ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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アヒル隊長

 

 

 大洗女子学園での整備を終えた繁子達。

 

 この整備で、繁子達は新たに学んだ。いや、戦車に教えて貰った。

 

 刻まれた傷や戦車独特の鉄臭さ、だが、それが、親しみ深い懐かしささえ感じる。

 

 やはりここが、自分たちが帰るべき家なのだと改めてそう思った。

 

 戦車が過ごした年月、駆け抜けた戦場を繁子達は見てはいない。

 

 だけれど、ふと、その戦車に触れて、戦車に乗ってみればわかる。

 

 戦車が歩んできた道が。

 

 それぞれ、大洗女子学園で整備を終えた戦車達を思い浮かべながら、立江は笑みを浮かべて繁子に語り始める。

 

 

「しげちゃん、やっぱり良いよね。戦車道って」

 

「…ホンマやね」

 

「こんな風に戦車に触れて、改めてわかることがあるよね」

 

「うん、私やっぱり時御流で良かったなって思えるよ」

 

 

 そう言いながら一同は綺麗に磨き上げたIV号戦車を一通り見渡すと晴れやかな顔つきでそう語った。

 

 自分たちの戦車道とは戦車と共に自分たちも歩んできた道だ。

 

 だからこそ、時御流という流派が誇りに思えた。戦車を1から作るこの流派だからこそわかり得る事があった。

 

 戦車を駆るだけではない、戦車を作り、戦車を愛で、戦車と共に散る。

 

 戦車が自分達の帰るべき家である事。戦車もまた自分たちの仲間であり家族である事。

 

 だからこそ、この触れた戦車達には大洗女子学園の戦車道を学んでいた先人達の心と想いが込められている事が痛いほど繁子達には理解できたのである。

 

 

「いつか大洗の戦車道、復活したらええな」

 

「いつになるやらわかんないけどねー。予算とか諸々大変だろうしさ」

 

「杏ちゃん、とりあえず部品とか貰っていいの? あと、八九式中戦車もだけど」

 

「それは一応、レンタルって形にしとこうや、ただでさえ戦車少ないのに戦車道やる事になったら堪らんやろ」

 

「いいの? しげちゃん?」

 

「構わへんよ、むしろこの戦車も大洗にあったほうが本来はええやろうしな」

 

「あ、じゃあさ! わかりやすくマーク付けとこうよ! 大洗の八九式中戦車ってわかるようにさ!」

 

「お、それええな! せやなー…どんなマーク付けとこうか?」

 

 

 そう言いながら繁子は貰い受ける八九式中戦車のマークについて考え始める。

 

 果たしてこの戦車にはどんなマークが良いだろうか? できれば可愛らしいマークにしてあげたい。

 

 そんな時だ。永瀬が手を挙げてこんな事を話はじめた。

 

 

「じゃあさ!アヒルにしよう! アヒル!」

 

「アヒル? そりゃまたなんで…」

 

「かっこいいし、可愛いじゃん! アヒル! それにさ!」

 

 

 永瀬はここで何故アヒルにしたかを皆に思い出させるように語りはじめた。

 

 そうあれは数年前、繁子達は雪どけ水は川の流れに乗って海に出られるのか?や釧路あひる大レース等の実験を行なった。

 

 その時にお世話になったのは、思い入れのある玩具のアヒル隊長なのである。

 

 アヒル隊長は鹿児島県霧島市の霧島温泉大使に任命され、温泉のPR活動やイベント出演をしている。

 

 そして、今もなお、田種村では村長として君臨しており、アヒル村長という役職も務めている。

 

 全長1kmの流しそうめんで竹の水路を流れていったが、勢い余って木に挟まってしまった逸話も持ち、まさに、この八九式中戦車にはうってつけだと永瀬は思ったのだ。

 

 

「異議なし!」

 

「いいじゃんそれ!」

 

 

 立江、真沙子は永瀬の提案に納得したように頷く。

 

 そんなアヒル村長にちなんだマークをこの八九式中戦車に入れよう。

 

 そう、この戦車こそがこの大洗女子学園におけるアヒル村長なのである。

 

 

「それじゃ、この八九式中戦車の名前はアヒル隊長で決まりやな」

 

「アヒル隊長…戦車につける名前? それ?」

 

「杏ちゃん、あんま気にしたらあかんで? こんなもんはノリや」

 

「ノリならしゃあないか」

 

「会長! 納得早すぎですよ!」

 

 

 そう言いながら、納得する角谷杏に声を上げる河嶋桃。

 

 こうして八九式中戦車は時御流命名『アヒル隊長』に名前が決まった。

 

 アヒル隊長はひとまずレンタルという形になるが、これから知波単学園の戦車として来年の全国大会を戦う事になるだろう。

 

 アヒル隊長と部品を少々いただいた繁子達は整備し終え、大洗女子学園での用事は済んだ。

 

 さあ、こうして残りの休暇は大洗女子学園の観光に充てることができるが…?

 

 

「大洗ってそういや杏ちゃんなにがあんの?」

 

「あんこう鍋とか有名だよー」

 

「へぇー、あんこう鍋かー、いいねー」

 

「美味しいところならいくつか知ってるけど食べ行くの?」

 

「んー、せやなー」

 

 

 そう言いながら、杏の言葉に首を傾げる繁子。

 

 あんこう鍋、確かに美味しそうではあるし食べてはみたい。しかし、美味しい店で果たして食べるべきだろうか?

 

 否、時御流はそんな店で出されたあんこう鍋を食べて満足する流派ではない。

 

 まず、話を切り出したのは多代子からだった。

 

 

「なら、あんこうからまず獲り行こうか?」

 

「水揚げしてるとこってわかる?」

 

「へ? …み、水揚げ?」

 

「あー、あんこう獲ってる漁港なんだけどさー」

 

「…まさかお前達、今から」

 

「漁に出ようかと思います」

 

「いやいやいや! おかしいだろ! どんな頭してるんだ一体!」

 

 

 河嶋桃は声を上げて突っ込みを入れる。

 

 おかしい、戦車の整備を終えて休暇を楽しむかと思いきやあんこう鍋を食べる為、新鮮なあんこうを獲りになんとこの娘達は漁に出ようと考えているのだ。

 

 しかし、繁子達のその眼差しにはなんの迷いはない、これまでにも当たり前にやってきたと言わんばかりの軽い口調であった。

 

 

「あんこうは取った事ないからなんだか楽しみやね」

 

「とりあえず今まで獲ってきた深海魚は…えーと、ダイナンウミヘビとかフトツノザメやギンザメとかは引き揚げたことあるんだけど」

 

「なに言ってるか全然わからない」

 

「え? あんこうって一応、深海魚だよね?」

 

「多分、言いたいことはそこじゃないと思うよ、智代」

 

 

 そう言いながら、明らかな認識の違いについて優しく永瀬の肩を叩いて告げる多代子。

 

 話を聞いていた杏も柚子も桃も驚愕のあまりポカンとしている。それはそうだろう、どこの世界に深海魚を釣り上げに行こうとする女子高生達がいるのか。

 

 さて、時御流一同があんこうを獲りに行く事に決まり、今回の漁で獲る魚をここで皆さんに御紹介しておこう。

 

 今回、捕獲し、あんこう鍋に使うあんこうとしてはキアンコウ(ホンアンコウ)とアンコウ(クツアンコウ)の二種のあんこうとなる。

 

 この二種のあんこうは日本で主な食用の種である。両種は別の属に分類されているが、外見は良く似ている。そのため、一般に市場では区別されていない、外見的な特徴は頭部が大きく幅が広いこと。体は暗褐色から黒色で、やわらかく平たい。

 

 そんなあんこうを追い求め、我らが時御流は大洗女子学園の学園艦から大洗に降り、数キロ先にある漁場に訪れた。

 

 ここがあんこうを水揚げしている大洗港である。

 

 早速、永瀬は港で働いている漁師達に話を聞いてみる事に。

 

 

「こんにちはー! 私達、時御流の者なんですけどー」

 

「ん? …時御流?」

 

「あぁ! あんたら時御流の娘さん達ね!」

 

「はい! あの? ここで新鮮なあんこうを獲っているって聞きまして」

 

 

 そう言いながら永瀬はにこやかな笑みを浮かべて大洗港で水揚げをしていた漁師達にそう告げる。

 

 すると、漁師はその言葉を聞いて察したのか永瀬に優しくこう問いかけてきた。

 

 

「あぁ、漁に同行したいって話かい?」

 

「そうなんですけど…、大丈夫ですかね?」

 

「この後、また船出す予定だったから、よかったらそん時に乗ってきな!」

 

「ほんとですか!? おーい! みんなーオーケーだって!」

 

「よっしゃー! でかした永瀬!」

 

「ご同行させていただいてありがとうございます!」

 

「おや? あんた、城志摩 繁子ちゃんやない? お母さんそっくりやねー」

 

「オカンがお世話になりました」

 

「いやー、こっちも良くしてもらっとったからねー。テレビ見たよ、よう頑張っとったね戦車道」

 

「ホンマですか? おおきに! ありがとうございます」

 

 

 そう言いながら漁師達に溶け込むようにして会話を繰り広げる繁子。

 

 そんな繁子達の周りにはいつの間にか漁師達が賑やかに集まってきていた。時御流はこういったところでも影響力があるようである。

 

 さて、こうして、あんこうを獲るために漁に同行する事になった繁子達だが、なんと今回は大洗女子学園の生徒会である角谷杏達も同行する事になった。

 

 

「さぁ、杏ちゃん、あんこう獲るで!」

 

「おー!! 私も初めてだからさー、なんだかワクワクするよ」

 

「か、会長〜…気持ち悪いです…」

 

「も、桃ちゃん、船に酔うなら無理にこなくても」

 

「会長だけを漁にいかせるわけには…オロロロ」

 

「わぁ、無理しちゃだめだよ!」

 

「め、面目無い」

 

 

 そう言いながら、酔った自分の背中を優しく摩ってくれる永瀬にお礼を述べる河嶋桃。

 

 ちょうどあんこうが美味しい季節の三月ギリギリに大洗に来れたのは幸いだったと言える。この季節ならばきっと美味しいあんこうも獲れるはずだ。

 

 それから、繁子達が乗った船は漁を開始した。

 

 あんこうの漁は底曳網漁・延縄漁・刺網漁などで漁獲を行う。

 

 ちなみに繁子達はこの漁のやり方を全て熟知しており、様々な深海魚を獲ってきた実績がある。

 

 そして、そんな漁の最中でまた新たな発見があった、それは…。

 

 

「おおおおお!!!!マジか!」

 

「マジか!ウソーーー!!!」

 

 

 永瀬と立江が大興奮、そこには角谷達が見たこともない、厳ついサメの姿があった。

 

 いかにも凶悪そうなその顔つき、漁師達もまだ見たことがない魚がそこにはいた。これには柚子も杏も目を丸くするばかりである。

 

 そんな中、杏はふとどこかの本で見たことある魚の姿をそこで思い出す。

 

 確かそれは、希少種のサメ。生きてみることはとても珍しく別名、深海の悪魔と呼ばれるサメ。

 

 その名は。

 

 

「え? ゴブリンシャーク? これ、ゴブリンシャークだよね?」

 

「そうやね、ゴブリンシャークさんやね、うわーほんまにまた会えると思わんかったー」

 

「いやいや! おかしいよしげちゃん! ゴブリンシャークって幻のサメだよ!? あんこう獲るついでで見れるものじゃないからね! 奇跡だよ! 奇跡!」

 

 

 ゴブリンシャーク、別名、ミツクリザメ。

 

 世界でも発見例が100程度しかないと言われている幻のサメである。

 

 まさか、この漁で出くわすとは思いもよらず、それを目の当たりにした杏はただただそのサメの姿に目を丸くするばかりであった。

 

 すぐさま写真を撮り、そのゴブリンシャークは丁重に海に返してあげた。さすがに数が少なく希少種のゴブリンシャークをあんこう鍋に入れるわけにはいかない。

 

 

「以前見たゴブリンシャークよりデカかったよね、あれ」

 

「多分、あれが成長したゴブリンシャークなんじゃないかな?」

 

「以前も見たのかお前達!? あれ絶滅危惧種だぞ! そうそうお目にかかれないんだぞ!」

 

 

 河嶋桃は興奮した口調で繁子達に告げる。

 

 あまりの出来事に船酔いが吹き飛んでしまったようである。確かにあんな大きくて厳ついゴブリンシャークなんかを目の当たりにすればそうなるのも致し方ない。

 

 それからしばらくして、あんこう鍋に使うあんこうをある程度捕獲し、繁子達は大洗港に戻った。

 

 新鮮なあんこうを真沙子に捌いて貰い、貰った野菜を出汁が取れた鍋入れて料理する。

 

 この時期のあんこう肝は肥大で美味である。

 

 

「うんまい! あー…やっぱり鍋は暖まるね」

 

「やっぱり真沙子の料理は一品やな、嫁にしたら絶対ええ嫁さんになるよ」

 

「ふふん、褒めても何にも出ないわよー?」

 

「板前ばりの腕前だねー、こんな美味しいあんこう鍋食べるの初めてだよ」

 

「お代わりはあるのか?」

 

「あるよー、いっぱいあんこう獲れたからさ」

 

「ほんとか!」

 

 

 そう言いながらワイワイと大洗港であんこう鍋を囲む繁子達と大洗女子学園の生徒会。

 

 新たな戦車アヒル隊長と戦車の部品を手に入れ、大洗での名物を堪能した繁子達。

 

 いつか大洗女子学園で戦車道がまた始まった時、この地に再び訪れることもあるかもしれない。

 

 そんな時はまたこうして、あんこう鍋を囲みたいものだと繁子達は思うのであった。

 

 目指すは次の戦車道全国大会優勝。

 

 辻つつじが知波単学園を去り、そして、新たに入ってくる一年生達は一体どんな者たちだろうか?

 

 そんな期待を膨らませる中、繁子達は暫しの休暇をこうして堪能したのだった。

 


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