ポケの細道   作:柴猫侍

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第百十一話 オセロは後でじわじわ攻める方が強い

 

「一対……五……」

 

 シンとした雰囲気。

 その中でカノンが呟いた言葉は、信じられないという困惑によって震えていた。コロシアムの画面に映るトレーナーとポケモンの画像。その内、片方のトレーナーのポケモンは残り一体を除いて、全員が戦闘不能となってしまっていた。

 対して相手のポケモンは五体が健在。数の上では圧倒的な差がある。ここから巻き返すのは、いかなる手段を用いてもかなり厳しいものとなるだろう。素人目から見てもそうなのだから、長年トレーナーをやってきている者ならば尚更。

 

「……勝負あったね」

「ええ」

 

 神妙な面持ちで呟くレッドと、それに応えるブルー。

 観客全員が注目する最中、手持ちが残り一体となったライトが最後のポケモンを繰りだす。

 

「この勝負は―――」

 

 

 

 ***

 

 

 

 時は、十数分前に戻る。

 

『さあさあさあさあ、やって参りました! カロスリーグは佳境も佳境! とうとう準決勝! ここからは手持ち六体を用いてのフルバトルとなり、皆さまが御覧に頂くバトルもより激しいものとなります! 熱いバトルもさることながら、日差しが強くなってまいりましたので、こまめに水分を摂って熱中症にならないようお気をつけてください!』

 

 聞くだけで暑苦しい実況の声を聞き、ワッと湧き上がる観客席。

 黙っているだけでも汗が滴り落ちてしまいそうな天候の中、歓声を背に受けて入場してくるトレーナーは二人だ。

 

『ホウエンリーグ優勝経験者・テツヤ選手と、今回ポケモンリーグ初出場にも拘わらず準決勝まで上り詰めたルーキー・ライト選手の入場だぁ―――ッ!!』

 

 一度優勝していることもあり、堂々とした立ち振る舞いで歩み出てくるテツヤ。一方ライトは、やや緊張が窺える面持ちではあるものの、第一回戦よりかは落ち着いた様子である。

 順当に格上であるテツヤが勝つか。

 はたまた、ライトが下剋上するか。

 ジャイアントキリングというものは、何時の時代も心を奮わせるものだ。なにより、これからトレーナーを志す少年少女たちに、夢を与えることにも繋がる。一定数の観客がライトに声援を送るのは、この場面ではある意味普遍的ともいえる結果ではあった。

 その中でも、際立って声援を送る女性は一人居るが。

 

『決勝進出者を決める正念場……その舞台は―――これ! 砂地だッ!! 足を取られる砂場で、二人のトレーナーはどのような戦いを見せてくれるのでしょうか!?』

 

 ランダムで決まるバトルフィールドだが、今回は未だライトが経験したことのない砂地となった。今言ったように、砂に足を取られることにも加え、極めて平坦な土地は遮蔽物が少なく、これまでのバトルのようにフィールドのオブジェクトを利用するといった芸当ができない。

 尤も、飛行できるポケモンにはさほど影響が少なく、砂地には砂地の利点というものは存在する。

 それらをどう生かすかが、勝敗を別つ要因となろう。

 

『そして先行は……ライト選手だぁ!!』

「ギャラドス、キミに決めた!!」

「ギャラドスか……なら、ライボルト!!」

 

 砂地に似合わぬ二体が場に繰り出される。

 相性だけで言えばギャラドスが圧倒的不利な対面。

 【でんき】タイプに共通する【すばやさ】の高さが、この砂地においても発揮されるかが気になるところであるが、巨体であるギャラドスほど砂地の影響は受けない筈だ。ギャラドスは自重で埋まる。それが自身の動きの俊敏さを削る要因となっているのだ。

 だが、気合いは充分。特性の“いかく”を遺憾なく発揮する強面でライボルトを睨みつける。

 

『両者とも、ポケモンが出揃いました! それでは審判の方、宜しくお願いします!』

「これより、テツヤ選手とライト選手による準決勝を開始します! それでは……―――試合開始ッ!!」

「ライボルト、“ボルトチェンジ”!」

「ギャラドス戻って! ブラッキー、よろしく!!」

『おおっと!? ライト選手、いきなり交代だぁ!!』

 

 電光を放ちながら砂地を一直線に駆けるライボルト。砂地とは思えぬ果敢な疾走をみせるライボルトであったが、ギャラドスに命中するより前に交代してきたブラッキーに命中する。

 一撃でギャラドスを倒して、尚且つ交代する算段であったテツヤ。

 しかし、耐久に優れるブラッキーに受け止められ、思ったような試合運びをすることは叶わなかった。

 だが、“ボルトチェンジ”による交代は有効だ。

 

「ハリテヤマ、頼んだぞ!! “インファイト”!!!」

「ブラッキー、“どくどく”!!」

 

 轟音と砂塵を巻き上げて登場するのはハリテヤマ。シャラジムで戦ったコルニの個体よりも覇気ある眼差しに、思わずブラッキーも一瞬たじろいでしまう。

 直後、砂を巻き上げるほどの踏み込みでブラッキーに肉迫するハリテヤマは、そのまま怒涛の突っ張りでブラッキーを攻撃した。その際、意趣返しと言わんばかりに相手を【もうどく】にする“どくどく”が入るが、

 

「それは悪手だッ! 止めだ、“からげんき”!」

「ッ、“ふいうち”!!」

 

 状態異常の際、与えるダメージが大幅に上昇する“からげんき”。

 直前に最後っ屁と言わんばかりの“ふいうち”がハリテヤマに命中するが、思う様なダメージを与えることもままならないまま、ブラッキーは“からげんき”を喰らい、地面に叩き付けられた。

 爆発でも起こったかのような砂煙が巻き上がる。

 数秒もすれば、目をグルグルと回して戦闘不能になっているブラッキーの姿が露わとなった。

 

「ブラッキー、戦闘不能!」

「お疲れ様、ブラッキー……ギャラドス! もう一度、キミに決めた!!」

「ハリテヤマ、イケるな!?」

 

 再び場に現れるギャラドス。ブラッキーが倒されたことにより義憤に燃えている彼の瞳は、格上のハリテヤマを僅かに怯えさせる。

 だがハリテヤマもまた、テツヤの声に応えて力強く頷いた。

 

「“からげんき”だッ!」

「“ドラゴンテール”ッ!!」

 

 再び“からげんき”を繰り出すハリテヤマ。しかし、攻撃はギャラドスに命中したものの、思ったようなダメージを与えることは叶わない。

 “いかく”で【こうげき】を下げられていることは重々承知だったとはいえ、一撃で倒せなかったことにテツヤの顔は歪む。彼のハリテヤマの特性は“あついしぼう”。状態異常の時に【こうげき】が上昇する“こんじょう”ではなかった。

 

 それはライトにとっては幸運。

 反撃と言わんばかりに、砂を巻き上げるようにして振るわれた極太の尻尾は、ハリテヤマの胴を捉えてそのまま強制交代させる。

 

『“ドラゴンテール”が決まったぁ―――ッ! 代わりにテツヤ選手の手持ちから引き出されるのは……ヨノワールだぁ!!』

 

 下半身がない霊のような姿のポケモン―――ヨノワール。

 砂地の影響を受けなさそうなポケモンが出てきたところで、途端にライトの目の色が変わった。

 

「ギャラドス!! “アクアテール”だぁッ!!」

「仕方ない……“かみなりパンチ”で反撃!!」

 

 血相を変えたライトの指示によって、ギャラドスはヨノワールに接近する。

 一方ヨノワールは、のらりくらりとした挙動のまま、右腕に電気のエネルギーを溜めはじめた。

 次の瞬間、頭上から叩き付けるようにして振るわれた滂沱を纏う尻尾と、閃光が瞬く右拳が激突する。

 

 拮抗―――否、僅かにギャラドスが押し勝っていた。

 身体中に奔る痺れに構うことなく尾を振るい切ったギャラドスは、ヨノワールをそのまま砂地に叩き付ける。

 が、

 

「“かげうち”!!」

 

 砂のフィールドであるが故、叩き付けた際の二次的なダメージは望むようにはいかなかった。

 攻撃し終えて硬直していたギャラドスの腹部に、影からヌッと飛び出してきた拳が突き刺さる。ギャラドスほどの巨体が一瞬浮かび上がるほどのアッパー。直前の攻撃も相まって、ギャラドスの体力は削り切られてしまい、そのまま巨体は砂地に埋もれるように倒れた。

 

「ギャラドス、戦闘不能!」

「ナイスファイト、ギャラドス。ゆっくり休んでて」

『ライト選手の二体目も倒されてしまったぁ! 今の所、テツヤ選手が優勢か!?』

「……ミロカロス! キミに決めた!!」

『三体目はミロカロスだぁ!! 何度見ても美しい!! だが、この流れを変え得るだけの力は有しているのでしょうか!?』

 

 既に二体瀕死。且つ、相手は六体健在。

 その状況下でライトが繰り出したのはミロカロスだ。燦々と降り注ぐ日光の光を反射する鱗の艶やかさは流石と言ったところか。

 思わずヨノワールもたじろぐ反射光ではあるが、ギャラドスの続く【みず】タイプ。“かみなりパンチ”を見ても尚【みず】タイプのポケモンを繰りだす真意は、如何なるものなのか。

 

(ミロカロスの特性は……“ふしぎなうろこ”か“かちき”。下手に“おにび”を撃って【ぼうぎょ】を上げられれば、物理技が主体のヨノワールには厳しいな)

 

 ホウエン出身のテツヤにとって、ミロカロスはジム戦関係で一度戦ったこともある相手。

 優秀な【とくぼう】に加え【ぼうぎょ】も上昇したとなるのはあまり好ましくない状況だ。

 

(となれば、やはり無難なのは―――)

「“かみなりパンチ”!!」

 

 電光が爆ぜる。

 肉迫したヨノワールの拳は、寸分の狂いもなくミロカロスの胴を穿つ―――かに思えた。寸でのところでヨノワールの動きは鈍くなり、みるみるうちに拳に纏う電光は収まっていく。

 

「ヨノワールッ!?」

「“ハイドロポンプ”ッ!!!」

 

 刹那、膨大な量の水飛沫がフィールド上に巻き上がった。零距離で放たれた“ハイドロポンプ”はヨノワールの胴に直撃し、そのままヨノワールを後方へ吹き飛ばす。

 暫し宙を走っていたヨノワールの体は、主人であるテツヤが立っている場所さえも通り過ぎ、フィールド外の壁に叩き付けられるも、尚も放水は続く。

 鬼気迫る表情で“ハイドロポンプ”を放ち続けるミロカロスは数十秒続いた後に、漸く終了する。

 

 終わった頃には、ヨノワールが叩きつけられていた壁には蜘蛛の巣のように巨大な亀裂が無数に入っていた。それだけで彼女の攻撃がどれだけ強烈なものなのかは、容易に想像できよう。

 

「ヨノワール、戦闘不能!」

『ライト選手のミロカロス、その鮮烈な攻撃で流れを変えたぁ!! これでライト選手の手持ちが四体、テツヤ選手の手持ちが五体! まだまだ逆転のチャンスはあります!!』

 

 興奮する実況に伴い湧き上がる観客。

 その間にもライトとミロカロスは互いに微笑み合い、コミュニケーションを図っている。

 一方テツヤはと言うと、倒れたヨノワールに『グッジョブ』と労う言葉をかけた後に、次なるボールへ手を掛けた。

 

(まさか、“メロメロ”を喰らっていたなんて……全然気が付かなかった。幼い顔して強かだ)

「だけど……このまま流れを持っていかせる訳にはいかないな。ニャース、頼んだぞ!」

『テツヤ選手、まさかのニャースを繰り出した!! 進化前のポケモンだが、その実力やいかに―――ッ!?』

 

 テツヤが繰り出したのは、乳白色の毛色のニャースだ。要するに普通のニャースであるが、恰好が普通ではない。まるでポケモンコンテストにでも出すかのように、長靴と帽子で着飾った姿に、観客席からは一部『可愛い~!』と声が上がる。

 しかし、そのような声に『くだらない』と言わんばかりの目つきで佇むニャースは、鋭い眼差しで自分より遥かに巨大なミロカロスを睨む。

 

「ナ~ウ……」

「調子は良さそうだなっ」

 

 機嫌はよくなさそうだが。

 彼等の会話を聞いていたら、こう突っ込みたくなる光景だ。

 

「ミロカロス、“ハイドロポ―――」

「“いばる”だ、ニャース!」

 

 文字通り、そこへ水を差そうとしたミロカロスであったが、寸前にニャースの煽りを受けた。

 ニヒルな笑みを浮かべて鋭い爪の生えた指をクイクイっと。

 

 その威張りを受けたミロカロスは、途端に血が上ってしまい、繊細なコントロールを欠いてしまった。対してニャースは、そのコントロールを欠いた放水での狙撃を身軽な動きで掻い潜り、一瞬にしてミロカロスの懐に入り込む。

 小さい体故、砂地に足をとられることは早々ない。そう言わんばかりの軽いフットワークだった。

 

「そのまま“とんぼがえり”だ、ニャース!!」

「逃がさないでッ! “れいとうビーム”!!」

 

 混乱しているミロカロスに、軽やかに蹴りを入れたニャースは、そのまま宙返りしてテツヤの下へ戻っていく。

 そんなニャースを逃がすまいと、【こんらん】しているにも拘わらず“れいとうビーム”を放つことに成功したミロカロスであったが、小さい猫の代わりに出てきたのは―――。

 

『テツヤ選手、ここでメタグロスに交代だぁ―――ッ!!!』

 

 鋼の巨体で冷気の光線を受け止めるメタグロス。

 金属光沢を放つ縹色の巨体に命中する“れいとうビーム”だが、【はがね】タイプを有すメタグロスには決定打になり得ず、表面を少しばかり凍らせるだけに終わる。

 すぐさま体を動かして薄氷を剥がすメタグロスの様子から、欠片もダメージを受けていないことは一目瞭然だった。

 

 しかし、ライトにとって幸いであったのは、ここでミロカロスの【こんらん】が解けたことか。先程までの焦点が定まらなかった瞳から一変、元の凛とした瞳に移り変わる。

 

「ッ……“ハイドロポンプ”だッ!」

 

 再び放たれる滝のような放水はメタグロスの巨体に命中する。

 しかし、そのような攻撃を受けても尚、メタグロスが後方に下がる事は無かった。

 爪の生えている四本足―――確実に一歩ずつ前へ進めていき、ミロカロスへと近づいていくではないか。

 柔らかい砂地でも、放水の勢いに圧されないようにと。

 

 そして水の流れが弱まった一瞬の隙を見て、メタグロスが飛翔する。

 

「“しねんのずつき”だッ!!」

 

 念を纏った頭部で、まるで圧し掛かるようにしてミロカロスに攻撃を仕掛けるメタグロス。

 鈍い音が鳴り響き、ミロカロスの体が大きくうねったと思えば、そのまま体から力が抜けて後ろ向きに倒れた。

 

「ミロカロス、戦闘不能!」

『ライト選手、三体目も倒されてしまったぁ!! そしてテツヤ選手のメタグロス、強い!! あれほどの“ハイドロポンプ”を受けても尚健在なそのタフネスは圧巻の一言!!』

「……休んでて、ミロカロス。ジュカイン、キミに決めた!」

『ライト選手、ミロカロスに続いて繰り出したのはジュカインだぁ!』

「戻れ、メタグロス……行け、ジュカイン!!」

『おぉっと、テツヤ選手もジュカインを繰り出したぁ!!!』

 

 ミロカロスに代わってジュカインを繰り出したライトであったが、不敵な笑みを浮かべたテツヤもまたジュカインを繰り出す。

 ジュカイン同士の対決。

 同族とのバトルであれば、地力が高い方が有利であるが……。

 

「ジュカイン、メガシンカだッ!!」

『テツヤ選手、ここでジュカインをメガシンカさせたぁ―――ッ!!! これはライト選手、不利かッ!?』

 

 即座に見せつける様にジュカインのメガシンカを披露するテツヤ。その光景に苦心に満ちた表情を浮かべるライトは、不安そうに見つめてくるジュカインにニッと笑ってみせる。

 そうしている間にもテツヤのジュカインは、みるみるうちに変貌していく。

 各部位が針葉樹林に生える葉の如く尖っていき、腕に生えているブレードのような葉も鋭さを増す。更には尻尾の先端も肥大化し、全体に刺々しさを増したメガジュカインは勝ち誇ったかのような瞳でライトのジュカインを睨みつける。

 

「―――“めざめるパワー”!」

「“リーフブレード”で切り裂けッ!!」

 

 先手必勝を言わんばかりに“めざめるパワー”を指示するライト。ライトのジュカインは【くさ】であるため、メガシンカによるタイプの変化がなければそのまま効果が抜群の筈だ。

 一方テツヤのジュカインは、両腕の葉を一瞬にして肥大化させ、飛来してくる光弾を一閃した。

 真っ二つに切り裂かれた光弾は、テツヤのジュカインの体を避ける様にして後方へ着弾する。その際、着弾した光弾はミロカロスの“れいとうビーム”によって出来上がっていた氷を溶かしている様を見て、テツヤが気付いたように瞠目した。

 

「成程、【ほのお】タイプの“めざめるパワー”か……」

「ッ……もう一度“めざめるパワー”ッ!!」

「“ドラゴンクロー”で弾きながら肉迫!!」

 

 一瞬で“めざめるパワー”のタイプに気付かれたライトは、眉間に皺を寄せながらもう一度同じ技を指示した。

 するとテツヤはほくそ笑み、肉迫を自身のジュカインに指示を出す。すると両腕にエメラルドグリーンのエネルギーを纏わせたテツヤのジュカインが、迫りくる光弾を弾いて砂地を疾走する。

 

 まるで攻撃を恐れていないさま。

 それを見かねたライトは別の技を指示した。

 

「“りゅうのはどう”!!」

「ッ! 避けろ、ジュカイン!!」

 

 四つん這いとなって口腔から竜の形をしたエネルギーを吐き出すジュカイン。しかし、それさえも体を捻って回避するテツヤのジュカインの身体能力は流石と言うべきだろう。

 

「くッ、“めざめるパワー”!!」

「“シザークロス”だ!!」

 

 今の一連の流れに勘付いたライトは、すぐさま“めざめるパワー”での迎撃に指示を変える。

 手掌から解き放たれる光弾。それはテツヤのジュカインに当たるも、大して効いていないような様子で、そのまま両腕を振りぬく。

 

 直撃。格上が放つ効果が抜群な技を受けたジュカインは、元の耐久の低さも相まってそのまま前かがみに崩れ落ちていった。

 

「ジュカイン、戦闘不能!」

『ジュカインも倒れてしまったぁ!! ライト選手、残り二体だが巻き返せるかぁ!?』

「……ふむ。うん、お疲れ様ジュカイン。よし……ラティアス、キミに決めた!」

 

 五体目はラティアス。

 言わずと知れた伝説のポケモンに分類される個体の色違いの登場に、スタジアム中から歓声が巻き起こる。

 しかし、珍しいことと強さが比例する訳ではない。

 ライトのラティアスはレベル的には手持ちの中で最も低い。技の練度的にも、トレーナーとのコミュニケーション的な意味でも他のポケモン達には及ばない。

 

 だが、そのようなことは知る由もないテツヤはラティアスを警戒して、切り札的な存在であるジュカインを戻す。

 

「よし……メタグロス、頼んだ!」

『ジュカインを一旦退き、テツヤ選手が繰り出したのはメタグロス! この移動要塞を相手にラティアスはどう立ち回るのか!?』

「“コメットパンチ”を決めろ!」

「“でんじは”!!」

 

 鉄骨の如き剛腕を振るい、ラティアスを殴ろうとしたメタグロスであったが、寸前に喰らった弱い電撃に痺れてしまい、動きがピタリと止まってしまった。

 

(ッ、【まひ】を貰ったか……だが、このくらい)

 

 しかし、すぐさまメタグロスは動き出す。

 鉄の塊と言うべきメタグロスは【すばやさ】が【まひ】で落ちた状態であっても、その剛腕を存分に振るってラティアスを追い詰める。

 余りの気迫に気圧されているラティアスは、時折放つ攻撃もメタグロスに全く通用せず、更に怯えた様子になってしまう。

 “リフレクター”も張り、メタグロスの物理攻撃を防ぐ手に打って出たが、望むような効果は得られない。

 

「そこだッ! “コメットパンチ!!」

「“―――――――”」

(なんだ? なんの技か聞こえなかったが……)

 

 最後に呟くように発したライトの指示は、メタグロスがラティアスに叩き付けた“コメットパンチ”の轟音に掻き消され、テツヤの耳に届く事は無かった。

 そのままラティアスは目を回して戦闘不能となってしまい、とうとうライトの手持ちは一体となってしまう。

 

 観客の一方はテツヤの強さに湧き上がり、もう一方は余りの呆気なさに落胆したかのような溜め息を吐く。

 そしてライトは最後のポケモンを繰りだす。

 

『ライト選手の最後のポケモンはリザードンだぁ!! とうとう一体になってしまったが、ここから巻き返す可能性も充分あります!!』

「……リザードン、メガシンカ」

 

 半ば慰めに近い実況の声を聞きながらリザードンはメガシンカする。

 代々の皮膚は漆黒へ。紅蓮の炎は蒼炎へ。

 砂地のフィールドも相まって、陽炎さえ視えそうな熱を持った漆黒の竜がフィールドに誕生する。

 

 しかし、勝負が決まったような試合に盛り上がる観客は少ない。

 

(これ以上試合を長引かせても彼が可哀相だな……速めに勝負を決めてあげよう)

「メタグロス、“しねんのずつき”だ!!」

「―――“りゅうのまい”」

「ッ!!」

 

 痺れた体を動かしてリザードンに突っ込むメタグロスであったが、リザードンはそれを舞うようにして回避した。

 

「ッ……“バレットパンチ”!!」

「“りゅうのまい”」

(当たった……けど!?)

 

 空中で激しい舞を見せていたリザードンに、今度は弾丸のような拳をお見舞いしようとするメタグロス。命中はするものの、リザードンはてんで効いていないような瞳でメタグロスを睨む。

 おかしい。

 先程までの呆気なさが息を潜め、一気に焦燥がテツヤの心を支配する。

 

 相手はメガシンカポケモン一体。

 それに対してこちらは同じくメガシンカポケモンを一体控え、尚且つ四体が健在なのだ。

 

 だと言うのに、だと言うのに……。

 

 二体のポケモンが、地上に足を着ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“じしん”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あわわわっ、すすす、凄まじい震動がフィールドをぉぉおおぉぉ!!!?』

 

 地上に降り立った瞬間、地に爪を突き立てて“じしん”を引き起こすリザードン。

 地を伝わって爬行するエネルギーは、確りと大地を踏みしめるメタグロスの体に伝わり、あろうことかその巨体を宙に跳ねあげた。

 

「メタグロス!!?」

「~~~ッ……メ、メタグロス戦闘不能!!」

 

 収まった“じしん”を確認し、そのまま跳ね上がった後、仰向けになるようにして砂地に埋もれたメタグロスの戦闘不能を宣言する審判。

 その声に、口角を鋭く吊り上げるトレーナーが一人。

 

 

 

―――ギャラドス直伝の“りゅうのまい”は二回積めた

 

 

 

―――メガジュカインのタイプも、予測の域を出ないが把握できた

 

 

 

―――“みちづれ”を使えるかもしれないヨノワールもしっかり処理した

 

 

 

―――万が一の為に張った“リフレクター”と“しんぴのまもり”も杞憂に終わった

 

 

 

(一番怖かったのはハリテヤマが来て、“からげんき”が急所に当たることだったけど……今さらか)

「リザードン」

「……グォウ」

 

 面を上げるライト。

 彼の瞳に映るのは敗北ではない。

 蒼い炎に照らされて煌々と煌めく勝利への道筋だ。

 

 

 

 

 

「―――ここから……ここから反撃開始だよ」

 

 

 

 

 

 そう、作戦は既に始まっていた。

 

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