ミュステーリオン   作:のんき三郎

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<芙蓉記登場人物リスト>

カドモス  (六合星のカドモス)中原からの流れ者
ダーナ   (勾陳星のダーナ)元オレア国天文官 魔法使い
イアソン  (貴人星のイアソン)知将、元行商人
ルキアノス (玄武星のルキアノス)元オレアの武官、槍の名手
ネクタリオス(青龍星のネクタリ)用心棒家業、弓の名手
タキス   (天空星のタキス)双鞭の使い手 魔法使い
レアンドロス(白虎星のレアンドロス)元ハニア国海軍士官
ミルトス  (太常星のミルトス)僧侶 治療術使い
デルフィネ (太陰星のデルフィネ)パトライ国第五王女 女将
ミュージカ (天后星のミュージカ)発明少女
芙蓉姫   パテリア第三王女

デクスター カドモスの弟分
ラエバス  カドモスの弟分

黄武    パテリア第二王子、後パテリア王
紅花    パテリア第四王女

ラピス   ミュージカの祖父、発明博士
バシル   ラピスの弟子

ミケーネ  占い師、(アルマロスのミケーネ)
ゼノビオス ミケーネと敵対する謎の人物

シャヘル   冥界の王 十人の妖魔の主

ウーマー   妖魔一位(抽腸獄 月光のウーマー) 
コスタ    妖魔二位(穿肋獄 ミトラのコスタ) 死者を蘇らせる
ハスタ    妖魔三位(針山獄 一角獣のハスタ) ホーネスの仇
アエヌス   妖魔四位(焼手足 セルヌノスのアエヌス)戦いに疑いを持つ者 
ラング    妖魔五位(抜舌獄 漁色のラング)  大蛇に乗る
ベネノ    妖魔六位(毒蛇獄 美粧蓮歩のベネノ)女性、二匹の獣を連れる
カーサー   妖魔七位(鋸解獄 紅蓮刀のカーサー)巨象に乗る
カスピス   妖魔八位(尖刀獄 ヒュブリスのカスピス)
グラッシス  妖魔九位(寒氷獄 黒海馬のグラッシス)怪鳥に乗る
ベナ     妖魔十位(血汚獄 サキュバスのベナ)意馬心猿の術使い


<西部諸国>
パラ    ウンダ河上流左岸
タラース  ウンダ河中流左岸、大国(後のメディス)
ザンクレー ウンダ河下流左岸
ギオン   ウンダ側河口左岸
ユーベイ  ウンダ河上流右岸(後のアデベニオ)
オイア   ウンダ河中流右岸、大国
ロクロイ  ウンダ河下流右岸
シノーペ  後のシルバの森縁東
ソロイ   後のシルバの森縁西
アンキュラ 後のシルバの森の東、シノーペの北
エデサ   後のシルバの森の西、ソロイの北
シューロス 後のソサ南部
ヒスティア 後のカーボ、シューロスの東


第十二劇 十将集結

 芙蓉姫のいる都レオに三名の妖魔が出現した頃、西ではカドモス率いるパテリア軍はタラース国軍と遭遇しようとしていた。カドモス等先鋒軍は激しく抵抗を見せていた関を、デルフィネの活躍によって突破すると、西へと向かう道なりにある砦を、なんなく落とし続け、タラースの都まで中程のところまで至っていた。

 中原を統一したパテリア軍は、先鋒軍であったものの、その軍勢の数はタラース一国の全軍に匹敵するものであった。魔法部隊の兵もこれまで滅ぼした諸国の能力者を動員しており、それだけでも恐らく、他の国の追従を許さない戦力を有していた。

 タラース国はパテリア軍が西へと進軍を始めると。北のパラ国、南のザンクレー国と和平を結ぶと、兵力を王都へ集中し防衛の体制を整えた。パラ国にしてもザンクレー国にしても、これまで自国領をタラース国に狙われていたが、中原を統一したパテリア軍が西部に魔の手を伸ばしてきたので、敵に手を貸すことにしたのだった。もちろん連合を作るつもりはなく、噂のパテリア軍が西部最強のタラース軍を相手に、どれだけの戦いを見せるか高みの見物をしようとしていた。その結果次第で、タラース国に協力するかパテリア国に着くか判断しようとしたのである。

 タラース軍は侵略してきたパテリア軍が全ての戦力を投入していないことを知っていた。パテリア軍は背後に圧倒的な兵を有しており、長期戦になれば、数、財力の差でタラースが負けてしまうということは分かっていた。そこで彼らがとった方法は、先鋒軍を退け、タラース軍の強さを実感させ、西への野望を挫くことであった。さらに西部連合を結集し、盟主となろうとしていたのである。

 実は、パテリア軍も弱みがないわけではなかった。中原を統一し兵の数は倍増したが、忠誠心は薄く、負け始めれば簡単に逃亡や、離反する兵が現れるのだった。そのためには力を見せつけ、負けないようにしなければならなかったのである。さらに土地について不慣れで、地形を探りながら進軍をしなくてはならなかった。その為、西に向かう速度は遅く、タラース軍が迎え撃つ準備を整える時を与えてしまったのである。

 迎え撃つ、タラース軍は地の利を最大限に利用しようとしていた。伏兵をあちらこちらに配備し、側面、背後からパテリア軍を襲うつもりであった。作戦地では枯れ木、枯れ草が集められ、油も用意された。タラースは大規模な火災を仕立て、パテリア軍を袋の鼠にして焼き殺すつもりだったのである。

 タラース国はパテリアがいかに魔法戦力を駆使して、勝ち続けたか、その戦法についての研究し、国軍にその訓練を施していた。パテリアのお得意の戦術で一泡吹かせようとしたのであった。タラース全軍がパテリア軍を罠にはめようとしたとき、パテリア軍は進軍の速度を上げていた。タラース軍はパテリア軍の進撃に抵抗することなく、退却を繰り返し、作戦地帯までパテリア軍を誘き寄せていたのである。

 タラース軍はパテリア軍が全軍をもって追いかけて来たので、部隊を分散し囲むように密かに展開させた。しかしその彼らの背後から、パテリアの軍勢が現れたので、軍は大混乱となった。この瞬間をパテリア軍は見逃さなかった。一気に騎兵を出撃させると、敵の左翼を粉砕させ、歩兵軍を突っ込ませると、その高台に陣取ってしまったのである。タラース軍の用意した罠までもう少しのところで、パテリア軍は道を外れたのであった。

罠を見破られたと悟ったタラース軍は、左翼を立て直すと、パテリア軍とは反対側の丘陵に陣を移動したのだった。タラ−ス軍は左翼の背後に現れた、パテリア軍の動きを探るため調べさせると、パテリア軍に動きがあった。一団が前に進み出たのだった。その衣装旗印から、パテリア軍は魔法軍を前進させ、魔法戦を仕掛けるつもりのようだった。

 そこでタラース軍も新設の魔法部隊を前面に押し出すと、魔法勝負に挑もうとしたのだった。この時、パテリア別軍を調査に行った者が戻ると、直ちに報告したのだった。パテリア別軍が忽然と姿を消したということであった。

 この時王は、正面で向かい合って、戦いを始めようとしている自軍の魔法使い軍をみて悪い予感が走った。王は慌てて、退却の合図を送ったが、時は既に遅かった。突如、歩兵軍が姿を現すと、タラースの魔法軍に向かって突撃してきたのだった。魔法使いは強大な力をもってはいたが、白兵戦にめっぽう弱い存在であった。瞬く間に全滅させられると、それに続くかのように、パテリア軍が高台から一斉に降りてきた。

 タラース軍はパテリア軍の猛攻に一時耐えてみたものの、魔法攻撃を受けて、敗退したのだった。残存兵はちりぢりに逃げ、王は王都に逃れたのだった。

 今回パテリア軍は新しい戦術を試みていた。それは幻覚を広範囲に発生させることだった。パテリア国が北の山間部で魔法を戦力として使い始めた頃から、幻覚を使う者達は存在した。ただ此の魔法は影響を与える範囲が狭いので、戦いには使えなかった。以降の研究により、複数の魔法使いが協調することで、かなり広範囲に幻覚を見せることに成功したのだった。先にタラース軍の背後に現れたパテリア軍は幻覚であり。次に魔法使い軍が戦った時は、逆に歩兵部隊の存在を幻覚によって消し去っていたのである。

 こうしてタラース国の運命を分けた一戦は、敗北に終わり、彼らは王都に入城すると、守りを固めたのだった。しかし頼みの綱の魔法使いを亡くし、城での戦いは一方的なものであった。強固な城の門は、魔法使いが技を放すと、壁が砂に成って崩れ去り、強固だった門も砂に流され、地面に横たわった。城の防御など魔法使いには無意味だった。守り切れないと悟った王は、王都から一族共々逃れたのだが、途中農民に狩られて、果てたのだった。女達は攫われ売られたが、男達は殺され、武具や金ものものを剥ぎ取られると、河に捨てられた。

 

 ターラス国の宮殿に入ったカドモスは、部下に強く兵隊の略奪を禁じることを命令し、武官には国庫の状態とターラス国の統治機関について調べさせた。そして武官には軍事施設の位置、規模に急いで調べさせ、タラースの残存兵について調査させた。

 自らは、タラース国が滅んだことにより、北のパラ国、南のザンクレー国さらに対岸のオイア国がどう動くのか、反応を覗ったのだった。

 着々と西部攻略を進め、橋頭堡を西部のど真ん中に作ったカドモスは、西部までパテリアの支配化に置くことに、複雑な思いだった。かつてカルキス国攻略の際は、先鋒として敵国深くに取り残された。壊滅寸前だった。その時は芙蓉姫や魔法使いのダーナによって救われたが、芙蓉姫の責めを避けて、王は戦死させるつもりだった。だから、パテリア王の悪巧みが、今回も有るのではないかと警戒していた。 芙蓉姫の願いがなかったら、当然辞退するはずであったし、不愉快な仕事だと、浮かなかったのである。

 カドモスが政務に追われた時、一つの報告がなされた。都の東で、やたら強い男が娘を馬に乗せ、東の逃れたということであった。一般人の旅人が逃れたなど、どうでも良いことであったが、この話に、何故かカドモスは妙に引っかかるものがあった。

 そこで詳しく報告させると、以下のようなものだった。パテリア軍の小部隊は、タラースの残存兵を探査していたところ、東に向かって旅を続ける、馬を見つけた。戦い後まもない頃で、森や草むらに隠れた落ち武者が多数居て、旅は危険な状態だった。ほとんどの旅人は、安全になるまで控えているはずなのだが、この一行は平然と東に向かっていた。さらに、このような場合、多くの用心棒を雇い、囲まれても対処できるよいうにするものだが、彼らは二人だけで旅をしていたのだった。怪しんだ隊長は馬を走らせ、その旅人に近寄ると、精悍な男であり、後ろに可愛い少女を乗せていた。

 隊長が男に問いただすと、只の旅人であると男は述べたが、その目は修羅場をくぐり抜けたような、猛者の目をしていたのだった。さらにその娘は、町娘とは違った上品さを感じさせたのだった。そこで隊長は、彼らが危険地帯を東に向かう、タラース王家一族の者ではないかと疑い、拘束しようとしたのだった。

 しかし、この行為には、謎の男は従う事はなく、兵士を蹴散らすと東に逃れたとのことだった。男は弓に優れ、それを恐れた隊長は、追跡を断念したということだった。

 この報告を聞いた、カドモスは何か、直感が閃き、弟分のラエバスとデクスターに執務を任せ、自ら手勢50騎を引き連れ、東に馬を走らせたのだった。途中、馬を換え、休むことなく走り続けたところ、関の近くでやっと追いついたのだった。途中、脱落する者が現れ、この時20騎ほどに減っていたのだった。それほどの強行軍だったのである。

「そこの方お持ちあれ」

 大きな声で、東に向かう男にカドモスは呼びかけた。

 呼びかけて、馬を止めたのは、青竜星のネクタリオスだった。彼は騎兵が20騎の一団となったので、先に戦った者達が、追いかけてきたと勘違いした。

「俺たちは、ただの旅人だと言ったが信じ切れないか!」

 ネクタリオスは短槍を手に持つと、迎え撃とうとした。

「待たれい!貴方を捕らえようとしに来たのではない。二三確認したいだけなのだ」

「確認だと。お前が引き連れている者達はなんだ!」

 言われて、カドモスは背後を振り返り、警戒するのも無理ないと思った。

「私、一人でそちらに向かう。話を聞かせてくれ」

「よかろう。来い!」

 カドモスは馬を下りるとゆっくりと近づいた。暫くすると、後ろにしがみついていた、ミュージカが声を上げた。

「まあ、カドモス様ではありませんか?」

 ミュージカの言葉に、ネクタリオスは驚いて、かの嬢の顔を一瞥した。

「ラピス殿のお孫さんではないですか」

 カドモスも、意外な顔をした。ミュージカは馬を降りて、彼の元に走り寄ると、一礼したのだった。

「ナティビタスではいろいろお世話になりました。お嬢さんの魔法の道具のお陰で我々は救われましたぞ」

「カドモス将軍。私がしたことは、大したことでは有りませんわ。お仲間の力によるものです」

ミュージカはあくまでも謙虚だった。その姿にカドモスは彼女を愛らしく感じた。

「お嬢さん。なんでこんな物騒なところを、旅をされているのです。私を訪ねてみえたら、配下の者を一杯つけて、お送りするところなのだが」

「私には、お爺様がネクタリオスという方をつけておいでですわ」

 ミュージカは、黙って二人の会話を終わるのを馬上で待つ、ネクタリオスを指し示した。

「その名を聞いたことがある。弓の名手で、彼の右に出る者はないという。道理で部下が追跡を断念した訳だ」

 カドモスは、ラピスが此の男を選んだ事を納得した。

「今回はラピス殿とは一緒でないんだ。良く許されたね」

「私はオイア王から命を狙われおり、ここまで逃れて来たのです」

 この言葉に、カドモスは眉間に皺を寄せた。

「そのことは本当かい。一体、どうしてそうなるのです」

「私のからくりが王を襲って、それに怒られた王が、私を殺めようとしているのですわ」

 彼はこれには我が事のように怒った。

「事情は分かったが、何処を目指されている?」

「私の天后星が東を指したので、東に向かったのです」

 カドモスは以前、少女と侮り仲間にせず、後悔した事を思い起こした。

「それから、ネクタリオス様も私同様、青竜星が東を指したのよ」

 彼女は面白くこれを付け加えたが、カドモスはこの言葉に、驚きを隠せなかった。

「あの男は、仲間なのか。これで十将全てが分かった」

 ミュージカは彼の興奮した様子に、首を傾げた。

「ミュージカ。どうだろう、私と一緒に来ないか?」

「しかし」

 彼女は困ったように、ネクタリオスを振り返った。

「もちろん、彼も一緒だ。私は歓迎する。君は、残されたお爺さんが心配でないかね?」

「お爺様が」

 彼女は逃げることが精一杯で、そこまで考える余裕はなかった。

「君を逃したことは知れるだろうから、何か手を打たなくてはならない」

「お爺様に危害が及ぶのでしょうか?」

 ミュージカの眼はうるんでいた。

「ラピス殿は私が守りましょう。直ぐに会えるように、貴方は遠く東に向かうのではなく、私のもとにいるべきだ。隣国の居れば、消息もわかるというものです」

「しかし、星は東を指し示していました」

「今はどうです?」

 ミュージカはゆっくりと空を見上げると、天后星が動かないでいた。

「どうしたのでしょう。星は東を指し示したはずなのに」

 こうして、彼女は説得されて、カドモスのもとにいることにしたのだった。ネクタリオスは保護者が見つかったので、自分の役目は終わったと思い、彼女を引き渡すと、その場を去ろうとした。しかし、カドモスはそれを止め、引き続き、彼女の警護の依頼をネクタリオスにしたのだった。

 こうしてカドモスは二人の仲間を引き連れ、揚々と帰還したのだった。

 

 タラース国滅亡は周辺国に衝撃を与えた。西部一帯では、最大の強国であるタラースが統一を果たすと噂されて来たからである。しかし、その兵力も中原を統一したパテリアの敵ではなかったのである。この結果に、北のパラ国、南のザンクレー国は、恭順の意を表して来たのであった。さらに南の海に近いギオン国は、間にザンクレー国があったので、様子見を決めていた。

 パテリア軍はウンダガ河左岸に影響を与えたが、右岸はまだ様子がちがった、タラースから一番近い国であるオイアは大国のブライドを持っていた。パテリアの支配地とは大河を挟んでいたので、水軍の戦いで打ち破ろうとしたのであった。彼らは中原の水軍など弱い者で、陸戦が主であると勝手に思い込んでいたのであった。

 しかし、それは陸から最短距離で進軍してきた彼らは、水軍の力を得られないでいたので、事実上同様の結果になっていたのである。レアンドロス率いる水軍は、海賊を退治し近海を安定させると、西に向かい西部の攻略を始める手はずになっていたのである。

 陸戦はタラース軍が全ての戦力を集中させたため、一撃で粉砕し、そのまま王都を制圧したので、短期間でタラース領を手に入れたのだが、これ以上進行させるのは、体勢を整えなくてはならなかった。ウンダガ河を渡るには船が必要で、タラースの軍艦は、滅亡後は賊と化し、周辺の村を襲うなど、猛威を振るていた。

 このため、カドモスはウンダガ河下流を支配する、ギオン国を従わせる必要があった。

この地を通って、レアンドロス率いる水軍を、使ってウンダ河の航行の安全を保とうとしたのであった。カドモスは書面を使者に持たせると、直ちに傘下となるように送り出したが、その返事は使者の亡骸であった。

 これに激怒した、カドモスは直ちに軍を編成すると、弟分のデクスターとラエバスに後を任せると、自ら軍勢を率いてギオン討伐に向かったのである。

 

 遡ること少し前、ミュージカの捕縛に失敗した王は、彼女を逃がした人物を罰しようとした。結果は分かっていたように、彼女の祖父のラピスが逃がしたと、直ぐに分かった。すると王は代わりに、ラピスを処刑しようとしたが、これには弟子であるバシルは、猛反対して、不思議な技術が失われてしまうと説き伏せたのだった。王の腹の虫は治まらなかったが、自国が開発した技術を捨てては、損だと、思いとどまったのだった。その代わりに自宅内謹慎を申しつけ、一歩も外に出られないようにすると、兵器の開発を命じたのだった。

 分かって居たことだが、これにはバシルも頭を痛めた。肝心のミュージカは国外に逃れ為す術がなかったのである。彼は酒を浴びるほど飲むと、ミュージカが残した卵形制御装置のルルを撫でながら、話しかけていた。それは同じ事を繰り返す愚痴であって、教えて暮れの繰り返しだった。

 酒に酔って、ついうとうとして、目が覚めた時、目の前に一人の男が立っていた。それはどこまでも黒く冷たく、光沢をもった服を纏った男だった。バシルは一瞬、酒場で酔いつぶれたにかと、眼を擦ると、自分の部屋であったので、驚いた。

見知らぬ男が、堂々とそこに立っていたからだ。

「目が覚めた様だな」

 男は待っていたかのように話しかけた。

「お前は、誰だ。何故私の部屋にいる?」

 バシルはしゃっくりをしながら、男を指さした。

「私は、ウーマー。冥界よりやって来た」

「お前は、俺の魂を獲りに来たのか!」

 バシルは尻餅をつき、震え上がった。

「お前の命など何の価値もない」

「では、何をしに来たんだ」

 腰砕けになったバシルは、机にしがみつき立ち上がった。

「お前は何度も、誰か助けて暮れと呼んだではないか」

 ウーマーは静かに答えた。言われて、バシルは確かに卵に話しかけていたことを思い出したのだった。

「確かに、そう言ったが、なんのことだか分かるまい」

 バシルは冷ややかな態度をした。

「お前の、望みは王に命じられた武器の作成だ。お前の師の孫娘が持って居た技術で作られた物のな」

 バシルは言い当てられ、飛び上がらんばかりに驚いた。そしてウーマーに真剣な眼差しを向けたのだった。

「あんた、彼の技を知っているのか?」

「魔法具のことであろう。お前が撫でていた卵を見ればわかる。それは制御装置だ」

 興奮して、バシルは鼻息が荒くなった。

「それじゃ。そこにある鳥の人形を動かすことができるか?」

「これか、良かろう」

 ウーマーが小鳥の人形を手に取ると、そっと手の平においた。すると、生命でもやどったかのような鳥が部屋を飛び回ったのだった。これにはバシルは歓喜して、ウーマーの手を取ろうとしたが、彼は避けた。

「どうやら娘は、音で制御しようとしたらしいな。この卵形の構造が示している。直接的に源泉に触れようとしているな。効率的といえば効率的だが、操作に熟練した技が必要となる」

 卵を手に取り見渡した、ウーマーは冷静に分析していた。

「お前にはこれをやろう」

 バシルが渡されたのは横笛だった。

「この笛は、音を自動調整し、卵に伝える。これでお前も使えるようになる」

「恩にきるが、魔法具の作成方法について教えてもらえないだろうか」

 厚かましくバシルは要求した。

「それはお前には無理だ。才能が要る。私が微細なところは作成するから、荒い部分の外枠を作れ」

 バシルはうなずき了解した。

「あんた、なんで俺を助けてくれるんだ」

 彼は疑問を素直にぶっけた。

「私はパテリアに借りがあってな。お前が、彼ら相手に魔法具を使って、苦しめさせたら私は満足だ」

「なんだか分からないが、それが取引条件だな?」

「そう考えてもらっていい」

 バシルはウーマーが冥界から来たと言ったことも忘れて、彼を信じ切ってしまった。

 彼は喜んで、特上の酒と器をもって、ウーマーを歓迎しようとしたが、既に姿はなかった。

 

「人間相手に、抽腸獄、なにをしているんだ」

 一部始終を見ていた抜舌獄のラングは、木によりかかり、つまらなさそうに、一休みしていた。

「あの魔法具、人間が作れるものではない。恐らくワルコの配下であろう」

「彼奴等か、奴らが登場して、めんどくさいことになったな。冥王様の地上支配の障害となるのか」

「冥王様は、奴らが刃向かって来るのを良しとされていた。ワルコが力を付けてくるのを望まれているようだ。面白いことに、ワルコの配下については、なにもしても構わぬが、ワルコには手をだしてはならぬと申された」

「シャヘル様は、歯ごたえのある敵を望まれているのだろう。わざわざ実らせて千切るつもりとはな。ところでお主は、彼の人間など何故相手にするのだ。我々が直にワルコの将を葬ればいいだけではないか」

「この前、寒氷獄が探ったワルコの将の記憶によると、奴らは、地上をワルコの下に統一しようとしているようなのだ」

「統一。なんだそれは。人間という種族をまとめて何だというのだ。今足下を張っている地上の蟻を統一する方が、遙かに難しく、意味ない事のように思えるが」

「ワルコの将は自分が人間だと自認しているようだ。自らが魔将であることが分からず、人間世界の統一を夢みているのであろう」

「で、その夢の中に割って入ろうとしているのか」

「その通りだ。シャヘル様がワルコと直接対峙されるまで、我々は地上を混乱させておかなくてはならない。奴らが人間の統一を目指すの有れば、我々は分裂を目指す」

「全く、人間を使って回りくどいことだな。俺は直接、手を下したいがな」

「なら試みてみるか。対岸にワルコは軍勢を集めている。ここにワルコの将の中核となる六合星のカドモスという男が来ている。鋸解獄のカーサーを葬った男だ」

「面白い」

 ラングは身を起こすと、肩をほぐした。

「だが本格的に攻撃を仕掛ける必要はない。新たなワルコの将の情報を手に入れるのが目的だ。そこそこに引き上げてこい」

「慎重だな。鋸解獄が殺られたのは、同等の力を持った者が地上にいないと、油断したからだ。俺はそんなへまはしない」

「相手の実力が分からないのであれば、無理をするな。この前ワルコの近くにいた、勾陳星は恐るべき将であったぞ」

「あんたが、そう言うのであれば注意するとしよう」

 鋸解獄のラングは、一人東に向けて発つた。

 

 ラングは対岸のパテリア支配地についてみると、ウーマーが言っていたカドモスという男は軍勢を率いて、南に進軍したあとだった。通常戦力だけで十分と判断したカドモスは、魔法軍団を、オイア国攻略のため温存させ、新たに仲間になった、ネクタリオスにミュージカ、そしてデルフィネとともに出発していた。ここに残るワルコの将はタキスにみだった。魔法軍を指揮するタキスは、、変容をきたしている魔法使いを外し、休養を与えると、訓練過程が終了し戦力となり得る魔法使いと交代させた。こうして、一人の魔法使いに負担がかからないように調整し、常に強力な魔法軍を維持していた。

 カドモス軍がザンクレー国を通過し、ギオン国の国境まで来たときそれは起こった。オイア国が軍船でウンダ河を渡り、左岸に上陸してきたのである。手薄になったパテリア軍タラース領守備隊を攻め、王都を獲ろうとしたのである。オイア国はこのままパテリア軍を放置すれば、左岸全土は支配され、直ぐに自国に攻め入るであろうと判断し、パテリア軍の本軍が到着しておらす、また先鋒軍主力が南下した、この機会を狙ったのだった。パテリア軍の水軍は此の一帯におらず、オイヤ上陸軍を背後から脅かす存在はなかった。

 オイヤ軍が王都の北、直ぐの所に上陸したきたと聞いたラエバスとデクスターはタキスと対応を練った。オイヤ軍は大規模な攻撃を仕掛けており、パテリア留守部隊では通常の戦いをしていては、大きな都を守り切れるものではないとの判断から、魔法戦力を有効に使い、カドモス軍が引き返してくるのを待つこととした。デスクターは城も守備のまわり、ラエバスとタキスは野戦に打って出た。

 オイア国の大軍勢を前に、タキスはタラース国を幻惑させた、広範囲に及ぶ幻術をほどこした。これにより軍勢が大勢現れたように見せ、相手を混乱させることが出来るのである。計画通りに事は進んで、オイア軍は幻の軍勢に惑わされ、対応を誤り、部隊が分断されてきた。そこでラエバス率いる通常軍が猛攻をしかけ、オイヤ軍を岸に逐い戻したのだった。船に逃れようとしたオイア軍を追い打ちをかけようと、タキスは魔法軍に攻撃を命じた。稲妻は空を駆け、大地を炎が狂ったように走り、水上では水が竜巻となって船を襲った。多くのオイアの兵が雹に襲われ逃げ惑った。

 パテリアの魔法戦力を前には、オイア軍も退却するしかなかった。勝負はつき始めたとき、突然、パテリア魔法軍の起こした魔法が次々に打ち破られたのだった。この突然の出来事にタキスは驚いた。オイア国には魔法使いがいないと思い込んでいたからである。

そこで、タキスは、対魔法戦の体勢をとるように命じたのだった。魔法使いの密度を高め、相手の魔法を弾き返し、攻撃を一点に集中し威力を高めようとしたのだった。

オイアの魔法使いは数か少ないのか、一点から放されているようだった。カドモスは何度か索敵攻撃を仕掛けさせ、相手の能力を推し量っていたが、こちらの集中攻撃に耐え抜き相当の力を有していることがわかった。

 そうこうするうちに、謎の魔法使いからのパテリア軍への攻撃が始まり、密集による魔法防御をなかったかのように、次第に魔法使いが削られ始めたのである。敵は魔法使いただ一人だった。これは普通ではないと感じたタキスは魔法軍を散開させ、謎の魔法使いを扇状に囲むと、一点攻撃を命じたのだった。

 魔法の一点攻撃は当たった、しかし敵魔法使いは微動だにしなかった。敵の軍勢を一気に屠る魔法攻撃が、男に通じなかったのである。逆に男が手を挙げると、魔法使いの精気が吸い取られ、魔法使い等は地面に倒れ始めた、そして今度は一陣の風のようなものが草地を走ると、魔法使い達の体に、斑点がいっぱい現れ、いぼのような物ができたのである。やがて体が発熱し、嘔吐、下痢がおこり全身の関節という関節が痛み始めたのだった。魔法使い等は全身の痛みにたえね、うめきながら地面を転がり回り、やがて白眼をむけて果てたのだった。魔法軍があらかた、片づくと、魔法使いの矛先は通常軍のラエバスにむかった。

 パテリアの魔法軍は壊滅状態であった。この事態に驚いたタキスは、単身謎の男目指して、馬で突進した。一騎打ちを仕掛けたのである。

 謎の男は、タキスを攻撃したが、彼は羽根を取り出し、一振りして、武具を纏うと、その攻撃を弾いた。

「ワルコの将のおでましか」

 男は嬉しそうに、不敵に笑った。

「お前は何者。オイアの魔法使いか?」

「そんなもの知らぬな。俺は冥王様の配下、抜舌獄のラング。ワルコの将に挨拶に来た」

 この言葉に、タキスは合点がいった。

「それは構わぬが、よくも俺の大切な部下を、死なせてくれたな」

「あの魔法使い等か。なんの役に立つ。俺を集団で攻撃しているみたいだったが、まるでそよ風が吹いているようだったぞ」

「言ってくれるな」

 部下の死を馬鹿にされたタキスは渾身の魔法で、攻撃を仕掛けると、ラングも応じた。両者高速で動き回ると、無数の魔法を放し合った。

「さすがワルコの将、少しは歯ごたえがあるようだな。しかし俺には仕事があってな、遊んでばかりはいられないのだ」

「貴様、これが遊びだったというのか」

 タキスは激しく怒った。

「お前には協力してもらうとしよう」

 ラングの姿がダブったかと思いきや、タキスは体を吹き抜ける、風を感じたのだった。空気の流れに乗って、何かが飛んでゆくのが分かった。体は流れの中で動けなかった。

「貴様、俺の体の中からなにか取りだしたな」

 解放されたたタキスは汗をかいていた。

「どうやら、新しくネクタリオスとミュージカが加わったようだな」

「仲間に関する情報か!」

 タキスは悔しがり、ラング仕留めようとしたが出来なかった。代わりにラングはパテリアの歩兵部隊に一撃をあたえると、そのまま姿を消してしまった。タキスは地面を叩いて悔しがり、急ぎ生き残った魔法使いを救出すると、旧タラース王都に逃げたのだった。

 パテリア軍の攻撃にさらされ、船に逃れようとしたオイヤ軍は、内部分裂したのか、パテリア軍魔法軍が壊滅したと知り、反転攻勢に転じた。

 

 パテリアの魔法軍が壊滅的被害を受け、守備隊は都に籠もり、オイアの大軍勢に攻められ陥落したとの報は、はカドモスにももたされた。皮肉なことが、陥落した理由が、城を落とした際、魔法によって壁が崩され、その復旧が出来てなかったからであった。カドモスは地団駄踏んで悔しがったが、弟分のカドモスとデクスター、さらに仲間のタキスが東に逃れたと聞いて安心した。早速、彼はギオン国攻略を中止すると、軍勢を引き返えさせた。

 どこで判断を誤ったのかと、カドモスは馬上で自問自答をしていたが、そこにネクタリオスが後ろにミュージカを乗せて馬を寄せていた。

「先鋒。油断してはならない。斥候を放ったほうがいい」

「ギオンは追いかけて来るまい。むしろ胸をなで下ろしているところだろう」

「ギオンではない、ザンクレー国のことだ」

 ネクタリオスは厳しい目を向けた。

「彼らは、恭順したはずだが」

「信じてはいけない。それは勝ち続ければ、であればの話だ」

 しばらくの間、カドモス考えたか、やがて斥候を放すように命じたのだった。ほどなくして、ザンクレーの軍勢が、この先で待ち構えているとの報告があった。

 カドモスは報告を聞くと、兵に戦闘準備を整わせ、二つの部隊に命じ左右の岡の兵を背後から追い落とすように命じた。そのまま進軍してみせると、カドモスら本体が通過しようとしたその時、丘の上からザンクレー軍が襲いかかって来た。直ぐさまカドモスは陣形を整えると迎え撃った。ザンクレー軍はパテリアが落ち着いて行動したので怪しんだところ、背後から襲いかかる一団に気がついた。パテリア軍であった。

 背後から騎兵の強襲を受け、ザンクレー軍は混乱を始め、指揮がとれない状態となった。この機に、カドモスは突撃を命じ、ザンクレー軍を蹴散らした。

 ザンクレー国が裏切ったことは明らかであった。この先、再び襲われることは確実で兵に退却を急がせた。カドモスは兵の脱落を心配したが、やはり急造の兵では忠誠心に問題があり、ザンクレー国内に取り残された状態であると分かると、次々に脱走する兵が続出した。しかし北方時代からの親衛隊は士気も高く、逆境に団結心を高く保ったのだった。

やがて、ザンクレーの国境まで至ったころ、背後からザンクレー軍が追いついてきたのだった。敵の数は優勢で、追いつかれたら飲み込まれそうであった。

 カドモスはしんがりを求めると、なんとそれにネクタリオスが応じたのだった。これにはカドモスは拒んだが、「大将を倒せばいいのだろう」と決意を変えなかった。それで信頼の置ける将に殿を一緒に任せることにしたのだった。

 道を熟知するザンクレー軍はついに追いつき、パテリア軍はしんがりがあとに残った。パテリアの将は奮戦し、それを食い止めたが、ネクタリオスは構わず、敵の分厚い本体めざして単騎突進したのだった。人が溢れる中を、ネクタリオスは走り抜け本体に到達した。

 そこには大将と目される男が馬上にあった。敵兵で溢れる中、ネクタリオスは走り抜ける馬上から、弓を放った。矢は遠く離れた大将の喉を射貫き、武将は落馬した。

 刺殺が成功したと判断したネクタリオスは、ただちに反転し、パテリア軍を追いかけた。途中、武将が挑みかかったが、弓で射殺すると、パテリアのしがり隊に追いついたのであった。殿隊の隊長は、ザンクレー軍の追撃が緩み始めたので、何が起こったのか分からなかったが、本体もだいぶ先に逃れたので、自らも跡を追いかけていくこととした。

 こうして旧タラース領内を北東に逃れたパテリア軍は、タキスやカドモス、デクスターの守る支城まで至ったのだった。

 

 兵を損失したため、奪われた旧タラースの王都の奪還は難しかった。本軍の到着を待つしかなかった。気がかりなのは今回の失敗を理由に、パテリア王が処罰を与えようとすることであった。覚悟を決めて、本軍の到着を待っていると、現れたのは、なんと芙蓉姫だった。

背後には、イアソン、ミルトス、ルキアノス、そしてダーナが控えていた。

「カドモス先鋒、ご苦労様でした。無事生還されてなによりでした」

 姫の言葉はいつも優しかった。

「姫、何故このような前戦に参られました。危険です」

「貴方はお忘れですか?共にありますようにと語ったことを」

 心配してくれる姫に、カドモスは目頭が熱くなった。

 イアソンが近寄ってきて、これまでのいきさつを説明した。パテリア王都に妖魔が二度やって来て、痛み分けで終わり、妖魔がいよいよ地上に手を伸ばし始めているとのことだった。今回、オイア軍によって敗退したのではなく、妖魔一人によって魔法軍が壊滅的害を受けたことによるもので、これからの戦いに妖魔が関わってくると考えられるのであった。パテリア王は今回の敗戦の責任をカドモスに押しつけ自害させるともりだったが、姫がこれに反対し、自らが遠征におもむき、挽回させることとしたのであった。

 もともと、臆病者で身内に甘い王は、芙蓉姫の決意を退けることが出来ず、それを許すとイアソン等を付けて送りだしたのだった。

 後ろで、イアソンの話を聞いていた、ダーナは自分が関わって、城の奪還をすれば容易く取り戻せるだろうと思ったが、それより遙かに重要な冥王との戦いが気がかりであった。特にウーマーという妖魔の魔力は強く、他の妖魔が襲いかかっても、彼らで防げるだろうが、彼の男がやって来ては難しいと感じていた。そこであえて普通の戦争には口出しを挟まず、姫の近くにあって、ウーマーの襲来に備えることとしたのだった。

 城奪還については、最大の問題が魔法軍が壊滅的被害を受けたことだった。精鋭は妖魔に屠られ、残っているのは僅かな生き残りと、交代要員だけだった。本軍自体も、東部方面の戦いにかり出され、十分な戦力となっていなかった。

 こうなると通常戦で戦わなくてはならなかったが、それでは優位性は数だけであった。しかし、忠誠心の低いパテリア軍ではそんな優位性などいつ、ひっくり返るかわからなかった。

 カドモス等が頭を痛めていると、ミュージカが芙蓉姫に語りかけたのだった。

「姫様、お久しぶりでございます。私を覚えておいででしょうか?」

 ミュージカは、恥ずかしそうに尋ねた。

「覚えていますとも。ラピス殿のお孫さんですね」

 芙蓉姫はミュージカの手をとって優しく微笑んだ。

「姫様、あの。卵、今もお持ちですか?」

 姫は、彼女が何を言いたいのか分かって、侍女に持ってくるように命じた。

 暫くすると、侍女が卵をもってくると、芙蓉姫はゆっくりと、それを差し出した。

「ララ。寂しかったでしょう。一人残してご免なさい。でもあなたは姫様のもとで成長したわ」ミュージカは卵を抱いて慈しんだ。

 この時、カドモス等は魔法なしでどう戦うか協議していた。今や、幻覚を起こし敵を惑わせる作戦は出来なかった。本軍は大軍だったので数を傘に強引に進軍する事もできた。そこで、魔法戦力は攻城戦に残し、野戦では通常戦を行うとしたのである。するとそこにミュージカが割り込んできたのだった。

「幻覚ならこのララがしてくれるわ。姫様の力をため込んだララなら造作もないことです」

 ミュージカの宣言に一同は、口を開けた。それを救うように、ネクタリオスが言った。

「嬢ちゃん。嬢ちゃんが不思議娘ちゃんだというのは、俺は渡しでの出来事で知っているが、皆は知らないんだ。みんな面食らっているそ」

「いや、話を聞こう」

 カドモスはかつて子供だと馬鹿にして、彼女を去らせてしまったことを思い出し、同等に扱った。

「大丈夫か、嬢ちゃん」

 ネクタリオスは心配した。

「魔法使いの皆様は、姫に同調できる能力を持たれる方がその力を引き出しています。それは個人の資質によるものです。そのため精神的、肉体的にも疲労度が激しのです。私はこのララに姫様と同調させ、力を受け入れるようにしました。そしてこのララを通じて魔法具が力を得て、魔法を使えるようにしました」

「あの水上を走る船がそれだね」

 イアソンが、付けくわえた。

「その通りです。ここで私は集団的幻覚を発生させる魔法具を作成します。これを使えば、軍勢の幻を見せることは可能です」

 一同は、光明が見えたような気がしたが、カドモスはなにか隠していることを感じた。

「ミュージカ。何か問題点があるのではないか?」

「問題があるのは、魔法具を起動させるため、私がその場にいなくてはならないことです」

 カドモスは代案としては良かったが、少女を前戦に立たせるには不安があった。

「専属の用心棒がいることをお忘れか。嬢ちゃん。俺が守ってやるから心配することはない」

 ネクタリオスがミュージカの肩に手を置いた。

「では、私もこの娘の護衛に回りましょう。此の作戦では、重要ですので」

 デルフィネも警護のに着くことになったので、カドモスは作戦を決行することとした。

 

 その頃、海賊の掃討を終えた、レアンドロスはウンダ河河口にあった。当初ギオン国を河と陸から攻める手はずだっが、想定外の事態が発生し、水軍のみで制圧を試みていた。目標はウンダ河制水権を得ること。レアンドロスは船団を率いて、ギオン国水軍に戦いを挑んだ。レアンドロス率いる水軍は得意の素早い動きで、敵水軍を翻弄すると、次々に軍船を焼き払った。半日もしないうちに、ギオン水軍の大半は沈められ、勝負はあった。

 さらに河をさかのぼりザンクレーの水軍と遭遇した。ザンクレーの水軍はギオンほどではなかった。もっぱら陸戦が主体で、対岸のロクロイ水軍に悩まされていたほどであった。

 パテリア水軍はザンクレー水軍を倒すと、その返す手でロクロイ国水軍を撃破した。

ウンダ河下流域の制水権はパテリア国が持った。

残るは中流域に散らばった、タラース水軍の残党とオイア国水軍であった。

 

 ミュージカはカドモスに指定の品々を取り寄せるように要求すると、鍋のようなもの五器と筒のようなもの百本を依頼すると、自らは室へ籠もって、重要な箇所を作成した。

 こうして一週間が過ぎ、それらの魔法具は完成したのだった。

一同が揃う中、魔法具の試験が行われた。ミュージカがまず試みたのは鍋の形の魔法具だった。

「この幻覚具は、1機につき千人ほどの軍勢が実在するように幻覚を発生させます」

 この幻覚具を背中に背負った騎兵を走らせ、ミュージカが竪琴を奏でると、何もなかった平原に五千の兵馬が出現したのだった。

 次に試みられたのは筒状の魔法具だった。

「この火炎具は魔法の火炎の技と同様のものを筒の口からだします。ふたり一組で肩に背負い、方向を定めて、此の金具を引くことによって、炎がでます。標準では真っ直ぐ炎が出ますが、横にあるレバーを倒せば曲がります。これは攻城戦の時、城壁を越えて火炎を内部に送り込むようにしたものです。ただし、壁面に近づかなくてはなりませんので、危険ですが」

 ミュージカの竪琴が奏でられると、火炎具が兵士の肩に担がれ、離れた所に狙いを定めた。火炎が一気に噴き出し、的を焼き尽くしたのだった。その技は魔法使いが火炎の魔法を使っているかのようだった。これには、タキスも「我々は失業だな」と苦笑いした。

 最期に紹介されたのが、箱の物体だった。

「この長方形の箱は、離れた者との会話が出来る魔法具です。その会話の範囲は遠くまでとは行きませんが、戦場全体で有れば、洞窟の中であれ、会話が出来ます。これを使えば戦に優位に戦えることでしょう」

 ミュージカは騎兵にこれを持たせ、遙か遠くまで走らせると、会話具を使って、騎兵を左右に走らさせた。

「これらが今回、作成したものの全てですが、これが戦いに有効になるかはその運用次第といえます。ただしこれらの魔法具は持てば、敵味方関係なく使えるという弱点があります。くれぐれも奪われないようにして下さい」

 ミュージカの魔法具の説明が終わり、一同は感心した。

 パテリア軍の支配地奪還の軍事行動は早に行われた。以前タラース国に攻め入った時は地形に不慣れであったが、その後の支配地域の調査を行わせ、地理的には理解していた。

 オイア軍もパテリア本軍が到着したのを捉えていたので、東部に分厚い防御を作っていた。しかし、カドモス等はその軍勢の規模でも、戦力でもオイア軍を圧倒し、要衝を落としながら、王都に迫った。

 オイア軍の将はパテリアの守備部隊を破ったことにより、慢心し、その戦い方が異質であることを全く理解してなかった。都の城壁が崩れ去っていたのも、手抜工事が原因だと解釈していたのであった。通常通り、門を固め、城壁の上から、パテリア軍を攻撃しようとしていた。ところが城壁を登るように炎が立ち上がり、城門の兵を焼き尽くすと、今度は下降して、門の中の兵士を焼き尽くしたのだった。オイア軍はついに持ちこたえなくなり、北門から脱出したのだった。

 旧タラースの王都を取り戻したカドモス等は、町の治安を守り、周囲の残党兵を狩り、安全を確保したあと、芙蓉姫を王宮に迎え入れた。ほどなくして、再び北のパラ国が使者を使わしてきた。パテリア軍が敗れたものの、中原を統一した力は侮りがたいと、むやみに裏切ることを差し控えていたからである。カドモスは使者を迎えると、芙蓉姫と面会させ、国に帰らせた。

 カドモスは直ぐに取りかかったのは、南のザンクレー国の討伐であった。友好を破棄し、パテリア先鋒軍をだまし討ちしたのは許せなかった。今回は二方面作戦ができるほど戦力は充実し、王都に十分な兵が残せることとなっていた。

 休む暇も無く、カドモスはザンクレー討伐軍を起こすと、南下を始めた。丁度その頃、レアンドロスはウンダ河中流域の賊の掃討を終わっており、水軍戦力も加わることとなったのである。カドモスは再び軍を分け、船で奇襲をかける先発隊と陸路を移動する本体と分け、弟分のデクスターとラエバスを先鋒隊の指揮をまかせ、大いに暴れてくることを命じたのだった。

 パテリア先発隊は船団に乗り、河を下ると、ザンクレー領に上陸した。パテリア軍が陸路をゆっくりと南下してくる、と読んでいたザンクレーは、対応に後手に回った。瞬く間に王都へ周辺の支城二つを落とされ、領土内に橋頭堡を築かれてしまった。もはや陸路を南下してくるパテリア軍を、ゆっくり迎え撃つ時はなくなった。

 ザンクレー国は、構築中だった魔法戦力を投入することを決め、反撃した。しかし、自国の魔法戦力を見てきたデクスターとラエバスにはみすぼしい存在であった。彼らは昼は魔法の攻撃に持ちこたえ、夜の闇夜に紛れて、魔法部隊を襲ったのである。接近戦に弱い魔法部隊は次々に斬り殺され、壊滅した。

 兄弟分の二人は何とか王都を落とそうとしたが、叶わず、カドモス率いる本体の到着となったのである。カドモスはわざと退路を開け、厳しく城を攻め立て、逃がすと、さらに追いかけ、攻め立て逃がすを繰り返し、ついに王族を山間の小城まで追い詰めた。此の地は彼らにとって重要な土地らしく、聖地ガミネティオと呼んでいた。そんなことは関係ないカドモスは、此の盆地に入ると掃討戦いにはいり、少人数になったザンクレー王家に関わったものを皆殺しにした。逃げ場がなくなり、王宮に逃れた王一家は、自害して果てたのだった。

 全ての報復が終わったカドモスは、ザンクレーの王都に戻ると、ギオンの使者がやってきていた。パテリア軍の実力を知り、逆らうことを止めたのだった。カドモスはギオン王子を人質として差し出すことを条件に、傘下に加えることとし、使者に伝えた。キオンは此の条件をのみ、かくしてパテリア国はウンダ河左岸を支配下に置いたのだった。

 

 カドモスは南の備えとして、弟分達にザンクレーの王都に留まり、ギオンに眼を光らせているようにと命じ、姫のいるタラースの王都に帰還したのであった。

 レアンドロスはオイア国の船団がウンダ河中流で、力を持っていたのでそれを削ぐべく奮戦し、ある程度の安定を見ると、タラースの地に上陸し、芙蓉姫に挨拶にいったのだった。

「殿下、水上部隊はヒパボラ河、ラウド海、ウンダ河の賊の掃討を終えました。船団はウンダ河に至りましたので、河を越えて、さらに西部へ足を進めることは可能となりました」

「ご苦労様です。ルキアノス。なんの援護もなくここまで達成出来たのもあなたのおかげです」

 芙蓉姫が労いの言葉をかけると、ルキアノスは頭を下げた。

「殿下、お気づきでしょうか。我々はこれで十人揃ったのですぞ」

 カドモスの言葉に、芙蓉姫が回りを見渡してみると、十人が控えていた。

六合星のカドモス、勾陳星のダーナ、太常星のミルトス、貴人星のイアソン、玄武星のルキアノス、青竜星のネクタリオス、天空星のタキス、太陰星のディルフィネ、白虎星のレアンドロス、天后星のミュージカ、など十将の揃う、大所帯となっていた。

 姫は感嘆した。

「初めて全員揃ったのを祝して、宴を開きたいと思っております。ご出席のほどを」

 カドモスが請うと、姫は許した。

 王宮の大広間でそれは執り行われた。文芸が盛んだったタラースには、珍しい技をもった芸人が多くおり、皆を楽しませた。弦楽の調べに、見事な舞。そして人がなしえるとは思えない数々の曲芸が披露された。

 タラースの珍味は、彼らを喜ばせ、数々の料理が運ばれた。

 宴は一息ついたところで、芙蓉姫は少し席を外し、夜風を浴びていた。するとカドモスがやって来て話しかけたのだった。

「星が綺麗ですな。山間のパテリアで見た星々、中原で見た星々、そして西部で見た星々どれも美しい」

「そうですね。あの星のように、いつまでも、有り続けたいものです」

「我々は星々に導かれ姫の下にまいりました。必ず平安を天下にもたらします」

「しかし、私たちは戦ばかりしています」

 姫はおかしく、自嘲気味に言った。

「その戦の向こうに、安寧がやってくるのです。まだ人の戦いばかりが目に付きますが、既に妖魔と我々の戦いは始まっています。やがて冥王が地上の支配を狙って冥界より軍勢をつれてやってくるでしょう。そのために我々は集まってのです」

「分かって居ます。魔王が私を目指してやってきていることは。中原で妖魔が王宮を襲った際、被害をだしました。私が西に向かったのは、貴方を助けるという目的もありましたが、それと同時に、王家への被害を与えないように、西部を目指したのです。私は冥王との決戦を西の地で行いたいと思います」

 姫のしっかりした決意に、カドモスは、己の星六合星を見上げた。

「強い方だ」

「はい?」

「姫、空に燦然と輝く四つの星。あれは何だと思います?」

「なんでしょう。他の星を霞ませるほどの明るさは」

「ダーナが言っていました。彼の星は、星ではないと」

「では、なんなのです?」

「分かりません。しかし、我々の戦いに深く関係したものなのでしょう」

 二人は、円を描いて並んでいるかのような、星々を見上げたのだった。

 この時、空にはテトラトが登り、空に燦然と輝いたのだった。神秘の七つの星が揃うまで、あと三星となっていた。

 




<西部ウンダ河地域の地図>

高山高山高山高山高山高山高山高山高山山^^^河^^高山高山高山高山高山高山高山高
山山高山山高山山高山山高山山山^^^^^河^^^^^^山山高山山高山山高山山高山
^^^^^^川^^^^[ユーベイ]^河^^^^^^^^^^^^^^^^山山山山山山
^^^^川^^^^川^^川^^^^^河^^^^[パラ]^^^^^^^川^^^^^山
^^^^^[アンキュラ]^^^^川^^^^河^^^^^^川^^川^^^^^^^^山
^^^^川^^^^^^^^^^^^川^河^^^^川^^^^^^^^^^^^^^山
^^川^^^川^^川^川^^^^^^^^河^川^^^^^^^^^^^^^^^山山
^^^[シノーペ]^^^^^川^川^^^^河^^^^^^^^^^^^^^^^^関^
山山山^山山山山山^^[オイア]^^川^河^^^[タラース]^^^^^^^^^山山山
山山山山^山山山山山^^^^^^^^^河^^^^^^^^^^^^^^^^山山山山
山山山^山山山山山山^^^^^^^^河^^^^^^^^^^^^^^^^^山山^^
山^^^山山山山山山山^^^^^^河^^^[ザンクレー]^川^^^^^^^山山山山
山山山^山山山山山山^^^^^^^^河^^^川^^川^^^^^^^^^^山山山山
山山^山山山山山^^[ロクロイ]^^河^^^川^^^^^^^^^^^^^^^山山山
山山山山山山^^^^^^^^^河^^^^^^[ギオン]^^^^^^^^^^^山山山
海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(ウンダ河)〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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