ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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土の知識

 

 

 

 いよいよ始まった、アンツィオ高校との練習試合。

 

 早速、知波単学園の戦車とアンツィオ高校の戦車は隊列を組み散開を行なった。

 

 さて、今回の両校が持ち出した戦車のラインナップをここで見てみよう。

 

 まずは知波単学園。ホニIIIを中心にケホ、チヌ、チヘ、ホリ、四式中戦車(山城)という編成で構成されている。

 

 ホニIIIが若干多めの5輌。チヌ1輌、ケホ2輌、四式1輌、ホリ車1輌の編成になっている。

 

 今回は立地が不安定な森林地帯、さらに、山道を登り下りするという事もありオイ車の様な戦車は今回持ってくる事はしなかったのである。

 

 そして、一方のアンツィオはというと…。

 

 

「ほぼL3ばかりじゃない。いくらなんでもこれは…」

 

「かろうじてセベモンテとカルロ・アルマートM13/40が合わせて2輌あるのが救いか…、こんなのでは勝負にならないわね」

 

 

 そう言いながら、観客席から眺めていたダージリンとアッサムも顔を顰める。

 

 あまりに戦力差が戦車に現れていた。アンツィオの戦車は知波単学園より見劣りするのは致し方ないが、どう太刀打ちするのか見当もつかない。

 

 だが、そんなダージリン達の考え方とは別に山城に乗る繁子達は全く別の考え方をしていた。

 

 それは…。

 

 

「向こうは機動力を生かした撹乱戦術が使える。気を引き締めや、的が小さい分戦術に幅を広げてくるで」

 

「だろうね、ウチもそうするだろうし」

 

「そういう事や」

 

「あ! しげちゃんあれ!」

 

「ん…?」

 

 

 そう話しながらアンツィオを警戒していた繁子は永瀬の言葉に反応し、視線をそちらへと向ける。

 

 するとそこにあったのは…。

 

 

「…なるほど、そう来たか」

 

 

 なんと、広がる泥道であった。

 

 それも即興で作ったものではない、立地からして多分、数日前から作られたものだと推測できる。

 

 足止め策、もしくはこの泥を使いこちらの機動性を制限しにきたのだろう。

 

 繁子は戦車から降りると土を確認しはじめる。すると、そこで繁子はある事に気がついた。

 

 

「ん…こりゃ…あかん…」

 

「どうしたの? しげちゃん?」

 

「ただの泥かと思うとったけど、この泥、普通の泥やないね?」

 

「…え? というと?」

 

「水はけが悪い泥や、これ、通った後、乾いたらえらい事になるで」

 

「カチカチになるんだっけ?」

 

「せや、あんまし通りたくない道やね、こりゃたまげた。向こうもわかっとったんかいな」

 

 

 そう話しながら繁子は手に取った泥を真剣に確かめながら告げる。

 

 泥を触るだけでそんなとこまでわかるとは一体なんなのだろうか…。いや、しかし、これを策に用いたアンツィオもかなり凄い。

 

 泥が乾燥し固まり、履帯や部品に関しても何かしらの負担が掛かる。ましてやカチカチに硬化する泥が入り込み部品に付着した状態で泥が硬化でもすれば本来の戦車の動きにも影響が出てくるはずだ。

 

 そう、これは繁子達がヴァイキング水産高校と戦った時に用いた策の一つを参考にしたものに過ぎない。それにアンチョビがアレンジを加えたものである。

 

 

「土の知識はやっぱり必需品やね」

 

「で、どうするよ? しげちゃん」

 

「沼みたいだけど、通れないことはない…けどなぁ」

 

「あ! そうだ! じゃあさ! これ使おうよ!」

 

「ん? 永瀬、何やこれ?」

 

「真昆布!」

 

「昆布…いや、昆布ってあんた…」

 

「いや、待て…! そうか! 永瀬! アルギン酸かっ!」

 

 

 繁子はその場から立ち上がると目を輝かせて声を上げる。

 

 そう、あれは数年前、繁子達が新宿の泥を大量に持ち帰ってきた時のことだ。良い土を作るために繁子はラーメン屋から使い終わった真昆布を調達した事があった!

 

 そして、その時に使った成分がこの…。

 

 

『うわぁ…めっちゃネバネバしとる』

 

『このネバネバが良いんですよ』

 

『ネバーギブアップ! みたいな! これなら土も良くなりそうだよね!』

 

 

 アルギン酸を含んだ真昆布なのである。

 

 真昆布や海藻に含まれるこのアルギン酸はカチカチの土を柔らかくフワフワにしてくれる。

 

 握れば綺麗に一粒一粒団粒化された土になり、さらに、水はけの良い土になる。

 

 だが、アンツィオ高校の戦車演習場のこの広さの泥沼の土を変えるとなると…。最低でも130キロの真昆布が必要になる。

 

 となれば、これはかなりの時間を浪費することになる。そんな事になれば…アンツィオからしてみれば良い的になるというわけだ。

 

 だが、繁子はあることを思いついていた…それは…?

 

 

「アルギン酸で履帯をコーティングすればええんやないかな?」

 

「アルギン酸でコーティングって…」

 

「真昆布を貼り付けるの? 履帯に?」

 

「なるほど! しげちゃん! あったまいい!」

 

「いや、普通に道を埋めたてた方が早いんじゃないかな?」

 

「っていうか、ここの道回避して進もうよ…」

 

「…せやな、しゃあない…アルギン酸の必要量をよくよく考えれば無理やね…。今回だけは道変えようか?」

 

「しげちゃん諦め早っ!」

 

 

 しかし、ここで繁子は他の部員のその言葉に今回は妥協する事を考え始めた。

 

 というよりも、アルギン酸でアンツィオ高校の演習場の土を農業に適した良い土にしたところで別になんのメリットも無い。それに加えてかなり時間を取られるだけである。

 

 それに、打開案として考えた履帯に昆布巻いていたらそれはそれでみっともないというのもある。というよりも車体が沈むので履帯に昆布を付けたところで意味はない。

 

 だが、ここで、立江、あることを思いつく、それは…。

 

 

「そういや、周りの木ってこれ使えるんだよね?」

 

「ん? そうでしょ?」

 

「なら、この木倒して、道作れば良いじゃない? 丁度、斧とか持って来てるし」

 

「まぁ、無難だけどそれしかないわね」

 

「いやー、流石ウチの参謀だよ! 頭切れてるわー」

 

「そうか! 流石立江やな! 作った道の中でならアルギン酸もそんな大量に使わんでもええしな!」

 

「いや、だから回避して進めば…」

 

「私達に回避して進むって選択肢はない」

 

「何故ェ!?」

 

 

 その立江の断言に目を丸くするばかりの知波学園の先輩。

 

 年下ながら、確かにこの娘達は辻隊長が絶賛していた人材達である。しかしながら、何故こうも試合中なのに伐採を自然と行う事が出来るのか未だに疑問である。

 

 だが、同時にこうも思う。時御流だから仕方ないと。

 

 

「さー! やるでー! そーい!」

 

「あ! よいしょ!」

 

「そうですよっ! いやー、筋良いっすね! 先輩!」

 

「あ、そうかしら? あんましやったことなかったけど…中々嵌るわねこれ」

 

「でしょ? ダイエットにもなるんですよ?」

 

「わかった、三倍速で頑張るわ!」

 

「乗せるの上手いなー真沙子は…」

 

 

 そう言いながら持ってきた手斧を使いどんどんと木を伐採していく知波単学園一同。他校の木であるというのに御構い無しである。

 

 その映像を目の当たりにしていたダージリンとアッサムも知波単学園が取った行動に言葉を失うしかない。

 

 まさか、試合中に木を伐採しはじめるとは誰が想像出来ただろうか…!

 

 

「よーし、後は適当に木で道を作ってと」

 

「んで、真昆布で取れたアルギン酸を抽出したものを道に含ませていきます」

 

「そして、こうして馴染ませて…」

 

「フワフワの土になるドロードの出来上がりです!」

 

「この道で取れる土…後で持って帰ろう!」

 

「いいねー」

 

「試合中! 今! 試合中だから!」

 

 

 和んだような会話を繰り広げている繁子達にそう突っ込みを入れる先輩。

 

 農業用の土はこれで確保できた。後はアンツィオ高校に勝ち、この出来上がった良質の土を持って帰るだけである。

 

 機動力を奪いにきたアンツィオ高校の策略は確かに見事であった。

 

 だが、このようにまさか、仕掛けた罠の泥沼の一部が繁子達のアルギン酸によって農業に適した良質の土になるとは思ってもいなかっただろう。

 

 

「さて! 前進や! 全軍! 目標アンツィオ高校やで!」

 

「アイアイサー!」

 

「…本当に道作っちゃったよこの娘達」

 

 

 泥沼地を開拓した繁子達は改めて戦車に乗り込み進軍を開始しはじめる。

 

 目標はアンツィオの戦車群、農業に適したサラサラの土に泥沼地を変えた今なら、機動性を失う事はないだろう。

 

 しかしながら、道を変えれば早い話が済んだのであるがそれはこの際置いておくことにしよう。

 

 一方、アンツィオ高校のアンチョビはと言うと?

 

 

「…しめしめ、奴等め、あの道を回避してくるに違いない。泥沼地を抜けて来たとしても私達の分隊が待ち構えているからな…! 機動性を割いた今なら、たとえ知波単学園と言えども流石に…」

 

 

 フラッグ車の中で、今頃、泥道に困惑しているだろう繁子達を想像し笑みを浮かべていた。

 

 策を考え、数日前からこのアンツィオ高校の戦車演習場の立地を変えて知波単学園を待ち構えた。

 

 流石の時御流とはいえどあの沼道を抜けて本来の力を出す事は困難だろう。

 

 

「ん…? ここで偵察隊からの通信か? なんだ? どうした?」

 

 

 とその時であった。フラッグ車であるセベモンテに乗るアンチョビは通信が入って来たことに首を傾げる。

 

 通信は試合が始まってからすぐに送り出した偵察用の戦車隊からだ。

 

 アンチョビは首を傾げたままその通信に対して冷静に応答するように呼び掛ける。

 

 すると、通信先の偵察隊員から慌てたような声でこんな通信が舞い込んで来た。

 

 

『…ど、ドゥーチェ! 大変です! 奴等、道を作って来ました!? 機動性そのままにまっすぐ分隊に突撃して来ますぅ!?』

 

「な、なんだとぉー!?」

 

 

 その言葉を聞いたアンチョビは仰天するしかなかった。

 

 土の知識を多少なりと勉強し、固まるとカチカチになり、戦車の重しになるような土で構成した泥沼地。

 

 ヴァイキング水産と知波単学園との試合を見た物をヒントにアンチョビが考えついたそれを見事なまでに繁子達がぶち壊して来た。

 

 これには彼女も目をまん丸くするしかない。

 

 

「…まさかそんな事が…、あんな泥道回避するとばかり…」

 

『ど、どうしましょう! ドゥーチェ!』

 

「ば、馬鹿者! 慌てるな! 私がそちらに合流するまでなんとか持ち堪えろっ!?」

 

『そ、そんな無茶なぁ…』

 

「ええい! 偵察隊以外の全車輌! 分隊の援護に行くぞー! 続けー!」

 

 

 すぐさま、分隊のピンチを察してそう指示を飛ばすアンチョビ。

 

 まさか、道を作ってくるなんて事は予想だにしていなかった。よくよく考えればさっきから妙に木が倒れるような音が聞こえてくるとアンチョビは感じたが演習場の木を伐採するとは露とも考えていなかったのだろう。

 

 そして、図らずも繁子達が取ったこの行動がアンツィオ高校の本隊を動かす事に繋がった。

 

 

「さて、本戦はこっからや!」

 

 

 アンツィオ高校の策を打ち破り繁子達がイタリア戦車に牙を剥く!

 

 勝つのは知波単学園かアンツィオ高校か!

 

 続きは、次回! 鉄腕&パンツァーで!

 


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