ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
大洗女子学園から帰還した繁子達御一行。
形は違えど、レンタルという形で加わった仲間、アヒル隊長を引き連れて繁子達は今後、新たに知波単学園に加わるだろう人材達に備えることに成功した。
そう、辻つつじという大きな隊長がこの学園を去り、そして、戦力となり今後の知波単学園を支えるであろう新入生達が入ってくる事になる。
卒業式の日、辻つつじと改めて対面した繁子はしっかりと隊長を引き継ぐ事を改めて心に誓っていた。
「辻隊長、今迄ありがとうございました。そして、私達を支えてくださりホンマに感謝してます」
「…ふふ、いや、お前達には驚かされてばかりだったな」
そう言いながら、花束を繁子からしっかりと受け取る辻つつじ。
今、思えば、驚かされてばかりだったけれど今年の戦車道が一番面白かった。そして、もっとこの娘たちと一緒に戦車道をやりたかったと心の底から辻は思う。
たくさんの得られない経験も体験も思いも味わった。そんな、戦車道だった。
「私は大学でも戦車道をやるよ、繁子達と共に過ごして改めてわかったんだ。戦車道にはたくさんの事が詰まってるって事が」
「…そうですか」
「あぁ…、戦車を愛する戦車乗りになりたいってこの一年を通して感じたんだ。だから、私はきっとこの先もずっと戦車道をやり続けたいと思う」
「辻隊長ならきっとなれますよ」
「…ありがとう繁子。今年はお前達ならきっと優勝できる。私が選んだ隊長なんだ、間違いないよ。気負いすぎるな、お前を支えてくれる仲間はこの知波単学園にはたくさん居るんだからな」
そう言いながら、辻は優しく繁子の頭を撫でた。
隊長というプレッシャーは辻自身がよくわかっている。けれど、それを一人で抱え込まない様に辻は敢えてそう言った。
自分が隊長になった時に勝てない試合ばかりが続いた事があった。うちひしがれた事もたくさんある。
だからこそ、繁子が気負いせぬ様にと辻は知波単学園と立江達を頼る様に言ったのだ。
一人じゃない、戦車道をやる中で仲間達が助けてくれる事を繁子にも心に留めて欲しかった。そして、その一人に辻自身も含まれている事を。
「…はいっ!…い、いままで…一緒に戦ってくださってホンマに…ありがとう…ございましたっ!」
「…おいおい、泣くな。…私のセリフだよ繁子」
そう言いながら、涙を流して頭を下げる繁子を優しく抱き寄せる辻。
知波単学園の隊長として、繁子は自分に夢をくれた。それが、叶わなかった夢だとしても見せてくれた。知波単学園の戦車道全国大会優勝という夢を。
名門サンダース大学付属高校との熱戦、聖グロリアーナ女学院、隊長アールグレイとの激闘、そして、知波単学園の宿敵、黒森峰女学園との死闘。
それらは辻つつじにとって、かけがえのない戦いとなった。
「繁子、次はお前達の番だ。ここにいる知波単学園のみんなに見せて欲しい、全国の頂を」
「…はい! 絶対に今年こそはやってみせます!」
「優勝旗を持って凱旋するお前の姿を楽しみにしてる」
そう言って辻はにこやかな笑顔を浮かべて告げた。
辻つつじと歩んだ戦車道はこの卒業式を区切りに終わりを告げる。だが、この別れは決して最後の別れなんかじゃ無い。
今年の戦車道全国大会で優勝旗を持って帰ろう。
その光景を辻に見せてあげたい、それを望んだのは辻だけじゃ無い、これまで、知波単学園の戦車道を礎を築いてきた先輩達にもきっとその晴れ姿を見せる。
繁子は固く心にそう誓った。今年こそは叶わなかった母、明子との誓いを果たす。
繁子は知波単学園から去りゆく辻の姿を仲間達と共に最後まで見送り、そう改めて心に留めたのだった。
そして、季節は巡り、知波単学園、入学式の日。
この日、繁子達は新たな戦車道を専攻する者を勧誘する為に奔走していた。
炊き出しや露店、そして、チラシ配り、出来るだけ多くの人材を確保して今年の知波単学園の戦車道の層を厚くしようと考えていたからだ。
アヒル隊長、山城、つれたか丸を使ったパフォーマンスや様々な催しをしながら彼女達は一年生達を勧誘する。
「はーい、たこ焼き揚がったでー、二名さんお待ちどう!」
「はい、握りあがったよー、サーモン。イカはいかがー、イカだけに! なんちって!」
「へい! そこの嬢ちゃん! ウチのインテリアいかが? 自慢の品ばかりだよ!匠のお墨付きだよ!」
「炭火で焼いた地鶏はいかがかねー、自家製の炭で焼いた出来立ての地鶏だよ!」
「あ、ねーねー、きみきみ! この後ライブやるんだけどさ! 良かったら来て見ない? 私がボーカルやるんだけど!」
第1次産業を網羅した職人時御流の全力全開。
あっと言う間に賑やかになる学園、当然、知波単学園の戦車道の名は全国に轟いているわけで、こんな事をしなくても人材は集まる。
だが、繁子はあえて、こういった催しをする事を選んだ。それは、この知波単学園の戦車道が楽しいと皆に思ってもらい為だ。
そんな中、新入生達は目をキラキラと輝かせて繁子達の開いている屋台やライブに足を運んだ。
戦車強襲競技で鍛えられた集客術、資金集めの術がこんな場所でも役に立つ。
時御流は全てが全て、戦車道に何かしら結びつく技を身に付けているのである。
「おぉ、これは美味しいですね!」
「せやろー、自前のタコさん使っとるからな」
「入学式前に漁に出てきて良かったよね」
「…なんと、自前の…道理で」
「貴女、一年生?」
「あ、はい! 一年生です! 西絹代と言います!」
そう言って、凛とした顔つきをした。長い黒髪の女生徒は頭を下げて繁子達に名乗った。
その背丈に見合うだけのナイスなボディバランス。理想的な体型、そして、言わずもがなそのルックスはイケメンだ。いや、この場合は美少女というべきだろうか?
兎にも角にも、西絹代と名乗ったこの一年生の女の子は明るく良い人材である事には違いなかった。
そんな中、まず、話を切り出したのは彼女、西絹代からだった。
「あ、あの!? もしや! 貴女は城志摩 繁子隊長でありますか!」
「ん? なんや、自分ウチの事知っとるんかいな?」
「それはもう! あの全国大会の決勝戦を見れば誰でもわかりますよ! それに…」
そう語る絹代の話に耳を傾けながらたこ焼きをひっくり返す繁子。
一年生の中にもやはりあの大会を見ていた者達は多い、そう考えれば、自分の名を知っていても不思議ではないだろう。
そんな事を考えながらたこ焼きをひっくり返していた繁子は出来上がったそれをお客さんとして来ていた他の女生徒に手渡しつつ絹代に視線を戻す。
すると、彼女はどうした事か顔をほのかに赤くしながらモジモジとしていた。一体どうしたのだろうか?
思わず心配する様に繁子が顔を覗き込む、すると、顔をさらに赤くした西絹代ははっきりとした声色で繁子にこう告げはじめた。
「じ、実は! 私! しげちゃんファンクラブの会員であります! ずっと前から繁子さんに憧れてました! 貴女を愛して止まないのです! つ、つ、付き合ってください!」
「…は…。…え?…え?」
時間が止まったかの様に焼いていたたこ焼きを持っていた串からポトリとたこ焼きが落ちる。
そして、隣でインテリアを売っていた立江の目が点になり、さらに、ただただ呆然とその光景を目の当たりにしていた。
思いの外、突然の出来事に唖然とする一同。
しかし、そこでフォローを入れるかの様に多代子が冷や汗を垂らしながら満面の笑みを浮かべるとこの空気を変えるために皆にこう告げはじめる。
「はーい! ここで一旦CM入りまーす! とりあえず休憩入れるからちょっと待機ねー」
皆から残念そうに『えー』という言葉が発せられる中、そんな感じでとりあえず場を一旦落ち着かせる多代子。
しかしながら、CMとは一体なんなのだろうか多分流れるとしても物流とかそんな感じのCMだろう。
そして、しばらくして頭からタオルを巻いていた繁子はそれを外すと動揺が隠せない中、まずは、どこから突っ込めば良いか冷静に思案していた。
まず、しげちゃんファンクラブからだろうか? それとも、同性の一年生から告白された事だろうか?
いや、しかし、まさかこんな局面に出くわすとは思いもよらなかった。これはどんな顔をしていいかわからない。笑えばいいのだろうか? 既に顔は引きつった笑みを浮かべているが。
「…えと、立江、しげちゃんファンクラブってなんやの?」
「…ん…あー…その…誠に言い難いのだけど、しげちゃんを愛でる会みたいなのじゃないかな?」
「…立江、詳細、知ってるって事はあんたまさか」
「はっ!? しまった!」
話を急に振られた立江は動揺した弾みで口を滑らせてしまった。そこを真沙子に拾われ完全に完全に嵌められた形、これはもう言い逃れができない。
そう、何を隠そう立江もまたしげちゃんファンクラブの一員であり、西住姉妹をはじめ、継続高校のミカ、そして、多岐に至るまで様々な学校に幅を広げ拡大しているファンクラブがしげちゃんファンクラブなのである。
ここまでくるともはや宗教の域に近い、繁子は静かに頭を抱えるしかなかった。
この調子だといつの日かしげちゃん教なんて宗教が出来上がっていてもなんら不思議では無いだろう。そんな事になった日には繁子本人はただただ困惑するしか無い。
しかも目の前には目をキラキラと輝かせた一年生の絹代がこちらに何かを期待する様な眼差しを向けている。
「あ、あのやな、…気持ちは嬉しいんやけど、女の子同士で付き合うとかはちょっと…」
「え…?」
その言葉を聞いた絹代の表情が一瞬にして捨てられた子犬の様なそれに変わる。
それを見ていた繁子は慌てて笑みを浮かべたまま手を握るとフォローするように続けてこう語りはじめた。
「で、でも、戦車道に絹代みたいな頼もしい戦車乗りがおってくれたら頼もしいやろうなぁって思うよ! ウチらの力になってくれへんかな? ね?」
「!? それはもちろん! 粉骨砕身! 繁子殿に尽くす所存であります!」
「ほうか! なら良かったわ! ほな、これからよろしゅうな?」
「はいっ! 憧れの貴女と共に戦場を駆けれるなんて本望です! なんでもおっしゃってくださいね!」
「…あ、あはは、わかったホンマにおおきに」
絹代がズイッと迫ってくる中、繁子は気圧されて顔を引きつらせてそう答える他なかった。
まさか、こんな一年生が入ってくるなんて予想もしていなかったし、何よりいつのまにしげちゃんファンクラブなんて出来たのだろうかという疑問も湧いてくる。
そして、同性である女の子に告白されるという謎の現象、慣れたとはいえどう考えてもおかしいだろうと繁子は笑うしか無い。
ともあれ、他の一年生達もその後、繁子達の頑張りで次々と戦車道を専攻する者達が増えていった。
もしかすると今年が知波単学園はじまって以来、過去最高の戦車道受講者数を記録したかもしれない。
「あの一年坊、一回鍛え直さなきゃならないわね…」
「アネェ目が怖いよ」
「てか、ファンクラブなんて作ったあんたの自業自得じゃんよ」
「だ、だってまほりんとかミカの奴がさー!」
「あーはいはい、だいたい察しがつくから大丈夫だよ、こんなんで大丈夫かなウチら」
頭を抱える多代子に突っ込みを入れる真沙子、大方、その通りであり立江はこの時ばかりは何も言えずに拗ねるしかなかった。
こんな事では先行きが不安になるのも仕方ない、立江を除いた繁子達は納得したように頷くばかりであった。
こうして、新たに一年生を加えた繁子達。去年の雪辱を晴らすべく彼女達はいよいよ勝負の年に向けて本格的に動き出そうとしていた。