ポケの細道   作:柴猫侍

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第三十一話 真面目な人の『押すなよ』はマジの意味の方

 

 

 

 

 5番道路―――通称『ベルサン通り』。

 ミアレシティの西側に位置する道路であり、坂道が多い事からカロス地方で流行しているローラースケートをする為にスケーターが集まることが多い。

 道の脇にはローラースケート場が見る事が出来るほどだ。

 そんなベルサン通りのローラースケート場では、一人の少年と一人の少女がローラースケートをしていた。

 

―――プルプルプルプル……。

 

「あはは……何か、生まれたてのポニータみたい……」

「ロ、ローラースケートなんか生まれて初めてだから……」

 

 膝をプルプルと震わせながら、ライトは一人の少女と会話をしていた。

 彼女の名は『コルニ』。昨日、ミアレの歩道でぶつかった少女だ。あの後二人でポケモンセンターに向かい、ポケモンの回復を図ると共にライトに怪我がないか確かめたのである。

 特に目立った傷も無く擦り傷程度であり大事には至らなかったライト。

 申し訳なさそうに謝罪するコルニを何とか宥め、その後はポケモンの話で意気投合したのである。

 

 ポケモンの回復が終わった後、色々と旅の目的やらを話していると、シャラシティという町に帰ろうとしていたコルニが『折角だし、あたしも一緒に行くよ!』と何故か二人旅をすることになり、現在こうして二人で道を進んでいたのだが―――。

 生粋のローラースケーターであるコルニがスケート場を見つけ、『どうせなら一緒にやろうよ!』ということになり、ライトは人生初体験のローラースケートをすることになっているのだが、腕前は見ての通りである。

 

 コルニの言う通り、生まれたてのポニータのように膝を震わせ、終始内股でその場に立つのが精一杯のライト。

 苦笑いを浮かべながら頬をポリポリと掻くコルニは、滑らかに地面を蹴って滑りながらライトの後ろに回り込む。

 

「ほら! 自転車と同じで、始めの勢いが肝心なんだから!」

「ちょ、急に押したらッ!?」

 

―――ツルッ、ドテッ!

 

「わああ!? ゴメン!! あたし、そんなつもりじゃ……!」

「……なんか最近ツイてないなァ……」

 

 急に押されたことによってバランスを崩したライトは、そのまま前方に派手に転倒した。

 ボールを顔面にぶつけられたり、ローラースケートをする少女と激突したりと、ここ最近運が回ってこないような気がするライトは苦笑いしか浮かべられない。

 グッと手を引っ張られて立ち上がるライトは、慌てふためいて頭を下げるコルニを宥める。

 そうしてから借りたローラースケートを脱いで、アルトマーレを出た時から穿いているシューズに履き替えた。

 

「貸してくれてアリガト。ローラースケートの購入とかは見送ることにするよ……」

「ゴメン……あたし迷惑しかかけてないや……」

「いや、まあ……う~ん……」

 

 否定しようとするも、今日と昨日だけでコルニが起こした出来事が多くて、素直に首を横に振ることができない。

 衝突から始まり、昨日はポケモンセンターで男女であるにも拘わらず一緒に部屋で寝泊まりした。その際のコルニの大雑把さには、ライトも終始驚愕してばかりだったのである。

 ポケモンセンターの泊まり部屋には、各部屋にユニットバスが備え付けられているのだが、シャワーを浴びて出てきた時の彼女の姿がパンツ一丁であった時は、流石のライトも大声でツッコみを入れたものだ。タオルで上が隠れていたのが、せめてもの幸いだったといえよう。

 

(何か……色んな意味で疲れてきた……)

 

 決して悪い少女ではないのだが、起こす行動のそれぞれが今のところライトにとってマイナスにしか働いていない。

 

「じゃあ、こう言うのもなんだけど、申し訳ついでにこの道路の先にある街の事とか教えてくれない?」

「街の事? オッケー!」

 

 ローラースケートを終えた二人は次の街に向かう為の道に戻り、歩きながら話し始める。

 

「この道路の先に在るのが『コボクタウン』で、『ショボンヌ城』って言う古いお城がある街なの! そしてコボクタウンをさらに西に進んでいくと、『バトルシャトー』っていうポケモンバトルの施設があるのよ!」

「バトルシャトー?」

「うん! カロス地方でも由緒正しいバトル施設で、運が良ければジムリーダーとか四天王の人とかにも会える場所なの!」

「へぇ~!」

 

 ジムリーダーや四天王などのリーグ関係者が足を運ぶ施設というのは、トレーナーとして心惹かれるものがある。

 ポケモンリーグに出場する為に必要なバッジの数は残り六つ。もし、そのバトルシャトーでジムリーダーのバトルを見る事が叶うのであれば、事前に対策などをとることができるかもしれない。

 そのようなことを考えながら、ライトはコルニの話の続きを聞く。

 

「そしてバトルシャトーのある道を先に進んでくと、『地つなぎの洞穴』っていう洞窟があって、そこを抜けて更に進んでいくと『コウジンタウン』があるの! 崖の上に立ってる街で、水族館があったり、化石研究所があったりするんだよ!」

「化石研究所かァ……」

「それでね、その街を北に進んでいくと『ショウヨウシティ』に着くのよ! そこにはジムリーダーのザクロさんがいるんだ!そして更に北に進むと『セキタイタウン』って言う石が名物の街に着いて、そこから東に在る『映し身の洞窟』を抜けると、『シャラシティ』があるの!」

 

 聞いているとシャラシティまで行くのにかなりの道のりがあることが分かる。辿り着く間に、この『元気』を絵に描いたようなカワイイ少女とずっと一緒であるのかと考えると、年頃の男子として喜ぶべきなのか、ツッコミ役を全うしなければならないと考えて気落ちするか、どちらかと悩む。

 余り破天荒な姉のような行動は慎んで欲しいが―――。

 

「ねえ、ライト! あれ見て、あれ!」

「あれ? ……あッ、ポケモンだ」

 

 コルニの指差す方向に目を向けると、ヒメグマを白黒に塗ったようなポケモンが木の下に転がっている木の実を拾い集めているのが見えた。

 

 すかさず図鑑を取り出し、どのようなポケモンであるかを確認してみる。

 

『ヤンチャム。やんちゃポケモン。敵になめられないように頑張って睨みつけるが効果は薄い。咥えた葉っぱがトレードマーク』

「可愛いと思わない!? あの小生意気な感じの目!」

「そこなの?」

「ちょっとあたしゲットしてくるね!」

 

 カワイイと感じる部位にやや同意しかねるが、コルニは一目散に木の実を拾っているヤンチャムの下へローラースケートで駆けて行く。

 腰のベルトにあるボールに手を掛け、勢いよく空中にボールを放り投げた。

 

「ルカリオ、出番よ!」

「クァンヌ!」

 

 ボールから飛び出してきたのは、青色の二足歩行の犬のようなポケモン。すらりとした体格に、手の甲や胸から生えている鉄のようなトゲ。

 そして凛々しいその瞳に、ライトは『カッコいい……』と呟いてコルニに『ルカリオ』と呼ばれたポケモンに図鑑を翳した。

 

『ルカリオ。はどうポケモン。あらゆるものが出す波動を読み取ることで、一キロ先にいる相手の気持ちも理解できる』

「波動……凄いポケモンも居るんだなァ……」

「ブイ~」

「イーブイもそう思う?」

「ブイ!」

 

 『波動』がどういったものであるのかいまいち理解できていないライトであるが、とりあえず凄い力なのだろうと解釈して、フードの中に佇まっているイーブイに語りかける。

 そうこうしている間に、コルニ達はヤンチャムとの戦闘に入っていた。

 

「ルカリオ、“ボーンラッシュ”!」

「クァン!」

 

 指示を受けたルカリオの手には、一本の細長い骨状のエネルギーが出現する。その骨を棒術のようにクルクルと器用に回してから構えると、地面を蹴って一気にヤンチャムへと肉迫してゆく。

 すると、近付いてくるルカリオに気付いたヤンチャムが拾い集めていた木の実を放り投げ、小さな掌を広げて突進してきた。

 

「“つっぱり”がくるから気を付けて、ルカリオ!」

 

 ヤンチャムが繰り出そうとしている技をルカリオに伝えるコルニ。それを聞いたルカリオは、ヤンチャムの眼前まで近づいた瞬間に跳躍した。

 そのまま前方に宙返りしながらヤンチャムの背後に着地し、“つっぱり”が空ぶってしまいよろけているヤンチャムに向かって“ボーンラッシュ”を繰り出す。

 『ガンッ』という痛そうな音が響くと同時にヤンチャムは前方に吹き飛び、痛そうに叩かれた部位を擦り始めた。

 

「よ~し、これくらいでっと!」

 

 痛みに悶えるヤンチャムに対し、コルニはウエストバッグの中から空のモンスターボールを取り出し、勢いよくヤンチャムへと投げつけた。

 寸分の狂いも無く命中したボールはヤンチャムを内部へと吸い込んでいき、そのまま地面へと落下する。

一度、二度、三度―――。数秒の静寂が辺りを支配するが、ボールの開閉スイッチの部分がピカリと輝いた事で、コルニは嬉しそうにその場でジャンプし始めた。

 

「やったー!ヤンチャム、ゲット!出ておいで!」

 

 一切の無駄なくポケモンの捕獲を追えたコルニは、早速捕まえたヤンチャムをその場に繰り出した。

 中からは、つっぱりの効いている睨みをコルニに向けるヤンチャムが出て来るが、コルニがその小さな体を抱き上げてギュッと抱きしめると、思わずヤンチャムの顔も綻んでしまう。

 

「これからよろしくね、ヤンチャム~♡」

「チャ……チャム!」

 

 『仕方がねえな』と言わんばかりに視線をコルニから逸らすヤンチャムだが、抱きしめられている事に対して顔が緩んでしまっている為、威厳も何もない状態だ。

 そんな彼女達の近くでは、小さく拍手するライトの姿が見える。

 何気なく拍手しているライト。しかし内心は、今の捕獲までの一連の流れに凄まじく感心していた。

ルカリオがどういったポケモンであるのかは完全に把握できていないが、コルニとの息の合い様、動きの速さなど、かなり鍛え上げられているポケモンに見える。

 一体この少女は何者なのか、と考えていたライトであるが、ヤンチャムを抱き上げて表情筋を緩ませているコルニの姿に、そんな考えはどこかへ行ってしまった。

 

(ヤンチャムは【かくとう】タイプ……ルカリオは……【はがね】・【かくとう】タイプなのかァ)

「もしかしてコルニって、【かくとう】タイプが好きなの?」

「え? う~ん……そうだね! パワフルなところが好きなんだ!」

 

 図鑑に記載されているタイプを確認し、ルカリオもヤンチャムもどちらも【かくとう】タイプを有している事から、コルニが【かくとう】を好んでいるのかと想像したライト。

 その想像はどうやら当たりだったらしく、コルニは未だにヤンチャムをぬいぐるみのように抱きしめながら肯定する。

 

「でも、勿論あたしだってカワイイポケモンは好きだよ? ピカチュウとかプリンとか、あとピッピとかも! でも全体的な好みで言えば、【かくとう】タイプが好きな感じ!」

「じゃあ、イーブイとかは?」

「最ッ高! もし進化の研究が進んでイーブイの【かくとう】タイプがあるのが分かったら、絶対その子に進化させるもん!」

 

 フードから抱き上げられ差し出されたイーブイに目を輝かせながら、ヤンチャムをギューっと抱きしめるコルニ。彼女はまだ見ぬイーブイの進化形に思いを馳せていた。

 今の所イーブイの進化形は八つ確認されている。これからまた新たなる進化形が確認されないとも言えない。それほど、イーブイには進化の可能性というものがあるのだ。

 女の子らしくカワイイものには目が無いが、【かくとう】タイプが好きと言う中々の強者。

 

 そんな彼女に触発されるように、ライトは図鑑の検索機能を駆使して【かくとう】タイプを探してみる。

 

「ニョロボンは?」

「お腹のグルグルがキュートよね!」

「カイリキーは?」

「『ザ・格闘』って感じでいいよね!」

「サワムラーは?」

「変幻自在の足技って惚れちゃう!」

「エビワラーは?」

「拳一つで相手を打ち崩していく姿、すっごいカッコいい!」

「……ヘラクロスは?」

「【むし】タイプなのに【かくとう】も複合してて、『ムシキング』みたいな!? 目もキュートなんだよねェ~!」

「……バシャ」

「バシャーモとか本当に最高! あの熱い感じ……ホント【かくとう】タイプに相応しいって言うの!?」

 

 最後辺りは食い気味に来られ、苦笑いを浮かべるライト。

 どうやら彼女の【かくとう】タイプへの想いは本物らしい。だが、色々な格闘ポケモンの話を聞いている間、彼女の相棒であろうルカリオが何やらいじけている様に地面に丸を描き続けていた。

 『クゥ~ン』と鳴くルカリオ。恐らく、『自分は?』とでも言っているのだろう。

 悲しげな瞳を向けてくるルカリオの気持ちを察したライトは、『じゃあ』と、鼻息を荒くしながら【かくとう】タイプについて語るコルニに問いかけた。

 

「ルカリオは?」

「ルカリオ? ルカリオはね、何と言ってもあの獣型のポケモンなのに二足歩行なところかな! 野生を生き抜く為のしなやかな強さって言うのが見て取れるよね! 体は細いのに、他の【かくとう】タイプに引けを取らない力強さとか、動きとかもすっごい速いし、バトルとかでも大活躍なんだよ!? 近距離でも遠距離でも十二分な強さを誇ってくれる姿は、ほんっと頼もしいって言うかァ~! あと、ルカリオの毛って凄いサラサラしてて撫でてると気持ちいいんだよねェ~! 普段のバトルの時の頼もしさとは逆に、プライベートでは癒しも担当してくれるっていうか―――」

「ヘー、ソウナンダー」

 

 地雷を踏んでしまった。

 留まる事を知らないコルニのルカリオについての話に、ライトは放心状態に陥っていた。腕の中のイーブイが心配そうに肉球を頬にポフポフとくっつけて来るが、ライトは気が付くことができない。

 先程までいじけていたルカリオは、今度は恥ずかしそうに顔を両手で覆っている。

 主人にこれほどまで褒められるとなると、流石に恥ずかしさの方が勝ってきたのだろう。だが、そんな語りを続けるコルニがルカリオの事を好いているということは十二分に周りの者に伝わった。

 

 その後数分間ルカリオについて熱く語っていたコルニは、満足そうに額の汗を拭って一息吐く。

 

「ふぅ……こんなところかな?」

「……うん。充分伝わったよ」

「そう!? 良かったァ~! あたしずっと喋ってたから、伝わってるのかなって不安で……」

(自覚はあったんだ……)

 

 一応自覚があったのはせめてもの救いかもしれない。

 

「それで、なんでそんなに【かくとう】タイプが好きなの? 今の聞いてると、それが気になってくるんだけど……」

 

 これほどまでの熱意を持って【かくとう】について語れるのだから、それ相応の理由がある筈。

 ライトはそう考えて再びコルニに問いかける。

 すると、彼女の先程までの熱気の籠った瞳は息を潜め、今度は何かを懐かしむかのようにやや俯きながら口を開く。

 

「……昔はそんなに好きじゃなかったんだ。あたしのお爺ちゃんが【かくとう】専門のジムリーダーで、次のジムリーダーはあたしだってなった途端、【かくとう】タイプを使うように強制される感じになって……」

「え? ジム……リーダー?」

「……あれ? 言ってなかったっけ? あたし、シャラジムのジムリーダー候補だよ? 昨日ミアレに居たのは、一次試験をやるためで……」

「初耳だけど」

「……あれれ?」

 

 何となく重そうな話の中で急に飛び出してきたカミングアウトに、ライトは凄まじく険しい表情で問いかけた。

 すると、『てへッ』という表情でコルニは『言い忘れてた!』とライトに向かって言い放つ。

 コルニのジムリーダーについての話もかなり気になるが、まずは何故【かくとう】タイプが好きなのかを聞くのが最初だと考え、ライトは再び聞く体勢に入る。

 

「それでね、あたしが初めて貰ったポケモンがあのルカリオ……昔はリオルだったんだけどね。小さい頃からジムリーダーになる為に一緒に特訓とかして……でもあたし、小さい頃はジムリーダーなんかになりたくなかったの。別にジムリーダーが凄い嫌っていう訳じゃなくて、ジムリーダーになるように強制されるのが嫌でさ……それで、自然に【かくとう】タイプもあんまり好きじゃなくなって……」

「それじゃ、今は何で……」

「テレビ番組で見たの。災害現場とか事故現場で働くポケモンのこと。その中で【かくとう】タイプのポケモンが、重い物を運んだりして人を助けたりするの見て……カッコいいなァって」

 

 二カッと笑うコルニの笑顔はとても無邪気だった。そんな彼女に釣られるように、ライトも自然と笑みが零れる。

 

「お爺ちゃんは昔から、『ジムリーダーは戦うだけじゃない。街の皆を守る職業なんだ』って言ってて……それで何か納得しちゃってさ! あたし昔から男勝りで、日曜の朝とかにやってる特撮でも、男の子が見る様な番組ばっか見てたんだ!」

 

 彼女が言う様に、確かに日曜の朝には小さな子供が見る様な特撮やアニメが放送されている。昔はライトもよく見ており、友人とよくヒーローごっこをしたものだと、少し感慨深くなる。

 

「特撮の『ルカリオキッド』……あたしそれが大好きで……だからお爺ちゃんはあたしにリオルを託してくれたんだって分かってさ」

 

 するとコルニはローラースケートで滑って、ライトの目の前でクルクルと回る。かなり慣れていないとできないような速い動きだ。

 数回回転した後に、コルニは拳をグッと構えてポーズを決める。

 

「あたし、ヒーローに憧れてたんだ! そして、ジムリーダーは街の皆にとってのヒーローなの! だから、ジムリーダーになるっていうのはヒーローになること!」

 

 『バババッ』とルカリオキッドが変身する時のポーズを決め、コルニは少し恥ずかしそうにはにかむ。

 

「……ジムリーダーになれってことは、遠回しに『夢を叶えろ』って言われてるみたいで……それで本気でジムリーダーを目指せるようになって、皆をヒーローみたいに助けられる【かくとう】タイプも好きになったんだ! 子供みたい……かな?」

「……ううん。すっごいいい夢だと思うよ!」

「そう!? アリガト!」

 

 晴々とした笑顔を浮かべるコルニと、話を聞いて納得したライト。

 ジムリーダーは確かに小さな子供達からすれば街のヒーローだ。街の悪党を懲らしめる強いポケモントレーナー。それはある種、子供の理想像の一つでもある。

 するとコルニはウエストバッグの中から、一冊の本を取り出す。

 

「一次試験は筆記だけだったけど、二次は実技も入ってくるの!ポケモンバトルね!」

「へぇ~! ルカリオ以外にどんなポケモン持ってるの?」

「……実は……その……」

「……うん? どうしたの?」

「ルカリオ以外……あたし手持ち居ないの」

「……えぇ~……」

 

 まさかの新事実。

 ライトが辛辣であれば、『お前はジムリーダーを舐めているのか』と言いそうな状況であるが、そうでなくてもライトは引きつった笑みを浮かべる事しかできなかった。

 頬をポリポリと掻くコルニは、先程取り出したポケモンについて色々な知識が書かれている参考書を再びバッグに仕舞いこむ。

 

「いや、そのね……てっきりお爺ちゃんのポケモン貸してもらえるかと思ったら、『自分で捕まえたポケモンでなければ意味がない!』って言われて……で、でも、二次試験は数か月後だから、焦らなくても大丈夫かなって……」

「……つまりさっきのヤンチャムは、待望の手持ち二体目って事?」

「その通りッ!」

「いや、そんな元気に言われても」

 

 ビシィっと人差し指をライトに向けるコルニであったが、ライトは冷めた目でコルニを見つめていた。

 もし自分の立場であったのならば、気が気では無い筈だ。

 マイペースと言うか、何と言うか。自由奔放とも言えそうな気もする。

 呆れる事しかできないライトに対し、コルニは『と、兎も角ッ!』と手を振りながら訴えた。

 

「あたしはこの数か月旅で、試験に合格できるような【かくとう】チームを作り上げるの!」

「それはその……シャラシティに着くまでって事?」

「ううん! ついでだから、ジム巡りするライトに付いていこうかなと……」

「……カロス各所を?」

「うん。……ほ、ほら!お互いポケモンバトルして、レベルアップとかも図ってさ!」

「……成程」

 

 どうやらミアレから付いてきたのは、かなり意図的なものだったらしい。ジム巡りをする自分であれば、一から育てるポケモン達のレベルもそこはかとなく同じ位なはず。

 ならば、バトルしていい感じにレベルアップできるかもしれない。

 そうコルニ考えてターゲットにされたのがライトという事なのだろう。

 

「だ……駄目かな?」

 

 やや不安そうな顔を浮かべるコルニに対し、顎に手を当てて考え込むライト。

 だが、答えはすぐに出た。

 

「……うん、いいよ! ギブアンドテイクっていう感じで!」

「ホント!? やったー!」

 

 了承の答えを聞いたコルニは、嬉しそうにその場でピョンピョンと跳ねる。

 彼女のバトルの話は、言うなればライトにも利益のある提案だ。ジムを攻略するには、多くのポケモンバトルを重ねなければならない。

 しかし、トレーナー戦以外で野生とのバトルだけで経験は賄えるものではない。そこでジムリーダー候補であるコルニであればいい対戦相手になってくれるだろうと考え、ライトは提案を了承した。

 

 互いに利益のある交渉は見事成立する。

 

 

 

 こうしてライトは、ポケモンではない旅の仲間が増えるのであった。

 


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