ポケの細道   作:柴猫侍

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第十一話 ぶっちゃけボールは投げない方が楽

「フシギダネって、不思議だね」

「……急にどうしたんですか、レッドさん」

「……駄洒落」

「はぁ……」

「……何点くらい?」

「……四十点で」

「……意外と厳しいね」

 

 

 

 ***

 

 

 

 ヨシノシティから30番道路を通ってキキョウシティに向かっていた、ライトとレッド達であったが、距離的に一日では厳しいため、その日はテントを張って野宿をした。

 初めての野宿に興奮していたライトであったが、歩き疲れたこともあってすぐに眠ってしまっていた。さらに言えば、道行くトレーナーに何回もバトルを申しこまれたため、その度にバトルを行っていたのも、疲れていた要因の一つとなっている。

 

 二人の昨日の夕食は、炊いた米と缶詰であった。ポケモン達には、ポケモンフーズを食べさせていた。

 その際、レッドの手持ちのポケモンが勢ぞろいしていたこともあり、余計に興奮して疲れていたのも追記しよう。

 

 因みに、レッドの手持ちはピカチュウの他に、リザードン、カビゴン、ラプラス、エーフィ、プテラであった。三年前のポケモンリーグでも、この六体で優勝を果たし、後の四天王との四連戦においても全員が活躍していたのは、会場で観戦していたライトにとっては今でも鮮明に思い出される光景であった。

 当時、エーフィはカントー地方ではまだ確認の出来ていないポケモンであった為、大会には激震が奔ったのは当時のトップニュースであった。

 そんなエーフィの正体は、“なつき”によって進化した『イーブイ』というポケモンであることが、現在は解っている。

 

 ポケモンの進化における条件として、“なつき”が公言されたのは、レッドあってのことだろうとまで、現在は言われている。

 

 それは兎も角、二人は現在30番道路を過ぎて31番道路を歩いていた。この道路でも、ポケモンバトルをしたくてうずうずしているトレーナーたちが多く見受けられる。

 昨日で少なくとも五戦はしたライトは、アルトマーレに居た時よりも数多くのバトルが出来たという事で満足はしているが、流石に何度もバトルをしていては、本来の目的であるカロス地方に行くための船がやって来るアサギシティに辿り着かない。

 

 そのことを自覚していたライトは、今日はバトルを控えようと、子供ながらに考えていた。

 元より、昨日のバトルによって、手持ちのポケモン達には少なからず疲労が溜まっている筈だ。水辺でなければ戦えないヒンバスは兎も角、ヒトカゲとストライクは少なくないバトルで疲れている筈。

 手持ちの健康管理もトレーナーの役割と考えながら、ライトは道を歩いていた。

 

「……地上は暖かいね」

「レッドさん。今の文章に違和感を覚える僕はおかしいんでしょうか?」

 

 ふとしたレッドの言葉に、ライトは即座にツッコミを入れる。

 破天荒な姉によって培われたツッコミの才能は、ここでも花を咲かせていた。

 

「……俺、こっちに来る前はシロガネ山にずっと籠ってたから…」

「山籠もりって事ですか?」

「……そうとも言う。山頂付近にずっといたから、常に寒かった感じ」

「成程……そういう前提があったなら、さっきの言葉も理解出来ます」

 

 レッドの言う『シロガネ山』とは、カントー地方とジョウト地方を隔てる大きな山の事である。

 だが、一般人はそこに入ることが許されない。

 なぜならば、シロガネ山には他とは一線を画す力を有した野生ポケモンがうようよと生息しているからである。その為、シロガネ山はポケモンリーグの管轄となり、リーグ関係者以外は立ち入れないようになっている。

 元とはいえ、チャンピオンであるレッドであれば、シロガネ山に入る権限はある。つまりレッドは、その権限を用いて三年の間、ずっと山に籠って修行なりなんなりしていたのだろうと、ライトは考えた。

 

(やっぱり、『生ける伝説(リビング・レジェンド)』って言われてるだけあるな~!)

 

 傍から聞けば、かなりストイックな生活を送っているように見えるレッドに、ライトは目を輝かせる。

 やはり、強さとは一朝一夕で身に付く物ではないのだと、心の底から感心しているのであった。

 

――小さな体で場を攪乱し、強烈な電撃で相手をノックダウンさせる『ピカチュウ』。

 

――優雅なる水と氷の技で、己の独壇場を作り上げる『ラプラス』。

 

――絶対防壁を思わせる耐久と、渾身の一撃が特徴の『カビゴン』。

 

――相手を寄せ付けない遠距離攻撃が売りの、頭脳(ブレイン)『エーフィ』。

 

――空中からの奇襲によるヒットアンドアウェイが得意の『プテラ』。

 

――豪快な炎技と不撓不屈の精神により勝利へと導く、エース『リザードン』。

 

 絶対的な強さを誇るこの六体の強さは、レッドのストイックさが生み出している。ライトはそう確信した。

 

「……だから一日中、カビゴンのお腹の上で暖かくなりながら寝てたりしてた」

「何してるんですか、レッドさん」

 

 そういう訳でもなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

(どどど、どうしよ―――!! あれ、絶対レッドさんだって―――!!)

 

 前ゆく二人を目の当たりにして、心ふるわせている少年が一人。帽子を反対に被り、前髪は帽子から大きくはみ出ている。

 その少年は、後ろに『ヒノアラシ』というポケモンを連れていた。鼻の細い、糸目のポケモンであったが、その愛くるしい姿とは裏腹に、得意なのは豪快な炎技というポケモンであった。

 

 少年の名は、『ヒビキ』。

 

 ジョウト地方のワカバタウン出身で、先日より旅を始めたばかりであった。ポケモン研究の権威であるオーキドの助手であるウツギという人物から、このヒノアラシを受け取り、幼馴染のコトネとは別々に旅立った。

 その先で、ヒビキは憧れの人物を目にした。

 

 そんなわけで、現在ヒビキはパニくっていた。主の動揺は、手持ちにも伝わりヒノアラシもあたふたとした様子を見せている。

 ヒビキは、目の前をゆく二人の内の自分と同い年位の少年が、もう片方の人物を『レッドさん』と呼んでいるのを聞いた。つまりは、そういうことだ。

 

(サイン欲し―――! そして出来れば、バトルもしてみて―――!!)

 

 目と鼻の先を行く人物は、言わずと知れた元カントーチャンピオン。ポケモントレーナーであるならば、一度はバトルをしたいと思う相手。

 しかし、旅に出たばかりの自分が相手になるとは思えない。

 挑戦しようかしまいかと葛藤しているヒビキは、頭をガシガシと掻いていた。

 

(どうしよ――!! あ―――!!)

 

 

 

 ***

 

 

 

「後ろの人どうしたんですかね?」

「……背中にイトマルが入ったとか」

「大きさ的に厳しいものがありますけど……」

 

 ライトとレッドは、ちょこちょこと後ろを振り返り、挙動不審になっている少年を見ながら会話していた。

 因みに、レッドの言う『イトマル』というポケモンは体長が五十センチある。背中に入るとなれば、かなりのことがなければ入らない。さらに言ってしまえば、【むし】タイプの他に【どく】タイプでもあるので、刺されたりでもしたら大変である。

 

 だが、後ろを付いてくるようにして歩いてくる少年は、それ相応に暴れている様にも見えてきた。

 だんだん不安になって来たライトは、レッドにどうしたものかというような視線を向ける。

 

「……ライト君。レッツゴー」

「僕が行くんですか!?」

 

 背後の少年の下に行くよう言われたライトは目を見開く。だが、このままにしておくのも精神的に疲れると判断したため、すぐに向かっていく。

 ライトが近付いているのに気付いた少年は、さらに挙動不審になる。

 

「えっと……どうしたの…?」

「あッ! えっと……!?」

 

 話しかけられた少年は、目をあちらこちらに向けている。そして、間髪を入れずに答えは返ってきた。

 

「おおお、俺とバトルしろ―――!!」

「……へ?」

 

 

 

 ***

 

 

 

「ごめんなさい。ちょっとテンパっちゃって……」

「…人間、そんな時あるさ」

 

 顔を覆って恥ずかしさを隠しているヒビキに対し、レッドは肩に手を置いて慰めている。ライトは横でそれを微笑ましく見ていた。

 まるで、ヨシノシティで自分がレッドに会った時の様だ、と。

 

 余りの興奮に突拍子もなくバトルを仕掛けたヒビキであったが、相手がレッドでもなんでもない人物であったのと、ライトが今日はバトルを控えようとしているのも相まって、先程の申し込みは取り消しになった。

 

 そして、事情を訊きつつ三人でキキョウシティに向かう事になったのである。

 

「へぇ~……ヒビキ君も、チャンピオン目指してるんだ…」

「は、はい! 俺も、レッドさんに憧れてるんです!」

「ヒノォ!」

 

 ヒビキが声高々に叫ぶと、ヒビキの後を追うヒノアラシも短い手を大きく掲げて、意気込みを見せつける。

 

「……ということは、ポケモンリーグに?」

「は、はい! まずは、キキョウシティにあるジムに挑もうと思って!」

「…手持ちは?」

「ヒノアラシだけです!」

「……」

 

 手持ちが、このヒノアラシ一体だけだと解り、レッドは黙りこくる。それはレッドのみならず、ライトもそうであった。

 二人が急に静かになったことにより、ヒビキは何か変なことでも言ってしまったのかと、目をパチクリとしている。

 

 この時、ヒビキ以外の二人が考えていた事は同じであった。

 ヒノアラシ一体では、ジム戦で勝つにはあまりにも心もとない。何故ならば、公式のジム戦では、どれだけ少なくてもジムリーダーはポケモンを二体使用する。

 つまり、現状のまま挑めば、ヒノアラシ一体だけで相手を二体倒さなければならなくなる。これが、初めてのジム戦に似合わない強力なポケモンで、さらに練られた戦略があれば一体でも問題はないだろうが、見る限りヒビキはトレーナーになりたてである。

 そんなヒビキが、ヒノアラシ一体だけでジムリーダーに勝てるかと言われれば、難しい話になってくるだろう。

 

「……もう一体欲しい所だね」

「え? そうですか?」

「…モンスターボールは、いくつある?」

「えっと……博士からもらった分…五個なら」

「…うん。いけるいける。ポケモン捕まえに行こう」

 

 レッドに新たなポケモンを捕まえるよう催促され、ヒビキはバッグの中に仕舞っていた空のモンスターボールを取り出す。

 恐らくまだ一回も手を付けていないのか、ピカピカの新品であった。

 

「……よし。ここら辺で、何か捕まえようか」

 

 

 

 ***

 

 

 

 ポケモンを捕まえる際のポイントと訊かれたら、多くの者はバトルで相手を弱らせる事を最初に口にするだろう。

 しかし、それ以外にもポイントはある。具体的に言えば、捕まえる対象を状態異常にすることである。状態異常には、【まひ】、【ねむり】、【やけど】、【どく】、【こおり】などが挙げられる。他にも【こんらん】や【メロメロ】、【のろい】もあるが、これらは捕獲にはあまり関係が無い。

 前述の五つの状態異常のどれかにすれば、捕獲できる確率がグッと上がる。特に、この中で言えば【まひ】や【ねむり】が狙いやすいだろう。

 

 【まひ】になれば、一定の確率で行動不能になると同時に、【すばやさ】が格段に下がる。そして【ねむり】であると、眠っている間は行動が一切出来なくなる。ただし、“ねごと”や“いびき”など、特殊な技に限っては使える場合があるが、ほとんどのポケモンは【ねむり】の間は無防備になる。

 

 ならば他の三つはどうなのか。

 まず、【どく】を挙げよう。この状態異常になると、一定時間ごとにダメージを受ける。これが自然に回復することはなく、相手が戦闘不能になるまで毒は続くのである。しかし、戦闘不能になるとポケモンは本能で体を小さくさせ、どこかに身を隠してしまう。そうされてしまえば、捕まえることは出来なくなるため、長期戦での捕獲には向いていない。

 

 そして【やけど】も、同じように一定時間ごとに相手にダメージを与えるものである。しかしこちらには、状態異常になっているポケモンの【こうげき】を半減させる効果があるため、物理攻撃をメインとするポケモンを捕獲する際には、一応狙ってもよい状態異常であるかもしれないが、やはり長期的な捕獲には向いていない。

 

 最後に【こおり】であるが、これは【ねむり】に非常に似ていて【こおり】の間は一切行動出来なくなる。だが、“かえんぐるま”や“オーバーヒート”などの【ほのお】タイプの技で溶ける場合がある。

 しかし【こおり】には致命的な欠点がある。それは、【こおり】の状態異常を狙う際に、ノーダメージで【こおり】にさせる方法がないのである。

 他の状態異常であれば、何かしらノーダメージでその状態異常にさせる技が存在するが、【こおり】には存在せず、どうしても攻撃しなければならない。さらに、【こおり】になる確率自体が高くないため、狙う事は勧められないものだ。

 

「……でもまあ、ヒノアラシじゃあ狙える状態異常は【やけど】しかないし、それも難しいからあんまり気にしないでやってみるといいと思うよ」

「わかりました!行こう、ヒノアラシ!」

「ヒノォ!」

 

 レッドの説明を一通り聞いたヒビキは、元気いっぱいで草むらの中へと入っていった。

 その光景を、レッドと共にライトは見ていた。

 

「……ライト君はどうする?」

「……僕も見てます」

「……了解」

『よっしゃ~!ポケモン出てこーい!』

 

 昼下がりの草むらに、ヒビキの声が響き渡った。

 




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