ポケの細道   作:柴猫侍

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第百八話 小さい頃の夢は突拍子もないものが多い

 

 それはシンオウリーグで起こった。

 一人のトレーナー『アッシュ』は初めて手持ちに加えたパートナー・ヒコザルと共にシンオウ地方を渡り歩き、順調にジムバッジを集めまわっていた。

 彼は天才―――という訳ではなかったが、根っからの努力家で、自身が蓄えた知識と経験を以てパートナーを勝利に導くという、絵に描いたような素晴らしいトレーナーである。

 

 ヒコザルはそんな彼の下で順調に育っていき、最終進化形であるゴウカザルまでに進化した。

 それだけでなく、次第に増えていった手持ちも次々に進化していき、ポケモンリーグの本選にまで出れるほどに彼等は成長していったのだが……。

 

 彼の運命を変えた試合があった。

 

 それまでの試合は、厳しいものがあれどなんとか勝ち進めていたアッシュであったが、一人のトレーナーと一体のポケモンを前に、六体全員を瀕死にされて惨敗を喫してしまったのである。

 最初は信じられる筈がなかった。

 あれだけ共に信頼し、頑張ってきたポケモンたちが、たった一体のポケモンだけに打ち砕かれていく様が。

 

 『あんこくポケモン』を前に惨敗を喫したアッシュは、失意のままに暫くの間ポケモンバトルに興じるのを止めた。

 残酷な今を見まいと自分の殻に閉じこもってしまった。

 故に、彼の最愛のパートナーもまた己の殻に閉じこもってしまう。

 

 その事実に気付いたのは半ば引きこもりの状態になってから三か月後。ロクに食事も摂らなくなって痩せ細ったゴウカザルを見かねたアッシュは、知り合いに世話を任せるようになった。

 そうなってしまった原因はなにか?

 あるとするのであれば、あの敗北が原因だ。

 

 ならばどうすればいい?

 次は逆だ。圧倒的な力を以てして相手を打ち倒していけばいい。

 

 どれだけ信頼を重ねようとも圧倒的武力を前にすれば塵芥になるのだから、信頼などよりも各個人の力を高めていけばいい。

 そう考えてから彼は笑わなくなった。

 

 最愛のパートナーが自分に見向きもしてくれなくなったのは、自分がトレーナーとして未熟だと信じて疑わなかったから。

 もう一度振り向いて欲しい。

 もう一度、もう一度だけ。

 もう一度だけ自分にチャンスが欲しい。自分の敗北が原因なのであれば、それを塗り替えるほどのできる栄光を手にして見せる。だから、もう一度振り返って欲しい。

 

 その想いのままにカロスへやって来た彼は、残った手持ちのポケモンたちと共に旅をし始めた。

 シンオウから共に旅して来たルカリオ、トゲキッス、ガブリアスと共に。この三体は、シンオウチャンピオン・シロナに憧れ、泥まみれになりながらゲットした三体であった。

 彼等もまた、ゴウカザルの無念を晴らすべく、バトルの鬼となった彼と共に新天地を渡り歩くことを心に決めたのである。

 

 その中で見つけたポケモンが居た。

 

 雨天の中、ひっそりと木陰で雨宿りしている二体のポケモン。

 ケロマツとキモリだ。

 身寄りがない二体が互いの体を温めるべく身を寄り添っている姿を見かね、アッシュは『ポケモンが好きな少年』として二体を保護した。

 保護し、体力を回復させた後は再び野生に戻そう。そう考えていたアッシュであったが、自分らを拾ってくれた彼のことに大層懐いてしまい、すぐさま捨てるに捨てれなくなってしまったのだ。

 

 そのことに後悔するのはもう少し後。

 

 ケロマツはバトルのセンスがあった。持ち前の頑張り屋な気質で、スパルタとも言えるアッシュの特訓メニューにもついていき、みるみる内に力を付けていってしまった。

 

 しかし、キモリはそうでなかった。

 臆病で弱気な性分。緊迫した重苦しい雰囲気に耐えかねて、些細なミスを連発することが多々あった。周りには自分よりもずっと強いポケモンたち。自分もなんとか強くならねばと思うほど、重圧はキモリの心を蝕んでいく。

 

 見ていられなかった。

 ポケモンたちはキモリを見かねて慰めるも、その慰め自体もキモリの重圧となり得てしまう悪循環が。

 バトルに出しても、緊張からロクに攻撃を当てることもできない。

 今考えれば、後続に自分よりも強力な味方が居るのだから、心の奥底で負けても大丈夫という負け犬根性が身に付き始めている証拠だったのかもしれない。

 

 そんなキモリに対し、歩み寄る事も歩み寄られる事も無かったアッシュ。

 どれだけ頑張っても成果が出ない姿が、腹立って仕方が無かった。まるで、己の姿を暗示しているかのようで。

 

 だからこそ、手遅れになる前に突き放した。

 

 自分とキモリは、相性が合わない。

 きっと他のトレーナーの下で頑張った方が上手くやれる。

 

 そう結論付けて、キモリが納得する形で別れることをしなかった。

 

『さよなら』も何も、告げることなく。

 

 

 

 出会った日のようにザアザアと雨が降る中、アッシュはキモリを捨ておいた。

 

 

 

 共に拾われたケロマツが憐れみの瞳でキモリを見遣る中、彼は瞳を合わせることもなく、足早にその場から去っていく。

 

 どんな表情をしていたのだろう?

 怒っていたのだろうか。

 悲しんでいたのだろうか。

 憎んでいたのだろうか。

 寧ろ、こっちから見限ってやったのだと嘲笑っていたのだろうか。

 

 それを知っているのは、ケロマツだけであった。

 そんなケロマツも今や、最終進化形のゲッコウガ。【みず】タイプではあるが、奇しくもゴウカザルと同じ足の速い両刀のアタッカーの気質があるポケモン。

 旅を進めて順調にバッジを集め、新たなる手持ちも加えていく最中、彼は見てしまった。

 

 別のトレーナーと共に居るキモリの姿。その時はジュプトルではあったが、こちらを怯えたような瞳で見る目つきはキモリの頃から変わっていなかった。

 新しいトレーナーは、優しそうな少年。

 

 

 

 あの時の自分の判断は正しかった。そう思えた。

 

 

 

 自分の所よりも、別のトレーナーの下に居た方が上手くやれる。その判断はクノエシティのジムバトルを見て正しいものだと確信した。

 どれだけ育ててもロクに戦えなかったキモリが、あのトレーナーの下でメガシンカポケモン相手に勝利を掴み、あまつさえ最終進化形となった光景を見て。

 

 心がストンと軽くなったような気がした。

 だけれども、空腹になった時のように腹中に沸々と不快感を覚え始める。

 

 間違いない、これは嫉妬だ。あのトレーナーの手持ちを見る限り、実力では圧倒的に自分の方が上であることは分かる。例外としてハッサムだけはかなり育っているが、それでも鍛えられているのは自分のポケモンたちだ。

 明らかにトレーナーとしての格は自分の方が上だというにも拘わらず、あのトレーナーの方がキモリを上手く育てられたのか。

 

 ポケモンバトルは結局のところ勝った方が強いのだ。ならば、いくら進化させたところで負けては意味がない。

 勝利が全て。

 そして今自分が立っている場は、地方最強の座を賭けて戦うポケモンリーグ。

 

 優勝すればいい。

 勝ち進めれば、誰よりも自分の優位性を他人に知らしめることができる。あのトレーナーも、自分のプライドをズタボロにしてくれたトレーナーにも。

 

「あのアルトマーレのトレーナーに当たるとしても準決勝(セミファイナル)か決勝か……まあ、三回戦で負けたんなら、バトルすることもないだろうがな」

 

 彼は言う。

 自らの手持ちの前で。

 

 シンオウから連れて来た三体にも。カロスで手に入れた三体にも。

 このカロスリーグの為に一から鍛え直したポケモンたちは、フィジカル、モチベーションのどちらをとっても高い水準に留まっている。将来のジムリーダー候補でさえ圧倒する力は、“運”などという要素で辛うじて勝ち進んできた木端トレーナーたちを軽く打ち払う。

 そのような彼等がモットーとは……

 

「残りの試合、やることは同じだ。―――全身全霊を以て圧倒する。それだけだ」

 

 

 

 ***

 

 

 

 空も橙色に染まりゆき、ヤミカラスが鳴き始める時間帯。

 

 デクシオとジーナの試合を観戦し終えた後、ライトはコロシアム前の噴水前でポケモン達とボーっとしていた。

 所謂、大事な日の前日ほど、何をすればよいのか分からない状態だ。

 受験前日であったり、スポーツ大会前日であったり、前日に何かをした方が絶対にいいという事柄をライトは持ち合わせていなかった。無論、ポケモンの体調のチェックや出場選手の情報などは一通り確認した。してしまった。故に、今なにをすればいいのかわからないのである。

 

 早寝するといっても早過ぎる。

 もう一度対戦相手の情報をチャックするにしても、パソコンの画面をずっと眺めてそろそろ眼が疲労してきた。

 ポケモン達の特訓をするにしても、夕方に何を今更……といった状況。

 

「……何しよう」

 

 ゴロゴロとうたた寝気分のブラッキーの喉元を撫でながら、赤く焼けている空を眺めて『綺麗だなぁ……』と呟く。

 そんな主人に感化されたポケモン達もグデーっと噴水近くで涼むだけ。

 変に気負った様子もなく、リラックスしていると言われればしているのだろうが、如何せんリラックスし過ぎなのではなかろうか。

 

「お腹減ったかなぁ?」

「なんで疑問形なの?」

「ん~?」

 

 聞き慣れた声に、反射的に振り向くライト。

 瞳の先には『ふぅ』と呆れたような様子で溜め息を吐くカノンが佇んでいた。

 

「姉さんとレッドさんは?」

「ブルーさんがショッピングに行くって、レッドさんのこと連れてっちゃった」

「……カノンは置いてけぼり?」

「そう言われればそうだけど、ライトとどこかに食べに行ったらってブルーさんに……」

「あ~……だからかぁ……」

 

 つい先程、ブルーから『夕飯食べに一緒に行きましょ♪』とメールが届いたのだが、『カノンと』という言葉が抜けていたのだろう。意図的かどうなのかまでは知る由もないが。

 

「ま、いっか。折角だし、ミアレの観光ついでに行こっか」

「いいの? 明日も試合だし、夕飯食べたらすぐホテルに戻った方がいいんじゃないの?」

「トレーナーならまだしも、カノンはバトルだけじゃ見飽きちゃうと思うし、試合も午前の一番初めだったからイマイチ疲れてなくて……確か、ミアレに美術館があったと思うから一緒にどう?」

「美術館? へ~、そうなんだぁ! いいね、一緒に行こッ!」

 

 絵描きとしての性なのか、美術館に興味を示すカノン。とりあえずこれからの予定が出来たライトは、夜にぐっすり眠る為の程よい疲労と、幼馴染とのちょっとした思い出を作るべく立ち上がる。

 ブラッキー以外のポケモンをボールに戻し、歩き出そうとするが―――。

 

「クゥ~」

「……ラティアス?」

 

 リターンレーザーをひょいひょい避け回るラティアスに、思わず頬が引き攣る。

 

「一緒に歩きたいの?」

「クゥ!」

「……まあ、いいけど……」

 

 徐に辺りを見渡すライトは、周囲の目線を気にしているようだ。

 そのことに気が付いたカノンは何事かと質問を投げかけてみる。

 

「どうしたの?」

「いや……だってラティアスはほら、色違いだから……人目に付きやすいというか……」

「あぁ……それは確かに」

 

 ライトの言葉に納得するカノンもまた、彼と同じように頬を引き攣らせる。やはりどの地方に行っても色違いは目につくものであり、元の色からそれほど変わって居なければ目につきにくいが、元の色から丸っきり違う―――尤も、その種族自体が非常に珍しいことも相まって、ライトのラティアスは傍目に付きやすいのだ。

 悪意ある人間が強奪を狙っているかもしれないという可能性も無きにしも非ず。

 夜目が利き、気配にも敏感なブラッキーがいるとは言え、プライベートの最中に襲われてはたまったものではない。

 

「なんとかならないかなぁ……」

「う~ん。あッ、ほら! アルトマーレのラティアスみたいに、人に変身してもらえばいいんじゃない?」

「あっ、そっか」

 

 盲点だった。散々幼馴染の姿に化けられて茶化された記憶を思い出し、少々頬が紅潮してしまうライトであったが、名案とばかりにラティアスに『誰でもいいから人に変身してみて!』と指示してみる。

 するとラティアス、頬に指を当てて空を仰ぐような仕草を見せてから、思いついたとばかりに手を叩いて変身し始める。光の屈折によって見せる変身は、このマジックアワーの時間も相まって極めて幻想的な光景を生み出す。

 僅か数秒の変身。ラティアスが化けたのは―――。

 

「♪」

「いや、コルニは止めてっ!」

 

 間近で何度も見た女友達の姿であるが、幼馴染の前で化けられると嫌なプレッシャーがかかるという理由で、ライトは即刻別の人物への変身を求めるのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 結局は、コルニっぽい金髪少女に変身することによって収まった。

 金髪ポニーテールなのは変わらないが、服装はやや落ち着いた物へと変わり、雰囲気的には体育会系から文系へと変わった感じである。

 

 閑話休題。

 

 とりあえず街に繰り出した二人+αはカフェ・ソレイユで夕飯を済ませ、ミアレ美術館に訪れていた。

 入場料は無料。しかし、音声ガイドをつけるのであれば缶ジュース二本分の金額を出す事になる。

 となれば、二人は音声ガイドを付けることなく静々と美術館を徘徊し始めた。

 

「見てよ、これ。エンジュシティのだよ」

「あ、ホントだ……」

 

 瓦屋根が古風な趣を薫らせるエンジュシティの絵画。スズの塔と焼けた塔が収まる位置から町全体を描きあげたであろう絵画は、技術が進歩していく現代においても失われない懐古の情を感じ取れる。

 一方、その隣には対比であるのか、天を衝かんばかりのビル群が立ち並ぶイッシュ地方・ヒウンシティの絵画が飾られていた。

 進歩、発展、人間の文明などを思わせるビル群には圧巻の一言しか出てこない。

 

「う~ん……でも、どっちかって言ったらエンジュシティの方が好きかな」

「私も。都会の方が便利なのはあると思うけど、人酔いしそうだし……」

(そういう理由なんだ……)

 

 絵画を見ての感想の方向性がやや外れてきた二人。

 一方、人に変身しているラティアスは、土産コーナーのお菓子に食いついている。夕飯も食べたばかりだというにも拘わらず、変わらぬ食欲。食欲の減らないただ一体の―――。

 と、このようにラティアスがお菓子を凝視している間にも、二人の会話は淡々と続いていく。

 

「ライトの将来の夢ってなに? チャンピオン以外で」

「チャンピオン以外で? ……そう言われるとなぁ。って、そういう風に訊くカノンはどうなの?」

「私は―――」

「アルトマーレから出て仕事とかしたりするの?」

「ううん。言わなかったっけ? 私の一族は秘密の庭を護って行きゃなきゃいけない一族だから、ずっとアルトマーレに住むの」

「あ~……言ってたような、言ってなかったような……」

「とりあえず、私はずっとアルトマーレに居るよ」

 

 『一族』と口に出されると、カノンの言葉がやけに重く聞こえてくる。

 

「キツイと思ったりしない? 他に住んでみたいと思う場所に住めないっていうの……」

「まあ、小さい頃はそう思ったりもしたけど……」

「けど?」

「私、アルトマーレが好きだから」

 

 ニッと屈託のない笑みで笑うカノン。

 何気ない心からの言葉は、シンとした美術館の中に響き渡る。特に気にする者も居なければ、気にする者も居る。

 ライトは気にする者の一人であった。

 何故か気恥ずかしくなったライトは『ちょっとテラスに出よ』と提案し、土産コーナーに喰いついて離れないラティアスを引っ張りながら、既に日も沈んだミアレの街を望むことができるテラスに出る。

 

 涼しい風が頬を撫でる中、テラスにはそれほど人は居ない。

 ここであれば先程の話を続けてもさほど気にならないだろうと思うや否や、徐にカノンがライトの手を引く。

 

「ねえ、ライト」

「ん……なに?」

「ライトはさ、お父さんの仕事で引っ越すついでにアルトマーレに来たんでしょ? だったら、お父さんの仕事が終わったらマサラに帰る?」

「それは……」

 

 溢れ出る好奇心を押さえられず無理やり付いてくるように住み始めたアルトマーレ。父の海洋研究の仕事が終わったのであれば、留まる理由はさほどない。以前のように一家団欒で住むのも悪くはないだろう。

 正直なところを言えば、ライトをアルトマーレに縛る理由がさほどないのだ。普段アルトマーレを住処にしているギャラドスも、マサラ近海を住処にするようボールで引っ越してあげればよい。友人や知己も多く居るが、その気になればいつでも訪れることが距離。

 マサラとアルトマーレを天秤に掛ければ、今の所はマサラが優勢だ。

 

 しかし、だからといって素直に『マサラに帰る』とも言い辛い。

 

(そんな寂しそうな顔されたらなぁ……)

 

 目尻を下げて寂しそうに表情を俯かせるカノンに、ライトは上手く言い出せずにいた。

 

(大体、僕の夢自体“チャンピオンになる”以外は曖昧だし……)

 

 頂点は目指したい。しかし、その後のことは何も考えてはいない。

 そのままチャンピオンの座に座り続けることも可能だろうが、やや大人な思考も併せ持っているライトは、それだけでは食い繋げないだろうという考えも有していた。

 

(う~ん……何になろう?)

「ねえ、ライト。聞いてる?」

「え? なにを?」

「マサラに帰るかを」

「そのことについてだけど……未定。時期によると思うし……」

「……そっかぁ」

 

 どこか期待外れかのようにフンと鼻を鳴らす。

 そのまま再び顔を上げ、

 

 

 

 

 

「―――私はライトに居て欲しいな」

 

 

 

 

 

「そっかぁ……ん?」

「う、ううん。なんでもない」

 

 慌てふためき始めるカノン。その様子にどこか違和感を覚えるライト。

 

(居て欲しいっては聞こえたけど……どういうポジションで?)

 

 友人?

 仕事仲間?

 それともこのまま幼馴染?

 はたまた恋人や、それ以上の―――。

 

(考えてたら恥ずかしくなってきた……)

 

 さまざまなパターンを思い浮かべるライトであったが、一先ずは『アルトマーレに在住してほしい』ということだけを念頭に置いてみることにする。

 となれば、アルトマーレに住みつつ出来る仕事に絞るべきだろう。

 

(……駄目だ、思い浮かばない)

 

 意外にも思い浮かばない。

 うーんと頭を捻らせて何かいい仕事がないものか考えるライトは、テラスで呑気に涼んでいるラティアス(人の姿)に目を留めた。

 

「あっ」

「えっ? どうしたの?」

「あ、いや、ううん。気にしないで気にしないで」

「そ……そう?」

「うん! じゃあ、美術館の回ってないところ見に行こうか!」

「……ふふっ、そうだね。ほら、ラティアスも一緒に行こう!」

「っ!」

 

 カノンの呼び声を受けて、テトテトと歩み寄ってくるラティアス。

 一応水の都の護り神と同じ種族のラティアスだが、威厳などは一切感じられない。そこがギャップがあって可愛らしいところだが―――と、余計な話は兎も角。

 

 

 

(いい感じの職業が一つあるかも!)

 

 

 

 ラティアスを見て思い浮かべた将来の新たなる夢に、ライトは今から心躍らせるのであった。

 


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