ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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新入生

 

 一年生を新たに加え、より強力になった新生知波単学園。

 

 入学式の日に頑張って勧誘を終えた繁子達は翌週のはじめに機甲科を専攻した一年生を集めとりあえず自己紹介と皆との交流の場を設ける事にした。

 

 何をやるにしてもまずは面識をしっかり持ち、皆が一致団結できるような環境づくりをしていかなければならない。

 

 それは、隊長ならば尚更である。

 

 

「という訳で自己紹介から! うちの事は多分知っとるとは思うけど、改めてやね! ウチの名前は城志摩 繁子! 戦車道流派、時御流家元で今はここ知波単学園の隊長や! 皆! よろしゅうな!」

 

 

 そう言ってにこやかな笑顔を浮かべて一年生皆に自己紹介をする繁子。

 

 その姿を見た新入生達はザワザワと話をし始める。やはり、繁子の知名度は前年度の戦車道全国大会を通じて広く伝わっているようだった。

 

 

「あれが、繁子隊長…」

 

「可愛いよねぇ、私ファンクラブ入っちゃった♪」

 

「でも、威厳あるし、それでいて頼り甲斐があるって感じじゃない」

 

「日曜日、夜のテレビに出てたよね!」

 

「あの黒森峰との決勝凄かったよね」

 

 

 彼女達は自己紹介を終えた繁子について様々な感想を話しながら笑みを浮かべていた。

 

 これから先待つ戦車道、どんな戦車道になるのだろうか、どんな強敵達と戦うことになるのか。

 

 そう、これからは知波単学園の機甲科の一員として、繁子達と共に戦車を駆り戦場を戦い抜いていかなくてはいけない。

 

 

「あ、ちなみに苗字は今は城志摩やけど、ほんまは時御やから、時御 繁子やね。まぁ、繁子とか隊長と呼んでもらえたらええわ、それじゃ一年生諸君、自己紹介お願いできるか?」

 

 

 優しく微笑みながらそう告げる繁子。

 

 親しみやすく、優しい隊長。そんな愛されている繁子に対して緊張していた一年生達は胸を撫で下ろしいつの間にかリラックスしていた。

 

 これならば、自己紹介で噛むこともないだろう。繁子の後ろから静かに眺めていた立江達を含めた知波単学園の二年生と三年生からも思わず笑みが溢れる。

 

 そんな中、一年生の自己紹介が始まった。まず、自己紹介をしはじめたのは後ろに編み込んだおさげが特徴の黒髪の女の子からだった。

 

 

「はい! 私の名前は玉田ハルと言います! 先代、辻つつじ隊長に憧れこの機甲科を希望しました! 不束者ですがよろしくお願いします!」

 

「ん…? 玉田…? もしかして玉田流の?」

 

「はい、玉田流を多少なりと嗜んでおります! 私の長所は突撃による打開力です!」

 

「またこれは知波単らしい人材が入ってきたなぁ、うん、よろしゅうな?」

 

 

 そう言って、玉田ハルと握手を交わす繁子。

 

 突撃は知波単学園の伝統的な戦法であり、強みでもある。これは、どんな世代になれど変わりはしない。

 

 突撃という伝統的な戦法をいかにうまく使い分けるのか、これが今の繁子達がいる知波単学園である。

 

 さらに、戦車道流派の一つである玉田流となれば心強い、玉田流の戦い方を彼女から自分達も吸収できるというものだ。

 

 そして、その玉田の自己紹介を皮切りに一年生の自己紹介は次々に行われていく。

 

 

「名倉です! よろしくお願いします!」

 

「同じく浜田です!」

 

「寺本と言います。通信手を中学ではやってました!よろしくお願いします!」

 

「これから、よろしゅうな!」

 

 

 そう告げる繁子は一人一人握手をしながらにこやかにそう告げていく。中には繁子に手を握られて顔を赤くする者や思わず感極まって涙を流す者もいた。

 

 そんな中、繁子の手を震える両手で握りしめて嬉しそうに笑みを浮かべる頭の上で2つに巻いた髪形が特徴の少女は感激したように繁子に自己紹介をしていた。

 

 

「私は細見と申します! 繁子隊長! 黒森峰との激闘、聖グロリアーナとの白熱した砲撃戦! 手汗握る戦いでした! どうぞ! これからご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いします!」

 

「あの試合見ててくれたんか、おおきに! めっちゃ嬉しいわ! 今年は一緒に決勝に行こうな! 期待しとるで!」

 

「はいっ! 頑張ります!」

 

「気負いせんように頑張りや」

 

 

 そう告げて握手を終えた繁子はスッと細見から離れると次の一年生の元に足を進める。

 

 そこに居たのは、目をキラキラとさせているあの繁子が出店で出していたたこ焼きの屋台で出会った一年生。

 

 そう、真っ直ぐに繁子に思いの丈を伝えた素直で綺麗な顔立ちをした西絹代である。

 

 

「繁子隊長! 私は西絹代と申します! 貴女の為、全身全霊を捧げ突撃と共に散る所存です!」

 

「散らんでよろしい、…ん、まぁ、絹代ちゃんは屋台で会ってんもんな。うん、ええ目しとるやん、今年からよろしゅうな!」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

 

 そう告げて繁子は優しく絹代の手を握りしめて握手を交わす。

 

 彼女達が今後の知波単学園を支えていく逸材達だ。

 

 きっとこの先、様々な局面に合うだろう、その時に彼女達はそれを乗り越えていかなくてはいけない。

 

 そんな中、自己紹介を一通り終えたのを見計らい、知波単学園の機甲科の指導を勤め上げる東浜 雪子が繁子に代わり、一年生達に話をし始める。

 

 それは、この戦車道名門、知波単学園の戦車道がどういったものか、どんな心掛けと覚悟を持って挑まなくてはいけないものかを理解させる為だ。

 

 戦車道は何も楽しいことばかりではない、キツイことも努力することも必要になってくる。

 

 甘い考えで戦車道をやってみようという考え方は仲間を危険に晒すことにも繋がるのだ。

 

 東浜雪子は静かな声色で淡々と一年生達に話をしはじめる。新入生達はそんな雪子の話に耳を傾け彼女の目を真っ直ぐに見つめていた。

 

 

「知波単学園の戦車道は根性、努力、信頼がもっとも必要な学園です。楽しいこともあるでしょうがキツイ事も当然ながらあります。その覚悟を持って貴女達はここに私は来たと思っています」

 

 

 そう告げて、東浜雪子は一人一人新入生達の顔を見ながら淡々と語る。

 

 知波単学園の戦車道に携わる戦車道の生きるレジェンドとして、そして、指導者としてありったけのものを彼女達に今後伝えていかないといけない使命が雪子にはある。

 

 だからこそ、新入生達にはより覚悟を持って戦車道をやってほしいと思っていた。

 

 

「指導官として、私は貴女達を指導する立場の人間です。戦車道には大切なものが詰まっています、楽しさ、悔しさ、嬉しさ、貴女達にはこの戦車道を通してそれらを学んでほしいと思っています。そして、今年は我々が目指すは全国の頂、知波単学園が今まで成せなかった事を成し遂げる。それこそが目標です」

 

 

 そう語る雪子の眼差しは真っ直ぐに新入生達の目を見詰めていた。

 

 これは世迷言でも夢物語でもない、やり遂げなくてはいけない事だ。先代の知波単学園の隊長達、そして、誓いのためにも。

 

 だからこそ、敢えて雪子は忠告するように新入生の皆にそう告げたのである。

 

 戦車道は決して甘い世界ではない、皆が積み上げてきた誇りと歴史の積み重ねであると。

 

 

「これだけは覚えときなさい、意味の無いことなんてない。全てが戦車道に通ずること。例え、どんなに小さな事であっても戦車道に必ず役に立つ。これを心に留めて戦車道に励みなさい、私からは以上よ」

 

 

 一通り話を終えた雪子は隊長である繁子に場を任せて引き退る。

 

 とりあえず、伝えたい事、言いたい事、肝に銘じておかなくとはいけない事は全て新入生達に雪子は話し終えた。

 

 どんな厳しい訓練が待ち構えていようが、彼女達はこれで覚悟はできたはずだ。次回の戦車道全国大会まではあまり時間は残されてはいない。

 

 ならばこそ、全力で訓練や特訓を積み重ね仲間との連携を深めていかなくては到底、戦車道全国制覇など無理だ。

 

 少なくとも東浜雪子はそう思っていた。

 

 

「そんじゃ一年生は…立江、真沙子。あんたら2人でええわ、今から模擬戦をするから準備して戦車に乗って表で待機や」

 

「え?」

 

「も、模擬戦ですか? いきなり?」

 

「腕を見ないことには雪子さんもウチらも指導のしようがない! そういうこっちゃ! 戦車の動かし方がわからない一年生は先輩達に教わりや! ウチも教えたるから遠慮なく聞いて来るように!」

 

 

 そう告げた繁子は一旦話を終えて早速、一年生達に戦車に乗るように促す。

 

 模擬戦による現状の実力の確認、そして、戦車の動かし方の指導。それは、己の弱点を自覚させ見つけ出して修正させるにはもってこいの機会である。

 

 繁子はメンテナンスを終えている戦車を一年生達に振り分け、チームを組ませた。

 

 

「アヒル隊長は…せやな、絹代、あんたが乗ったがええやろ」

 

「は? …自分がですか?」

 

「これは大洗女子から借りてきた戦車や、しっかりメンテもしとるしエンジン、履帯も一新させとる。乗りこなせるかはあんた達次第や」

 

「アヒル…隊長…」

 

 

 そう告げる繁子の言葉に絹代は静かに佇むアヒル隊長(八九式中戦車)を見つめる。

 

 あちらこちらに刻まれた傷跡、長年戦ってきたそのアヒル隊長は逞しく見える。これに乗って今から自分達は戦うのだと思うと絹代は心が踊った。

 

 早速、戦車に乗り込む絹代、一年生達はチームを組み、計8輌の戦車にそれぞれ乗り込んだ。

 

 アヒル隊長を筆頭に、編成はホニとチハがそれぞれ2輌づつ、そして、ケホが3輌の編成だ。

 

 対する真沙子、立江は四式中戦車チト(山城)、そして、試製新砲戦車(甲) ホリIIにそれぞれ乗り込みそれに対峙する。

 

 実力的には劣るが、数は明らかにこちらが優勢、一年生の女学生達は初めて乗る戦車にワクワクしながらも立江達に勝てるだろうと思っていた。

 

 この時までは…。

 

 だが、実践がはじまるとこれが違ってくる。たった2輌の戦車、しかし、弾が全く当たらない。

 

 

「突撃だー! 突撃して動きを止めよう!」

 

「絹代! 私達も突撃よ!」

 

「応っ! 知波単魂の見せ所だー!」

 

 

 そして、取るのは愚直な突撃策。

 

 右に左に後ろにと突撃をヒラリヒラリと弄ぶように躱す立江の乗る山城(四式中戦車)。動きを読みさえすれば、愚直な突撃は恐るるに足らない。

 

 戦車から顔を出していた立江からは余裕からか欠伸すら出てくる始末だ。

 

 

「んー…。まぁ、こんなもんか、最初はそうだよね」

 

『立江ー、どうするー? こっち全部片付けちゃったけど』

 

 

 同じくして、3輌ほど引きつけていたホリ車を指揮していた真沙子からそんな通信がインカムを通して立江の耳に入ってくる。

 

 早くも15分立たないくらいだろうか? 向こうが突撃しかしてこないので確かに迎え撃つとなるとそうなってしまうのも仕方ない。

 

 立江は砲撃を躱すように森林地帯を駆け抜けるよう山城に乗る乗組員に指示を飛ばしながら、インカムを通して真沙子に話をしはじめる。

 

 

「そんでー? 腕前の方は?」

 

『御察しの通り、突撃策ばっかし、指示系統を決めてないからってこれはねぇ…』

 

「んー、これはいろいろ考えてやんなきゃね?」

 

 

 そう告げる立江は顔を引きつらせながら通信をしている真沙子の言葉に応える。

 

 初期の頃の知波単学園もこんな感じだったなと懐かしくなる一方、修正する箇所が割と明確だったので安心したところではある。

 

 しかし、それでは勝てない。

 

 黒森峰、聖グロ、サンダース、プラウダ等、戦車道全国大会ではより強固で頑丈な戦車を揃えてくる強豪校ばかりだ。

 

 そんな強豪校と渡り合うにはやはり雪子が言うように連携、戦術に幅をもたせていかなくてはいけない。

 

 となれば、この一年生だけで組ませた編隊で突撃策ばかりを講じるのはあまり良い傾向ではない、修正しなければいけない事だ。

 

 今いる知波単学園の二年生、三年生はたとえ隊長や指揮系統が麻痺しても車長の独自の判断で連携を取り、その場を打開する術を身につけつつある。

 

 いざという時に自分の頭で考え、自分達で纏まる術を雪子から身につけさせられているという事だ。

 

 それを踏まえて、まだ、一年生達には教えなければいけない部分がたくさんある。

 

 

「んじゃさ、どのレベルから教えんの?」

 

『やっぱさ、戦車を自作させるところからじゃない?』

 

 

 そうインカムを通しながら相談する立江と真沙子。

 

 戦車を自作させるところから、そう、まずは戦車に愛着を持ってもらうところから始めるのは良いことだろう。

 

 戦車を作る事を通せば、見えない部分も見えてくる。いろんな経験を積ませてやるのが彼女達には今一番必要な事だ。

 

 その真沙子の言葉に立江は納得したように頷く、とりあえず、今後の方針としてはその方針になってくるだろう。

 

 

「あー、やっぱりそっからか、また部品を貰いに他の学校訪問させるしかないかなー」

 

『後は、ゴミ捨て場とか製鉄所使って部品作らせるとか』

 

「良いじゃん、とりあえずしげちゃんに報告だねっと…発射!」

 

「あぁ! 玉田ー!」

 

 

 そんな会話を繰り広げながらも立江は見えていたかの様に横から突撃をしてきたホニに向かって砲撃指示を飛ばして戦車を沈黙させた。

 

 素人が運転する戦車等、恐るるに足りぬ。

 

 例え経験者であろうと、山口立江の指揮する戦車に至るには戦場での経験や培ってきた直感、そして、何よりも頭脳が必要なのだ。

 

 これが、プラウダのブリザードと並び称される知波単学園、副隊長の実力である。

 

 ルール無用の戦車強襲競技、そして、戦車道全国大会での激闘、戦車道レジェンド、東浜雪子の指導を通して立江は大きく成長していた。

 

 それは立江に限った話ではない、真沙子も多代子も永瀬もまた去年よりも戦車道の腕は格段に上達している。

 

 

「一年生とはいえ、8輌の戦車がたった2輌に…こりゃたまげたねー」

 

「流石ってしか言いようが無いけど、アネェ達だかんねー。相手が悪かった」

 

 

 そう言いながら試合を観戦していた同級生や先輩達も一年生の奮闘を見ながら顔を引きつらせる。

 

 時御流戦車道の実力は一年通して見ていれば嫌でもわかるというものだ。

 

 三年生も二年生もこの時ばかりは新入生達に静かに頑張れとエールを送るしか無かった。

 

 新たに加わった新入生達。

 

 様々な困難な事がこれから待ち受ける中、彼女達は雪子の指導を受け、逞しく成長していけるのだろうか!

 

 この続きは!

 

 

 次回! 鉄腕&パンツァーで!

 

 


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