ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
アンツィオ高校との試合を終えた繁子達。
蓋を開けてみれば、やはり、知波単学園の戦車道が猛威を奮い圧倒した試合内容にも見えた。
アンツィオ高校も繁子達に対して劣る戦力の中、策を模索し知波単学園を打倒すべく全力で挑みそれなりの力を知らしめてきた。
互いに全力で戦った今回の練習試合。新たな可能性を感じさせ、また、得るものも互いに多くなった実りのあった練習試合だったと言えるだろう。
しかし、残された課題は多い、連携も改善の余地が多々あり、ホニをあの橋で1輌交戦前に撃沈させられている。
「あの判断ミスは頂けんね…。これ東浜さんに絶対怒られるやつやで…」
「げきおこぷんぷん丸だよ、多分」
「そんな可愛いレベルなら良いんだけどね…。ま、まぁ、試合は見に来てないみたいだし? みんな口裏合わせでとりあえず交戦して1輌死んだって言っておきましょ」
「「「さ、賛成ー」」」
異議を唱える者は居なかった。
いや、皆が大方、把握していたのだ。そんな報告を挙げて東浜雪子を怒らせたらどうなるかを。
正直に話すより、時間をできるだけ先延ばしにしよう作戦というわけである。
ホニが1輌ロストしたことについて聞かれたら全員で、すっとぼける算段で話をつけることにした。
「まぁ、説明の際は…」
「リーダーよろしく」
「なんでやねんっ! 嫌やー! ウチも怒られとうないもん!」
「とりあえず勝ったんだよね? 私達」
「…これは勝ったと言って良いものか」
そう言いながら涙目になる繁子達を優しく見守る知波単学園生徒一同。
東浜雪子のしごきが怖いのが目に見えてわかるので繁子達の心情を察する事は容易いが、勝ったのに勝った気になれないというジレンマには苦笑いを浮かべるほかなかった。
さて、こうしてアンツィオ高校との練習試合も無事に済み、アンツィオも知波単学園も互いに浮き彫りになった課題を見つける事ができた。
正直なところ、課題がある時点で東浜からしてみれば甘ちゃんというレベルなのだろうが結果としては勝利をものにする事ができた。
新生、知波単学園の1勝目。
これには、浮き彫りになった課題よりも皆が自信をつけるのには大きな意味があった。
「さぁ、イタリアと言えば!」
「テルマエだよね! やっほー!」
「親睦も兼ねて温泉三昧やね!」
「ねー、アンちゃん? テルマエ入ってもいいかな? 良いかな!」
「…そ、その前にこの臭くなった戦車を洗浄するのが先かな?」
「「「あ!?」」」
そう言って、試合を終えて温泉に入ることを前提に話をしていた繁子達はアンチョビの言葉に固まる。
それはそうだろう、目の前にはシュールストレミング塗れになった戦車達がずらり。強烈な匂いを放ちながらボロボロになって佇んでいた。
これはひどい。それしか言葉が見つからない。
表情を曇らせる繁子達。
これは、洗浄にも手間がかかるし知波単学園、アンツィオ高校の生徒達全員で取りかからなくては終わらないだろう。
「誰よ、一体こんな風に酷いことをした奴は!」
「全く酷い奴らも居たもんだ! 私らなら絶対とっちめてやるのに!」
「いやいや…。あんたらやろ。シュールストレミングまみれにしたのは…」
「さっ…! 真沙子! さっさとこの戦車を綺麗にしましょう!」
「全くね! アネェ! 仕方ないなー。私らが協力してやるから感謝しなさいよね!」
そう言いながらシュールストレミングを取り除き、アンツィオの戦車を綺麗にしはじめる真沙子と立江。
そもそも、練習試合にも関わらずアンツィオ高校の戦車達をシュールストレミング塗れにしたのは紛れもなく立江達である。
そして、この言い草。
繁子は満面の笑みを浮かべ疲れた表情を見せるアンチョビに親指で立江達を示しながら爽やかにこう告げた。
「アンチョビ、こいつらホンマに一発殴ってええよ」
「…あははは、いや、大丈夫だよ。お気遣いありがとう。洗車を手伝ってくれるって言ってるし試合だったからね」
「でも…。あれ愛車やろ? ええの?」
「…んー、臭くなったのは頂けないが…。匂いは落とせそうだし問題は無いさ、戦車道の試合で起きた事だし気にもしてないよ」
「アンちゃん…。ほんと、ほんとに良い子だねっ…!」
「ちょっ…! 多代ちゃん! みんな見てるから!」
「女の子同士の友情…。泣かせるやないか」
「…リーダー! はい、これ!」
「うん、ありがと永瀬…。って、なんやのこれ?」
この流れから普通に永瀬から何事もなく手渡されたホースに目を丸くする繁子。
この場合、多分、ハンカチだと思うのだが何故か永瀬から手渡されたホースがしっくりきている。
抱き合う多代子とアンチョビを他所に困惑した表情を浮かべているそんな繁子に、永瀬は満面の笑みを浮かべてサムズアップをするとこう告げた。
「リーダー流し担当ね!」
「ウチもやるんかーい! まぁやるけども! てか、この流れぶった斬るみたいにホース渡すのはやめんかいっ!」
「「「あははははは」」」
自然と試合を終えた両校の生徒たちからは笑いが溢れる。
顔は煤まみれだったり、タンクジャケットはボロボロになったりと散々ではあるものの、その表情には明らかに充実感のようなものがあった。
確かに戦車はシュールストレミングまみれになってしまった。
だが、この知波単学園が加わり。この匂いも数時間の時間を費やせば。
「ゔぇ…あー、鼻がひん曲がりそう」
「そこにある除臭剤取ってー」
「はーい、これ?」
「そうそう、あんがとねー」
完全にとはいかないが、ある程度の匂いも落とすことが出来る。
アンツィオ高校と知波単学園の学生達が協力し合えば不可能な事など無い。そんな、戦車道を通して培われた絆が目に見えるようであった。
時御流とは絆を大切にする流派。
これは、島田流、西住流にもない時御流だけにある強みでもあり、強力な武器である。
さて、繁子達もアンチョビのセベモンテの清掃を済ませ、とりあえず綺麗になった車体を磨き上げて仕上げに入る。
「心を込めて磨きます」
「私の故郷、それは津軽海峡!」
「それでは聞いてください、津軽海峡雪げ…」
「何アホな事やっとんねん…」
「デデッデン♪デデデッデデン♪ だっけ?確か」
「アンちゃん、それ岬は岬だけど加賀岬だよ…」
そう言いながら、モップをマイク代わりにして何かをしはじめた立江達に突っ込む繁子と全く違う岬を想像し、多代子に突っ込みを入れられるアンチョビ。
清掃中に浮かれでもしたのだろうか? しかし、彼女達にとってみれば見慣れた光景である。
さて、それから数時間が経過し、一通りの清掃が終わった。
気がつけば、あんなに生臭かったセベモンテも綺麗になり、ほかのL3も新品のような光沢を放っていた。
しかし、繁子達はボロボロで泥まみれである。それは、アンチョビ達も同様であった。
「うへぇ…戦車は綺麗になったけど…」
「ウチらはボロボロやね」
「あーん! お風呂入りたーい! テルマエー!」
「と、とりあえず皆、風呂に入ろう…。これでは食事どころじゃないからな」
「「「賛成ー!」」」
そう言いながら、アンチョビの言葉に頷く、両校一同。
皆、女の子である為、やはり匂いやボロボロになったタンクジャケットを着続けるのはかなり抵抗がある。
年頃の女の子ならば当然だ。繁子達はすぐにアンツィオ高校自慢のテルマエへとアンチョビから案内してもらった。
「はやくはやくー!」
「永瀬ー! 走ると転ぶでー」
「うわ、ひっろー!」
「財政難ってほんとかな? お風呂綺麗じゃん」
「ふふん。イタリア人はお風呂と食事だけには力を惜しまないんだよ、多代ちゃん」
「…アンちゃん日本人だよね?」
「そんでもって、あんたら力を入れるとこ間違えてへんかな?」
そう言ってドヤ顔を見せてくるアンチョビに冷静に突っ込みを入れる繁子と多代子の二人。
さて、ここでアンツィオ高校が誇るテルマエを紹介するとしよう。
手の込んだ内装。綺麗に広がる綺麗な石の床。
更にかなり広い大浴場は皆が風呂に浸かるにはもってこいの広さである。ライオンのような石像からは綺麗な御湯が湯船に注がれ肌にも良さそうだ。
他にもサウナや薬草風呂、電気風呂にそして、夜景やアンツィオの芸術的な学園が一望できる露天風呂とその風呂の種類は様々。
職人が手を掛けて作り上げたテルマエ。アンツィオ高校自慢の風呂である。
「ほぁ…。でもドラム缶風呂は無いんだね」
「ドラム缶風呂は欲しかったなー」
「ドラム缶風呂が無いとかまだまだね」
「…このイタリア風な風呂にドラム缶が合うと思うのかお前達」
「今度、持ってきてあげようか?」
「持ち込む気か!? そうなんだな!? どんな頭してるんだお前ら!」
「ふぃ〜。いい湯だねー」
そんな会話を交わしながら外にある露天風呂の湯船に浸かる繁子とアンチョビ達。
これだけ手の込んだお風呂がたくさんあるというのにドラム缶風呂を要求する立江達にアンチョビも苦笑いを浮かべるしかない。
次はお風呂を作ろうと考えているかもしれない。いや、彼女達なら十分にあり得るだろう。
そんな時だ。露天風呂の扉が開き、繁子達が湯船に浸かっている露天風呂に足を踏み入れようとしている四人の影が…。
「わー、お姉ちゃん! ここ露天風呂あるみたいだよ!」
「さすがアンツィオだな、綺麗なテルマエだ」
「これがテルマエ。…ウチにもこれだけ立派なお風呂があれば良いのに」
「アンツィオに来たらいつもお風呂に入るわよね、ダージリン」
「あら? 淑女なら、お風呂が好きなのは当然じゃない♪ ね? 西住まほさん?」
「まぁ、訓練の疲れを癒す場だからな。風呂は綺麗で広い事は良い事に違いない」
湯気でその姿を確認する事は出来ないが、なんだか聞いたことある声と名前だなと繁子は首を傾げる。
そして、自然とワイワイと会話をしている声は繁子達に近づいていき、湯気が晴れると共に四人は繁子とアンチョビ、立江達の姿を確認すると目を丸くしていた。
「あら?」
「あ! しげちゃん!」
「しげちゃんもアンツィオのテルマエに入っていたのか。奇遇だな」
「んん?」
繁子はそこで声を掛けられ、振り返るとそこには黒森峰女学園の西住まほと西住みほ。そして、聖グロリアーナ女学院のダージリンにアッサムがタオルを巻いて立っていた。
その姿を見た立江は表情を曇らせて顔を引攣らせるという、わかりやすい反応を見せる。
だいたい、まほとミカらへんが関わると繁子が彼女達から取られかねない事を把握しているのだ。
右腕の自負がある立江からしてみれば面白い訳がないのである。
そして…なんと今回は。
「…ん? も、もしかしてみぽりんか?」
「ふふ♪ しげちゃん久しぶりだね! あ、隣入っても良いかな?」
「あ、ええよ、ええよ! ふぁー、こりゃまた大っきくなったなー。ウチ抜かれとるやん」
「あ! みほ! ズルいぞ! しげちゃんの隣を取るなんて!」
「えー、別に久しぶりなんだから良いでしょ? お願いお姉ちゃん!」
「うぐ…。そ、そうだな…今回だけだぞ?」
「やったー!」
「なんだか一気に騒がしくなったな…」
そう言ってアンチョビは入って来た西住姉妹とダージリン達に苦笑いを浮かべる。
いや、賑やかなのは構わないのだが、まさか、名門校の二校のツートップにこの場で鉢合わせするなんて思いもしなかった。
繁子も入れたらスリートップである。ここだけ見れば戦車道で敵無しの編成も組めそうだとアンチョビは素直にそう感じた。
「…立江さん、試合観ましたわ。見事ね、あの連携技」
「ん? あぁ、やっぱしあんたらも私らの試合見に来てたんだ」
「えぇ、要注意な学校だと考えてますからね。貴女達は来年の黒森峰と同等だとウチは考えてるわ」
そう言ってダージリンは湯船に浸かりながらにこやかな笑みを浮かべ立江にそう告げる。
試合運びも戦い方も見事であった。確かに以前の知波単学園とは違い連携や戦い方が更に上達している事は素直に賞賛に値した。
東浜雪子の指導の賜物。ダージリンは羨ましくも更に磨きが掛かった時御流が強敵になり得ると再認識させられたのである。
「そりゃ光栄なことで、来年はしげちゃんを日本一の大将にするつもりだからさ。ウチらも」
「私達とプラウダを倒して?」
「ウチとしてはできれば共倒れしてくれたら嬉しいんだけどね」
「ふふ♪ 兎にも角にも来年が楽しみですわ」
そう言って立江の言葉に笑みを浮かべるダージリン。
『ハリケーンの立江』。確かにプラウダにいるブリザードと同等かそれ以上の実力を持っている優秀な人材だ。
リーダーである繁子に対する思いも強く、仲間達もまた、リーダーである繁子を中心に纏まり結束し深い絆で結ばれている。
そして、ダージリンとの話を終えた立江は繁子の隣で居座るまほとみほに近寄るとこう告げた。
「てか! あんたら毎回毎回! ウチのリーダーに引っ付きすぎだってーの!」
「まぁまぁ、…みぽりんは久々の再会やし二人とも幼馴染みやから許したってや立江」
「ぐ、ぐぬぬ…っ」
「流石、しげちゃんだ。これも裸同士の付き合いって奴だぞ、立江」
「なら隣は私でしょ! まほりんズルイじゃん!」
「ならじゃんけんして決めよう」
「よーし! 言ったわね! 絶対負けないんだから!」
「アンちゃん背中流したげるー」
「本当か? なら多代ちゃんにお願いしようかな」
そう言って、繁子の隣を巡り立江とまほの間でじゃんけんが勃発する中、多代子は風呂から上がりアンチョビの背中を洗ってあげる。
女の子らしい綺麗な肌が目につくが、湯気が多く大事なところは映らない仕様となっている。
もしかしたら、ブルーレイ版なら無くなるかもしれない。しかし、無くなるとは断言できないのもまた事実である。
「でねー、まぁ、ウチの紅茶なんだけど、まず土にはアルギン酸を含んだ柔らかい土を使っててね」
「ほほう、そこらへんもうちょっと詳しく教えて貰えるかしら?」
「アッサムさん変わった髪型だよねー? どうやるの?」
「これはね、ちょっと特殊なやり方で整えてて…」
戦車の試合を無事に終え、他校の生徒と親交を深める繁子達。
ダージリンに美味しい紅茶を作るための土作りを教える真沙子にアッサムの髪型について質問する永瀬。
普段話さないこともこの風呂場でなら互いに話ができる。普段とは異なり開放的な気分になっているからかもしれない。
アンツィオの立派なテルマエを堪能しつつ、普段の疲れや練習試合でボロボロになった身体を綺麗にし癒しの為の時間。
「永瀬、またあんた胸大っきくなってんじゃーん」
「ぴゃぁあ!? ちょっ!? アネェ!」
「でねー、お姉ちゃんが最近、私に服を買ってくれてね!」
「ついにオシャレに目覚めたんか、まほりん」
「姉妹で買い物も悪くないなって思ってね…。ぴぃ…!?」
「うへへ〜、まほりんもまた大っきくなったんじゃない?」
そう言って不意をついてまほの豊満なそれを持ち上げる立江。
繁子の目の前でたゆんとそれが揺れる。その光景を目の当たりにした繁子の目は死んでいた。
そして、にこやかな笑みを浮かべるとポキリと拳を鳴らし立江にこう告げる。
「立江ー? ウチの目の前で胸を揺らすなんてええ度胸しとるなー。オラ! あんたも胸出さんかい! もいだるわ!」
「ちょ! しげちゃん…!そんな強引に…! やん…!?」
「なー、多代ちゃんあれ止めなくて良いのか?」
「あー大丈夫、大丈夫、いつもの事だから。あの娘ら女子高生だけど中身はおっさんみたいなところあるし」
「…それ、多代ちゃんもだよね?」
「……………」
「まさかの図星なのか!?」
そう言って、視線を逸らす多代子にアンチョビは目を丸くして突っ込みを入れる。
確かにおっさん臭いところはあると自負はしていた。しかし、認めたくないものである華の女子高生がおっさん臭いなど。
しかし、歌も歌え、農業もでき、楽器も弾けて、戦車も自作でき、第1次産業を網羅し尽くした女子高生を女子高生と呼べるのだろうか?
時御流だから仕方ない。時御流を学んだ女子高生の悲しい末路がおっさん臭い女子高生なのである。
テルマエで疲れを癒す繁子達。
アンツィオ高校との交流を深め、この練習試合を経て、繁子達はさらなる戦車道の飛躍が期待できるだろう。
この続きは…。
次回! 鉄腕&パンツァーで!