長にも連絡しといてや。生きとったらやけどな」

 

「アイアイサー!」

 

 

 そう言って、通信手の立江は隊長の辻にコンタクトを図る。

 

 下準備は整った。後は敵戦車を待つだけ。

 

 強豪プラウダ高校のフラッグ車。

 

 ゲオル・ジェーコ隊長率いる繁子達のプラウダ戦はすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 一方、その繁子達を現在追撃しているプラウダ高校三年生隊長のジェーコだが。

 

 追撃に出した辻つつじとの交戦に部下たちが手間取っていることにイラ立ちを隠せずにいた。

 

 

「…なかなか思うようにはいかないものね…」

 

 

 この今回の練習試合を組んだ森林地区。

 

 湿気もさることながら、霧が出る。視界があまり良好とは言い難い森林地区である。

 

 というのもこの場所を選び指定したのは知波単高校の方である。場所のハンデをやろうと考えたのは浅はかだった。

 

 もし、突撃以外の戦術を取る戦車が知波単に居たのならば、厄介なことこの上ない。

 

 辻つつじに関しても知波単学園で隊長を張ってる以上は優秀な指揮官であるのは違いないのだ。

 

 

「…6、7番車両が撃破されたようです」

 

「相手は…」

 

「辻ですね、濃霧のあるこの森林を使って左右からチハで挟み込まれ撃破されたとか」

 

「陣形を組み直しなさい、何をやってるのあの娘達は!」

 

 

 ジェーコが怒るのも無理はない。

 

 敵に勝った気でいる味方戦車が逆にやられ出したと聞けば、彼女とて黙るわけにはいかないだろう。

 

 ジェーコも腹心のスタルシーも知波単に対する認識を既に改めている。しかし、他の部下たちはそうではない。

 

 油断大敵とはいえこの失態は名門プラウダ高校としても許されるものではない失態だ。

 

 

「今度主力を組み直す必要があるわね」

 

「はい、ん…? …隊長、」

 

「どうしたの?」

 

「ちょっとあたりを見てください、おかしくありませんか?」

 

「何を言ってるのかしら? 別に……」

 

 

 そのスタルシーの言葉に気づかされたジェーコは辺りの異変にすぐさま気づかされた。

 

 そう、森林の中にいるにもかかわらずこの場所が妙に開けているのだ。不自然な程に。よく見ればそこにあるであろうものがなくなってある事に気がつく。

 

 その瞬間、我に返ったジェーコは通信機を通してスタルシーに声をかけた。

 

 

「…木がなくなって…っ! …スタルシー! 後退なさいっ! 」

 

「は、はい…! 後退だ! こうた…ぁ!?」

 

 

 次の瞬間、トラップが発動した。

 

 それは繁子、真沙子、国舞が先ほど大量に作った丸太。

 

 その丸太がジェーコを含めたプラウダ高校の車両の真上から全部、降って来たのだ。

 

 そして、それに続くように、後退したスタルシーの車両の足元が崩れ下へとガクンと落ちる。降って来た丸太をジェーコは巧みに指示を飛ばし避けるが落とし穴にハマったスタルシーの車両はというとそんな暇もなく。

 

 

「丸太が降って…っ! 早く車両を上に上げろォ!」

 

「無理です!」

 

「なんだとぉ!」

 

 

 降って来た丸太が落とし穴へと吸い込まれていくように落ちてゆき、スタルシーの乗る車両はそれらの下敷きとなってしまった。

 

 当然、車両にはダメージが入り、身動きが取れなくなる。その時点でスタルシー車両からは行動不能の白旗が上がった。

 

 そして、プラウダ高校フラッグ車。ジェーコはというと。

 

 

「やってくれるわね…!」

 

 

 丸太を全て避けきり、戦車の車体を上げていた。

 

 だが、次の瞬間。砲撃の音がなると共にジェーコのお供についてきていた車両の一つが砲弾を撃ち込まれ吹き飛んだ。そして、その砲撃の先を見たジェーコはすぐさま回避行動を取らせると第二の砲撃を紙一重で交わす。

 

 

「惜しかったわね、今のは危なかったわ…。隠れんぼは終わりよ出てきなさい」

 

(フラッグ車はやっぱりそう簡単にはいかんか…)

 

 

 おそらく、二発目で場所が割れた。そう感じた繁子はカモフラージュを外し、ゆっくりとジェーコ達の前に姿を現した。この時点で互いに無傷の戦車が対峙する

 

 フラッグ車両との一騎打ち。

 

 四式中戦車に乗る繁子達にも思わず静かなアドレナリンが上がってくる。敵は三年生。それも古豪、プラウダ高校の隊長だ。相手に不足はない。

 

 

「さぁ、一騎打ちやで! 真沙子!」

 

「はいさ!リーダー!」

 

「装填準備!」

 

「いくわよ! あの生意気な車両に名門プラウダ高校の力を見せるのよ」

 

 

 今、荒れる森林地区の中で両戦車が激突する瞬間が訪れようとしていた。

 

 これが、高校に入ってから繁子がはじめて行う戦車同士の一騎打ちである。強い戦車が勝つのが戦車道。

 

 戦車道にまぐれなし。全ては実力で決まる。

 


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