ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
病院の一室。
倒れた繁子は救急車で搬送された後、ベットの上で目を覚ました。
周りには心配そうな表情を浮かべた見慣れた仲間達の姿、開会式の最中に倒れた事を聞かされた繁子は申し訳なさそうな顔を浮かべこう話を切り出しはじめた。
「ごめん…、心配かけたわ」
「ホントだよ! いきなり倒れたからびっくりしたんだからね!」
「過労でぶっ倒れるまで作戦とか考えるなんて馬鹿じゃないの!! 私らめちゃくちゃ心配したんだからね!」
「…うん、ごめんな? ウチもまさかぶっ倒れるとは思わへんかった」
「…馬鹿ね…、なんで相談してくれなかったのよ…」
「リーダー…。無事で良かった」
「悪かったな…。…でもウチは…」
そう言いながら、繁子は何か言いたげに心配する立江達の顔を見つめる。
立江達もそれはわかっている。だけれど、友人として、仲間として、助けてやれなかった不甲斐さが歯痒くもあるのだ。
作戦でもなんでも自分1人でこんなになるまで抱え込む繁子に立江はこう話を切り出す。
「わかってるわよ、…たく、だから私らも頼れってば…1人でやれる事なんて限りがあるでしょう?」
「立江…」
「仲間なんだからさ、…今迄、一緒にやって来たじゃん、しげちゃん」
「…あぁ、ホンマに…すまんかったな…。心配かけた」
「ほら泣かないでよ…、わかってるから、私達は」
そう言いながら、真沙子はハンカチで繁子の涙を拭い微笑んだ。
頼れるリーダーとして、そう在ろうとした繁子の努力もわかる。この先に待ち構えている困難にできるだけの事を成そうとした努力も理解できていた。
そんな繁子を責められる筈がない、気づいてあげれなかった自分達が悪いのだと立江達はそう思っていた。
「よし! …もう大丈夫や! はよ知波単学園に戻って戦車をメンテしようや!」
「切り替え早っ!? …もうちょいゆっくりしなよ」
「そうだよ、試合は今週の週末なんだしさ、医者からも安静にって言われてんでしょ?」
「…ん、い、いや…でも…」
「ほーら、しげちゃんの悪い癖が出てるわよ、後でミカやまほ達が見舞いくるって言ってたから、ね?」
早くも知波単に戻り大会に備えようとする繁子をそうやって宥める立江達。
確かに、過労で倒れた後にすぐに動こうとするのは良くない、身体を労らなくては本戦に全力で臨めないだろうという気遣いからだ。
繁子は立江達のその言葉に従い、しぶしぶベットに横になる。
「後のことは任せなって! ね?」
「あぁ、それじゃ…お願いできるか?」
「がってん承知の助!」
「智代ー、がってん承知の助って…」
「まぁまぁ細かいことは気にしないの! それじゃリーダー! しっかり休むんだよ!」
「雪子さん…」
「安心しなさいな、立江達なら大丈夫、貴女は早く体調を整えて来なさい」
不安げな表情を浮かべる繁子に優しくそう告げる雪子。
隊長として、よくみんなを纏めてきた繁子、戦車の新規製造にエンジンの製造、身体を無理に推してまで知波単学園の戦車道を強くするために励んだ。
だからこそ、今は休んでもいいと雪子もそう思っていたのだ。
繁子の異変に気付いてやれなかった指導官としての申し訳なさもある。
そして、ベットの上にいる意識を取り戻した繁子に見送られ病院の病室を後にして扉を開けて出て行く一同。
そんな中、雪子は病室から出て、直ぐに廊下にいた白衣を着た医者から呼び止められた。
「知波単学園の戦車道指導官の…、東浜雪子さんですよね?」
「ん? なんでしょうか?」
「城志摩繁子さんの件でお話が…、ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
そう言って呼び止めた医師の言葉に首を傾げる雪子。
ただの過労で倒れたと聞かされた今回、別に繁子に関しては特段何も無いはずだ。
ひとまず、雪子は周りにいる立江達に一通り目を配ると呼び止めてきた医師の方へ向き返り、こう告げ始める。
「…わかりました。 貴女達、学園の方に先に行ってて頂戴」
「はい、わかりましたー」
「? …なんだろう?」
「しげちゃんの事だから過労後に処方する薬とかの話じゃない?」
「とりあえず、絹代達が気になるから私らは早く戻りましょ」
「あいさ!」
そう言いながら、ひとまず医者から呼び止められた雪子を置いて先に知波単学園へ戻ることにする一同。
そんな立江達を見送り、後ろ姿が見えなくなり居なくなることを確認すると呼び止めてきた医者は雪子にこう話を切り出す。
「とりあえず診療室の方へ…」
「はい、わかりました」
そして、医者に勧められるまま診療室の中へと入る雪子。
診療室の中へと入った雪子は椅子に座り、医者と向かい合う形になる。
すると、なにやら医者は神妙な面持ちでカルテやレントゲン写真を取り出しはじめる。
そんな医師の表情や行動で何かを察したのか、雪子は顔を険しくして、一体どうしたのか問いかけた。
「城志摩 繁子さんなんですが…これを見て欲しいのです」
「これは…」
そう言いながら、医者から手渡されたカルテと繁子の健康診断の結果に目を通す雪子。
嫌な予感がした。病院に来て、繁子について呼び出され、さらにはこのカルテを手渡される意味。
導き出される答えというのは自ずと決まっている。
「私、以前、お亡くなりになった城志摩 明子さんの担当医でしてね…。…誠に申し上げ難いのですが、単刀直入に言いますと、このままでは城志摩 繁子さんに城志摩 明子さんと同じ様な病状が発症する可能性があります」
「!?」
「…幸いにも、まだ、初期の段階で見つけ出すことが出来ました。しかしながら、このまま進行するとなると…」
「…命に関わる危険性があると…?」
その雪子が絞り出した言葉に医者は静かに頷いた。
今回、倒れたのは単なる過労であることは本当だ。
だが、今回、繁子が倒れたことにより健康診断やレントゲンなどの検査を行ったことで発覚した病状。
すなわち、このまま治療を受けずにいれば繁子は明子と同じ様にいずれ、後数年後には、床に伏せ、いずれは病が進行していき死ぬことになってしまうのだ。
だが、今は戦車道全国大会の前、この様な話を聞かされた雪子は動揺せざる得なかった。
「…せ、戦車道の全国大会が控えてるんですよ…」
「…今すぐにというわけではありませんが…このままだと、将来的に戦車道は厳しいでしょうね…」
そう言いながら、医師は深刻な面持ちで雪子に告げる。
残酷なまでの通告、明子の病がどういったものかは雪子も理解していた。
あの時、進行していく明子の病状の状態を見ていたことがあるからだ。
だからこそ、歯痒かった。繁子がどんな思いで戦車道に打ち込んでいたのかも知っていた。
どんなにボロボロになっても自分が課した戦車道の訓練に励んでいた事も知っていた。
あんなに明子の志した戦車道を胸に没落した流派を再興させようとする繁子にこの試練はあまりにも酷であるとしか言いようがなかった。
「治療法は!? 治療法はあるんですか!!」
「落ち着いてください、治療法ですが、海外の方でこの病状についての研究が進んでまして薬剤の方もあるという話でした」
「本当ですか!?」
「えぇ、初期の段階ならばまだ抑えられるそうです。ドイツにある大学病院なんですが」
そう言いながら、医師は雪子にその大学病院のパンフレットを手渡した。
繁子に明子と同じ病気の前兆があると聞かされて、藁にも掴む思いで雪子はそのパンフレットを医師から受け取る。
しかしながら、治療を受けさせにするにしても場所はドイツ…。
まさか、戦車道全国大会前にこんな事になるとは雪子も予想だにしていなかった。
「ドイツ…」
「もし、城志摩 繁子さんが治療を受けられるのならば、進行する前に今年中にドイツへ治療を受けさせに行かせるのがベストな選択肢だと思われます、後は本人にその意思があるかどうかですけれど…」
「期間は…」
「最悪でも半年でしょうね…、病状にもよりますが、進行次第ではそれ以上、今年中に行かれるのであれば大体そのくらいかと思われます」
「……。そう…ですか」
パンフレットを握る雪子の手は震えていた。
そうなれば、半年間の間、繁子は知波単学園の学園艦と日本から離れてドイツで治療を受ける事になるだろう。
これからという時にあまりにも酷い仕打ち、雪子はいろんな感情が渦巻く中、そのパンフレットを懐に仕舞った。
「…本人には私から伝えます。後、他の女生徒達にも」
「わかりました。私はご家族の方へでは連絡を入れておきましょうか?」
「よろしくお願いします、すいません、いろいろと」
「いえいえ、頭をお上げください…。私も城志摩 明子さんの命をお救い出来なかった悔しさがありましたから…でも、本当によかったです。今回は救えますから…若い命を」
医師は頭を下げてお礼を述べる雪子に笑みを浮かべて、そう告げる。
確かにそうだ、まだ初期の段階で見つけ出すことが出来たのだ。
命を失くす危険はない、だが、いずれにしろ何もしなければ病気は繁子の身体を明子のようにしてしまう危険があるだろう。
「遺伝性の病気なのでしょうかね…」
「そうですね、恐らくは…。しかし、現段階では治療法もありますからそこまで悲観する事はありませんよ、彼女が今年の戦車道全国大会に出るのであればそこは問題はありませんから」
「!? …本当ですか…!」
「えぇ」
医師は雪子を安心させるようにそう優しく告げた。
今年中に海外のドイツに治療をしに行かなければならないが、今年の戦車道全国大会はなんとか出れる。
その事を聞いた雪子はひとまず胸を撫で下ろす、戦車道全国大会はもう開会式を終えて試合も組まれている。
そんな中で隊長であり皆を纏めている繁子を欠けば、戦車道全国大会優勝は無いに等しい。
この時だけはよかったと雪子もホッと安心した。
「…それを聞いて安心しました…。それでは、私はそろそろこれで失礼します…いろいろお話をありがとうございました」
「わかりました。ではお大事に」
そう言って、診察室から出て行く雪子。
指導官として、立江達や皆にもいずれにしろこの事は伝えなければならないだろう。だが、どう伝えれば良いかわからない。
どうしようもない歯痒さが雪子の中でぐるぐると渦巻く、何故、繁子がこんな目に遭わなくてはならないのか。
明子の戦車道に憧れ、そして、戦車道で輝かしい成績を残して今の自分があるのは時御流のおかげだ。
雪子は1人、病院の屋上で考え込んでいた。
指導官として、自分が教えてきた戦車道。未来がある彼女にまだ全て授けた訳ではないというのに。
「……あの娘が一体何をしたっていうの…! …クソッ!」
雪子はそう言って、どうにもならない感情を1人で誰もいない病院の屋上で呟いていた
半年、いや、もしかするとそれ以上の期間を戦車道全国大会が終わった後に繁子は高校生活の大事な時期を病院で過ごす事になるかもしれない。
たくさんの仲間達に恵まれ、己の戦車道を見つけるために足掻いた彼女、その彼女をあの場所から切り離さなくてはいけない。
もしかすると、三年生最後の戦車道全国大会に出られるかもわからない。
あの仲間達と共に過ごした時間が…下手をすれば今回で最後になってしまう。
「明子さん…私はどうしたら…」
今は亡き明子に静かに問う雪子。
戦車道全国大会に賭ける彼女達の熱意、そして、絆の深さを知っているからこそ雪子は迷っていた。
いずれにしろ、病については繁子には話さないといけない、そして、立江達にも。
指導官として、しっかりと自分がしなければならない。
雪子はそう心に決めると顔を上げて、いつものようにハットを深く被る。
「常に一生懸命やるだけ、…そうでしたよね」
やれる事をやろう、もう、致し方ない事だ。
雪子はそう心に決めた。自分の口から彼女達にしっかりと伝えなければいけない事だからこそ、繁子や立江達には毅然として告げる。
どんなに可愛い教え子達で成長している最中であったとしても、その命が救えるのなら自分は喜んであの場所から繁子を引き離す。
最初から決まっていた事、迷う事はない。
雪子は屋上の扉を開きその場を静かに後にした。
行く先は決まっている、繁子のいる病室である、病気についての話を彼女にする為に…。
戦車道全国大会前に発覚した衝撃的な出来事。
果たして、繁子達はこの事実を知り、仲間達と乗り越えていけるのか!
この続きは…!
次回、鉄腕&パンツァーで!