ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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マジノ女学院戦

 

 マジノ女学院。

 

 フランス戦車を主戦車とし、守備的陣形と戦略を得意としている学園、上品さと気品がありルノー戦車群を用いた戦い方には定評がある名門校だ。

 

 だが、このマジノ女学院も近年では聖グロリアーナ、黒森峰、サンダースといった強豪校とは並べられる程の評価は得られていない。

 

 何方かと言えば、アンツィオ、継続高校の方が台頭しつつあるのが現状だ。

 

 

「さてと、ほんじゃ、ウチらも行きますか」

 

「りょーかい、じゃあ分隊頼んだよ」

 

「任せときなって」

 

 

 そして、今、そのマジノ女学院との試合が開始され、巨大な弓矢作成の工作隊と足止めの戦車隊で別れる段階である。

 

 足止めの戦車隊は強靭なホリ達とクリスティー式山城で局地戦に持ち込むようにし、工作隊が作業ができるように足止めを行う。

 

 機動力のある山城ならば、カモフラージュからの撹乱戦法はお手の物だ。

 

 さらに、工作隊のAD足立は3輌。機動性を向上させたこのAD足立(五式中戦車)ならば、困った時にも駆けつける事ができる。

 

 困った時のAD足立。

 

 この五式中戦車は今や知波単学園には居なくてはならない重要な戦力だ。

 

 

「私達は局地戦に持ち込むのよね?」

 

「せやで、ウチらは後方が作業を終わらせるまでここで粘る!」

 

「初戦と2回戦までは10輌だからね、3輌工作隊に回したところでって話よ」

 

「永瀬隊は?」

 

「もう行かせてあるわ、ケホを2輌預けてある。あの馬力ならクロムウェルでギリギリ追いつけるくらいだから心配ナッシング」

 

「…ふふ、段取りが相変わらずええな、副隊長」

 

 

 そう言って、にこやかにサムズアップしてくる立江に笑みを溢す繁子。

 

 今まで以上に知波単学園には一体感があった。繁子を中心に纏まっているだけではない彼女を助けなければ、力にならなければと皆が各自そう思っているからだ。

 

 入ってきたばかりの一年生も、同級生達も、そして、今年で引退する三年生も皆が引っ張ってきてくれた繁子の力に成ろうとしていた。

 

 

『敵影! 確認できました!』

 

「わかったわ、永瀬隊はそのまま監視を続けて私達と交戦した際は背後から挟撃して」

 

『了解、任せてアネェ!』

 

 

 そう言って、立江は偵察に行かせた永瀬隊に指示を飛ばし、こちらに向かってくるルノーの戦車群を引き続き監視する様に伝える。

 

 そして、通信はこれだけではない、間髪入れずにすぐさま武力偵察に行かせたもう一方の分隊からも通信が入ってきた。

 

 

『こちらアヒル隊! 敵戦車本隊の姿を確認!』

 

「やろうなとは思ったわ」

 

「残りは後方に待機させてたか、しかもフラッグ車の近くには数多く戦車があるんじゃないかしら?」

 

『!? …た、確かに10輌中、6輌で周りを厳重に固めています!!』

 

「やっぱね、後4輌は機動性が高い戦車での武力偵察か…そっちにケホを割いておいて正解だったわね」

 

 

 そう呟く立江の言葉に繁子は静かに頷いた。

 

 いくら何でも守りの陣形を保つとはいえ、本隊に6輌は固め過ぎである。確かにこれならばなかなか攻め辛いが…。

 

 繁子達はむしろ、この状況の方が助かった。思い通りの布陣に出だしである。

 

 向こうがそうやって、こちらを警戒して守りを固めて迎撃つ算段で待っていてくれた方が今回の作戦は上手く行きやすい。

 

 

「向こうの完全な悪手やね、もう一団分散させてこっちこられた方がまだ苦戦するところやけど」

 

「時間をかけてくれた方が時御流としては実にありがたいのよね、攻め手も守り手も幾らでも出来るからさ」

 

 

 そう言って、ニヤリと笑みを浮かべる立江と繁子の2人。

 

 マジノ女学院は守備的な陣形に定評があるが、その分、攻撃的な攻勢や電撃戦などといった脅威は無いに等しい。

 

 例えあったとしても、その時はその時で対処はできるが、現状を見てもその気配は皆無だ。

 

 それならば、繁子達からしてみれば非常にやり易い相手なのである。

 

 黒森峰、聖グロリアーナ、プラウダ、サンダースならば一気に攻勢を掛けてくるので戦車での足止めが多数必ず必要になる上、機動性が高い攻勢をかけてこられるのでこちらが後手後手に回ることが多々ある。

 

 しかし、主導権が握りやすい今回のような場合は犠牲を伴うことなく策を簡単に備えることができる。此れ程、アドバンテージが取れれば繁子達としても非常にやり易い。

 

 

「よし、そんじゃ踏ん張りますか」

 

「4輌なら楽に狩れるしな、そんじゃ展開して局地戦に持ち込むで」

 

「はいよ!」

 

 

 そう言って、繁子の指示に従いホリ2輌と山城は各自分散し待ち構えるようにカモフラージュを掛ける。

 

 左右に分散して、カモフラージュを掛ける事により両脇から挟撃を仕掛ける算段だ。

 

 こちらに向かっているルノーの動きについては先に出しておいた偵察隊であるケホ隊から随時連絡が来る。

 

 

『敵…距離600mくらいです』

 

「…ぼちぼちかな、ホリをゆっくり動かして、主砲がすぐに向けれるように」

 

『はい』

 

「しげちゃん、初撃は頼んでいいかしら、ホリだと車体自体を動かさなくちゃならないからバレる」

 

『わかった、任せとき』

 

 

 そう言いながら、繁子は立江からの通信を受けてゆっくりと砲身を動かすように指示を飛ばす。

 

 勝負は常に一瞬。

 

 下手をすればこちらの位置がバレてしまい作戦が成り立たない事だってあり得る。そんなリスクはできるだけ防いでおきたい。

 

 そんな中、工作隊に向かった真沙子達はというと?

 

 

「なるべく迅速に! 私が手本見せるから早くね!」

 

「…おぉ! なるほど、こうやるんですね!」

 

「弦に使うワイヤーと矢は用意できました!」

 

「よし! あとは弓だけね!」

 

 

 着々と準備を進めていた。

 

 巨大な弓を作る為に木を斧で切り倒していく女子高生達。もう繁子達と一年以上過ごしている同級生や上級生は木の気持ちが分かるレベルまでに逞しく成長していた。

 

 ある生徒は木に触れると意味深な顔つきで優しくそれを摩り、その木が丈夫かどうかを真剣に見定めている。

 

 そして、木を加工する過程で上級生は一年生の娘にこんな話をしはじめた。

 

 

「北海道ではポプラの木が有名でね」

 

「はい」

 

「私らくらいのレベルになってくると向こうから話しかけてくるのよ」

 

 

 そう言いながら上級生は懸命にノコギリを振るいつつ汗を拭い、悟った様な表情を浮かべていた。

 

 そんな彼女が一年生にする話を聞いていた真沙子は目を輝かせて近づくと話を紡ぐ様に語り始める。

 

 

「あ! それ私らが北海道行って、持って帰って来たポプラの木を加工した時っしょ!」

 

「そうそう! 真沙子が言ってた通りだったの! びっくりしちゃった!」

 

「凄いじゃんか! ほら、あんたもいずれ聞こえてくる様になるから頑張りなさい!」

 

「は、はい!」

 

 

 肩を叩き、嬉しそうに満面の笑みを浮かべる真沙子の言葉に元気よく応える一年生の女生徒。

 

 木の気持ちがわかるとはなんだろう。

 

 ノコギリを懸命に動かす一年生の細見はそんな疑問が浮かんできつつも素直に上級生や真沙子のレベルがかなり高い事に驚愕せざる得なかった。

 

 ポプラの木を北海道まで行って知波単学園に持って帰ってくるなんて事を平然とやってのけてしまう彼女達はなんなのだろうと素直にそう思う。

 

 そんな感じで弓矢作りの方は順調に作業は捗っていた。

 

 楔を打ち込み、形を整えていく真沙子達、重機の代わりに戦車を使う事で弓作りの効率も比較的スムーズに行えた。

 

 巨大な弓に長いワイヤーを張る。

 

 

「バキバキって音なったらダメだからね、折れるから」

 

 

 そう真沙子が言った直後だった。

 

 しならせていた弓からバキバキという変な音が鳴る。タイミングを見計らったような、いかにも完全に狙った音が辺りに鳴り響いた。

 

 

「………………」

 

「ま、まぁ、こんなこともあるわよ、折れてないしオールオッケー、オールオッケー」

 

「…めちゃくちゃ不安になってきたんだけども」

 

 

 そう言いながら、綺麗に反りが出来上がる様を見守りつつ丁重に作業を進める真沙子達。

 

 那須与一の様に…この弓矢を使った戦術を行う。その一心で弓矢を懸命に手を動かし作り続け、その結果。

 

 全長6mにもなる巨大な弓矢が無事に完成した。

 

 

「デカイ…、作っておいてなんなんだけど」

 

「さぁ! セッティングに掛かるわよ!」

 

「了解! じゃあ早速しげちゃんに通信入れるね!」

 

 

 工作隊の作成した巨大弓矢は無事に完成する事が出来た。

 

 後はこれをセットし、難なく策に用いる事ができる、問題はどこで使うかということだけだ。

 

 繁子達との通信を行い、指定された場所へとこれを持っていかなくてはならない、繁子達は無事に足止めができているのだろうか?

 

 

「しげちゃん、こちら工作隊だけど! 弓矢はある程度出来上がったよ!」

 

『真沙子か! …こっちはちょいと交戦中や! そっちに永瀬行かせるから先導に従って指定した場所に向かってや!』

 

「…うげ!? わかったわ、撃破されんじゃないわよ?」

 

『運転手は多代子やから大丈夫やって、そんじゃ後でな!』

 

「はいよ」

 

 

 繁子との通信を終えた真沙子はひとまず工作隊の皆の方へ、繁子からの伝令と指定された場所についての話を伝えた。

 

 先ずは先導役に偵察をしていたケホ隊を率いた永瀬がこちらに来るという。

 

 その後、真沙子達、工作隊は無事にケホに乗った永瀬と合流する事に成功した。改造を施し、圧倒的な機動力がありカモフラージュを施したケホは早々敵戦車に見つかる事はない。

 

 

「弓矢できたんだって!?」

 

「そうそう! ほら、自信作ー、みんなで作ったのよ」

 

「うわ!? 本当にデカっ! どんくらいあんの! これ!」

 

「6mよ、そっちは?」

 

「ばっちし、あのね」

 

 

 そう言って真沙子達と合流した永瀬は圧倒的なデカさの弓矢に驚きつつも偵察により割り出した立地と現在の状況について真沙子に細かく説明し始めた。

 

 永瀬の話によると武力偵察に出ていたアヒル隊が敵本体の居場所を割り出したという。そこから、敵本隊に狙いが定められる場所を割り出して巨大弓矢を使用できる所を見つけ出したという事だった。

 

 巨大弓矢を早速、AD足立に引っ付ける作業を行い、永瀬の乗るケホが先導してすぐさま動き出す真沙子達。

 

 

「永瀬、他のケホ隊は?」

 

「しげちゃん達の援軍に回した! 今は多分、交戦中だと思うよ」

 

「なら、うかうかしてられないわね、場所までは割と掛かる?」

 

「それなりにかな、でも確実に打ち込める場所見つけといたよ!」

 

「さっすが! やるじゃん!」

 

 

 先導するケホの永瀬と会話をしながら笑みを浮かべる真沙子。

 

 これならば、繁子達が交戦を終えて本隊と接触するまでに巨大弓矢をセットし終える事が出来るだろう。後は時間との勝負だ、いかにしてこの弓矢をバレずにセッティングするかが重要になってくる。

 

 匠から教わった弓作りの術、この業をいかにして勝利に繋げていくか知波単学園の都根性の見せどころである。

 

 はたして、工作隊の真沙子達が作った都城伝統の都城の弓は無事に敵本体を窮地に追いやる事ができるのだろうか

 

 その続きは…。

 

 次回! 鉄腕&パンツァーで!

 


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