カドモス (六合星の)中原からの流れ者
ダーナ (勾陳星の)元オレア国天文官 魔法使い
イアソン (貴人星の)知将、元行商人
ルキアノス (玄武星の)元オレアの武官、槍の名手
ネクタリオス(青龍星の)用心棒家業、弓の名手
タキス (天空星の)双鞭の使い手 魔法使い
レアンドロス(白虎星の)元ハニア国海軍士官
ミルトス (太常星の)僧侶 治療術使い
デルフィネ (太陰星の)パトライ国第五王女 女将
ミュージカ (天后星の)発明少女
芙蓉姫 パテリア第三王女
デクスター カドモスの弟分
ラエバス カドモスの弟分
黄初 パテリア王
御形 パテリア王妃
幸武 パテリア第一王子
黄武 パテリア第二王子、後パテリア王
紅花 パテリア第四王女
ドルアス パテリア国宰相
フドウ パテリア随一の武者
エイトス メガラの猛将
ミケーネ 占い師、(アルマロスのミケーネ)
シャヘル 冥界の王 十人の妖魔の主
ウーマー 妖魔一位(抽腸獄 月光のウーマー)
コスタ 妖魔二位(穿肋獄 ミトラのコスタ) 死者を蘇らせる
ハスタ 妖魔三位(針山獄 一角獣のハスタ) ホーネスの仇
アエヌス 妖魔四位(焼手足 セルヌノスのアエヌス)戦いに疑いを持つ者
ラング 妖魔五位(抜舌獄 漁色のラング) 大蛇に乗る
ベネノ 妖魔六位(毒蛇獄 美粧蓮歩のベネノ)女性、二匹の獣を連れる
カーサー 妖魔七位(鋸解獄 紅蓮刀のカーサー)巨象に乗る
カスピス 妖魔八位(尖刀獄 ヒュブリスのカスピス)
グラッシス 妖魔九位(寒氷獄 黒海馬のグラッシス)怪鳥に乗る
ベナ 妖魔十位(血汚獄 サキュバスのベナ)意馬心猿の術使い
<諸国>
パテリア 北の山岳地帯ある小国
エーリス パテリアの西にある同盟国、第二王女の嫁ぎ先
ピュロス パテリアの東にある同盟国、第一王女の嫁ぎ先
テゲア パテリアの南にある中立国
シプノス ピュロスの南にある国。ピュロス領への野心あり
メガラ 山岳の諸国より盆地地帯にあり軍事力を強めている
カルキス 大河の上流あり、国力は十分。後の古都ナティビタス
ヨアニナ メガラ国の東の隣国
カーリア ナティビタスの西の国
クリッサ ナティビタスの南西の国
パトライ エヴェロス河西岸の国(後のカプット)
カドモスは芙蓉姫を城外に脱出させると、自身は城に残る僅かな手勢で、押し寄せるエーリスの軍勢を防いでいた。軍勢が城内にはいる前であれば、随分長く持ちこたえはずであったが、不意を突かれ容易に門をくぐられては裸同然だった。瞬く間に軍勢は城内深くに侵入し、警備兵を倒していった。カドモスは姫等が無事遠くに落ち延びるまではと、城内で奮戦していたが、次第に追いつめられていったのだった。
カドモスが無敵の強さで、敵を薙ぎ倒していくと、エーリスの兵士は遠巻きににして、弓矢の一斉掃射にて仕留めようとした。これに対し彼は飛び来る矢を盾で防ぐと、敵兵に突進し一角を崩したのだった。この時、不覚にも彼は足に矢を受けたので、これ以上の戦闘はむりがあると判断すると、囲いをうち破り、軽々と城壁を越えると城外に脱出したのだった。
カドモスは軽業にて脱出をしたものの、矢に毒が塗りつられていたようで、次第に気分を悪くしたのだった。足をひきずり、なんとか辿り着いたのは手下がいる小屋だった。
子分達は戦いを前に、隠れ家でくつろいでいたところ、そこにボスのカドモスが現れ、倒れ込んだので驚いた。慌てて、近寄ってみると矢傷が原因であることが分かったのだった。すぐに解毒剤で手当をしたものの、カドモスは3日間熱にうなされることになったのである。
四日目の朝、意識を取り戻したカドモスは手下に感謝した。直ぐさまエーリス軍について尋ねると、手下はエーリスの軍勢は東に向かって行軍中であることを伝えた。その軍の目的は、メガラ軍と合流し、王のいる支城を攻めることであった。
エーリス軍離反の情報はデクスターによって、王に伝えられたはずであるから、不意打ちを食らうことはなかったが、大軍を相手に小城でどれだけ持ちこたえられるかが心配であった。床から起きたカドモスは馬に跨ると、すぐさま部下15名を引き連れ、エーリス軍を追いかけたのだった。
翌日、昼ごろ。カドモス達はエーリス軍と遭遇した。彼等は剣を抜き戦闘に備えたが、なにやら敵の様子が妙であることに気が付いた。それは規律正しく行軍しているというより、ちりじりになって敗走している様に見えたのであった。数の上で勝った敵が退却しているとは、信じられず、暫く観察していると、傷を負った兵士が矢で杖を突きながら、本国目指して歩いてゆくさまが見えた。これらの光景からカドモスはエーリス軍が敗退したと判断した。
早朝辺りに、パテリアとの戦が行われ、彼等は敗れたのである。おそらく、メガラの軍勢は国境を越え侵入しておらず。合流に急いだエーリス軍を密かに待ち受けうち破ったのだとカドモスは読んだ。すでに戦端が開かれたと知り、彼はパテリアの支城目指して先を急いだ。
暫く馬を走らせると、敗走するエーリス軍を追撃するパテリア軍に出逢った。そこで彼はその一団を率いる将を呼び止めたのだった。
「これは、カドモス殿。王城で討ち死にされたと思っていましたぞ」
彼に気が付いた将は満面の笑顔だった。
「悪党はしぶとく生き残るものですからな。ところで他の戦闘はどの様になっています?」「少々遅かった様ですな。ご覧の通り。我が軍の勝利です。残念ながら貴方の活躍の場はありませんぞ」
「 私は他で稼ぐとします。しかし、勝利したとは言え、城から随分離れ追撃しては、メガラ軍に対応できなくなりますぞ」
彼は箴言をしたつもりだったが、
「カドモス殿。戦争は終わったのです」
と返されてしまった。将は湧き出る笑いを堪えているようであった。
「我々はメガラ、テゲア、エーリスの三軍を破ったのです」
「馬鹿な!」
カドモスには信じられないことであった。数の上で圧倒的に不利な状態では持久戦に持ち組むのがやっとのはずが、三軍に勝利しているとは考えられないのである。
「もっとも、我々将が倒したのはエーリス軍だけで、メガラ、テゲアは姫が倒された」
「それは、どういう事だ?」
「そのままの意味だ。姫が一人で倒されたのだ」
そう言うと将は兵士を率いて、再びエーリス軍を追撃した。
意味ありげな言葉を怪しみ、カドモスは城に向かっていると、偶然にも弟分のデクスターと出逢った。
「兄貴。ご無事で」
デクスターは泣いていた。
「我軍が勝利したのは分かったが、どうして勝利出来たのかが解せぬ。てっきり篭城していると思っていたが、野戦をやったようだな。いったいどういった流れなのだ」
カドモスは少し早口になっていた。
「昨日、姫がおいでになられ・・・」
「隠れ家に匿っていたはずだぞ。ラエバスはどうしたんだ」
「それは分かりません。姫は変な女を伴って城に参られたのです。ラエバスの姿はありませんでした」
「兄弟の身になにかあったのか・・・」
「姫は城においでになると、病に伏している王に代わり軍を指揮されたのです。将軍等は篭城戦を考えていましたが、姫が野戦を決断し、この先の平原でメガラ軍を迎え撃つことになったのです」
「ますます解せない。姫はそのような事ができるお方ではないはず」
「しかし、兄貴これが事実です」
カドモスは納得がいかなかった。腕を組み眼を閉じた。
「それで、メガラ軍との戦いはどうなった?」
「我軍は姫に先導され平原に到着すると、丁度メガラ軍が反対側に現れました。やがてテゲア軍も到着し大軍勢になりました。我々は正直肝を冷やされるような思いでした。両軍が平原で対峙すると、姫が馬で真ん中に進み出られました」
「なんと無謀な」
「その後、姫は剣を高く突き上げられると、魔法の力で敵軍を焼き払われてしまわれたのです」
「魔法?なんだそれは!」
「姫は魔法の力を授かったと申されてました」
「意味がわからん」
「私もです。しかし魔法の力は軍団にも匹敵します。一瞬にしてメガラ、テゲア両軍が消失したのですから」
「その様な恐ろしい力が世の中にはあるというのか・・・」
「はい」
カドモスの視線は定まらず宙を舞っていた。
「その後、エーリスとの戦闘になったのだな?」
「その通りです。二軍を破った我々は勢いづき、逆にエーリス軍は二軍が敗れ去って戦意喪失したようでした。結果はご存じの通りです」
「事情は分かった。そのことに関しては姫に尋ねるとしよう」
カドモス等は城に向かい、姫の身になのが起こったのか確かめようとした。
城内の兵士の顔は明るかった、既に戦争の推移は全員に伝えられているようで、張りつめた空気は流れていなかった。本来であれば大軍に囲まれ、鼠のように怯え城に隠れ潜んでいるはずであったが、天敵のいなくなった小動物達の様であった。
ほとんどが出陣し、エーリス追討をしている為、僅かな守備兵しかおらす、城内は静かであった。カドモスはゆっくりと城内に馬を進め、姫を捜し求めた。やがて姫はお休みになられていると知ると、馬か降りると徒歩で坂を上り建物に向かった。
「姫にご面会したい」
守備兵に伝えると、兵士は戸惑っているようだった。
「申し訳ありませんが、誰も通さぬようとのご命令です」
「邪魔だ、どけ!」
カドモスは苛立ち、兵士を押しのけると、どんどん奥に進んでいったのだった。やがて姫の部屋にくると、なにやら鳴き声がしてくるのが分かった。静かにドアから部屋の中を覗き込むと、寝所に泣き崩れている姫の姿を見出したのだった。
姫は誰かがやって来たのに気が付くと、涙を拭いて後ろを振り返ったのだった。そこにはカドモスが心配そうな顔をして立っていたのだった。
「カドモス。ご無事でしたか」
姫の声は涙声だった。
「貴女の騎士はそう簡単にやられません」
笑顔でカドモスは一礼した。
「私としたことが、こんな顔になってしまい・・・」
「姫の涙は真珠のようです」
うち消すようにカドモスは言葉を添えた。
「ところで、何をお悲しみです。兵士は勝利に湧いているというのに、まるで負けたかのように」
「私は、大罪を犯してしまいました」
「何をなされたのです」
カドモスは小首を傾げた。
「多くの人を殺めてしまいました」
「その事ですか」
「ご存じなのですね。私は何も分からず、パテリアを守りたい一心で魔法なる力を使い、多くの人を焼き殺してしまったのです」
「姫、お悲しみめされるな。それが戦というものです。姫がその力を使わなかったとするなら、メガラはパテリアの兵士に刃を突き立てることでしょう」
「でも、あまりにも酷いやりかたでした。人が業火に包まれ一瞬で消し飛んだのです。まるで悪魔の仕業のようでした」
「姫にその技を教えたのは、誰です?」
「占い師のミケーネです」
カドモスは豚の事件について、真剣に調べなかったことを悔やんだ。
「占い師とともにこの城に来たのですか?」
「はい、匿われた所からここに参りました」
「その占い師は此処のいますか?」
「未だ、この城の何処かにいると思います」
カドモスは一礼すると、身を転じ部屋の外に女を捜しに飛び出した。城内を駆けめぐると、はたして、女は城壁の上で、悠然と団扇を手に立っていた。
「占い師はお前か!」
カドモスは眉をつり上げ、呼びかけた。女は薄笑いを浮かべ、知らぬ顔をした。
「呼びかけているのか分からないか!」
後ろを追いかけてきたデクスターは、兄貴分のいつにない怒りように、なだめようと必死になった。
「怖い、お方」
女は扇子で口元を隠した。
「貴様、姫に何をした!」
「何か悪いことでもしたような、ものの言い。私は恨まれる事はなにもしていませんよ」
「魔法なるものを姫に施したな。何故姫にその様なことをする」
「それは姫様がこの国を守ろうと、望まれたこと。私は叶えただけのこと」
「お前は、魑魅魍魎の類か!」
「それは、酷いですわね。私はアルマロスのミケーネよ」
「なんだそれは?」
「分からないなら結構です」
女は見下すような視線を浴びせた。
「魔法の力と引き替えに、姫になんの取引をした!」
「世界の支配者たることを要求しました」
「何か勘違いしてないか。その様な戯れ言に姫を巻き込むな」
「私は本気です」
「今すぐ、おかしな技を解き、姫の元から立ち去れ!」
カドモスは剣を抜くと、剣先を女に向けた。しかしミケーネは驚く様子もなく静かだった。いらだったカドモスは脅しで剣を振り下ろそうとしたが、体が動かなかった。
これは、後ろに控えていた、デクスターも同様で、押さえつけられたかのように身動きできなかったのである。
「貴様、おかしな技を使ったな!」
怒りの形相で、カドモスは女を睨んだ。
「剣を取ったからですよ」
カドモスは女の技にあらがい、必死で圧力に抵抗し体を動かそうとすると、ゆっくりとだが手足が動いた。しかしそれは亀のように遅いものであり、沼地に填ったような体の重さがあった。それでも弟分のデクスターよりはましで、配下の者は全く動けなかった。
「驚いたわ、私の結界の中で動けるだなんて。でも当然かしら、貴方は特別だから」
こう女は呟くと、指で宙に円を描き、瞬く間に消え去ったのだった。後には圧力から解放されたカドモスとデクスターが残された。カドモスは手も足も出なかったことを悔しがり、転がっていた桶を蹴飛ばした。
「陛下。今まで何処においででした」
舞い戻ってきた王を前に、宰相の非難を浴びせた。王は従者と共に、使用人の出入り口より、城にはいると、なにくわぬ顔で玉座にあった。
「ここの座り心地は最高だのう」
「お戯れもほどがありますぞ」
「そう怒るな。王が捕らえられたら笑いもいのだ」
「ですが、突然姿をくらまされては、皆が動揺します。今回はご病気ということで、切り抜けましたが、そう度々できるものではありません」
「分かっておる。許せ」
宰相のドルアスは諦め顔で、ため息をついた。
先の戦いでも王の命を救ったのは、一早い行動。黄武王の逃げ足の早さが、この王の得意技であることは承知のことであったとドルアスは思い起こした。
「陛下、我らはメガラ軍を殲滅しました」
「承知している。予が平民に変装して潜んでいると、村人から戦況を伝え聞き及んだ。メガラ軍焼き死んだようだな。火計でも用いたのか?」
「そのようなものでは、ありません。それは人智を越えたもので魔法です」
「魔法とな?なんだそれは」
「不思議な技です。報告によれば、無数の業火が敵に飛び、燃やすというよりうち砕かれたように、メガラ軍は一瞬にて消滅したということです」
「それは誰が、用いたのか?」
「三の姫様です」
「なに!妹が」
王はたいそう驚いたようだった。
「妹が心配だ。なにかに取り付かれてはいないだろうか。その魔法とやらはなにか危険な匂いがする」
「陛下、何を申される。これは天が与えた賜った恩恵ですぞ。この力でパテリアは滅亡から救われたのです。むしろ利用するべきです」
「しかし、訳の分からぬものを」
「勝利は一時的なものです。メガラは再び我らの領土を狙ってきます。もはやパテリアを救う同盟国は存在せず、風前の灯火であることは変わりはないのです」
「だが・・・」
王は躊躇した。
「魔法の力を利用し、逆に他国に攻めるのです。そうしてパテリアを安泰な国とするのです。しかも魔法の使い手が三の姫様とならば裏切りを心配する必要も御座いません」
「しかし、妹を戦いに巻き込むのはどうも気が引ける。あれはそういう娘ではないのだ。どこぞかの国に嫁がせたほうがいいのだ。とはいえ孤立無援の我が国に相手などおらぬが」
「三の姫を手放すことはパテリアに取って危険です。魔法の刃が我々に向かうとも限りません。このまま手元に置かれ下さい」
これは王も納得したようであった。
「裏切りと言えば、エーリスだが、かの国は許せん!信義のかけらも無い奴らだ。成敗してくれん」
王は眉をつり上げ怒りを露わにした。
「お怒りはごもっとも。しかしここは寛容に対処すべきです」
「許せと申すか!」
「陛下、今申されたように我が国は孤立無援。かの国を襲っても反乱を鎮めるのに手間取ってしまいます。ここはエーリスを許しメガラに対抗すべきです。エーリスに貸しを作れば、エーリスは再び裏切ることは御座いますまい」
「ならば使者を送るとするか」
「いいえ、その前に脅しをかけたほうが宜しいでしよう。三の姫に一千の兵を与え、ゆっくりとエーリス向けて進軍させるのです。姫の不思議の力は知れ渡り、それだけで恐怖を与えることでしょう」
王は惨事に心を痛めている芙蓉姫を説得すると、手勢をまとめエーリス攻略の軍勢を立ち上げた。姫は白衣に朱色の鎧をまとい、白馬に跨っていた。その姿は威風堂々としたものであり、兵士の志気は上がっていた。この軍にはカドモスも将として加わっており心配そうに姫を見つめていた。
軍勢はゆっくりと西に向かい、姫の率いる軍勢を見ようと、村人が農作業をやめ路肩に並び声援を送っていた。軍勢がパテリアの王城に到着すると、そこにはエーリス軍の姿はなかった。メガラ軍消滅の報を聞き、慌てて本国に逃げ帰ってようであった。城内は激戦の後がそのまま残っており、荒れていた。貴重品は兵士によって持ち去られ無惨な状態であった。ここで、ラエバスが四の姫紅花を連れて戻って来たので、カドモスの副将として加わらせると、軍勢はエーリスの国境向けて出発した。
エーリスの国境の支城は容易く落ちた。これはここを守る将が、芙蓉姫の魔法の噂に怯え、逃げ去ったからであった。こうしてさしたる抵抗もなく軍勢はエーリス王城まであと半日の所まで近づいたのだった。
ここでエーリス側は使者をよこして、降伏するとともに王の首をもって、信義を裏切ったことの許しとするよう願い出た。この使者に対しパテリア側は受諾し、王の首をもって不問とすることにした。パテリア側としては、二の姫の息子である王子が王として即位すれば好都合で、これで背後を気にする必要はなくなるのだった。 目的を達した、パテリア軍は王の死を確認すると、直ちに本国に帰還し、兵を休ませた。
パテリアに一時的な平和が訪れると、市場は再び活動を開始した。様々な物産が並ぶようになったが、訪れる商人の数は少なかった。まだ、紛争地帯として、危険を冒しててまで山奥の国まで商売にやってくる者達はまれで、様子見をしていたのである。この世界は習わし事として塩や海産物の流通は国に妨げられることはなかった。戦略的に生活物資を相手国に渡るのを妨害するのは卑怯者のすることであるという理念が行き渡っていたからである。しかし、その物資が山賊などに奪われることに保証がなされたわけではない。治安が低下した一帯は匪賊が跋扈して非常に危険なのであった。この匪賊は中味が近隣の住民であることが多く、住民と匪賊の区別がつかず取り締まることが難しいのだった。
そんな訳で、国で物資の運搬について規制を受けないものの、商人は荷の安全や命の保証は自前で調達しなければならない。こうして費用がかさむので、戦時物資は割高になってしまうのであった。
テゲアとの国境付近で商人等の荷馬車が襲われる事件が多発し、カドモスは流通を確保しようと匪賊の掃討に出かけた。今回は政府軍として治安確保に出向くことになったが、少し前まではかれらが盗人として追われる立場であったのであり、全く皮肉なことであった。赴く地帯はかつてから等が縄張りとした所であり、彼等が山賊を廃業した後に、新参者が山賊家業を始めということだ。カドモス達にとって、留守を荒らされた気分であり一泡吹かせようと意気揚々と出かけた。
国境は山々が迫り、山賊が隠れるには絶好の場所だった。カドモス等にとっては古巣に帰ってきた気分で、彼等は一番狙われやすい場所まで馬を進めたのだった。
すると、なにやら剣がぶつかる音に叫び声が聞こえてきた。急ぎ馬を走らせると、行商人の荷馬車が襲われていた。カドモス等は剣を抜きかけつけてみると、一人の男が匪賊を蹴散らし、山賊が傷を負って逃げ出したところであった。
「ご無事でしたか」
カドモスが声をかけると、男は剣についた血の糊を、葉っぱでふき取っていたところだった。
「この国じゃ。一応の見回りはしているようだな」
「もっとも訳にたたなかったが」
カドモスは皮肉に直に応じた。
「期待はしてないさ」
男は素っ気なく返すと、馬車の覆いを開いて中を確認した。
「強いね。随分な腕前に見えたが」
「買い被りだな」
「自信がなかったら、単身この国には入らないだろう。謙遜は不要だ。ところで、こんな山奥の国まで来て戦時中は儲かるのかい?」
「それは意識してなかった。旅の空で貴人星を眺めていたら、なにやら北になにかがあるような気がしてやって来た。ここで、荷を売りさばいたら南に帰るつもりだ」
「奇遇だな。俺もだ」
カドモスは親指で自分を指さすと、男は怪訝な顔をした。
「お主のその感は正解だ。その感じたものは、このパテリアにある。実は俺も同じようにこの国にやって来た。おそら直感で得たものは同じものであろう。どうだ、それを確かめたくないか?仲間になれば、分かるぞ」
男は真顔で話すカドモスを見つめ、暫く黙り込んだ。そして口を開いた。
「俺の名はイアソン。その言葉を信じよう。この訳の分からぬ衝動に戸惑っていたところだ。今でも何故こんな山奥の国まできたのか自分でもよく分からない」
「なら決まりだ。早速、城に案内しよう」
「それは少しお待ちいただきたい。この荷を売りさばいてからお伺いしたい」
「なるほど、俺が急ぎすぎたようだ。では城に後で訪ねてもらいたい」
一礼すると、カドモスは別れを告げた。
この後、イアソンは王城にカドモスを訪ね、芙蓉姫配下の将となったのであった。
半月後、宰相の提案でパテリアは同盟国領ピュロスの奪還作戦を決行した。これは先の戦いにてメガラ軍の大半が消滅し空白となっていたからである。シプノスに駐留しているメガラ軍も魔法の力を計りかね、パテリアの戦力を調査中であり動かなかった。これはテゲア軍も同じであり、敗戦後本国に引き篭もったままであった。この機会を逃さなかったわけである。
この作戦には、同盟国として復帰したエーリス軍二千が加わり、計三千の軍勢となっていた。露払いとして、エーリス軍が先鋒を務めたが、同盟国軍の反攻が始まってたと伝え聞いたピュロスの元兵士たちが次々に合流し、更に一千の兵が集まった。かれらはメガラに併合後も各地で抵抗していた者達で、祖国復帰に燃えていた。
メガラの残留軍の抵抗はさしたるものもなかった。これは先の戦いにてメガラの知将がパテリア支城攻略のため出陣しており、戦死したことにより、統制がゆるんでしまったことによった。とはいえ主要な支城で篭城戦をしかけてくる敵には、同盟軍も手こずり日々を費やしていた。
この時、芙蓉姫の配下に加わったイアソンは、新参者の自分が認めらるには、ここで実績をあげるべきと判断し、使者を志願した。これにはカドモスも驚き、単身敵の城に乗りこむのは非常に危険だと引き留め、芙蓉姫もいたく心配した。しかしイアソンは「この舌先三寸で城を落としてみせましょう」と言うと馬に跨り城に乗りこんだのだった。
程なくして、城からメガラの旗が降ろされ、向かった時と同じようにイアソンが悠然と城門から出てくると、歓声があがった。
カドモスは「これはとんでもない奴を仲間にしてしまった」と舌を巻いた。かくしてピュロス領のメガラの重要な支城は落ち、パテリア軍の向かう先には王城があった。ピュロスの王城は頑丈は城壁によって守られていた。メガラはかつて、この城を間髪を置かずに落としたのであった。メガラの将は知将と呼ばれるだけのことがあった。この男が生きていれば、パテリア軍はこうも容易く王城までたどり着かなかったであろう。
しかメガラの残存部隊でも十分なほど、守りには強い城であった。一斉攻撃を仕掛けたものの、はね返され、多くの負傷者を出した。これにはパテリア王も頭を痛め、攻城の櫓作成を考え始めたのだった。ここで提案をするものがあった。イアソンである。
彼は魔法を用いて城門を粉砕すべきと提案したのだった。王は妹の事を心配し、その手は避けていたが、宰相も賛同しやむなく同意したのだった。カドモスは姫を戦いに関わらせるのを反対したが、「数少ない兵を攻城戦で失っては、ますます姫の魔法にすがらざるを得なくなる。ここで兵力を蓄え、諸国と対等の戦力を有するようにならなければならない」とイアソンに説かれ、しぶしぶ承知したのだった。人ではなく、無機質な門が相手なら姫が傷付くこともあるまいというのがカドモスの考えであった。
芙蓉姫の前にはピュロス王城の分厚い城門があった。その城壁は一塊りの岩のようであった。覆い被さるように圧倒する障壁に、姫は血の気が引いた。
(先の戦では、魔法を使ったといっても、ミケーネの助力があって出来たもの、果たして一人で出来るものなのであろうか)。不安と迷いで姫の心臓の鼓動は高鳴った。全軍の視線を浴びて姫は逃れられなかった。
姫は大きく呼吸を整えると、あの時の言葉を思い出し発した。すると轟音とともに、火球が飛び出し、激しい勢いで城門目がけて飛んでいったのだった。山のようで重量感たっぷりの城門は、あたかも薄紙が破られるように、跡形もなく砕け飛んで、奥の家々を粉砕して火玉は消えたのだった。
この魔法の威力に両軍は声もなく、見つめていたが、イアソンはが事なれりと城内に突進すると、パテリア軍は一斉に突入したのだった。城門を突破されたメガラ軍は瞬く間の追いつめられ、降伏した。
カドモスは、さしたる被害もなく戦いが終わったので、姫も魔法で心を痛めることもなかろうと、姫を城に迎え入れた。陽気に姫に話しかけたカドモスであったが、姫が何処かを見つめ涙を流したので、驚き振り向くと、そこには魔法の火炎で灰となった、敵兵の哀れな姿があった。
同盟領を回復したパテリア軍はピュロスの再興を試みようとした。しかし王家は絶えてしまっていたので、平民になっている王族の系統より王を立てると、パテリアの補佐官を据えた。ここでパテリア軍は領地に引き返すかどうかで、協議した。同盟が回復したといっても、その領土は安全と言えなかった。パテリアとエーリスは国境が高い山で囲まれていたが、ピュロスは、シプノスとの国境がなだらかな岡であり、ここに駐屯するメガラ軍から何時、侵攻を許すかわからなかったのだった。かつてシプノスとピュロスが境界を巡って激しく争ったのも、移動の容易さにあった。同盟領守備の観点から、パテリアはシプノス攻略へと傾いていった。
しかし留守の間を狙ってテゲアがパテリア、ピュロスに軍を進める恐れがあり、またシプノス攻略でテゲアが参戦すると戦況は厳しいものになりかねないので、これにどう対応するかで軍議はもめた。
城門の件より具合を悪くしていた芙蓉姫に代わり、参加していたイアソンがテゲアを同盟に入れることを提案すると。王は驚いた。
王は、敵を寝返らせるなど不可能と思ったが、他に手はなく、イアソンがピュロスの支城を降伏させた手腕を認め、テゲアの説得を試ませることとした。
芙蓉姫は今度ばかりは命が危ういと心配し、カドモスは無謀すぎると非難した。するとイアソンは笑って「少し商いに行ってまいります。私は路傍の石でさえ取引の材料とします。まして、今回は姫の様な宝石を飾れますので、商いは上々です」答えたのだった。
イアソンは単身敵地に乗りこむと、テゲアの論者を言論で負かし、メガラと組みすることの愚と、同盟に加わることの利を説いた。王族や重臣等は彼の言葉に魅了され、パテリアに味方することに方向転換したのだった。
同盟軍がピュロスのシプノスの国境付近に来たとき、イアソンは意気揚々と帰還し、交渉の成功を報告したのだった。これには彼を招き入れたカドモスも恐れ入り、大魚を釣り上げたのだと気が付いたのだった。
王はイアソンが帰還するとたいそう喜び、「シプノス駐留のメガラ軍を交渉によって退けられぬか」と問うと、彼は「難しいことです」と否定した。王は当然のことであろうと、すぐに諦めたが、イアソンは言葉を付け加えた。
「戦意を喪失させれば、退けることも可能でしょう。まず、姫を軍神として人々に知らしめましょう。魔法についても記憶させるのです。一旦虚像ができると、尾鰭がついて一人歩きを始めます。寝返ったエーリスが容易く降伏したのも、これが自然に起こったものです。これを大々的にするのです。主要な町に噂を流し、兵士達に浸透させるのです。いかに良将であろうと、兵士が使い物にならなくなっては手の施しようがありません。もちろん言葉だけでは不十分です。これからの攻城戦では姫に城壁を魔法で叩いて頂きます。その威力の程は、先の戦いで分かりましたから。あれだけの衝撃であれば兵を震え上がらせることは十分です」
王は感心し、その案を採用した。
この計画は成功し、戦いが進むに連れメガラ軍兵士の逃亡が相次ぎ、防衛が手薄になるとメガラはシプノスから撤退を余儀なくされ、山を越えたメガラ領まで後退したのだった。これで連合軍は戦いを終結させ、シブノスの国境に守備隊を残すと、本国に帰還したのであった。
パテリア軍が本国に帰還する前、カドモスは、メガラの将が未だシプノス領内で暴れているとの情報を得て、掃討に出かけた。現地に到着してみると、それらしい一団は見あたらず、再報告させてみると、現在は一人のメガラの将を追跡しているということだった。早速、その男を追いかけてみると、平民の服装の男を兵士達が囲んでいた。
カドモスは馬を進め、男に相対した。
「大人しく降伏しろ」
男からの返事はなく、代わりに眼が燃えていた。
しばらくの沈黙のあと、カドモスが馬を走らせると、男も馬で迎え撃った。カドモスの剣を男は鉄の双鞭で受ると反撃してきた。両者の戦いは、鬼神の如く息を呑む戦いだった。三十合ほど打ち合ったが決着がつかず、両者は間合いをとると再び睨み合った。
「貴殿、メガラの名のある将とみた。俺は芙蓉姫配下カドモスだ」
カドモスは男の力量が分かり、相手の名を知りたがった。
「俺の名は、タキス。今はメガラの兵ではない」
「すると、メガラを捨てたか」
「その通りだ。魔法なる技を使う相手に闘うつもりはもうとうない。俺はムルティ山脈を越えてやって来たよそ者だ。故郷に帰りたいだけだ。すまんが囲いを解いてもらえないか」
「随分遠くから、やって来たものだな。中原でなく、何故こんな辺鄙なところにいるんだ?」
「信じちゃもらえないだろうが。俺の星、天空星がこの地に導いた」
カドモスは驚き、男の顔を見た。真剣な眼差しだった。
「まいったなあ。貴殿仕える相手を間違えていたようだな」
彼は剣を鞘に収め、兵士達にも警戒を解くように合図した。
「それは、どういう事だ?」
「お前と同じように、俺も星を見てこの地にやって来た。我々の主に会わせよう」
「我々だと?主だと?」
「俺にもよく分からないが、仲間がいるようだ。どうだ、故郷に帰る前に寄り道をしないか」
カドモスの呼びかけに、タキスはしばし考え返事をした。
「俺は、何故この地にやって来たかったのか、知りたい」
こうして、タキスはカドモスに連れられ芙蓉姫に会い、その配下に加えられたのだった。
本国に帰還後、パテリアは兵馬を十分休ませ、次の戦いに備えた。そして数ヶ月後、メガラの情報がパテリアにもたらせられた。メガラは東部西部の戦線を縮小し、その兵力を本国に集中しているとの報せだった。この動きにパテリアはメガラは同盟軍の反撃を恐れ自国の防衛を強化したとは読まず、北への反撃の為に兵を集中したとみなした。
パテリア国は連勝したことに、強気の発言が大半を占め、この勢いを借りてメガラを迎え撃ち一気に攻め滅ぼすべしとの結論に達した。早速、パテリアは連合国に書簡を送り、討伐軍を立ち上げたのだった。当然ながら、そのよりどころとしたのは、芙蓉姫の魔法であった。
こうした事態に姫は心浮かない様子で、ぼんやりと遠くの空を見上げるのが日課になっていた。彼女としては、戦いに巻き込まれるてゆく自分を忘れたかったのである。
「戦いの女神もどうやらお暇の様ですね」
声に驚き姫が振り返ると、占い師のミケーネが立っていた。いつものように変わった出で立ちで、今回は赤と黒の大人びたものであった。
「まだこの国にいたのですね。あの後、貴女は行方知れずで、どうしたものかと思っていました」
「私には、あそこも、ここも御座いません。遠くあっても近いのです」
「でも、私は逢うことが出来ません」
姫は訴えるような仕草をみせた。
「姫様の望みは分かっていますよ。魔法の技を解いてもらいたいのでしょう?」
「お分かりですか。私には重荷です。もう多くの人の亡くなる様は見たくはないのです」
「駄目ですよ。その眼でちゃんと見続けるのです」
ミケーネの眼が睨み付けるように大きく開くと
「なんということでしょう」
と芙蓉姫は恐れおののき、手で顔を覆った。
「私との約束を忘れた訳ではないでしょう。貴女は戦いに突き進むのです。これから多くの敵があなたの前に現れては消えてゆくことになります。そして最期の戦いが終わると、解放されることになります」
「本当ですか?」
「もちろんです。その時、貴女はワルコでなくなる」
「それは何時のことなのです?」
「空にこれから大きな星が輝き始めます。これらの星が七つ揃った時、全てが終わります」「星が七つ・・・」
「その前にメガラの王は本気でパテリアを滅ぼそうと軍勢を揃えています。姫あなたは、運命から逃れず、突き進むのです」
ミケーネはこう言うと、妖しい笑みを浮かべ空間に消えて行った。
芙蓉姫は一人残され、力無く膝を突き、崩れ落ちたのだった。
連合軍のメガラ討伐軍は総数四千で、装備も充実していた。今回はメガラを最短距離で叩くということから、パテリアとテゲア街道を通じメガラ領内に攻め込む作戦であった。回復したシノプスとピュロスの街道を敵が別部隊が北上する心配があったので、此方には兵二千を守備させた。
偵察隊の報告によれば、メガラは王城には兵五千が集められ、それは精鋭部隊であり、王の本気度を示していた。通常戦で両軍が正面からぶつかれば、連合軍の敗退は目に見えていた。極限までに訓練された軍団と寄せ集めでは雲泥の差があったのである。しかし、メガラ王が連合軍を十分警戒して、作戦をとってくるのは推し量れた。
カドモスはイアソンに敵の動きについて相談すると、彼は机を軽く指で叩くと「私なら姫を暗殺させます」と答えたのだった。「陣内深く侵入し暗殺できるものか?」とカドモスが問うと、「内通者は何処でもいるものです」と彼は平気で答えた。
「メガラ王は姫を暗殺できないとなると、魔法の攻撃を避けるため、分散させ各個撃破を試みてくるでしょう。姫の魔法を効果的に使うには、メガラ軍を一塊りの大集団にしなくてはならない。我軍を一気に踏む潰させるように、仕向けさせなくてはならないのです」
「相手にいい気にさせるということか」
すると新加入のタキスが、自分にまかせろと親指で指した。
メガラ領内に侵攻して連合軍は、長蛇になり進軍したが、姫の一団が林の中を通過しよとすると、木々のなかから突如、兵士が襲いかかり敵襲に大混乱になった。守備を受け持っていたのは、配下のタキスであった。彼は直ぐさま兵に命じ、御車を囲み敵の侵入を防ぐとともに、自らは馬を巧みに操り、次々に敵を討ち取っていった。
敵の武将の首、三つを上げはしたものの、振り返ると御車の兵は大半が倒れ、御車めがけ多くの矢が放されいるのが見えた。彼が慌てて戻ると、御車の中の姫は沢山の矢を受けていた。タキスは怒り、メガラの兵に馬で飛び込むと、縦横無尽に走り、メガラ兵を切り裂いた。しかし彼の奮戦虚しく、目的を達したメガラ兵は戦場を離脱し、林へと消えたのだった。
翌日、連合軍には喪の印のついた旗が揚げられた。兵の顔は暗く悲しんでいた。この連合軍の様子に芙蓉姫を討ち取った事と確信したメガラ王は、分散していた軍を結集させ、王城の手前の平原で連合軍を殲滅せんと決意したのであった。
連合軍四千対メガラ軍五千が平野で対峙し、相手の出方を窺ていた。パテリアの青い旗、エーリスの柿色の旗がはためき、それらに従うように、テゲアの紺の旗が背後で立ったいた。風上にはメガラの黒に赤、金の怪鳥をあしらった軍旗がそそり立ち、今にも動き出しそうであった。しばらく両軍がにらみあっていると、メガラ軍に動きがあって、前面に出てきたのは、戦車であった。
これには、連合軍も色めきだった、連合軍の兵士には初めてみるものだったのである。彼等は山間部の戦いがほとんどで、歩兵を主体とし、山から山へと駆け回るのがほとんどであったのだ。そこに平原を疾走する戦車が登場となると、まったく未知の存在であった。 メガラの角笛が鳴り響くと、30台の戦車は土煙を巻き上げ、草原を疾走した。連合軍側は盾で固めた密集陣形で迎え撃ち、戦車に対し両翼から弓で応戦をしようとした。
しかし陣が整う前に、戦車は陣営に突入し、連合軍を引き裂いてしまったのである。たちまち連合軍は混乱し、収拾がつかない状態になってしまった。
この連合軍の崩壊に、留めを刺さんと、メガラの王は全軍をもって突入を命令したのだった。メガラの大軍が津波のように押し寄せ、連合軍は生け贄となりそうであった。
しかし、この時、轟音が轟き、火炎が立ち上がると、それは怒り狂った様に無数の業火となってメガラを襲ったのだった。メガラ王はこの時、自分が策にはめられたと気が付いたが既に遅かった。彼の体は業火の中にちりぢりになって吹き飛んでしまったのであった。メガラ軍の半数以上が、消し飛び、平原は業火で覆われ、生き残ったメガラ兵はまとわりつく炎を消し去ろうと必死だった。
メガラの戦車に窮地に陥っていた連合軍は息を吹き返すと、反撃をこころみ残存部隊を強襲した。かくして魔法の力によって、連合軍はメガラ主力を敗り、南方からの侵略の脅威から解放されたのであった。
タキスの守っていた御車には、人形の姫が乗せられており、姫の在処の情報を流すことによりメガラの暗殺部隊を呼び込んだのであった。このイアソンの計略により、メガラ王は姫を暗殺できたものと信じ、魔法を考慮に入れずに通常戦を挑んでいたというわけである。しかしこの計略には、大きな問題があった。それは姫が魔法を使うことをためらっていることであった。その為、その決断の遅さから、戦車部隊の突入を許し、連合軍は窮地に陥ったのであった。
連合軍は魔法という、強力な武器を手に入れたのであったが、使えるかどうか姫次第という、非常に不安定なものに今後も悩まされることとなる。
メガラ主力が崩壊すると、連合軍は早速、王城を取り囲むと、攻城戦と移り、二ヶ月の後、姫が魔法で正門をうち砕くと、カドモス、タキスが突入し陥落させたのだった。こうしてパテリアを中心とした、連合はその版図をメガラの領地まで拡大させたのだった。山間の小さな国が豊かな盆地を手に入れたことにより、その勢力は増し、やがて中原と向かって行くことになるのであった。
メガラの王城で宴会が行われ、大勝利に湧いていた。タキスはラエバスとデクスタに酒をどんどん飲ませ大はしゃぎで、二人のひょうきんな芸にイアソンは笑い転げていた。しかしその中で、芙蓉姫は一人愁いのある顔をしていた。
「姫、お顔が芳しくありませんぞ」
カドモスは心配して、そっと姫の側に寄り添った。
「私たちは本当にこれでよかったのでしょうか?」
「魔法で、多くの者を殺めたことでしょうか」
「はい、私がその力を授からなかったら・・・」
「その時は、我々は消えていました」
「そうですね」
姫は反論できなかった。
「あのミケーネの言うように、私は戦いに巻き込まれていくのでしょう」
「かもしれませが、姫には我々がついています。ご安心を」
「空に大きな星が登り、戦いが進む事に星が輝くのだそうです」
「それは占い師が言ったことですか?」
「はい、私は逃れられない運命なのかもしれません」
姫は力無く、俯きました。
「星だなんて、馬鹿馬鹿しい。迷い事に惑わされはいけません。この空にそんな星はありませんよ」
カドモスは笑って、手を広げ空を見上げると、天頂に燦然と輝く星を見出したのだった。その星はどの星よりも明るく、星々の中で神々しく輝いていた。
これには、カドモスも声を失い、固まってしまったのだった。
<北部山岳諸国の地図> 北A
__________________________ 南V
高山高山高山高山高山高山高山高山高山高山高山高山高山高山高山山山山
高山山山山谷山高山高山山山谷山山高山高山山山山山山谷山高山高山山山
山山^^^^^山山山^^^^^^^山高山^^^^^^山山山高山山山
山^^[エーリス]^道^[ パテリア]^ 道谷^ [ ピュロス ]^谷山山山
山山^道^^^^^山山^^^^^^^山山^^道^^^^山山山山山山
山山山細道山山谷山山山山高山高山山谷山山山山細道山山山山山山高山山
山山山道山山高山高山高山高山高山高山高山高山道山山山山山 高山山山山
山^^道^^^^^^^山山山山山^^^^^^道^^^^^ 山山山山山
山^^[テゲア]^^道道^丘道丘^道道^^ [ シプノス]^^^^山山山
山山山道丘丘丘丘山山山山山山山山山山山山丘丘道丘丘山山山山山山山山
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高山山道丘丘^^^^^丘丘丘丘丘^^^^^^道^^^^丘丘丘丘丘丘
門大道大道^^道^^道^^[ メガラ ]^^ 道^^道^^道^^道道道道
山山^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^山山山山山
山山山山^^^^^丘丘^^^^丘丘^丘丘丘^^^^山山山山山山山山
山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山
<=至カルキス国−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 至ヨアニナ国=>