ミュステーリオン   作:のんき三郎

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<登場人物リスト>

カドモス  (六合星の)中原からの流れ者
ダーナ   (勾陳星の)元オレア国天文官 魔法使い
イアソン  (貴人星の)知将、元行商人
ルキアノス (玄武星の)元オレアの武官、槍の名手
ネクタリオス(青龍星の)用心棒家業、弓の名手
タキス   (天空星の)双鞭の使い手 魔法使い
レアンドロス(白虎星の)元ハニア国海軍士官
ミルトス  (太常星の)僧侶 治療術使い
デルフィネ (太陰星の)パトライ国第五王女 女将
ミュージカ (天后星の)発明少女
芙蓉姫   パテリア第三王女

デクスター カドモスの弟分
ラエバス  カドモスの弟分

黄初    パテリア王
御形    パテリア王妃
幸武    パテリア第一王子
黄武    パテリア第二王子、後パテリア王、皇帝
紅花    パテリア第四王女

ドルアス  パテリア国宰相
ラピス   ミュージカの祖父、発明博士
バシル   ラピスの弟子

ミケーネ  占い師、(アルマロスのミケーネ)
ゼノビオス ミケーネと敵対する謎の人物

シャヘル   冥界の王 十人の妖魔の主

ウーマー   妖魔一位(抽腸獄 月光のウーマー) 
コスタ    妖魔二位(穿肋獄 ミトラのコスタ) 死者を蘇らせる
ハスタ    妖魔三位(針山獄 一角獣のハスタ) ホーネスの仇
アエヌス   妖魔四位(焼手足 セルヌノスのアエヌス)戦いに疑いを持つ者 
ラング    妖魔五位(抜舌獄 漁色のラング)  大蛇に乗る
ベネノ    妖魔六位(毒蛇獄 美粧蓮歩のベネノ)女性、二匹の獣を連れる
カーサー   妖魔七位(鋸解獄 紅蓮刀のカーサー)巨象に乗る
カスピス   妖魔八位(尖刀獄 ヒュブリスのカスピス)
グラッシス  妖魔九位(寒氷獄 黒海馬のグラッシス)怪鳥に乗る
ベナ     妖魔十位(血汚獄 サキュバスのベナ)意馬心猿の術使い

<北部諸国>
パテリア  北の山岳地帯ある小国
エーリス  パテリアの西にある同盟国、第二王女の嫁ぎ先
ピュロス  パテリアの東にある同盟国、第一王女の嫁ぎ先
テゲア   パテリアの南にある中立国

パトライ  エヴェロス河西岸の国(後のカプット)

<中原諸国>
テルプーサ 中原北部の国
コザニ   テルプーサの東の隣国
パライ   テルプーさの南の隣国
パサカイ  コザニの南西の隣国
オレア   中原の大国。後の王都フローレオ近郊
バールバス オレアと覇権を争っている国。ユンクタス河から移動して来た。
シキュオーン オレアの南の隣国
オリュントス バールバすの南の隣国
ハニア   シキュオーンの南の隣国、海に面する



第九劇 帝国への道

 中原北の雄テルプーサがパテリア国とコザニ国によって滅ぼされ、領地は両者によって二分されたことは中原の諸国を驚かせた。テルプーサ国とコザニ国は永らく争っており両国はヘプロス川を挟んでにらみ合いの状態が続いていた。それが、近年魔法という新戦力にて急速に領土を拡大したパテリアが争いに加わることによって、その均衡は崩れたのだった。特に驚いたのはコザニに面するパカサイ国であった。此の国はテルプーサとコザニに国境を接し、両国がきっ抗していたので、中立の立ち位置にあった。ところがテルプーサが滅んだことにより、コザニからの侵略を受ける可能性が高まり、対策をせまられたのであった。

 中原の中央部と北部の境には、ヒパボラ河の支流である東から西に流れるガリオス川があり、さらにこの川に北東から流れ込むヘプロス川があった。このヘプロス川を挟んで東にコザニ国、西にテルプーサ。さらに南に川を挟んで東にパカサイ国、西にパライ国があり、両国の南面をガリオス川が西に流れていた。中原北部の主要国はこれらの国であり、その周辺には併合を免れ、属国となった小国が存在した。

さらに南には中原最大の大国オレア国があり、東の強敵パールバスと争っていた。パライ国はテルプーサの南に有り、ヒパボラ河に面してテルプーサ同様に栄えていたが、ガリオス川を挟んでオレアと面していたので、テルプーサと同盟関係にあり、オレア国からの圧力に抵抗をしていた。しかし、パテリアによってテルプーサが滅ぼされると単身国境を守るということになり、パテリアの動向が最大の問題となった。幸い、オレアはバールバスとのにらみ合いで、今のところ北部に食指を伸ばすことはなかったので、パライはパテリアの兵站が伸びすぎていると読み、旧テルプーサ領を手に入れようとした。

 

 中原の北の大国テルプーサを滅ぼし、世界の覇者なる幻想を抱いたパテリアの王、黄武を一気に青ざめる出来事が起きた。パテリア軍の敗退であった。

 パテリアはテルプーサの王都に駐屯し、支配強化を図っていたが、そこにパライの大軍勢が攻め込んで来たのだった。数の上では明らかに劣勢であったが、このたびは魔法使い等が多数配備され、その力によって最前線を死守する手はずであった。

 パテリア軍は戦場を王都の郊外、周囲が見渡せる岡にパライ軍を待ち受け、魔法の力で一気に退けようとしたのだった。北上してきたパライ軍はなるほど大軍であった。中原の人口の多さがそのまま現れ、旗が無数に立ち、一気に飲み込まれそうだった。中原の戦いとはこの様なものかとパテリア軍を緊張させた。

 パライ軍が前衛を押し出すと、パテリアも弓兵を進め、露払いの戦端が開かれた。両者挨拶程度の弓の雨を降らせると、パライ軍がいよいよ左翼から攻撃をしかけてきたのだった。これに対しパテリア軍は魔法使い混合の兵で迎え撃った。

 兵数でパテリア軍は劣勢だったが、魔法戦力でその差分を埋め合わせ、両者はきっ抗した戦いを繰り広げた。そうしてパライ軍は魔法使いを次々に援軍に向かわせ、同時にパテリア軍も魔法使いを投入することとなったのだった。

 パライ軍はさらに中軍を押し上げ、パテリアは中軍を進めた。次第に、パテリアは魔法使いが足りなくなり、中軍は押され始めたのだった。パライ軍がさらに右翼を攻める頃には、パテリアには全く魔法使いが居なくなっていたのだった。

 通常兵のみで戦った右翼が、兵の数で圧倒されるのは道理で、ここを発端として、パテリア軍は崩れていったのだった。右翼を破られたと悟った指揮官は直ちに、魔法使いをL字に配置し、右翼からの攻撃をかわした。しかし、そのことにより前面の抵抗力が弱まり軍が押され始めたのだった。ここで指揮官は、このままでは囲い込まれて全滅してしまうと判断し、応戦しながら、下がり、王城まで撤退を決断したのだった。パテリア軍は分解ぜず見事撤退を果たしたが、多くの将兵を失うこととなった。そのまま、戦いは籠城戦となり、パテリア軍は旧テルプーサの王都で必死に足場を死守をしていた。

 同時に陸だけでなく、水上でも戦いが繰り広げられていた。ヒパボラ河を北上してパライ軍は侵攻していた。目的はパテリア本国との兵站を断ち切ることだった。これにはレアンドロス率いる水軍は見事な対応をしていた。情報を得ると直ちに、河を下り、迎え撃ったのだった。艦船の数はやはり圧倒的にパライ軍が勝っていた。これは先のテルプーサとの戦いで実感させられたことで、国力の違いである。しかし前回と違っていたことは魔法戦力の多さであった。初戦の水上戦で敵魔法使いの数の多さを察したレアンドロスは、うかつに突っ込まず、まず魔法使いの殲滅を優先させた。偵察攻撃により、だいたいの魔法使い達の所在を突き止めると、ミュージカの残した高速魔法船に白兵部隊を多数乗り込ませると、一気に襲ったのだった。大きな籠に一杯積まれた卵を一気に砕くかのように、暗殺部隊は瞬く間に要所要所の魔法使いを刃に掛けると、離脱した。

 こうして目障りな魔法使いを葬り去ると、逆に魔法戦力を投入し、パライ水軍を完膚なきまでに打ちのめしたのだった。これによりパテリア本国と旧テルプーサ領との兵站は守られたのだったが、陸軍の戦況は厳しい状況だった。

 魔法戦力を前面にこれまで勝ち続けたパテリアであったが、国力の違いか、魔法使いの数では中原の国々のほうが、遙かに勝っていたのだった。これは勾陳星のダーナが忠告していたことであったが、その現実を見せつけられると、その対応に苦慮した。

 この戦況にパテリア王黄武の覇者としての自負も一気に吹き飛び、彼は狼狽え、諸将を叱咤するばかりだった。終いには気分が悪いと姿をくらましたのだった。

 代わって芙蓉姫が諸将に良き対策を求めると、イアソンは魔法戦力で劣勢にある状態では籠城戦をしている自国軍は厳しく、まずこれを取り囲んでいる敵兵を除き、外交交渉で引き分けに持ち込む策を提案した。するとレアンドロスが先の戦いでパテリアは水上圏を支配したので、河側からパライ国の王都に脅威を与え、敵軍の包囲を解かせるという策を提案した。此の策にカドモスも賛同し、諸将も同意見だったので、芙蓉姫は王に代わり命を出した。

 

 その日、パライ国は快晴だった。農夫は朝の涼しい内に仕事を終え、暑い日中に木陰で昼寝をしていた。農夫がうたた寝をして次に眼を覚ますと、畑の向こうに、黒雲がわき上がり、不気味な風が空をよぎると、雷鳴とともに一条の閃光がひらめいた。農夫は奇妙な天候に小首を傾げ、凝視した。やがて黒雲は嘘のように消え去り、辺り一面青空で埋め尽くされ、いつもの昼が戻って来た。奇妙な天気も有るものだと、農夫は再び眠りにつこうとしたところ、真後ろに巨象に乗った男がいたのであった。

 農夫は飛び上がり、冷たい視線を送る男を、恐る恐る見上げた。

「お前、ワルコがどこに居るか知らぬか」

 男は農夫に問うた。

「さあ。どんな方なんです?」

「魔法の女王と言っていいだろう」

「魔法。今話題のやつですね。この国ではその話でもちきりです。ただおいらには分からないです。宮殿に行けば王様が学者さんを多く雇っていますから、そちらだったら満足のいく話を聞けるはずです」

「そうか。それで宮殿は何処に有る?」

「このずっと西です。大きな都がありますから、その中の一番大きな建物があります。それが王様の住まいです」

「わかった、礼として、お前の命は助けてやろう」

 そう言うと男は巨象を西に向かわせた。その背後を見つめながら、農夫は恐怖から解放されたように尻餅をついた。

「なんだあの武人。おっかなかったが、本当に王様に会うつもりなのかね。門前払いがいいとこだろうな」

 農夫は男の姿が消えると、安心したのか再び昼寝にはいった。

 

 妖魔第七位、鋸解獄、紅蓮刀のカーサーは地上にあった。冥界にいた彼は、主のシャヘルの命を受け、地上に偵察にやってきたのであった。ワルコなる者が地上におり、この者と戦いに成るが故の偵察ということだった。奇妙な事に主は、ワルコには手を出さぬようにカーサーに厳命して地上に送り出したのだった。冥界から幽門を経て地上に降り立ってみると、そこは日差しの強い世界だった。うっとうしいほど太陽が輝き、必要以上に暑かったのだ。冥界の涼しさ、と淡い光に慣れていたカーサーにとってはそれは不快そのものだった。シャヘル様はこんな地上を何故欲されるのか?と愚痴に似た思いを起こしながら象を西に向かわせたのだった。

 暫く行くと、彼は奇妙な事に気がついた、地上界の太陽は動くのだった。時が経つにつれ、その位置が変わるのだ。これにはカーサーも苦笑をせざるをえなかった。なんと奇妙な世界であろうか。太陽が様相をどんどん変化させている。太陽は普遍で有るべきなのに。次に気がついたのは、昼に燦然と輝く、三つの星々。此の星を見上げたとき、カーサーは思わず身震いした。天井に輝く彼の星はなんなのだ。圧倒時力をもって、君臨しているかのような。妖魔である彼が初めて、此の世界で感じた恐怖感だった。

 巨象が都に近づくと、物珍しそうに人々が、遠巻きに眺めていた。この地域にはこの様な大型の動物はおらず、山のような大きさの動物に驚きの眼差しを向けたのだった。カーサーは一気に王宮まで移動できたものの、地上界の様子を観察しながらゆっくりと都まで向かったのだった。

 都の城門では、番兵が厳しく、取り締まっており、象に乗ったカーサーが近づくと怪訝な顔をして、彼を制したのだった。丁度パライ国はパテリア国との戦争の真っ最中であり衛兵もいつも以上に警戒していた。怪しい者としてカーサーは取り囲まれれたものの、彼が眼を向けると、番兵は自分たちが何をしているのか忘れたように、彼を素通りさせたのだった。ここまで彼は穏便な態度であったが、都の中にはいると、子供が物珍しいそうに近づくと、象を木の枝で突き始めたのだった。これにはカーサーも不愉快な思いをして、丁度鳥に餌を与えていたら、激しく突かれたような癇に障る出来事だった。カーサーが睨むと、子供等の握った枝が手と一体化し、次第に子供の体の中を突き抜け地面に根をおろし、枝を広げたのだった。大きく育った木の側面には、木と一体化した子供の顔があり、それは恐怖で顔がゆがみ、大きく泣き叫んだのだった。

 これまで初めて見る人間に寛大であったカーサーも、恐れを知らない子供に、怒りを覚え、人間共に容赦なく接することにしたのだった。暫く進むと、王宮の門にいたり、彼は中に侵入しようとすると、衛兵がそれを押しとどめようとした。

 カーサーは行く手を阻まれたので、排除することにした。巨象を取り囲むように集まった衛兵に対し、カーサーは術を放った。すると衛兵は石畳に崩れ去ったのだった。

衛兵の骨は完全に取り除かれ、肉の塊が武具とともに一気に石畳に山となった。

邪魔者いなくなり、カーサーは悠々と宮殿内に進んでいった。しかし、何処から湧いたのか次々に兵士が、彼を襲いかかり、多勢に無勢の有様だったがカーサーは平気だった。どれだけ多くの兵が排除しようとしたことか、彼の過ぎ去った後ろには、骨を抜かれた無残な肉の塊となった兵士が無数に転がったのだった。

 こうして、諸将が守る王の間まで、彼は到着したのだった。王の間ではカーサーを弓を持った兵が待ち構え、彼が中に入るやいなや、一斉に矢を放ったのだった。ハリネズミの様になって、果てるはずが、なんと矢は空中で制止し、それらは一瞬で反転し、放った弓兵の心臓めがけて突き刺さったのだった。

 この事態に王を守る諸将は剣を抜き、カーサーに挑みかかろうとしたが、一歩も動けなかった。

「あんたが王とやらか。お前に尋ねる。ワルコは何処だ?」

 睨み付けるように言うと、王は冷や汗をかいた。

「その様な者は知らぬ。仮に知っていても教えるものか」

 生唾を飲み、王は必死に抵抗した。

 カーサーが睨み付けると、王は一気に柱まで吹き飛ばされ、背中を打って顔を苦痛で歪めた。

「毒蛇獄のベネノのように、直接こいつの心に入り込み読み取る事もできないからなあ」

 少し思案したカーサーは何かを思いつき、手をかざした。

 一瞬にして現れたのは王妃だった。

 王妃は自分になにが起こったのか分からず、周囲を見渡した、彼女に眼に一番最初にに飛び込んだのは、眼を丸くして驚いた王の姿だった。そして背後には見知らぬ男の姿があった。この王妃は三美女の一人と称され、透き通るような肌と、美貌を持ち合わせていた。

 王妃は男に驚き、逃げだそうとしたが、なにかに縛られたように動けなかった。

「面白いものを見せてやりろう。この女の骨を一本一本はぎ取ってやる」

 カーサはそう言うと、王妃の腕の骨を切りもしないのに、手であっさり抜き取り、捨てたのだった。骨は鈍い音をたてて、床に転がったのだった。

「や、やめてくれ」

 王は王妃の腕がだらしなくゴムのように垂れ下がったのを見て、声をあげた。

「しゃべる気になったか?」

「知らないんだ」

 カーサーは無言で王妃の胸に手を突っ込むと、四本の肋骨を抜き取ったのだった。

 王妃はあまりの恐怖に気を失った。

「本当だ信じてくれ」

 王は哀願した。

 カーサーは構わず王妃の顎の骨を顔から抜き出し、床に転がした。包王妃の顔下半分が穴を開いたままだらしなく垂れ下がった。

「そもそもワルコとはなんなんだ?」

 王は必死だった。

 カーサーは王妃の腰の骨を抜き取り、ハート型の骨の、丸く開いた穴を見つめた。

「知らないのは本当なのか?」

「ああそうだ、だがヒントをくれれば分かるかも知れない」

 腰の骨を抜かれ床に倒れた王妃を見つめ、王は必死で応えた。

「魔法の女王だ。心当たりがあるか?」

 王の顔には、焦りの表情があった。

 カーサーは王妃の大腿骨を放り投げた。

「待ってくれ、そうだ、パテリアの芙蓉姫に違いない。近年魔法で世界支配を始めている」

 カーサーは動きを止め、決心したようだった。

「なるほど、礼だ、受け取れ」

 そう言って、カーサーが何かを放り投げた、王は思わず受け取ったが、よく見るとそれは后の髑髏だった。王は髪の毛が逆立ち、后を見つめると、体の首から上が平たく潰れ、鼻の穴と口の穴が残り、先端は長い髪が着いている姿があった。王は慌てて駆け寄り后の胴を抱え上げると、かすかに肺の動きはあったが、顔が潰れてしまっており、呼吸困難に陥り、死んでしまった。

「なんてことするんだ。后の骨を戻してくれ」

 王は悲しみと怒りに震え、カーサーを罵ると、妖魔は后の髑髏を拾い、王の頭蓋骨を王妃の頭にはめ込み、王の頭には王妃の髑髏を入れ、薄笑いをしたのだった。

呆然とする王を残して、カーサーはその場を去ったのだった。

 

 カーサーは象に跨がり芙蓉姫なる人物をパテリアに捜し求めようとしたところ、王宮の出口近くで、行く手を阻む一団と出くわしたのだった。

「貴様はパテリアの手のものか!」

 一団は一斉に魔法攻撃を仕掛けてしたのだった。カーサーは人間が魔法を使ったので一瞬驚いたが、その技に苦笑した。この者達は、魔法使い達の中でも最優秀な者達ばかり集められて集団であり、戦いに参加せず、王都で待機していた者たちであった。魔法使いの侵入の連絡をうけ、駆けつけたのだった。

 魔法の一斉攻撃は確実に当たったはずであったが、カーサーは涼しい顔だった。これには魔法使い等は驚き、幾度もカーサーに攻撃をしかけたが効果なしだった。

「驚いた、冥界の住人でもないのに地上の人間が何故魔法が使える」

 戦いの真っ最中なのに、お構いなしにカーサーは考えた。

「そうか、ワルコの奴め、味方を増やそうと、人間に魔法の力を与えたか。だがお粗末だな。冥界からやって来た俺には、児戯に等しい。とんだ贋作だ」

 彼の回りでは必死で魔法使い等が攻撃をしているようだった。

「人間の魔法使いか、目障りだな。こいつらに本当の魔法の力見せてやるか」

 そう、カーサーは天井に腕をかざすと、叫んだ

「ラ・トッレ」

 空の光が遮られ、太陽の光が届かず薄暗く成ったかと思うと、重い空気が冷風として一気に都を包むように落ちてきたのだった。その風に吹かれて、魔法使い等は空を身上がると、みるみるうちに彼らは老い、木乃伊のようにひからび、やがて塵と成って消え去ったのだった。これは魔法使いだけでなかった。都の全ての人が次々に風に吹かれ、体が塵と成り消えていったのだった。そして建物の木造部分が朽ち始め、崩れ始めると、また塵となり、街の木々も枯れ、枝が腐りもげ落ち、土と化したのだった。やがて都の装飾の壁もどんどん崩れ去り、建物は崩れ落ち、街全体が何千年も経ったかのような、砂で覆われた廃墟のようなものと化したのだった。これが先ほどまで大都として賑わいを見せた都であったとは信じられないほどであった。一つの都を死の都にしたカーサーは己の技に満足し、パテリアを、目指したのだった。

 

 旧テルプーサの都にパテリア軍を追いかけ攻城戦をしていたパライ軍は、水軍がパテリア水軍に敗退したとの情報を受けると、手薄になった王都を攻め込まれるのではないかと不安になり、三分の一の兵力を王都防衛に回すことにした。パテリア水軍が河を南下する様子を見せているとの情報を得、十分間に合うとの目算であったが、次にもたらせたのは王都陥落の報告であった。それによると、パテリアの魔法使いによって王都は死の町と化したということだった。パテリア水軍のあまりの電撃の早さに指揮官は驚愕し、フェイクにひっかかったのだと、自分に怒った。彼はは死の町という意味が分かりかね、王族や市民は郊外に逃れ、パテリア軍が都を占拠していると判断したのだった。かれは囲みを解くと、全軍をもって都に引き返しした。籠城戦に疲れ始めたパテリア軍は突然、パライ軍が包囲を解き退却したので、驚き怪しんだ。しかし、本当にパライ軍が退却したのだと分かると、泣いて喜んだ。暫くすると、カドモス等の援軍が到着し、軍は活気を取り戻した。

 

 笛を持った農村の子供にパテリア国の所在を尋ね、誤った情報を手に入れたカーサーはパサカイに向かっていたが、途中農夫に謝りを指摘され、引き返した。

元の場所まで戻った、カーサーは、彼の子供を見つけ、お仕置きとして、山羊の足と交換し、大泣きする子供をしりめに北に向かった。

 彼が象に乗って悠然と、揺られていると。三騎ほどの偵察の兵が馬で駆けよってきたのだった。

「貴様、何やつだ。その大きな獣はなんなのか?」

 兵士は横柄に言った。

「俺の可愛いペットさ。ところで芙蓉姫に会いたいのだがこの道でいいのか?」

「怪しい奴だ。そいつから降りろ!」

「うっとおしい奴らだ。お前達こそ降りろ」

「何を、われらがパライの兵であることが分からぬか。お前が降りることはあっても、我らが下馬することはない」

 兵士の自信たっぷりの発言でした。

「ほう、そうかい」

 すると五騎の兵士の下半身が馬の体と一体化し、男達を驚かせた。

「貴様、俺たちに何をした!地上に下ろせ」

「降りる降りないと、五月蠅い奴だな。臨み通り地面を歩かせてやる」

 カーサーは近くにいた三人の娘の頭と兵士の頭を取り替えた。

 娘達は馬のと一体化した男の頭となったので、思わず卒倒し、男達は地面に足をついたが少女の足であったので、慌てふためいた。

それを尻目にカーサーは悠然と北に向かったのだった。

 暫くすると、彼は大軍の軍勢の移動に出くわした。彼が兵士の大集団を見るのは初めてで、興味深く観察した。胸には鎧を着、頭にには兜、手には槍などの得物をもった兵士で頼りなげだった。カーサーの眼でみると、紙の鎧兜に柳の槍みたいなものだったのである。

この仮装行列はなんなのだというのが、彼の感想だった。しかし、注意深く観察していると、多くの魔法使いが混在しているのが分かった。人間達は魔法使いを沢山集め、喧嘩をしよとしているのだな、と思ったカーサーは人間の魔法戦力について知りたくなったのだった。彼は地面に降り立つと、土砂をひとつかみすると、大地に撒いた。

すると大地から続々人らしき者が湧いてきて、パライ軍と同数の兵士と化したのだった。

人と見誤るほどの土人形が関係したので、彼は満足し、南下してくるパライ軍を待ち構えた。

パライの司令官は王都への道を急いでいたが、突如行くてを阻まれ、疑った。パテリア軍が都から攻めてきたとは考えられなかったからである。遭遇戦に備えて、長蛇の陣かから鶴翼陣と変化させた。

「彼の軍勢は何処の軍勢だ。パサカイか?」

「分かりません。ですが我々と戦う気があるのは確かのようです」

「だが、念のため使者を送れ」

 直ちに使者が向かさせられたが、そのものが帰還すると、なんと手と足が入れ替わっていたのであった。これで戦闘の意志がありと判断した指揮官はゆっくりと軍を前進させた。まずは牽制の為、前衛の軽い攻撃を試み、相手の出方を探ると、敵は魔法を使わず、通常戦を試みてきた。魔法使いの数が少ないのではと読んだ指揮官は、両側より戦車を出すと、敵の側面に突っ込ませた。陣形が崩れたので、さらに混乱に陥れようと、魔法使い等を投入し、混乱の拡大を狙った。作戦は成功し、本軍を突入させると、相手の軍はちりぢりばらばらとなったのである。勝利を確信した指揮官は、異様な光景を目の当たりにしたのだった。倒したはずの敵兵の死体がなかったのである。むしろ地面に転がっているのは味方の兵ばかりだった。それもそのはず、斬り殺されたり、刺し殺された敵の兵は砂のごとくになって、散っていたからであった。驚き怪しむ指揮官の眼に飛び込んできたのは、象の上で拍手するカーサーの姿であった。

「面白いものを見せてくれた。これが力で弱い人間の戦闘方法というわけだな。数で勝負ということだが、いかんせん戦闘能力が猫の爪以下ではな。魔法を使うので期待したが残念だった」

 カーサーが魔法を解くと、砂から起こった兵士は息に消え失せ、パライの兵士は敵兵が消え去ったので、困惑した。

するとなにやら空が薄ぼんやりとなり、重い空気が天から落ちてきたのだった。カーサーの魔法ラ・トッレだった。

厚い空気の風を受け兵士達老いひからび塵に成って、次々に散っていった。何万の兵が此地を埋め尽くしていたはずなのに、その跡は人の姿はなくなり、やがて衣服がぼろぼろになり姿を消すと、武具のみがのり、やがてそれも地面に同化してしまった。

 こうしてパライの残った軍勢は散り、妖魔たった一人によって中原の大国が一つ滅んだのである。

 北に向かったカーサーは再び、農夫を呼び止めた。

「パテリア国の芙蓉姫は何処だ?」

「ここは今はパテリアの領土ですが。王家のものがどこに居るか。あっしには分かりません。この先にテルプーサ時代に王都とした町がありますから、そこで偉い方に尋ねなさってはいかがです」

 道理であると判断したカーサーは、その都に向かうことにした。

 

 旧テルプーサの王都にカドモス等が到着してみると、パライ軍は退却した後であった。確かに水軍が敵の都を襲うまねをする手はずになっていたが、ここまで上手くいくなどと信じ切れなかったのだった。これは何かの策略かと怪しんだが、パライ軍は本当に退却をしたのであった。なにか釈然としない思いを抱きながらもカドモスは、既にパライ国が妖魔カーサー一人によって滅亡したとも知らずに、対策を練っていた。

すると、都に珍客が現れたのだった。妖魔カーサーであった。

彼は容易に門兵を始末すると、どんどん王宮に向かっていった。そしてカドモス等が居る、作戦本部まで至ったのだった。

 不審な男が現れたのでカドモス等は警戒し、呼びかけた。

「お前は誰だ。ここはパテリア前線本部と知ってのことか?」

「芙蓉姫の在処を知りたい」

「教えられぬな。そもそもお主は誰なのだ」

「なるほど、それでは自己紹介といこう。俺は冥王シャヘルの臣下、鋸解獄、紅蓮刀のカーサーだ」

 この紹介を聞いて、カドモスはアルマロのゼノビオスの言葉を思い出した。

「お前は妖魔十将の一人だな!」

「ほう、我らのことを知る人間が居たとはなあ」

 カーサーは興味深くカドモスを見つめた。

「ならば、俺が何をしにやって来たか分かるだろう」

 カドモスが剣を抜くと、カーサーが敵とわかった将等が背後から切りつけた。

 剣は空を切り、カーサーはそこにはいなかった。

 ただ男達の腕は凍り付き、肉が花が咲いたかのように割れた。

「地獄の苦しみを地上で味わえるとは運のいいやつらだ。おまえたちがちょこまかしては話のじゃまだ動かなくさせて貰う」

 諸将は身動きがとれなく、もがいた。

 だが、カーサーに魔法を放つ人物が居た。タキスだった。

「貴様、何故動ける」

 驚いたようにカーサーはタキスを見つめた。それだけではなかった。カドモスもカーサーの術が通じていなかった。

「驚いたな、まさか人間に技が通じないとはな。しかしあり得ないことはない。そうワルコの加護を受けた、十将ならばな」

 ここでカーサーは二人の人物の正体を悟った。

「芙蓉姫の在処は他の人間に尋ねるとして。お前達は俺が葬り去るとしよう」

 カーサー行動を起こすより早く、タキスが魔法を放ったが、カーサーは無傷だった。逆にカーサーの魔法の一撃を受け、タキスの腕が花が咲いたように割れた。今度はカドモスが剣をもってカーサーに挑みかかり、幾度となく剣を当てたがカーサーは無傷だった。カドモスはカーサーの一撃を足に受け苦しんだ。

 妖魔と自分たちの力の差は歴然としており、どうやって挽回するか、カドモスは危機の中で考えた。彼がもたらした結論はゼノビオスがくれた羽根であった。彼は箱を開くと、中から一枚の羽根が飛び出し、彼を光が包んだ。妖魔も此の出来事に驚き、動きを止めたが、そこに現れたのは銀色に輝く防具に身を包み、銀のバトルアックスを手に持ったカドモスだった。床に倒れ苦しんでいたタキスは何が起きたのか分からなかったが、カドモスの自信に満ちた表情で戦えると読んだ。

「その武具、この世界のものではないな。冥界のものでもない。その神々しさ、何処で手に入れた」

 危険だと判断した、カーサーは警戒した。カドモスの動きは格段に上がり、妖魔を押し返した。これにはカーサーも驚き、圧倒的に優勢だった自分が人間ごときに、苦戦するなと考えられなかったのである。逆に流石ワルコの僕となると、一筋縄でいかないと納得した。そこで彼は戦いの場を外に求め、思う存分、技を繰り出すことにしたのだった。

両者は王宮の上でめまぐるしい動きで戦い合い、あちこちの建物を破壊しながら、互角の展開を見せた。ワルコ十将はいずれ仕留めなくてはならない敵であったので、カーサーは彼の必殺技、ラ・トッレにて葬り去ることにした。

 空が暗くなり重い空気が一点カドモスめがけて舞い降りたのだった。カーサーは勝利を確信した瞬間、それは打ち砕かれた。カドモスのバトルアックスが五芒星の閃光を放し、うなりをあげて飛んできたのだった。彼はそれが魔法秘技リンペラトーレで有ることを瞬間的に悟った。

 魔法の秘技が王宮でぶつかり合い、宮殿を吹き飛ばし両者の決着はついた。妖魔カーサーは敗れ、カドモスが勝ったのだった。しかしカドモスは大きく負傷し立ち上がることもできなかった。ゼノビオスの与えた羽根のよって、なんとか妖魔を撃退できたものの、妖魔との力の差を思い知らされる戦いでもあった。

 

 パライが突然滅亡しとことの情報は、カドモス等にももたらされた、彼はそれが妖魔によって滅ぼされたのだと分かったが、世間ではパテリアの魔法使いが全滅させたのだとの噂が広がっていた。丁度パライはパテリアとの交戦中でもあり、事実水軍は王都を目指しており、陸軍も最前線の城の救援に向かっていたので、自然な成り行きであった。

噂はその後もどんどん変化し、炎王こと芙蓉姫がパテリア軍が敗退した事に怒り、単身パライの都に殴り込みをかけ、滅ぼしたとなっていった。特に無差別に都全体を死の町と化したので、芙蓉姫は怒りと粛正を行う、恐怖の姫であるというイメージが固まり始めたのだった。

パテリア軍は、直ちにパライ領に侵入し、占拠すると、直ちに残党兵の掃討にとりかかった。

 パテリアがパライと交戦中の頃、パテリアがパライ軍に敗退した情報を得た、コザニ国は密かにパテリアを背後から襲い、自分の物に出来なかったテルプーサ国西側を取ろうと画策していた。しかしパライとパテリアの戦いが、早くも終結し、コザニはその機会を失ったのだった。そしてますます強大になるパテリアに危機感を覚えたのだった。

これはコザニだけでなかった、パサカイもパライが敗れる事件で、二股外交を止め、進んでパテリアの傘下に入ることを決断したのだった。使者がパテリアの王都ナティビタスに送られ、パサカイはパテリア陣内に入ったのだった。

 パテリアの諸国がその政策を模索する中、カドモスとタキスは負傷したとの連絡を受けた芙蓉姫は、治療の為ミルトスを使わし、イアソンとレアンドロスも様子を見に旧テルプーサ領の都に向かったのだった。

 

 ミルトスの治療術によりカドモスとタキスはみるみるうちに妖魔との戦いから受けた傷を完治させた。傷の癒えたカドモスはタキスとともに見舞いの礼を述べ今回の戦いについて皆に語った。

「するとそのカーサーて奴がパライ国を滅亡させたというのか?」

 イアソンはにわかに信じ切れずに、カドモスの言葉を疑った。

「信じられないだろうが、本当の事だ。たった一人の妖魔によって国が滅んだ」

「パライは大国だぞ。たかが一人の魔法使いによって国が滅びるなんてありえんだろう」

「だがそれが現実だ」

 きっぱりとカドモスは言い切った。

「カドモスの主張はその通りだと思う。俺は間近で奴と対戦したが、桁違いの能力をもっていた。まるで大人と幼児の戦いだった。奴はなんというか、ダーナを連想してもらえればその強さが実感してもらえるだろうが」

 タキスはカドモスを援護した。

「その様な魔法使いがいるとなると、厄介だな。これからの戦いは国の軍事力だけでは判断できないぞ。我々はさらに中原中央部まで領土を拡大した。しかしこれで中原最大の強国オレアと国境を面することになった。これにどう対処するか問題だ」

 イアソンが悩ましげに言うと、タキスは意見を述べた。

「確かに、最大の強国と直に接することになったが、それ以上の強敵が再び現れるようだ」

「なんだそれは?」

「カーサーの仲間が芙蓉姫を狙っているようなのだ」

「なんだと、どういうことだ。奴は何処の国の奴なのだ」

 イアソンが詰め寄ると、タキスはカドモスに尋ねるように、顔で指した。

「信じてもらえるかどうか分からないが、ゼノビオスという男から聞いた話だ」

 こうして、カドモスはゼノビオスと出会った時のことを、皆に伝えた。ただし姫が人でないことは、彼が受け入れられなかったので除いたのだった。

「冥界の王シャヘルが地上に攻め込んでくるだと」

 イアソンは両手を挙げ、話についてこれないようだった。彼には現実的な政治関係が全てだった。

「俺も最初はそう思ったが、妖魔との戦いを経験して信じるようになった。だからこうしてみんなに話す気になった」

「それしゃ国盗りぢゃなく。その妖魔との戦いの為に我々は集められたというのか」

「そうだ、全部で十人いるようだ」

「となると、俺、カドモス、タキス、レアンドロス、ミルトス、仮にダーナが仲間だったとして六名は分かったという訳か」

 イアソンが指を立て数えると、カドモスは一本増やした。

「そしてミュージカだ」

「相手は子供だぞ」

 イアソンは眉を細めた。

「その偏見で、俺は彼女を去らせてしまった」

「そうか。ならば今、全員で七名となると。残りは三名だな」

 おもむろにカドモスは箱を取り出した。

「みんな見てくれ、妖魔との戦いにおいて、俺はゼノビオスからこれを貰った。十枚の神聖な羽根だ」

 確かにカドモスが差しだ箱の中身は純白の羽根が綺麗にしまい込まれていた。

「これは?」

 レアンドロスが興味深く、のぞき込んだ。

「此の羽根は武具や得物に変化する、不思議なものだ。こいつの力で俺は妖魔を倒すことが出来た。皆に一枚ずつ受け取って貰いたい」

 カドモスは箱を差し出すと、思いよらぬことに、羽根の方から宙を漂い、その手に収まったのだった。

「どうやら、これが私の羽根のようだな」

 レアンドロスは掌の中の羽根を大事にしまい込んだ。

「なるほど、我々は人間世界だけでなく、冥界の住人とも戦わなくてはならないという訳だな」

 イアソンは再度確認した。

「そうだ」

 カドモスは答えた。

 

 パライ国滅亡はオレア国にも届いていた。炎王がパライ国に行き、魔法の力で都を死の町と化し、大軍団を屠ったとの評判だった。人々を驚いたのはその苛烈さだった。

ひとたび怒ると、止めようがなく、女子供関係なく粛正を敢行する冷酷さが際だって、オレア国の人々を心肝心寒からしめたのだった。こうして芙蓉姫に覇王のイメージが定着して行き、炎王というあだ名はますます知られることになったのだった。

 中原随一の大国オレアは永らく、東のバールバス国と国境を巡る戦いを繰り返してきたが、決着がつかず、取ったり取られたりを繰り返していた。ヒパボラ河中域にある此の国は人の定住が始まったのが早く、国そのものの成り立ちもずいぶん昔であった。ヒパボラ河流域に小国家が無数に発生する頃は、数十の国を一つにし、地域の盟主たる地位を築いてきた。以降、小国家が次第に統合されるころは、強大な国家となっており、中原の統一へ向かっていた。ところがユンクタス河に定住していた民族が西へ大移動を始め、ヒパボラ河域に定住し、以降異民族との戦いを長きにわたって繰り広げて来ていた。このオレアの王都が後のパテリア国の都フローレオとなるのであった。

 オレア国が随一の大国ながら隣接した北のパライ国そして南のシュキオーン国に手を出せなかったのは、東のバールバス国の存在があったからであった。しかし、北に興ったパテリア国がみるみる内にヒバボラ河の上流域を支配下に置き、ヒパボラ河の支流であるガリオス川を挟んで向かい合わせになると、そうはいかなかった。

 北のパテリア国が東のバールバス国より危険な臭いがしたのだった。オレア国はその手段としたのが炎王の暗殺だった。パライ国が彼女の魔法によって、死の国に変えられた事により、危険人物であると判断したからである。オレア国は大国で有り、魔法使いは多数存在しており、魔法使いを伴った戦いについては自信をもっていたが、軍団を一撃で壊滅させるほどの力を持った魔法使いは居なかったからである。

早速、オレア国は暗殺集団をナティビタスに向かわせたのだった。暗殺集団が狙ったのは、芙蓉姫が国の安泰を願って神殿に参拝する時であった。パテリア王家が祀る神の神殿は山の中腹にあり、潜入するには安く、守るには難いところだったのである。おりしも臣下のカドモス等は南方の最前線にあり、彼女を守るのは普通の兵士だった。この日も神殿には多くの兵士が警戒をし、不審者を逃すまいとしていたが、オレアの暗殺隊は精鋭ぞろいであった。彼らに気がつかれず、芙蓉姫の間近までせまったのだった。

 暗殺者は注意深く芙蓉姫の行動を観察しその隙をうかがった。彼女の炎王のイメージが定着し、恐ろしい魔法使いであることが知れ渡っていたからである。彼女は礼拝を終え、神殿の門を出ようとした瞬間、建物の陰から飛び出し一気に左右、上から襲う手はずだった。

そうとは知らず芙蓉姫はお役目を終え、緊張も解けて、心は宮殿にあった。彼女が門を出ると、いきなり護衛の兵、さらに巫女が、斬り殺されてしまったのだった。あまりにも突然の事に、芙蓉姫は声もでず。不審な陰が近づいてくるのを、眼を見開いて見るしかなかった。芙蓉姫が暗殺者の手にかかろうとした瞬間、彼女の前を陰が過ぎ去ったのだった。

その陰の去った方に咄嗟に顔を向けると、血しぶきが広がり、手足が飛んでいた。

 彼女の眼に飛び込んだのは、魔獣ヴュルペスだった。獣は人の頭を口にくわえ、次の暗殺者をその眼光に捉えていた。魔獣の早さは尋常でなく、暗殺者集団を狼狽えさせ、次々に食い殺した。芙蓉姫が間近で怪物が大暴れしているを、驚き見つめていると、今度は離れた所で人の悲鳴がした。これも魔獣ジェヴォーが暗殺者を襲っている声だった。離れた位置にいた暗殺者は、失敗に備えて芙蓉姫を弓矢で射貫く計画だったのである。こうして暗殺差集団は怪物によって食い殺されたしまったのだった。芙蓉姫はミケーネの予告通りに、命を狙う者が現れたことに、動揺した。自分は彼女の運命のまま流されていくのだろうか、そしてこの恐ろしい怪物達が自分の僕だなんて、とても受け入れ難いことだった。

そして、この暗殺劇は芙蓉姫にオレア国に対する恐怖を残したのだった。

 

 芙蓉姫暗殺は失敗に終わった。姫の身辺は怪物が守っており、それは非常に困難なことがオレア国は分かった。このことにより、オレアの臣下では姫の特異性について話し合われ、怪しき怪物を飼っていることなどが、芙蓉姫は人なのか?などと議論させたのだった。

この頃、北ではエヴェロス川を挟んでパテリア国はパトライ国とが接していたが、パテリアが中原の大国二国を滅ぼし、さらにパカサイ国を従えたので、その軍事力が分かったパトライは同盟を求めた来た。パテリア国王黄武は当初はパトライを滅ぼすことに夢中だったが、北の国に興味が失せ、中原制覇に目標も変わり捨て置いていた。宰相のドルアスはパテリアの主力が南方の中原にあり、この間、横脇腹をパトライに刺さされるのを恐れて、同盟を推し進め、これは成立した。

 コザニ国がパサカイ国に戦いを始め、パサカイを傘下にしていたパテリアは、パサカイを助けるべく、コザニに対する軍事行動を開始した。同盟を結んだばかりのパトライに参加を要請し、パテリア連合軍は旧テルプーサ領半分を支配していたコザニを此の地区から追い出すと、ヘプロス川を越えコザニし領内に侵入したのだった。これにパサカイは息を吹き返し、共同してコザニ領に攻め入り同国を滅ぼした。

 この事態にオレア国は強者というプライドを捨て、敵国だったバールバズに共同戦線を持ちかけ、オレア、バールバスそれにシュオーン国の大連合が成立したのだった。パテリア国はヒバボラ河の支流東西に流れるガリオス川を挟んで中原の二大強国の連合軍と相対することになったのだった。

 オレア連合軍は水上戦でパテリア水軍を破ると、そのまま旧パライ領のパテリア支配地に上陸した。中原の大国の力はテルプーサやパライ国以上で、その物量で圧倒していた。さらに有能な将も数多くおり、分厚い陣容だった。パテリア国には最強の武将マトセオスがおり、この将の前には、とうてい敵わなかった。さらにマトセオスにはルキアノスなる養子がおり、これがマトセオス以上だと噂されていた。ルキアノスは幼い頃マトセオスに才能を見込まれ養子としたくらいで、槍術に秀でていた。バールバス国との戦いにおいて、数々の戦功を残し、バールバス国に悪魔と恐れられていた。彼の槍術は人離れしており、穂先が空を切ったかと思うと、敵の体に風穴を開けてしまうのだった。さらにパテリアとの戦いにおいては、魔法使いの技を槍ではじいてしまい、魔法をものともしない、武将の存在にパテリア国は冷や汗をかくのだった。

 このオレア国相手にイアソンが取った戦略は、支配地からの、随時退却だった。無理な戦いをせず、相手に勝ちを譲り、徐々に支配地から退却するものだった。彼の目的は同盟を結んでいる両国の間に餌を投げ、再び争わせることだった。

 戦いが始まってみると、パテリア軍は弱く、どんどん逃げてゆく、オレア軍は拍子抜けしたところもあったが、どんどん勝ち進んできた。旧パライ領一帯を押さえた頃、戦後処理の事が頭をよぎった。パテリアは弱く、容易に中原から追い払う事が出来る。しかし、此の戦いでバールバスが領地を拡大して、力を付けては大変だ、奴らの力を削がなくてはならない。同様のことをバールバスも考えていた。両者は旧テルプーサ領の王都を相手より早く押さえておこうと争い初めた。パテリア軍が城を放棄し、北に逃れると、その地でオレア軍とバールバス軍の些細な乱闘が始まり、それは全面衝突となったのである。

元々がお互いを憎しみ合った者同士であり、火が点くのは簡単だった。脅威と思えたパテリアの化けの皮が剥がれると、本来の姿に戻ったのだった。両軍は旧テルプーサの王都の郊外で激しく激突した。中原の二強の正面からのぶつかり合いは激しく、両軍とも多くの将が命を落とした。この中に、マトセオスの名も存在した。彼の場合、敵によって倒されたというより、味方に暗殺されたといっていいだろう。彼の名声は高く、王を凌ぐほどであった。歯に衣を着せぬ発言で王に疑いを持たれ、排除の対象となったのであった。パテリア国からの危機がなくなったので、此の遠征において、戦いのどさくさに紛れて執行されたのだった。彼の養子も同様に狙われたのだが、彼は異変に気がつき、盛られた毒を捨て兵士をなぎ倒すと、逃れた。

 両軍は互いに兵を削り合い、疲弊した。平原の一角に両軍が密集して、血の戦場となっていた。戦いはオレア側に軍配が上がりそうになった時、現れたのが、逃れたはずのパテリア軍だった。パテリア軍はこのとき無傷の状態だったが、オレアとバールバス両軍を相手にしては、通常戦ではひとたまりもなかった。

 パテリア軍は攻撃を仕掛けてこなかった。彼らを相手にしたのは一人の女性で、芙蓉姫だった。彼女が剣を一振りすると、巨大な火球が現れ、それはオレア、バールバズの戦場を包み込むように一気に落ちたのだった。大地に炎の火柱が立ち上り、中原の二大勢力の軍勢は一瞬にして粉砕されたのだった。

 敵を同士討ちの末、弱ったところを叩いて漁夫の利を得た格好のパテリアは、旧パライ領を取り戻すと、そのままパトライ国とともに、オレア国に攻め込んだ。主力が居なくなったオレアだったが、それでも兵力はかなり残っており、魔法戦力を動員するとなんとか勝利した。返す手でバールバス国に進軍し、パサカイ国に命じ、バールバス国に攻め込ませると、瞬く間に二国を平定した。ここでシキュオーン国が和睦も求めて着たので、これを許すと、軍事行動を止め、兵を休め、もっぱら支配地域の安定化に務めた。

 

 カドモスはオレア国での噂を聞きつけ、ある男を捜した。その男はルキアノス。先のパテリアとの戦いで、味方に殺害されそうになり逃れた人物であった。オレア国が滅んだので、生まれ故郷に帰り、隠棲をしていたのだった。カドモスはルキアノスが人離れした強さと技をもっていたので、もしやと訪ねたのだった。

「私はパテリアの将カドモスです。貴方に逢いにここまでやって来ました」

「遠路はるばる、ようこそ。だが私は敵将だった貴方を快く迎える訳にはいかない」

 カドモスの挨拶にルキアノスは素っ気なかった。

「確かに貴方の国を滅ぼしたのは、私たちです。恨まれるのも道理です」

「それなのに、何故私のもとに?」

 ルキアノスはカドモスがどんな話を持ち出すのか、怪しんだ。

「可笑しな事を、お訪ねするが、貴方は星に導かれていますか?」

 カドモスの問いに、ルキアノスは気を削がれ、変なことを問う人物であるると可笑しくなり、警戒が少し消えた。

「導かれるかどうか知らないが、星を大切にしている」

「貴方はここにおいでなのは星を見て判断されたことではないですか?」

 ルキアノスは星のことが何故分かったのかと意外な顔をした。彼は自分の星、玄武星が故郷に留まったので、此の地に残っていたのだった。

「確かに、少々危険とも思ったが、他国に逃れずに帰郷したのは、そうだからだ」

「実は私は、星を追いかけパテリア国に至ったのです。私はもとはイナコス川の小さな村の出です。丁度オレアとバールバスの国境の村で、戦いの度に国が替わるといった具合でした。私は義兄弟とともに村を出て歩兵となったのです。バールバス陣営に足軽として戦いに参加しました。戦いに敗れ、新天地もとめ星に導かれ北に向かったのです」

「なるほど、それではここは貴方の母国でもあるというわけですな。貴方の名前は勇者として知られています。オレアに来てもらえれば足軽などにしなかったでしょうに」

「選択を間違えました」

 カドモスが頭を叩き、二人は笑った。

「パテリアに言ってみると。同じように星の導かれて来るものがおり、私たちは何かの縁をもっている事に気がつきました」

「興味深い話ですが。にわかに信じがたいですな」

「それは、ごもっとも。しかし私は、貴方の噂を聞いたときもしやと思い。ここに参りまして、同じように星に導かれた人物と判断しました」

「単刀直入に聞こう。如何したいのだ」

 ルキアノスは真顔で尋ねた。

「我々の仲間になって頂きたい」

「やはなりそうか、しかしそれは受けられぬ」

「敵国であったので、辞退されると言う訳ですか。貴方の養父は武勇に優れ、私もかくありたいと思っていました。その国への貢献は計り知れません。この度も我々を退けるべく出陣なさいました。しかしその返礼なんだったのでしょう。養父は危険視され王より毒殺されました。そして貴方も辛くも虎口から逃れることが出来たのです。貴方の国はあなた方を裏切ったのです。その様な国に義理立てすることは愚かなことではないですか」

「確かに、そうだが・・・」

 ルキアノスは痛いところを突かれ、言葉が出なかった。

「貴方を裏切った国は滅びました。ここにはパテリア国しかありません。貴方には私たちという仲間が居るのです。このような所で朽ちてしまって如何するのです。貴方の武芸、いやマトセオスの技は生きてゆかなくてはなりません。それにはパテリアという場があればこそです」

 カドモスの言葉に一理ありと思ったルキアノスは槍の活躍の場を求めて、パテリアのカドモス等の仲間になることを決心したのだった。

 

 シキュオーン国、オレア、バールバスの南にはイナコス川が流れておりその南には東にオリュントス国、西にハニア国があった。ハニア国は海に面する国で、レアンドロスの故郷でもあった。パテリア国の支配地が広大し、国境の警備が手薄になると、オリュントス国がイナコス川を渡り、旧バールバス領内を侵し始めた。これを安穏と見過ごす訳にはいかないパテリア国は、直ちに軍を起こした。これに対しオリュントス国はハニア国に助けを求め、さらに和睦していたシキュオーン国がこれを破ると、共同してパテリア国を攻めたのだった。パテリア水軍は強いハニア国水軍をヒパボラ河のにて破ると、都への上陸を恐れたハニア軍を自国内に動けなくした。そして、パテリア国は連合軍とともに南下し、シキュオーン国を攻め滅ぼし、続いてオリュントス国も滅ぼした。一国のみとなったハニア国はパテリア抵抗をするものの、連合軍の前に敗退し国は滅んだ。

 かくして北の小国であったパテリア国は、誰もなしえなかった中原の統一を果たしたのだった。

 

 この中原に足を踏み入れた男が居た。槍を背に担いだその男は、物珍しそうに周囲を見渡した。男は妖魔第三位、針山獄、一角獣のハスタであった。

「紅蓮刀のカーサー地上に出たまま戻らないので、探しに来たものの、奴の気配を感じない。これは何故だ」

 彼は、悪い予感を感じ、カーサーの足跡を辿ることにしたのだった。

 




<中原諸国地図>
______________ヒパボラ河____________
河^^^[パテリア]^^^^河河^^^山山山山山山山山山山山山
^河^^^^^^^^^^河河^^^^^^山山山山山山山山山^^^
^^^河^^^^^河河^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
^^^^^河河^^^^^^^^^^^^^^へクロス川^^^^^^
^^^^^^河河^[テルプーサ]^^^^^^河^^^[コザニ]^^^
山^^^^^河河^^^^^^^^^^^^河^^^^^^^^^^^
山^^^^^河河^^^^^^^^^^^河^^^^^^^^^ガリオス川
^^^^^河河^^^[パライ]^^^河^^^^^^^^^^^河^^
^^^^河河^^^^^^^河^^^^[パサカイ]^^^河^^^^^
^^^河河^^^河〜河〜河〜河〜河〜河〜河〜河〜河〜^^^^^^
^^^^河河^河^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
山^^河河^^^^^[オレア]^^^^^^^^^^^^^[バールバス]
^^河河^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
^^河河^^[シュキオーン]^^^^^河^^イナコス川^^^^^^^
^河河^^^^河〜河〜河〜河〜河^^^[オリュントス]^^^^^^^
河河〜河〜河〜^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
^河河^^^^^[ハニア]^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
^河河河^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海
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