ポケの細道   作:柴猫侍

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第二話 カッコいいのがそそられる。男の子だもん

 目の前には三つのモンスターボール。それが横に一列に綺麗に並んでいる。

 その光景を見ているライトは、キラキラと目を輝かせている。

 

「これって…!」

「ふっふっふ……左から、『フシギダネ』、『ヒトカゲ』、『ゼニガメ』よ! オーキド博士から預かって来たのよ~!」

 

 期待を膨らませている弟に胸を張りながら、言い放った。その言葉に、ライトのウキウキは最高点に達する。

 オーキド博士とは、言わずと知れたポケモン研究の権威である。マサラタウンに研究所を構え、三年前にポケモン図鑑という物を三人の少年少女に託した。

 その三人の名前は、『レッド』、『グリーン』、『ブルー』だ。

 

 レッドも、オーキドに次ぐカントー地方における有名人である。何故なら、一年で地方のジムを全て制覇し、尚且つポケモンリーグの頂点にたった『カントーチャンピオン』であるためだ。現在は、絶賛行方不明中(生存は確認)という、謎の多い人物である。

 

 グリーンは、オーキドの実孫で、レッドと同じく一年でジムを全て制覇し、尚且つポケモンリーグの決勝戦でレッドと相対し、準優勝を飾った少年である。現在は、カントー地方のトキワシティでジムリーダーを務めている。永遠の二番手とブルーは言っている。

 

 ブルーは今まさに目の前に居る少女のことだ。

 つまり、この三人はオーキドと縁が深い。そんな縁の深い三人の内のブルーであるが、オーキドにあるお願いをしていたのである。

 そのお願いの結果が、目の前の三個のモンスターボールということである。

 

「博士から手紙が届いているから、それ読むね~♪」

 

 ブルーは自分のショルダーバッグの中に手を突っ込み、乱雑に中からクシャクシャになった封筒を取り出した。

 その光景を、ライトは白い目で見る。そう、これから解る通り、ブルーは結構大雑把なのだ。世間的には美人女優で通っているが、大雑把なのだ。所謂、残念美人である。

 

 それはともかくブルーは、クシャクシャになった封筒の中から、同じくクシャクシャになった手紙を取り出し、バッと開く。

 

「え~っと…『ライト君、初めまして。私が、ポケモン研究の権威オーキドだ――…」

「姉さん。真似しなくていいから」

「え~……」

 

 ちゃっかりオーキドの真似と思われる声で読んでいたブルーに、ライトは止める様に伝える。

 弟の冷めた対応に、ブルーは頬を膨らせてから『ごほん』と咳払いしてから、再び読み始める。

 

「『これを読んでいるということは、ブルー君から三匹のポケモンが届けられたということだろう。儂は、君の旅をしてみたいという要望を聞き、儂が主催のカロス地方への留学制度にひそかに候補に入れておいたのだ。そしてこうして、留学生の選考も終わり君が選ばれたということで、ブルー君を通じてポケモンを届けたのだ。三匹のうち、一体を君に餞別として送ろう。それと、留学についての詳しい資料についてはブルー君に持たせてある。それでは、また今度。オーキドより』―――……以上!」

「破るの!?」

 

 読み終わった瞬間に手紙を破ると言う暴挙にでた姉を見て、ライトはツッコむ。しかも破り方が、普通に縦に裂くのではなく、腕をクロスさせるという中々スタイリッシュ(?)な破り方ということで勢いもあり、驚愕半分呆れ半分といった表情を浮かべる。

 破いた手紙を丸めて思いっきりゴミ箱に投げるブルーは、ふうっといい汗を掻いたかのように額を拭う。

 

「いやいや、『いい仕事した…』じゃないから。単なる破天荒な行動だから」

「ああ! 私の弟が『破天荒』なんて言葉を覚えているなんて……勉強したのね!? お姉ちゃん、嬉しい!」

「いや、偶にこっちに来る時の姉さん見て、『御宅のお姉さん、破天荒だねぇ』って言われたら嫌でも覚えるよ」

 

 以前来た時、目の前に広がる大海原に興奮したブルーが、そのまま海にダイブした時は流石に脳内構造を心配した。家族思いな所は『いい姉』で済むのだが、そういった行動は弟としては恥ずかしいところだ。

 さらにポケウッドで顔も売れているので、そこそこの知名度もあり、より性質が悪い。

 

 閑話休題。

 

 気を取り直したライトは、目の前の三個のモンスターボールに目を向ける。赤と白の球体は、光を反射して余計に輝いて見える。

 この昂揚感、人生でそう何度も味わえるものではない。ポケモン研究の権威、オーキドからポケモンを託される。それが全国の少年少女が歓喜する出来事であることは間違いない。それは、他の同年代よりも達観している(主に姉の所為で)ライトも同じである。

 とりあえずライトは、一番左のモンスターボールを手に取り、開閉スイッチを押す。すると、赤い光が開いたボールの中からポケモンが飛び出してくる。

 

「……ダネ」

 

 出てきたのは、背中に大きな緑色のつぼみを背負った蛙のようなポケモンである。

 

「『フシギダネ、たねポケモン。生まれたときから背中に不思議なタネが植えてあって、体とともに育つという』」

「……急にどうしたの?」

「図鑑の真似」

 

 急に説明口調になったブルーに、ライトは質問をする。やけに様になっているので、余り文句を言えないのが複雑なところであるが、そんな姉はスルーして、フシギダネに接触しようとする。

 ライトが手を伸ばすと、若干の警戒を持ちながらも受け入れ、優しく撫でられていることを理解すると、すぐに気持ちよさそうに伸びる。

 

「可愛いなぁ……おとなしい性格なのかな?」

「ダネ~♪」

 

 すっかりライトに慣れたフシギダネを後にし、ライトは次のボールに手をつける。先程のように赤い光が瞬き、中から別のポケモンが姿を現す。

 二本足で立つ橙色の蜥蜴のようなポケモン。尻尾の先には、炎がゆらゆらと揺らめいている。

 

「……」

「『ヒトカゲ、とかげポケモン。生まれたときから尻尾に炎が点っている。炎が消えたときその命は終わってしまう』」

「うわぁ~! ヒトカゲだ~!」

 

 嬉々とした表情で、ライトは手をヒトカゲに差し伸べる。するとヒトカゲは、差し伸べられた手をパシンと叩く。

 その際のヒトカゲの瞳がかなり鋭かったので、ライトは少々戦慄する。

 

「き……気難しい子なのかな…?」

 

 気を取り直してライトは次のボールに手を伸ばす。先程と同じようにボールの中から出すと、そこには水色の皮膚を持つ、亀のようなポケモンが二本足で立っていた。

 

「ゼニィ!」

「『ゼニガメ、かめのこポケモン。甲羅に閉じこもり身を守る。相手のすきを見逃さず水を噴き出して反撃する』」

「元気な子だね」

 

 ライトの差し伸べる手を素直に受け入れるゼニガメはくすぐったいのか、ケラケラと笑いながら頭を撫でられている。

 個性的な三体であり、この三体は先程の三人と深い関係がある。何なのかと言うと、三体のそれぞれが三人の最初のパートナーとなったポケモンなのである。

 レッドはヒトカゲを。

 グリーンはゼニガメを。

 ブルーはフシギダネを選んだ。その三体は今や最終進化に至り、エースとして手持ちに君臨している。

 つまり現在のライトは、当時の三人が悩みに悩み、そして選んだ三体のいずれかを自由に選べる機会を得られているのである。

 子供ながらに、中々の贅沢をしているものだとライトは考える。

 

「どの子にするの?」

「へへ……実はこの三匹だったらって、前から決めてたんだ!」

 

 ブルーの問いに、ライトは満面の笑みで一体のポケモンを抱き上げる。そのポケモンとは、先程ライトの手を引っ叩いたヒトカゲであった。

 ふてくされたような視線をヒトカゲは向けてくるが、ライトは構わずに笑顔を向ける。

 

「よろしく、ヒトカゲ!」

「がう」

 

 挨拶を交わすライトであったが、ヒトカゲは自分を持ち上げている手を引っぺがして地面に降りたつ。

 その光景に、ブルーは少し難色を示したような顔を見せる。

 それもそうだ。弟は迷わず決めたが、そのポケモンは最も気難しいような性格の子であるのだ。姉としては、懐いているように見えるフシギダネかゼニガメを勧めたい所であった。

 

「ねえライト……ホントに、ヒトカゲでいいの?」

「勿論!前に言ったでしょ? 僕、レッドさんに憧れてるんだ! リザードン、カッコいいんだよなァ~……」

 

 ライトの言う『リザードン』とは、ヒトカゲの最終進化である。二本角に、大きな翼が特徴のドラゴンのような姿のポケモンである。繰り出す炎は、岩すらも融かすと言われている程高熱であり、鋭い爪は木も簡単に切り裂くと言われている。

 

(はぁ~……これはレッドに感化されちゃってるなぁ……)

 

 たった今ヒトカゲを手持ちに加えた弟が、自分の幼馴染に大分感化されていることに、ブルーは頭を抱える。

 リザードンは、言わずと知れたカントー地方元チャンピオン・レッドのエースポケモンである。事実、リーグの決勝戦は手持ちの最後としてグリーンのカメックスと激突を繰り広げ、タイプの相性の悪さを覆し、見事レッドをチャンピオンに輝かせた立役者でもある。

 ライトは、その時会場で生で観戦していたため、その豪快な炎と、鋭い爪による攻撃を目の当たりにし、口々にリザードンが欲しいと言っていた。

 

 姉としては、自分のエースポケモンである『フシギバナ』の種ポケモンであるフシギダネを選んで欲しい所であったが、本人の決めたことなので、そこまでグチグチとは言えない。

 

(ま、ライトなら大丈夫かな……)

 

 だが、弟のポケモントレーナーとしての実力は知っているので、後は任せれば時が解決するだろうという結論に至る。

 実はライトは、既にヒトカゲ以外に手持ちが居る。以前、誕生日プレゼントにと送ったポケモンが一匹。そのポケモンも最初は気難しい性格であったが、今はもうライトに懐いており、現エースとして君臨している。

 一匹しかいないのに、エースとは如何なものかと思うが、実力的にはジムリーダーに通用する筈なので特に問題は無い筈だ。そこに姉としての贔屓は無い筈だ(多分)。

 

 とりあえず、パートナーが決まったようなので他の二体はボールに戻す。その間にもライトはヒトカゲとのコンタクトを図るが、ヒトカゲはツンとした態度で見向きもしない。

 頑なに接触を拒むヒトカゲに、ライトは苦笑いを浮かべている。

 

「はははっ……」

(う~ん……警戒心もあるけど、完全に嫌悪感がある訳でもないし……どんな性格なのかな……?)

 

 ツンとしたヒトカゲの様子を見て、ライトはどんなな性格なのかと推測する。

 ポケモンの性格は千差万別。それは人と同じである。“おくびょう”な子もいれば、“せっかち”な子も“のんき”な子も居たりする。ライトのもう一体の手持ちは“いじっぱり”なのだが、懐くまでにはそれなりの時間を有した。

 性格が違えば、コンタクトの方法も変えなければならない。

 

 ライト位の年代のトレーナーであると、性格関係なしに勢いで仲良くなろうとする者も多いが、性格によってはそれが逆効果なものもある。

 

(多分この子は、僕がトレーナーに相応しいか見極めてるって感じかな……?)

 

 伊達にポケモンリーグ三位の姉を持つ弟ではない。同年代に比べると、かなり研ぎ澄まされた観察眼で性格を見極め、それを踏まえた上でポケモンが何を考えているのか予想する。

 意思疎通が大事なポケモントレーナーにとっては、必要不可欠な能力であろう。

 ヒトカゲの考えていることを予想し、ライトはある考えが浮かぶ。

 

「ねえ、姉さん」

「なあに?」

「久し振りにポケモンバトル……しない?」

 

 その言葉に、ブルーは意地悪い笑みを浮かべる。舌をチロリと出す。

 

―――こんな可愛い弟の頼みを断るだろうか、いや無い。

 

 そのような反語を頭の中で勝手に浮かべながら、ブルーはモンスターボールを取り出す。

 

「オッケー♪ 弟だからって、手加減しないわよ~!」

「もっちろん!じゃあ、向こうの広場でやろう!」

 

 

 

 

―――トレーナーとポケモンの心を通わすのであれば、ポケモンバトルが一番。

 


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