ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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時御流、驚異のメカニズム

 

 

 新入生の模擬戦をひとまず終えた立江達。

 

 煤だらけの中、帰ってきた一年生達を迎え入れながら、立江達は戦闘結果の報告と新入生達がこれからすべき課題を簡単に繁子と指導官である東浜雪子に伝えた。

 

 その報告を聞いた繁子は引きつった笑みを浮かべ、東浜雪子は目を瞑り静かにそれを聞いて立江達が考えた戦車を自作させる方針について思案する。

 

 そして、しばらく考えた後、今後の方針を固めたのか東浜は静かにこう話をし始めた。

 

 

「そうね、戦車を作らせるという方針はいいと思うわ。戦車に対する愛着を持たせるという意味でも、とても基本的で大切な事だとは思う」

 

「それじゃ、東浜さん?」

 

「えぇ、シャワーを浴び終えた一年生は、次の戦車道全国大会までに強力な戦車を作らせるのと並行して戦車道での経験をさせていく事にする」

 

「ほうですか…」

 

「サポートには三年生、二年生を各自二名づつ付けてあげなさい、戦車作りのやり方とかわからないだろうしね?」

 

「わかりました。それじゃその方針で行きましょうか? ところで作らせる戦車は?」

 

 

 そう言って東浜の言葉に首を傾げる繁子。

 

 確かに戦車を作るとなれば何を作るかが重要になってくる。次回の戦車道全国大会には必要な戦力を揃えておく必要があるからだ。

 

 前回のようにはいかない。必ず対策を練られてくる筈だ。ならばこそ、新たな戦力の導入はあったほうが良いに決まっている。

 

 東浜は真剣に考えた後に、繁子達にこう告げはじめた。

 

 

「五式のチリを3輌。ホリIを1輌作らせようと思うのだけれど?」

 

「おぉ、チリですか! 良いですね!」

 

「こりゃ一気に戦力が加速するね? しかもオイ車は既に2つ作ってますし!」

 

「チハ、ホリII、チヘ、チヌ、ホニIIIとその他の戦車も割と良質な戦車が揃ってますから! こりゃ今年はいけますよ!」

 

「それにチリのエンジンを過給機付き500hp空冷ディーゼルエンジンに変えれば!チリIIも製作できますからね!」

 

 

 そう言いながら、東浜の話を聞いていた立江達は目を輝かせていた。

 

 五式中戦車、チリ。

 

 車体の重さは重量35トン、全備重量約36トンにも及ぶ、その装備は主砲は75mmの試製七糎半戦車砲(長)I型。さらに、その副砲には37mmの一式三十七粍戦車砲、九七式車載重機関銃が二箇所についている。

 

 車体の装甲は前面が75 mm 側面部が25~50 mm、更に後面50 mm。そして上面20 mmで構成されている。

 

 このチリ車は国産戦車としては多数の新機軸を搭載した、試作戦車としても特に実験的要素の強いものであった。

 

 75mmの最大装甲厚、対戦車戦闘を強く意識した口径75mmの長砲身高初速砲、重量級の砲兵装及び砲塔を駆動させる電動式砲塔旋回装置、砲塔バスケット、35tの重量を緩衝し制御しうる足回り、40km/hで走行させるための大出力液冷ガソリンエンジン、重量級の砲弾を人力によらず装填するための半自動装填装など戦車のスペックとしてもかなり高い。

 

 特に、人力による半自動装填は実に有効な切り札になり得る。

 

 戦車道では射撃に掛かる時間短縮と手間が勝敗を分ける。

 

 これらを考えれば東浜が提示するこのチリの三台導入、製作は次回の戦車道全国大会には欠かせない切り札になり得るものだ。

 

 問題はこの戦車の名前だが…。

 

 

「出来上がったチリの名前はなんにしよっか?」

 

「そんじゃ、AD足立で良いんじゃない?」

 

「AD?…何それ?」

 

「A(ある意味)D(大工)の略だよ」

 

「なるほど! なんか意味違う気がするけど! カッコエエからええか!」

 

 

 繁子はそう告げて、思いつきで名前を挙げた永瀬の言葉に納得したように頷く。

 

 時御流に関係ありそうな言葉をそれなりにただ連ねて略したようなものだが、どうやらそれで良いらしい、彼女達の感性は非常に独特である。

 

 それに続くようにして、多代子は質問を投げかける。

 

 

「ちなみにホリIは?」

 

「なんだか馬っぽいね? 馬の名前の付けとく?」

 

「キョンタにしとこうか?」

 

「賛成!」

 

「どこらへんが馬っぽいって思ったんだろうね…与那国島の馬に付けた名前を付けるってどうなのさ」

 

「良いじゃん! たくさん走りそうじゃん!」

 

 

 そう言いながら永瀬は首を傾げる多代子ににこやかな笑顔を向けていた。

 

 とりあえず、ホリIの名前はこうして与那国島で繁子達が命名した馬の名前から取り、キョンタと命名される事になった。

 

 与那国島の馬の名前が由来であるからして、これからできるキョンタにはたくさん走って貰いたいと一同は思う。

 

 

「まぁ、とりあえずキョンタを1輌と3輌のAD足立を作る事が今後の方針やね!」

 

「あー、それとね? あんた達に言っておく事があるんだけどさ?」

 

「言っておく事? なんですか?」

 

 

 話題を変えて思い出したようにそう話し出した東浜の言葉に立江は不思議そうに首を傾げる。

 

 すると、東浜は笑みを浮かべて、親指で車庫の入り口を指し示した。

 

 そこには繁子の見覚えがある制服を着た3人の姿。そう、継という文字が示された水色の下生地に縦白の線が入った制服。

 

 

「あんた達の山城、改造する予定だったんでしょ? その協力がしたいって事だったから合同強化合宿をする事にしたのよウチで」

 

「強化合宿!? き、聞いてないですよ!東浜さん!」

 

「立江、息災そうで何よりだ。風に呼ばれて来たよ、しげちゃん」

 

 

 そう言いながら、いつもの様に何事もなくいつの間にか立江の横に移動している制服を着たチューリップハットを被っている女の子。

 

 手慣れた様にカンテレをポロンと鳴らしてごく普通に彼女は馴染み既に知波単学園の車庫の中にいた。

 

 そう、合同強化合宿をする相手は繁子が以前、短期入学をしていた高校、継続高校である。

 

 立江の横にいつの間にか移動していたのは、ミカ、相変わらず自由な彼女はにこやかな笑顔を浮かべ、突然の出来事に目を丸くしている繁子に手を振る。

 

 

「あんたら…」

 

「あんたらが使う戦車をクリスティー式に改造するって話を聞いてさ。協力がてら来たって訳よ」

 

「クリスティー式? そんなものどこに…、…まさかっ!?」

 

「そう、察しが良いようで、嬉しいよ」

 

 

 ミッコの言葉に同調する様に頷くミカ。

 

 さらに、その言葉を聞いて暫し考えていた真沙子はその2人が吐いた言葉を聞いて目を見開いた。

 

 クリスティー式を取り入れる戦車、それは、繁子達と共に幾千の戦場を駆け抜けた戦友。

 

 四式中戦車、山城である。

 

 その言葉を聞いていた立江は山城に視線を移し、ミッコにこう質問を投げかけた。

 

 

「クリスティー式って、サスペンションをクリスティー式に変えるって事よね?」

 

「そうだね、履帯を外した装輪走行中にはステアリングハンドルを取り付け、先頭の接地転輪を左右に振ることで方向転換を行える様にするつもりだよ」

 

「ウチで扱ってるBTとかはそのクリスティー式を取り入れたもんが多いからさ、それを、こいつに取り付けようって訳さ、天下のクリスティー式を舐めんなよ?」

 

「マジか…その発想はなかったわ…。確かにそれなら、いざって時に二段備えになるし」

 

 

 そう言いながらミカ達の話を聞いて目を丸くする立江達。

 

 現在の四式中戦車、山城のサスペンションは独立懸架および、シーソー式連動懸架になっているが、このクリスティー式に改造するとなれば大会規定の方が気にはなるところではある。

 

 しかし、そこに関しては東浜雪子の口から繁子達にこう告げられた。

 

 

「サスペンションについての許可は得てきたわ、四式中戦車自体の主砲や装甲等の装備自体は変えないしクリスティー式に変えたところでお咎めは受けることはないから安心しなさい」

 

「うぉ!? ほんとに!? クリスティー式使えるんだこれ!」

 

「戦車自体もサスペンションも第二次大戦の最中で使われたもんをしっかり使ってんだし変えたとこでなんの心配は要らない。話は通しといたわ」

 

「東浜さんの事やからゴリ押しやったんやろうなぁ…」

 

「繁子、何か言った?」

 

「いや、なんにも言ってませんよー? やだなーあははー」

 

 

 そう言いながら笑って誤魔化す繁子。

 

 兎にも角にも、サスペンションをクリスティー式に変えることになった。それに伴い車輪や履帯に関しても山城に手を加える場所は多そうである。

 

 そんな中、永瀬は首を傾げるとこんな質問を皆に投げかけた。

 

 

「って事は、武装を改造するってのがありなら88mm砲を五式中戦車とかに引っ付けたりしても」

 

「そりゃもともと付ける予定だったからOKでしょ」

 

「あーそっか、なら大丈夫だね」

 

 

 その多代子の答えに納得した様に頷く永瀬。

 

 兎にも角にも、クリスティー式に四式中戦車を改造するのにはこれで弊害は無くなった。これならば、クリスティー式四式中戦車、山城を作り上げる事も可能である。

 

 ミッコはにこやかな笑顔で山城の車体をそっと撫でる。

 

 

「こいつがクリスティー式になれば面白いだろうねぇ」

 

「実はウチの生徒達も連れてきてるんだ。新入生も居るからこの後、模擬戦でもどうかな?」

 

「それはいい提案やな! アキ! 丁度、ウチらも新入生がおるから是非ともや!」

 

「ふふ、相変わらずだね、ところで今回は合同合宿だから寝床に関しては私はしげちゃんと同じ部屋が好ましいんだけど」

 

「あんたはブレへんなホンマに」

 

「んな事許可できるか! あんたは私と同じ部屋!」

 

 

 そう言いながら、寝床の場所について提案するミカにすぐさま告げる立江。

 

 立江はすぐさま繁子にすり寄って来たミカの襟首を引っ掴みあげていた。油断も隙もない、まぁ、ミカらしいと言えばそうであるのだろうが。

 

 とりあえずは今後は継続高校と共に強化合宿を行い、さらに戦車の改造をして次回の戦車道全国大会に備える事になるだろう。

 

 継続高校のBTやプラウダ高校からミカ達が持ってきたT-34/76やKV-1等の戦車との実践経験を新入生達に積ませれる事ができる。

 

 そうなれば、今後の新入生の飛躍に一層期待感が持てるというものだ。

 

 

「そういう訳さ、これから、暫くよろしく頼むよしげちゃん」

 

 

 ミカは立江から襟首を猫の様に掴み上げられたまま、笑みを浮かべて繁子にそう告げる。

 

 新入生による戦車の製造に継続高校との知波単学園での合同強化合宿、さらに四式中戦車山城のクリスティー式への強化。

 

 知波単学園は新入生を迎えた春先からこうして忙しくなることになった。

 

 

 この続きは…。

 

 次回! 鉄腕&パンツァーで!

 


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