ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

68 / 87
暫しの休暇

 

 

 アンツィオ高校との試合から一ヶ月の期間が過ぎた。

 

 新生、知波単学園の名はあの練習試合から知れ渡り、様々な学校から練習試合のオファーが届くようになっていた。

 

 前回のアンツィオ高校との試合内容は言わずもがな、東浜雪子にも知れており毎日が鍛錬、訓練、練習の日々。

 

 息抜く暇も無く、そして、オファーが来た練習試合を数多くこなし、まさに、意気消沈、虫の息のような毎日を繁子達は過ごしていた。

 

 そんな中での、やっと訪れた休日。

 

 繁子達は目が死んだ状態で近くのファミリーレストランでお茶をしていた。

 

 

「…しんどー…」

 

「ようやく休みって感じだね」

 

「アンツィオのテルマエが懐かしく感じるわ…あれは天国だった」

 

「まーまー、なんやかんやで久々の休みなんだし、ね?」

 

「せやな、今日はゆっくり身体休めようや」

 

 

 そう言って繁子はにこやかな笑みを浮かべて頼んでいたコーヒーを唇へと運ぶ。

 

 キツい訓練の日々の間に訪れる安らぎのある一日、これを満喫しておかなければ、後々の訓練のモチベーションにも関わる。

 

 そんな中、真沙子は欠伸を一つ入れると、ふと、こんな事を話し始める。

 

 

「そういやさ、あんたらって彼氏とかいんの?」

 

「…なんなの唐突に?」

 

「いやさ、ウチら華の女子高生じゃん? 恋バナの一つや二つあってもいいかなって思ってさ」

 

 

 そう言いながら、立江の言葉に応える真沙子はクリームソーダを飲みつつガールズトークなるものをし始めた。

 

 彼女達も年頃の女子高生。色恋沙汰にもなんと無く興味が湧く年頃の筈だ、多分。

 

 すると、多代子はめんどくさそうに真沙子の言葉に便乗するように話を続ける。

 

 

「…彼氏ねー、考えたこともなかったな」

 

「そういや、しげちゃんあんた確かラブレターみたいなのたくさん持ってなかったっけ?」

 

「ん? あー、うん…あったな…そんな事が…」

 

「いや、あったねって…」

 

「…あれ、全部、同性からやで? …」

 

「ごめん、聞いた私が悪かった」

 

 

 そう言って、即、繁子に謝る真沙子。

 

 まさか、男子ではなく女子から大量のラブレターを貰うとは誰が想像できただろうか…。いや、何を思って彼女達は繁子にラブレターを送ったのだろう。

 

 謎は深まるばかりだが、繁子のマスコット的な可愛さと時折見せる愛らしさは同性の女の子には大変人気のようである。

 

 しかし、立江はその話を繁子から聞いた瞬間、ファミレスの席からスッ…と立ち上がっていた。顔は笑顔だがポキポキと拳を鳴らしているあたりご立腹のようである。

 

 

「そいつら全員狩るからラブレター見せて♪」

 

「アホ! んな事できるか! …ってか、ウチはファンレターみたいなもんとして受け取っとるし」

 

「どうどう、アネェ、落ち着きなって」

 

「なんでしげちゃんが女の子にモテるのかね…。宝塚じゃあるまいし」

 

 

 全くもってその通りである。

 

 繁子の同性に好かれる人としてのあり方のせいか、やはり、カリスマの成す技か人望というべきか。

 

 何はともあれ、繁子に当分の間、春が来ることは無さそうである。

 

 すると、繁子はここである疑問を彼女達にぶつけた。

 

 

「てか、あんたらの男性のタイプってそもそもなんなん?」

 

 

 そう、タイプの男性である。

 

 好きな男性のタイプがあるならば、せめてここで聞いておくべきだろう。

 

 不思議な事に自然なガールズトークを繰り広げる彼女達の光景が心なしか異質に見えるのはきっと気のせいである。

 

 すると、まず多代子からタイプの男性について語り始めた。

 

 

「そりゃ、まず無人島を一人で開拓できる事でしょう?」

 

「後、農業と建築がバリバリ出来て、ブルドーザーとかシャベルとかの免許は必須よね」

 

「新種の魚とか見つけたり、動物とかを見つけられる幸運を持っていて、ラーメンは麦から作るくらいの男気があるじゃん?」

 

「そんでもって、土に詳しい…アイドル?」

 

「居るか! そんな奴おったら怖いわ!」

 

 

 そう言いながらツッコミを入れる繁子。

 

 確かに居たら怖い、そんな男子がこの世に果たして存在するのか、だが、ここで繁子はふと考えた。

 

 それは、よくよく思い返せばある人物達に当てはまると。

 

 繁子は顔を引きつらせながらその思い出した人物達について、拍子抜けしたようにため息をつく羽目になった。

 

 

「それ、よくよく考えたらウチらのオトンの事やん」

 

「そういや、私らのお父さんアイドルだったっけ? もういい歳だし引退した気がすんだけど…」

 

「今も現役やでー、どこで何やっとるかは知らんけどなー」

 

「…もしかしたら無人島とかにいたり?」

 

「かもしれへんね、はぁ、何やっとるんやろウチのおとん」

 

 

 そう言いながら繁子は呆れたような声を溢した。

 

 そう、何を隠そう、繁子達の父親は今をときめくアイドルである。繁子達の父親達は多忙で最近はめっきり連絡を取っていない。

 

 しかしながら、タイプの男性が父親似の男性とはなんとも不思議な事だと繁子達はふと思ってしまった。

 

 子は親に似るとはよく言ったものである。

 

 すると、さらにダメ出しをするかのように繁子はファミレスの机に頬杖ついたまま四人を見るとため息を吐き、こう話をし始めた。

 

 

「まぁ、真沙子は目つき悪いツンデレヤンキー娘やし?」

 

「うぐ…っ!ツンデレ言うな!」

 

「多代子は炭作り担当で影が薄いやん?」

 

「ごはっ…!…う、薄いって…」

 

「永瀬は…大食いで天然やん?」

 

「それ!ただの悪口じゃん! ひっどーい!」

 

「まぁ、そんなわけでこんな私らに彼氏なんてできるわきゃないわ、別に欲しいとも思わないでしょ?」

 

 

 そう言いながら繁子のダメ出しを聞いていた立江は呆れたようにため息を吐く。

 

 顔を見合わせる時御流の面々、よくよく考えれば、戦車道の普及により女子高の比率が異様に高くなってきている近年。

 

 男性を御目にかかる機会は極端に少ない上、別に彼氏が欲しいともこれっぽっちも考えた事はなかった。

 

 ただ、ちょっとだけガールズトークというものをしてみたかっただけの話である。

 

 

「そういや、そうよね」

 

「私はしげちゃんが居るからそれで十分かな?」

 

「立江もブレないわねー、ま、ウチらもそうなんだけどさ」

 

 

 そう言いながら、互いの顔を見合わせて笑い合う四人。

 

 繁子は結局、ガールズトークがどうでも良いものと片付ける彼女達に苦笑いを浮かべる他なかった。

 

 果たしてそれで良いのだろうか…。当の本人達は妙に納得しているようなのでこれ以上は繁子は何も言えないのだが、まぁ、普段から農業や建築、自作する戦車の話題とかばかりだったからこう言った話をするのも悪くはないだろう。

 

 そして、そんな他愛の無い会話をしながら、繁子は話題を変えるようにあるチケットを五枚掲げ、四人に見せびらかし始める。

 

 

「さて、そこでや、3日くらい休み貰っとるわけやけど、ここにボコミュージアムのチケットが五枚あるわけや」

 

「ボコミュージアム?」

 

「聞いたことある? 真沙子」

 

「いんや全然」

 

「なんや! あんたら! ボコ知らんのかい! あんな可愛いキャラクター知らんとか何考えてんねん!」

 

「…しげちゃん、知らない人の方が多いと思うよ…それ」

 

 

 そう言いながら、知らないと告げる真沙子と立江の二人に詰め寄りボコミュージアムのチケットを押し付けて息を荒げる繁子に苦笑いを浮かべて告げる多代子。

 

 ボコとは子供達に密かに人気があるマイナーなキャラクターである。

 

 だが、そんなテンションが高くなる繁子に対し、参謀、立江は冷静な口調でこう話をし始めた。

 

 

「…そのチケット。期限っていつまで大丈夫なのしげちゃん?」

 

「んあ? …ま、まぁ、いつでも大丈夫みたいやけど…」

 

「なら、今回は見送りね、もうすぐ新一年生が入ってくるし、時間は有効に使うべきだと思うの。とりあえずそれは戦車道全国大会が終わってからが良いんじゃないかな?」

 

「そ、そんなぁ〜! う、ウチ、ボコミュージアムに行けると思うてボコのテーマ曲頑張って練習してたんやで!!」

 

「…なんの努力? しげちゃん? いや、楽しみだったのはわかるんだけどさ…」

 

 

 そう言いながら、顔を引きつらせる立江。

 

 まさか、繁子にそんな乙女チックな一面があるとは思いもよらなかった。というより好きなキャラクターがマイナー過ぎてちょっと立江達も理解ができてないと言う部分もあるが…。

 

 しかし、時期が時期だけに今回はボコミュージアムはお預けである。行けば繁子の新たな一面が見られるかもしれないがまた別の機会に訪れるのも悪くはなさそうだと立江は思っていた。

 

 

「やってやる♪ やってやる♪ やってやるぜ♪ イヤなあいつをボコボコにー♪」

 

「ん? カチコミかけんの?」

 

「ちょっ! マサねぇの中の夜王が目覚める前にその歌止めて!木刀持ち出しかねないから!」

 

「…真沙子は多分、ボコに容赦なさそうやもんなぁ」

 

「ミスマッチじゃん! ぜったいかけ合わせたらダメな二人だよ!」

 

「大丈夫! それがボコやから!」

 

「何が大丈夫なの!?」

 

 

 ボコボコにされても大丈夫という意味だろうか。

 

 しかしながら、歩き方や仕草がヤンキー娘のそれの真沙子とボコは多代子が言うようにミスマッチもいいとこである。

 

 だが、真沙子はそもそもそんな事はないと言わんばかりに呆れたようにため息を吐くと繁子達にこう告げる。

 

 

「バカねー、私も多少なりとも弁えてるわよー、可愛いキャラクターなんてボコボコにするわけないじゃない」

 

「まぁ、ツンデレやしな」

 

「ツンデレ代表だもんね」

 

「何その代表!? 聞いたこと無いわよ!」

 

「あー、話がそれ過ぎたけど本題に戻るわよーあんた達」

 

 

 そう言いながら、繁子と永瀬の二人にツッコミを入れる真沙子に立江はため息吐いて話を元に戻す。

 

 本題はこの休みをどう使うのか?

 

 さて、先ほど挙げた通り、後もう少しで新一年生が入学してくる。繁子達はもう二年生になるわけだが、訓練と練習試合の日々を思い返した立江はある事を新たに考えていた。

 

 

 それは戦力の増強である。

 

 

 現在ある知波単学園の戦車は前回の戦車道全国大会の決勝からラインナップが変わっていない。つまり、この休みを機にそのラインナップに新たな色を加えようと考えていたわけである。

 

 

「さて、そんじゃ新しい戦車を作る段取りをつけるわけなんだけど」

 

「戦車作るって?どのレベルから作るの?」

 

「やっぱ砂鉄から?」

 

「ばっか、あんた達、以前に玉鋼大量に作ってたでしょ?」

 

「あ、そう言われてみれば…」

 

 

 呆れたように告げる立江の言葉に永瀬が納得したように思い出した。

 

 そう、あれは半年前…、辻と共に戦っていた戦車道全国大会の真っ最中の事。繁子達は砂鉄から戦車に使う玉鋼を村の山から採ってきた砂鉄から作っていた!

 

 古くからあるタタラ製法。その鉄の出来は…。

 

 

『わぁ、こんな風に鉄ってできるんだね!』

 

 

 初めて目の当たりにする知波単学園の生徒達を驚かせるほどだった!

 

 新たな発見に目を輝かせていた彼女達。その玉鋼の一部を使い、真沙子は新たな包丁を作り、玉ねぎ作戦の時に玉ねぎを砕く刃にもいくつか使用した。

 

 だが、その残り、いや、大量に作り置きした玉鋼はまだ村に残っている。

 

 それを思い出した時御流一同は新たに作る戦車についての会議をファミレスで続ける。

 

 

「けど、玉鋼だけじゃ足りないもんねー」

 

「そこでよ! …実はアテがあってねー」

 

「ん? なんか考えでもあるんか? 立江?」

 

「はい、これ!」

 

「ん? これって…学校のパンフレット?」

 

「そ! 大洗女子学園! 戦車道を20年以上前に廃止にしてる学校なんだけどね」

 

「あ! なるほど! そこには今もまだ…」

 

「そう! まだ見ぬ戦車が埋まってるかもしれないって事! 言わば」

 

「宝の山やね!」

 

「その通り!」

 

 

 そう言って、繁子の言葉に目を輝かせて答える立江。

 

 大洗女子学園。歴史だけは古い伝統校で学園艦の外観は、大日本帝国海軍の翔鶴級空母に似ている事で知られている。

 

 学園空母の全長は7600m。

 

 中学校・高校共に9000人ずつの18000人の女生徒が艦上・艦内に居住しながら通学していて、その生徒の他にも生徒の家族等の居住者がおり、大洗女子学園の学園艦全体で3万人程が暮らしている。

 

 そして、この学園は戦車道がかつては盛んに行われていた経緯もあり、西の西住、東の知波単。あれに見ゆるは大洗と二つの名門校に並び評されるほどの力量をかつては兼ね備えていた学園である。

 

 

「今はもうやってないんだっけ? 戦車道」

 

「経費の削減で戦車も処分されたんじゃ無いの?」

 

「…いや、それがね? 実は」

 

 

 そこから立江は大洗女子学園に隠してある戦車についての話を繁子達にしはじめた。

 

 どうやら、戦車は全て処分されてはおらず。

 

 話によると戦車が処分されぬようにと大洗女子学園の戦車道が廃止になった時に当時の生徒がバラバラに隠したという話だった。

 

 それを聞いていた繁子はなんだか悲しげな表情を浮かべて立江の話を黙って聞いていた。

 

 戦車道が廃止にさせられた大洗女子学園の当時の生徒達はどんな気持ちだったのだろうか?

 

 愛すべき戦車道を捨て、共に戦場を駆けて戦った愛車を学園に処分され失うというのはどんなに悔しかったんだろうかと。

 

 ふと、立江の話を一通り聞いた繁子は思った。

 

 そうだ、自分達ならば…。そんな戦車達の事をきっと救ってやれるのでは無いだろうか。

 

 

「戦車作りに使うのは1輌だけでええやろ。部品も他の学園からある程度もらえたらええしな」

 

「ん? しげちゃん、それは…」

 

「大洗女子学園から1輌だけ拝借しよう! …あとは…せやな、せっかくやし見つけて新品同様、いや、それ以上にピカピカにそんでもってパワーアップさせてやろう!」

 

「…ちょっとそれは…」

 

「立江の言いたいことはわかんで? でも、もう決めた事や。 …いつか誰かが、あの学園で戦車に乗りたいって思うた時に戦車道ができるようにしといてやろうや。ウチらでな!」

 

 

 そう言って、繁子はニカッと無邪気で優しい笑みを浮かべていた。

 

 そうだ。自分達だってそうだった。

 

 戦車道がなければきっと皆がここに揃っていることはなかっただろう。楽しげに笑い合うこともなかっただろう。

 

 戦車道には大切なものがたくさん詰まっているのだ。そんな先人たちの思いを引き継ぐべき時を大洗女子学園が迎えた時に何かいい方向に向かえばと繁子はそう思った。

 

 すると、それを聞いていた多代子はフッと笑みを浮かべこう語りはじめる。

 

 

「リーダーらしいね、私は異論なしだよ」

 

 

 そして、多代子の言葉を横で聞いていた真沙子も。

 

 

「しげちゃんがそう言うなら仕方ないっしょ」

 

 

 それに続くように、永瀬もまた。

 

 

「それでこそ、私らの自慢のリーダーかな」

 

 

 笑いながら、繁子のその言葉に賛同した。

 

 

 確かに今の大洗女子学園はたくさんの戦車が眠る宝の山なのかもしれない。

 

 戦車道をやらなくなった今、許可をもらい自分達が全部持ち帰って知波単学園の戦車の糧にする事だってできるだろう。

 

 だが、それでは、大洗女子学園の先人たちの思いはきっと晴れないだろうと繁子達は考え着いたのである。

 

 それを聞いた立江は呆れたようにため息を吐く。

 

 そうだ、こいつらはそういう連中だった。そして、自分もまたその馬鹿な連中の一人だったと、ふと、立江の中にはどこか納得してしまう自分がいた。

 

 

「全く…。だからあんた達は好きなんだけどね? 私はさ。 んじゃ治しに行きますか! 大洗女子学園に!」

 

「「「賛成ー!」」」

 

 

 こうして、繁子達は久しぶりの休日を使い数多くの戦車が眠る地、大洗女子学園に出向く事になった。

 

 ザ・鉄腕&パンツァー!

 

 時御流は大洗女子学園に眠る戦車を見つけ出し救い出すことができるのか!

 

 時御流に待ち受ける数々の戦車を見つけ出すには困難な隠し場所。 そして、数々の種類の戦車の修理。

 

 一円にならぬとわかっていながらも彼女達は思いを紡ぐ為に立ち上がる。そして、果たして、新たな戦車を作る為に訪れた大洗の地で彼女達が求める戦車と部品は手に入るのだろうか。

 

 

 その続きは…。次回! 鉄腕&パンツァーで!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。