ミュステーリオン   作:のんき三郎

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<芙蓉記登場人物リスト>

カドモス  (六合星のカドモス)中原からの流れ者
ダーナ   (勾陳星のダーナ)元オレア国天文官 魔法使い
イアソン  (貴人星のイアソン)知将、元行商人
ルキアノス (玄武星のルキアノス)元オレアの武官、槍の名手
ネクタリオス(青龍星のネクタリ)用心棒家業、弓の名手
タキス   (天空星のタキス)双鞭の使い手 魔法使い
レアンドロス(白虎星のレアンドロス)元ハニア国海軍士官
ミルトス  (太常星のミルトス)僧侶 治療術使い
デルフィネ (太陰星のデルフィネ)パトライ国第五王女 女将
ミュージカ (天后星のミュージカ)発明少女
芙蓉姫   パテリア第三王女

デクスター カドモスの弟分
ラエバス  カドモスの弟分

紅花    パテリア第四王女

ホル    パテリア国宰相主補佐
カルスダン パテリア国宰相補佐
パサナテル パテリア国宰相補佐

ミケーネ  占い師、(アルマロスのミケーネ)
ゼノビオス ミケーネと敵対する謎の人物

シャヘル   冥界の王 十人の妖魔の主

ウーマー   妖魔一位(抽腸獄 月光のウーマー) 
コスタ    妖魔二位(穿肋獄 ミトラのコスタ) 死者を蘇らせる
ハスタ    妖魔三位(針山獄 一角獣のハスタ) ホーネスの仇
アエヌス   妖魔四位(焼手足 セルヌノスのアエヌス)戦いに疑いを持つ者 
ラング    妖魔五位(抜舌獄 漁色のラング)  大蛇に乗る
ベネノ    妖魔六位(毒蛇獄 美粧蓮歩のベネノ)女性、二匹の獣を連れる
カーサー   妖魔七位(鋸解獄 紅蓮刀のカーサー)巨象に乗る
カスピス   妖魔八位(尖刀獄 ヒュブリスのカスピス)
グラッシス  妖魔九位(寒氷獄 黒海馬のグラッシス)怪鳥に乗る
ベナ     妖魔十位(血汚獄 サキュバスのベナ)意馬心猿の術使い


第十九劇 魔術師の帰還

 それは猟師達の噂から始まった。

 彼らがいつものように、山に入ると獲物がおらず、怪しいんでいると、群れだって逃れてゆく動物の大群に出くわした。人々は天変地異の前触れではないかと、囁き合い、この話で持ちきりだった。この現象はパテリア全土で起こっており、帝国は民心を落ち着かせるように努力した。

 人間が肌で感じない異変を、動物が感知し異様な行動に走らせたのだが、この前触れは次第に、人間でも分かるようになってきた。異様な季節風が起こったのである。湿った空気が流れ込んだかと思うと、乾燥した空気に変わり、寒かったり、やたら熱かったりしたのだった。 一方の地には日照りが起こっているかと思えば、他方では大雨で水害になったり、晴れて居たかと思えば、土砂降りの雨にあったりと、めまぐるしく天候が変わった。

この不安定な天候に、農作物の生育ははかばかしくなく、副宰相等は対策に頭を痛めていた。食糧不足による、反乱者の出現を警戒していたかからである。

 しかしカドモスはこの現象を気にしてはいなかった。もうすぐそれより恐ろしい、冥王が地上にやってくると分かっていたからだ。これらの現象は、地獄の王の魔力の影響を受けて、起こったのだと、彼は捉えていた。

 魔法城「お菓子の家」の城門から、平地を見渡すと、戦車「亀さん改弐」が整然と並んでいた。亀さんの三代目である。冥界の生き物を対象とした戦車だった。車体は大きく重量を増し、その為機動力が犠牲になった。その代わりに、本体の魔法の火力が増していた。この車両一台で魔法使い五十人分の戦闘力を持っていた。

 この戦力で果たして冥王軍に対抗できるのか、カドモスは深く悩んだ。冥界から持ち帰るはずだった、古の神の一部は、自分の不始末で地獄から持ち帰る事が出来ず、戦力ははなはだ心許なかった。

 冥王の魔法城の出現後、その情報をもとに、西域ではお菓子の家を中心として五城の連携による防衛網は構築され、四方からの攻撃に、いつでも対応できるようになっていた。魔法具の戦力は五城内に展開し、主力の怪物を呼び出す冥界の門のポイントもおさえていた。

 これらは、芙蓉姫の周囲に、固く配備したもので有り、国そのものの防衛にはなっていなかった。首都ナティビタスは無防備であり、中原の都市にはなんの手立ても施しておらず、ここを襲われては、民の安全を守れなかったのである。ミュージカは万が一のため、首都ナティビタス近郊に、魔法具を配備をしていたものの、西域域の防衛網と比べたら見劣りしており、いざとなったら、旧帝都での亡者事件で召喚した怪物達がヒパボラ河右岸に留まっていたので、これを北上させナティビタスの防衛にあたらせるつもりであった。パテリアの国土は広大であり、これを完全に守るなどとは不可能だったのである。

 カドモスは冥王がヒステア国に魔法城を建てたことから、西部のどこかに現れると読んでいたのである。冥王の目的はワルコの力を自身の中に取り込むこと、ならば、あえて芙蓉姫を囮にし、冥王軍を西部に誘き寄せる。それが、カドモスの基本戦略だった。。

 しかし、冥王軍の行動は、彼の予想外のものであった。

 伝令によれば、東域全体に妖しい黒雲が出現し、日が遮られているとの報告が舞い込んで来たのである。予想外の地域に変化が現れたので、カドモスが怪しんでいると、次にもたらせたのは東部トモ山脈の麓に巨大な冥界の門が出現し、怪物が溢れ出したとの報告だった。

 これにカドモスはたいそう驚いた。冥王の目的がまるで見えないからだった。冥王の真目的は、ワルコにあるはずで、地上の支配ではないはずと、彼は自問自答してみた。

 冥王はまずは手始めとして、手薄な場所から、地上の蹂躙を始めたのではないかというのが、彼の出した結論だった。

 東域の兵は中原の護りに、戻らせ、東域には僅かばかりの駐屯隊しかいなかった。かりにいたとしても怪物相手に戦えないというものであり、なんの手立ても打てないことに、彼は、歯ぎしりをした。人ならざるものとの戦いにカドモスは頭を痛めた。

 おそらく冥王軍はモト山脈から西に中原を目指すはずなので、中原の軍に魔法具を送り、防衛に当たらせようと、彼は思った。さっそくミュージカに武具の移動を要請しようとしたが、彼女は別の案を提示して来たのだった。

 魔法具を中原に送るには、日数を要し、仮にそうすると、肝心の西域の防衛が薄くなる、そこを冥王は狙っているので、みすみす策に嵌まることはないとのことだった。彼女が提案したのは、怪物には怪物を当たらせることだった。番頭さんの解析によると、トモ山脈のユンクタス河を挟んだ対岸にはムルティ山脈があり、ここには沢山の竜穴がありここに怪物を召喚し、迎え撃たせるといったものだった。

 問題は芙蓉姫が西域より東域に如何に移動し、怪物を召喚するかだったが、それについてはミュージカが妙案を考えだしていた。

 彼女は旧帝都近郊で冥界の怪物を召喚した事例を番頭さんを用いて解析していた。冥界の門は地上と冥界を繋ぐゲートであり、これを利用出来ないかと考えたのだ。冥界と地上を繋ぐのであれば、地上と地上を結ぶことも可能なのではないかという発想だった。

 冥界の門は膨大な魔力をもって、作られ、それは冥王あるいはワルコの力によってなしえるものだった。芙蓉姫の力があれば可能だったが、地上のどの位置に送るかの制御が難しかった。いわば大海を渡る船を用いて、河の向こう岸まで渡るようなものだった。そこでこの制御をルルを用いて達成しようとしたのである。

 ミュージカの最高傑作の「ララ」だったが、ワルコの膨大な魔力を制御することにはかなりの負荷がかかったが、それが出来居れば、西域の防衛網がさらに強化できるのだった。

 芙蓉姫は旧帝都での亡者事件で、召喚した地獄の怪物達を、配下とし、亡者一掃の手段とした。敵の怪物が味方の軍となるためには、どうしても一度、姫が怪物に関与する必要があった。ミュージカは五城の防衛網の一角に、冥界の怪物の駐屯地をこしらえ、此の地で怪物を味方の軍勢と化し、それから冥界の門を通して、東域に送り込もうとした。

 カドモスは彼女の案に感動すると、直ちに、芙蓉姫に怪物の召喚を願い出たのだった。

 

 西域に巨大な雲が立ち上った。冥界の門である。

 地獄から怪物が続々と地上に這い上がってきた。アンキュラ魔法城の近郊に集められた怪物は大地を埋め尽くしていた。ミュージカの魔法の柵内いに怪物は囲い込まれており、高台に芙蓉姫は立つと、獣の王に語りかけたのだった。ワルコと獣の王の意識が通じ、会話を遂げると、冥界の怪物達はワルコの僕となった。怪物達は列を作り、冥界の門に向かって進軍を初め、雲の中に消えていった。怪物達が送られたのは東域、ムルティ山脈の麓だった。樹海の真ん中に、冥界の門が立ち上り、そこから西域の怪物達は続々と、現れ出でた。彼らが迎え撃つのは、トモ山脈に出現した冥王軍だった。

 東域の駐屯していた僅かなパテリア部隊は、トモ山脈に出現した怪物の動向を監視していたが、突如、ムルティ山脈にも怪物が出現したので、動転した。まだ、西域にいるカドモスからの連絡は届いておらず、それが友軍であることを、彼らはまったく知らなかった。

 要塞に籠もった彼らは、二つの怪物の群れに、恐れおののき、撤退の準備を始めたのだった。やがて、トモ山脈にいた冥王軍の怪物はユンクタス河を渡河し、右岸に上陸すると、砂を巻き上げ、真っ直ぐ中原を目指し、進んだ。一方ムルティ山脈に現れた、ワルコ軍の怪物は、森の木をなぎ倒し一路南に南下、平原に出た。

 西に進路を定め、行軍していた冥王軍の怪物は右側、北にある森から、群れが飛び出してきたので、警戒した。遭遇したのは、同型の冥界の怪物であったが、冥王軍はすぐにそれがワルコの軍であることを悟った。両軍から凄まじい咆哮があがると、冥王軍は進路を西から北に変え、ワルコ軍に襲いかかったのだった。

 広い平原で冥王軍とワルコ軍の怪物がぶつかり合った。どう猛な怪物同士の戦いが繰り広げられ、阿鼻叫喚の世界となった。大地は怪物の死体で埋められ、食いちぎられた肉片が転がっていた。怪物達は逃げるということがなく、最後の一匹になるまで、戦うようだった。同じ能力を持つ冥界の獣同士、その戦いは消耗戦だった。

 時は過ぎるにつれ、勝敗は次第に明らかになってきた。冥王軍の数の多さに、次第にワルコ軍は押され始めたのだった。しかし、ワルコ軍が半数ほど、兵力を失った頃、一人の男が舞い降りた。

 勾陳星のダーナだった。

 彼はやっと地上界に戻ってみると、既に冥王軍とワルコ軍の戦いが始まっており、その戦いの行方を追って、やってきたのだった。

 高い位置から、戦場を見渡すと、ワルコ軍が劣勢に置かれていた。ダーナは芙蓉姫が怪物を召喚し、操れるようになっているのを確認し、まだ、召喚の量が足りないことを知った。次に彼が、探したのが妖魔の存在であった。彼らの存在の脅威はは怪物達以上であったからだ。見渡したところ、怪物達のみであり、この戦いは、前哨戦にすぎないようだった。そこでダーナは自らの手で冥王軍を始末することとしたのだった。

 彼は戦場の中を、何事も無いように、冥王軍の中央に向かって歩んだ。彼に襲いかかる怪物は、近づく事も出来ず、粉々に吹き飛んだ。圧倒的な力の差だった。そうして冥王軍の中核、獣の王まで至ると、一閃、技を放った。獣の王は為す術もなく屠られ、親衛の巨大な竜達も消し飛ばされた。指令部を失った冥王軍はバラバラに戦うようになり、数で優勢を保っていた冥王軍は、ワルコ軍によって次第に逆転され初めたのだった。

 やがて、勝敗はワルコ軍に軍配があがり、冥王軍の第一次の攻撃は退けられたのだった。

 

 ダーナはワルコの怪物が、元のムルティ山脈に戻って行くのを確認すると、中原に向けて大鷲に乗り飛び立った。彼が帝都に戻ってみると、そこは平原にある巨大な窪地になっていた。強大な一撃が都を襲ったのがうかがい知れ、ここで、妖魔との戦いが繰り広げられたのが分かった。都の姿は見る影もなかったが、彼は圧縮され石化した土を調べ、その技の効果範囲を観察した。その後、ダーナは技を用い、芙蓉姫の所在を突きとめた。彼女は西域の外れにいた。

 ダーナは再び、空に舞い上がると、西の空を目指し、ソロイの北東お菓子の家に降り立ったのだった。

「ダーナじゃないか!」

 空に大鷲が現れたので、カドモスは馬を飛び降りると、ダーナにもとに駆けつけた。

 ダーナの背中には大きな袋が提げてあり、カドモスは一目で目的の物と分かった。

「成功したようだな」

 カドモスは、満面の笑みを浮かべた。

「世界の狭間は、なかなか厄介な場所であった。その為、少々手間取ってしまった」

「お主、でなければ行けなかっただろう。ところで、その袋の中身はなんだったのだ?」

 カドモスが待ちきれなさそうに、袋を見つめたので、ダーナは肩から降ろすと、袋の中身を取りだした。

「鎧だ」

 ダーナが袋から出したのは、神々しい鎧だった。日の光を反射して、黄金色に輝いていた。

「素晴らしい。それが姫を守る鎧か」

「問題なのなのは、その持ち主だが」

「何かあるのか?」

「まあ、そうだな。ワルコと冥王、両者に関わる神なのだが」

「神?」

「巨大な力を有した神なのだが、敗れた神だ」

「もしや、地獄に封じられた神か?それなら見たが・・・」

 カドモスは先走りした。

「地獄に行ったのか?」

 ダーナは、怪訝な顔をした。

「実は、ゼノビオスの教えに従って、地獄に行った。その深淵部で先代の神を見たのだ」

「面白い。それを呼び起こすつもりだったのか?」

「冥王に対抗する術にするつもりが失敗した」

「なるほど。それは大冒険だったな。冥王の力は以前より増大している、もう冥界に潜入することは不可能だろう」

「それで、実は気に病んでいたのだ」

「仕方あるまい。手元にある札で勝負するしかあるまい。それはそうと帝都が消失していたが」

「妖魔が現れ、亡者を蘇らせ混乱に陥れた。それはネクタリオスと妖魔の戦いの跡だ。彼をその地で失った」

 カドモスはうなだれた。

「今、仲間は何人かな?」

「貴方を含めて四人だ」

「そうか」

 ダーナはため息をついた。

「姫がこの西部にいるのは何故だ?」

「帝都の有様を考え見、西部に誘き寄せようとしたのだ。この地にはミュージカの魔法具が張り巡らせてある。ここで冥王軍を迎え撃つつもりでいる」

「案としては素晴らしいが、魔法具は雑兵には効果があるが、妖魔には通じないであろう。この城を中心として四つの城が結界を作り出しているのは分かるが、妖魔は易々と突破できる」

「そう言われると、身もふたもない。初戦が東部で起こったので、狙い通りに行かないものと、嘆いている」

「そうでもあるまい。恐らく今回の冥王軍の侵攻は陽動だ。戦力を分散させ、一気に姫を狙うつもりであろう」

「そう言ってもらうと、心強い」

「では、これを受け取れ」

 ダーナは鎧の入った袋をカドモスに手渡すと去ろうとした。

「何処に行く?俺は貴方をアテにしているのだが・・・」

「心配するな。人を訪ねるだけだ。直ぐに戻る」

「誰だ?」

「この瓊筵戦争を画策した張本人だ」

 ダーナはそう言うと、大鷲を呼び、空に舞い上がった。

 向かうのは、遙か北にそびえるマグヌス大山脈だった。この巨大な山脈は他の山脈を傘下に見下ろし、白い衣で覆われている。見上げるほどの姿に、人々は神々の住む山として崇めていた。

 ダーナの鷲は風を切り、その巨大な山脈目がけて飛び、一つの岩場に舞い降りた。冷気が身を襲い、周囲は白の世界だった。この人気のない場所に、小さな石作の家があった。

 それは人の手によるものではなかった。

 ダーナは、張り巡らされた結界を破ると、門を潜り、庭にはいった。

「強引な訪問者は誰かしら?」

 家の主が、腕を組み不遜そうにダーナを見つめていた。

「貴女がミケーネ殿か?」

「そうだけど、よくここが分かったわね」

「神々の戦いの後、貴女がこの地に立ったのを見かけましてね」

「何故、それを!」

「世界の狭間を旅をしたところ、時の潮流の中に過去の映像を見ましてね」

「あの世界は、人間が行けば迷い戻ってこれないはず、さてはゼノビオスが手引きしたようね」

「ご名答。私は彼の世界で過去の神々の戦いを拝見しましてね。おかげで世の成り立ちがわかりました。さて、単刀直入に申しましょう。冥王とワルコの戦い、つまり瓊筵戦争を中止できないかということですが」

「なにを馬鹿な」

 ミケーネは嫌悪の表情をした。

「お分かりでしょう。過去にこの戦いの決着はついたのです。再び蒸し返しても結果は覆らないのです」

「自分がワルコによって生み出されたのが、お分かりでないようね。この戦いがあるからこそ、貴方は存在するのよ。いいこと、あなたは、傍観者ではなく当事者なのですよ」

「それで、いささか困っているのですよ。勾陳星という属性は頂いていますが、私は私でありたい」

「妖魔は属性に文句は言わないのに、勝手な」

「私は、この世界に何故魔法が存在するのか、にいついて探求してまいりました。そして今回その原因が過去の神々の戦いにあると知りました。ここで起きていることは異常なことなのです」

「魔法の才能に恵まれているのに、否定的意見は残念だわ」

「世界に破壊をもたらしてなんとします。貴方なら冥王を説得出来ましょう。これ以上の戦いは避けるべきです」

「賽は投げられたのよ」

 ミケーネは頑なであった。

「残念です。神の僕たる貴女であるならば、分かってもらえると思ったのですが。私はあなたを此の地に封印いたすとしましょう」

 ダーナは構えた。

「出来るかしら」

 ミケーネは、冷笑した。

 次の瞬間、ダーナは胸の中から性に関する衝動が湧き起こったのを感じた。彼は、それがサキュッバスのベナが使っていた、意馬心猿の術であることを悟った。

「如何に聖者といえど、性には迷わされるというのに、たいしたものね。でも血汚獄のベナも自身の奥義をもっていたのよ。味わってみる?」

 ベナの魔法奥義、リンナ・モラートが繰り出された。

 三組の男女が現れ、愛し合った。それを祝福するかのように、生命の木に光が注ぎ込んだ。ダーナは性の魅惑の渦に巻き込まれ、一撃を食らうと見切り、発現の瞬間に封じた。

「なかなかやるわね、この技を使ったとしても、彼女は敗れたのかもしれないわね」

 ミケーネは納得したようだった。

「ではこれではどうかしら」

 ミケーネが腕を振ると、魔法奥義がダーナを襲った。

「この技は妖魔、舌抜獄ラングの魔法奥義、ラ・モルテ。何故此の女、技を知っている」

 ダーナは技をかわすと、反撃に出ようとしたが、別の技が襲ってきた。

 カンテラの光が点り、静かな風とともに闇に導かれようとした。

「これはタキスの奥義ララミータ!冥界の妖魔の技だけではないのか」

 闇を引き裂き、技を防ぐと、ダーナは自らの奥義、イル・バカットを放したが、彼の星辰とは別の星辰が起こり、二つはぶつかり、技を打ち消し合ったのだった。

「この女、私の技まで使えるというのか」

 ダーナはミケーネがイル・バカットを使ったので、驚いた。

「如何したの。封印するのじゃなかったの。妖魔だけでなくワルコの将の技まで使ったので動揺しているみたいね」

「この技は誰に学んだ!」

「誰に学んだって?これ等はアルマロスの技よ」

 ミケーネがそう言うと、放った技が、ミルトスのイル・モンドだった。

 ダーナの回りに、世界が広がり、覆いつくそうとした。

「同じ技ながら、ミルトスの技より、これは強烈だな」

 彼は、世界の拘束を交わし、位置を変えた。

「ワルコの最強の僕だけはあるわね。この技の中を動き回れるとはね。では私の得意技をお見せするわ」

 ダーナは嫌な予感が起き、一気にイル・モンドの射程外に飛び出した。彼は背後から黒い球体が、拡散しているのを感じた。ミケーネが放った技は、十八番の魔法奥義イルマットだった。犬に噛まれた老人の後、若者が晴れ晴れと旅立とうとしていた。黒い球体は空間をゆっくりと進み、なにものも阻むことができなかった。ダーナは黒い球体に光が吸収され、逃れなくなくなっているのに気がついた。よく見ると、球体の周囲の空間がゆがみ、球体の中に落ち込んでいるのが分かった。ダーナは彼女がイル・モンドとイルマットを併用して技を繰り出したので、手も足も出なかった。特にイルマットは彼女の自信技なためか、かなりの強さをほこっていた。ダーナはミケーネに打ち勝つためには、自身の魔法技が必要だった。

 ダーナは咄嗟に魔法を創作した、現れ出でたのはヤントラの図だった。

「その神は!」

 ミケーネは、彼女にとって最も身近な神に狼狽した。

「世界の狭間に旅をしたのは無駄ではなかった。さて、ここからどう攻撃技に変化させるかだが」

 ダーナが手を広げると、ホロスコープが展開し、グランドトリトンを描いた。ミケーネは、強力な未知の技が繰り出されたと悟り、イル・モンドを使いどこかに消えていった。

「捕り逃がしたか」

 と、ダーナは呟いたものの、新しい技を思いつかなかったら、倒されていたのは自分であったと感じていた。雪山の中に、一人残ったダーナはどうしたものかと思案し、パテリア国に戻ることにしたのだった。

 

 ダーナが、魔法城「お菓子の家」に戻ってみると、カドモスが慌ただしく動いていた。ミュージカの「番頭さん」が、冥王の塔があったヒステアの西方、シューロスの一帯に強大な魔法の力を感知していたのである。カドモスは直ちに西南に兵を集中させ、防衛の体制を整えた。

「冥界の門が多数シューロスに発生しています。おそらく冥王はここから地上に攻め上がるつもりです」

 番頭さんの写し出す画面を追いながら、ミュージカはカドモスに伝えた。

「門は五つ、まず間違いあるまい。西南に五つの雲が立ち上ったようだな」

 ミュージカは背後からしたダーナの声に振り返った。

「ダーナ様でしたか。お恥ずかしいかぎりです」

 少女のミュージカはもじもじした。

「番頭さんと言うのかね。なかなかの魔法具だ。私の技と遜色はあるまい」

「とんでも御座いません。この道具は、ダーナ様の技を真似て作った物です。遠く及びません」

「君は、若いけど謙虚だね。ところで、魔法城の砲撃は冥界の門まで着弾するかね?」

「ソロイの魔法城の砲がかろうじて、届きます」

「ならば、その砲を用いて、冥界の門に現れた怪物を攻撃するのだ。ピンポイントになるが出来かね?」

「冥界の門周辺のゆがみを計算の上放せば、可能ですが、何故でしょう」

「門を怪物の死体で塞ぐのだよ」

 ミュージカは頷いた。

「妙案だ。しかし、直ぐに別の門を作るのだろう?」

 カドモスはダーナに尋ねてみた。

「その通りだ。焼け石に水なのは確かだが、冥界の門を何本も作るとなると、冥王も魔力を消耗するはず」

「なるほど、そういう算段だったのか。ところで、この戦いの張本人はなんと?」

「素っ気ない返事だった。あくまで我々と冥王を戦わせるつもりでいる」

「貴方が会った相手とは、占い師のミケーネでしょう?」

「その通りだ、やっと会えたよ」

「あの女は気にくわない。芙蓉姫を惑わさせている。あの女は何者なのです」

「主の帰還を待つ番犬かな」

 カドモスは意味が分からず、詳しく聞こうとしたが、ダーナはそれ以上語ろうとしなかった。

 

 ダーナはその後、カドモスとともに芙蓉姫のもとに行くと、今後について話し合った。

シューロスより冥王が攻め来るのは確かで有り、彼女はその戦いの矢面に立たなくてはならないからだ。

「貴方が、初めて私のところに、来たときの事を思い起こしました。あれから随分助けてもらいました」

 姫は懐かしく、昔の事を語りました。

「あの頃、私は世界の異変の原因を探し求めていました。そしてその原因である貴女の命を頂戴しようとしました」

「そうでした。今も変わりはありませんか?」

 芙蓉姫は、ダーナが戯れに、言っていると思っていた。。

「魔法世界の出現の原因は、その通りでしたが、お命を頂戴しても解決策にはなりませんでした。それは問題を先延ばしするだけです」

「いったい、なんの因縁で私は冥王と戦わなければならないのです?」

「昔、神々の戦いがあり、その結果です。貴女はワルコという魔力の源泉そのもの、冥王はそれを取り込み、再び戦いに臨むつもりなのです」

「私はどうしたらいいのです?」

「戦うのです」

 ダーナの言葉は厳しいものだった。

「我々の手でどうにかならないのか?」

 芙蓉姫が困惑したので、カドモスは救いの手を差し伸べた。

「カドモス、貴方の優しさが姫を窮地に陥れるだろう。この戦いの終結は我々ではもたらされないのだ、ワルコ自身によって冥王を倒さぬかぎり終わらないのだ」

「しかし、姫は戦い慣れしていない。我らがなんとかしなくては」

「魔力が違いすぎるのだ。我々は非力なのだ。それは冥界に行ったお前は実感しているはず」

 ダーナの言葉に、カドモスは、命からがら冥王の結界から逃げ出した時のことを、思い出した。

「妖魔といい、我々といい、それは果実を実らせる為の物、その果実が熟れたのだ。冥王は一気に摘み取りに来るぞ」

「いったいどう戦うのだ?」

「世界の狭間から持ち帰った防具があるではないか、それにグラディウスという剣がある」

 カドモスはこのことについては、分かっていたが、姫の冥王との直接対決を望んでいなかった。

「よいですかな。我々が全員戦死した後、身を守ってくれるのは、これ等の神器です。自らの運命は、自らの力によって切り開かねばなりません。その心の弱さに冥王は入り込んでくるでしょう。強い意志をお持ちなさい」

 ダーナの言葉は厳しく、芙蓉姫は息をのんだ。

 

 シューロスに起こった冥界の門から怪物達が這い上がってくると、直ちにミュージカは魔法城から砲撃し、怪物の死骸の山を出口に築いた。これにより冥界の門の出口は狭くなり、冥界の生き物が地上に出ることが難しくなった。ここまでは良かったが、今度は砲撃をしていたソロイの魔法城の直ぐ近くに門が開いたのだった。

 離れた位置に、別の門が開くと予想していたミュージカは、事態の急変に対応に追われた。ソロイの城の砲門は芙蓉姫の囚われ事件により、長距離に特化させてしまい、近距離では使い辛いものとなったいた。

 ソロイの魔法城の前に、黒雲の冥界の門がそそり立った。一気に辺りは暗くなり、雷鳴が雲の中から轟いた。稲光が走り、冷気が草地を走った。

 しばらくすると、冥界の怪物達が次々に門を抜けて、地上の現れたのだった。無数の怪物が大地を埋め、それらが一斉に魔法城目がけ攻撃を仕掛けたのだった。

 ミュージカも城の防御システムを駆使して、防戦に努めたが、怪物達の行動は早く、瞬く間に城門は突破され、城内は怪物に溢れてしまったのだった。

 冥王軍の攻撃は電撃の早さだった。ソロイの砲門を始末すると、魔法城は破壊され尽くした。砲撃の心配が無くなった冥王軍はシューロスにて複数の門を出現させると、次々に怪物を地上に送り出したのだった。それらは巨大な一団として北東の芙蓉姫のいる、お菓子の家目指して、進軍を開始したのだった。

「なるほど、これが冥王軍か」

 ダーナは、敵の動きの速さに感心していた。

「まさかこんな簡単に、西の守りの城を失うとは」

 カドモスは悔しがり、机を叩いた。

「シューロスの敵を、怪物の軍勢で迎え討つよう、姫に箴言してくれ」

「その前に、ソロイ城にいる怪物をなんとかしないと、こちらが近いぞ」

 ダーナの提案に、カドモスは難色を示した。

「それは私がなんとかする。怪物は城を攻め落としたが、城の反撃を受けて随分と消耗しているようだ。手間はかかるまい」

「ならよいが、魔法具を装備した部隊を、同行させよう」

「それは無用だ。むしろ足手まといになる。それより気になることがあるのだ」

「なんだ?」

 顎に手を置いたダーナは、番頭さんの画面をしばらく見ていたが、自らの探査の技を使ってパテリア全土を見渡した。

「ミュージカ。王都ナティビタスの北西の高地に魔法の反応はないかね?」

「番頭さんにはありませんが・・・・」

 ダーナの問いかけに、彼女は戸惑った。

「密かに、王都を襲うつもりだったようだな。冥王軍はお菓子の家まで進軍した頃、この軍勢を現し、我々の戦力を分散して一気に攻め込むつもりだったのだろう」

 カドモスはダーナの読みに感心したが、罠の臭いを感じた。

「ダーナ、貴方に、わざと見えるように、隠したのではないだろうか。嫌な予感がする」

「だとしても、王都が襲われることに変わりは無い。ソロイの怪物を始末して、その足で彼らを襲うとしよう。出鼻を挫けば再び、王都を狙うこともあるまい。姫に王都近郊に待機させた怪物を北上させるように伝えてくれ。私は直ぐソロイに向かう」

「ダーナ様、地面に埋め込み、そこを通過すると爆裂魔法を発する魔法具を作成しました。王都の防衛にこれをお使い下さい」

 ミュージカは魔法具を映し出して、見せた。

「これは面白いな。地面にあっては気がつくまい。もっとも一度だけだな。この様な道具があると分かれば、妖魔は地面から一気に抜き出してしまうだろう」

 ダーナは関心したが、彼女の才能が兵器に費やされるのを惜しんだ。

「俺も、行こう」

 カドモスは、ついて行こうとしたが、ダーナは制した。

「私一人で十分。貴方が抜けては、ここが手薄になってしまう。ミルトスとともに残るべきだ」

「私は貴方に頼りすぎだ」

 カドモスは、ダーナが自分達の所で寄り道をしているに過ぎないのに、尽くしてれることに感謝した。

「私の心配ごとは一つだ」

「貴方が?どんな」

 カドモスは首を傾げた。

「姫と貴方の恋仲だ。恋心は彼女を人に近づけてしまう。この瓊筵戦争において、彼女は全力で戦わなくてはならないが、ワルコ本来の力が出せないであろう」

「分かっている。だから俺は苦しいのだ」

「我々は彼女に神具の鎧に剣を、揃えることができたが、何か一つ大切な物を得ることができなかったようだ」

「それはいったい?」

「この戦いに終止符を打つ武器だ。これを揃えそこなっている。いったい何処にあるのやら」

「その様なものがまだ・・・」

「案ずるな。王都の怪物を始末したら、再度考察しよう。もし何かがあっても、再び私は蘇るだろう」

 そう言うと、ダーナはカドモス達のもとから去って行った。

 

 ダーナが向かった先は、西側の守りであった、ソロイの魔法城だった。パテリア軍はこの城を攻め落とすのに随分苦しんだが、冥王軍にとって容易いことだった。ダーナがソロイの城に到着したときは、城は破壊尽くされ、冥王軍はさらにお菓子の家を目指そうとしていた。彼は、大鷲を舞い降りると、大地に立った。

 冥王軍の怪物は城全体を、まるで巣であるかのように、密集し覆い尽くしていた。その一角が、ダーナに気がつき、一斉に襲いかかってきたのだった。小型の怪物が洪水のように彼に向かって襲いかかり、その海の中にダーナは飲み込まれようとしていた。だが次の瞬間、水を弾くかのように彼を中心として、怪物達は吹き飛ばされたのだった。

 怪物の群れは、粉々に粉砕され、怪物の死体が積み上がった。城の頂には獣の王が陣取り、そこを中心として、怪物の集団がダーナを襲いかかっていた。彼はそれを見さだめると、一気に城の最上部に飛び、巨大な竜である獣の王を屠ったのだった。指揮を失った冥王軍は、集団が崩れ、組織がかった動きを失い、各個バラバラに行動を始めたのだった。冥王軍が崩れ、烏合の集団になったといっても、地上に於いては危険な存在であった。ダーナは城の頂上から四方に向け技を放った。怪物達はその威力に殲滅した。

 

 一息つく暇も無く、再び大鷲の乗り向かったのは王都より北西の高地だった。

 王都ナティビタスの北には山々が広がり、その向こうにはマグヌス大山脈があった。この山脈の尾根より大平原は広がり、中原を形成していた。王都の北西にも山がそびえていたが、その上は平たく高原が広がっていた。平たい大地から突然崖に成り、平野まで落ちるといった地形で、その麓にはデルフィネの故郷である、パトライ国があった。

 高地の縁にダーナは降り立つと、周囲を見渡した。

眼下には、ヒパボラ河の支流であるエヴェロス河が作りだす平野が広がり、対岸の平野の向こうに見える山々の麓には、王都ネティビタスがあった。冥王軍は高地の奥に潜み、その背後には巨大な山々が連なるマグヌス大山脈がそびえていた。やがてこの山々に冥界の門が開き、そこから出た軍勢は山を駆け下り、対岸のナティビタスを目指すはずであった。ダーナは探査の術で、高原の奥を探ると、冥王の力が注ぎ込まれているのが分かった。やがて複数の門が立ち上がり、冥界と地上を結ぶこととなる。

 一方、ワルコの怪物の軍勢はエヴェロス河を北上中だった。恐らく、冥王軍が高地から駆け下り、平原に至った頃、遭遇するはずだった。

 ダーナとしては高原にて、冥王軍をくい止めるつもりだった。怪物達を背後に控えさせるのは、討ち取り漏らした、一部が王都に向かうのをくい止めるだめだった。残存の怪物とはいえ、人間には脅威の存在であり、そのために都が大混乱になるのは見えていたからである。ダーナがいる地点から少し南にパトライ国があった。デルフィネの故国だが、今は新興宗教を国教として、懺悔に没頭し、国防が疎かになっているのが気がかりだった。ワルコの怪物軍が河を北上しているにもかかわらず無反応で、冥王軍が進路を変え南下した際、なんの対応も出来ないのではないかと危惧された。

 空を見上げると雲一つなく晴れ渡り、その中に燦然と輝く星々が見て取れた。星々の数は五つ。まだ、時はあった。

 ダーナは周囲の地形を見渡し、大地に大きな幾何学的な円錐状の窪地を三つほど作り、冥王軍を迎え撃つ準備をした。この円錐の窪地は遠く離れたワルコの力を、この地に呼び込むための道具だった。そして、ミュージカの魔法具を大地に埋めると、彼は冥王軍の来襲を待った。

 もう、日は西に傾き、西方から陽を浴びるようになった頃、平原の奥に高々と雲が立ち上った。普通の雲であれば風に押し流されるものだが、それをものともぜず、黒雲は立ち登った。

 稲光が雲間を走ると、雷鳴がとどろき渡り、高原の空気をさらに冷たくした。開いた冥界の門から、やがて無数の怪物が地上に這い上がったきた。それらは雄叫びをあげ、地面を揺さぶり、ゆっくりとダーナのいる高地の縁に向かって進軍を開始したのだった。

 怪物の群れの第一軍がダーナに大挙してやって来ると、彼はもとのもぜす魔法の一撃を加えた。冥王軍は衝撃波を受け、一瞬で消し飛び、粉々になって消えた。さらに冥王軍の第二軍が迫って来ると、同様の結果だった。

 ダーナが冥王軍の次の来襲を待っていると、背後から拍手する音がした。

妖魔第一位、抽腸獄のウーマーだった。

「流石、ワルコの将、最強の男だ」

 ウーマーは一瞬でダーナの前に立った。

「貴方は、妖魔では実力者。昨今では、ミュージカを相手に魔法具を創作されたとか。多芸ですな」

 ダーナは、相手が攻撃してこないので、言葉を返した。

「私は部屋に籠もって不健康なことです。それと違い貴方は冒険者だ。私の知らないことを随分とお知りなのでは」

「どうですかな。ここで、不毛な戦いを止めませんか。貴方は冥王を説得し、自由自適な冥界生活を堪能し、私は、晴耕雨読の生活を楽しむ」

「馬鹿な、我らは主のためあるのだぞ。その主の為尽くすのが臣下の務め」

「忠臣心の強い方だ。それに対し、私は自由人でしてね。戦いに批判的なのですよ。貴方は主の為と申されているが、それはミケーネが仕組んだこと。お分かりでしょう?」

「あの女か冥王様に親しいが、だとしても、冥王様がご決断されたこと」

 ダーナは妖魔が、揺るぎなき心をもっていることを感じた。

「仕方ありませんなあ。貴方と私が戦えば、おそらく決着がつかないことでしょう。困ったことです」

「では、その説、実証してみようではないか」

 言うやいなやウーマーはダーナに攻撃を仕掛けた。

 魔法技を高速で繰り出したが、ことごとくダーナは退けた、またダーナもウーマーに反撃したが、全く効果が無かった。

「普通の奴らだったら、とっくに始末されているはずなのに、なんて奴だ」

「貴方もな。私をここまで手こずらさせるとはね」

 ウーマーもダーナも息を切らしていた。

 意を決したのいか、ウーマーは自分の最大の魔法奥義イル・パーパを放った。

 右手のサインに笏が現れ出で、輪をもつ星とともに、法衣がダーナを襲った。これに対しダーナも奥義イル・バカッドで応じた。杯、剣、杖、ペンタクルスが揃うと、星辰がウーマー目がけて、落ちていったのだった。

 二つの技は、ぶつかり合い、両者は激しい、衝撃を受け吹き飛ばされた。

「やはり、力は互角だったか」

 ウーマーは痛みをこらえ立ち上がった。

「当然だ、我らは表裏一体の存在だからな」

 ダーナも同様に痛んでいた。ただ、彼の言葉の意味を妖魔は分からなかった。遠く草原の向こうから、冥界の怪物たちが迫ってくるのが、地響きで分かった。ダーナは妖魔の攻撃を避け、怪物達を始末しようと、そちらに意識を向けた。

「名誉のために、俺自身の手で葬りたかったが、こうなっては仕方が無い」

 ウーマーは指を振ると、彼の近くに妖魔二位、穿肋獄のコスタ、さらに妖魔第四位、焼手足獄のアエヌスが現れたのだった。

「最近、妖魔が静かだと思って居たが、ここに集まっていたか。なるほど、今回の目的は私の殺害か」

 ダーナは妖魔が勢揃いしたので、目的を理解した。

「都を襲うのは、お前を誘き寄せる為だった。これからの戦いで、お前がいては、厄介なのでな。ワルコの将の中で、短期間で、長距離を移動できるのはお前だけだから、ワルコのいる場所から遠く離れた所を襲えば、お前が駆けつけると読んだのだ」

「では、目的を果たしたら、都は無事なのかな?」

「駄目だ。あそこは怪物の放牧地とする」

「それは困ったことだな」

 ダーナが技を放すと、ウーマーは防ぎ切り、その攻撃の隙をついて、コスタとアエヌスがダーナを襲った。攻撃に全力を投じなかったダーナはなんとか、避けることはできたが、流石の彼でも、妖魔の上位を、三人も相手にしては分が悪かった。

 攻撃もままならず、防戦一方となり、追い詰められていった。ここで、ウーマーは妖魔の二人に一斉に魔法奥義を繰り出し、ダーナを始末するように指示を出した。ダーナを囲むように、魔法奥義、イル・パーパ、イル・ジュディーツィオ、ラ・ルオータが一斉に放された。

 三つの技を受け手はダーナは防ぎようもなかったが、この瞬間、ウーマーはダーナがほくそ笑む姿を見た。罠に気がついたウーマが追い詰めた周囲を見渡すと、円錐状の三つの窪地の真ん中だった。

  ダーナは異質の魔法をくりだしていた、現れ出でたのはヤントラの図だった。

「受けろ、我が渾身の魔法!」

 ウーマーは、ダーナの技が、この円錐の窪地を使い、遠く離れたワルコから直接力を集めたものであることが分かった。

 ダーナが手を広げると、ホロスコープが展開し、グランドトリトンを描いた。咄嗟に、術者のウーマーは、強大な魔力が爆破すると察知し、退避行動をした。

 三つの妖魔の魔法奥義とダーナの魔法技がぶつかりあった。激しい衝撃が高原を走り、その力に巻き込まれ、多くの怪物が吹き飛ばされた。

 ウーマーは冥王の力にも似た、衝撃を受け、遙か彼方の大地に転がり落ちた。彼の全身に激痛が走り、立つことも困難だった。雑草の中にしばらく横たわっていた彼は、痺れがとれやっと治まり、立ち上がると、ダーナの居た場所まで戻ってみた。

 円錐の窪地はそのままだったが、ダーナも仲間の二人の妖魔も姿がなかった。ウーマーは、技を用い、探査をしたが、何処にも察知できず、大魔法技のぶつかり合いで、三人は消滅したようだった。

 魔法技の衝撃は驚くべきものであった。かなりの広域に破壊の爪痕が残っているが、主として西側の破壊の跡が凄まじく、遠くまで及んでいた。いくつかの大きな山が吹き飛び、谷は埋まり、普通では考えられような形を残していたのだった。これらの地は、魔法の力をうけ、不毛な大地としてこの先、跡をここに残すだろうと想像出できた。

 ここでウーマーは自分一人、助かった理由が分かった。ダーナが技を繰り出すとき、ウーマーは直感的に危険を察知し、回避行動をとったこともあったが、偶然にも大魔法の威力は西側に流れ、東側にいたウーマーは直撃を逃れることが出来たのだ。ワルコの将が、彼の技を完成していなかったのが、ウーマーの幸運だった。

 ダーナは滅んだ。しかし、仲間のコスタとアエヌスも亡くなった。強い相手なので三人ががりで襲えば、余裕で勝てるはずが、反撃を受け、大きな被害を出してしまった。

 ウーマーは円錐の窪地を見て悔しがった。ダーナを一人この地に誘い込むことは成功したが、敵も逆に罠を張り、誘い込んでいた。この円錐状の窪地は、以前ルルと呼ばれる卵形の機械を応用したものであることが分かった。離れた場所からワルコの力を引き出す小道具で、ダーナはワルコの力を直接吸収し、冥王に匹敵する技を繰り出したのだ。

 ウーマーは妖魔最後の一人になった。今回は大きな被害を出したが、成果的にはダーナ−を葬れて、上場だった。残るワルコの将は三名だが、彼らはウーマーより格下だった。彼は、冥王軍の勝利を確信し、高らかに笑った。

 はればれした気分で、冥界の門に目を向けると、残存の怪物達が集まり、一団を形成し、再び王都目がけて進軍を開始したのが見えた。彼は、この場所はもう事が済んだと、去ろうとしたが、足に絡みつく物を感じた。ダーナの仕掛けた罠に、ウーマは掛かっていたのだった。慌ててウーマーは足を抜こうとしたが、その瞬間地面が爆発した。ウーマーは左足を失い、全身に大怪我をした。

「これは小娘の小道具。ダーナの奴め、置き土産をしていたか」

 ウーマーは全身から血を噴き出させながら、翼竜を呼び寄せた。しばらくすると竜が舞い降り、彼を足で捕まえると冥界の門を目指して、飛び立ったのだった。

 ワルコの将と妖魔が去ったとしても、此の地での戦いは終了したわけではなかった。冥王軍の怪物は依然として存在し、それは冥界の門を通して、供給されていた。やがて冥界の門が閉じると、大きな一団として、先の残存兵と合流し、一気に高原の高台から平野目指して駆け下りてきたのだった。この時エヴェロス河を北上してきた、ワルコ軍の怪物は平野に到達していた。両軍はここでぶつかり、激しい戦いを繰り広げたのだった。

 ワルコ軍は圧力をかけ、冥王軍を一歩も王都に近づけさせず、消耗戦を繰り広げ、やがてその一団は南のパトライ国で戦いを繰り広げたのだった。デルフィネの故郷、パトライ国の人々は、戦場が自分達の土地でまで拡大したものの、避難をする十分な時間があった。しかし、新興宗教により、自己批判によって救われると信じ、防衛するとことを放棄していた。そのため、冥王軍とワルコ軍の戦いに巻き込まれ滅んだのだった。

 

 魔法城の高台で座禅を組んでいたミルトスは、何かが通り去って行くのを感じた。

「逝ったか、ダーナ」

 ミルトスは、このことをカドモスに知らせようと立ち上がった。

 夕暮れの陽が山に隠れようとしていた。

 「陽は落ちる、しかし再び明日蘇ってくる」そうミルトスは呟くと、その場を後にした。

 赤く染まった夕空に、六つめの星が輝いていた。

「ドゥアド」だった。

 

 




 ダーナの最期の場所は千年後の話で再登場します。強者どもが夢の後ですね。
ミュステーリオンの前編はあと一劇で終了ですが、どのような終わり方をするのでしょうか。
次回をお楽しみに。
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