カドモス (六合星の)中原からの流れ者
ダーナ (勾陳星の)元オレア国天文官 魔法使い
イアソン (貴人星の)知将、元行商人
ルキアノス (玄武星の)元オレアの武官、槍の名手
ネクタリオス(青龍星の)用心棒家業、弓の名手
タキス (天空星の)双鞭の使い手 魔法使い
レアンドロス(白虎星の)元ハニア国海軍士官
ミルトス (太常星の)僧侶 治療術使い
デルフィネ (太陰星の)パトライ国第五王女 女将
ミュージカ (天后星の)発明少女
芙蓉姫 パテリア第三王女
デクスター カドモスの弟分
ラエバス カドモスの弟分
黄武 パテリア第二王子、後パテリア王、皇帝
紅花 パテリア第四王女
ドルアス パテリア国宰相
ミケーネ 占い師、(アルマロスのミケーネ)
ゼノビオス ミケーネと敵対する謎の人物
シャヘル 冥界の王 十人の妖魔の主
ウーマー 妖魔一位(抽腸獄 月光のウーマー)
コスタ 妖魔二位(穿肋獄 ミトラのコスタ) 死者を蘇らせる
ハスタ 妖魔三位(針山獄 一角獣のハスタ) ホーネスの仇
アエヌス 妖魔四位(焼手足 セルヌノスのアエヌス)戦いに疑いを持つ者
ラング 妖魔五位(抜舌獄 漁色のラング) 大蛇に乗る
ベネノ 妖魔六位(毒蛇獄 美粧蓮歩のベネノ)女性、二匹の獣を連れる
カーサー 妖魔七位(鋸解獄 紅蓮刀のカーサー)巨象に乗る
カスピス 妖魔八位(尖刀獄 ヒュブリスのカスピス)
グラッシス 妖魔九位(寒氷獄 黒海馬のグラッシス)怪鳥に乗る
ベナ 妖魔十位(血汚獄 サキュバスのベナ)意馬心猿の術使い
ネクタリオスは帝都から、やっと芙蓉姫のいる旧オイア領まで到着した。西部の地は遠く、馬は疲れ切っていた。彼はすぐに王宮に登ると、皇帝が姫討伐の為の軍を起こしたことを伝えた。この報告にカドモス達は色を失い、いったい皇帝になにが起こったのか、狼狽えた。
「あの軟弱皇帝が、姫を討伐だと。信じられぬ」
カドモスは腕を叩き、落ち着かなかった。
「皇帝は、妹君である姫には、優しかったではないか。これまでカドモスの反意を許してきたのも、姫に嫌われたくなったがため。それが姫を憎んでおいでとは解せぬ」
タキスも難しい顔をして、ネクタリオスに再度聞き直した。
「しかし、有余は無い。我らは応戦の準備をしなくてはなるまい」
ルキアノスは次の行動を決めているようだった。
「まて、これは変だ。皇帝は何者かに操られているのではないか?」
カドモスがネクタリオスに問うと、彼は詳しく説明した。
「帝都を妖魔が襲い、街は憎悪で溢れかえり、殺人が横行した。妖魔は人の愛憎を操るもので、愛する者を憎悪の炎で満ちさせ、殺めさせるといったものだった。皇帝自身も皇后、親王を殺害した。俺はデルフィネと共に妖魔を退治すべく、行動を起こし、宮殿にてこれを退治した。これにより街の狂気は無くなったものの、皇帝の憎しみは消えなかったのだ。皇帝の皇帝としての自負というものが、妖魔によって操られていたという事実を認めなかった。その為偽りの憎しみは、本物として心に刻み込まれ、消えることは無くなったんだ」
「ならば、その憎しみの炎を消せば良いのだな」
カドモスは、解決法を見いだしたが、ネクタリオスは浮かない顔だった。
「皇帝の心を解すのは容易ではない」
「イアソンが居れば、皇帝をたらし込むことも可能だが。彼は既に亡くなった・・・」
カドモスは残念がった。
良い案が思い浮かばないので、皆ここで黙りこんだ。
「では、私が兄のもとに参りましょう」
それまで静かに聞いていた芙蓉姫はおもむろに、立ち上がった。
「何と仰せです?」
驚いて、カドモスは彼女を見つめた。
「兄上の心が頑なであるのならば、私が心を開かせるしかないでしょう。兄上も家族を失われ心に傷を負っていらっしゃいます」
「姫、危険です。お止め下さい」
カドモスは慌てて、制した。
「それは自ら首を差し出すようなもの。皇帝は以前の皇帝ではありません!」
ネクタリオスもカドモスに賛同した。
「しかし、身内として、兄上を放っておけません」
一同は、姫の固い決意を止めがたく、悩んだ。
「それでは、こうでどうかな」
口を挟んできたのは僧侶のミルトスだった。
「私が、姫と共に帝都に向かうということでは」
「二人ですか?無謀です。帝都は戦で兵が溢れているはずです。捕まりに行くようなものです」
タキスは反対した。
「私では不十分ですかな。ダーナ殿」
ミルトスは、いきなり、それまで傍観者のようにしていた、ダーナに会話を振った。
「貴方であれば、帝都ではなんの心配もないことでしょう。しかし帝都は遠い、どうやって行かれるおつもりか?」
「もちろん、貴方の技によってです」
ミルトスは、平然と答えると、ダーナは苦笑いをして、頷いた。
「ダーナ大丈夫なのか?」
カドモスは、ダーナが同意したので、一応の安心はしたものの、まだ心配だった。
「聖ミルトスが伴うというのであれば、なんの心配もあるまい。しかし、皇帝の心を変えられるかは別だ。それより、決裂したさいは、戦いになるが、どうする?」
「無論、戦うだけだ」
カドモスの意志は、固まっていた。
「私は、人の戦に関わるつもりはない」
「それは分かっている」
「ならば、姫、我々は帝都に向かうとしましょう」
ダーナが芙蓉姫に語りかけると、彼女はミルトスともに、ダーナに付き従い。彼の呼び出した大鷲の背に乗り東に飛び立ったのだった。
大鷲は青空高く舞い上がり、風を切り、帝都を目指して飛んだ。姫に付き従うのは、ダーナ、ミルトスの両名だった。姫は、兄に謀反の疑いを掛けられ、悲しんでいた。彼女は、兄妹が争うくらいであれば、我が身を兄の手にゆだねてもいいと考えていた。しかし、そうなれば彼女を愛するカドモスは悲しみ、必ず、皇帝への報復を行うことが分かっていた。国を二分する戦いとなり、パテリアが滅んでいくさまを彼女は見たくなかった。兄をなんとしても説得しようと、彼女は固い決意をしていた。
大地をうねってヒパボラ河が横切り、それを越えた平原の先の丘陵地に帝都はあった。
大鷲は大きく旋回すると、周囲を見渡した。帝都には兵が集まり、遠征の支度をしていた。討伐軍の準備は揃い、今にも出撃しそうだった。カドモス等が旧オイア国領の前戦より、ウンダ河を渡り旧タラース領を横断し、西域の門である関までには、時間が掛かった。このままでは帝都の軍勢は、関を越え、旧タラース領内で戦いが始まりそうだった。
大鷲が平原に舞い降りると、彼らは大地に立った。
「私は、周囲に妖魔が潜んでいないか、探ってくる」
ダーナは大鷲の首を撫で、再び大鷲で飛び立とうとしていた。
「皇帝の心を安んじてくるが、迎えに来てくれよ」
ミルトスは、穏やかに、釘を刺した。
「いっそのこと、皇帝をここに、連れてこようか?」
「それでは、皇帝の面目丸つぶれであろう。それにほれ、お迎えが来たようだ」
ミルトスが、顎で指し示すと、帝都の方から、数騎がこちらに向かって来ていた。
ダーナは納得すると、一気に大鷲を天に舞い上がらせた。
やがて、騎兵がやって来て、姫とミルトスを取り囲んだ。
「お前達は何者!あの大鷲はなんだ」
馬上から、兵士は彼らを見下ろし、問いただした。
「こちらは芙蓉姫、。私はその従者の坊主です。皇帝陛下にご挨拶にまいりました」
ミルトスが返事をすると、兵士達は狼狽え、仲間と見つめ合った。一人の男が馬から降りると、跪いた。
「殿下。ご無礼をお許し下さい。しかし良かった。ご存じありませんか?殿下は皇帝陛下から命を狙われております」
「存じておりますよ。私は誤解を解くために陛下に会うつもりです」
姫は、家にでも帰るかのように、ゆったりとしたようすだった。
「行ってはなりません。私共が安全な所まで、お守りいたします」
兵士は、心から姫の身を案じているようだった。パテリア国が幾度の困難な目に会い、その度に、彼女の魔法の技に救われた来たことを、兵士達は忘れていなかったのだった。
この時、芙蓉姫は此の兵士たちも、戦い合せてはならないのだと、心に刻んでいた。
「有り難う。貴方たちが私を思う心は伝わりました。ならばこそ、パテリアの兵同士が戦い会うのは、私は見たくはありません。陛下と直接会って、誤解を解きます。貴方たちは私を信じて、王宮までの案内を頼みます」
「しかし・・・」
兵士は、素直に従えずにいた。
「頼みます」
姫が再び願うと、兵士は諦め、馬に姫をに乗せると、自らは馬を引いて、帝都を目指したのだった。
帝都に芙蓉姫がやってくると、兵士は驚き、ざわついた。皇帝からの殺害の命令は出ていたものの、誰も手が出せないでいた。人々は彼女こそがパテリアの真の王であると、知っていたからである。その魔法の破壊力は伝説となり、炎王として恐れられ、かつ敬われていた。彼女こそがパテリアの救世主であり、帝国そのものだった。
人々は遠巻きにし、彼女を眺め、王宮に向かう彼女を、心配した。芙蓉姫は王宮へと入り、皇帝への謁見を求めた。宰相のドルアスが出迎えたが、彼は芙蓉姫の扱いに戸惑っていた。やがて、姫はミルトスとともに皇帝の前に立ったのだった。
「皇帝陛下には、お元気そうで安心いたしました」
芙蓉姫は親愛の言葉をしたのだったが、皇帝の顔は硬かった。以前のようなおおらかさがなく、顔も暗く、疲れ切って、やつれているかのように見えた。
「何をしに来た。今日は坊主と一緒か。説法でも聞かせ来たのか?」
「これなるは、私の供です」
「カドモスめを、連れてくるかと思ったら、坊主とはなあ」
皇帝は頬をつき、詰まらさそうにした。
「皇帝陛下。恐れながら、陛下は皇后様と親王様を殺められたと聞き及んでいますが、本当でしょうか」
恐る恐る、芙蓉姫は尋ねた。
「その通りだ。どうして殺めたか、今では分からぬが、何故か後悔の念はない」
「お可哀想に、兄上様」
芙蓉姫は兄を哀れみ、悲しんだ。妖魔により操られていたとはいえ、愛する家族を自らの手で殺めて、苦しむところが、それすら分からなくなるほど、兄の心は傷ついているのだと、彼女は思ったのだった。
「予が何故家族を殺めたのかは分からぬが、妹よ。お前を始末したい理由は分かるぞ」
皇帝のよどんでいた瞳は、輝いた。
「陛下、何故私を憎まれるのですか。その理由をお訊ねしたくて、ここに参りました」
「分からぬと申すなら、予が教えよう」
皇帝は玉座から立ち上がると、壇上から芙蓉姫を指し、睨み付けた。
「お前の罪は、皇帝の権威を傷つけたことだ!」
「私が、何故その様な事を」
姫は悲しくなり、胸に手をあて訴えかけた。
「私はだだ、パテリア国が滅びないように、力を振り絞ってきただけなのです。私は魔法を使い、多くの人々を殺めてまいりました。それも全てパテリア存続のためなのです。陛下の権威を失墜させるなどと考えておりません」
「お前の魔法は脅威だ。敵も恐れているが、味方も恐れているのが分からぬか」
「何故、その様なお言葉。私は陛下に従い、使いたくもない魔法を使ってまいりました。それはパテリア。いいえ兄上様の御為なのです」
「そうかな。彼の男、カドモスの為ではないのか!」
皇帝の言葉はきつく、カドモスへの憎しみが、ありありと感じられたのだった。
「それは、違います。私は国のため」
「まだ言うか。ならば問おう。昔、カルキス攻略のさい、前戦に取り残されたカドモスを救ったのはお前だな。予はその様な命は出したことはないぞ。何故お前は予の意に反して彼の男を救った?」
「カドモスはパテリアには必要な武将だからです」
「違うな。お前は彼の男に恋しているからだ」
皇帝の言葉に、芙蓉姫は心を見透かされ、言葉に詰まった。
「あの彼の男、パテリア王座を狙う、獅子身中の虫だ。予はその危険性を除くべく、敵中に孤立させたのだ。それをお前は救った」
芙蓉姫は、あの時の真実を知り、身を震わせた。
「兄上、まさかそのような。カドモスは忠臣で御座います。フドウ将軍も亡くなりパテリアが滅びそうになった時、救ってくれたのが彼なのですよ」
「それも、奴が名を売るためだ。お前は利用されただけだ。そしてお前は彼の男の女になった」
「それは、違います。私は今でも兄上様を愛しています」
その言葉に皇帝は唾を吐き捨てた。
「お前は数々の危機を魔法で救った、そのことはパテリア国民が全て知っている。お前は国民に愛されている。しかし予は、どうだ。臆病者と民は陰では笑っている。お前の元には、外交に優れたイアソン、魔法軍を統率するタキス、水軍に秀でたレアンドロス、さらにオレアの名将ルキアノスなど蒼々たる人物が集まってくる。それはお前こそがパテリアの王であると、集まってきておるのだ。それに比べて予はどうだ。滅ぼした国の、食いっぱぐれが集まるだけだ。予の回りの臣は、お前と予を選ばさせたら、どちらを選ぶことだろうか」
「陛下、なにを仰せです。臣下は全て、皇帝に忠誠を誓う者です。パテリアは陛下が治める地なのです」
「どうだかな」
「誓って」
皇帝は、静かに笑って、剣を抜き、彼女ののど元に切っ先を突きだした。
「予に、とってお前は邪魔なのだ」
「兄上がそれでご納得いただけるのであれば、喜んで此の命差し上げましょう」
二人の兄妹は、見つめ合い目を離さなかった。
「将軍、芙蓉の首をはねよ!」
皇帝は剣を収めると、臣下に処刑を命じたのだった。その表情に苦悩の後はなく、憎しみに憑かれた、暗い影をもっていた。
皇帝の命があったが、将軍等は動かなかった。兵士達も皇帝の命に応じる様子もなかった。これに皇帝は歯ぎしりをすると、肩を震わせ、力なく玉座に座ったのだった。
「やはり予は案山子の皇帝なのか・・・」
皇帝は顔を手に埋め、耐えているようすだった。
すると、脇に控えていた、宰相のドルアスは皇帝に近づき、囁いたのでした。
「陛下、芙蓉姫を前にしては、臣下は従いますまい、ここは姫を帰し、どちらが真の支配者であるか決すればよいではないですか」
「そうだな、臣下が動かなければ、予はなにもできぬ」
皇帝は再び立ち上がると、芙蓉姫に激しい憤りを向けた。
「お前は、カドモスの下に返れ、予が軍勢を率いてお前達を退治してくれる」
姫は、こらえきれず涙を流し、顔を覆い、床に膝をついた。
「兄上様、何故戦い会うのです。こんなことならパテリアを救わなければよかった」
姫は兄を仰ぎ見た。
「うるさい、黙れ。お前は戦いの準備をすればいいのだ。どちらがパテリアの王か雌雄を決してやる」
それまで、脇に控えていたミルトスは、彼女を助け起こすと、芙蓉姫とともに王の前を退いた。皇帝は、ただ見ているだけの臣下に憤慨し、近くにあった槍を投げて、柱に突き刺すと、去ってしまった。ここでやっと臣下達は動きを解放され、息をついたのだった。
実は将軍や兵士達はミルトスの術を受け、金縛りにあって身動き一つ出来なかったのである。一人の将軍は皇帝の前で、屈辱されたことを怒り、芙蓉姫の後を追いかけた。
「何故、兄上様は、あのようになってしまったのでしょう」
悲しみを隠しきれず、芙蓉姫は王宮で泣いていた。王宮の飾り付けられた門を潜り、彼女は街にでた。そこには、彼女を守り王宮に連れて来た兵士達が居た。
「お気を確かに。皇帝は表向き正気の様ですが、既に廃人です。通常頑なな心は最愛成る者の手によって解きほぐされるものですが、妖魔が愛増の因果を結びつけ、容易にほどけないようにしてしまいました。元に戻ることはないでしょう」
「あなた、をもってしても、心は救えないというのですか」
「残念ながら」
騎兵等が、芙蓉姫を馬に乗せようとしたところ、王宮から将軍率いる兵が飛び出してくると、芙蓉姫達を取り囲んだ。
「先ほどは妙な技を使い、動けなくしたな。皇帝の命を果たしにやった来たぞ!」
将軍は大斧を振り上げると、芙蓉姫達の中に、飛び込んだ来たのだった。しかしその動きは停止した。将軍は再び大斧を構えたままで、微動だにできなかったのである。
将軍の配下の兵は、此の出来事に後ずさりし、遠巻きにして様子を伺った。
ミルトスは動けない将軍に近づき、手をゆっくりかざすと、囁いた。
「将軍。芙蓉姫がおいでになられ、皇帝はたいそう喜びさなれた。あなたも兄弟愛にふれ、心が温かくなりました。屋敷に帰り、家族のためなにかをしたい気分です」
すると、将軍は瞬きを何回かして、自分が何故斧を振り上げているのか、不思議がった。芙蓉姫が目の前にいたので、敬礼をすると恥ずかしそうに、退いた。かれは部下に持ち場に戻るように指示すると、その足で屋敷に向かったのだった。
「さあ、姫。私達は帝都を去るとしましょう」
「将軍は如何したのです?」
「彼は、用事を思い出したのです」
陽気なミルトスの返事だった。
帝都の近郊では、ダーナが二人の帰りを待っていた。
馬に乗った一群が、帝都からやってくると、彼の前で止まった。
芙蓉姫だった。
「聖ミルトス。貴方が居れば十分と、判断した私は正しかったようだな」
ダーナは腰掛けていた椅子から立ち上がり、手をかざしてそれを消した。
「皇帝の心を解きほぐすことは叶わなかった」
ミルトスは大きく息を吐いた。
「その様な結果になると、予想はしていたが。芙蓉姫。どうなされるのです。戦われるのですか、それとも逃れるのですか」
ダーナは、芙蓉姫に顔を向け、暗く沈んだ彼女に尋ねた。
「私は、パテリアの為に、死を選んだ方がいいのかもしれません」
彼女は呟いた。
「はっきり申しましょう。皇帝は病人です。この様な者に国の統治を任せてはいけません。貴方であるか、他者が国を治めるべきです」
「私が兄に替わり統治者になどなれません」
「兄弟愛はご立派です。さらにはっきり私の考えを申しますと。国と国との争いごとはどうでもいい事なのです。冥王が地上にやってくれば、その様なことは吹き飛んでしまうのです。愚かなことに悩む暇はありません」
「私はパテリアの民あっての、私なのです」
姫は非常に混乱していた。
「よろしい、ならば私が皇帝の軍勢を一人で打ち破ってご覧にいれましょう。それが貴方の足かせとなるのであれば」
ダーナは帝都に首を向けた。
「待ってくれ。ここはカドモスに相談してはどうだろう。この様な重要な問題を、古参の者の意見も聞かず行動を起こすのは良くない」
ミルトスは、ダーナが冷徹に行動を起こしそうなのを恐れ、慌てて制した。結局、芙蓉姫は兄の説得に失敗し、ダーナの大鷲の乗って、カドモスの下まで戻ったのだった。
芙蓉姫が旧ターラスに戻ってくると、大半の軍勢は旧オイアからの渡河を終え、第一陣は東の関を目指していた。カドモスは、西のオイアの守りを、手下のデクスターとラエバスにまかせ、西域の支配地の反乱を警戒しながら、軍を東部に送り込んでいた。
大鷲に乗って芙蓉姫が帰ってくると、カドモス達は帰還を喜んだ。皆で出迎えると、姫を囲み、皇帝の様子を聞いた。
「皇帝陛下は、大変お変わりでした。私のとの戦いをお望みでした」
芙蓉姫は疲れたように、うつむき加減に言った。
「そうですか。ならば仕方がありませんな。お相手をするだけです」
カドモスは、積年の恨みから、容赦なく叩くつもりだった。
「私は、パテリアの民が二つに割れて争うのは見たくありません」
姫の目から涙がこぼれた。カドモス達は芙蓉姫の悲しみを感じ取った。
「これは仕方がないことなのです。でなければ姫がどんな目に会わされるの分かったものではありません」
「私は良いのです。兄が死を求められると言うのであれば、死んでも構いません」
「なにを仰せです。姫になんの落ち度があるわけでは、ありますまい。どんな罪だというのです」
「皇帝の権威を失墜させた罪です」
「それが、皇帝が申し述べた罪状ですか。馬鹿げている。ただ、自己努力もなく、王子というだけで、地位を得ただけではないか。それを言うのであれば、失墜させているの自身ではないか」
カドモスの言葉は怒りで、荒く、芙蓉姫をさらに悲しまさせた。カドモスは語気を荒げたたことを後悔し、いかに治めるか悩んだ。
「良いではないかな。決着をつけるというのは、あちらも望んでいるようであるし」
ルキアノスは戦いの場を求めていた、滅んだオレアの戦士の血がパテリアとの戦いに湧き上がっていた。
「姫、我々の仲間のデルフィネは妖魔によって倒されました。姫が旅立たれた後、カドモスの箱に、彼女の羽根が戻ってまいりました。妖魔との戦いは進んでいるのです。いつまでもパテリアや、ご親族の事を考えている場合ではありません。もし姫が自決をお望であるとするのならば、それは許されるものではありません。いったい誰が冥王と戦えるというのです。おん兄君の皇帝陛下ですか?」
タキスは、兄に憎まれ、突き放された悲しさにくれる芙蓉姫に、足下を見るように進言した。
「俺は、人を治めるに黄武皇帝は力及ばず、まして冥王から地上の民を守ることなど、不可能だと思っている。姫には生きて冥王と戦って頂きたいと思う」
ネクタリオスは一匹狼の性格であったが、今後について、タキスと同意見だった。
「私は、オイアの土地が好き。パテリアのことは分かりません。でも姫様には生きて頂きたいの」
ミュージカは、事情を良く理解していなかったが、姫が自決を考えて居ることを知り、思いとどまらせようとしていた。
「姫、皆この様に、貴方の身を案じています。彼らを悲しめなさいますな。もっと大きな目で世界を見て下さい。地上の平和を守るのが、貴女の務めですよ。もう自決しようなどと申されるな」
ミルトスは姫を宥めると、彼女は頷いた。
「結論は出たようだな」
静かに聞いていた、ダーナは席を立った。
「何か用があるのか?」
カドモスはダーナを引き留め、これからの作戦に助言を貰おうとしていた。
「これからお前達は、棒で打ち合うのだろう。俺はそんなものに興味は無い」
「なにか、急ぐ用でもあるのか?」
「ちょっと教えを請いにな」
意味ありげに、ダーナは笑った。
「貴方ほどの者が、教わることがある人物がいるのか?」
「世界は広い、それに私が知ることなど微々たるものだ」
「なら仕方ないな」
カドモスは、風のような男を止めるのは不可能と知っており、それ以上は言わなかった。
ダーナは霧の様に、一同の前から姿を消したのだった。
ダーナは街を歩き、妖魔とレアンドロスが戦った場所へと来た。壊れた塔はそのままだったが、周囲はかたづけられていた。ダーナは地面に手を置き、何かを唱えると、レアンドロスと妖魔の戦う姿が、白い霞のようなもにによって表された。次にミルトスと妖魔の戦いが表れ、妖魔が退散すると映像は消えた。ダーナはその妖魔の逃げた方向に、淡く光る陽炎のような生物を呼び出し、その跡をたどらせたのだった。
小さな光は北西に向かい、ダーナは麒麟を召喚すると、追いかけた。それはウンダ河を越え、旧オイア国の北の山間までやってくると、途絶えた。
人気の無い土地だった。低めの山が西に有り、その尾根が平野に下る、その先端にあった。大きな巨石が転げ落ちるのを踏み留まっているかのように、そそり立っていた。
ダーナはその岩に近くに、霊気を感じたのだった。
「意外だな、陰気が集まる場所にあるものと思ったが、竜穴にあるとはな。奴らはこういう場所から、地上にやって来るのだな」
ダーナは今は閉じている冥界への入り口をこじ開けた。空間に闇が現れ、そこだけが異様な冷気に包まれていた。彼は躊躇もなく、その闇に飛び込むと、吸い込まれるようにダーナは闇と供に消えた。
ダーナは闇の中を歩いた、地面は確かに感じられたが、土を踏みしめる感覚は無かった。光は射さず、真っ黒な闇を進んでいたが、やがて彼の目も慣れ、次第に冥界の光を感じるようになっていた。それはうすぼんやりとしたもので、試しに彼は灯を点してみたものの辺りは明るくならず、光は闇に吸い込まれていった。薄く照らす冥界の光は地上のものとは違っていたのであった。
ほどなくして、ダーナは洞穴らしきものから開けた場所の出たが、目的の場所が皆目見当がつかなかった。草木はなく、奇岩がごろごろとしていた。彼はその岩の間をねって通る道に従って進んだ、やがてその道は二つに分かれ、彼を悩ました。
「妖魔のお出迎えがあると思ったが、出払っているのか?これでは宮殿がどちらにあるのか分からないではないか」
仕方なくダーナはコインを投げると、裏がでたので左の道を選択した。道はどんどん下に向かって伸びていた。どれだけ歩いただろうか、獣ののような声が響き渡り、進むに連れて大きくなった。いつ岩陰からそれが襲ってきても可笑しくなかった。谷間まで来たとき、ダーナは高台に多くの怪物の群れが、見下ろしているのを感じた。そして、一匹が咆哮をあげ襲いかかると。怪物の群れが一気に襲いかかってきた。ダーナの周囲は怪物だらけとなった。するとダーナは右足で大地を踏むと、両手を放った。ダーナを中心として全方位に衝撃が放され、怪物は肉を引きちぎらせ、全滅した。
さらに道を下っていくと、二匹の棍棒をもった巨人が、立ちふさがっていた。二匹はダーナの姿を発見すると地響きをたて、襲いかかってきた。巨人が棍棒を振り下ろし、ダーナを撃ち殺そうとすると。ダーナは一瞬で巨人の足下に移動すると、その膝を掌で砕いた。
巨人はバランスを崩し、土煙を巻き上げ倒れると、すかざすダーナは脳を砕いてしまった。
続く二匹目は仲間が殺された事を怒り、棍棒を大きく振りかぶってダーナを潰そうとしたが、その姿勢のまま、左右真っ二つにされ、後ろのに倒れた。
「だいぶ、地獄に奥まで進んだようだ。霊気が次第に濃くなって行くのがわかる。探査の目が通じないとすると、冥界全体に結界が張られているのだろう」
道はそれからのも何度も別れ、ダーナを悩ませた。今度は右手を選び、進んで行くと大小様々の池に出くわした。その池に浸かってわめき散らしている人々の姿を見かけ、ダーナは人が居るのに不思議に思った。池の畔に近づいてみると、その池は真っ赤であり、粘性があった。生暖かい液体が、彼の手を流れ、池に落ちた。
「血なのか?」
ここで彼は何故か、昔倒した妖魔のベナを思い起こした。
「地獄がどういう存在であるか知らないが、悪趣味だな」
顔を横に向けると、冥界の太陽が見えた。それは夕日のようで、沈みゆく姿をしていた。だが、それは動かず、ただ地平線の上に留まったままだった。
ダーナは血の池に構わず、さらに先へと進んだ。すると大きく開けた場所の出て、道はさらに先に進んでいた。ダーナは呆れたが、霊気の密度具合から、方向は間違っていないと読んでいた。この場所で、ダーナは気になる存在を見かけた。それは平原にたむろする怪物の群れだった。その怪物の密集度に不自然さを感じていたのだった。そこで彼は、この怪物の群れは、冥王が地上に攻め入るさいの先兵ではないのかと判断した。
「ここまで冥界の奥に進んで妖魔が現れないとは」
ダーナは留守の家を、訪ねている気分だった。
暫く、興味深げに冥界の怪物を眺めていたダーナは、怪物の強度を測ろうと決心した。
彼は、堂々と怪物の群れの中に進むと、怪物をなぎ倒していった。怪物の群れの囲いは厚く、周辺部は小型の怪物がおり、中心部に向かって大型化していた。ダーナの攻撃によって、その群れの中核辺りまで、削り取ると、その後ろは死体が累々とした。しかしその先の中核はかなりの抵抗があった。ダーナが驚いたのが、中核の怪物は魔法耐性があったのである。そこでダーナは攻撃方法を変え、心理攻撃をしたのだった。すると、巨大な竜の集まりは動きが緩慢となり、眠りに導かれようとした。しかし、それを押しとどめた者が現れた。
妖魔だった。
「何か騒がしくなったかと思ったら、ワルコの将であったか」
妖魔は殺された怪物を見て悔しそうに言った。
「やっと、お出ましか。早く迎えに来て暮れれば、こうは成らなかっただろうにな」
ダーナは怪物への攻撃の手を緩めると、怪物の群れの外に飛んだ。逃がすまいと、妖魔も跡を追いかけた。
「私は勾陳星のダーナだが。貴方は何者かな」
ダーナは大地に立つと、追いついてきた、妖魔に尋ねた。
「俺は、妖魔第五位、抜舌獄、漁色のラングだ」
妖魔は、今にも襲いかからんばかりだった。
「なるほど、中堅というわけか。なかなか地獄は序列が厳しいようだな」
「うるさい。人間の分際で、地獄にやってくるとは傍若無人な態度が気に食わぬ」
「まあ、そう怒るな。お前達が現れぬので退屈しておったのだ。今日はみんな留守か?」
「ますますもって、妖魔を馬鹿にしおって。今日は俺だけだが、貴様を始末するには十分だ」
「ちと聞きたいが、お前達の主の、冥王は何処にいる?」
ダーナのと問いに、ラングは気を削がれ、大声で笑った。
「お前、まさか冥王シャヘル様を倒しに来たのか?」
「最終的にはそうだが」
「ワルコの将どもは大馬鹿ばかりなのか。冥界を我々が、ほとんど守っていないのは何故だと思う、冥王様の力が絶大だからだ」
「冥王はそんなに強いのか?」
「お前など瞬殺だ。まあ、その手は患わすこともあるまい。お前は俺が始末する」
妖魔のラングは構えたが、ダーナが手をかざすと、目眩が襲った。体に中を何かが、ダーナに流れている行くのを感じ、それが記憶だと分かった。
「貴様、俺から記憶を盗んだな!」
「お前達が得意な技であろう。それにしても、レアンドロスを倒したのはお前だったのか」
ダーナは何かを決めたようだった。
「お前の主の居場所は分かった。お前には消えて貰うことにしよう」
「それはこちらの台詞だ。お前は冥王様の結界の中にいることを忘れるな」
抜舌獄のラングは、いきなり魔法の絶技ラ・モルテを放った。
周囲に髑髏が溢れ、髑髏から怪しい風が流れ出ると、それはダーナの体内を吹き抜けた。
そしてその風に乗って大鎌がダーナを襲った。ラングは勝ち誇り、高らかに笑ったが、自分の顔にぶつぶつが出てきたのに気がついた。彼は我に返り、両手を見ると、手にいぼが出来膨れあがっていた。やがてそれは弾け、肉はただれ、腐れ、そげ落ちた。
「貴様、俺の技を返しやがったな!」
ラングは体を崩しながら、ダーナを指さした。
「流石に、返し技では完全に決まらないか。ならば我が魔法技イル・バカットにて楽にしてやろう」
ダーナが腕を交差させ、開くと、魔法奥義が放された。星辰が燦めき、天井が埋め尽くされゆっくりと回転を始め、四つの神具が揃うと、星々は天から降り注いだ。
妖魔ラングは消失した。
ダーナは埃を払うと、冥王シャヘルの神殿目指して歩んだ。
冥界の何層もの先に冥王の宮殿はあった。
黒く輝く神殿は、美しかった。神殿はどこまでも静まりかえり、生き物の気配が全くなかった。死と静寂を冥王は好むようで、ダーナは無意識に緊張していた。大きな回廊を渡り、大広間にでて、先を見ると、高くなった段の上に玉座があった。かれは緊張で立ち止まり、玉座に目をこらすと、冥王が座っていた。
「ご無礼致します。冥王シャヘル陛下でしょうか?」
ダーナは堂々と冥王の前に立つと、深々と挨拶をした。
冥王は巨体だった。瞳は何処まで黒く、闇に吸い込まれるようだった。頭には銀の冠、様々の宝石が埋められていた。顔立ちは整い、筋肉は隆々としていた。近づきたがい霊気を感じた。
「お前は、ワルコの将。お前は僕のラングを滅したな」
ダーナは冥王の言葉に人らしい怒りでなく、底の無い空間を感じた。
「はい」
暫く、冥王は黙っていたが、再び目を開いた。
「まあよかろう。お前の魔力の気配から。我が配下、妖魔第一位のウーマーほどの実力を感じる。お前はワルコの将、第一位なのか?」
「我々は序列は採用していません」
「緩いのだな。しかし、大胆不敵にも、一人で乗り込んでくるとは見上げた奴だ。なにをしにきた?」
冥王の言葉は、低く、静かだった。
「二、三お訊ねしたいことが御座いまして」
「予に質問ととはな。面白い、なんなりと尋ねてみよ」
言葉は、歓迎していたが、顔は笑っていなかった。
「冥王あなたは何故地上を欲しているのです。地上を冥界のようにしたいのですか。それとも、そのまま二つの世界を手にしたいためですか」
「予は地上など欲しておらぬ」
「なんですと!」
冥王の言葉に、ダーナは驚愕し、我が耳を疑った。
「それでは、魔王の玉座をめぐって、ワルコと争っているのですか?」
「玉座だと。なんのことだ」
ダーナは冥王の答えに目眩がしてきた。
「では、陛下はワルコと争ってはいないのですか?」
「それは争っている」
「どういうことですか?」
「予はワルコを消滅させなくてはならぬのだ。そのため時を待っている。まだその時ではない」
「何故、ワルコを殺めるのです?」
「ずっと昔だったか。私はもっと深眠りの中にあった。私は冥界に有り、空虚だった。ある日、ミケーネという女が私の下に現れ、話しかけたのだ」
「ミケーネですと!」
「その女が言うには、私の心の空虚は、ワルコによって奪われて、満たされぬ心だというのだ。ワルコを亡き者とすれば、奪われたものは戻り、私が私であるというのだ」
「陛下の真のありようとは?」
「世界を支配する力、天界、冥界を統べる力だ」
「なるほど、あながち間違ってはいなかったと言う訳か。陛下の部下が地上に混乱をもたらしていますが」
「私は、時が来るまで地上の露払いをしおけと命じただけ」
「露とは?」
「ワルコの僕だ」
ここまで話して、ダーナは納得したようだった。
「陛下はミケーネの言葉をご信じになるのですか?もしかしたら、彼女は嘘をついているかもしれませんぞ」
ダーナは揺さぶりを掛けてみた。
「何故か、あの女は懐かしく感じ、信じれるのだ。そう、予の心を満たしてくれる」
「ワルコと直接話されたらどうです。無駄な戦いは必要ないかもしれませんぞ」
「話をせんでも分かる、地上でワルコが時々魔法を使うが、彼の力こそが私の失ったもの。おそらく借り物の力に、力を出し切れていないのであろう」
ダーナは、芙蓉姫はミケーネによって初めて、魔力を得ので、彼女が奪ったなどとは信じがたいと思った。
「地上に新しく星が出現していますが、陛下がなされているのですか?」
「予は知らぬ」
「では、地上に魔法使いが現れていますが、この現象の原因をご存じでしょうか」
「それは、ワルコが、予との戦いに備えているのだ」
此の問いにはダーナは違うと思った。
「お前は、それを訊きに冥界にやってきたのか?」
冥王は意味ありげに言った。冥王は真っ直ぐダーナを見据え、何かを求めているようだった。ダーナが周囲を見渡すと、強い結界が張られ、そこから抜け出さないようにされているのが分かった。冥王の意図は分かった。
「冥王様。実は力比べを致したいと思っておりました」
「なるほど、ではワルコの将の実力を見せてもらうとしよう」
冥王が、目を見開くと、ダーナは衝撃を受けて後ろに吹き飛んだ。ダーナは咄嗟に防いだものの、交わしきれなかった。次に、ダーナは立ち上がると、魔神を召喚したが、冥王の一吹きで、それらは砕け散った。
ダーナは、冥王の実力を肌で感じた、ワルコの将全員で戦えば、何とかなるのではと考えて居たが、冥王の力は強大で、彼をもってしても、倒すのは難しいと分かったのだった。
冥王を仕留めるとは難しいと感じた、ダーナは退却を考えた。彼は、床の石を浮かび上げると竜巻のように回転させた、そして冥王でなく、周囲にたたき付けたのだった。周囲は強力な結界に囲まれていたが、ゆがみが生じ、その隙間にダーナは魔法奥義イル・バカットをたたき込むと、開いた。彼は冥王の囲いを突破すると、麒麟を呼び出し、一気に冥界の出口を目指した。
だが背後から、冥王の魔力の鞭が襲いかかり、ジグザグに避けながら、なんとか命からがら脱出できたのだった。ダーナは地上に戻ると、冷や汗でをかいているのに気がついた。かれは大鷲に飛び乗り、竜穴を去ると東へと飛んだのだった。
今回の冒険でダーナがわかったことは、今の芙蓉姫では冥王シャヘルには勝てないということだった。冥王がまだ、冥界より立ち上がるより前に、打開策を考えなくてはならなかった。
カドモスとルキアノス率いる第二軍が東の関に到着したころ、皇帝軍はヒパボラ河の渡河を終え、目前にせまっていた。タキス率いる第三軍はまだ到着しておらず、魔法戦力は無かった。
「思いの外、皇帝軍は行動が早かったな」
城塞から、平原に集まった皇帝軍を見渡し、カドモスは言った。
「東部方面の軍勢が戻っていないのがまだ救いだな」
内心、戦いに飢えていたルキアノスは、戦いを待ちきれないでいた。
「さて、第三軍の到着をまって反抗するかだが」
「その必要もあるまい。あの大軍の中の中身はどうだと考える?」
「恐らく大半の将兵は、嫌々ながらの参加であろう。皇帝に忠実な一握りの武将が、実行部隊だろう」
「ご名答。そいつ等を屠れば。皇帝軍は戦意喪失し、崩れる。それに芙蓉姫の魔法の力を知っているので、魔法戦を挑むのを避けるだろう」
「ならば、お主、一騎打ちを挑んでみるか?」
「望むところだ」
ルキアノスは飛びついた。
「ただし条件がある。急所は外すこと。姫がパテリアの民を心配されているかな」
「まあ、やってみるさ」
カドモスの条件をルキアノスは飲んだ。無茶な注文だった。
ルキアノスは槍を片手に、一騎で城門より飛び出すと、皇帝軍の大軍の前に立ちはだかり、勝負を挑んだのだった。
ルキアノスの前に、パテリアの旗がはためき、諸将がこちらを注視していた。やがて、一人の将が名乗りをあげ、挑んできたのだった。両者は向かい合い馬を走らせると、ルキアノスはすれ違い様、胸を突き、将を落馬させた。急所を外していたので、武将は立ち上がり、副将に救われて退いた。次に現れたのは、二人の将であった。彼らは息の合った、武将であり、挟み撃ちにして倒すのが得意だった。両将は馬で駆け寄ると、ルキアノスの左右から激しく攻め立てた、彼はこれら全てを交わすと、両将の腕を突き刺すと、得物を落とさせた。三番目に勝負を挑んできたのは、大刀の将だった。太い腕に筋肉が得物を軽々と操れる事が分かった。ルキアノスは激しく攻め立て、大きく大刀を振り回させる機会を与えず、股を突き刺すと、馬から突き落としたのだった。
此の戦いを見ていた、皇帝軍はルキアノスの強さに、勝負を挑もうと思う者はいなくなった。
此の勝負を、城塞の上から眺めていたカドモスは、遠く本陣の旗印を見ると、皇帝が直々出陣していることがわかった。皇帝軍の諸将が尻込みしているのが感じ取れたカドモスは、直ちに城門を打って出た。ほとんどの皇帝軍は応戦しよとせず、カドモスの突撃を避けた。皇帝は慌てふためき、忠誠の高い将に命じて、迎え撃つのを命じた。
カドモス軍が飛び出すと同時に、ルキアノスは、皇帝目指して突進した。単身大軍勢の中に飛び込むようなものだったが、皇帝軍の大半の将兵が動かなかったので、まさしく野を駆けるようだった。襲いかかる兵を蹴散らしながら、ルキアノスは皇帝の間近にせまった。これには元来小心者の皇帝は慌てふためき、近衛兵に守られ、ヒパボラ河に逃れた。
皇帝への忠誠が高い将は、奮戦したが、次々にカドモスとルキアノスによって、重傷を負わされ、戦場から逃げた。
対抗勢力を一掃したカドモスは、遠巻きで傍観していた諸将に呼びかけた。
「真のパテリアの王は芙蓉姫様だ。姫に付き従うものは、我とともに皇帝を追え!」
この呼びかけに、皇帝軍は、カドモスに従い、皇帝の追討を始めたのだった。
将兵に守られた皇帝は、帝都にたどり着いたものの、城門は閉じられていた。将がなんども開門を迫るものの誰も応じることはなかった。仕方なく、皇帝は旧パールバス領に逃れ、東部方面の遠征軍の帰還を待ち、反撃にでようと考えて居た。
しかし、カドモス等の追跡は厳しく、たちまち騎兵団に追いつかれ、兵を討ち取られてしまった。パールバスの街道は素早く押さえられ、やむなく皇帝はオリュントス方面に逃れることになった。皇帝は汗だくになりながら、逃避行を続けていると、付き従っているのは僅かに三十名ほどになっていた。乾いた岡を超え、緑豊かな岡を過ぎオリュントスの都に着いたとき、既にカドモスの兵が待ち構えていた。
「陛下。もうこれまでです」
付き従ってきた宰相のドルアスは、疲れ切った様子で言った。
「予は東に逃げるぞ」
「カドモスは、ぬかりなく東部方面の軍を掌握しているでしょう」
「予は、皇帝だ。何故こうなるのだ」
皇帝は地面を叩いた。
「皇帝の器でなかっただけです」
ドルアスは正直に答えた。
「予は皇帝など成りたくなかったのだ。カドモスめがこうしたのだ」
「陛下、陛下は中原の覇道を目指しておいででしたでしょう。身から出た錆です」
「お前が、そういうか」
皇帝は砂を握り締めた。
「さぁ、これっを」
皇帝に手に渡されたのは短剣だった。
「なんだこれは、予は未だ死にたくない」
皇帝は短剣に震え、尻を引きずりながら、下がった。
「陛下、ご家族が、あの世でお待ちですよ」
「いやじゃ。嫌じゃ」
だだをこねて、うずくまった皇帝を見て、ドルアスは部下の兵に命じた。
「此の剣を用い、ご自決の手伝いをして差し上げよ」
兵は皇帝を羽交い締めに、抵抗する皇帝の首を切ったのだった。
首から噴き出した血は、地面に吸われ、地面をぬらし広がった頃は、皇帝は動かなかった。
<統一前中原諸国地図>
______________ヒパボラ河____________
河^^^[パテリア]^^^^河河^^^山山山山山山山山山山山山
^河^^^^^^^^^^河河^^^^^^山山山山山山山山山^^^
^^^河^^^^^河河^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
^^^^^河河^^^^^^^^^^^^^^へクロス川^^^^^^
^^^^^^河河^[テルプーサ]^^^^^^河^^^[コザニ]^^^
山^^^^^河河^^^^^^^^^^^^河^^^^^^^^^^^
山^^^^^河河^^^^^^^^^^^河^^^^^^^^^ガリオス川
^^^^^河河^^^[パライ]^^^河^^^^^^^^^^^河^^
^^^^河河^^^^^^^河^^^^[パサカイ]^^^河^^^^^
^^^河河^^^河〜河〜河〜河〜河〜河〜河〜河〜河〜^^^^^^
^^^^河河^河^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
山^^河河^^^^^[オレア]^^^^^^^^^^^^^[バールバス]
^^河河^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
^^河河^^[シュキオーン]^^^^^河^^イナコス川^^^^^^^
^河河^^^^河〜河〜河〜河〜河^^^[オリュントス]^^^^^^^
河河〜河〜河〜^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
^河河^^^^^[ハニア]^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
^河河河^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海