ミュステーリオン   作:のんき三郎

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<登場人物リスト>

カドモス  (六合星の)中原からの流れ者
ダーナ   (勾陳星の)元オレア国天文官 魔法使い
イアソン  (貴人星の)知将、元行商人
ルキアノス (玄武星の)元オレアの武官、槍の名手
ネクタリオス(青龍星の)用心棒家業、弓の名手
タキス   (天空星の)双鞭の使い手 魔法使い
レアンドロス(白虎星の)元ハニア国海軍士官
ミルトス  (太常星の)僧侶 治療術使い
デルフィネ (太陰星の)パトライ国第五王女 女将
ミュージカ (天后星の)発明少女
芙蓉姫   パテリア第三王女

デクスター カドモスの弟分
ラエバス  カドモスの弟分

黄武    パテリア第二王子、後パテリア王、皇帝
紅花    パテリア第四王女

ドルアス  パテリア国宰相


ミケーネ  占い師、(アルマロスのミケーネ)
ゼノビオス ミケーネと敵対する謎の人物

シャヘル   冥界の王 十人の妖魔の主

ウーマー   妖魔一位(抽腸獄 月光のウーマー) 
コスタ    妖魔二位(穿肋獄 ミトラのコスタ) 死者を蘇らせる
ハスタ    妖魔三位(針山獄 一角獣のハスタ) ホーネスの仇
アエヌス   妖魔四位(焼手足 セルヌノスのアエヌス)戦いに疑いを持つ者 
ラング    妖魔五位(抜舌獄 漁色のラング)  大蛇に乗る
ベネノ    妖魔六位(毒蛇獄 美粧蓮歩のベネノ)女性、二匹の獣を連れる
カーサー   妖魔七位(鋸解獄 紅蓮刀のカーサー)巨象に乗る
カスピス   妖魔八位(尖刀獄 ヒュブリスのカスピス)
グラッシス  妖魔九位(寒氷獄 黒海馬のグラッシス)怪鳥に乗る
ベナ     妖魔十位(血汚獄 サキュバスのベナ)意馬心猿の術使い

<北部諸国>
パテリア  北の山岳地帯ある小国
エーリス  パテリアの西にある同盟国、第二王女の嫁ぎ先
ピュロス  パテリアの東にある同盟国、第一王女の嫁ぎ先
テゲア   パテリアの南にある中立国
パトライ  エヴェロス河西岸の国(後のカプット)

<西部諸国>
パラ    ウンダ河上流左岸
タラース  ウンダ河中流左岸、大国(後のメディス)
ザンクレー ウンダ河下流左岸
ギオン   ウンダ側河口左岸
ユーベイ  ウンダ河上流右岸(後のアデベニオ)
オイア   ウンダ河中流右岸、大国
ロクロイ  ウンダ河下流右岸
シノーペ  後のシルバの森縁東
ソロイ   後のシルバの森縁西
アンキュラ 後のシルバの森の東、シノーペの北
エデサ   後のシルバの森の西、ソロイの北
シューロス 後のソサ南部
ヒスティア 後のカーボ、シューロスの東


第十劇 遭 遇

 紅蓮刀のカーサーが消息を絶ち、その行方を捜すために、針山獄のハスタは地上にたった。地上の日差しは強く、初めて日の光浴びたハスタは、眩しさに目を細め、手を額に添え、周囲を見渡した。四方に広がる大平原の中に彼はいた。中原の東方、ヒューム平原の真っ只中だった。後にトラクタスと呼ばれる町の近くで、ハスタが降り立った地より随分東であった。

 彼は空間を飛び越え、西に向かおうとしたが、何者かが接近してきたことに気がつき、その方に顔を向けた。現れたのは妖魔序列十位、血汚池、サッキュバスのベナだった。彼女はよくハスタにつきまとわり、彼を悩ませていた。

「追っかけてきたのか」

 ハスタは不愉快そうに言った。

「私はシャヘル様から神剣カエルムを探すように命じられたのよ。たまたま私が出た場所に、貴方がいただけよ」

「神剣だと?」

 ハスタは初めて聞く物に疑いを持った。

「信じてないわね。貴方もついてらっしゃい」

「生憎、俺には紅蓮刀を探さなくてはならない」

 ハスタは冷たく突っぱねた。

「カーサーなんて、気まぐれ屋じゃない。何処かで道草しているのよ。そのうち帰ってくるわ」

 ベナはハスタに体を寄せた。

「さっさと、剣を探しにいったらどうだ」

 ハスタが自分の方を向いてくれないので、ベナは千里眼で遠くを見渡した。

「東に、人間が大勢集まっているわ。貴方の好きな槍を沢山方に背負っているわ。どう使うのかしら。興味深いわね」

 ベナはハスタの反応を覗った。

「塵に、槍など仕えるものか」

 槍に誇りをもっていたハスタは、分かって居ながら、ベナの口車に乗った。

「人間共の戦いを見学するとしよう」

 ハスタが空間を東に渡ろうとしたので、ベナは作戦成功と、彼の後を追いかけたのだった。

 戦場はユンクタス河の平原であった。此の時代。中原のヒパボラ河同様、東のユンクタス河にも大小様々の国が乱立していた。中原ほど人は多くはなかったが、それでも覇権をめぐる戦いを繰り広げていたのだった。

 丘に舞い降りたハスタとベナは人間の戦争とやらを、眺めることにしたのだった。

ユンクタス河の二大勢力がぶつかっているようで、無数の旗が風に舞っていた。両軍は平原で向かい会うと、ゆっくりと歩兵を前進させた。矢の一斉攻撃の後、喊声ともに両軍がぶつかりあったのだった。無数の槍が突き立てられ、盾がそれを防いだ。

 押し合い、へし合いの末、片方の陣の一角が崩れ、そこを発端し、崩れていった。

形勢は次第に明らかとなり、敗走が始まった。

「くだらん」

 ハスタは吐き捨てた。

「私は面白かったわ。体から血を噴き出して、転げ回るんですもの」

「血好きの、お前にはそうだろうな。しかし槍への侮辱にしか思えないな」

 彼は跳躍した。

「どうする気!」

「知れたこと。虫けら共に。真の槍を教えてやるのだ」

 ベナは、下等生物相手にむきになるハスタが可愛く思えた。

 ハスタは勝敗のついた戦場に降り立つと、二王立ちになった。

 敗走する敵兵を追いかけたいた兵士達は、見慣れぬ男が平地に立っていたので、残兵として攻撃を仕掛けたのだった。ハスタは微動だにしなかったが、兵士達は小さく切り刻まれ大地に散らばった。

 支配地の真ん中に突如敵が現れたので、諸将は追撃を止め、ハスタ目がけて兵を引き連れ倒しに来た。すると何百名の兵士から、一斉に血が噴き出し、噴水のようになった。

これは岡で眺めるベナへのハスタのサービスだった。

 敵がまだ、戦場にいると知った本陣は、直ちに、猛将等を向かわせたのだった。

ハスタは、手応えのある虫けらに喜び、遊んでやろうと待ち構えた。

 槍で挑んだ一人目の将はハスタの一撃で、爆発するように粉々に散った。二人目は逆に刺された後、体液を吸い取られるようにひからびて、草地に落ち。三人目の将は、槍に跳ね上げられ、雲に届くほど打ち上げられて地面に落ちて死んだ。四人目は反対に槍を振り下ろされ、馬ごと地面に一枚の皮になるほど押しつぶされたのだった。五人目は巨大な槌を持つ武将だったが、彼はその槌を体に打ち込まれ、果てた。

 立て続けに猛将が討ち取られ、驚愕した王は、戦車を並べると、ハスタ目がけて走らせたのだった。戦車は平原を疾走し、横一文逃げ場がない体勢だった。馬の蹄がハスタを踏みつぶすかに見えた瞬間、彼は戦車の上にあった。

 彼は戦車が、かわいらしい乗り物に見えて、乗車してみたくなったのだった。しかし、暫くすると軌道変更がしがたいと分かると、一気に興味が失せたのだった。彼は大地に降りると、槍を一振りすると、戦車群は鉄槌を食らったかのように、ばらばらに飛び散った。

 これに王は大慌てし、射手による一斉攻撃を命じた。無数の矢が空を覆い、ハスタ目がけ飛んできたのだった。しかしその矢はハスタに当たる寸前に向きを変え、射た人物に一直線に帰っていった。一瞬に何百という射手が心臓を自ら放った矢によって射貫かれ、転がったのだった。

 これに脂汗を流した王は、戦車員に総攻撃を命令したのだった。多くの兵士がハスタの一点めざして突進してきた。すると彼は、お遊びはここまでと、形を付けることにした。ハスタが槍を一振りすると、全ての兵士が一瞬で石化し、いままで走っていた勢いを消すことが出来す、その体勢のまま転がったのだった。石化した体は地面に手足をぶつけ、首、腕、足が外れていった。多くの石化した兵士同士が打つかり合い、砕けて転がったのだった。

 ハスタは地面に人の形が多く残ったので、目障りと思ったのか、さらに槍を一振りすると、石化の兵士は砕け散り、草地に白い灰を撒いたようになった。

「よかったわ。ハスタ」

 手を叩きながら近づいてきたのはベナだった。

「手応えがなさすぎる。地上の生き物ではこれが最高なのか」

「冥界の私たちに敵うものなど地上にいるはずはないわ」

 ベナはハスタの後ろから、抱きついた。

「さて、俺は西に向かう」

「貴方だけ楽しむてないんじゃない。今度は私に付き合ってよ」

「何を言っている」

「貴方は石化するもんだから、せっかくの血が台無しよ。その埋め合わせしてよね。これから人間の巣を壊しに行くの。いいでしょう」

 ベネのねだられて、ハスタは眉を細めた。

「しょうがない奴だ。俺は見ているだけだからな」

 渋々、ハスタは承諾した。

 

 二人は、ユンクタス河に至り、町を見いだした。

「この国が、俺が始末した連中の国だな」

 ハスタは河に面し土塁で守られた町を見つめ、如何するのだという感じに、ベナに話しかけた。

「そうね。愛の専門家の私には丁度いいわ」

「そのうたい文句は、ベネノのものではないか?」

「彼女の愛は偽物よ。私が本当の愛を知っているのよ」

 ハスタは此の問題について、関わるのは止そうと考えた。

「さあ、どう楽しむんだ」

「もちろん真の愛の伝道よ。この国と敵対した国も同様に愛の教えをしないとね。愛は全てを幸福に導くわ」

 ベナは喜々とした。

 

 ユンクタス河の支配圏を巡り二つの大国がぶつかり合っていた。両国の民は伝令を固唾をのんで待っていた。しかしその緊張を破るかのように。町の広場でとんでもないことが公然と行われ始めた。木々の下、建物の陰、至る所で男女がいたのだった。

 この不謹慎な行いに、風俗を乱すものとして、直ちに取り締まられたのだったが、それらの男女は顔見知りの者の二人ではかなった。

 人々が二人を引き離そうとすると、男女は激しく抵抗し、理性を失っているかのようになった。人間の心の渇きがそのまま現れたようだった。これには衛兵も呆れ、世も末だという顔をしたのであった。

 騒ぎは、これら少人数の人々で終わりではなかった。今度は男性が、女性を何処までも町中を追いかける事件が多発した。戦争の緊張が人々のはけ口として、表れているのであろうと、学者は判断したが、事態はさらに悪化した。

 この事態に宰相は、人々が狂い始めたのだと判断し、戒厳令敷いたのだった。風俗を乱す行為が公然と行われていれば、兵を出して取り締まり、治安は徐々に改善されると思いきや、なんと送り出した兵等が、犯罪を起こしたのだった。

 この行為は男性だけかと思いきや、女性も同様で、主婦達が男性を求め町中を徘徊したのだった。

 最初は少人数の蛮行が、次第に拡散して、町全体が狂ったかのようになったのだった。

町の至る所で、それはなされ、老若男女を問わなかった。

 理性的、道徳的であった者でさえ、その衝動は抑え切きれず、道ばた、部屋の隅、寝室と所を選ばなかった。

 こうして狂気は、全ての者が食事も睡眠も摂ることなく繰り返され、人々は疲労困憊しながらも、繰り返されたのだった。

 その内、体力の無いものは、突然死をとげたのだった。

 そうして、最期まで理性を保ち、欲に対抗していた宰相も流石にこらえきれず、狂ったのだった。かくして国中の人々が変死をとげ、その半数以上が死に逝った頃、妖魔が腰を上げた。

「もう、そこら辺でいいだろう。俺は西に向かわなくてはならない」

 人間の変死を見るのに飽たハスタは、大きく背伸びをした。

「残念ね。幸福感のまま果てさせたかったのだけど」

 ベナは名残惜しそうにすると、手を一振りした。すると町中の狂気が止まり、人間の体から芽が出て、次第に大きく成長し、体の精気を吸い尽くし、やがて無数の血の花を咲かせたのだった。

「二つの町に綺麗な花が咲いたわ。地獄の花を地上に咲かせるのもいいわね」

「俺は、血でも絞り出すかと思ったが」

「いいアイデアだわ」

「俺はカーサーの足跡をたどる。お前はどうする?」

「私は北に向かうわ。あの山脈の向こうに、神剣カエルムが眠っているらしいの」

 こうして二人の妖魔は別れ、死の町二つが残ったのだった。

 

 パテリア国は中原の統一を成し遂げると、直ちに内政に着手した。パテリア国に恭順した諸国には、領地を安堵し、臣下とし、パテリア国の支配下においた。パテリアに反した国は全て、パテリア領とし、古参の臣下に管理させた。

 そして、新たにパテリア軍の兵を募集し、広大な領地で発生するであろう反乱軍に対しての備えとしたのだった。

この時、ワルコ十将の一人であるイアソンの提案により、パテリアの属国を含めた支配地、において度量衡の統一が行われた。各地域の交易の障害を無くし、国力を推し量り易くするためであった。さらに推し進めたのは貨幣の統一で、新たに発見した銀山もとにパテリア銀貨貨を発行したのだった。

 パテリア王黄武は中原の覇者として、都をナティビタスよりを旧オレア領の都であったレオに遷都をしたのであった。黄武は栄華の絶頂にあった。

「ハニアにて残党が蜂起した」

 イアソンは地図を広げ、仲間に言った。

「あそこは滅ぼしてまもない、俺が向かうか」

 カドモスが出立しようとすると、イアソンは制した。

「レアンドロスの出番だ。反乱者は海賊行為をしている」

「厄介だな」

 イアソンはあっさりと退いた。水上戦いについて分がないことが分かっていたからである。

「お前には別の仕事がある」

「西域への先鋒だ」

 イアソンは地図の左端を指した。

「西域だと。まさか、あの馬鹿王が命じたのか?」

「その通りだ。黄武王は西域の支配を宣言した。覇道を唱える遊説士を喰客に迎え、その影響を受けているようだ」

「山間の今にも消し飛ぶほどの小国の王だったではないか。これ以上にを望む」

「小心が故に、飽くことない覇道を目指したのであろう」

「姫の身内でなかったら、剣の露にしてくれたものを」

 カドモスは、忌々しそうに吐き捨てた。

「その言葉、人前で言うなよ。さて、本題に入ろう。西域には、ウンダ河という大河が流れており、中原と同様に大小様々の国が乱立している。それぞれの国力は中原ほどではないが、大遠征をして、滅ぼすとなるとなかなか厄介だ。中原のヒパボラ河右岸の国々は恭順の意を示し、通過は可能だが、その先、南北からの山に挟まれた谷の向こうは戦って切り開かなくてはならない。まずは谷にある関をどうやって破るかだな」

「まさか、ナティビタス攻略の時みたいに、俺一人行かされるのではないだろうな」

「複数の将に十分な兵が与えられる」

「ならば良いが」

 カドモスは渋々応じた。かくしてカドモスは軍勢を引き連れレオから出陣したのだった。

 

 妖魔、針山獄のハスタは仲間の紅蓮刀のカーサーの出現場所を特定した。なんの変哲もない農地の中であったが、カーサーがこの時、何と呟いたのかハスタには想像出来た。

周囲を見渡し、木々に目を付けると、その記憶の痕跡をたどったのだった。カーサーは農道を西に向かったことが分かった分かった。紅蓮刀と違い、徒歩で追跡をしているハスタは人々から奇異な目を向けられることもなく、旅人のように西へ向かえたのだった。

 暫く行くと、木陰に涼んでいる農夫を見かけた。その男とカーサーは会話をしたようで、同様にハスタは尋ねた。

「大きな生き物の乗った男を見なかったか?」

「その格好、異国の方かね。見かけたよ」

 農夫は、けだるそうに、手で扇いでいた。

「何を話した?」

「魔法の女王について尋ねていたな。分からないので都の学者に聞いてくれと答えたが」

「その都は何処にある」

「この先、西に行ったところだが。もう死の町だよ。きらびやかな都だったんだけどね、突如廃墟になってしまった。何かに呪われたのかねえ」

 農夫は憂いの表情を浮かべた。

 ハスタはそのまま廃墟の都に向かい、カーサーの痕跡を見いだした。都は紅蓮刀の技によって朽ちていたのだった。彼がこの町で遊んだことが分かったハスタは目撃者が全て死に絶えているので、木々の記憶を頼りに再び追跡した。

 都を立ったあとのカーサーの足取りは迷走しており、追跡に苦労していた。

暫く、進んで行くと、とある農村の馬小屋で奇妙な馬を発見した。馬の体の上から男の体が生え、その首は少女のものであった。その頭からはすすり泣く声が漏れていた。カーサーの悪戯と分かったハスタは、その場を去ろうしたが、そこで少女に出くわした。その少女は一風変わっていた。体つきは雌であり、着る物も女物であったが、頭だけが髭の生えた雄のものだった。

「その異国の服装。見覚え有る。あんた魔法使いの仲間なんだろう?」

 男頭の少女は、手に持った桶を放り出すと、慌てて近づいてきた。

「そうだ」

「許してくれ。あんた達が怖い方だと知らなかったんだ。他の馬になった少女等は首を締められ殺されたが、おれはあんた達が戻ってくると信じて一人は守り抜いたんだ。お願いだ元に戻してくれ」

 男頭の少女は泣いてハスタにすがった。

「他の連中はどうした?」

「諦めてどこかに去ってしまった。俺はこの村であんたを待っていた」

 ハスタは必死に訴える男頭の少女を他所に、馬と一体化した少女の頭を見た。彼はおもむろに馬の体から生えた人間の体を取り出すと、それを地面に放りだした。

 男頭の少女まえには女頭の男がいた。

「これでいいのだな」

 ハスタは素っ気なく、去ろうとすると、慌てて男頭の少女はすがった。

「貴方が優れた魔法使いであることは分かりました。出来れば頭と胴体を元通り同じ物にして頂けませんでしょうか」

 ハスタはカーサーの後始末をすることに不快に感じ、いっそのこと始末しようかと考えたが、願いをかなえることにした。

「首と胴は一帯であればいいのだな」

そう言うと、二体の首を付け替え、元通りにすると、二体を頭から二つに切り分けたのだった。そして男半分の体に、女半分の体をくっつけ一体として、二体の体を造ったのだった。

「確かに首と胴は同じにしたぞ。意識は二つに分けたから支障はあるまい」

 ハスタはこう言うと、呆然となった二人を尻目に、消えたのだった。

 次にカーサーの痕跡を見いだしたのは草原であった。砂の兵士を造り出し、戦わせた痕跡があった。この戦場でもカーサーは魔法ラ・トーレを使って軍勢を屠ったことが分かった。向かう敵無しの状態に、ハスタはカーサーがどこかで油を売って居るだけではないかと疑うようになった。

 しかし、その後、とある都にたどり着くとその考えを改めたのだった。カーサーはこの町に至りその後の痕跡を消してたのだった。ハスタは注意深く都の周囲を探査し、とある場所でカーサーの魔法奥義ラ・トーレが使われた跡を発見した。しかもラ・トーレは別の奥義魔法によって打ち破られているようだった。地面を探すと、地上の物でない塵が、散らばっているのが分かった。カーサーのものであった。

 妖魔七位のカーサーを倒すほどの者が、存在することに、ハスタは衝撃を受けた。

「信じられぬ。我々妖魔に匹敵する力を持った者が、この地上にいるというのか」

 この時、カーサーは、冥王シャヘルがワルコなる存在が地上にいると語ったのを、思い出した。

「ワルコか、その部下と言うわけだな。面白い」

 カーサーの復讐心に火がつき。相手を特定しようと、さらに調査を進めたのだった。

そして、カーサーはパテリアの芙蓉姫の臣下によって滅ぼされたと断定したのだった。

彼は人間に、芙蓉姫の臣下に尋ね、彼らにつて情報を得た。

 それによれば、山国の小さな国パテリアが魔法の力で、国々を滅ぼし中原を統一したとのこと。芙蓉姫は強大な魔法を使い、それによって中原の大国の軍勢が一撃で粉砕されたこと。その配下には勇猛果敢な武将が集まっているとのことだった。現在パテリアは旧オレア国の都に駐留し、そこに芙蓉姫等は居るであろうとのことだった。

 カーサーは強敵出現に、逆に心躍って、早速オレアを目指した。

  

 カドモスとタキスが西域の遠征し出立し、続いて海賊退治にレアンドロスが出かけてしまい、僧侶のミルトスは布教で留守にすると、都レオに残るのはイアソンとルキアノスになった。黄武より信頼されたイアソンは度々、王に意見を求められ呼び出された。ルキアスは、新たに仲間に加わったばかりで、することもなく、槍の修練に励んでいた。

ルキアノスは一通りの修練を終わり、汗を手ぬぐいで拭きとっていたが、そこにイアソンが帰ってきた。手早く書類を片付けると、彼はルキアノスに話しかけた。

「東方で可笑しな事が起こっているぞ」

「彼の地には大きな二つの国が覇権を巡って争っているはずだが」

「そうそれだ、二つとも町が滅んだらしい」

 ルキアノスは疑いの眼差しを向けました。

「何時の話だ」

「オレアの鳥による通信手段だが、そう昔ではあるまい」

「もっと強大な敵が現れたということか。海を渡って此の地にでもやってきたのか」

「町には巨大な花が無数に咲いていたそうだ」

「なんだそれは!」」

「そこで俺は考えた。これは人の技でなないと」

 イアソンは真剣な眼差しを向けた。

「妖魔だというのか」

「そうだ。先に俺たちが倒した妖魔を探しに此の地にやってきたに違いない。我々の事はいずれ気がつくはずだ」

 その言葉をイアソンが語るやいなや、笛の音が鳴り響いた。

「侵入者のようだ」

 入り口から衛兵が飛び込んできた。

「大変です。魔法使いらしき男が現れました!まったく太刀打ちできません。急ぎ待避を」

 すると、ルキアノスは槍を手に持つと、爛々と目を輝かせた。

「その必要は無い。俺が退治する。そいつはどこにいる」

「東門への途中です。もう間近でしょう」

「ルキアノス。一人では危険だ。おれもついて行く」

 イアソンの聞かず、ルキアノスは走り出したいた。

 彼は回廊を一気に走り抜け、東門を目指した。すると多くの者の叫び声が聞こえて来て、建物を揺らす震動が鳴り響いた。そして建物の通路を抜けた先に、それは歩いていた。

「お前が妖魔か」

 公然と妖魔の前に、ルキアノスは立ちはだかった。

 妖魔のハスタは足を止め、その男を見つめた。

「結界の中をお前は動けるようだな」

「何のことだ?」

「俺の後ろをみろ、並の人間では指一本動かすことさえままならぬ」

 ハスタの後ろには、攻めかかろうとして、動けなくなった衛兵がいた。

「お前は、芙蓉姫とやらの、臣下か?」

「そうだ」

 そこにイアソンも追いついてきた。

「ルキアノス例の物を使うんだ」

 イアソンは羽根を取り出し、武具を身に纏った。

「その銀色の輝き、この世界の物ではないな」

 初めて見る、イアソンの武具にハスタは目を奪われた。

「面白い。小手試しだ。石化を防げるかな」

 ハスタはイアソンに向けて技を放すと、周囲の草木や建物が石のようになったが、イアソンは無傷だった。

 イアソンが二つの鉄鞭を使って挑みかかると、ハスタは槍で防いだ。

 思わぬ角度から槍が襲いかかり、イアソンは必死で交わした。

「イアソン。こいつは槍を得意とする俺に任せろ」

 ルキアノスは羽根を取り出し武具を纏うと、ハスタに挑みかかった。

 槍の応酬は繰り返され、周囲の建物は崩壊した。

 ここは不味いと判断した、ルキアノスはハスタに呼びかけた。

「お前も、俺も槍を得意とする。この先に思う存分戦える岡がある。どうだ、サシで勝負しないか」

「それは構わんが、お前の仲間がそうさせるのかな」

 にらみ合ったまま、二人は会話した。

「イアソン。このまま戦っては城が破壊されてしまう。俺はこいつと対等な勝負を空き地でしたい」

「しかし、もしもの事があっては」

 イアソンは止めようとしたが、ルキアノスはハスタとともに城を飛び出して行った。

 二人は都を望む丘の上にあった。

 両者にらみ合いを続けた後、ルキアノスが攻めかかった。激しい槍の応酬が行われ、周囲の大地が傷つけられた。

 両者絶技を繰り出し、互いに傷つき合った。ルキアノスから赤い血が流れると、ハスタからも青い血が流れ出た。

 両者頭がぐらつき始め、ハスタは魔法奥義でルキアノスを葬ろうとしたが、気力が及ばなかった。

 そこに心配になった。イアソンがやって来ると、深手を負って、ワルコの将を相手には出来ないと判断したハスタは姿を消したのだった。

ルキアノスとハスタの戦いは、痛み分けに終わり、ワルコ十将は妖魔を退けたのだった。

 

 ハスタは空間を飛び越え、冥界の門へとたどり着き、そこで彼を助けたのは妖魔序列一位のウーマーだった。ウーマーは序列三位のほどのハスタが傷つき帰ってきたので、はなはだ驚いた。

「お前が瀕死の状態で帰ってくるとは、誰にやられた!」

 ウーマーはハスタを肩で背負うと、冥界の奥へと運んだ。

「ワルコの臣下にやられた。カーサーは奴らに始末されていた。油断ならぬ連中だ。注意しろ」

 ウーマーは人間ごとき生物にそんな力があるとは思えず、半信半疑であったが、ハスタの傷の深さから、それを信じざるを得なかった。

「お前が生還できたので、我々は貴重な情報を得た。我々は宿敵を得たと言うわけだな」

「その通りだ」

 

 一方、二つの国を滅ぼし、北に向かった妖魔ベナは当てもなく、草原を彷徨っていた。此の地は後に、ヘテロという国となる土地であったが、この頃は草原に、ところどころ村が点在するだけの不毛の土地であった。

 ベナはほとほと疲れ、天井から注ぐ日の光を恨めしそうに、見上げた。

「だいたい、何なの。緑色の奴が気持ち悪いくらい、茂っているじゃないの。冥界と比べたらセンスないわ。それに明るすぎよ」

 彼女は悪態をつくと、周囲の草木に八つ当たりしたが、空しい自分の行為に悲しくなった。

「本当にここに、神剣カエルムてあるのかしら。どこをどう、調べたら」

 ベナは途方に暮れた。

 ユンクタス河を遡って、ここまで来たものの、アテは無し。ここは平原の真ん中のようで、東西南北を山脈が取り囲んでいた。

 諦めて暫く進むと、彼女は可笑しな雰囲気を感じたのだった。彼女は何かあると感じ、それに向かって進むと、平原にある小高い丘にたどり着いたのだった。

「この土地の気配、なんか違うわ。私たちのような冥界の臭いでもなく、地上のものでもなく。それに力の場を感じる」

 彼女は直感を信じ、丘を登り始めました。

 この丘は後にヘテロの王都となるターバスであった。

 丘には巨石が転がり、自然の神殿を作り出していた。その中をかいくぐり彼女はどんどん奥に進んでいった。暫く行くと、洞窟があり、その奥から霊力がわき出しているのが感じられた。自然の作り出した洞窟は、いくつにも別れ曲がりくねっていた。

 そして彼女はその奥に、灯りを見いだしたのだった。

「これは、人の灯り」

 怪しみ近づいてみると、一人の男が岩に腰掛け休んでいた。

「人間。お前は何者だ」

 ベナは堂々と男の前に歩み出た。

「私はダーナ。オレア国よりやってきた」

 男はかってカドモスと行動を共にした魔法使いであった。ナティビタスを手に入れた後、何処かへと姿を消していたが、ヘテロの土地にいたのだった。

「何故ここにいる?」

「自己紹介もなしか。まあいいだろう。俺は魔法の秘密を探りに此の土地へとやって来た。此の丘に異様な反応を感じ、この洞窟に到達したというわけだ」

「人間ごときに、それが分かるというか」

 ベナの態度はあくまでも見下した態度だった。

「貴方は礼儀を知らない人の様だ。どこか偉い身分なのか?」

「私が人間だと思ったか、私は妖魔。冥界よりやってきた」

 ベナの堂々とした態度は、ダーナに、それは真実であろうと判断させた。

「冥界の住人か。それは何処にある」

「近いようで、遠い場所だ。こちらと表裏みたいな世界だが。人間は足を踏み入れることが出来ない」

「道理で、貴女から強力な魔力を感じていたわけだ」

「ほう、人間にそれが分かるのか」

「多少はな」

 ダーナは初めて見る冥界の住人を凝視し、同様にベナも人間離れした魔力を持った男の姿をしげしげと見たのだった。

「あんた、本当に人間かい。妙に魔力に満ちているけど」

「少しまでまでは普通だった。有るとき魔法の力が発現し、力を得ることが出来た」

「面白いことがあるんもんだね。人間てそうなのか」

「私が特殊なのだ。あってはならない現象だ」

「人間の魔法力はここから出てるのか」

 ベナは洞窟の周囲を見渡した。

「魔法の源泉はここではない。この場所は地上の魔法の始まりの場所だ」

「意味が分からなけど。ここが大切な場所であることは理解した。私たち妖魔は冥界そのものが魔法だから。こんな聖地はないわ」

「なるほど、それは面白い」

「それはこちらの台詞よ。あんたたちの太陽は何故せわしなく天井を動き回るの。太陽てやつは動かないのが本当でしょうが」

 ベナの正直な言葉に、ダーナは苦笑した。

「そろそろ名を明かしてもらえないだろうか」

「私は妖魔、血汚池、サッキュバスのベナだ。冥王様の命により地上にやって来た」

 ベナは自信満々に、胸を張った。

「妖魔には主がいるのか。なんでその冥王様が地上に使いを出したのだ?」

「私に神剣カエルムを探すように命じられたのだ」

「剣か。主は刀剣類が好きなのか?」

「理由は分からい、近い将来、冥王様が地上の支配に乗り出される時に、必要なのかも知れない」

「冥王が地上にやってくるだと」

「そうよ。地上は冥王シャヘル様のものになるのよ」

 一瞬、ダーナは声を荒らげたが、すぐに平静にもどったのだった。

「君の主は多くの臣下を持つのかい?」

「そうね。冥界の魔獣とか魑魅魍魎の類いを入れたら一杯だけど。私みたいな妖魔は十名ほどだわ」

「その中で、君はさぞかし秀でた人物なんだろうね」

「情けないことに、私は一番下の第十位なのよ。魔力が強い者がいてね」

「それがそれは。しかし、優れた魔法をお持ちなのでは?」

 少ししょげたベナは、ダーナの問いに自信を取り戻した。

「そうなのよ。此の河の下流の国を私の魔法で二つ滅ぼしてきたの。人間てもろい物だわ」

「国二つをですか。どの様な魔法なのです」

「私は愛の魔法使い。男女の肉欲を増長させるのが好きなの。私の術にかかって人間は享楽を得て地獄の華となったのよ」

 ベナは恍惚とした。

「貴方達、妖魔にとって人間はどの様に見えるのですか?」

「人間?そうね貴方たちの世界で言えば蟻、蛙かした。そう花がいいかしら。野にある花を無理矢理摘み取り、好きに切ったり、刺したりたりして自分好みにし仕上げるの」

「あまり、有りがたくないですな」

「さっきから、私ばかり話して居るみたいだわ。あなたはここが魔法の始まりの場所と言ったけど、何か成果はあったの?」

 ダーナが質問を浴びせたので、不愉快になったベナは逆に問い返した。

「残念ながら、なにも見いだせなかった」

 ダーナは落胆するそぶりを見せたが、ベナは渦巻く瞳でダーナを凝視していた。

「嘘ね。なにか手に入れたわね」

 ダーナは妖魔が記憶を探っているを悟り、油断ならぬ奴だと抵抗した。

「分かったわ。貴方、剣を発見したのね。それは貴方の背後の岩陰にある」

 咄嗟にダーナは剣を確保した。

「二振りの剣、それは聖剣グラディウスね。私の求めた神剣とは違う」

 ベナが剣の事に知っていたので、ダーナは嬉しくなった。

「此の剣は何だ。どうして此処こにあった?」

「それは、雌雄の剣だわ。雄で一振、雌で一振。二つの剣は補い合い大きな力を出すわ。神剣ほどではないにせよ。妖魔や冥王様の脅威になるのは事実だわ。何故此処にあるのかは私にも分からない」

 ベナが妖しく迫って来たので、ダーナは聖剣を狙い始めたのだと気づいた。

「どうやら抵抗しなくてはならないようだな」

 ダーナは聖剣グラディウスを抜こうとしましたが、出来ませんでした。

「残念ね。その剣は持ち主を選ぶのよ。貴方は部外者」

「お前は此の剣を如何する」

「もちろん破壊だわ。冥王様の障害になるもの」

 ベナはそう言うと、妖しい術を放ってきた。ダーナは少し目眩に襲われたが、代わって心の奥から、欲が湧き上がってくるのを感じた。

「これは!」

「貴方を享楽の世界に導いてあげる」

 ベナは楽しんでいるようだった。ダーナの中で理性と本能が格闘を始め、次第に欲が力を付け始めた。

「随分、こらえ性のある人ね。ここまで持ちこたえたのは大した物だわ。でももうすぐ欲に狂ってまうわ」

 ベナは苦しむダーナの耳元に囁いた。

「どうかな。お前は自分の魔法が返されたのに気がつかないのか?」

 ダーナが苦悩の中に笑いを見せると、ベナは我に返った。

 彼女は自分が、自分の技にかかっていることに気がついたのだった。

「貴様、まさか、意馬心猿の術を私に!」

 ベナを、止めがたい衝動が襲った。

「私が下等な人間にやられるだと」

 両者の心理の戦いは続いたが、やがて決着はついた。

 ダーナはかろうじて理性を保っていたが、ベナは欲に溺れていた。

「妖魔ベナよ。私も限界のようだ。ここで決着をつけるとしよう」

 ダーナはこう言うと魔法秘技イル・バガットを放った。天空の星が回り始め、一斉に無数の星が落ちてきた。ベナは魔法の攻撃を受け、粉々に吹き飛んだ。

 欲が消え、正気になったダーナは、疲れたように立ち上がった。

「妖魔ベナよ。人は欲だけで生きているのではないのだ」

 彼は聖剣グラディウスを手に洞窟の外に出た。

「妖魔か。なかなか手強い相手だった。これは魔法が世界に現れた以上の問題だな。冥界の王が地上に攻め上ってくるとなると、対策を練らなくては。おそらく此の剣は勝敗に関わってくるはず」

 ダーナは岡を後にして、中原を目指したのだった。

 

 王都レオを出撃したパテリア軍はヒパボラ河を渡り、西に進軍した。途中属国のパトライから援軍がやって来て、彼らと合流した。パテリアがナティビタスを手に入れた時、パトライは敵対的な対応を見せていたのだったが。中原を統一するに至って自ら、強国に従うようになっていたのであった。今回の援軍もパトライが自発的にやったもので、パテリアが要求したものではなかった。

 パトライの援軍の将が挨拶に来たので、カドモスは出迎えた。

ここで、カドモスは驚いた。やって来たのは女将だったからである。

女将は配下の武将を従え、カドモスの前に進み出た。

「先鋒閣下、西域へ遠征をされると聞き及び、勝手ながら助勢に参りました。願わくば従軍することをお許しください」

 女将は武具をまとっていたものの、たいそうな美貌の持ち主で、凜として品があった。

「パトライ国からの援軍、有り難う御座います。我々の遠征に加勢いただけるとは、有りがたい限りです。我々は歓迎いたします」

 カドモスは横柄は態度をとらず、真心をもって接したので、女将も彼が信じるに足りる人物と判断したのだった。

 女将が去ったあと、カドモスはタキスに内心を語った。

「猛将がやって来るかと思ったら、女将とは驚いた。彼女は美人だった。軍服より宮中の優雅な服が似合うと思うな」

「そちらが普段着だろう」

「女官だというのか。まあ、実質的には飾りで、配下の武将が働くのだろうがな」

「お前は知らないのか、彼女はパトライ国、第五王女デルフィネ姫だ」

「王女だと!パトライは姫を援軍に送り出したのか」

「おそらく、援軍の話に王女がごり押しで加わったのだろう。かねてから彼女の勇猛ぶりは噂にあった。しかも王家では一番の美貌をもつ。お前に想像以上に彼女は使えると思う」

「じゃじゃ馬だというのか。もし彼女は作戦の障害だったら、とっとと追い返してやるぞ」

 カドモスは王女だろうが、なんだろうが、対応に扱うと決意したのだった。

 

 パテリア軍はさらに西へと向かい、西域への玄関口である関まで到着した。中原と西域北からの山々と南から延びてきた山々に遮られていた。西域への進路として複数存在してはいたものの、レオからの最短距離は要塞で守られた谷を通ることだった。

 パテリア軍の前には、強固な関が待ち構えていたのだった。千年の後、紀朱王が暗殺だれたのがこの城であった。パテリア軍が到着してみると、谷間を渡るように城壁が立っていた。障壁には旗が立ち、兵士がこちらの様子を覗っていた。

 カドモスは話には聞いていたが、予想外の固い守りに唸った。強引な突破は兵を失い、以降の作戦に支障をきたすので、手始めに使者を送ったのだった。しかし使者の弁舌は空しく、説得は失敗し、力ずくで落とさなくてはならなくなった。そこで彼は周囲の山に抜け道がないかどうか探らせたのだったが、獣道はどれも険しく、多くの軍勢を送りだすには無理があった。

 カドモスが魔法戦力を投入し、城門を破壊しようと決心したとき、デルフィネが提案をしたのだった。

「この関が築かれる前、ここには社があってそれは現在でもあります。村祭りがあり、それは神社への奉納で終わります。その神事の次期が丁度やってくるのです。それを利用してはいかがでしょうか」

「それは、渡りに舟だが、怪しんで門を開けないであろう」

 カドモスは、デルフィネの案を、殺気だって兵が祀りを許すとは思えなかった。

「私が部下を連れ山を越え、村人の化けます。西側からやって来た者には油断するでしょう。私は巫女に変装し、部下とともに社に向かうと見せかけ、一気に城門を襲います」

「危険だ。貴方は王族ではないか」

 カドモスは無謀な賭けに反対した。

「それは承知のこと。我々は全滅しても本望と思っております。われわれに機会をお与え下さい」

 デルフィネは懇願すると、タキスが賛同した。やむなくカドモスは同意し、彼女に無理があったら中止するようにと指示を出し、送り出した。

 デルフィネは配下から精鋭五十名を選定すると、農民の姿に変装すると険し山越えをし、西に出た。全員の服の上に華々しい飾りをつけ、荷車に酒樽と麦、さらに花を積み、さらに五名の女兵に化粧を施し乗せた。めいめいが飾りのついた木の枝を振り、笛太鼓で関に向かったのだった。

 関では、パテリア軍が押し寄せる中、西側より祭りの村人が近づいてきたので、これを追い返そうとした。しかし人は神事だと食い下がったので、やむなく指揮官が説得にやって来たのだった。

「今、敵が押し寄せている真っ最中である。祭りは延期して貰いたい。それに今年は少し早いではないか。それにいつもと少し違うが」

 指揮官は困惑していたが、少し怪しんでいる様子だった。

 すると巫女装束のデルフィネが進み出て、まくし立てた。

「この神事は神聖なものです。延期するわけにはいきません。あなたは、敵が攻めてきているから中止しろと言われる。自信がないのですか。戦う前から負けていますよ」

「何を言うか。この城は落ちぬ」

 指揮官はけしかけられて、憤慨した。

「ならば、なんの支障もないはずです」

「そうだが・・・」

 言い負かすされて指揮官は口ごもった。

「さあ、皆の衆。お許しが出たわ。社に行く前に、兵隊さんの慰労をするわよ」

 デルフィネの言葉に、村人は喜んで笛太鼓を鳴らした。指揮官は渋い顔で諦め嵐が過ぎ去るのを待つことにした。

 祭りの一行は城内を右に左に彷徨いながら進み、大騒ぎした。兵士達も祭りの行列に目を奪われ、戦いを忘れ、お祭り気分になった。

 指揮官はお祭りに、城内の警戒を失って、そこをパテリア軍につけこまれては大変と、城の周囲を警戒していた。ところが突如、城門が騒がしくなり、驚き向かってみると、祭り村人が兵を襲っていたのだった。

 村人は次々に兵士を仕留め、門が制圧されようとしていた。パテリアの罠にはまったと悟った指揮官は直ちに兵を向かわせ、潜入者を始末しようとした。しかし敵は精鋭だっあようで容易に鎮圧が出来なかった。

 特に巫女装束の女は素早く、一人で五人をなぎ倒していた。村の娘に扮した娘も同様に他の仲間が門を開く時間を稼ぐために奮戦していた。やっと指揮官が城門にたどり着いた時、門は大きく開かれ、そこからパテリア軍が一気になだれ込んだのだった。

 城内に入ったカドモスはデルィフネの迎えを受けた、カドモスは馬から降りると、足早に近づき、彼女の功を褒め称えた。

「貴方は姫と聞き及んでいまずぞ。王族の貴方がどうしてこんな危険なまねをされたのです?」

「生まれがどうあろうと、私は私の思いのまま、歩みたいのです。今回も太陰星が指し示したからです」

 その言葉に、カドモスは驚き、喜々とした。

「まさか貴方が仲間だとは」

「仲間?」

 デルフィネは首を傾げ、満面の笑みを浮かべるカドモスを見上げた。

 かくして、関は落ち、パテリアは西域の門を押し開いたのだった。




<中原および東域地図>
__________________________(ムルティ山脈)_____
高山山山山山山山高山山山山山山山山山山高高高山山高高高山高山脈高^^^^^^^
山山山^^^山山山山山^河^山山山山山山山山山山山山高山脈高^^^[ターバス]^
山山^^川^^山山^^河^^山山山山山山山山山山山山山高山脈高^^^^^^^^
山^^^^川[ナティビタス]河^^^^^山山山山山山山山^^^^高山脈高^^^^河
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^山^^^^^河^^^^^^川^^^^平平平平^^^^^^^^^山脈^河^^^
山山^^^^河^^^^^川^^^^^平平平平^^^^^^^^^^^^河山脈^^
山山山^^^^河^^川^^^^^^平平平平平平平平^^^^^^国^河^^山脈^
^山^^^^^^^河^^^^^^^^平平平平平平平平平平平平^^^河^^^山脈
^関^^^^^^河^^^[帝都]^^平平平平平平平平平平平平^^^国^河^^^^
山山山^^^^河^^^^^^^^^^平平平平平平平平平平平平^^^河^^国^^
山山^^^^河^^川^^^^^平平平平平平平平平平平平^^^^^河^^^^^^
山^^^^^河^^^^^^^^^平平平平平平平平^^^^^^^^河^^^^^^
海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海
〜〜〜〜(ヒパボラ河)〜〜〜〜〜〜ラウド海〜〜〜〜〜〜〜〜〜(ユンクタス河)〜
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