ポケの細道   作:柴猫侍

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第十三話 赤点でも内申点とかで先生は何とかしてくれる

「ヒトカゲの火と影」

「三十点です」

(もうすぐ赤点……いや、レッドて――)

「もうすぐ赤点だからって、レッド点とか言わないで下さいよ?」

「――!」

 

 

 

 ***

 

 

 

 キキョウシティを後にしたライトとレッドの二人。エンジュシティに向かう為に、36番道路を通り、現在は37番道路で休憩をしているところであった。

 途中、ここに来るまでの謎の木が36番道路と37番道路の間に生えていたが、そこはレッドのリザードンの背中に乗せてもらい飛び越えてきた。

 

 そして昼食がてらに二人は折り畳み式のテーブルを広げ、大勢のポケモンと囲んで座っていた。

 中でもライトは、ヒンバスの口においしい水を口元まで運び、直に飲ませてあげていた。あくまで水生のポケモンであるヒンバスは、地上で長く皮膚を晒すのは良くない。故にライトは、時折ヒンバスの体に水を掛けてあげるなどのケアをしていた。

 その間にも、他のポケモン達はポケモンフーズを頬一杯に頬張って食べている。

 

「……ん?」

 

 ふと、漂ってきた湯気に釣られ、ライトは横を見る。するとそこには、尻尾を器用に自分の前に持ってきて、尾先の炎でポッドを炙り、湯を沸かしているヒトカゲの姿があった。

 ヒトカゲの体の横には、既にコップとインスタントコーヒーの瓶がスタンバイされている。

 

(……器用になったなァ…)

 

 ポケモンでは珍しいコーヒー好きの自分のパートナーを観察するライト。そしてヒトカゲは、沸いたであろう熱湯をコップの中に注ぎ込もうとする。

 

―――チャポッ。

 

「……」

 

 出てきた熱湯の量の少なさに、ヒトカゲは暫し無言のまま微動だにしない。

 結論から言えば、お湯が足りない。あれほど知恵を絞って熱心に沸かしていたのに、中に入っていたお湯の量が少なかった。

 

 すると、何を思ったのか、ヒトカゲはポッドを両手で抱え、どこかに走り去って行こうとする。

 それを見たライトは、思わず制止する。

 

「ちょ、ヒトカゲ!? どこ行くの!?」

「…カゲ」

 

 主人である少年の問いに、ヒトカゲは一旦ポッドを置き、ジェスチャーで伝えようとする。

 両手をフラダンスのようにうねうねとさせた後、ポッドで掬うような動作をする。

 

(……川で水を汲んでくるって事かな?)

 

 微笑ましい動作に、ライトは苦笑いを浮かべる。幸いにも、川は目に見える位置に存在している為、よほどの事が無い限り迷子になることはないだろう。

 ライトは、ヒトカゲに向かってグーサインを出す。それを見たヒトカゲは、そそくさと川の方へとポッドを持って、走り去って行った。

 

(よっぽどコーヒー好きなんだろうなァ…)

 

 誰に似たのやら。そう思うしかなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 水を汲みに来たヒトカゲ。

 好物のコーヒーを飲むため、一刻も早く汲みたい所である。早々に川岸に着いたヒトカゲは、ポッドの蓋を開け、心地よいせせらぎをバックミュージックとしながら容器の中を水で満たしていく。

 数秒もすれば、容器の中は液体で満ちる。

 

 これくらいだろうとポッドを上に掲げ、立ち去ろうとするヒトカゲ。その際に顔を上げると何かが川上から流れてくる。

 

 どんぶらこ~、どんぶらこ。

 

 こんな効果音が相応しいであろう丸い物体が、下流に向かって流れている。ペールオレンジに、グリーンの斑点模様が丸く付いているそれは―――。

 

―――タマゴ

 

 

 

 ***

 

 

 

「……やったね、ライト君。早々に、手持ちの四体目候補が来たよ」

「……まだカロス地方に着いていないんですけど」

 

 両腕で抱きかかえているタマゴを見つめながら、ライトはレッドの言葉に苦笑いを浮かべる。

 先程、ヒトカゲが大急ぎで戻ってきて川の方を指差す為、何事かと駆けて行ったらコレであった。

 元の親が解らないが、あのまま川を流れていたら岩などに当たった衝撃でタマゴの殻が割れてしまうかもしれない。勝手な判断ではあるが、これがタマゴにとって最良の手であっただろう。

 

 このタマゴから何が孵るかは誰にも想像できない。だが、この流れで行くとライトの手持ちに加わる事はそう遠くは無いだろう。

 『川の流れだけに』と、横から聞こえてきたが、とりあえずそのボケに対してはツッコまない。多少スルーするのも、ボケ側の人間を相手取る際のコツである。

 

 それは兎も角、タマゴを含めたらライトの手持ちは四体という事になる。

 【むし】・【ひこう】タイプのストライク。

 【ほのお】タイプのヒトカゲ。

 【みず】タイプのヒンバス。

 三体居るこの時点では、中々バランスのとれたパーティだと言える。そこに入ってくる新たな一体。

 今居るタイプ以外であることを若干望むが、最終的には何だっていい。

 

「何が孵るのかな?楽しみだなァ~」

 

 何故なら、既にタマゴに愛着が湧いてきているからであった。まだまだ子どものライトであるが、今ならば父や母が自分達を可愛がってくれる理由が解る。

 スリスリとタマゴを撫でまわしていると、レッドが何かを思いついたようにポンッと手を叩いた。

 

「……ニョロトノ」

「レッドさん。言いたいことは分かりますけど、せめてニョロモって言いましょうよ」

 

 孵る=カエル=ニョロトノ、というような公式が浮かんだのだろうが、ニョロトノは言わずもがな、ニョロモの最終進化形である。他にもニョロボンという最終進化形も居るが、カエルの見た目的にはニョロトノの方が似合っている。

 

 それは兎も角、昼食もとり終え、エンジュシティに向けて歩み始めた二人は、他愛もない会話を続けていく。

 

「エンジュシティってどういう町なんでしょうかね?」

「……確か、舞子さんが居るところ。一度だけ、マサキに連れて行ってもらった」

「あのポケモン預かりシステムの管理人のですか?」

 

 ライトの問いに、レッドは無言で首を縦に振る。

 マサキとは、今ライトの言った通り、ポケモン預かりシステムの管理人である。ポケモン預かりシステムとは、ポケモントレーナーの為にあるものといっても過言ではない。

 具体的にどういったものかと説明すれば、トレーナーはポケモン協会の規則に則って手持ちは原則六体である。しかし、トレーナーとしての練度が上がっていけば、多数の戦略を考えることになり、それに伴い必要なポケモンも大きく変動している。

 そこで、六体以上ポケモンを所有した場合に、パソコンの中にボールに居れたポケモンを管理できるというものが、“ポケモン預かりシステム”というものである。

 

 このシステムは、開発者であるマサキを通じて様々な管理人と通じ、ほぼ全地方で使用出来るようになっているのである。

 革新的なシステムであった為、マサキという男の知名度は中々高い。

 そんなマサキと交流を持っているという事は、やはりレッドは中々の人物ということになるだろう。

 そしてライトは、思ったことをふと口にしてみる。

 

「舞子さんってどんな感じですか?」

「う~ん……振袖で……扇持って……クルクル踊って……眠くなった」

「相手方からしてみれば不本意でしょうね、ソレ」

 

 舞子の舞を見て眠くなったと口にするレッドに、思わずツッコみを入れる。目で見て楽しむ場で寝られては、舞子からしてみても連れてきたマサキからしてみても不本意だっただろう。

 だが、そもそもレッドもこう見えて十五歳である為、舞子の良さを完全に理解するにはまだまだ幼いという事もあろうが、ブルーがそうであるように社交辞令的なものもあるだろう。

 『寝るのはちょっと…』と苦笑いを浮かべながら、レッドの話に耳を傾ける。

 

「だけどあれだった……一緒に踊ってるイーブイの進化形が可愛かった」

「イーブイの進化形ですか?」

「うん……ブースター…シャワーズ…サンダース…エーフィ…ブラッキー」

 

 イーブイの進化形を淡々と口にするレッドに、ライトは興味を惹かれたように聞き耳を立てる。

 中々手に入れることの出来ないイーブイだが、その進化形はどれも中々の強さを誇ることで有名だ。現カントー地方四天王の一人、悪使いのカリンも手持ちにブラッキーを所持していたり、シンオウ地方チャンピオンであるシロナもグレイシアを所持している。

 可愛い&強いがイーブイの進化形と言っても過言ではない。

 

「……あとそうだね……語尾に『どす』が付いてた」

「『どす』……ですか?」

「そうどす」

「……今のはツッコミませんよ」

「……ツッコんで。そうじゃないと、今の俺、ただ訛っただけに思われるから」

「大丈夫ですよ。此処には僕達以外いませんし」

 

 だんだんレッドの扱いに慣れてきたライト。そんなブルーの弟に、レッドはどこか寂しい思いをする。只でさえ表情筋を使っていないような無表情に、暗い影が掛かる。

 そんなご主人を励ますように、肩に乗っているピカチュウはポンと頭に手を置く。

 

「……心の友よ」

「ピカァ」

 

 肩に乗るピカチュウを、レッドは両腕の中に納める。ピカチュウは、『楽だ』とでも言わんばかりの呆けた表情で、レッドの腕の中で眠り始めようとする。

 良いように扱われている様にも見えるが、そこは言わないでおくことにした。

 

「まあ……ジョウト地方で方言使う人多いから」

「そうですか?」

「マサキもコガネシティ出身だし……って言うか、コガネ出身の人がコガネ弁使うイメージ……」

「へぇ~」

 

 コガネ弁とは『なんやねん』など語尾に『ねん』や『やん』などが付く方言のことである。実際どういうものなのかは、直接聞いた方がインパクト的なものが強い為、詳しい説明は割愛する。

 地方によっては『なんしよっと?(意味:何してるの?)』や『そうなんずら(意味:そうなんだね)』など、さらにインパクトの強い方言も存在する。

 これらを考慮すると、カントー地方はほぼ全域が標準語である為、普遍的であると言える。言い換えれば、特徴が無い。

 

 だが、ブルー曰く『標準語の方が仕事するにはいい』らしい。社会人―――さらに言えば女優のいう事なので、それは確かであろう。

 

 方言トークは一先ず終了し、話は別の方向へと向かっていく。

 

「――……バトルスタイル……あんまり考えたことない……」

「え?……『考えるな、感じろ』的なバトルスタイルですか?レッドさんって」

「……近いかもしれない。でも、一応の知識は持ってる」

「まあ、そりゃあ……」

 

 話は、バトルスタイルについてへと変わっていった。

 トレーナーのバトルスタイルは千差万別。攻めて攻めて攻めまくるスタイルもあれば、守りに徹してじっくりと隙を窺うスタイルも存在する。

 勿論、それらは自分達がどういう風に戦うかを事前に決めておき行うものであって、ポケモンリーグなどの公式戦になればそれは顕著になってくる筈。

 だが、レッドはチャンピオンになったにも拘わらず、自分のバトルスタイルがどういったものであるのかを把握していないと言うのだ。

 

「……あれだね。手持ちのことを完全に把握してれば、その時その時の戦略でどうにかなる……」

「……!」

「……どうしたの?そんな輝いた目をして…」

「名言です! 心に刻んでおきます!」

「え…何か言った?俺…」

 

 目を輝かせるライトに、レッドは思わず困惑する。適当に言ったのにも拘わらず『心に刻んでおく』と言う少年に、何か悪い事でも植えつけてしまったのではないかと、罪悪感すら覚える。

 因みにここでライトが捉えたレッドの言葉の意味は、『手持ちとの信頼を深めれば、臨機応変に戦える』というものである。言ってしまえば、レッドの言葉を美化したものであるが、こう言い換えればそれなりに良い言葉であろう。

 

 戸惑うレッドと、感心するライト。

 若干すれ違っていれど、誰もツッコむ者は居ない。

 

 何やかんやで会話は弾んでいき、二人の歩く速度もそれなりに速くなっていく。

 そして夕暮れになって来た頃、遠くの方に大きな塔のようなものがそびえ立っているのが目に見えた。

 屋根が幾つか連なっている様にも見え、夕焼けをバックにそびえ立つ塔は幻想的であった。

 

「レッドさん! あれがエンジュシティですか!?」

「うん…そうだね。因みに今見えてるのが、“スズのとう”っていう塔……」

「へぇ~! 大きいですね……ん?」

 

 スズのとうを眺めていたライトであったが、ふと眼前に羽根のような物が落ちて来る事に気が付いた。

 目の前をひらひらと舞い降りるそれにライトが手を差し出すと、自然と手の中に吸い込まれるようにして、手の平に収まった。

 小鳥ではなさそうな程大きい羽根。それは美しい金色の羽根であったが、角度を変えてみると金色の他に、赤や黄、緑、青など様々な色に変わる。光の反射による色の変化。まるで、虹色のように煌めく羽根であった。

 

「……綺麗……」

 

 羽根の根元の部分を持ち上げて、夕日に重ねてみる。

 

「あれ……?」

 

 その時、夕日に向かって大きな鳥のポケモンが飛び立っていくのが目に見えた。

 直感ではあるが、この羽根は恐らくその鳥ポケモンのものであろう。飛び立っていく鳥ポケモン自身、夕日の光を反射して神々しい光を発していた。

 

 素敵なプレゼント。

 

 何故か、ライトはそう思った。おもむろに羽根をショルダーバッグの中に仕舞う。

 

 この羽根は、一生の宝物になりそうな気がしたから―――。

 

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