ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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まず木から作ります

 

 さて、なにやら策ありと本隊である繁子達と別れた分隊の立江と真沙子の二人。

 

 その二人は、戦車演習場を走りながら、その思いついた秘策について改めて話し合いを行なっている最中であった。

 

 橋を落とされ、ホニを1輌失った現在の状況を打開する策とはいかなるものか?

 

 真沙子の話に耳を傾けた立江はこうしてホリ車で移動している最中、発案者の松岡真沙子にこう問いかけた。

 

 

「で、あんたが考えた策って奴は上手くいくの? 真沙子」

 

「こればっかはやってみないとわかんないわねー、ま、まずは準備準備」

 

「…何だか不安になって来たわ、私」

 

 

 そう言いながら、分隊として繁子達と別行動を取った山口立江と松岡真沙子の二人はアンツィオ高校の分隊が潜んでいるであろう向こう岸に別ルートで移動している。

 

 正直な話、分隊に別れた今の状況下、合流したアンツィオ高校に鉢合わせでもしようもんなら袋叩きにあう可能性が高い。

 

 そんなリスクを冒してまで真沙子に付き合う立江はその策について不安になるのも致し方ない事であった。

 

 

「地理的な意味でもウチらよりあっちさんが知り尽くしてるんじゃないの?」

 

「だろうなーとは思うけどね、多分リーダーがまた引きつけてくれてるなら隙はあるわよ」

 

 

 そう言いながら、ホリの車内にいた真沙子はごそごそとあるものを取り出し始める。

 

 取り出したのは長く丈夫なゴム。

 

 どうやら、今回の作戦ではこのゴムを使うようである。しかし、こんなゴムが一体どんな作戦に使えるというのだろうか?

 

 真沙子はそんな不安げな立江を他所に自信ありげな表情を浮かべていた。

 

 

「…それ上手くいくのかしら」

 

「大丈夫大丈夫、心配しなさんなアネェ」

 

「ゴムをねぇ…。んで? どうすんの?」

 

「あそこの木とか良いんじゃない?」

 

 

 真沙子は戦車から降りると丈夫な木をトントンと叩きながら立江に告げる。

 

 なかなか年季が入った丈夫そうな木だ。木の気持ちになればだいたい理解できる。この演習場の木は良質のものであるという事は二人の目から見ても明らかだった。

 

 大工歴数十年。山口立江と松岡真沙子の直感がそう告げている。良く加工するのに使用していたポプラの木と会話を交わした事がある二人だからこそできる芸当である。

 

 そう、今回の作戦。真沙子はあるものを作ろうと考えていたのである。

 

 

「スリングショットには持ってこいでしょ?」

 

 

 そう、それは巨大なスリングショットを作ろうとしていたのだ!

 

 スリングショットとは、Y字型の棹をはじめとする枠構造にゴム紐を張ってあり、弾とゴム紐を一緒につまんで引っ張り手を離すと、弾が飛んでいく仕組みの道具である

 

 玩具としての簡易なものはパチンコとも呼ばれる。

 

 スリングショットは、牽引されたゴム紐に蓄えられた弾性エネルギーの大部分を、弾の運動エネルギーに変換し発射する。

 

 今回、真沙子が作ろうと考えているのはスリングショットの大型のもの。

 

 つまり、攻城兵器を作ろうという訳なのである。

 

 

「…いや、でもさー。戦車相手にスリングショットって…」

 

「そこで、このシュールストレミングの出番って訳」

 

「あー…。もう私、何するかわかっちゃった」

 

「そういう事」

 

 

 引き攣る顔の立江に意味深な笑みを浮かべて頷く真沙子。

 

 そう、今回作ろうと考えているスリングショットは対戦車の為の兵器などではない。その用途の意図は別にあった。

 

 それから分隊は各自、真沙子の指示の元それぞれの作業を振り分けてスリングショットの製造に取り掛かり始める。

 

 奇しくも何故か戦車の中には木を伐採するには困らない道具が盛りだくさん。

 

 どこにしまってあったのか、どうやって持ち込んできたのか? 彼女達が使う流派は時御流である為、そこは皆さまのご想像にお任せしよう。

 

 そして、木を伐採し、巨大なスリングショットを製作する立江と真沙子達。

 

 残念ながら今回は戦車道の試合中である為、その過程はダイジェスト版になってしまうがご了承願いたい。もう一度だけ、『戦車道の試合中である為』ご了承頂きたい。

 

 さて、そんなこんなで、木をノコギリで切り倒し、パーツに変えて組み立てていく知波単学園の分隊員達と立江達。その手際は手慣れたものでまさに匠と言っても遜色はないだろう。

 

 果たして彼女達は本当にただの女子高生なのだろうか? 謎は深まるばかりである。

 

 そうして、製作過程を全て終え、木製巨大スリングショットに立派な車輪を付けたところで一通りの作業が完了すると、その出来栄えを確認するように接合箇所を軽く金槌で叩いていく。

 

 その出来栄えを一通り確認したところで「フゥ」と一呼吸入れて立江は汗を拭った。

 

 

「ま、こんなもんでしょ?」

 

「いやー、やっぱり本業は違うわね」

 

「まぁね? 納屋ならもっとやる気出るんだけどね」

 

 

 そう言いながら、頭に巻いたタオルを外し綺麗な髪を梳かすように左右に首を振る立江に完成した木製スリングショットを見上げ立江の肩を叩く真沙子。

 

 その出来栄えを見た分隊の者達もその匠じみた出来に目を輝かせ拍手を送りつつ、作業過程を終えてハイタッチを交わす者達もいた。

 

 どこの世界に戦車道の試合中に攻城兵器を作り上げる頭のおかしい連中がいるのか。

 

 いや、居るのだ。しかも、それが知波単学園では普通になっているあたりもはや手遅れなレベルだろう。

 

 

「そんじゃ、後はこいつを紐かなんかでホリに引っさげて、引っ張って行けばいいわね」

 

「とりあえず敵の場所はわかってるのかしら?」

 

「さっきの橋が崩れた場所でまだ交戦中だってさ、しげちゃんから連絡あった」

 

「あれから結構時間も経ってるし…。本隊もそこで合流して交戦に加わってるわよね? 流れ的に」

 

「あ、なら、今なら横槍いけんじゃない? これ?」

 

「名案じゃん」

 

 

 そう言いながら、真沙子は立江の言葉を聞いて悪戯めいた笑みを浮かべていた。そう、繁子はあの場所で退くどころか、今の今まで敵を釘付けにしてくれていたのだ。

 

 あの状況下では、ホニが目の前で橋から落とされたトラップに動揺した味方を立て直す為に一度退くのが定石だし、回り道して対岸に向かえば良い。

 

 現に繁子はその作戦で行くつもりであった。

 

 しかし、迂回策を取ろうとした繁子は真沙子の策に乗る事にした。

 

 よって、アンツィオの分隊が居る対岸に渡る事なく、分隊に別れた後にまたあの場所に引き返し、アンツィオ高校を釘付けにする為に局地戦に持ち込んだ訳である。

 

 幸運だったのはアンツィオの分隊があの橋が落ちた対岸にて、アンチョビのいる本隊と合流する段取りをつけていてくれていたところだろう。

 

 引き返して、本隊と合流する時間の間、再びその場所で繁子は分隊と遭遇し、交戦する事が出来た。

 

 

「おらー! やったるで! かかってこんかーい!」

 

「げぇ!? も、戻ってきたよ! あの人達!?」

 

「橋が落ちてるのになんで戻って来んのよ! ドゥーチェは!?」

 

「あと数分程度でこちらに着くって!」

 

「くっそ、仕方ない! 応戦するわよ!」

 

 

 そう言いながら、再び現れた繁子率いる本隊に照準を合わせるように全体に通達するアンツィオ高校の分隊長。

 

 アンツィオ側としても回り道してもらう事を前提に考えていたし、この繁子の取った行動は想定外の出来事であり、予想しなかった事だ。

 

 しかし、予想だにしなかった事であっでもむしろ助かったと、この時、アンツィオ高校の分隊長は考えていた。

 

 近接な戦車戦になれば、軽戦車で編成されたアンツィオはかなり不利だ。その分、こうやって遠距離からの局地戦にしてくれる方が策を練りやすいしやり易い。

 

 撃破の確率も距離が離れている分、低くなる。アンチョビと合流するまでここにあの本隊を留めておく方が得策だとこの時、アンツィオ高校の分隊長は思っていた。

 

 だが、この判断は逆に言えば真沙子達には大チャンスである。

 

 向こうはおそらく、知波単学園本隊と交戦して分隊に別れている事が把握できていない。いや、できる状況にはなかった筈だ。

 

 

「敵との距離は…?」

 

「あと数キロ程度で射程に入るかも」

 

「それじゃその数メートル前でスリングショットを分離させるわ」

 

 

 カモフラージュした少数分隊に別れた今なら対岸に真沙子達がいる事は知られる事はない。

 

 ごく自然にカモフラージュで森林に溶け込み、森の間から獲物を狙う。これがすなわち猟師の基本中の基本、寒い北海道の地で学んだ事のある先人達の知恵である。

 

 熊を倒す為、寒い中であってもその基本を忘れては命取りになる。真沙子はマタギの人にそう習った事を思い出していた。

 

 

「マタギのおっちゃん! 見ててね! 私やるからね!」

 

「…今更だけど、真沙子と立江の本職ってなんなの?」

 

「漁師と、大工と…。えーと、板前でしょ?」

 

「女子高生なんだよね…っ?女子高生なんだよね…っ!?」

 

「普通の女子高生の口からは普通にマタギなんて言葉は出ないよ…」

 

 

 そう言いながら、北海道にいるであろう歴戦のマタギのおっちゃんに固い誓いを胸に秘めた真沙子の言葉に顔を痙攣らせる知波単学園の同級生達。

 

 確かに彼女達の異様な第一次産業と自然に生きる生き様にはもう馴れていたつもりだ。いや、つもりだった。

 

 残念ながら、時御流は奥が深いのである。

 

 今回、まだまだ彼女達には経験値が足りていない事をまざまざと思い知らされる事になってしまった。

 

 

「それじゃ行ってみよー! スリングショット用意!」

 

「よーし! 波動砲! 発射準備完了!」

 

「目標! 頭にドリル二本引っ付けたアンチョビ!」

 

「あのドリルならどこまで掘れるかなー。工事現場に一人は欲しいわよね」

 

「あれ髪型だからっ! オシャレな髪型にしてるだけだからやめたげてぇ!」

 

 

 そう言いながら、真剣に工事現場について語り出す立江にそう告げる知波単学園の同級生。

 

 時御流なら仕方ない。ドリルと聞けばだいたい工事現場になってしまうのが性である。

 

  それを実用化できるのかどうかを真剣に考えている立江の様子からその事は理解していただける筈。

 

 さて、後は分隊にアンチョビ率いる本隊が合流するのを待つばかりだ。

 

 その瞬間、この攻城兵器スリングショットの弾に選ばれた超絶強烈な人類の嗅覚を死滅させる化学兵器が牙を剥く事だろう。

 

 少なくとも立江は先日体験したとこからそう感じた。あれはもはや兵器である。直撃したらえらい事になる事請け合いだ。

 

 少なくとも、目標に近い半径数百メートルが阿鼻叫喚と化す事になるだろう。

 

 現に知波単学園の車庫はそうなった。しばらく東浜さんがトラウマになって涙目になりながらお風呂に入っていたのは記憶に新しい出来事である。

 

 

「さぁ、さぁ、さぁ! あの場が地獄と化すのが楽しみね!」

 

「来い! アンツィオ! そして死ぬがよい!」

 

「…ほんと二人っていい性格してるよね〜」

 

「いつにもなく楽しそうでなにより」

 

 

 そう言いながら、邪悪な笑みを浮かべている立江と真沙子を見て若干引き気味の知波単学園分隊員一同。

 

 死にはしないが壊滅的なダメージを受ける事は不可避だろう。知波単学園分隊員一同はこの時だけは、年頃の同じ女子高生としてアンツィオ高校の可憐な女子高生達の幸運を祈るばかりであった。

 

 少なくともこれから起きることが予想できる彼女達にとっては大量のクリーニング代という嫌がらせ的なダメージをアンツィオ高校が受ける羽目になるだろうと予想ができた。

 

 

 さて、果たして、山口立江と松岡真沙子が取った対攻城兵器スリングショットの破壊力はいかに!

 

 その続きは…!

 

 次回の鉄腕&パンツァーで!

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