ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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楽器よりも大切なモノがある

 

 こちらはアンツィオ高校本隊。

 

 分隊の救援に向かったアンチョビ率いるアンツィオ高校の戦車隊である。

 

 現在、交戦中の報を聞いたアンチョビは戦車を走らせ、その視界に繁子達と交戦している分隊の姿を肉眼で確認していた。

 

 状況的にはまだ、撃破された車輌は見当たらない。どうやら間に合ったようである。

 

 

「よし! 間に合ったな! 我らも合流し加勢するぞ!」

 

「ドゥーチェに続けー!」

 

 

  アンチョビの登場により、士気が上昇するアンツィオ高校。

 

 繁子達と交戦中の分隊としてもその光景は心強く、ここからアンツィオ高校の反撃に転ずるタイミングだと誰もがそう思った。

 

 そう、観客もアンツィオ高校もこの時はそう思っていたのだ。この時までは。

 

 

「スリング砲! 発射!」

 

「撃てぇー!」

 

 

 その瞬間、アンツィオ高校に向けて放たれた食料兵器。

 

 マスクをして完全に防臭対策をした知波単学園の女生徒達が作り上げた攻城兵器スリングショット。

 

 悪臭を放つそれは勢いよくスリングショットから放たれると真っ直ぐにアンツィオ高校のフラッグ車輌に直撃した。

 

 

「よーし! 目標命中!」

 

「な、なんだっ!? なんだ今の…って…ゔぐっ…!? 臭いッ…!?」

 

「次弾!装填準備!」

 

「了解しました!」

 

 

  そう言って、スリングショットにシュールストレミングを再び装填しはじめる知波単学園の分隊員。

 

  シュールストレミング弾が直撃したアンツィオ高校はと言うと、フラッグ車輌から放たれる悪臭にアンチョビをはじめとした女生徒達の表情がだんだんと険しくなっていっていた。

 

 

「なんだこの匂い…っ! ゔ…っ! 酷い匂いだ…っ」

 

「吐きそうっ!? …臭い!」

 

「ケホケホ…! ドゥーチェ! 換気の許可を…」

 

「戦車だぞ! 換気なんて限られてる!」

 

 

  そして、フラッグ車輌に放たれたシュールストレミングに続けとばかりに、次から次へとスリングショットからアンツィオ高校の車輌に向けてセットされたシュールストレミングが発射された。

 

 その匂いは言わずもがな強烈の一言。

 

 そして、アンチョビが言う通り、匂いを分散させるための換気なんて手段は戦車に乗る以上、限られている。

 

 その機を見た立江と真沙子は今だと言わんばかりに奇襲に転ずる。

 

 

「さぁ! 残りはついてきなさい! 目標! アンツィオ高校フラッグ車輌!」

 

「よっし! 待ちに待った突撃だー!」

 

「知波単学園お家芸の力! 見せてやる!」

 

 

 そして、いきなりのシュールストレミング飛来に動揺しているアンツィオ高校に向けて、突撃を敢行する立江達。

 

 立江達の乗るホリに追従するホニは左右から砲撃を放ちつつ、アンツィオ高校へと襲いかかる!

 

 いきなりの奇襲と酷い匂いに動揺するアンツィオ高校。アンチョビと言えどもこの状況をいきなり立て直すことは非常に困難だ。

 

 

「…っ!? 隊長!」

 

「くっ…! ひとまず応戦しろ! 立て直しはそれからだ!」

 

 

 応戦するという選択肢しか取れない。

 

 合流したばかりのこの時に仕掛けられたことが一番やり辛い状況であった。連携を取り直す事はまずできない。

 

 それならば応戦しつつ、陣形と立て直しを図ることが最良の判断だ。少なくともアンチョビはそう思っていた。

 

 そう、それは間違いない判断だ。それが、『普通の相手なら』の話だが…。

 

 このアンチョビが相手にする戦車隊の指揮を執るのは戦車強襲競技でも、少数で撹乱し敵を倒すことに長けたスペシャリスト。

 

 プラウダ高校、『ブリザードのノンナ』と並び評される狂犬。

 

 戦車強襲競技、および、戦車道に通ずるものならその名を聞けば震え上がる知波単学園現副隊長。

 

『ハリケーンの立江』である。

 

 

「ホニ、フラッグ車周辺の左右翼の敵に砲撃! その後、煙幕を放ち、分隊長の首を取りに行きなさい! 私が許可する!」

 

「了解! 副隊長はどうすんの?」

 

「決まってんでしょ、本丸狙い」

 

「あいよ、ご武運を!」

 

 

 そう言って、ホニに乗る知波単学園の生徒達は別れて立江の指示通りにL3を次々に撃破していく。

 

 至近距離からの砲撃に加え、質量差でもホニの方が上、さらに、練度、性能さえその差はどうやってもL3とホニでは埋まらない。

 

 だが、機動性ならば、軽戦車であるL3が上な筈だ。油断は決して出来ない。

 

 立江は気を引き締める。機動性を持つ戦車が主戦で多量に使われている今、ここで取り逃せば、後々、面倒な戦いを強いられる可能性だってでてくるのだ。

 

 立江は仕留めるつもりで、ホニ2輌へと巧みに指示飛ばし、L3を確実に削ってゆく。

 

 そして、連携攻撃を受けた分隊と本隊のアンツィオの軽戦車L3部隊はそんな、知波単学園が扱うホニの勢いに任せた攻勢に後手後手に回る。

 

 

「分隊長! これ以上は…!」

 

「後方の向こう岸からは更に火力を増した砲撃が来てます! これ以上は退けません!」

 

「クソォ! ドゥーチェと合流したというのに! これから…」

 

 

 巻き返しを図るつもりだったと言いかけて、分隊長の乗るカルロ・アルマートの車体はホニの放った主砲により沈黙してしまった。

 

 油断していたわけではない、知波単学園を侮っていたわけなど決して無い。

 

 だが、手際と詰み方が知波単学園は見事であった。

 

 以前にも増してその組織力は強力になっている。

 

 何よりも隊長が遠くにいながらも独自の動きをとりつつ、二輌のホニに乗る車長が状況に合わせ、周りと連携を擦り合わせる戦車の動きを見せていた。

 

 この場に城志摩 繁子という隊長が不在であったとしても、隊員達は独自で互いに連携を取り合い、ホニを駆る。その姿を見ても戦車道全国大会とは全く別のチームだと言わざる得ない。

 

 観客席からは歓声が上がる。

 

 たった3輌の戦車がアンツィオのL3を蹂躙する。山口立江の大立ち回り、まさにそれは…。

 

 

「台風のようね、また強くなってる」

 

「…お姉ちゃん、あの戦法…」

 

「あれが、しげちゃんの相棒の山口立江だ。よく覚えておいた方がいいぞ、みほ」

 

 

 そう言って、観客席から山口立江の大立ち回りを見守る西住姉妹。

 

 山口立江、時御流の参謀と高い指揮力を兼ね備えた城志摩 繁子の右腕。どんな時も仲間と共に繁子を支えてきた存在。

 

 確かに強いと、素直に西住流、西住みほはそう感じた。型に嵌った戦い方ではない、本能の赴くままに敵戦車を屠る様は圧巻の一言に尽きる。

 

 

(…まるで、そう、狼のような戦い方。あの戦い方からは隠しきれない獰猛さを感じる)

 

 

 西住みほはその率直な感想を内心で呟く。

 

 プラウダと聖グロリアーナの試合は観ていたが、西住みほはこのような戦車道、戦い方を見たことがなかった。

 

 これが、原点が戦車強襲競技として磨かれ鍛え上げられた城志摩繁子達の戦車道。

 

 時御流という流派である。

 

 餓狼という言葉がこの時の山口立江とその周りにいる戦車隊を表現するには適したものだった。

 

 

「付け焼き刃の連携なんかじゃない、研ぎ澄まし、鍛錬の中で磨いたそれは一つになり体現される。圧倒的な集団的戦法術。…驚いたわ…たった3輌の戦車の立ち回りを見ただけでわかる。以前の知波単学園とは全く別物」

 

 

 観戦していたダージリンは紅茶の持つ手が心と同調するかのように震えていた。

 

 東浜雪子、直伝の連携技。

 

 その連携は敵を寄せつかせず、まさに、台風の如き勢いを見せる。山口立江の大立ち回りはうっすらと東浜雪子の面影を感じさせられた。

 

 戦い方がまさに一つの生き物のように纏まっている。その証拠にアンツィオ高校の分隊が手も足も出ていない。

 

 ホニとL3という戦車の性能差は確かにあるだろう。だが、そうであったとしても山口立江の指示のみでなく、独自的で独創的な知波単学園の分隊の連携はどの学園や高校でも見受けられないような異質なものであった。

 

 ホニを引き連れた立江はいよいよ大詰めに取り掛かる。

 

 大工でも同じ、建物を建てる時は仕上げるまでが一番大切だ。大工歴の長い職人。山口立江は最後まで手を抜かない。

 

 

「アンチョビ! 覚悟ッ!」

 

「クソ! 迎え撃てぇ!」

 

 

 後がなくなり、これ以上、退く事はアンチョビにはもうできなかった。

 

 後方には浅谷を越えた向こう側から構えられた山城に乗る繁子達の主砲がこちらに向いている。今は遠距離とはいえど、後退すれば向こう側にいる戦車群の主砲の間合いに入る事は間違いないだろう。

 

 だからこそ、彼女は敢えて迎え撃つ策を打ってでた。

 

 立江を迎え撃とうとするアンチョビのセベモンテ、そして、それに立ち向かう立江のホリ。

 

 そして、ここで立江の大立ち回りはクライマックスを迎える。それは、一瞬の出来事であった。

 

 

「アンチョビ! あんたに足りないものはね!」

 

 

 そう告げる立江は戦車から合図の信号弾を打ち上げる。

 

 策を用いるは今、未完成ながら東浜雪子から学んだ連携技は魅せた。ならば、次は時御流の真骨頂を見せる時である!

 

 そう、山口立江の何よりも大切にしているものがある。それは、アンチョビが持っていないもの、その名は。

 

 

寸 胴 だ !

 

 

 その瞬間、森に設置してある攻城用スリングショットから放たれたアルミ製の寸胴鍋がアンチョビのセベモンテへと飛来する。

 

 そして、立江はそれを見るとニヤリと笑みを浮かべた。

 

 寸胴鍋、その中にあるものは大量のシュールストレミング。そして、そのセベモンテに鍋が直撃した瞬間、アンチョビの表情が曇った。

 

 

「うぐっ…! 鼻がぁ!」

 

「今よ! 撃てぇ!」

 

「あいよ!」

 

 

 一瞬の隙を立江は見逃さない。

 

 寸胴鍋に込められたシュールストレミングの強烈な匂いに怯んだアンチョビは構えた主砲発射の指示を飛ばすのが遅れる。

 

 主砲の指示の遅れは生死を分ける。戦車道においてそれは常々、立江達は明子、そして、東浜雪子から聞かされていた。

 

 よって、立江達が今回用いたこの策はアンチョビの指示を遅らせた事と更に士気を落とすという。見事に二つの要素を成した事になる。

 

 松岡真沙子発案。スリングショット策がここに成った。

 

 砲手の真沙子に指示を飛ばし、セベモンテに向けたホリの主砲を発射させる。

 

 ズドンッ! という轟音と共に放たれた弾頭はまっすぐにアンチョビが乗るセベモンテへと飛んでいく、そして…。

 

 

 その弾頭が吸い込まれるように着弾すると共に、セベモンテは数メートル後退し…。

 

 

 

『アンツィオ高校! フラッグ車! 行動不能! よって勝者…! 知波単学園!』

 

 

 

 白旗が上がった。

 

 その瞬間、勝敗のアナウンスが流れる。時御流。山口立江の寸胴鍋による最後の策がここに成った。

 

 シュールストレミングの強烈な匂いがアンツィオ高校戦車演習場にあちらこちらに広がる中。

 

 練習試合の勝利を収めたのは…。

 

 新たな戦車道を開拓した『寸胴鍋の魔術師』副隊長、山口立江と隊長、城志摩 繁子が率いる知波単学園だった。

 

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