カドモス (六合星のカドモス)中原からの流れ者
ダーナ (勾陳星のダーナ)元オレア国天文官 魔法使い
イアソン (貴人星のイアソン)知将、元行商人
ルキアノス (玄武星のルキアノス)元オレアの武官、槍の名手
ネクタリオス(青龍星のネクタリ)用心棒家業、弓の名手
タキス (天空星のタキス)双鞭の使い手 魔法使い
レアンドロス(白虎星のレアンドロス)元ハニア国海軍士官
ミルトス (太常星のミルトス)僧侶 治療術使い
デルフィネ (太陰星のデルフィネ)パトライ国第五王女 女将
ミュージカ (天后星のミュージカ)発明少女
芙蓉姫 パテリア第三王女
デクスター カドモスの弟分
ラエバス カドモスの弟分
紅花 パテリア第四王女
ミケーネ 占い師、(アルマロスのミケーネ)
ゼノビオス ミケーネと敵対する謎の人物
シャヘル 冥界の王 十人の妖魔の主
ウーマー 妖魔一位(抽腸獄 月光のウーマー)
コスタ 妖魔二位(穿肋獄 ミトラのコスタ) 死者を蘇らせる
ハスタ 妖魔三位(針山獄 一角獣のハスタ) ホーネスの仇
アエヌス 妖魔四位(焼手足 セルヌノスのアエヌス)戦いに疑いを持つ者
ラング 妖魔五位(抜舌獄 漁色のラング) 大蛇に乗る
ベネノ 妖魔六位(毒蛇獄 美粧蓮歩のベネノ)女性、二匹の獣を連れる
カーサー 妖魔七位(鋸解獄 紅蓮刀のカーサー)巨象に乗る
カスピス 妖魔八位(尖刀獄 ヒュブリスのカスピス)
グラッシス 妖魔九位(寒氷獄 黒海馬のグラッシス)怪鳥に乗る
ベナ 妖魔十位(血汚獄 サキュバスのベナ)意馬心猿の術使い
<西部諸国>
パラ ウンダ河上流左岸
タラース ウンダ河中流左岸、大国(後のメディス)
ザンクレー ウンダ河下流左岸
ギオン ウンダ側河口左岸
ユーベイ ウンダ河上流右岸(後のアデベニオ)
オイア ウンダ河中流右岸、大国
ロクロイ ウンダ河下流右岸
シノーペ 後のシルバの森縁東
ソロイ 後のシルバの森縁西
アンキュラ 後のシルバの森の東、シノーペの北
エデサ 後のシルバの森の西、ソロイの北
シューロス 後のソサ南部
ヒスティア 後のカーボ、シューロスの東
ダーナの死はカドモスに大きな痛手を与えたが、いつまでもそれに、とらわれてばかりもいられなかった。冥王軍は大挙してワルコ目指して進軍していたからである。
ソロイの魔法城を攻め落とした冥王軍はダーナが一匹のこらず始末してくれくれたが、西側の防衛を急ぎ強化する必要があった。
カドモスは、破壊されたソロイの城を簡易に修復させると、自ら軍勢を率いて、冥王軍を退けるべく発とうしていた。
「兄貴はここで指揮をとっていただきたい」
反対したのは、弟分のデクスターだった。彼は、兄貴分のカドモスがどことなく焦っているのに気がついていた。
「俺が先頭に立たなければ、誰が従う。冥王軍は人間ではない怪物だぞ。兵士達は恐れおののき命令に従わぬではないか」
カドモスは、魔法具によって強化されたパテリア軍ではあったが、未知の戦力に兵士達が不安視していることは分かっていた。
「だとしても、それが兄貴である必要はありますまい。俺たちも兵の信頼は篤いのですよ。兄貴は此処に留まり、俺たちが行きましょう」
同じく弟分のラエバスも反対した。
「お前達。俺がもしもの時、誰がパテリアを守るのだ」
カドモスは二人を諭したが、彼らの意志は変わらなかった。
「俺達は村を出たときから、兄貴とともに天下を目指した。当てなく北に向かった時も、パテリアで山賊業をしていた時も、それは変わらなかった。今、兄貴に危険が迫っている時、安穏と後方に引きこもってはいられませんや」
「冥界の怪物は姫を目指してやってくるのだ。俺は姫のために戦っているだけだ。お前達まで、巻き添えになることはない」
「兄貴がパテリアの武芸大会で優勝されたときの事を思い起こしました。あの時、兄貴は姫と出会えたことを大変お喜びでした。俺たちは兄貴と姫が結ばれることを望んでいました。いわば、兄貴の奥方に成られる姫は、我々にとって姉御も同然。その為には命も惜しみません」
兄弟分の言葉に、カドモスは目頭を熱くした。
「村を出たときから、お前達が俺を信じてくれ、どこまでもついて来てくれたことを忘れていた。ならば、お前達を頼るとしよう。ただし死ぬなよ。おれは兄弟を失いたくない」
「兄貴、死ぬときは一緒ですよ。ご心配なく」
デクスターは笑った。
「では、お前達の作戦を授ける。先に冥王の塔が立った、ヒステア国と同様にシューロス国も盆地の国で、両国とも大河に面せず、低い山々が周囲を囲んでいる。これはお前達も分かっているはず。パテリアを囲む山々よりなだらかだ。しかし、山道を移動ととなると厄介だ。そのため冥王軍は山を避け平野部を進軍してくるはずだから、その出口で待ち構えるのだ。デクスターは正面の小高い丘に陣地を構え自走砲で出てくる怪物を砲撃しろ、そしてその陣地には地雷を敷き詰め、怪物の侵入を阻止するのだ。ラエバスは機甲部隊を指揮し、盆地の出口の左右に軍を配置し挟み込むように側面から攻撃をしろ。怪物は正面、左右の三方から攻撃を仕掛けられ、身動き出来なくなるはずだ。狭い盆地の入り口では怪物も大軍で出ることが叶わず、小出しで攻撃を仕掛けるしかなく。我々は優位に戦闘をすることが出来る」
カドモスの戦い方は盆地の出口の左右に兵を置き、冥王軍が出口に来たら、正面に注意を向けさせ、左右から襲いかかるという戦法だった。デクスターとラエバスは納得し、これなら、兵士達に自信を持たせることが出来るであろうと感じたのだった。
「兄貴、もしものことだが、怪物の勢いが強く、突破された時はどうされるので?」
ラエバスは万が一の想定を尋ねた。
「西の守りであったソロイの魔法城が破壊され、長距離砲による攻撃が不可能になった今、軍勢による阻止をしなくなった。冥王軍が盆地の出口を突破したら、ソロイ城による防衛となる。ただし、もうこの城は魔法城でないため、魔法具による防衛となる。俺はここの防衛にミルトスをあてるつもりだった」
「坊さんにですか?」
デスクターは意外な顔をした。
「あの僧侶侮ってはならない。治療専門ではないのだ。だが、ここを突破されると、お菓子の家は目と鼻の先だ。しかし心配するな。そこまで来ると、エデサ、ユーベイ、シノーペの魔法三城の射程内に入る、さらに本城のお菓子の家からの砲撃も加わり、奴らは空からしこたま攻撃される。地上ではパテリアの魔法具を装備させた本軍が待ち構えているので、冥王軍は撃退されるであろう」
二人の義兄弟は、兄貴分の作戦を聞いて安心した。まさか自分達が冥界と戦う羽目にるとは思わなかったが、この人について行くのは楽しいと思ったのだった。
こうして、デクスターとラエバスの率いるパテリア軍は進軍し、その先で先鋒軍と合流し、シューロスの出口に陣を張ったのだった。
シューロスの盆地の入り口は狭い谷になっていた。その中央には河が流れ出て、本軍の正面に向かって左に逸れており、一帯は大きく開けていた。シューロスは低いながら山々に囲まれ天然の要塞のようだった。パテリア軍がもし、シューロス内に攻め込むとするならば、なかなか厄介な場所であった。
今回は、防衛戦であるため、冥王軍をここから出さないことが目的であり、その点は楽であった。しかし、魔法具を備えているとはいえ、押さえきることができるかははなはだ疑問だった。デクスターとラエバスは未知の生物との戦いに緊張した。
やがて「囁きさん」を使いミュージカから連絡が入った。シューロスの盆地内に冥王軍が溢れ、それは盆地の出口に向かって移動を始めたとの事であった。全軍に戦闘体勢に入らせると、怪物が狭い通路を通って外に出てくるのを待ち構えた。
やがて谷の奥から地響きが轟き始めると、様々な叫び声とともに、冥界の怪物が躍り出てきた。異形の姿に、兵士は恐れおののいた。この空気を察した、デクスターは振り払うべく、砲の一斉砲火を命じた。岡に陣取る本軍より無数の砲撃が怪物を襲った。
怪物等は狭い入り口に集中砲火を浴びて、次々に倒されていった。さらに打ち漏らした怪物は左右のに構える、軍勢に攻撃され平野部に出ることはなかった。冥王軍は何度も突破をはかろうとしたが、砲の餌食となり、同じ事が繰り返された。この戦況を見たパテリアの兵士は自信を取り戻し、次第に怪物を恐れなくなっていった。
「兄貴の作戦は成功の様だ、問題は敵がこれにどう対応するかだが」
デクスターは義兄弟のラエバスと相談した。
「シューロスの出口は北のここ、ヒステア国へ向かう東、ラセオ河にでる西の道だ。東向かえばヒステアから北に向かった出口がシノーペの魔法城とお菓子の家から砲撃を受けてしまう。おそらく東に抜け、ラセオ河をさかのぼり西よりソロイを目指すはず」
「同感だ。その場合を想定して、動けるよう手はずを整えて置こう」
ラエバスも地図をのぞき込み、戦車部隊を平原に配置した。
「もう一つの可能性だが、再びソロイの近郊に冥界の門を出現させるかだ」
「自由に駒を配置できるとは反則技だよな。その場合は兄貴の指示を仰ごう」
その頃、やっと補給部隊が追いついてきたので、彼らは安堵した。強行軍で作戦地までやってきたので、そこら辺が疎かになっていたからである。魔法具の装備、薬、食料など戦いを維持するには多くの物が必要だった。
「冥王軍の怪物は、飯を食ったり、寝たりしないのか」
訳の分からぬ敵に、ラエバスは迷っていた。
「部下の報告では、奴ら、自分達の仲間を食料としているようだ。小怪物がいてそいつを食っているのを目撃したようだ」
「あいつら共食いかい」
ラエバスは呆れかえった。
「睡眠はしないようだな。見ての通り、絶え間なく突破を試みている。お陰で我々は交代制で戦わなくてはならない」
「まあ、地獄では昼と夜もないだろうからなあ」
その日の深夜、冥王軍が谷からでると、早速パテリア軍は砲撃をし、これを撃退した。 夜の戦いは、パテリア軍には不利で、度重なる夜襲に兵士達も熟睡できず、任務中にうたた寝をする者が現れ始めたのだった。救いだったのは冥王軍の攻撃の単調さだった。攻撃の前に砂煙が舞い上がり、響きを立てるのだ。最初はこの音に恐怖していたパテリア兵であったが、何度も繰り返され、戦いの予告程度に捉え始めていた。
昼、冥王軍は出口からの突破を試みた。いつものようにパテリア軍は待ち構え、谷の出口に攻撃を集中していた。いつもと違う響きに耳を傾けていると、突如、空に翼を持つ怪物が出現したのだった。数にして五十。これにパテリア軍は驚いた。作戦の全てが平面を想定していたものだったからだ。
それらの怪物は一気に空を駆け抜け、本軍の砲塔向けて襲いかかったのだった。初めて怪物の奇襲を受けた驚いたのは砲撃班で、彼らは恐怖の為、持ち場を逃げたのだった。
本陣からの攻撃を受けなくなった谷では、冥王軍の怪物達が、大挙して押し寄せていた。
谷の左右に待ち構えていた、パテリア軍は本陣の攻撃なされなかったので、驚いた。瞬く間に平野は怪物でいっぱいになったのである。
この事態に、ラエバスは左右から砲撃を加え、亀さん改弐を左右から出撃さると囲むようにして攻撃をさせた。一方本陣のデクスターは「熊さん」隊に、舞い降りた怪物の掃討に向かわせ、空に舞う怪物には「燕さん」隊に撃墜するように命じた。燕さんは空に飛び、どこまでも怪物を追尾すると、魔法の爆発をして空の怪物を打ち落とした。
やっとの事で、砲を怪物から取り戻し、急ぎ谷に攻撃を仕掛けると、冥王軍の侵攻は押さえ始めた。あとは平野部に侵入した怪物の掃討となった。
デクスターは早速、カドモスに「囁きさん」で、この事を告げた。
「冥界の怪物は地上世界に順応し始めている。広大な空を利用することを学んだようだ。番頭さんの映像をみると、いくつかの怪物がメタモルフォーゼをしているようだ」
お菓子の家にいるカドモスはこちらの状況が分かっているようだった。
「しかし、兄貴そうなると、地上防衛の意味が薄れてしまいます」
「それについては、お前の対応は正解だった。追尾型飛行魚雷燕さんが有効であろう」
「確か、水軍の戦いで戦果を出したものを空に応用したものとか。しかし、数が少なすぎます」
「確かに、空を想定していなかったからな。戦線を維持出来ない場合は、そこを放棄しろ。無駄死にはしてはならない」
「放棄などと、奇襲を受けたので混乱しただけです。守ってみせますよ」
「その心意気買うが、獣の王が谷に迫っている、奴ら本腰の攻撃をしかけてくるぞ。特に獣の王の側近の竜達は破壊力を持っている。こちらの魔法具の力を跳ね返すだけの力がある。油断するな」
「分かっていますぜ兄貴」
デクスターは元気よく返事してみせた。とは言え、魔法耐性がある獣の王とその側近と、それらが放つ魔法を防ぐ対応をしなければならなかった。彼は獣の王には戦車による攪乱、と砲撃の雨で対応するつもりでいた。谷間に押し込めて置けば、魔法も使えまいとの判断だった。
怪物の攻撃が再び強くなった、獣の王が谷の先にいるようだった。再び翼を持った怪物が空に舞い上がり、今度は倍の百匹だった。デクスターは、これならどうにかなるだろうと、燕さんの準備を整えさせた。
谷には大型の怪物で溢れていた、これらに砲撃を集中し、獣の王を裸にし仕留めるのが今回の作戦だった。歩兵には魔法具を装備させ、魔法使い達にはシールドを発性させていた。谷の左右の兵を統率していたラエバスは次が大きな戦いになると覚悟していた。食事と十分な休息を与え、十分に戦えるようにしたあと、待機させた。
今回の怪物の地響きはこれまでと違った。明らかに獣の王がやってきているのだ。
ラエバスは全神経を谷間に集中させた。
しかし、兵士達は突如何かに気がつき、騒ぎ始めたのだった。
「怪物です」
ラエバスは驚き、その指し示す方をみると、崖の上に怪物の姿があった。そしてそれらの怪物は一気に絶壁をものともぜず、駆け下りてきたのである。この奇襲に兵は慌てふためいた。いきなり側面を襲われ、防戦いっぱいになった。それと同時に谷の怪物の押し上げも強くなり冥王軍は大挙して谷の外に出たのである。
本陣のデクスターも砲撃によって、冥王軍を押し込めようとしたが、空からの攻撃がはげしく、空を先に制する必要性があった。その間、冥王軍は谷を突破したのである。燕さんにより、なんとか飛行怪物は退けたものの、獣の王は厄介だった。砲撃はまったく効かないである。奇襲を受けて混乱し、一時退却したラエバスは軍勢を整えつつあった。デクスターは獣の王が丘に迫ってきたので、砲撃により地雷の地帯に誘い込んだが、余り有効ではなかった。獣の王は強度の耐久力を持っていたのである。陣地は土足で踏みにじられるように、潰されていった。獣の王とその側近の口からとてつもない声が出され、丘の軍事施設は破壊された。
デクスターは兵を急ぎ退却させると、少し離れた岡に集合させた。冥王軍の電撃の攻撃にパテリア軍は反撃の機会もなく、冥王軍を突破させたのだった。
「兄貴済まない。突破された」
デクスターはカドモスに謝った。
「絶壁の山を駆け下りるとは、俺の作戦が甘かった。しかし、冥王の姿はなかったな。まだ前哨戦という訳か」
「いかがします?」
「生き残った兵を集め、エデサに向かえ。ラエバスは亀さん改弐を率いて、冥王軍を遊撃しろ」
パテリア軍を蹴散らした冥王軍は、そのままソロイに向かった。その姿は遠くソロイの城からも確認出来た。平原の西から砂煙が広く舞い上がっているのが目視出来たのである。
僧ミルトスは、静かに瞑想し、意識を整えた。彼の周囲では指揮官が慌ただしく、冥王軍を迎え討つ準備を整えていた。この指揮官はかつてカドモスがパテリア国で山賊をしていた時代の配下で、今は、ソロイの防衛の任を任されたのである。ミルトスは彼の働き具合を観察することとし、動かぬことにした。
城にかつての強力な砲はなく、それより小振りの砲が備え付けられたいた。城の強度も普通の城並であり、これで冥王軍を相手にするには力不足だった。指揮官は上官のラエバズが背後から冥王軍を追いかけていると聞き及び、戦車戦を主体として、平原で迎え撃とうと、横一門に亀さん改弐を並べると、一斉に進軍させた。平原を戦車部隊が並走して走った。指揮官としては、前後から冥王軍を挟撃するつもりだった。
戦車隊は迫り来る冥王軍と遭遇した、しかしその数は彼の予想を遙かに上回っていた。舞い上がる砂煙と地響きの下には、平原に大きく広がった、冥王軍の群れがあったのである。亀さん改弐は横一門並び走りながら、一斉砲撃をしたが、冥王軍の怪物に被害を与えはしたものの、一部を傷つけただけであった。指揮官は冥王軍の数の多さに、火力が少なすぎると実感したのだった。そこで彼は中央の獣の王を狙う作戦に変更した。亀さん改弐の砲撃は中央に向かって集中した。砲撃は、命中したものの、巨大な竜を倒すに至らず、逆に怪物は戦車目がけて咆哮を放ったのだった。
激しい衝撃が起こり、木の葉のように戦車が舞った。直撃を喰らわなくても、その咆哮の耳をやられそうだった。
この様子を背後から、冥王軍を追いかけて来たラエバスの戦車隊は、戦車を四両ごとの編成とし、遊撃戦をとるように指示を出し、獣の王の注意を背後に向け、城の戦車部隊が集中砲火を浴びないようにした。
亀さん改弐は縦横無尽に平原を走り回り、怪物の集団を混乱させたが、大規模な冥王軍にさしたる被害を与えるには至らなかった。戦車の砲は大型怪物を吹き飛ばすほどの火力を持っていたが、砲の描く直線上のみであり、広範囲に殺傷することが出来なかったのである。何度も砲撃をしてみるのだが、数の前には焼け石に水の感があった。かといってピンポイントで獣の王を狙っても、効果はなかった。
それでもパテリアの戦車隊は何度も攻撃を仕掛け、冥王軍の外郭部の怪物を削り、徐除に戦果を上げていた。
城の高台でこの状況を眺めていた僧ミルトスは、若い兵士が緊張の余り震えているのに気がついた。
「地獄の怪物と心通じることが出来ると思うかね?」
ミルトスが問いかけると、若い兵士は奇妙な質問に答えかねた。
「あの怪物とですか」
若者の目に、砂煙をあげて迫って来る集団は洪水のように見えていた。
「いかなるものであれ、生有る者は愛おしいものだ」
ミルトスは柔和に微笑んだ。
「私は僧侶でありませんので、そのような気分になりません。殺さなくては、殺されます。それだけです」
「なるほど、では私がなんとかしなくてはな」
ミルトスは若い兵士の肩を叩くと、その場を後にした。彼は馬に跨がると、城を出て、迫り来る怪物の群れに、馬を走らせたのだった。
大地を覆う怪物の群れに、何度も砲撃を繰り返す亀さん改弐の姿があった。必死の戦いをしているようだった。ミルトスは怪物の目と鼻の先まで到着すると、馬を降り石の上にあぐらをかいた。
「姫は獣の王と語り合えると聞く、私も試みてみるしよう」
ミルトスは精神を統一し、獣の王の意識との接触をした。それは深い闇であった。冥王の意志が注がれているのだろう。この意志によって、獣の王は狂ったようにワルコ目指して進むのだった。ミルトスはその心を包み込み、怒りを和らげようとしたが、逆にはじき返された。憎悪がミルトスに向けられるのがわかった。
説得が不可能と分かったミルトスは意識を獣の王から離し、岩に上の自分に戻った。
すると、獣の王とその側近の竜達が、一斉に口から攻撃をしてきたのだった。それは戦車を木の葉のように吹き飛ばす威力をもったものだった。
「ま、尾っぽを振っていた訳ではないからなあ」
ミルトスに強烈な獣の王の一撃が襲ったが、彼は微動だにしなかった。かれに周囲には地面を抉る傷跡が残ったが、彼の法衣はたなびくこともなかった。
「どれ、番犬をいつまでも野放しではよろしくない。飼い主に戻すとしよう」
ミルトスは印を描くと、魔法奥義・三千大千世界を放った。曼荼羅が広がり冥王軍の一角を包み込んだ。
「さてもさても、大人数の団体では、帰りの馬車を何往復もさせねばならにようだな」
冥王軍が大規模のため、全てを覆い尽くすことは出来なかったのである。
怪物との激戦を繰り返したいたラエバスは、冥王軍の怪物の一角が突如消えたので、我が目を疑った。
周囲を見渡し、その原因を探し求めると、遠くに岩の上にに人が座しているのが分かった。
「何故ここに人が・・・」
すると、再び冥王軍の一角が、再び突如消失したのだった。そこで初めてラエバスは、岩の上の人物が僧ミルトスであると悟ったのだった。
「やはりお前達だったのか」
ミルトスの前に一人の男が、現れた。抽腸獄のウーマーだった。彼は怒りの形相でミルトスを見つめていた。地雷によって吹き飛ばされた左足には義足が付けられ、顔には大きな傷が走っていた。
「妖魔の方ですか。私の術の中を移動してくるとはただ者ではありませんな」
ミルトスは来るべき者が来たと、覚悟した。
「こんなもの、造作も無いこと。冥界に僕どもが、送り返されて来たので、誰の仕業かと思っていたのだが。納得した」
「飼い犬が野放しでしたので、自宅にお返ししたまでです」
ミルトスは礼儀正しく応じた。
「魔法奥義ル・モンドを使えば、殺すことも可能なはずなにの地獄に送り返すとはな。我らは再び地上に放すつもりだが如何する?」
「再びお返しするだけの事です」
ウーマーは詰まらぬといった表情をした。
「その殺生を嫌う行為は偽善臭い。根比べが、解決策だというのか」
「僧は忍辱と精進が基本ですからな。慈悲喜捨がその精神です」
「俺には分からぬな。お前は邪魔だから、消えてもらうぞ」
ウーマーは構わず魔法を放った。
ミルトスの頭上を衝撃が襲ったが、その力は球体で受け止められた。ミルトスの回りに三千大世界が展開していた。
「妖魔殿、貴方はダーナとの戦いにおいて大きな深手を負っておっていらっしゃるようだ。自らの魔法の力の衝撃を受け、体から血を噴き出しておれれる」
ミルトスの指摘通りに、ウーマーはダーナとの戦いにおいて、彼の最終魔法を受けて助かったものの、体はぼろぼろだった。
「貴様、俺を侮るか。邪魔者を始末した今、お前達ワルコの将に勝利はない」
ウーマーはプライドを傷つけられ、怒った。
彼は、魔法奥義イル・パーパで一気に始末しようとした。右手のサインに笏が現れ出で、輪を持つ星とともに、法衣がミルトスを襲った。一方ミルトスも奥義三千大千世界がこれを迎え撃ち、二つの魔法がぶつかった。
ミルトスの三千大世界はウーマーのイル・パーパの威力を受け、砕けた。ミルトスは額に血を流し、右手をついて体を支えた。一方、ウーマーも二つの魔法のぶつかり合いの衝撃を受け、古い傷が大きく裂け苦しんだ。
「陳勾星め。貴様による呪いはまだも続くか。体が万全であるば、太常星など造作も無く仕留められるものを。自らの技で自らを傷つけてしまうではないか」
ウーマーは苦しみ、息を切らしていた。
「貴方は優れた術者です。傷を負っていなければ、私は滅ぼされたことでしょう。どうでよう、私がその傷を癒やしましょう。その交換条件として、地上のことはお構いなく」
自らも傷つき、敵の傷を癒やそうとするミルトスに、ウーマーは屈辱を感じた。彼は感情に走り、一旦引き上げるべきだったが、冷静な判断を失っていた。
「偽善者め。弱肉強食が世界の姿であることが分からぬか」
再び、ウーマーは魔法奥義イル・パーパを放し、ミルトスは三千大千世界で応じた。再び二つの奥義がぶつかり合った。
「妖魔よ。供に涅槃に入ろうぞ」
ミルトスは呟いた。
激しい、衝撃が大地を叩き、そのあおりを受けて、多くの怪物が吹き飛ばされた。ラエバスの戦車部隊も巻き込まれたが、偶然窪地を走行中で直撃を免れた。亀さん隊がミルトスが居た地点までいってみると、なにもなかった。
抽腸獄のウーマと太常星のミルトスは消滅したのだった。
番頭さんでミルトスが妖魔との戦いで亡くなったのを知ったミュージカは、このことをカドモスに告げた。カドモスは僧の死を悲しみ、平和を愛した者に口先で騙し、戦いに巻き込ませてしまったことを、心から詫びた。しかし、感傷に浸ってはいられなかった、冥王の軍勢はミルトスによって減らされたものの、まだ大軍であったのである。
冥王軍の第一波はミルトスによって半数は消失したが、まだ、軍勢を誇っていた。さらにシューロスから第二波がやって来ており、地上は冥王軍の軍勢で溢れ始めていた。最後の妖魔は滅び、カドモスの障害になる者は居なくなったが、冥界の怪物は厄介なしろものだった。配下のデクスターは亀さん改弐隊を率い、怪物を襲ったが、戦況を変えうるものではなかった。しかも、厄介なことに、怪物達は地上の空の利用に気がつき始めたのか、羽根を持つ姿に変形する怪物も出始めたのである。空を利用出来る様に成ると、冥王軍が広域で活動できるようになり、ますます厄介なことになるのだった。
戦場を中原から離れた西域にしたのは、本土を守るためであった。カドモスはなんとか早く決着をつけなくてはならなかった。
「陛下、まもなく、このお菓子の城に冥王軍が到着します。冥界の怪物の召喚をお願いしまず」
カドモスは芙蓉姫に、恭しく申し出た。
「先に、召喚した僕が、待機してますが、それでも足りないのですか?」
「冥王は大軍を用いて、我々を虜にするつもりです。続々と冥界から兵が送り込まれています。出口を押さえる作戦を執ってまいりましたが、うまく突破されてしまいました。あとは魔法城の力と僕の力を借りるしかありません」
「仕方ありません。怪物とはいえ、忠実な僕です。むざむざ死に送り出すのは、心苦しいことです」
「あの悪鬼の怪物は戦闘意識しかありますまいに」
怪物と意識を通わせることができる芙蓉姫と、カドモスとでは怪物の見方が違っていた。
「カドモス、それは違いますよ。姿は醜くとも、彼らは純粋なのです。環境があの姿を作り出しているのです」
「冥界の生き物はそうなのですかな」
「彼らが、地上に生まれれば、きっと愛らしい姿をしているでしょう」
カドモスは、昔、タキスが魔法部隊の体が、魔法の影響を受けて変質する現象の対応に苦慮していたことを思い起こした。物のの形は不安定なもので、容易に変質するものかもしれないと、タキスは持論を展開していたが、彼が生きていれば怪物についてどの様な結論を出すのか知りたくなった。彼なら、翼を持ち始めた怪物への対応策を考え出したに違いなかった。
「姫の僕は、無駄死にはさせません。冥王軍は、地面を覆うほどの大軍で、こちらに進軍していますが、まもなく四つの魔法城の射程内に入ります。要塞砲によって怪物は打ち倒されるでしょうが、問題は広範囲に広がり打ち漏らした怪物をどう始末するかです。そこで僕を当たらせるのです」
「それであるば、負担も少ないでしょう」
姫は同意し、早速、召喚の準備に取りかかった。カドモスは直ぐさま、ミュージカの所に戻り冥王軍の動きを調べた、冥王は未だ地上に姿を現しては居ないようだった。
カドモスがお菓子の家の城内を、走り回るていると、石段に腰掛けている人物に出くわした。警備が厳しい城内に民間人が、のんびりと休んでいる姿は奇妙で、カドモスはその男に眼を向けた。腰掛けていたのは何度か知恵を与えてくれたゼノビオスだった。
「随分お急ぎのようだが」
ゼノビオスは瓢箪を肩に掛け、のんびりとした様子だった。
「貴方でしたか。こんな所にいては、警備兵に捕まります」
「その心配はあるまい、人は目によって捉えられる像をそのまま分かるわけではない。姿が目に見えても、認識できなければよい事だ」
「すると私は、さしずめ石段に独り言をしている人物となるのですかな」
「気の毒なことにな」
ゼノビオスは意地悪く笑った。
「ところで、私に何か用なのですか?」
「一言忠告をしょうと思ってな」
その言葉に、カドモスは真剣な顔をした。
「貴方は彼女を愛するがゆえに、冥王を自分だけで倒そうとしている。だがそれは無理だ」
「お言葉ですが、最後の妖魔は倒しました、もう障害はありません」
「妖魔にしてもワルコの将にしても、真打ちに引き継ぐためのものに過ぎない。冥王は芙蓉姫によって倒さなくてはならないのだ」
「承服しかねます。君主を危険な目に会わせるのは、臣下の務めを疎かにしているということになりませんか」
「臣下というより、恋人だがな。よいか、仮に貴方が冥王を倒せたとしても、この戦いの決着はワルコによってもたらされなければならないのだ。その為に世界の狭間に防具を探しに行かせたのだ」
「貴方の忠告には感謝しているが、それはもしもの為のもの。それに彼女に戦場はふさわしくない」
「ワルコの将にしても、獣の王にしても、それは主役を引き立てるにしか過ぎない。当事者が防具に身を包み、剣をとり戦ってこそ、瓊筵戦争は終結するのだ」
「姫に、戦いの矢面に立てと申されるのか」
「その通り、貴方の優しさは、戦いを終わらせることが出来ない。不完全のまま、千年後に再度仕切り直しをすることになろう。彼女を甘やかしてはならない」
「陛下はパテリアの皇帝なのです。一騎打ちなどもってのほかです」
「間もなく冥王が地上に姿を現すであろう。彼は空飛ぶ竜に乗り、冥王軍を従えてやって来る。その時、ワルコは鵬に乗り迎え撃たなくてはならない。聖剣グラディウスはワルコの助けになろうが、大切なのはワルコがその直接対決により、答えを見いださなくてはならないことだ。それなくして冥王は滅ぼせない」
「まだ、なにかあるというのか?」
「そうだ、それはワルコにしか分からぬ物だ。貴方の愛は彼女の妨げになる。だから彼女が自身の力によって解決する道を見いだすため、手を差し伸べてはならない」
「しかし、それでは冥王に吸収されてしまう」
焦りの様なものが、カドモスに湧き上がった。
「姫が解決方法を見いだせなかったらどうなるのだ?」
「彼女は吸収され消滅し、冥王と同化する。そして神々の戦いが始まる」
「神々の戦いだと。これ以上なにかあると言うのか!」
「瓊筵戦争は地上を争う戦い、しかし神々の戦いは世界の覇権を争う戦いだ」
「この戦い以上のものが、控えているというのか」
カドモスは呆然とした。
「それは、あんたの主である神と、ミケーネの神と争いだろう、なんでここでする」
「ワルコの消滅が、戦いの合図だからだ」
「なんて勝手な。冥王だけでも脅威なのに、神々が来られては、お手上げだな。俺たちを助けて暮れるところを見ると、あんたの神は戦争を回避したいようだな」
「その通り、主はこの世界秩序を望まれている」
「そして、ミケーネの神は改変を志しているか。俺は今の世界秩序に不満はない。そこでどうだろう。あんたの主の神に冥王を始末してもらえないか。地獄で見た先代の神を倒したのだろう。冥王など造作もないこと」
「神々は手出してはならない理になっている」
「どういう契約をしているのだ神は」
カドモスは苛ついた。
「ワルコが吸収されず、冥王を倒すことが出来なかった場合、千年後、再び冥王とワルコの瓊筵戦争は行われる」
「千年後だと。姫は生きているのか?」
「人の体は滅びる。再び転生するのだ。僕の将とともに」
「姫と、仲間が蘇るというのか」
「勘違いするな。ワルコが転生するのであって、芙蓉姫が蘇るのではない。同様に将等も蘇るのだが各星の属性として転生するのだ。その人物が蘇るのではない」
「俺たちと違うと?」
「それは正しくも有り、間違いでもある。お前は六合星だが、六合星が転生するのだ。二重人格者が、交互に人格を現しているみたいなものだ。次の時代の六合星はお前が潜んでいることは知るよしもないだろう」
「なにはともあれ、冥王を倒し損なっても望みはあるのだな」
「その通り、しかし、その時代のワルコは芙蓉姫でない。芙蓉姫の歴史を持つ新しいワルコだ」
「そして、その時代にも、俺でない、俺の歴史をもった六合星がいるんだろう」
カドモスに光が見えたので、ゼノビオスは安心したのか、重い腰をあげた。
「神具を身に纏わせ、聖剣グラディウスを握らせるのだ。戦いは近いぞ」
そう言うと、ゼノビオスは霧のように消えたのだった。
しかし、優しい姫に、あの恐ろしい冥王と戦わせるなど、ありえなかった。カドモスは他に良い案がないか苦しみ。仕方なく、ゼノビオスの忠告に従って、芙蓉姫に剣の使用法について指導することにしたのだった。
冥王軍はデクスターの亀さん改弐の攻撃をものともせず、芙蓉姫のいる魔法城お菓子の家に迫った。一方、ワルコの僕の怪物も大集団を形成し、これを向かえ討とうと待ち構えていた。
「冥王軍は兵を背後に抱えているので、消耗戦になると不味い。その数を減らせないだろうか」
カドモスはワルコの僕をどこで投入するか悩み、ミュージカに尋ねた。
「冥王軍は魔法城の射程内に入りました。エデサ、アンキュラ、シノーペの魔法城の攻撃を加えればその数を減らせますわ」
「分かった。デクスターの戦車隊には待避命令を出そう、その後、一斉攻撃を仕掛けよう」
冥王軍との戦いは厄介なものであった。瓊筵戦争のため、戦場を西域に定めたのだが、そこにも住人はいたのである。カドモスは冥王軍の進軍コースの住人は強制的に避難させたが、残った者も多く、その安全を如何に守りながら攻撃しかけるかという問題があった。
実際は、カドモスの心配は必要なく、住人は避難の暇も無く、冥王軍の怪物の前に食い殺されていたのだった。
五つの魔法城からの、砲の攻撃が冥王軍を襲った。その威力は亀さん改を遙かに超えたもので、冥王軍は一撃を浴びるごとに、消失していったのである。
この成果にカドモスは大変喜び、魔法城によって、冥王軍は退けられると実感したのだった。
「ゼノビオスは姫に戦わせよと言うが、できるなら俺の手で守りたい。昔、姫が魔法を使い始めた頃、釈然としないものがあった。姫が俺の手から離れていく、そんな気がした」
カドモスは安心し、制御室を出ようとしたところ、ミュージカが呼び止めた。
「シューロスに強大な魔法反応が現れました。単体です。なんでしょう?」
カドモスはびくつき、慌ててミュージカの見る地図に飛びついた。
「これは冥王に違いない」
悪寒が走った。
冥王が地上に出現したことはカドモスに本番が来たことを実感させたが、さらにカドモスを驚かせる出来事が起こった。それは冥王のいるシューロスに、その出現と同時に、強大な魔法攻撃が成されたことだった。
「シューロス全土が焼き尽くされています。今の一撃で大地に巨大なくぼみが出来たようで、地形が変わっています。なんという威力なのでしょう。ここから肉眼でも南西に煙が確認出来るはずです」
カドモスが外に出て、南西をみると、大きな雲が、広範囲に立ち上っているのが分かった。あり得ない破壊力だった。
「今の攻撃は何処からだ?」
「軌跡を辿ると、ここ、お菓子の家からです」
ミュージカの言葉にカドモスは驚嘆した。
「お菓子の家が攻撃したのか?」
「違います。恐らく陛下です」
「姫だと」
消極的な人物が、このような事をするには思えなかった。
直ぐさま、カドモスは姫のもとにいって尋ねてみると、意外な答えだった。
「何故か、天に両手を差し伸べて、魔法の言葉を発してしまった」とのことだった。
「姫が意識してやったことでないとすると、何かが、姫を操ったのか」
それは、カドモスに閃きをもたらした。
「お菓子の家だ!」
ミュージカの高度に自動化した魔法城は、知能をもっていた。その防衛本能が導きだした答えが姫の魔力であり、姫は操られたのだ。カドモスは頼もしい魔法城の、隠された危険性に気がついたのである。瓊筵戦争後、パテリア国は魔法城を破棄し、シルバの森の中に埋もれさせてしまうのだが、それは、お菓子の家の危険性に気がついた、カドモスの命を受けて宰相補佐によって成されたのであった。
「先ほどの、陛下の攻撃ですが、冥王に魔力の増減はありません。恐らく、効果はなかったのかと」
「あの脅威の魔法を受けてびくともしないとは。分かっていたがどうする」
カドモスが自問自答していたところ、ミュージカが叫んだ。
「シューロスから強大な魔法攻撃が行われました。エデサ、アンキュラ、シノーペの魔法城が一瞬で蒸発しました」
「あの強固な城がだと。雪でもあるまいに。エデサに向かわせたデクスター軍はどうなっている?」
「傷病者が多く、進軍が後れたことが幸いとなっていました。郊外で魔法城の消滅を目撃しています」
「良かった、ワルコを消滅させては困るから、お菓子の家には攻撃をしかけなかったようだな」
カドモスが冷や汗をぬぐうと、再びミュージカが声をあげた。
「ラエバス様の部隊に異変です!」
カドモスは息をのんだ。
「亀さん改が真っ白になっています」
番頭さんの作り出す映像には、慌てて戦車から飛び出す兵があり、そのまま白くなり、固まった。
「妖魔に石に変える能力をもった奴が居た。あれではないのか」
映し出される映像には、白く固まった兵士の腕が地面に落ち、小さく砕けた。やがて全身が砂のようになって、崩れ、地面に三角錐のような山を作った。戦車も同様だった。固い装甲は真っ白になり、さらさらと崩れ去ったのだった。
「石化でなないのか!」
カドモスが怪しんでいると、突然ミュージカが叫んだのった。ミケーネは足の異変に気がつき、自分の足を見て、恐怖に震え上がったのだった。
ミュージカの両足が白く石像のようになり、次第に上に上がってきたのだ。ミュージカが驚き、足を動かそうとすると、それは砕け、散らばった。その光景を見たカドモスは、咄嗟に、彼女専用の羽根を取り出し、神具を纏わせると、異変は治まったのだった。しかしかし、遅かったようで、彼女の両足はなく、左腕も床に落ちて小さく砕けていた。ミケーネは神具によって命をとりとめたものの、胴体まで変化は進行し、恐怖で意識を失っていた。カドモスは床に散らばった白い砂に触ってみると、それは塩だった。
「俺は、神具を最初からまとっていたから助かったか。冥王め、魔法城を直接攻撃できないので、こんな手を打ってきたか」
義兄弟のラエバスの生存は絶望的だった。今ごろ、塩となって姿は砕けているはずだった。カドモスは村を一緒に出たときの事を思い起し、涙をぬぐった。
魔法城を姫の部屋目指して、走っていくと、あちらこちらに砂の山が築かれていた。芙蓉姫の部屋に駆け込んでみると、侍女と怯えている姫の姿があった。
「陛下ご無事で」
「突然、人が白くなって崩れたのです。カドモスなんでしょう」
芙蓉姫は震えていた。
「冥王の攻撃です。侍女は姫の近くにいて助かったのです」
「パテリアの民は大丈夫でしょうか?」
「我々の本拠地は、はるか東の中原です。ご安心を。戦いの地をここに決めたたときから、この様な覚悟がしていました。陛下、冥王が地上に参りました。パテリアの戦車部隊は全滅し、魔法城は破壊され、お菓子の家を動かしていたミュージカはも重傷を負っています。冥王軍に対抗する戦力は、怪物の僕だけになってしまいました。」
「なんと言うことでしょう」
芙蓉姫は手で口を覆った。
「次は冥王は僕を始末にかかるはずです。陛下は神具の鎧を纏い、聖剣グラディウスを提げて下さい。陛下がいれば、僕も安全です」
カドモスの催促に、芙蓉姫は狼狽えた。
「出来るのでしょうか」
「私が側にいます。」
ミュージカが意識を取り戻したとき、芙蓉姫が心配そうにのぞき込んでいた。彼女は慌てて起き上がろうとしたが、思うように動かなかった。
「そのままでいいのですよ」
芙蓉姫は優しく、彼女を寝かせた。
「ミュージカ、一人にして済まなかった。陛下の侍女を連れて来た。彼女等が君のお世話をしてくれる」
両足に左腕を失った、ミュージカは涙ぐんだ。彼女の体は侵され、胴体も一部塩化していた。
「陛下、その武具を纏ったお姿は?」
芙蓉姫の物々しい姿に、ミュージカは違和感を感じた。
「戦いに行くのですよ」
ミュージカは、姫の決意を知り、再び涙を流した。
「さあ、君は早くこの城を出るように、陛下が此処を去ると、冥王の直接攻撃をうけてしまう」
カドモスは、ミュージカに迫り来る危機を報せた。彼女は名残惜しそうにすると、侍女たちに助け起こされ、車椅子に乗った。ミュージカは去ろうとしたが、何かを思い出したようで、引き出しを開けると、カドモスに、道具を渡したのだった。
「カドモス様、この品は魔法の道具ではありません。人に知恵によるものです。魔法を使う相手には有効かもしれません。一つは炭素をもとに、五員環多層の同軸状にしたものです。強固な糸で、おいそれと引きちぎることは出来ないでしょう。投げて当たれば、相手をに巻き付きます。(刺繍糸)と呼びます。もう一つは酸素との急速な結び尽きを雷管で実現するもので、ニトロ基六個、炭素六個、酸素十二の構造で、爆轟を起こします。こちらは(癇癪持ち)と呼称します」
カドモスはそれらの道具を見て、ダーナーが言っていた、魔法によらない、本来の人間の世界にもたらされるもの、なのだろうと思った。
「陛下、カドモス様、またお会いできますよね?」
ミュージカは哀願するように尋ねた。
「もちろんだ。俺たちは陸は制した。しかし海はまだだ。君にはラウド海を渡る、海洋の船を建造してもらいたい。約束だよ」
この言葉に安心したのか、ミュージカはお菓子の家を去ったのだった。カドモスは早速芙蓉姫とともに城を出て、怪物の僕の元に向かった。ワルコの軍勢は平原を覆うほど集まっていた。大小様々の怪物が整列を作って待機し、冥王軍を迎え撃つには十分なほどの軍勢になっていた。
「冥界の魔物は、地上の空の存在に適応し始めています。今までは地上をこちらに攻め込んでいましたが、今度は、姿を変え、空を飛んでこちらに来るはずです。ワルコ軍はまだ、冥界のままであり。遅れをとっています。早急に僕に進化をもたらすべきです」
「しかし、カドモス出来るのでしょか?」
「冥王軍はしています。可能なはずです」
その時激しい、爆裂音が背後で響いたのだった。驚き、カドモス振り返ると、お菓子の家が冥王の直撃を受けて、粉砕されていたのだった。芙蓉姫が居なくなったので、冥王は容赦なく攻撃を仕掛けたのだった。
「獣の王に命じるのです。空への変化を行えと」
催促されて、芙蓉姫は獣の王と語り合ったのだった。すると、獣の王がひと叫びすると、全ての獣が呼応し、うなり声を上げたのだった。次第に獣の形状が変化し、立派な翼をもつ竜に変化したのだった。
「姫、鵬のような竜に乗り、攻め込みますぞ。我々には城がありません。空全てが戦場です」
「カドモス。怖いわ」
「私が、ここにいます」
カドモスは、優しく芙蓉姫を抱いた。
ワルコ軍、全軍が空に舞い上がった。向かうは西の空。
おりしも、日は傾き初め、西の空が赤くなり始めていた。
天井には妖しい七つ星。
燦然と輝く、最後のモナド星が登り、天頂には輪を描く星の姿があった。
星々は、地上のワルコ軍と冥王軍の戦いを見下ろしているかのようだった。
ワルコ軍が西へ飛行すると、雲間から冥王軍が姿を現した。その数は西の空を埋め尽くすほどだった。
やがて両軍は目前まで迫ると、ワルコ軍の左翼の一部が、大きな力によって消失した。冥王の一撃が、ワルコ軍に大きな風穴を開けたのである。二撃目が襲いかかると、芙蓉姫が魔力を用いてこれを防いだ。
「姫、防いでばかりでは、冥王は倒せません。ダーナが残したグラディウスを試す時がきました。剣を抜いて力を放って下さい」
獣の王の背中に、一緒に乗っていたカドモスは、姫に反撃するように促した。彼女は請われるまま、静かにグラディウスの雌剣を抜くと、冥王軍の右翼目がけて、一振りした。
グラディウスの剣が空気を切ると、その威力は遠く、冥王軍の一部を消失させた。
グラディウスの力にカドモスは感嘆し、この剣の力を借りれば、冥王を倒せるのではないかと期待した。再び聖剣で冥王軍に攻撃を仕掛けると、今度は冥王の力によって攻撃は防がれ、少数の怪物を吹き飛ばすだけに終わった。すると冥王軍はいくつかの大きな固まりに分かれると、左右に大きく広がり、一方はさらに上空、もう一つは高度を地面すれすれに飛行した。冥王軍は立体的に展開し、ワルコ軍を包み込んで攻撃を仕掛けるようだった。これに対しワルコ軍は楕円のまま飛行しては、上下から挟み撃ちを受けるので、全体を球形に保ち、僕達がワルコの庇護を受けられるようにしたのだった。瓊筵戦争は両軍は対等な条件で戦ってはいなかった。冥王軍はワルコを生かして捕らえなければならないという足かせを負っていたのである。その為には、ワルコの回りから、僕を剥がしてしまう必要性があった。逆にワルコ側からは、密集しワルコの力を僕に十分に与えることが出来たが、自軍が邪魔でグラディウスの攻撃が出来なくなった。
この陣形のまま両軍は大空でぶつかり合った。冥王軍は大きく旋回し、ワルコ軍の固い守りを立体的に攻撃した。空のあちらこちらで、怪物と怪物が絡み合い、食い合った。
力尽きた怪物は、そのまま地面に落ち、さながら空から黒い雨が降っているかのようだった。
無数の冥王軍とワルコ軍がぶつかる空中で、獣の王の背中に乗っていたカドモスは、必死で冥王の姿を探していた。前後、左右、上下で戦いが起こり、平面的な地上戦と違い、立体的な戦いでは、何処にいるのか分からなかったからだ。「これが空の戦いか」とカドモスは初めての経験に、早く慣れようとしていた。
すると、彼は右後ろ斜め上に大きな竜の存在に気がつき、目をこらしてみると、冥王らしき姿を発見したのだった。
「冥王はあそこです。姫の庇護のもと、僕にあそこを攻撃させまましょう」
ワルコ軍は一塊になって冥王目がけて進むと、冥王の姿がさらにはっきり見えてきたのだった。巨大な冥界の王は、冷たい金属のような鱗を持った竜の背に乗り、悠々とこちらをのぞき込んでいたのだった。ワルコ軍は反転し少しずつ高度を上げていくと、思わぬ隙を作ったのだった。ワルコ軍は球形から長い筒状の形態となり、ワルコの結界から外れ、背後が弱くなったのである。そこを冥王は見逃さなかった。地面近くの軍が急上昇をして、ワルコの背後を襲ったのだった。 ワルコ軍の後方は混乱し、次々に冥王軍に蹴散らされたのだった。この事態にワルコ軍は後方部隊を反転させ、反撃を試みたが、この動きはワルコ軍を二分する形にしてしまった。
カドモスは、連隊行動に失敗し、舌打ちしたが、気を取り直し、逆に紡錘陣形に変えると、右上の冥王目がけて突進させたのだった。冥王軍はワルコ軍を囲むように攻撃を仕掛けていたが、ワルコ軍の急速な移動に、背後を追っかける形となった。そして空に広く展開させた居たため、冥王の回りは薄かった。ワルコ軍は冥王の目前まで、怪物を蹴散らし、一気に攻め上がった。怪物同士が激しくぶつかり合い、ワルコは冥王の目の前に達したのだった。
「姫、この勢いのまま、聖剣グラディウスで冥王を仕留めるのです!」
勝利は、この一瞬にあると判断したカドモスは叫んだが、姫は動かなかった。カドモスが姫を振り向くと、冥王の眼圧に、恐れおののいている彼女の姿があった。
「恐れる事はありません。私が居ます」
カドモスは、姫に勇気を呼び起こそうとしたが、彼女は震えて剣が抜けなかった。時を失ってしまうと焦ったカドモスは、彼女に剣を抜かせようとしたが、その瞬間、彼は吹き飛ばされてしまった。宙を舞うようにカドモスは流され、たどり着いたのは遙か中原の地だった。周囲を見渡すと見覚えのある地だった。
瓊筵戦争の西域から一気に、飛ばされ、空には怪物の群れなどなく、カドモスは一瞬あせった。しかし、彼の胸のバッチが輝いていたので、安心したのだった。彼はバッチに願いを込めると、一気に西域に飛んだのだった。
戻ってみると、芙蓉姫の隣にミケーネがいた。彼女はなにやら、姫を説得しているようだった。
「この雌狐め。姫になにを吹き込んでいる!」
カドモスは叫ぶと、ミケーネを追い払おうとした。
「貴様、私が中原に飛ばしたはず、何故戻って来られる」
カドモスが現れたのでミケーネは、驚いた。
「今、神の鎧を姫から外そうとしたな、貴様冥王の手先だったか」
「なにを馬鹿な。ゼノビオスの入れ知恵でしょう。対等にしないといけないわ」
ミケーネが掌を開くと、カドモスは吹き飛んだ。しかし、彼は空中で止まると戻ってきた。
「貴方、空を飛べるのね。さてはゼノビオスが何かを授けたのね。本当に嫌な奴。どうやら私は、貴方を始末しなければならないようね」
ミケーネは言うやいなや、魔法の攻撃を仕掛けてきた。カドモスは何とか回避したが、相当な威力をもったものであった。まともにぶつかっては勝ち目がなかった。
カドモスが中原に飛ばされいた短い間に、戦況は大きく変化していた。冥王軍はワルコ軍に突撃に対応し、無理に抵抗せず、左右の軍の厚みを強くし、挟み込むように攻撃したのだった。冥王への奇襲の効果は失われつつあった。
ミケーネを急ぎ排除する必要があった。しかしミケーネもこれは同じで、二人は芙蓉姫のを離れると、空中で戦い合ったのだった。カドモスはいきなり魔法奥義リンペラトーレを放し、消しさろうとしたが、ミケーネは同じ技を使って打ち消し、カドモスを大いに狼狽えさえた。
「どう、驚いた。これはどうかしら、貴方のお仲間の天后星に備わっている魔法奥義ラ・ペパッサよ」
月が浮かび上がり、ベールが取り除かれ、魔術の女王が姿を現した。トライアングルがカドモスを捕らえようとしたが、彼のバッチが危険に反応し、小さく瞬間移動させたのだった。
「この女に手間取ってはいられない」
カドモスは焦り、手を握りしめたが、その時、自分の手のなかにあるミュージカの道具に初めて気がついた。ミケーネが優位立っているこの瞬間こそ隙がある、そう判断したカドモスは、バッチの力を使い、姿を消したのだった。
ミケーネは彼は魔法技を受けて、死んだものと判断し、再び芙蓉姫に近づこうとしたが、突然動けなくなった、そして一気に引っ張られたのだった。
姿を消したカドモスは、ミケーネの道具の「刺繍糸」を投石器のように加工していたものを投げ、ミーケーネをぐるぐる巻きにすると、翼竜に結びつけると、彼女を引き離したのだった。ミケーネは体を拘束しているものが、細い糸の様な物で、あざ笑ったが、魔法の物でない未知の道具に、戸惑い、脱出できずに、戦場から離されていった。
カドモスはミケーネを引き離し、振り向くと、なんと冥王が、ワルコの獣の王の背に上に飛び乗ってきていたのだった。巨体の冥王に見下ろされ、芙蓉姫は腰をぬかしていた。カドモスの心臓は大きく拍動した。
カドモスは動転したものの、芙蓉姫が鎧に身を纏っていたので、安心すると、いきなり冥王の背後から奥義リンペラトーレを放った。魔法技は冥王を直撃したが、微動だにしなかった。すると、冥王の一撃がカドモスを襲ったが、彼はバッチの力借りて、近距離に瞬間移動を繰り返し避けた。
何時までも冥王の攻撃から、飛び跳ねて居るわけにはいかなかった。なんとか姫に戦ってもらわなければならないのだ。相変わらず姫は剣を握ったまま硬直している。このままでは、彼女が冥王に吸収されるのも時間の問題だった。カドモスは姫に何とか近づくと、一気に冥王軍の獣の王の背中にジャンプした。姫は驚いたものの、カドモスの腕に中に抱えられていたので安心した。
「カドモス、汝はこの人を妻とし、死が二人を別つまで、愛し、尽くすことを誓うか」「誓います」
カドモスは突然、場違いなことをやり始めた。婚姻の誓いだった。
「芙蓉、汝はこの男を、夫として、供に苦労を分かち合い、付き従うことを誓うか」
カドモスは姫を見つめた。その返事を待っているようだった。
芙蓉姫の胸は高まり、しばらく見つめ合った。
「誓います」
姫はゆっくりと答えた。
カドモスはゆっくりと彼女を降ろすと、再び見つめた。
「供に苦難に立ち向かって行こう。貴女は私の妻だ。さあ、勇気を出し、二人で冥王を倒し、我が家に帰ろう」
そう言うと、カドモスはミュージカから貰った、「刺繍糸」と「癇癪持ち」を執りだした。冥王がこちらにやって来たのである。カドモスはバッチの力を使い、姫を連れたまま姿を消し、短くジャンプして、冥王を惑わした。そうして抜け目なく、刺繍糸を冥王に引っかけると、反対側を近くを飛行する翼竜に掛けたのだった。翼竜は冥王に引っ張られその回りを旋回し、冥王をぐるぐる巻きにしたのだった。すかさずカドモスは冥王が刺繍糸を引きちぎる前に、多くの「癇癪持ち」を顔に投げつけたのだった。
魔法具でなかったせいか、冥王も対応が遅れ、冥王の顔面で「癇癪持ち」が爆破して冥王を怯ませた。この瞬間をカドモスは見逃さなかった。彼は芙蓉姫を抱き支えると、聖剣グラディウスの雄剣、雌剣を姫にとらせ、冥王の額目がけ、剣を突き刺したのだった。
聖剣は見事に冥王の額を捉え、その威力が冥王を貫いた。冥王は恐るべき低い声で、苦しみの断末魔をあげた。
勝負は勝った、とカドモスが実感したとき、姫が握る剣の輝きの中に、悟るものがあった。
「まさか、それが戦いを終結させる答えだったのか・・・」
カドモスは、自分がしくじったことを知った。気がつけば自分の体が白くなっていた。
冥王はなにもしなかった分けではなかった。断末魔をあげながらも反撃していたのである。
カドモスの体は神具によって守られているとはいえ、冥王の力を防ぎ切れはしなかった。
カドモスは自分の体が塩となって砕け散るのを感じた。
「バッチよ、未来の六合星に届け。俺は果たせなかった・・・」
カドモスが砕けるとともに、バッジはジャンプした。
聖剣グラディウスの力が冥王を貫き、地獄の王を破壊したと同時に、雄剣も砕けた。姫は左手に雌剣、右手に砕けた雄剣を持ち、息を切らしていた。彼女は冥王が滅び消えたことに、安堵し力が抜けていたが、後ろで支えてくれたカドモスの気配がないのに気がついた。慌てて後ろを振り返ると、一枚の羽根が舞い降りて来たのだった。
カドモスの羽根だった。
天井の集まった七つの星は、戦いの終わりを告げるように、四方に散っていった。
獣の王の背に乗り、真っ赤な夕日を浴びて、芙蓉姫は涙したのだった。
瓊筵戦争は終わった。
冥王を失った冥王軍は庇護を失い、ワルコ軍によって始末された。
ワルコの僕は、姫が冥界に帰す方法が分からなかったので、そのまま地上に留まった。姫が大戦争の跡を嫌い、後のシルバの森一帯を僕の放牧地としたので、千年後も怪物は存在続けた。戦いが終わると、全ての僕が地上型の戻り、限られた地帯でしかその姿は見られなかった。
芙蓉姫は冥王に勝ったが、カドモスを失った傷は癒えず、一生喪服で通した。その後王位を四十年ほど続け、崩御した。跡を継いだのは、妹、紅花姫の孫だった。この人物は明晰で人望があり、さらにパテリアを発展させた。
十将、ただ一人の生き残りのミュージカは、塩化に苦しみ。終戦後、五年ほどで世を去った。亡くなるまで後生の為と魔法具を残したのだが、全て秘密にされた。ミュージカは多くの魔法具を生み出したが、冥王との戦いが終わると、魔法具狩りが行われ、人の戦いに利用されないように破壊された。
カドモスの弟分の生き残りのデクスターは、その後、芙蓉姫の信頼篤く、帝国内の反乱を鎮め、重鎮となった。それは千年後も名家として存続した。
時代がくだるに従って、冥王との激戦は、芙蓉姫が思い出すのを嫌って禁じていたので次第に忘れ去られていった。西域には僅かに伝承として残ったが。それも千年後には完全になくなった。
今日も夜がやって来て、その空には燦然と輝く七つ星はなく、小さな星がきらめいているだけだった。戦いの後は、夜が鎮魂歌を唱っているようだった。
ミュステーリオンの前編の終了です。
謎が多いまま、前編は終了しました。全ては後編で解き明かされます。
その前に、次回は前編のあらずじをまとめさせて頂きます。
長い本文ですので、どんな内容だったか忘れやすいのいので、一応のまとめとします。
本サイトでは筆者は「のんき三郎」と称していますが、本来は「ものぐさ三郎」です。
何故かこのサイトで、登録出来なかったので、別の名前で登録した次第です。
後編では、カドモス達の戦いがすっかり忘れ去られた時代の話になります。