ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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戦車道全国大会(二年生)編
時御流戦車錬金術


 

 戦車道全国大会に向けて継続高校と共に強化合宿を行なった繁子達。

 

 今の知波単学園の戦車道とは一体どういったものか? 勝つための戦略、戦法はどんな風なものか?

 

 これから先、一年生が目指さなくてはいけない明確な目標と課題を掲げて繁子達はこの強化合宿を共に行なった。

 

 

「履帯! 点検は済んだ?」

 

「はい! できました!」

 

「よろしい! それじゃ、エンジンの調子を見てみるから動かしてみて?」

 

「オーライ! オーライ! そこでストップ! ちょっと行きすぎだよ!!」

 

「チリの主砲はこんな風な構造になってるから、点検や整備の際は…」

 

 

 そして、知波単学園の車庫は今日も大忙しである。

 

 戦車の組み立て、使い終わった戦車の整備、点検。戦車の構造理解を深めるための講習に戦車の改造。

 

 スパナを持つ生徒があちらこちらに見え、なおかつ、顔は皆、煤だらけになってしまっている。

 

 

「バーナーで接合するからちょっと離れてな」

 

「はいっ!」

 

「そこにあるプライヤとペンチ取ってくんない?」

 

「えーと…。プライヤって…これでしたよね」

 

「正解。よく覚えてたわね! 偉いわよ」

 

 

 真沙子に立江もまた同じように顔を煤だらけにしながら戦車の下に潜ったり、装甲部をバーナーで接合したりと作業に加わっていた。

 

 戦車の整備や製造は午前と午後の夜の時間を使って行なわれる。

 

 その間、多代子が一年生が講師を務め時御流及び、現在の知波単学園の戦車道の戦術や知波単学園の戦車の性質、乗り方を指導する役割を果たす。

 

 繁子はクレーン等を用いて戦車の部品の運搬、または、戦車の接合、山城の改造の作業を行い。

 

 立江、永瀬は繁子と共に山城の改造、及び、新たに製造予定の戦車の組み立て作業を主に一年生のフォローなどに務めた。

 

 真沙子は完全に新たな戦車の組み立ての方へ作業を振り分けられており、一年生に1から作り方の手本を自身が見せながら丁寧に教えてあげている。

 

 山城に関してはミッコやアキ達もクリスティー式についての作業を手助けする形で繁子達の改造に加わっていた。

 

 

「クリスティー式は大直径転輪とストロークの大きいコイルスプリングによるサスペンションの組み合わせだから、コイルスプリングの扱いは丁重にね?」

 

「おけ! 了解したわ!」

 

 

 ミッコのアドバイスにそう答えながら、繁子はサスペンション部分と転輪の整備に取り掛かる。

 

 これに、航空機用の大馬力エンジンを用いることで高速走行を可能にする。

 

 果たして、これらをうまく組み合わせをする事は出来るのか?

 

 

「あたぁー…なかなか上手くハマらへんな」

 

「ちょいとごめんよー、なるほど、ここね」

 

「おぉ、さすがミッコやな、頼りになるで!」

 

 

 転輪、サスペンションでの整備箇所に繁子が苦戦しているところにミッコの救いの手が、流石は継続高校で慣れてることもあってクリスティー式の扱いはお手の物である。

 

 山城が快速戦車へ、機動力が以前よりも増せばまほが乗るティーガーとも上手く渡り合う事ができるに違いない。

 

 一方、立江達もまた、チリの製造に苦戦を強いられていた。

 

 五式中戦車の製造には液冷V型12気筒ガソリンエンジンの取り付けを行なわなければならないのだが、この取り付けがなかなか上手くいかない。

 

 車体のサイズが思いの外、コンパクトにまとめすぎたのだろうか、これには立江も顔を顰めるしかなかった。

 

 

「とは言ってもこれから車体のサイズをさらにおっきくしてとか手間がかかんのよねー」

 

「ケホに積んでる小型にしたミーティアエンジンとかは? 使えないかな?」

 

「いや、35tの大重量を動かすのよ? 馬力足らなくない?」

 

「ミーティア積んでるクロムウェルは27.5tだもんね」

 

「んー、でも、スピットファイア、ランカスターとかの艦載機にも使われてるからもしかしたら馬力が足りるかも分かんないわ、試す価値はありそうだけど…」

 

「五式にミーティアエンジンなんて積んだ事ないもんね私ら」

 

 

 そんな風にコンパクトに纏めた五式中戦車、チリのエンジンについての相談をし合う永瀬と立江の2人。

 

 五式中戦車自体、戦時中設計図止まりで実際に動いた事があるかどうかわからない戦車、むやみやたらにエンジンを積んだとしてもそれが正しいものかどうかは彼女達には判断しかねるものがある。

 

 すると、そこに大きなレンチを担いだ顔が煤だらけになっている真沙子が現れ、2人の話を聞いてたのかこんな話をしはじめた。

 

 

「てか、馬力に関しては何の問題ないんじゃないの? 75tのトータスも600馬力のミーティアの12気筒ガソリンエンジン積んでたんだしさ」

 

「!? …そっか、ならミーティア積んでも多分、大丈夫ね」

 

「規定とか大丈夫かな?」

 

「エンジンだけだし、規定とかにはそうそう引っかかる事はないと思うけれど…」

 

「!! …よし! それなら付けちゃおっか!」

 

 

 そう言いながらミーティアエンジン導入について賛同する永瀬。

 

 ミーティアエンジンはトータスの他にイギリス戦車ではコメット巡航戦車、クロムウェル巡航戦車、そして、あのセンチュリオンにも用いられているエンジンだ。

 

 52tあるセンチュリオンが35kmで走行できる650馬力を持つこのミーティアエンジン。

 

 元々、36t程で550馬力を使い45 km/hで走行できる五式中戦車が、ミーティアエンジンを積むことになるとすれば恐らくもっと速度が出るはずだ。

 

 

「積むやつ何にする? 600か650かどっちかにしたがいいかな?」

 

「小型にしてあるミーティアだよね? うーん、クロムウェルとかは600だしなぁ…」

 

「トータスも600だよね? じゃあ600にしとく?」

 

「センチュリオンが650なんだし650にしとこうよ」

 

「流石にレギュレーションひっかかんじゃないの? それだと走行速度がバカ速くなって五式中戦車が巡航戦車になっちゃうじゃんか」

 

「てか五式中戦車って装甲それなりに厚かったと思うんだけどね? それが巡航戦車っておかしくない? イギリスってやっぱ変態だわ」

 

 

 五式中戦車が巡航戦車扱いになりそうな件について、イギリス戦車に関しての意見を苦笑いを浮かべながら告げる真沙子。

 

 今頃、多分、聖グロリアーナの隊長はくしゃみでもしている頃だろう。

 

 何はともあれ、確かに永瀬が言う通りエンジンを変えて機動力を上げすぎるとレギュレーションに引っかかる可能性がある。

 

 戦車強襲競技ならばミーティアエンジンの中でももっとも馬力があるエンジンを軽戦車に積んだ挙句、変態的な機動力をもって一蹴できるのであるが公式戦はそうは問屋が卸させてくれないらしい。

 

 

「てか、半自動装填装置をひっつけるからどうしてもデカくなっちゃうのよね車体がさー」

 

「これがミソみたいなもんだからね」

 

「んじゃどうするよ? ミーティアやめたがいいかな?」

 

「やめたがいいと思うわよ? エンジン丸々は規定にひっかかんでしょ?」

 

「あー…んじゃやっぱ」

 

「BMW型 V型12気筒液冷ガソリン・エンジンを小型化したやつ積むのが無難よね、馬力550しかないけどさ」

 

「こんなん後退した時に後ろから追撃されたら一発で追いつかれんじゃん! ちょっと雪子さんに相談してくるわ!」

 

「あ! ちょっ! …はぁ、もともとそんな戦車だから仕方ないでしょうに」

 

 

 そう言って、取り付け作業を途中で中断して雪子に相談しに向かった立江の後ろ姿を見ながら頭を抱える真沙子。

 

 確かにそうだ、現に聖グロリアーナ女学院と以前、試合をした時もクルセイダーやらクロムウェルやらに翻弄された苦い記憶がある。これにトータスとか次回に持ち込まれたりしたらひとたまりもない。

 

 機動力もそうだが、黒森峰なんかはティーガーやらマウスやらヤークトパンターの大バーゲンだ。

 

 こんにちは、死ぬがよいも良いところである。

 

 そんな中、永瀬は製造中の五式中戦車、AD足立の車体を撫でながらため息をつく。

 

 

「日本戦車は日本戦車で優秀な部分があるし、私らの時御流を使って前回はあそこまで行けたじゃん…真沙ねえ」

 

「そりゃ日本戦車は優秀な部分はたくさんあるけどね、今回は時御流も戦法も戦車も研究されてるでしょうし、危機感持つ立江の気持ちもわかるわ」

 

 

 そう、今回は前回のように一筋縄ではいかない。

 

 時御流戦車道を研究され、なおかつ、日本戦車に対する対策も相手は練ってくるはずだ。そうなれば思うような戦いに運べなくなってくる。

 

 そのことを見越しての立江の判断だ。2人はとりあえず、立江が雪子に報告を挙げてどうなるか様子を見る事にした。

 

 事がうまく運べばもしかするとミーティアエンジンを五式中戦車に積む事ができるかもしれない。

 

 走行速度も向上し、機動力のある強力で優秀な戦車が3輌も完成だ。

 

 此れ程、心強いものはないだろう。

 

 

「キョンタの方は順調みたいね」

 

「ミーティア積めるならキョンタにも積んであげたいけどね」

 

「そりゃヤークトをモデルにしてるキョンタに付けたらすんごい事になるだろうしね?」

 

 

 そう言って、順調に製造が出来てきてるホリIことキョンタの様子を見て安心する2人。

 

 これなら、戦車道全国大会までに余裕をもって完成させる事が出来るだろう。となれば問題はやはりAD足立、3輌である。

 

 ひとまず、このAD足立に搭載するエンジンがどうなるかを決めなければ話は進まない。

 

 

「とりあえずエンジンどうなんだろ?」

 

「…外装はオッケーだったから戦車の横にそうめん流しでも付けとく?」

 

「あ、それ良いアイディアだね、付けとこ付けとこ」

 

 

 そう言って、真沙子の言葉に頷く永瀬。

 

 時御流戦車弾道変更装置、名付けてそうめん流し。

 

 そうめん飛ばすしかない作戦で使用したそうめん流し装置を五式中戦車の側面に取り付ける事により、もし、五式中戦車の側面に敵が現れたとしても背後にいる味方が五式中戦車に設置するこのそうめん流しを用いて側面に現れた敵を撃破する事を可能にするという時御流的なアイディアである。

 

 これにより戦車による奇襲にも対応できるようにしておけば万一の時に役に立つはずだ。

 

 幸い、車体がもうじき完成する段階だったのでこのそうめん流しの設置は問題なく行えそうである。

 

 戦車道全国大会までの日にちはそんなに残されてはいない。

 

 繁子達は果たして4輌の戦車の製造と山城の改造は間に合わせる事ができるのか!

 

 

 この続きは…。

 

 次回、鉄腕&パンツァーで!


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