ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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ノリと勢い

 

 アンツィオ高校、戦車演習場。

 

 アンツィオ高校、知波単学園の両校の生徒は向かい合う形で既に整列を終えていた。

 

 この知波単学園の練習試合。それを来年の戦車道全国大会に向けて観戦しようと他校の生徒達も設置された大画面前の席にへと集まる。

 

 前回、戦車道全国大会で激突した高校、聖グロリアーナ女学院もその一つである。

 

 聖グロリアーナ女学院の隊長を引き継いだダージリンは紅茶のカップをそっと口に近づけながら香りを楽しむかのようにその綺麗な瞳を閉じた。

 

 そんなダージリンを横目に聖グロリアーナで彼女の戦車に同乗する砲手。ブロンドの縦ロールと大きなリボンが特徴の女生徒のアッサムは静かに話しはじめる。

 

 

「知波単学園、アールグレイ様の仇か…、しかし、わざわざ私達が見にくる必要はあったかしら?」

 

「アッサム、こんな言葉を知ってるかしら? 『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』って言葉」

 

「孫子ね、戦に通ずる基本中の基本。そんなことは百も承知よ隊長殿、けど、まだ一年の新戦力が入って来てないこの時点で偵察をしたところでどうなの? と私は思うんだけどね」

 

「確かに貴女が言うことも一理あるわ…けど、私が貴女と今日偵察に来たのは別に現状の知波単学園の戦力を見定めて対策を練るためではないわ」

 

 

 ダージリンは静かな声色で副隊長のアッサムにそう告げる。

 

 そう、ダージリンにはある思惑があった。それは別に現状の知波単学園の戦力に備えての偵察などではない。

 

 

「ん…? では何かしら?」

 

「…知波単学園の戦術の変化、それを見に来たの」

 

「どう言う意味?」

 

「東浜雪子、この名前に聞き覚えは?」

 

「!?…ひ、東浜!?…それって」

 

「流石ね、もう察しがついたみたいで何よりだわ。つまりそう言う事よ」

 

 

 ダージリンはそれ以上多くを語ることはなかった。

 

 東浜雪子、戦車道のレジェンドとして名高い彼女の名前を知らない者は居ない。聖グロリアーナ女学院の生徒であれば尚更だ。

 

 以前、東浜雪子は聖グロリアーナ女学院の指導官を聖グロリアーナ女学院側から打診された事があった。

 

 地位や指導官としての誰もが羨むような高待遇の条件。

 

 だが、東浜雪子はそれを公然と蹴った。現役の自分が聖グロリアーナ女学院を指導することはできないと。

 

 そして、そんな名門の聖グロリアーナ女学院が喉から手が出るほど欲しがった東浜雪子が知波単学園で指導官として入った。

 

 

「雪子さんはまさに聖グロリアーナには相応しい指導官だった。それが、知波単学園ですものね、どんな戦術を用いるのか気になるでしょ?」

 

「はぁ、なるほど…ね。貴女はそれに加えて…」

 

「そう、時御流。繁子さん達ね」

 

「引き抜くの諦めてはいないのね」

 

「当たり前でしょう、副隊長に彼女がなってくれたらどれだけ心強いか…。しかも、聖グロリアーナ女学院で高級な紅茶の栽培が出来るなんてこんなに素晴らしい事は無いとは思わない?…ま、彼女達は呼んでも来ないでしょうけどね」

 

 

 そう告げるダージリンはニコリと笑みを浮かべて紅茶のカップを持ってきた机の上にそっと置く。

 

 ダージリンは来年の大会が聖グロリアーナ女学院にとってかなり厳しいものになるのを覚悟している。

 

 来年の黒森峰女学園。それが凄まじいほどに強くなる事が予想できていたからだ。

 

 

「黒森峰女学園の内定者を見たところ、西住流、西住みほに加えてあの逸見エリカが入って来るそうじゃない」

 

「逸見エリカ…ね…」

 

「西住姉妹が揃い踏み、さらには有望な人材が入ってくる。…骨が折れるわねこれは」

 

 

 そして、それだけでなく黒森峰女学園の戦車は前回の繁子達との戦車戦を経てより強力な駆逐戦車を投入してくる事が予想される。

 

 さらには西住姉妹が揃い踏み、優秀な西住流の人材を入れて、西住流を確固として主流とした一体感がある強力な布陣。

 

 それに対抗しうるには、聖グロリアーナ女学院だけの今の戦術だけでは不十分であるとダージリンは考えていた。

 

 そこで白羽の矢を立てたのが時御流の知波単学園の戦術というわけである。

 

 来年はこの二校が必ず上がってくる事についてダージリンは疑いの余地はなかった。

 

 

 一方、アンツィオ高校と繁子達はというと。

 

 

「よし! 我等が同志諸君! 我が校の実力を知らしめる日が来た!」

 

「……で、でも、ドゥーチェ。相手が知波単学園なんて聞いてませんよ〜」

 

「そうですよ〜…。黒森峰、聖グロ、プラウダと同等の名門校じゃないですか!」

 

「ウチなんかが…勝てっこないよね〜」

 

 

 アンチョビの言葉、演説を聞いて、尚更、弱気な発言アンツィオ高校の女生徒達。だが、アンチョビはそれでも彼女達にこう告げた。

 

 別にこれは練習試合だ。だが、意味の無い練習試合にはしたくはない。そんな思いが、アンチョビにはあったのである。

 

 

「…試合の勝ち負けにこだわるな、違うだろお前達。私達の戦車道をすれば良いんだ、勝てっこ無いじゃ無い。負けたく無いって気持ちが大切なんだぞ」

 

「そんな事言われても…」

 

「弱小と呼ばれても、ウチが弱いって思われていても別に良い。だけど、自分の口から弱いという言葉を言うのは間違ってる。私は諸君の力を知ってる。我等が決して弱いなんて事はない!」

 

「ドゥーチェ…」

 

 

 アンチョビが発するその言葉に思わず静かに沈黙するアンツィオ高校の女生徒達。

 

 勝敗に囚われれば自分達の戦車道などできない、アンチョビはそう言いたかった。そうではなく全力でぶつかる事こそが勝ちにも繋がる。

 

 

「ドゥーチェ!」

 

「さっすがやっぱり我等がドゥーチェだ!」

 

「よーし! 定番のアレやろう!」

 

「行くぞー!!」

 

「「ドゥーチェ! ドゥーチェ! ドゥーチェ!」」

 

「そんなんじゃダメだ! 声を張れ! 胸を張れ!」

 

「「「ドゥーチェ! ドゥーチェ! ドゥーチェ! ドゥーチェ! ドゥーチェ!」」」

 

 

 そしてはじまるアンチョビを讃える大合唱。

 

 アンツィオ高校は間違いなく、あのアンチョビを中心に統率された優秀なチームである。彼女の掛け声に応える生徒たちを見ればそれは一目瞭然だ。

 

 だが、繁子達も黙ってそんな光景を見逃すほど甘くはない。対抗すべく立江達が立ち上がった。

 

 立江は演説するように山城の上に乗り、繁子を隣に立たせる

 

 

「よーし! お前ら! 私らも負けてられ無いわよ! 知波単といえば!」

 

「リーダー!」

 

「そうよ! なら決まってるわね! さぁ! ご唱和ください!」

 

「「「オォ!!」」」

 

「え? 何、なんやの?」

 

 

 立江の隣で戸惑う繁子を放置し、勝手に盛り上がる知波単学園一同。

 

 隊長を讃える合唱で負けるわけにはいかない、それが、時御流の立江達のハートに火をつけた。そして、多代子がタイミングを見計らったかの様に観客席から人を連れて帰ってきた。

 

 そして、繁子の隣に立ち皆を奮い立たせる立江に多代子はこう手を挙げて大声をあげる。

 

 

「立江! 援軍呼んできたよー!」

 

「でかした! 多代子! それでは!皆! いくぞー! せーの!」

 

「「「リーダー! リーダー! リーダー!リーダー! リーダー! リーダー!」」」

 

 

 そして、アンツィオに負けじと知波単学園は大合唱をはじめる。

 

 繁子はただただ戸惑うばかり、それはそうだろう。繁子は立江達から担がれて高々に叫ばれ合唱され恥ずかしい思いをしているだけであるのだから。

 

 凄い一体感を感じる…今までにない何か熱い一体感を。なんだろう風…吹いてきてる確実に、着実に…。アンツィオと知波単学園の方に…。

 

 そんな繁子の光景を観客に座る聖グロリアーナ女学院のダージリンも羨ましそうに観客席から眺めていた。

 

 そんな両校総出でアンチョビと繁子を讃える合唱を目撃したダージリンは何か閃いたようにアッサムにこう話はじめる。

 

 

「良いわね…。あれ、ウチにも導入しようかしら」

 

「貴女の名前は合唱するには語呂が悪いでしょう?」

 

「ジョークよ、気にしないで、それに品が足りないわ」

 

(半ば本気で言ってるように見えたのだけど)

 

 

 アッサムの容赦ない言葉に少しだけ落ち込むダージリン、語呂の問題かという部分よりも華麗さに結びつけて品も足りないと言う言い訳もつけてみた。

 

 しかし、事実、少しばかりやってみたかった気持ちがあったのも確かである。紅茶のカップを握る手が若干図星で震えていた。

 

 そして、そうこうしている内にアンツィオ、知波単学園の両校の合唱は譲らぬ形で激突する事になった。

 

 

「「「ドゥーチェ!ドゥーチェ! ドゥーチェ!ドゥーチェ!」」」

 

「「「リーダー! リーダー! リーダー! リーダー! リーダー!」」」

 

 

 試合前からかなりヒートアップしている。練習試合を観に来た観客でさえ、合唱を口に出す始末。

 

 しかし、一方、繁子はそんな合唱を受ける中、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして立江の隣で合唱をノリと勢いで主導させられていた。

 

 

(…ウチ、何やってんのやろ)

 

 

 そして、互いに譲らぬ大合唱を終えた後に両校の戦車が指定の位置につかされる。

 

 隊長の繁子を筆頭に合唱は未だ止まない、そんな中、繁子は顔を真っ赤にしながら山城へと乗り込む。

 

 そして、プルプルと恥ずかしさで顔を赤くしている繁子を見て、練習試合を見に来ていた皆が突っ込みたい思った『イジメかっ!』と…。

 

 そんな中、知波単学園の練習試合を見に来た二人の姉妹はそんな繁子の姿にホッコリした様な表情を浮かべていた。

 

 

「お姉ちゃん…。今日は良いものが観れたね」

 

「あぁ、そうだな…流石しげちゃんだ」

 

「だねっ!」

 

 

 そう言いながら二人は暖かい眼差しで顔を赤くしている繁子を眺めつつ、アンツィオ高校と知波単学園の練習試合開始の合図を待つ。

 

 その姉妹の姿。どこかで見たことある様な姿に会場の何人は騒ついているが、そうこうしている内にも試合開始の煙幕が空高く打ち上がった。

 

 そして、試合開始のアナウンスが流れ試合がついに…。

 

 

「アンツィオ高校対知波単学園! 試合…開始っ!」

 

 

 始まった。

 

 勢い良く飛び出すアンツィオ、知波単学園の両校の戦車。

 

 さて、果たしてアンチョビ率いるアンツィオ高校とは一体どんな戦術を組んでくる高校なのか?

 

 知波単学園の練習試合を観戦する。二人の謎の姉妹の正体は? 一体、何住姉妹なのか…。

 

 気になる続きは…。

 

 次回! 鉄腕&パンツァーで!


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