ミュステーリオン   作:のんき三郎

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<登場人物リスト>

カドモス  (六合星の)中原からの流れ者
ダーナ   (勾陳星の)元オレア国天文官 魔法使い
イアソン  (貴人星の)知将、元行商人
ルキアノス (玄武星の)元オレアの武官、槍の名手
ネクタリオス(青龍星の)用心棒家業、弓の名手
タキス   (天空星の)双鞭の使い手 魔法使い
レアンドロス(白虎星の)元ハニア国海軍士官
ミルトス  (太常星の)僧侶 治療術使い
デルフィネ (太陰星の)パトライ国第五王女 女将
ミュージカ (天后星の)発明少女
芙蓉姫   パテリア第三王女

デクスター カドモスの弟分
ラエバス  カドモスの弟分

黄武    パテリア第二王子、後パテリア王、皇帝
紅花    パテリア第四王女

ドルアス  パテリア国宰相

ラピス   ミュージカの祖父、発明博士
バシル   ラピスの弟子

ミケーネ  占い師、(アルマロスのミケーネ)
ゼノビオス ミケーネと敵対する謎の人物

シャヘル   冥界の王 十人の妖魔の主

ウーマー   妖魔一位(抽腸獄 月光のウーマー) 
コスタ    妖魔二位(穿肋獄 ミトラのコスタ) 死者を蘇らせる
ハスタ    妖魔三位(針山獄 一角獣のハスタ) ホーネスの仇
アエヌス   妖魔四位(焼手足 セルヌノスのアエヌス)戦いに疑いを持つ者 
ラング    妖魔五位(抜舌獄 漁色のラング)  大蛇に乗る
ベネノ    妖魔六位(毒蛇獄 美粧蓮歩のベネノ)女性、二匹の獣を連れる
カーサー   妖魔七位(鋸解獄 紅蓮刀のカーサー)巨象に乗る
カスピス   妖魔八位(尖刀獄 ヒュブリスのカスピス)
グラッシス  妖魔九位(寒氷獄 黒海馬のグラッシス)怪鳥に乗る
ベナ     妖魔十位(血汚獄 サキュバスのベナ)意馬心猿の術使い

<北部諸国>
パテリア  北の山岳地帯ある小国
エーリス  パテリアの西にある同盟国、第二王女の嫁ぎ先
ピュロス  パテリアの東にある同盟国、第一王女の嫁ぎ先
テゲア   パテリアの南にある中立国

<西部諸国>
パラ    ウンダ河上流左岸
タラース  ウンダ河中流左岸、大国(後のメディス)
ザンクレー ウンダ河下流左岸
ギオン   ウンダ側河口左岸
ユーベイ  ウンダ河上流右岸(後のアデベニオ)
オイア   ウンダ河中流右岸、大国
ロクロイ  ウンダ河下流右岸
シノーペ  後のシルバの森縁東
ソロイ   後のシルバの森縁西
アンキュラ 後のシルバの森の東、シノーペの北
エデサ   後のシルバの森の西、ソロイの北
シューロス 後のソサ南部
ヒスティア 後のカーボ、シューロスの東



第十三劇 魔法具

 ウンダ河左岸を制圧したパテリア軍は、いよいよ渡河してさらに西域に進もうとしていた。第一目標はかつてタラース国と西域の盟主の座を争った、オイア国であった。旧タラース国領とオイア国の間には西部最大の河、ウンダ河が行く手を阻んでいた。ウンダ河にはオイア国水軍が待ち構え、これを突破しなくては陸上に上がることは出来ず、まず大河を押さえることが急務だった。

 レアンドロスは軍船を集結させ、左岸は白い帆で埋め尽くした。ここで彼は、投降した水の賊を傘下とし、賊船を軍船に改めると編成を行ったのだった。さらに、これまでの戦いで破損した軍船を修理すると、高速船と水軍魔法隊さらに貨物船を揃えたのだった。

 彼の作戦は、オイア国には魔法使いが登場しておらす、通常戦で戦うことが彼には分かっていたため、高速船と魔法部隊で敵を攪乱し、敵軍船を固めると、一気に襲うつもりだった。この頃、風が東より西に流れることが多く、レアンドロスは火計で決着をつけようとしたのだった。

 晴天の日、レアンドロスは水軍全軍を動かすと、対岸のオイア国目指して出陣させた。大河の対岸には、小さくオイア国の軍船の帆がうかがえたが、まだ随分と向こうだった。中程まで来たところ、オイア側もパテリアが早々と攻めてきたことに気がつき、軍船を押し出してきたのだった。大国同士の水上戦はウンダ河を軍船で埋め尽くし、大決戦となろうとしていた。空は澄んで、波は静かだった。

 はじめはパテリアの攻撃から始まった。オイア国前衛の軍船にパテリア軍は攻撃をしかけ、これにオイア軍は応戦した。両者互角の戦いを繰り広げ、これに続くように、パテリア国、オイア国も援軍を送った。多くの軍船が集まり、戦いも佳境にはいるころ、レアンドロスは魔法隊を投入した。高速船に乗ったこの部隊は、船上を駆け抜けると、魔法のちからによって次々に、船を沈めた。しかし、彼らの存在はオイア国も承知のことであり、高速船は知らずうちに、オアイ国の軍船の中に誘い込まれていたのだった。

 これに気がついた、レアンドロスはオイア軍に軍船を突入させると、高速船の出口を確保し、その勢いで貨物船もオイア軍の密集する中に突入させたのだった。数艘の貨物船が燃え上がり、オイア軍に突入していった。オイア軍は火をさけ、展開しようとしたが、それを囲うように、パテリア軍は一斉に火矢を浴びせたのだった。

 大量の火矢でオイア国の軍船は燃え上がり、マストの帆から炎が舞い上がった。次々にオイア国の軍船から火が立ち上がり、大河は赤く燃えた。此の機を逃さず、レアンドロスは一気に火計によって決着をつけようと、本体も突入しようとしたのだったが、かれはここで見たこともないものを目撃したのだった。

 レアンドロスの突入を待っていたとばかりに、奇妙な船が燃え上がる炎の中から登場したのだった。旗艦に前に現れたのは、黄色に輝く青銅で覆われた軍船だった。その船は火矢をものともせず、まっしぐら旗艦に向かって突進してきたのである。そのあとも何艘かの青銅の軍船が炎を蹴散らし現れたのだった。

 瞬間的に、敵軍船には火矢が通用しないと読み切ったレアンドロスは、迎え撃つことを止め、待避行動を行ったのだった。旗艦の動きに他の軍船も反応したが、訓練が乏しい新参者の船はそのまま、オイア国の青銅船に近づいてしまった。するとオイア国の軍船は先端の分厚い角によって体当たりを食らわせ、パテリアの艦船に大穴を開けさせたのだった。さらに、青銅船には機械仕掛けの長距離用の大型の弓が備え付けられ、遠く離れた旗艦に火矢を放ってきたのだった。

 これらのオイア国の軍船は全て、ミュージカの祖父ラピスの考案によるもので、対火計ように作られたものだった。青銅船で船の重量は増したものの、何本ものオールで漕ぐので早かった。

 レアンドロスはこの船を葬るには、魔法戦力しかないと判断したが、生憎、白兵戦いを恐れ、敵の囲みから脱出させることを優先したため、随分離れたところまで移動させていたのだった。旗艦が進路を変えて、青銅船を回避した先には、なんと青銅船がまた姿を現したのだった。鼻先に通せんぼを食らった、レアンドロスはまんまと敵の術中に嵌まったことを悔しがり、全軍に撤退の合図を送ったのだった。敵の狙いは旗艦のみ、青銅船の速度はレアンドロスの船より速く、追いつかれそうだった。白兵戦を決意し、剣を抜き、迎え撃とうしたレアンドロスの目の前に信じられないことが起こった。

 パテリアの旗艦とオイア国の青銅船の間の水が割れ、左右に裂かれていったのである。ウンダ河の河底が姿を現し、水は垣のようにそそり立っていた。旗艦を追いかけていたオイア軍の青銅船も河の異変に気がつき、追跡を止めると、人知を超えた技に呆然となったのだった。こうして辛くも難を逃れたレアンドロスは、退却してきた軍船を左岸に集めると、被害状況を調べた。戦果と被害を比べれば引き分けに近いものだった。

 レアンドロスは陸に上がると、岸で静かに遠くを眺めているダーナの所に向かったのだった。

「ダーナ殿、お礼申し上げる」

 レアンドロスは深々と礼をした。

「なんのことかな」

 ダーナは振り向かず、遠くを眺めた。

「河を裂いて、お救いいただいたのは、貴方でしょう?」

「何故そう判断なされた」

「貴方以外この様な事が出来る方を私は知りません」

 ダーナは無言だった。

「貴方はオレア国の出身と聞き及んでいます。やはり国を滅ぼしたパテリアに協力することに抵抗がおありなのですか?」

「それであれば、オレアのルキアノスの方が当てはまるのではないかな。彼は軍人であり私は文人であるからな。それより貴方こそハニア国の軍人であれば抵抗があるのではないか?」

 ダーナは振り返ると、レアンドロスに顔を向けた。

「最初は無理矢理仲間にされ、一応の結果を出したら、去るつもりでした。しかし魔法戦力を利用した水軍の戦法に魅せられまして、留まってしまった次第です」

 レアンドロスは恥ずかしげに、心を打ち明けた。

「確かに、魔法の力はすばらしい。しかしこれは有ってはならないものだ。本来、人が河の水を割るなどあり得ないことだ」

「しかし、それによって私は救われました。私は魔法の力を持ちませんが、貴方は世界はどう見えるのです?」

「大した事ではない、右の眼からは数字として世界が捉えられ、左の眼では文字として捉えられることだ」

「それはいったい・・・」

 レアンドロスは意味を理解しかねていた。

「この河の流れ、雲が広がる様全てが、規則をもった数の集まりとして見えるのだ。そしてそれは文字としても成り立つのだ」

「私は魔法使いには向かないようですな」

「それがよい」

 ダーナは微笑んだ。

「ところで、貴方の作戦は相手に魔法軍が存在しないことが前提だが、タキスの魔法軍が妖魔によって全滅に近い状態になった事をお忘れか?背後で妖魔が動き回っている気がするのだが」

「カドモス殿言われる妖魔との戦いについては、よく分かりません。冥王が地上に攻めの登ってくるといっても、それ以前に我々は諸国と戦っています。人との戦いはよく分かっていますが、魔物といったいどうしたらいいものやら」

 レアンドロスは観念したかのように、手を上げた。

「私は姫の秘密を解き明かし、この地に魔法のない世界を取り戻すつもりだ。それには冥王さらに、その配下の妖魔達を退けなくてはならない。私は冥王は地上を狙って、地上にやってくるのだとは考えて居ない。彼は姫そのものに必要があって来るのだと読んでいる。だから、人と人の戦いにはあまり干渉しようとは思わない。」

「ならば、貴方は冥王一点に力を注ぎください。地上の人との戦いは私たちが行いましょう」

「あの青銅船は難易だ。これについてはミュージカに力を借りるのがいいだろう。これを打ち破る術を彼女は知っている」

「あの娘ですな。確かに我々は高速船を授かったことがあった。早速彼女を訪ねるとしよう」

 そう言うとレアンドロスは、再び一礼すると王宮に向かって去っていった。

 

 水軍に戦いが痛み分けに終わったことは、カドモス等に報告され、オイア国の青銅船をいかに打ち破るかが議題となった。レアンドロスはダーナがミュージカの力を借りるように助言を受けたことを伝えると、カドモスは彼女に相談したのだった。

 ミュージカは魔法具が戦の道具に使われるのを嫌ったが、母国には囚われの祖父がおり、卵の制御装置のルルを置いたままで、はやくこの問題を解決するべく協力したのだった。

 こうして再び、彼女は卵のララを傍らに置くと、研究室にこもりきりになった。レアンドロスは波止場に戻ると、軍船の修理と、オイア国の動向を探ったのだった。こうして数日後、ミュージカは魔法具を携えて、彼の下を訪れたのだった。

「提督、これが青銅船を沈める為の魔法具です」

 レアンドロスのまえに、筒状の物体が置かれたのだった。鋳物で作られるいるようで、見事な流線型をしていた。

「これはいったい?」

 彼は魔法具を撫でた。

「相手の船に近づいたらこの魔法具を河に投げ入れてください。すると勝手にこの魔法具は水の中を泳いで行きますわ」

「泳ぐこれが?」

 レアンドロスは物体についた羽根のようなものを、珍しそうに眺めた。

「しかし、我々は狙いをちゃんと定めて投げ入れられるかどうか」

 彼は空に石を舞上げるカタパルトを連想していた。

「投げ入れるだけで良いのです。水の中に入れさせすれば、あとはこの魔法具が相手の船をどこまでも追い続けますわ」

「追尾するのか?」

 彼は人でも入ってるのかと、怪しんだ。

「青銅船に達すると、魔法具は爆発し、船を沈めるでしょう。ただし、短期間でもあり弾の総数は二十ですわ。青銅船がそれ以上ないことを祈るばかりです」

 ミュージカの言葉は簡単だったが、レアンドロスはだいたいのところを飲み込んだ。

「ところで、この魔法具の名前はなにかな?」

 この問いにミュージカは悩み、周囲を見渡すと

「蛙さん」

 と答えたのだった。

 レアンドロスは十艘に二本ずつ、魔法具「蛙さん」を積み込むと、全軍を出撃させた。初戦から日にちが過ぎ、オイア国も水軍は回復しているはずであった。パテリアの艦船が近づくと、やはりオイア国も船団を対岸一杯に展開したのだった。オイア国も船を焼かれたとはいえ、まだ十分な水軍力を維持していた。両軍は向かい合い、ウンダ河は再び軍船で埋め尽くされたのだった。

 パテリア軍が船を進めると、オイア軍も船を押し出した。オイア軍は青銅船を隠しもぜず、今度は前面に配置していた。その総数十五隻余りであった。パテリア軍は白兵戦を挑みかかるように、急速に速度を速めたかと思うと、直前で回頭した。これに拍子抜けした、オイア軍はパテリア軍が青銅船を恐れているのだと判断し、他の船団から離れ、全速で追いかけたのだった。頃合いをもってパテリア軍は再び回頭し、オイア軍の青銅船に向かっていったのだった。オイア軍は船の先端部分で体当たりをしようとしたが、妙なものが水中を走ってくるのが分かった。緩やかな曲線を描き、「蛙さん」は青銅船の側面にぶち当たり、大爆発をしたのだった。その衝撃に、白兵戦を待ち構えてした兵士は水に投げ出され、船は一気に傾いたのだった。避けた船体に水が一気に流入し、船は水に沈んでしまったのである。パテリア軍では魔法具蛙さんの破壊力を目の当たりにして、歓声が上がった。

 次々と魔法具は水に投げ入れられ、次々に青銅船を屠っていった。旗艦とおぼしき大型の青銅船が残ると、これには二発の蛙さんが放され、このふねは左右に一発ずつ食らって、二つに裂け沈んだのだった。難敵の青銅船が片づくと、レアンドロスは再び火計を使ってイア軍を攻めた。ウンダ河右岸には船団の燃える煙が立ち上り、パテリア軍の勝利を周囲に伝えた。

 こうしてパテリア軍はウンダ河を制したのだった。その日直ちに、カドモスは渡河すると、ウンダ河岸の町を制圧した、ここを橋頭堡として、オイアの王都に攻め上るつもりであった。

 カドモス、タキス、ルキアノス、ネクタリオスはウンダ河の町よりオイアの王都に向かって進軍を開始した。ルキアノスはミュージカの護衛役であると、かかわりを持とうとしなかったが、ミュージカが祖父の顔を知っているのが彼のみであったので、ミュージカがラピスの救助を願ったので、不本意ながら参加していたのであった。

 カドモスは出陣のさい、ダーナに忠告を受けていた。オイア国王都一帯に彼の索敵の技を目くらます技が行われており、そのその能力から妖魔が関係していおり、慎重に作戦を遂行するようにとのことだった。しかし、カドモスは必要以上の警戒は、配下にいらぬ不安を植え付けるので、堂々と振る舞うことにしたのだった。それに妖魔が現れたのならば、葬り去ればよいことと、自分自身に気合いを入れていた。

 パテリア軍は西に進み、この道はかつて、ネクタリオスがミュージカとともに国外に逃れた道だった。ネクタリオスはミュージカにラピスの救助を約束したが、既に亡くなっていないか心配だった。彼が暗い顔をしていたとき、小高い丘に陣を構えるオイア軍の旗が見えた。彼らはこの地を決戦の場と定めているようだった。かなり開けている場所であり、なでパテリア軍も自由に動けそうな広い場所を選んでいるのかネクタリオスには理解できなかった。

 同様の感想をカドモスも持っていたが、彼は自分の軍に自信を持っていた。ここは士気を上げるため、ルキアノスと敵将の一騎打ちを演出しようとした。カドモス等がオイア軍に向かって罵詈雑言を並べ立てると、やはり誘いに乗って将が一騎打ちに応じたのだった。

 オイア軍の将も隆々たした体格で、その得物は二人がかりで持たなければならないほど大きなものだった。彼は西域で猛将として恐れられていた人物だった。ルキアノスは槍を小脇に抱え、馬上から敵将の様子をうかがうと、一気に馬を走らせた。同時に敵将も猛然と馬を走らせ、両者は打ち合った。

 敵将の得物はルキアノスの槍に流され、彼は心臓を貫かれると、勢いよく、地面に落ちたのだった。一瞬で決着がつき、オイア軍は声を失った。

 オイア軍の士気を低下させたことに、満足したカドモスはいよいよ軍勢を先進させた。すると、丘の上にいたオイア兵が消えたかと思うと、代わりに丘に姿を現したのは、見られぬ金属の塊だった。青銅の黄色く輝くその車は、未だ誰も見たこともないものだった。

 丘の上に現れたのは、かつてラピスが創作した戦車であった。その戦車は金属の塊であり、かなり大きなしろものだった。この姿に、カドモスは不味いものを感じた。かれは咄嗟に岩場を探したが、彼らが居るところは開けた場所で、耕作にもってこいの場所であった。仕方なく、車輪に不利な段差がある場所に向けて軍を移動させたが、それにお構いなく戦車は岡を一気に駆け下りてきたのであった。横一門に十両にならんだ戦車は、段差などものともせず、突っ込んで来たのである。多く兵が戦車に轢かれ、軍は打ち砕かれた。兵はちりじりばらばらになり、戦車に追われ逃げ惑った。後れてやって来たタキスの率いる魔法軍は、この事態にただちに土を得意とする魔法使い等によって、地面をぬかるまさせ戦車の機動力を奪うとともに、大地を盛り上げ、土塀とし、森のある一帯へと兵を逃させたのだった。かろうじて戦車の猛攻から森に逃れたものの、代わってオイア軍の兵の攻撃をうけ、休む間もなく東に逃れた。こうして戦車が近寄りがたい、湿地帯まで退却したカドモス等は、一息ついたのだった。

 思わぬオイア軍の秘密兵器にパテリア軍は退却を強いられ、負傷兵や行方不明だったものを回収すると、河岸の町まで戻ったのだった。

 カドモスはネクタリオスとともに、急ぎ河を渡るとミュージカに、戦車について尋ねたのだった。

「それは祖父の戦車に間違いありませんわ。しかし、一台しかないはずですし。誰が量産したのでしょう」

 ミュージカは戸惑っているようでした。

「オイア国は戦車を十両ほど保有している。他にも保有している可能性はある。あの金属の塊が突進してくると、我々はどうしようもない。彼の戦車はどうやって退けられる?」

 カドモスはせっかちに尋ねた。

「弱点は思いつきませんわ。魔法によって足を奪ったと申されましたが、たいていのぬかるみでも走行できますし、その速さは馬並みですから」

「それでは困るのだ。なにかおかしいところは無いか?」

 ミュージカはしばし考えて、口を開いた。

「複数の戦車が動いていますことから、ルルが力を与えているに違いないわ。でもあの子が何故?」

「そのルルてのが動かしているのか」

 カドモスは少し苛立った。

「将軍、方法はありますわ。でもすごく困難ですけど」

「構わん。どうするのだ?」

「彼の戦車はルルから力を受けて動いているのです。それを遮断すればよいのです。戦車後方部に、拳くらいの穴があります。この箇所にあるものを入れると、ルルからの力を受信出来なくなります。これで戦車は動けなくなります。しかしこれは一回だけのものでしょう。当然網によって対応されると使えなくなる方法です」

「いや、それで十分だ。一度の戦いで勝負を決める」

 カドモスは決意したようだった。

「それは結構だが、お主、兵に戦車に取り着かせ、穴になにか入れるつもりだな」

 ネクタリオスはカドモスの考えに釘を刺した。

「そだが、これまでの犠牲を考えれば、仕方ないことだろう」

「嬢ちゃん、その戦車を止める、あるもとは、どのくらいの大きさなのかい」

「小指の先の大きさよ」

「だったら決まりだな」

 ネクタリオスは不敵に笑った。

 

 この頃、オイア国の王都では、パテリア軍を退けたことで、沸き立っていた。タラース軍を破るほどのパテリア軍相手に、堂々とした勝利を収めていたからであった。特に戦車作成に貢献したバシルは王よりのお褒めの言葉を頂いていた。

 鼻歌交じりに家に帰ったバシルは、召使いに酒を運ばせると、嬉しさに何度も一人で乾杯した。

「今日は機嫌が良いみたいだな」

 バシルの背後に立っていたのはウーマーだった。バシルは飛び上がると、振り返り愛想笑いをいしたのだった。

「あんたでしたか。いつも突然おいでなさる」

 バシルは手を広げ、歓迎の抱きつきをしようとしたが、空振りし、ウーマーは背後に立っていた。

「まったく距離をもたれる方だ。とにかく歓迎いたします。召使いにお食事を運ばせましょう」

 バシルは召使いを呼ぼうとしたが、ウーマーは制した。

「その喜びようでは、戦車は役に立ったようだな」

「そりゃもちろんです。王様はお喜びでした。これに懲りてパテリアはオイア国から退却することでしょう」

 バシルのはしゃぎ様が朝議の様子を物語っていた。

「お前は直ぐに財産を処分して、旅支度をしろ。シノーペ国に向かうぞ」

「それは、どういった事ですか。何もかも捨てて、他国に行くだなどと」

 バシルは狼狽えた。

「オイア単独ではパテリアの攻撃を支えきれぬ。西国のシノーペ国、アンキュラ国、ソロイ国、エデサ国、ユーベイの西域連合でないと太刀打ち出来ないだろう。お前はこれらの国を結びつけるのだ」

「ちょっと待って下さい。私は遊説士なんかでありませんよ。単なる技術者に過ぎません。それにオイア国は健在ですよ」

 バシルは哀願するように、ウーマーの袖を掴もうとしたが、空振りした。

「それも直ぐに終わる。私が此の国を支えないからな」

「ご無体な」

「さあ、支度しろ。出なければ。私がお前を脳をいじって、人形にしてもいいのだぞ」

 これにはバシルも震え上がり、従うしかなかった。

 

 タキスとルキアノスは町の堀に丸太で柵を完成させ、戦車の来襲に備えていた。対岸のの渡ったカドモスが妙案を得ることを期待し待つこと二日、カドモスがが自信を得たように戻って来たので、彼らは安堵した。カドモスは戦車撃破の秘策をミュージカより授かり、早速作戦を決行しようとした。

 カドモスは丸太の柵を運びながら進軍した。大軍で攻め寄せ、戦車を全車両誘き寄せる必要があったからだ。逃げ込む岩場や林の所在地を確認しながらの慎重な行軍だった。以前戦車に遭遇した地点に来たとき、カドモスは敵が開けたこの地を選ぶであろうと読んでいた。

 岡に再び戦車が姿を現すと、全軍、丸太を地面に固定し、魔法軍は大地を抉り塹壕とした。さらに幻覚を発生させ、これらの陣を消すと、草地に幻の軍勢を置いたのだった。

幻覚は突破されるてしまうと、悟られしまうのでこれも一度限りだった。

 オイア国の戦車は横に隊列を組み、その幻の軍勢目がけて突進した。すると背後から、一騎そららの戦車を追いかける者が居た。ネクタリオスだった。彼は二十本の矢を持ち。此の先端には、戦車の動力を無効化する器具が取り付けられたいた。しかしこの作戦はなかか難しく。動き回る戦車の背後から、後ろに開いた拳大の穴に打ち込まなくてはならないのだ。遠くから見た戦車の穴は、とても小さく、常人では全く不可能な作戦であった。

 ネクタリオスは馬を全速力で戦車の背後に追いつかせると、疾走する馬上から矢を放った。それは吸い寄せられるように、戦車の穴に突き刺さり、戦車は死んだように停止した。

 矢の効果を確信したネクタリオスは、次々に離れて位置から、戦車の穴に矢を通し、五両ほどを、仕留めた。戦車隊指揮官は敵軍勢の居る地点まで到着してみ見ると、軍勢の姿が消え、仲間の戦車隊が知らぬ間に五両ほど、はるか後方の草地で動かなくなっていたので驚いた。指揮官はその草地に一騎が不自然に馬を走らせていたので、この者が何か策を用いたのだと判断した。怒った指揮官は、その男を戦車でひき殺そうと、向きを変えると、ネクタリオスに襲いかかった。戦車の回りには鋭い刃物が取り付けられ、少しでも触れようなものなら、胴を二つに切り分けそうなしろものだった。戦車の速度は速かった。しかしネクタリオスは狼狽えることなく、戦車と戦車の間をくぐり抜け、背後に回ると、二両を行動不能にしたのだった。残る三両は戦車の背後面に何か弱点があるのだと察し、背後を獲られないように、ネクタリオスを追い詰め、彼を踏み潰そうとした。彼は馬の手綱を引き避けたが、生憎馬が傷つき、振り落とされる寸前、彼は矢を放すと、それは見事戦車の穴を射貫いたのだった。

残るは二両だったが、馬を負傷させ戦車を追いかけることは不可能になった。そこで彼は小さな窪地に前に立つと、戦車を待ち構えたのだった。計画通りに戦車は彼をひき殺そうとしたが、轢かれる寸前にネクタリオスは窪地に伏せ、戦車が通過するのを待って、背後から矢を射たのだった。残るは一両のみだった。たった一騎に翻弄されたことに戦車隊の指揮官は怒り、彼をとことん追いかけ回した。彼が命からがら逃れた先は、平坦な草地だった。ここで戦車は彼を背後から仕留めようとしたが、車体が急に傾き地面に吸い込まれていったのだった。これは魔法軍が作った、巨大な落とし穴だった。

 ネクタリオスの動きに翻弄され、パテリア軍の存在を忘れてしまった指揮官の過ちであった。かくして、全ての戦車を無力化したパテリア軍はいよいよ王都に攻め込んだのだった。

パテリア軍の進軍は早かった。戦車隊を信頼しきったオイア国軍は不意を突かれ、野戦で敗れると、王都に逃れた。パテリア軍はミュージカの作った火炎の魔法具を用意すると壁際の敵兵を一掃し、城門を占拠し、大挙して王都に攻め込んだ。カドモス等は王宮に兵を向かわせたが、王族は既にどこかに逃れ、捕まえることは出来なかった。

一方、ネクタリオスはミュージカの祖父を捜し求めたところ、彼は生きて居ることが分かり、早速迎えに行った。ラピスは元気でネクタリオスとの再会を喜んだが、ミュージカの大切にていた卵形制御装置のルルは持ち去られたようで、探し出すことはできなかった。

 これでパテリアが西部の大国を攻め落とした事になったが、西域にはまだ沢山の中堅国が多数存在したのであった。

 

 オイア国が落ちると、芙蓉姫は、ミルトスとレアンドロスにタラースを任せると、ダーナ、ミュージカ、デルフィネを伴って、旧オイラ領に赴いた。未だ、国内が安定しない状況でのオイア国訪問に、カドモスは面くらい、姫を諫めたが、ダーナは今後魔法具が戦いに深く関与するとの見込みから、姫、卵、魔法具の関係をはっきりさせる必要があるとの理由で留まったので、カドモスは折れたのだった。

 一方、旧タラース国に残った、レアンドロスはウンダ河が安定したことから、水運に力を入れ始めた。物資の流通の安全を守り、物資の輸送量を増やそうとしたのだった。特に旧タラース国領は中原からの物資、ウンダ河下流、上流から品々が交わる所で有り、今度は西の対岸からの流通が始まって、本格的西部の中心都市となりつつあった。この都市は、後に西部の王都、メディスと呼ばれるものの、前身だった。

 パテリアの治世順調に進むかと思って居たところ、思わぬ事件が発生したのであった。その始まりは、旧タラース国王都での出来事だった。町中に寒さを訴えるもの続出したのである。激しい発熱のあと、下痢の症状が現れ、一気に王都全体に広がった。これは流行病が起こったのだと判断した、レアンドロスは医者を呼ぶと、治療に当たらせた。しかし、感染に拡大は治まらず、郊外へと拡散したのである。

 しかし、起こった病はこれだけで無かった。突如、体中に湿疹が起き、次第に皮膚が水ぶくれのように、膨れあがったのだった。顔、手、足お構いなく腫れ物は出来、潰れると、臭い膿を出したのである。患者は強い背中の痛みを訴え、進むと痛さに耐えられなく床を転げ回った。次第に皮膚はただれ、剥がれ落ちていったのだった。

 病を町が覆ったので、ミルトスは民を救済すべく、自らも人々の看病に奔走したのであった。レアンドロスは病が蔓延し、水運を使って運び切れない品々が、船の中で眠ってしまっているので対策を練っていた。病の中で懸命に方策を練っていた、レアンドロスも自らの皮膚に異変が起こったのを悟った。彼にも皮膚にぶつぶつが出始めたのである。

 その後の城内の患者の様子を確かめようとして、裏路地を進んで行くと、ただれた体を引きずりながら力なく、歩いている男を見かけた。その後ろをレアンドロスは歩いていたが。突然男の体が揺れたかと思うと、彼の右腕が石畳にはげ落ちたのだった。

 男は腕が落ちたとは気がつかないように、力なく歩み、やがて今度は左足が崩れると、一気にバランスを崩し、勢いよく胴体を石畳にぶっつけたのだった。するとどうだろう、その衝撃で彼の首はもげ取れ、石畳を勢いよく転がると、桶にぶつかり止まったのだった。

 レアンドロスはこの光景に我が目を疑い、周囲を急ぎ見渡すと、同様な人々が多数溢れていたのだった。

 この時、レアンドロスは、怪しさを感じ。これは流行病ではないと見切ったのだった。

彼は、塔に駆け上がると、羽根を振り、神秘の武具を纏った。彼に脳裏に浮かんだのはタキス率いる魔法軍が壊滅に近い状態になったときが、この様なものであったということだった。彼は隠れた敵を見つけようと、意識を集中すると、妖しい魔力が放されている場所を発見した。彼は直ぐさま、その痕跡を追跡し、やがて街を見下ろす妖魔、抜舌獄のラングを発見したのだった。

「この病、貴様が原因か」

 レアンドロスはラングの前に立ちはだかると言い放った。

「これは、ワルコの将ではないか、よく分かったな。俺はこの街の住人が死に絶えるまでお前は私の存在に気がつかないとふんでいたのだがな。お前は以前戦ったワルコの将ではないようだな」

「俺は白虎星のレアンドロスと呼ばれている」

「なるほど、お前達は何故か高尚な星の名前を付けているのだな。どうしてそうなった?」

「そのような事は知らない。祝福する星がそれなので、字がそうなったのだろう」

「俺は妖魔第五位、抜舌獄、漁色のラングと呼ばれている。自己紹介はこんなものだ。ところでお前はこれから如何する?」

「知れたこと。お前を倒し、この町に降りかかった災いを除く」

「面白いやってみろ」

 レアンドロスは猛然と襲いかかったが、容易くラングはこれを交わした。

「前の将といい、お前と言い、ワルコの将は期待外れだな。これで冥王様と戦うなど笑止千万」

 レアンドロスはラングの一撃を受けて、塔にたたき付けられた。石の塔は耐えられず途中から二つに折れて、上半分が崩れ去った。

「ワルコの将よ。お前達はその神秘の武具によって、力を引き上げられているに過ぎない。しかも、その武具の力を完全に引き出していない。まったく宝の持ち腐れとはよく言ったものだ」

「それでも俺はお前を倒す」

「ワルコの将よ。お前は既に我が技を受けている。見ろ、お前の腕に病が進行している」

 レアンドロスがの腕の感覚が無くなり始めているのが彼には分かった。早く此の妖魔を倒さ無くてはならないと、レアンドロスは焦った。

「この防具がお前を倒す技を俺に教えて暮れているぜ。受けろ魔法技イル・カッロ」

 レアンドロスから車輪の轟音が走り、ラングを襲った。一瞬ラングはひるんだが、なんの影響も受けなかった。

「情けないなあ。魔法奥義も付け焼き刃では、この様なものなのか」

 レアンドロスの病は進行していて、彼は力を発揮出来ないで居た。

「魔法奥義とはこうつかうものだ。受けろ。ラ・モルテ」

 周囲に髑髏の映像が浮かび、髑髏から噴き出す風は、レアンドロスの体内を吹き抜けた。レアンドロスは抵抗したが、動けず。その風邪吹かれて、体は腫れ、膿が吹き出、レアンドロスの顔は腫れ物で覆われた。やがて少しずつ流れにのって肉はちぎれ飛び、宙を舞った。少しずつ流れとんだ肉片が無くなると、レアンドロスの骸骨だけが残り、やがてそれも黒く変色すると、粉々に吹き飛んだのだった。

「たわいもない」

 ラングはワルコの将を倒し、満足したそうに、薄ら笑いをすると、そこに残された羽根を拾おうとした、しかし、彼の手を拒絶するように、羽根は消えたのだった。

かくして、白虎星のレアンドロスは敗れたのであった。

 

 旧オイア国の王宮で天文を読んでいたダーナは、突如、白虎星がくすんだので怪しんだ。

丁度、その時、カドモスは謎の人物から受け取った羽根の箱に、レアンドロスの羽根が帰ってきたので驚いた。このことをダーナに伝えると、彼はレアンドロスが死んだのだと結論をつけ、妖魔が旧タラース領を襲っていることを察した。

 直ちに、タキス、デルフィネ、ルキアノスが援軍に向かうことになった。

 その頃、街の人々の治療に奔走していたミルトスは流行病が一向治まらないことに、首を傾げていた。感染はどんどん拡大し、郊外までに広がっていた。しかも治療したはずの患者が再び再発し、きりがなかったのである。ミルトスはこの慌ただしい状況に、一旦心を解放し、瞑想に入ったのだった。心の静寂の中、ミルトスは病気の元凶の陰を見た。

「どうやら、私は迷妄から解放されたようだな」

 ミルトスは法衣を翻すと、妖魔へと向かったのだった。

 

 ラングは病が広がったので、そろそろこの街を死の街に変えようとした。ワルコの将を一人倒し、彼は満足していた。

 するとそこに一人の僧が近づいてきたのだった。

「貴方が病の原因でしたか。もう人々を解放されてはいかがです?」

 ゆっくりと歩み寄ってくる僧侶にラングは警戒した。

「俺が分かったところをみると、お前はワルコの将だな。お前は武具を纏っていないのか?そんな布きれで、身は守れぬぞ」

「僧侶は法を纏うのです。それ以上のものがありますかな」

 ミルトスは静かに問い返した。

「説教臭い言い回しだな」

「道に導くのは、慈・悲・喜・捨なのです。病ではありません」

「お前は、俺に技を解けと言うのか」

「その通り、妖魔といえど、生有もの。こころの深くには真理を宿しています」

「何を馬鹿なことを・・・・」

 ここでラングは僧侶の術中にはまったことに気がついた。

(これはまさかイル・モンド!尖刀獄と寒氷獄が弄ばれたと聞く。此の男だったか)

 これは不味いと悟ったラングは、何とかして、この術がら逃れようとした。

「こうなれば仕方ない奥義で打ち破るだけだ!」

 ラングは全力で秘技を放った。それはミルトスの技に僅かな揺らぎを起こし、この機会を逃さず、ミルトスの手から脱出したのだった。

 ミルトスは三千大千世界から妖魔が脱出したことを気にもとめること無く、むしろこれで街の病の進行は抑えられたと喜んだのだった。

 

 タキス、デルフィネ、ルキアノスは旧タラース王都に着くと、直ちにミルトスを探し、接触した。一同は妖魔がやって来て、都に病を蔓延させた事を知り、アンドロスを探したが彼は居なかった。破壊された塔の近辺で戦闘の後を発見し、ここで彼が戦死したと判断したのだった。彼の遺体は消失し、服の破片が残るだけであった。一同はこの遺品を携えて、姫のもとに帰還したのだった。

 姫は此の報告に痛く悲しみ、彼の墓を作り、病に苦しむ人々の力になるよう。旧タラースの王都に帰還した。カドモスは仲間は一人亡くなったことに、涙を流したが、悲嘆に暮れる暇も無く、西域の諸国の動きに目を向けなくてはならなかった。

 

 それから数日後、パテリア帝都レオ(旧オレア国王都)より、伝令が書面を携えてやって来た。イアソンへの帝都への帰還の命令書だった。

 この頃、中原では、占領地のパテリア国支配が固められ、盤石なものとなりつつあった。西部ではカドモス率いる西部方面軍が大戦果を収め、これに触発されるように、東部方面でもパテリア軍は破竹の勢いで国々を落としていった。その国域の拡大に伴い、パテリア国王、黄武は自らを帝と宣言したのだった。かくしてパテリア国は帝国として、全土に響き渡ったのである。

 これは、黄武の周囲が権威付けとして勧めた結果がもたらしたものであり、彼自身は国王と皇帝の違いが分からなかった。

 命令書を受け取ったイアソンは、直ちに旅支度を整えると、急ぎ帝都目指して、旅だったのだった。この時、芙蓉姫は、先に仲間が妖魔にやられた事からネクタリオスを同行させたのだった。

 ネクタリオスはラピスを救出したことから、役目は終わったとし、芙蓉姫のもとを去ろうとしたが、カドモスが説得し、彼を慰留させていたのであった。

 王都レオに到着したイアソンは、その足で皇帝黄武に謁見すると、その用件を伺った。

皇帝はカドモスには不信感を募らせていたが、イアソンについては絶大な信頼を寄せていた。皇帝は快く彼を迎え入れ、悩みを打ち明けた。

 それは、同盟国テゲアの謀反の疑いがあるということだった。この噂の真偽を調べてきて欲しいといったものだった。

 かつてパテリアが山間の小さな諸国だったころ、南の軍事強国だったメガラとの同盟を解消し、パテリア陣営に入るよう説得したもはイアソンであった。以降、テゲア国はパテリアが中原に向かって支配域を拡大するのを同盟国として支え、今日に至っているのである。テゲア国は中原に自国領を得て、現在はここを王都としていた。パテリアとの関係良好だったが、どこかで狂い始めたのかも知れなかった。

 イアソンはその人柄から、黄武皇帝にも信頼されていたが、テゲア王からも信頼を勝ち得ていた。このことを皇帝も知っており、この役目はイアソンが適任と判断したのだった。

このあと、皇帝は芙蓉姫の近況について尋ね、安らかに暮らしている伝えると、非常に満足した。イアソンはこの皇帝の様子に、世には後継もめぐって兄弟同士血で血を洗う争いをしているのだが、この兄弟はなんと仲が良いことだろう。皇帝がカドモスを目の敵にするのも分からぬ事ではないとイアソンは思ったのであった。皇帝の地位ににあるものの、臆病で優しき王、それが黄武皇帝の真の姿であった。

 かつてコザニ国であった一帯を、テゲア国は都としていた。テゲア国に入国したイアソンとネクタリオスは、直ぐに王宮に向かわず、国の様子を観察するとととした。イアソンにとって今回の反逆の噂は、信じられないものだった。彼の知るテゲア王は聡明で自制心が強い人物だったからである。野心を抱くそんな人物ではなかった。

 街を往来する人々は大半がコザニ国だった民であり、時々それとは違った身分の服を纏った人々が、山岳からやってきた支配民のようだった。

 ここでイアソン等はよそと違ったこの国の人々の有様に気がついたのだった。物や地位についての強烈な欲求がありありと現れ、さもしいくらいだった。財貨のみならず、訳の分からぬものにまで、集めて自分のものにしたがる傾向があり、それは強烈なものであった。その反面、芸術とか演劇などには全く関心が無く、花を愛でることなど全くなかった。

 貧乏な国では、生活がやっとで、趣向品や娯楽には手が出ないものだが、テゲア国はそれとも違っていた。街の治安では、窃盗事件が多発しており、特定の犯罪者ではなく一般の市民が平気で盗みや喝上げをやっているのである。それよりも警察そのものが、ことあるごとに、刑のの軽減を理由に金銭を要求するのである。

 ネクタリオスは用心棒家業で諸国を渡り歩いた経験があったが、テゲアに来るのは初めてだった。街全体に遊び心がなく、人々は何かに取り憑かれたように、忙しく走り回っている姿に、不自然なものを感じていた。

 水路の縁には木々が植えられ、道は水路の縁をはしっていた。イアソンとネクタリオスは繁華街に向かおうとして、頭を抱えうずくまり四人の男に蹴られている男に出会った。

イアソンが彼らに理由を尋ねると、男等は自分達の捨てた物を、拾ったとして怒り、殴っていたのである。その盗まれたものとは使い物にならない欠けた皿だった。

 これにはイアソンも呆れ、男達に不要になって捨てたのだろう?と問うと、男達は不満を漏らしながら、去っていったのだった。蹴られていた男はうずくまり、欠けた皿を必死に抱きついていた。イアソンは男を安心させようとしたが、男はイアソンは皿を取り返そうとしているのだと信じて放さなかった。これを見ていたネクタリオスは男達の異様な物に対する執着を持った目つきが非常に気になった。

 そこでネクタリオスはイアソンと相談して、村に訪れる商人と会話することにしたのだった。城門を潜り城内のはいった商人に街の最近の変化について尋ねたところ、街の者ががめつくなって商売がしにくくなったとのことだった。さらに賄賂が横行し、役人が堂々と金銭を要求し、それなしでは事がまったく進まなくなったとのことだった。

 最近起こった事件では、主婦達が買い物で、有る商品を買い占めた主婦に怒り、刃物で刺すという事件があった。些細なことだが、街で子供らが物を取り合って喧嘩するようになった。などであった。

 街の様子は以前と違っているようだった。

謀反の噂ついては、それらしい理由が見つかった、テゲア王はパテリア管理下の銀山が欲しかったのである。そのために、軍備を整え兵を募集したいた。

 これらの話を聞いたイアソン等は街全体がおかしくなり始めているのではと、疑いを始めたのだった。

 とりあえず、イアソンは王宮へ行くとテゲア王に謁見を申し込んだ。イアソンは案内に従って宮殿の中を歩むと、王の間に通された。

 大きな天井の謁見の間に通された、イアソンは玉座に座る王の前に立った。

「イアソンか、久しぶりだな」

 テゲア王は温かくイアソンを迎入れた。

「陛下には、東部方面遠征軍に兵をお貸し頂き有り難う御座います」

「なに、同盟の我らならば当然のことだ。あの時、同盟を結ばなかったら、今でも山岳の小国のままで、メガラの使い走りをしていたことだろう。ところでパテリア帝はお元気か」

「帝は、お元気です。ところで都では、妙な噂がたっておりまして、陛下の耳にお入れようようと参りました」

「噂じゃと。どの様なものだ」

 テゲア王は愉快そうに、身を乗り出した。

「テゲア王、謀反の疑いです」

「ほほう」

 王の顔は無表情だった。

「パテリア軍が東西に兵を進め、手薄になった王都を襲うといったものです」

「これは、面白い。誰がその様な事を吹聴しておるのかな。出所を探れば面白いものがあるかも知れぬな」

 王の言葉は冷たかった。

「また、別に陛下が最近増税をなされ、富を蓄えていると聞き及んでいます」

「それは事実だな。イアソン。民に無用な財を残すと、享楽に浸りすぎてしまう。為政者その芽を摘み取らなくてはならないのだ。それに、倉に財貨が貯まるのは楽しいぞ。これ以上、甘美なものはあるまい」

 王の表情は、恍惚としたものになっていた。

「陛下は少しお変わりのようですな」

「そうか、お前には蓄財の喜びを、分かち合ってもらいたいものだがな」

 テゲア王の謁見は終わった。王宮から戻ったイアソンはネクタリオスと話し合った。

「王がおかしい。以前の王はあんなではなかった」

 苛立つイアソンにネクタリオスは杯を勧めた。

「謀反の件はどうなのだ?」

「おそらく、テゲア王はパテリアを襲うつもりだ」

「では帝にはその旨の報告をしなくてはならぬだろう」

「そうなると、戦いになる。何故あんなに物欲、権力欲に溢れた方になってしまったのか分からない」

「物欲と権力欲は近いところにあるからな。ところでイアソン。我々を遠くから見ている存在に気がつかないか」

「なんだと」

 イアソンは思わず窓に眼を向けた。

「用心棒家業が身についたのか、潜んでいる敵に勘が働くようになった。知りたいと思わないか」

 ネクタリオスの言葉にイアソンは頷いた。

 二人は一斉に飛び出すと、その視線の気配を追いかけた。裏路地を抜けた先にその者はいた。

「遠くからこそこそ眺めているじゃねえ。お前は何者だ!」

 ネクタリオスが叫ぶと、男は彼の方に顔を向けた。

「お前達はワルコと共に西の地にいるはずだが、何故ここに居る?」

 深く黒い服を纏っていた男は妖しい気を放っていた。

「お前、我々のことを知っているのか」

「当然だろう。私は、妖魔第四位、焼手足獄、セルヌスのアエヌス。お前達は宿敵だ」

 この事葉を聞いてネクタリオス達は身構えた。

「妖魔であったか。この町の異変はお前がやった事か?」

「私は単に、自制心を取り除いただけだ。限りない物欲、財への憧れと執着、権力への渇望。それらは全て人間が本来望んだものだ」

「それでは王の人格が変わったのもお前のせいか」

 入れ替わり、イアソンが叫んだ。

「愚かな奴め。私は富と権力への欲を、自覚させただけだ」

「お前のせいでパテリアとテゲアが戦いを起こそうとしているぞ」

「それは人間の性だ」

 妖魔とイアソンの会話はかみ合わなかった。

「俺はお前を倒す」

 イアソンは羽根を一振りすると武具を纏った。

「どうした?ネクタリオスお前も早く纏え」

 ネクタリオスは与えられた羽根を使わず、普段着のままだった。

「俺は、姫さんの兵隊になったつもりはない。俺は用心棒だぜ」

「馬鹿を言うな。相手は妖魔だぞ。生身では危険だ」

 イアソンは慌てたが、ネクタリオスは意志を曲げなかった。

「なんだ、お前達、仲間割れか?」

 妖魔アエヌスは薄ら笑いをすると、イアソンを襲った。激しい衝撃を受けた彼は地面にたたき付けられ、体が痺れて動けないようになった。

 すると、その隙をついてネクタリオスは背後から弓で妖魔を狙った。三本の矢がアエヌスを襲ったが、次の瞬間全ての矢がネクタリオスに突き刺さり、彼は地面に崩れ落ちた。妖魔はそのままネクタリオスの首をとりに向かったのだが、それを阻止したのはイアソンだった。

 彼は神秘の武具に秘められた奥義で、妖魔を仕留めようとした、イル・ソーレだった。

燃えるような光が天から落ちて、地上を焼き尽くす様であった。アエヌスはワルコの将が魔法秘技を使ってきたので、自らも奥義ルオータで迎え撃った。複雑に絡み合ったリングが因果の糸を書き換えていた。イアソンは自らの技を受け、灼熱の中に蒸発し、妖魔アエヌスも負傷した。二人の戦いは妖魔の勝利に終わったが、まだネクタリオスは生きていた。

 ネクタリオスは自分の放った矢がことごとく、跳ね返され、肉体的負傷とともに精神ダメージを受けていた。絶対的な弓に対する自信を、打ち砕かれたのだった。彼はやっと起き上がろうとした時、イアソンが戦死する瞬間を目撃したのだった。

 妖魔は負傷したとはいえ、ネクタリオスを始末しようとした。自分の力を思い知ったネクタリオスは羽根を振り武具を纏ったのだった。

(この武具にも、神秘の技が備わっているのか)

 ネクタリオスは立ち上がると、技を放そうとした。

この振る舞いを見ていた、妖魔アエヌスは、ネクタリオスが魔法奥義を繰り出そうとしているのを察知した。先ほどの戦いで勝利したものの、アエヌスはダメージを受けていて、目の前の敵が、技を使いこなす前に仕留めようとした。

 再び両者の魔法奥義が放された。

 ネクタリオスの魔法技ラ・ステラは天空に高く星を登らせると、煌めく無数の矢を放ったのだった。これを迎え撃つ妖魔のルオータは複雑に動くリングが因果を塗り替えた。

 ネクタリオスは激しい衝撃を受け、体が痺れきった。同様に妖魔も矢を身に受けてもがいたのだった。両者は動けないくらい負傷し、立つこともできない位であった。

両者は痛み分けし、やがて起き上がれるようになったアエヌスは、壁に手を突き立ち上がると何処へ姿を消したのだった。

 危機を脱したネクタリオスは、生き残った安堵感ともに、自らの意地のためイアソンを死なせてしまった事を後悔したのだった。

 

 イアソン達が旅立った数日後、タキス等もその後帝都に旅だった。伴ったのはデルフィネだった。今回は帝都に控えている予備の魔法使い達から実戦に耐えうる者達を探すためだった。パテリアは勝ち続けたが、やはり魔法使いが妖魔によって、大量に殺されたことは、あとあと尾を引いていた。今後さらに西域の国々を制圧するには魔法戦力が必要だったのである。

 帝都に着いたタキスは早速、魔法使いの訓練施設におもむき、その成果の具合を見た。ナティビタス時代と違い、今は中原全土から魔法使いの素養あるものが集められ、此の施設で大量に練されていたのである。もちろん植物の成長を促進させる魔法の素養をもった者などの特殊な能力者を含んでいたが、それでも戦力として使える魔法は多く、タキスの計画した員数を集めることは可能だった。その間、デルフィネは兄や姉が(実質人質)が帝都で暮らしていたので、会いに行き、西部での戦いの様子を語ったのだった。王族の一致した見解は、パテリア帝国に逆らっては不味いと言うことだった。もちろん、デルフィネは妖魔の存在は伏せていた。

 西部へ向かう魔法使いの選定が終わったころ、タキスのもとに帝から参内するように命が来たのだった。タキスは王宮に向かうと、用件を尋ねた。

 帝の言葉によると、同盟国エーリスで奇行が流行っており、王はこれは魔法によるものではないかと、怪しみ、タキスの判断を仰いでいたのだった。

 エーリスとは身内を結婚させるほどの、深つながりを持った同盟国であり、パテリアが中原に進出すると同時に、その支えとなった国である。現在は南のオリュントス国があった地帯に領地をもち、山間より遷都している。帝の命を受け、タキスはデルフィネとともにエーリス国に向かったのだった。

 彼らが、エーリス国に入って、まず感じたのが、畑が荒れていたことだった。全く作物を作っていないという訳ではなかったが、畑の手入れをしてない様子が見て取れたのだった。畑には作物と一緒に雑草が茂っていたのである。怠惰な農民だ、とエーリスの都に急いだが、都に到着してみると、城を門を守る警備兵は口に何かをほおばったまま、業務をしていたのである。見渡すと、他の兵士も食い物を手に持って、歩きながら食していた。仕事熱心なことだと、タキスはあきれ顔で通り過ぎたが、街にはいってさらに驚いた。

 通りのあちらこちらで祭りの最中でもあるかのように、果物を頬張り、肉に食いつき、大酒三昧をしていたのである。確かに奇行が流行っていると分かったタキスは、これでは国を滅ぼしかねないと、エーリス王に急ぎ合わなくてはならないと感じたのだった。

 王宮に謁見を申し出ると、中に通され王に合うことができた。王は眠りこけていた。近くには食い残しの、皿がちらかっていた。王の回りには王妃のみならず、王子王女までが、涎を垂らして、だらしなく、舟を漕いでいたのだった。

 そこは、食卓で無く謁見の間のはずだった。王家の方々がおかしくなったのかと、タキスは自分が来たことを咳をして、知らせた。

「おお、タキスではないか。西部方面の遠征に行っていると聞いていたが」

 眠りを覚ました王は、そう言いながら、鳥の足をタキスに勧めた。

「陛下、私は食事を済ませています。お気使いなく」

「なんだ、うまいのだがな」

 しぶしぶ、王は手を引っ込めると、自分の口に放り込んだ。

「陛下は、随分とふくよかになられなしたが、いつもこの様に食べられるのですか?」

「その通りだ、最近、食事が美味くてな」

「これまでに来る途中、民が暴食しておりました。なにか関係があるのではないでしょうか」

「ほう、そうだったか、報告は受けていなかった」

 王は手羽先を床に捨てると、もも肉にかぶりついた。

「民が仕事をしないで、畑が荒れ放題です、このままでは食料に苦しむことになるますぞ」

「そうじゃ、思い出した。東一帯に飢饉が発生して、民が飢えているとか」

「それは本当ですか。それでは、食に興じられる場合ではありませんですぞ」

 タキスは王に進言した。

「確か、宰相に対応するように命じたはずだが。していなかったかな」

 王は、どちだったか思い出だせず、そのことさえも忘れたように、ブドウを口に運んだ。

「ところで、今日はどんな用で来たのだ」

「皇帝陛下が、噂を心配し私を使わしたのです」

「おう、そうであったか。では歓迎の宴でももうけるとしよう」

「ご無用に。私は他に調べたいことがあるますので、勝手ながら城内を拝見させてもらいます」

「仕事熱心だな。好きにせい」

 タキスは一礼して、去ろうとしたが、去り際に

「タキス、この菓子は美味いぞ持って行かぬか?」と言ったのだった。

 タキスはデルフィネとともに東に行ってみるとなるほど悲惨な状況だった。作物は枯れ、井戸は干上がり、民は飢えて死んでいた。カラスが遺体をついばみ、蝿が舞っていた。

「これはどうした事でしょう。民が飢えているというのに、王都は酒池肉林の世界。むごいとしか言いようがありません」

 デルフィネは怒り、子供の亡骸を土に埋めた。

「エーリス王は、あんな方ではなかった。単に王の人格が変わったのではない。国全体が狂わされている。ダーナは性欲を操る妖魔と遭遇したいう、俺自身も病の技をもつ妖魔と出会った。これは飢餓と暴食を操る妖魔の仕業に違いない」

「では、早く退治しないと、この国は滅んでしまいますね」

「妖魔を探すんだ。被害の分布を調べ、その中心に奴がいる」

 二人が走り回ってみると、王都を中心として、災害が発生している事が分かった。二人は妖魔は王都にいると読んだ。

「さて、ここに潜んでいるのは確かだがどうしたものか」

 タキスが思案くれると、デルフィネが助け船を送った。

「妖魔は、人を馬鹿にする傾向にあります。民の中に紛れ込むことはしないでしょう」

「とすると、妖魔は王宮のどこかということか」

「妖魔によって、人々は狂っています。だから正気を保っているものを探すのです」

 デルフィネの提案にタキスは賛同し、彼女の知恵を褒め称えた。

 二人は後宮内を捜し回ると、あちらこちらで食い物を探す、者達を見かけた。食い物を探し当てると、狂ったように食いつき、他人に奪われないように、隠しながら食べていたのであった。調理場は大混乱で、大量の具材が運び込まれ、調理人は、作りながら大量に味見し、料理運搬係が何皿か抜き取っていた。城内は妙な形で維持されていた。

 二人が歩き疲れたころ、王宮を歩く人物に出くわした。その立派な身なりは、高官のものだった。隅で、鶏ガラに夢中な侍女に、デルフィネは尋ねた。

「あそこを歩いている人物は、何方かしら」

 尋ねられ、侍女は顔を向けると

「宰相さまです」といって、また鶏ガラに食いついた。

「宰相様はまだしっかりとしておいでのようですね」

 デルフィネが目で語りかけると、タキスは行動に移した。宰相を追いかけると背後から呼び止めたのだった。

「宰相殿、お待ち下さい」

 宰相はゆっくりと後ろを振り向いた。

「貴方は何方かな」

 タキスと宰相は真正面から向き合った。

「私は、皇帝の使者です」

「それはそれは、どの様なご用でしょうか」

「王は貴方に飢饉の対策を施すように命じられたと聞き及んでいますが、貴方はなにもなされないのは何故ですか」

「私は安閑として日々を過ごして居るわけではありません。準備をしていたところです」

「どうでも、言えますな。なにもしないのは、飢饉の原因が貴方だからではないのですか」

 タキスは厳しい目をした。

「私が原因、何を証拠に?」

 宰相はうすら笑っていた。

「証拠はこれだ!」

 言うやいな、タキスは火炎の魔法を放った。業火が起こり、宰相を襲った。

 しかし、宰相は微動だにしなかった。燃え上がる炎のなかで、彼は不愉快そうにした。

「ワルコの将か。よくぞ見破った」

 宰相は炎を一気にかき消すと、正体を現した。漆黒の衣を纏った男がいた。

「変化の術か、宰相に化けて、いたという訳か。本物はどうした?」

「酒が好きすぎて、酒蔵の中に飛び込み、発酵の手助けをしているだろうよ」

「こんな所で、何故暴れている?」

「お前達が、西部に集まったので、中原で遊んでいただけのことだ」

「この暴食と饑餓が、それだというのか!」

「地獄の世界はこんなものだ。それを地上でやっただけだ」

「貴様の名前は何と言う?」

「俺か、俺は妖魔九位、寒氷獄、黒海馬のグラッシスだ」

「一度、帝都を襲った奴だな」

「彼の時は我々は油断した。ところでお前は如何したいのだ?」

「お前にはここで滅んでもらうぞ」

 タキスが指を指すと

「出来るかな」

 とグラッシスは返した。

 タキスは幻覚の魔法を使い、グラッシスの背後を盗ると雷撃を与えた。するとグラッシスも雷撃で返した。再びタキスが水性の魔法で水を周囲に走らせ目を奪うと、それに隠れて風属性の魔法で、グラッシスを切り刻もうとした。すると妖魔は、炎の魔法で打ち消し、、幻覚でタキスを翻弄すると、風の魔法で反撃した。タキスは表面を削られ、地面に転がった。グラッシスが止めに近寄ると、彼は素早く起き上がりと、土属性の魔法でグラッシスの足を止め、業火で焼き尽くそうとした。しかしその技は防がれた。

「お前は、魔法が得意の様だな。ワルコの将は武具の魔法に頼ってると聞いていたが、見直したぞ」

「お褒めの言葉は有りがたいが、自慢の魔法をことごとく返されては自信がない。その有りがたい武具を使わせてもらうぜ」

 タキスが羽根を取り出し、武具を纏おうとした時、水が体を包み凍ってしまった。タキスは身動きが取れなくなってしまった。

 今度こそ絶対絶命だった。するとそれに変わり勝負を挑んできたのは、デルフィネだった。二人が戦って間に、武具を纏い、グラッシスの隙をねらっていたのである。彼女はいきなり魔法奥義を繰り出してきた。ラ・ルーナは静寂を呼び込み、柔らかな光で包んだ。グラッシスは空間を舞ったような感覚を味わい、自分の体が柔らかな光で溶かされる様な気がした。

 しかしグラッシスは同様に魔法奥義で反撃した。ラ・テンペランツァである。深紅の血が舞い散り、それは渦を描いて、金色の杯に集まり、再び勢いよく飛び散った。

 二つの秘技がぶつかり、デルフィネは圧されて壁にたたき付けられれた。もうろうとする意識の中で、デルフィネに飢えが襲った。

「技に慣れてなかったようだな。一日の長の勝利といえる。早めにこの女を始末するとしよう」

 グラッシスはよろめきながら、デルフィネに近づいた。先ほどの戦いでラ・ルーナを受けて彼も精を削がれ、傷ついていたのである。グラッシスが手を振り上げた瞬間に、彼は背後に飛び上がる気配を感じた。タキスだった。

 タキスはグラッシスによって凍らされて、動けなくなったいたのだが、デルフィネの技により、氷が溶かされ自由になっていたのである。彼はグラッシスがデルフィネに意識を向けたので、この瞬間を襲ったのだった。

 タキスは渾身の魔法奥義レレミータを放った。暗闇がグラッシスを捕らえ、放さなかった。すると彼の前に、カンテラの灯りがともり、それはゆるやかに消滅へと導いた。グラッシスは不意打ちを食らい、反撃の暇の無く消滅したのだった。

 グラッシスが滅んだことにより、デルフィネの飢えは消え、彼女から解放された笑顔が浮かんだ。タキスは彼女を助け起こすと、早速、王が正気に戻ったか、二人で確かめに行った。

 

 遠く西部では、カドモスが打ち合わせをしていると、突如羽根が現れ、宙を流れると箱に舞い降りた。カドモスは狼狽え、羽根を確かめると、イアソンのものだった。彼はこのことを姫に伝えると、早速、ダーナの意見を聞いた。彼は天文を見上げ、貴人星の光がくすんだので、イアソンの死を伝えた。

 




<西部ウンダ河地域の地図>

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山山高山山高山山高山山高山山山^^^^^河^^^^^^山山高山山高山山高山山高山
^^^^^^川^^^^[ユーベイ]^河^^^^^^^^^^^^^^^^山山山山山山
^^^^川^^^^川^^川^^^^^河^^^^[パラ]^^^^^^^川^^^^^山
^^^^^[アンキュラ]^^^^川^^^^河^^^^^^川^^川^^^^^^^^山
^^^^川^^^^^^^^^^^^川^河^^^^川^^^^^^^^^^^^^^山
^^川^^^川^^川^川^^^^^^^^河^川^^^^^^^^^^^^^^^山山
^^^[シノーペ]^^^^^川^川^^^^河^^^^^^^^^^^^^^^^^関^
山山山^山山山山山^^[オイア]^^川^河^^^[タラース]^^^^^^^^^山山山
山山山山^山山山山山^^^^^^^^^河^^^^^^^^^^^^^^^^山山山山
山山山^山山山山山山^^^^^^^^河^^^^^^^^^^^^^^^^^山山^^
山^^^山山山山山山山^^^^^^河^^^[ザンクレー]^川^^^^^^^山山山山
山山山^山山山山山山^^^^^^^^河^^^川^^川^^^^^^^^^^山山山山
山山^山山山山山^^[ロクロイ]^^河^^^川^^^^^^^^^^^^^^^山山山
山山山山山山^^^^^^^^^河^^^^^^[ギオン]^^^^^^^^^^^山山山
海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(ウンダ河)〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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