ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
日は経ち継続高校との試合当日。
繁子はミカと対峙するように視線を真っ直ぐ向けていた。
前まで共に切磋琢磨した仲、だが今は強敵として彼女が繁子の前に立ち塞がる。
戦車道二回戦にしてまさか、早くからこうして戦う事になろうとは繁子もミカも思ってもみなかった
「やぁ、まさかこんな日が来るなんて思いもしなかったよ」
いつものように飄々と、しかし、その眼差しは繁子との戦いに歓喜している猛者のそれだった。
2人の間に多くの言葉は必要ない。
繁子はそう笑みを浮かべるミカを前にして、同じように嬉々として強敵との戦いに感謝していた。
ありがたい、ドイツに行く前にこうして自分の戦車道を知ってくれた友人と戦うことができてと。
「ミカ、あんたらにはお世話になったな、ホンマに」
「行くんだろ? ドイツに」
「あぁ、その前に…こうしてあんたと戦えることができてウチは物凄い幸せものやね」
繁子はそう言うとミカににこやかに笑みを浮かべていた。
ミカはそんな繁子の笑みに応えるように静かに頷く、互いに全力を出し合おうとそう宣誓するかのようなそんな自然な光景であった。
ミカと繁子は互いに握手を交わし、背を向けて互いを待つ仲間達の方へと足を進める。
継続高校の戦車に乗り込んだミカにアキは首を傾げてこう訪ねた。
「いいの? ミカ、もっとしげちゃんに話したい事とかあったんじゃないの?」
「いや、もう十分に話したよ、私達の間に多くの言葉は不要なのさ…」
ミカは乗り込んだ戦車を軽く摩るとアキにそう告げる。
自分達が語るのは言葉だけじゃない、そう、戦車道を通してミカは繁子に伝えたいことがあった。
それを見ていたミッコは悟ったように瞼を閉じるとミカの代わりにアキにこう話をし始める。
「打ち合った砲弾の数だけ、そして、戦車道で戦って、言葉じゃなくてその中で大切な事を伝えるってことなんでしょ? ミカらしいね」
「…ミカ…」
「生憎と私は捻くれ者なんだ、こんな伝え方しか知らないからね」
ミカはそう言うとにこやかに笑った。
不器用でも共に切磋琢磨し、自分を理解してくれた友人に向けての言葉を伝えるには戦車道を通して伝えたい。
戦車道には大切な事がたくさん詰まっている。
それを、更に繁子は自分に実感させてくれた。
『戦車道全国大会二回戦! 継続高校VS知波単学園! 試合開始!』
そして、戦いの火蓋は切って落とされる。
継続高校と知波単学園との激突、これには聖グロリアーナ、プラウダ、黒森峰と名門校がズラリと観戦しに来ていた。
その光景を眺める西住まほは繁子とミカの戦いを前にして2人がこの二回戦でどちらか消えてしまうことが同時に残念でもあった。
2人と戦いたい気持ちはまほも同じだからだ。
「しげちゃん…」
まほは遠目から激突する両校を見据えながら静かに呟く。
ミカも繁子も自分が認めた強敵であり、また、プラウダや聖グロリアーナの隊長にも匹敵するほどの力量を兼ね備えた指揮官だ。
だからこそ、惜しいと思ってしまう。さらに自分の戦車道に磨きをかけてくれるのはきっと彼女達のような友人であり強敵だとまほはそう思っているからだ。
いつからか、プレッシャーに感じていた戦車道が楽しいものへと変わっていった。西住流を極める事が楽しいと思うようになった。
それは紛れもなく、切磋琢磨する繁子やミカ達の存在があっだからだろう。
だが、そんな思いを思い起こさせてくれた繁子が病院に運び込まれたその日、ミカとまほの2人は繁子からドイツに行く話を聞かされた。
『…そんな、しげちゃんが…』
『そんな顔せんでも大丈夫やって、戦車道全国大会には出れる』
『でも…』
その話を聞いたまほとミカはとても悲痛な面持ちであった。
敵でもあり、友人でもあり、そして、戦車道を愛する大切な仲間でもある繁子、そんな繁子が日本からいなくなってしまう。
しかも、下手をすれば命に関わるかもしれない病が身体に潜伏していると聞けばそうなるのも致し方ない事であった。
けれど、繁子はそんな2人にこんな話をし始める。
『ウチらと戦う時、手抜きは許さんで、そんでもって全力でやりあおう! どちらかが決勝で当たった時には最高の試合にしようや!』
『しげちゃん…』
『そう、ウチは日本からいなくなるかもしれへんけど、一年生や試合を見てるたくさん人の中におっきなものを残していきたいんよ、戦車道は面白い最高のものやって』
繁子はそう言ってミカとまほの手を握りしめる。
間近で見て、戦って、そして、認めているからこそ2人には全力で戦ってほしいと繁子は思った。
そして、その言葉を聞いた2人は力強く頷き、まほは繁子の握りしめた手を引っ張るとと彼女を優しく抱きしめた。
『…ごめんね、しげちゃん! 私には…何もしてあげられなくて!』
『私もまほと同じ気持ちだよ、ごめん」
『…まほりん、ミカ…な、なんやねん辛気臭いでホンマに』
そう言いながら自分の手を頬にすり寄せるミカと抱きしめてくるまほの言葉に繁子は目頭が熱くなった。
悔しい気持ちがあった。もっと学園生活を通して2人と戦車道の腕を磨きたいという気持ちがあった。
病気だから仕方がないと、自分に言い聞かせてきた言葉が揺らぎそうだった。
『…あかんなぁ、涙脆くなってもうたなウチ』
自然と流れ出てくる涙が繁子の頬を伝う。
楽しかった数だけやはり、辛いものがあった、けれど、繁子の命が助かるならばその方法しかない。
まほもミカも理解している。だからこそ2人とも無念であったのだ。
土煙を上げて、走る戦車の中でミカはふとそんな繁子とのやり取りを思い出していた。
この大会が終われば、繁子との別れが待っているだからこそ、この大会に賭ける思いはミカもまほも同じくらい強いものがある。
いつも笑いながら、泥だらけになりながら戦う彼女の姿をミカは知っている。
自分達ができるいろんなことを試行錯誤しながら戦う繁子を知っている。だから、今度は全力で戦う自分達の戦車道を繁子の目に焼き付けてほしいミカはそう思っていた。
「それじゃ全速前進。しげちゃん達に時間を与えると何しでかすかわかったもんじゃないからね」
「…時御流に時間を与えるのは確かに愚策だからね、わかった」
そう言うとミカの言うとおりにミッコは戦車の速度を上げた。
確かに時御流には策を張り巡らせて待ち構える傾向が多い、西住流のような電撃戦が1番効果的な戦い方だ。
下手を打てばこちらが不利な陣形に晒されることは承知している。
だが、しかし、そのことを理解しているのはミカ達ばかりではない。
「はいはーい、ちょっと待って貰おうか!」
繁子達もまた、そのことを自覚しているのだ。
砲撃と共にミカ達の左翼から戦車の車体が勢いよくやってきた。声の主はミカ達にも聞き覚えのある声だ。
ミカは車体の外に顔を出すと表情を険しくして横からやってきた戦車群に視線を移す。
「立江達か、厄介だね」
「向こうも速攻!? こちらの手の内を読んできたわけ!?」
「いや、足止めだね。対策は早めに打ってきたか…流石しげちゃんだ」
全力の足止め策を打っておくこと。
繁子達は時御流の策を講じる為に今までも時間稼ぎの為の陽動をいくつも行なってきた。
だがしかし、今回場合は今までと異なっている、それは…。
(少数でなくほぼ本隊での足止め…、しげちゃんの姿は見えないがこれは…)
そう、少数で裂いていた戦車の数を今回は大幅に、いや、それどころかほぼ全軍導入しての足止め策に打って出てきたのだ。
ホリII、AD足立(チリ)、ホニIII、チヘ、チヌ。
知波単学園が誇る戦車達。その戦車達がズラリと並んだその光景には思わずミカ達も圧巻されてしまう。
そして、それを率いるのは副隊長、山口立江である。
「…まともにやり合う? ミカ?」
「撃ち合いか…致し方ないね、ミッコ!」
「あいよ! 隊長殿!」
そう言うとミッコはミカの掛け声と共に操縦する手に熱が篭った。
目の前に立ち塞がるのは並大抵の操縦では太刀打ちできるような相手ではない、時御流の凄さは身に染みてミッコも理解しているつもりだ。
対する立江達もまた、対峙するミカ達には全力で挑まないといけない事を理解している。
激励するようにバシンと操縦席に座る多代子の背中を立江は叩いた。
「多代子! 気合い入れな!正念場だよ!」
「しゃあ!待ってました!」
そして、操縦席に座る多代子の準備が整った事を見計らうと立江は全体に号令をかけるように声高に声をあげはじめる。
それは、対峙するミカも同じであった。
「全車両!!」
「「突撃!!」」
立江とミカの同時の掛け声と共に互いの戦車から次から次へと砲撃が交差しはじめる。
そして、チリに乗る立江とミカ達の戦車は交差し、火花を散らしながら互いの砲塔をぶつけ合った。
顔を合わせる立江とミカの2人は視線を合わせると真っ直ぐに見据える。
(…そういえば、まだ決着をつけてなかったね立江)
(しげちゃんには悪いけどミカにはここで沈んで貰う!)
互いの意思が戦車が交差した時に通じ合う様であった。
繁子と共に戦車道を磨いて来たのはミカ達だけではない、ミカ達以上に繁子の隣で自分達は彼女の戦車道と時御流を磨いて来た。
だからこそ退けないものがある。繁子が策を完成させるまで自分達に任された仕事を完遂させる。
「ミカ、私は手強いわよ?」
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」
いつもの様に飄々とした表情ではない、闘志を剥き出しにした嬉々とするミカの顔がそこにはあった。
そのミカの言葉に立江もまた、いつもの様に戦車を指揮し地を駆る。
そこからは立江の乗り多代子が操るチリとミカが指揮し、ミッコが操るBT-42との壮絶な一騎打ちが始まっていた。
「隊長! うぐっ!?」
「余所見する暇なんてないぞ! それ! 一つ目貰いだ!」
そう言うとアヒル隊長(チヌ)に乗り込んだ絹代は隙を突き、敵車両であるBT-42に突撃を敢行するとその勢いのまま側面から砲撃をお見舞いした。
敵車両は勢いよく突撃を敢行してきたチヌに対応できず、攻撃を受け勢いよく吹き飛び白旗を上げた。
「よくやった! 絹代!」
その絹代の突撃を賞賛する上級生。
見事な不意をついた突撃、車両を一両でも減らすだけでもこちらに事が有利に運ぶことは違いない。
試合が始まってから数分。
激戦と呼ぶには相応しい、互いの激しい砲撃戦からの試合が繰り広げられる事になった。