ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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今回は平行して書いていた本編になります


時御流戦車道始動(二年生)編
アンツィオの奇策


 

 アンツィオ高校、戦車演習場。

 

 アンチョビが仕掛けた罠に対し、繁子達は真昆布から採れるアルギン酸で対抗し、現在、アンツィオ高校の分隊に向けて進撃を繰り広げていた。

 

 アンツィオの分隊はその繁子の追撃を振り切ろうと必死の逃走を試みていたが…。

 

 

「機動力と小回りが利くケホとホニの挟撃か…」

 

「あれは効くね…、現にアンツィオ高校の分隊が更に分散しつつあるし」

 

「あぁ、しかもそこにホリ、四式の狙い撃ちだ」

 

 

 そう話しながら試合を繰り広げる繁子達の戦法や戦い方を分析する姉妹。

 

 以前に増して組織された知波単学園に正直、度肝を抜かれた。時御流だけの連携では無い、各個人での状況判断、そして、何よりも立ち塞がる障害を超えてくる自力。

 

 試合を見ていて、アルギン酸を持ち出すなんて事は彼女達にも予想だにしない事だった。

 

 これが時御流。

 

 初めて繁子の戦車道を目の当たりにした姉妹の妹はかつて見た城志摩 繁子という人物に対する尊敬の眼差しが一層強くなった。

 

 

「強いね、しげちゃん」

 

「みほ、来年、勝つ自信はあるか? アレに」

 

「正直な話。穴さえ見つければと思ってたけど、そんな穴さえすぐ修復してきそうだし…」

 

「まぁ、そうなるな」

 

 

 その言葉に納得したように頷く姉。

 

 確かに、彼女達が使う流派が『隙を生じぬ二段構え』だったとすれば、繁子達の使う流派。時御流は言わば、

 

『隙を突かれようが五段備え』

 

 なのである。下手に穴を突いた策を講じたところでその策を上回る打開策を打ち出してくる。

 

 

「黒森峰の電撃戦なら、向こうが策を講じる前に潰せそうな気もするけれど…」

 

「それは去年もやったさ、けど、その結果、追撃の最中にカモフラージュした知波単学園から不意打ちを喰らい戦車を失った挙句、足留めをやられてね」

 

「…しかも、足留めをやられたせいで試合の序盤に分かれていた分隊に本隊が合流して待ち構えられた…」

 

「そうね、…しかも、今回の試合を見る限り、来年はウチの戦術に対抗してくるだろうしね」

 

「気を引き締めないとやられちゃうね」

 

 

 妹のみほは試合を眺めながら姉のまほにそう告げる。

 

 確かにみほの言う通り、この知波単学園の試合の運びを見る限り来年の戦車道全国大会に対して危機感をまほは感じる。

 

 

(みほを連れてきて正解だったな。確かにこの試合を見る限りしげちゃん達はまた一つ強くなってる)

 

 

 アンツィオとの試合は中盤、だがまほが見る限りでは、少なくとも以前に比べ格段に知波単学園の戦車の動きが連携が取れたそれに変わってきている。

 

 アンツィオの分隊が防戦一方、このままでは全滅するのも時間の問題だ。

 

 アンツィオの分隊を失えば、この戦力がアンチョビ達の前にそのまま立ち塞がる訳だ。

 

 

「これはマズイぞ、非常にマズイ」

 

 

 その事を一番理解していたのは隊長であるアンチョビである。

 

 戦力差も考えれば、アンツィオが勝つにはこの分隊を叩かれればほぼ絶望的だ。

 

 アンツィオがしようとした機動力での撹乱戦術も、敵の機動力を落とすために敷いた泥道を軽々と開拓して越えてくるあたり知波単学園の機動力はおそらく衰えてはおらず策は破綻したと言っていい。

 

 

「向こうにはホリ、四式、チヌが居たな…。ウチの戦車じゃ歯が立たないどころの話じゃないぞ」

 

 

 そう言ってアンチョビは深刻な表情を浮かべる。

 

 戦車の火力を考えれば向こうが上。だが、打開策はいろいろと考えてはいた。しかし、これらは全て向こうの機動力を割いた前提での策ばかりだ。

 

 カモフラージュの戦術、もしくは奇策は時御流の十八番。

 

 その事は十分、把握していたつもりだったがまさかここまでやるとは思いもしなかった。

 

 

「ドゥーチェ、どうします?」

 

「………………………」

 

 

 アンチョビは考えていた。

 

 仲間を切り捨て、体制を立て直す策を出すか、援軍として合流し繁子達と対峙する道を取るべきか。

 

 どちらにしろ、出鼻を挫かれた今の時点で負けが濃厚だ。

 

 だが、ただで負けたとあってはアンツィオ高校らしい戦車道ができたとは言えない。

 

 

「…そうだ、あれなら」

 

「ん?」

 

「仲間と合流後、機動力を活かし撤退を行うぞ。目的地はまた指定する」

 

「何か閃いたんですか?」

 

 

 急なアンチョビの言葉に目を丸くするアンツィオ高校の女生徒。

 

 この状況、策が果たして成功するかと言われればおそらくは限りなく厳しい成功率だ。しかし、この手なら一泡吹かせる事もできる。

 

 アンチョビは繁子のように悪戯めいた笑みを浮かべると静かにこう告げた。

 

 

「あぁ…、いい策、私達らしい策さ」

 

 

 アンツィオ高校隊長。アンチョビ。

 

 彼女は中学校の時にアンツィオ高校から推薦で呼ばれた戦車道のスペシャリストだ。どんな状況であってもその事実は変わらない。

 

 実力は備わっている。窮地ならば尚更燃えるのが彼女だ。

 

 

 一方その頃、

 

 泥の道をアルギン酸で切り抜け。アンツィオ高校の分隊に勢いよく攻勢を仕掛けた繁子達はというと追撃戦を行なっていた。

 

 アンツィオ分隊からの多少なりの抵抗があるものの、知波単学園とアンツィオ高校との戦車の質は歴然としている。

 

 

「追い込むんなら…右やな」

 

「了ー解!」

 

「くっそー! また退路を断たれた!」

 

「四番隊被弾! …ごめんなさい!」

 

「今はともかく退くしかない! 本隊に合流しないと物量で潰される!」

 

「ひぃ!? ご勘弁をー!」

 

 

 右へ左へ、揺さぶりを掛けながら逃走するアンツィオ高校のL3。

 

 小さな小回りを利かして、繁子達からの砲撃から逃れようと試みてはいるものの、まるで、扇動されるように次から次に戦車が削られていく。

 

 このままでは本隊に合流する前に力つきる事は明白であった。

 

 3輌は少なくても交戦して既に今の段階で削られている。

 

 そんな時だった。アンツィオの分隊を率いていた分隊長の戦車にアンチョビから通信が入る。

 

 

『分隊長、聞こえるか?』

 

「ど、ドゥーチェですか!? …このままじゃ分隊が…」

 

『わかってる。今から指定のエリアを送るからその位置まで奴らを引きつけろ』

 

「!? …な、何か策が…」

 

『ちょっとした嫌がらせだ! いいから向かえ!』

 

「はいっ!?」

 

 

 そう言って、元気よく返事を返す分隊長。

 

 まだ負けてはいない。アンチョビの声を聞いた分隊長はそう感じた。何かしらの打開策を自分達の隊長は考えついている。

 

 分隊長はその事を確信したのか、通信を通じで全体にアンチョビが指定したエリアを伝達した。

 

 そして、その異変はすぐに…。

 

 

(…ん? …動きがなんか変わったか?)

 

 

 繁子が勘付いた。

 

 今までの逃走や撤退の動きとは異なるそれに繁子は顔を顰める。なんとも言い難い違和感のようなものを感じた。

 

 

「立江、なんかおかしゅうない?」

 

「…ん、しげちゃんもそう思う?」

 

「さっきと動きがねぇ…」

 

「私もそう思った。どうする? 追撃戦」

 

「いや、ここで叩いとかな面倒やからな続行はする…。けど…」

 

「警戒は必要ね、何してくるかわかったもんじゃないから仕方ないね」

 

 

 そう言いながら互いにインカムでやり取りをする四式に乗る繁子とホリに乗る立江。

 

 異変にはどうやら立江も気がついているようであった。動きがやたらと不自然になってきている。

 

 アンツィオ高校のホームグラウンドであるこの演習場。確かにこの場所の地理は自分達よりもアンチョビ達の方が知り尽くしている。

 

 そしてその異変はすぐに形となって繁子達の前に立ち塞がる事になった。

 

 浅い高さの川が流れる橋まで追撃し、その橋に一列に並んで差し掛かるその時だった。

 

 繁子は目を見開いて声を上げる。

 

 

「…っ!? 不味い…! 全車停車ぁ!」

 

「え!」

 

「何?…ど、どうしたの」

 

 

 繁子の掛け声に反応し、声を上げる知波単学園の女生徒達。

 

 しかし、その時は既に遅かった。

 

 浅い高さの川に掛かる橋に乗っていたホニIIIの足場が一気に崩れたのだ。

 

 これはやられたと繁子は痛感した。

 

 橋から落ちたホニは横転。さらに橋は渡れなくなり、向こう岸からアンツィオの戦車が主砲を向けてこちらに砲撃を撃ち込んでくる。

 

 すぐさま後退する知波単学園の全車。

 

 素直に繁子はやられたと思った。そう、あの橋…。アンツィオのL3は難なく通過し自分達の追撃を振り切る事が出来た。

 

 あの橋に差し掛かる直前になって繁子は気がついたのだ。その橋の作りを。

 

 あまりにも、橋にしては木板が不自然なものが多かった。そこから長年、橋を作ったりしたこともある繁子の推測からすると。

 

 

「やられたっ! 重量か…」

 

「しげちゃん! ホニがっ!」

 

「わかってる! もうこの橋は使えへん。回り道するでひとまず迂回や! ここにおったら良い的になってまう!」

 

「わかった!」

 

 

 橋がL3の重量でしか渡れない仕様になっている。

 

 つまり、L3の戦車以外の重量のホニ、四式、チヌ、ホリ、四式では鼻からこの橋は渡れないように細工してあったのだ。

 

 もし、あれがホニでなくフラッグ車である四式であったなら…。

 

 その時点で勝負が決していた。L3という軽戦車を活かした見事な戦術。

 

 

「アンチョビ…やりおるな…」

 

「本隊は橋の向こう側ね」

 

「こちらに橋の向こう側から砲撃を仕掛けてくるのを見るとそうやろな」

 

 

 繁子はすぐさま迂回ルートで戦車を走らせながらホリに乗る立江と話をする。

 

 こちらは今回、待ち構えるのではなく仕掛ける側。策は退いて待ち構えているアンチョビ達の方が敷いてくるに違いない。

 

 では、どうするのか? ホニを1輌失った時点で攻め方をテコ入れしておかなければならない。

 

 

「んー…だったら、あれ使ってみるか」

 

「…? アレって?」

 

「それはね」

 

 

 そう言って、繁子と立江の話を聞いていた真沙子はゴニョゴニョと同じホリに乗る立江に耳打ちをしはじめる。

 

 そして、真沙子の話を聞いていた立江は笑みを浮かべ静かにこう呟いた。

 

 

「良いわね、それ…」

 

「でしょ? これなら」

 

「ん? なんや? なんの話なん?」

 

 

 二人のコソコソ話に首を傾げる繁子。

 

 何かしら思いついたらしいが、繁子にはイマイチ理解出来ない。立江はにこやかな笑みを浮かべ、ホリから繁子にこう告げた。

 

 

「しげちゃん、とりあえず今回は私らに任せてくんない?」

 

「え? ま、まぁ、なんか考えがあるなら別にかまへんけど…何する気や?」

 

「それは見てのお楽しみー」

 

 

 作戦を互いに共有した真沙子と立江は繁子にそう告げると新たに本隊から分隊としてホニを2輌貸し出してもらうことにした。

 

 ホリ1輌、ホニ2輌。

 

 果たして、立江と真沙子はこの戦車を使って一体何をするつもりなのか?

 

 

 それは次回! 鉄腕&パンツァーで!

 

 


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