ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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一致団結

 

 病院から無事に退院する事になった過労で倒れた繁子。

 

 戦車道全国大会の試合に向けて、皆と合流した彼女はすぐさま次の試合に向けてのミーティングを行っていた。

 

 戦車道全国大会、一回戦の対戦校はマジノ女学院。

 

 フランス戦車であるルノーを中心とし編成された戦車隊を主戦としている学園である。

 

 そのミーティングをしながら雪子は静かに皆に話を進める繁子を横目に見ていた。

 

 あの日、病気の事を雪子は繁子に告げた。

 

 もしかするとこの戦車道全国大会が繁子にとっての最後の戦車道全国大会になるかもしれないという事を…。

 

 

『…そうですか…。ドイツに…』

 

『そう…、戦車道全国大会は今年でもしかすると…』

 

『…、来年までにウチが治せばいいんですよね?』

 

『…っ! …いつになるかわからないのよ?』

 

 

 そう言って、雪子は悲痛な面持ちで繁子にそう告げる。

 

 だが、繁子はそれでも笑みを浮かべていた。

 

 確かに雪子の言う通り、病気の進行具合では間に合わないかもしれない。だが、可能性は必ずしも0ではない。

 

 戦車道がこれまで通りできるのか? 薬の副作用などでもしかするとできなくなるかもしれない。

 

 そういった可能性だって考えられるだが、繁子は…。

 

 

『ウチは母ちゃんを越えるって決めたんです…』

 

『繁子…』

 

『ウチがいくら突き進んでも、振り返れば、必ず頼れる仲間たちがそこにいますから…、だから今はウチは目の前にある大会を全力で戦います』

 

 

 繁子の眼差しはまっすぐに雪子の眼を見つめていた。

 

 例え、この戦車道全国大会が仮に最後だったとしても自分が信じた戦車道をずっと貫き通したい、仲間達と共に。

 

 その決意が繁子の眼差しの奥底にはあった。

 

 きっと、成るべくしてなったんだと繁子は優しく雪子に告げる。

 

 死してもなお、自分の背中を押してくれる母の為にも常に全力で戦い抜いて決勝を勝って皆と共に優勝旗を持ち帰りたい。

 

 西住流との決着も、辻隊長との誓いも果たせていない、自分の戦車道もまだ極められていない。

 

 やり残した事がたくさん残っている。清算しなければならない己自身の手で。

 

 

『わかったわ…立江達には私から話す』

 

『ありがとうございます』

 

 

 その言葉に繁子は力強く頷いた。

 

 迷う事は無い、自分の戦車道を信じて大会を勝ち上がる。そして、悔いなく知波単学園から出ておきたい。

 

 送り出してもらうときはきっと笑顔で、また戦車道が皆と共にできるようにと、そうやって別れたい。

 

 戦車道全国大会での作戦を組み立てていた繁子は楽しそうにこう皆に話を切り出す。

 

 

「そんでな、今回は…これを使おうかなって考えてんねんけど」

 

「これは?」

 

「超巨大な弓矢やで!」

 

 

 繁子はそう告げると机の上に超巨大な弓矢の作り方が描かれた設計図を提示した。

 

 都城の弓、日本一の職人から教わった技術を用いて繁子は戦車道一回戦を戦おうと考えていたのだ!

 

 全長は6mにも及ぶその弓矢、英雄、ウィリアム・テルが射抜いたリンゴを敵戦車に見立てルノー戦車を仕留めにかかる。

 

 弓の弦はワイヤー、そして、矢には木製2.5mにも及ぶ先端を丸くした非殺傷の矢を使用。

 

 まさに攻城兵器と言っても過言ではない、だが、これを繁子はなんと…。

 

 

「ほら、次の試合の立地見てみ? ここに森林地帯があるやろ?」

 

「あ、ほんとだ!」

 

「なるほど! 斧でそこの木を伐採して弓矢を作るってわけね!」

 

「じゃあ、まずは工作隊が森林地帯に移動してノコギリ等を使って加工、でもって足止め班が敵戦車を撹乱して時間を稼ぐと」

 

「完璧な計画ね! なんの抜かりもないわ!」

 

 

 現地で材料を調達して作ろうとしているのだ。

 

 それに関して、繁子の計画に目を輝かせて納得したように頷く一同。

 

 もはや、知波単学園が誇る工作隊が変態すぎる。

 

 普通の女子高生は戦車道の試合中に巨大な弓矢を作るという発想なぞ思いつきもしない。

 

 ちなみに工作隊はAD足立に乗り込んだ3輌の戦車で構成された部隊だ。機動性も時御式エンジンを積んだ事でかなり向上した。

 

 このミーティングを目の当たりにした一年の絹代は唖然としてこう呟く。

 

 

「…これが…、時御流…」

 

「絹代、皆根性(みやこんじょう)の見せどころやで」

 

「はい! 繁子隊長!」

 

「辻隊長が引退したからツッコミ役が不在なんだよね、恐ろしいわ」

 

 

 そして、繁子の洒落れた言い回しに目を輝かせる絹代に先輩の1人が顔を引きつらせながらそう呟く。

 

 ツッコミ役の不在、此れ程恐ろしいことはないだろう。

 

 ただし、この作戦にツッコミを入れたところで作戦自体が変わる事がないので意味はない、これが知波単学園では普通なのである。

 

 そして、繁子は慣例の今回の作戦名をこう名付けた。

 

 

「作戦名は名付けてオペレーションGPMや!

 」

 

「GPM? それってなんの作戦名の略なの?」

 

「ご当地PR宮城県作戦の略やで」

 

「ご当地PR!? 作戦名がご当地PRでいいの!?」

 

 

 繁子命名、ご当地PR宮城県作戦。

 

 いつものことながら略された名前のネーミングセンスの壊滅さに知波単学園の先輩は仰天せざる得ない。

 

 戦車道の試合にご当地PRをしていくスタイルは確かに新しい、繁子達はこれをきっかけに地域が盛り上がってくれたら良いなと思った。

 

 そして、次回の試合に関しての作戦についてのミーティングを終えて、タイミングを見計らって雪子は立江達に声をかける。

 

 

「ちょっといいかしら? 立江、真沙子、永瀬、多代子」

 

「ん? …なんですか? 雪子さん?」

 

「大事な話があるから相談室まで来てくれるかしら? 貴女達4人だけ」

 

 

 そう言って、踵を返してその場を離れる雪子。

 

 名前を呼ばれた4人は首を傾げる。何か怒られるような事はした覚えもないし呼び出される意味はよくわからなかった。

 

 永瀬はいつもと雰囲気が違う雪子の立ち去る後ろ姿を見ながら3人にこう告げる。

 

 

「なんだろね? 呼び出しだなんて珍しいし」

 

「智代、あんたまたなんかやらかしたんじゃない?」

 

「なんでさ! してないよ!」

 

「まぁ、話を聞けばわかるっしょ、とりあえず行ってみよ」

 

「何かしらね? ほんと」

 

 

 そんな雑談をしながら、立江達は雪子に呼び出された相談室まで足を運ぶ。

 

 別に話があったとしても今回の大会の打ち合わせとか試合の運び方の指導か何かだろうと立江は思っていた。

 

 相談室まで足を運んだ一同は部屋をノックして雪子に促されるまま中へと入る。

 

 

「…来ましたよー雪子さん、そんで話っていうのは…」

 

「ーーーー繁子の事なんだけど」

 

 

 それから暫くして、雪子の話を平然とした態度を取っていた立江達は段々と話を聞いていくにつれて一変して目を見開いた。

 

 真沙子は信じられないといった表情を浮かべ、多代子は呆然としたまま立ち尽くしている。

 

 そして、永瀬は雪子の話を聞いているうちに涙を流しはじめ、そして立江は…。

 

 

「そんな話!! 何かの間違いなんじゃ…!」

 

「事実よ…、先日、過労で運ばれて発覚した事なの」

 

「だって! リーダーはあんなに元気じゃないですかっ!」

 

「…今のままならあと数年したら悪化する事になるのよ? 明子さんがどうなったか…貴女も知ってるでしょ?」

 

 

 その雪子の言葉に声を荒げていた立江は自然と流れ出てくる涙を止められず、唇を噛み締めて黙り込む。

 

 繁子が今まで積み上げてきたものが、全部否定されたようなそんな気がして怒りが込み上げてきた。

 

 明子さんだけでなく、繁子まで。そんな理不尽な病魔に対してのどうしようもない怒り。

 

 真沙子は雪子に訴えかけるようにこう告げる。

 

 

「だってそれじゃしげちゃんと私達の今までは…っ!」

 

「貴女が言いたい事は分かるわ…、私だって悔しいわよ」

 

「…っ!?……なんでこんな…」

 

 

 残酷な出来ごとが平然と起きるのかと、言いかけて真沙子はその口を噤んだ。

 

 口に出したところで状況が変わるわけでもない、だからこそ、1番辛い思いをしているだろう繁子に自分達ができることを考えるべきなのだ。

 

 わかってはいるが、心の整理ができていない。

 

 立江同様に皆が同じような気持ちだった。

 

 そんな中で先に口を開いたのは涙を拭った永瀬からだった。

 

 

「…アネェ、真沙ネェ…今の私らが出来ることって言ったらさ…、しげちゃんを日本一の隊長にしてあげることじゃないかな」

 

「智代…」

 

「…智代が言う通り…私らが今リーダーに出来るのはそれくらいしかないよ! …1番しんどいのはリーダーなんだからさ…っ!」

 

 

 涙を流し、声が震えながら多代子は永瀬の言葉を肯定する様にそう立江と真沙子に告げる。

 

 1番キツイのは繁子、にも関わらず今回、次の試合の作戦や段取りを考えて皆に伝えてくれた。

 

 だったらそれに応えてあげないといけない、自分達のリーダーを日本一の隊長にするのだと強く決意する事。

 

 そして、どんなことをしても成し遂げるのだと覚悟を決めて、やるべき事を成すのが自分達が出来る最善の事だ。

 

 そして、皆が口々にそう言いはじめ立江は笑みを浮かべて涙を流していた目元を拭う。

 

 そうだった、自分達はいつも全力で戦ってきた。

 

 繁子が例えドイツに渡ろうとも帰ってくる場所を残して待つ、いつになるかはわからないけれど、それでも信じて待ち続ける。

 

 だから、この戦車道全国大会を繁子の最後になんてしない。

 

 

「…一生懸命に戦おう、しげちゃんが知波単学園から居なくなっても私らが代わりに積み上げておけばいい! いつでも帰って来れるようにさ!」

 

「…立江、あんた…」

 

「真沙子、私らの砲手はあんたでしょ? 決めなよ覚悟」

 

 

 そう言いながら、立江は拳を突き出してトンと真沙子の胸元を軽く叩く。

 

 真沙子はその立江の行動に目を丸くしながらも理解していた。覚悟を決めて戦車道全国大会に臨まないといけない事を。

 

 笑みを浮かべた真沙子は突き出された立江の拳に軽く自分の拳を突きつけるとこう告げる。

 

 

「んな事は言われなくてもわかってるわよ!…頼んだわよ、副隊長!敵は全部私がぶち抜いてやるから!」

 

「智代!」

 

「しゃあ! 私のど根性みせてやりますか!」

 

「多代子!」

 

「操縦なら私に任せんしゃい! 指一本触れさせないからさ!」

 

 

 そう言いながら、4人は拳を突き合わせて誓い合う。

 

 繁子を今年、日本一の隊長にする事を、そして、彼女の居場所を団結して守って待ち続ける事を拳を突き合わせる事で約束した。

 

 それを見ていた雪子は笑みを浮かべて安堵する。

 

 戦車道全国大会の試合前にこんな話をすれば下手をすれば空中分解なんて事態もあり得た。

 

 だが、病魔があると告げられた繁子がいつも通りに振る舞う事で、それを助けようと立江達の結束がさらに固くなった。

 

 これならば心配は要らない、今の彼女達ならばきっとやれるはずだ。

 

 

「やるわよ、まずはマジノを倒す!」

 

「目指すは優勝のみ!」

 

 

 そう言って闘志を燃やす一同。

 

 優勝という明確な目標に向かって戦う覚悟は出来た。あとは、全力全開で戦車道全国大会に臨むのみ。

 

 勝負の戦車道全国大会の試合は刻一刻と目前に迫ってきていた。

 

 果たして、オペレーションGPMは上手くいくのか!

 

 

 

 その続きは…。

 

 次回、鉄腕&パンツァーで!


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