ポケの細道   作:柴猫侍

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第三十六話 あっちの竜やら、こっちの竜やら

 

 

 

 

「ナイスファイトだったよ、リザード!」

「グァウ」

 

 アヤカのニャオニクスを下したリザードは、さも当然と言ったような顔でプイッとライトから顔を逸らす。

 だが口角は吊り上っている為、ライトの激励も満更ではないのだろう。

 素直ではないパートナーに苦笑を浮かべながらボールに戻し、バトルステージの反対側から歩み寄ってくるアヤカの視線を向ける。

 

「いいバトルだったわ。またバトルできるといいわね」

「こちらこそ、ありがとう!」

 

 軽いバトル後の会話を終えた二人は、次なるバトルを控えている者達を待たすのも失礼だと考え、足早に階段を上った所の踊り場を目指していく。

 そこで次の挑戦者が階段を下りてすれ違うが―――。

 

「あれ……コルニ?」

「えへへ! はい、イーブイ!」

「あ、ありがとう……って、えぇ!?」

 

 預けていたイーブイを渡されるも、ライトは緑色のマントを羽織ってステージの方に降りていく少女に目を丸くした。

 彼女が戦おうとしているのは、同時に階段を下りていく男性なのだろうが、彼の羽織っているマントは黄色。性別は違えど、爵位の階級が同じであればマントの色は同じはずなのだが―――と考えたが、既に事は進んでいるらしく、とりあえずライトは観戦する為に階段を上り切る。

 その先には、マントを預かる為のメイドがスタンバイしており、『ありがとうございました』と言ってから綺麗に畳んだマントを手渡す。

 

 メイドが手慣れた手つきでマントを畳み直している間、ライトは柵に寄りかかってステージに目を遣る。

 

(誰が相手なんだろう……?)

 

 既に、先程自分が行ったようなバトルの前の作法をしているコルニと男性。中央から離れた両者は、互いに手に持っているボールを宙に投げる。

 

「クァンヌ!!」

「ゴラァス!!」

 

 軽やかな身のこなしで宙返りしながら飛び出してくるルカリオ。

 対して相手は、巨大な恐竜のようなポケモンを繰り出す。茶色の皮膚に、頑強そうな顎。見るからに堅そうな皮膚は岩のようにも見える程だ。

 見たことのないポケモンに対し、ライトは一先ず図鑑を翳し、男性の繰り出したポケモンが如何なる種族であるのかを調べる。

 

『ガチゴラス。ぼうくんポケモン。分厚い鉄板を紙のように噛み千切る大顎で、古代の世界では無敵を誇った』

「タイプは……【いわ】・【ドラゴン】」

 

 【いわ】を有しているとなると、【いわ】に有利な【はがね】・【かくとう】の複合タイプであるルカリオが圧倒的に有利そうな対局に見えるが、果たして本当にそうなのだろうか。

 ポケモンバトルはタイプも重要であるが、戦略次第でどうにもなる一面も存在することは否めない。

 つまりこの対面は、不利なタイプのガチゴラスをどのように動かすか、という男性の腕の見せ所でもあるのだ。

 ゴクリと固唾を飲んでコルニを見守るライト。その緊張は、腕の中でおとなしくなっているイーブイにも伝わり、あどけない顔が険しくなる。

 

―――ルカリオが動く。

 

「“はどうだん”!」

「ガァ!!」

 

 直後、両手を腰の横に据え、手の間に蒼と水色が複雑に混ざり合ったようなエネルギー弾が形成される。

 チャージに一秒程。充分早い充填を終えたルカリオは、自らが収束させた波動の塊をガチゴラス目がけて解き放つ。

 

「“ふみつけ”なさい!」

「ゴルァ!!」

 

 巨大な体を大きくのけ反らせ右脚を振り上げたガチゴラス。次の瞬間、身体に比例して広い足裏は、自分に向かって飛来してきた“はどうだん”を地面の間に挟み込む様に踏みつけた。

 爆弾が破裂したかのような爆音と共に、足裏と地面の間からは爆炎と砂塵が巻き上がる。

 しかし、踏みつけたガチゴラスは全くもってダメージを受けていないと言わんばかりに、挑発的な笑みをルカリオに向けていた。

 

「なんて頑丈な皮膚なんだ……!?」

 

 驚きの余り独り言を呟くライト。

 彼と同じような焦燥を抱くコルニは不敵な笑みを浮かべ、ルカリオに指示を伝える。

 

「ガンガン攻めるよ! “ボーンラッシュ”!」

「ガウッ!!」

 

 自身の攻撃を防がれたことに僅かに動揺を浮かべていたルカリオも、コルニの指示で我に返って、両手に骨状の棒を出現させる。

 地面を蹴って一気にガチゴラスに肉迫するルカリオ。

 

「動かざること山の如し……ガチゴラス、“ストーンエッジ”で迎え撃ってください!」

「ゴラァアアア!!!」

 

 手数で勝負しようとしているコルニに対し、男性は“ストーンエッジ”を指示した。するとガチゴラスは、地面を巨大な脚で踏みつけ、フィールド上に複数の巨大な岩石の先端を隆起させる。

 直線状に走っているルカリオに直撃するようなコースに、ライトは息を飲む。

 だが―――。

 

「ジャンプ!」

 

 ルカリオの足元に“ストーンエッジ”が隆起しようとした瞬間、走る勢いそのままに前方に飛び込む。

 華麗に宙返りをしながら両手に携えた骨を合わせ、回転する勢いでガチゴラスに叩き込もうという魂胆なのだろう。

 ルカリオのポテンシャルを生かしたテクニカルな動きから繰り出される一撃。

 

「―――“ほのおのキバ”」

「なッ……!?」

 

 だが、『読んでいた』と言わんばかりの余裕綽々な笑みを浮かべた男性は、平然と早急に技名を口にする。

 瞬間、ガチゴラスは象徴とも言える大顎を開き、口腔に覗く鋭い牙を赤熱させた。

 その気になればルカリオを一口で食べてしまえそうな程の口は、振り下ろされた骨に噛みつく。噛みついた箇所からは爆炎が噴き出し、【ほのお】を苦手とするルカリオにも火の粉が降り注ぐ。

 

「グルッ……!」

「ルカリオ、怯まないで! “グロウパンチ”!」

「グルァアアア!!」

 

 砕け散った骨を投げ捨て、今度は自らの拳で殴ろうと試みるルカリオ。即座の判断が功を奏したのか、ルカリオの“グロウパンチ”はガチゴラスの鼻先に命中し、一瞬ガチゴラスは怯んだ。

 殴った際の反動で後方宙返りを決めて、ルカリオは一旦体勢を整える。

 その間に、鼻先の痛みを振り払う為にブンブンと顔を振るうガチゴラスに、男性は苦笑しながら指示を出した。

 

「“りゅうのまい”です!」

「ゴラッ!」

 

 大分痛みも引いたガチゴラスは、黒と紫が混じったようなエネルギーを放出しながら、その場で激しく踊りだす。ステップを踏み度に、“じしん”でも繰り出しているかのような地響きと衝撃が周囲に伝わり、それはステージ外周に満ちる水さえも波立てる。

 ガチゴラスが淡々と舞っている時、コルニは『今しかない』とばかりにルカリオとアイコンタクトをとって、拳を突きだした。

 

「“インファイト”ォオオ!!」

「ガウァアアアアッ!!」

 

 雄々しい咆哮を上げながら、全力を以てガチゴラスに接近戦を挑もうと肉迫するルカリオ。

 だが、ルカリオとガチゴラスの距離が数メートルを切った辺りで、“りゅうのまい”は完了し―――。

 

「“もろはのずつき”です、ガチゴラス!!」

「ガチゴォオオオオ!!」

 

 瞬間、ステージに罅が入って隆起するほど力強く大地を踏みしめたガチゴラスが、肉迫してくるルカリオ目がけて突進していく。

 巻き上がる砂塵と、周囲に伝わっていく風圧。

 そして何よりも、ガチゴラスのスタートダッシュの速度に観戦している者達は驚愕した。

 

 互いに肉迫し、衝突する拳と頭突き。衝突の衝撃で鼓膜が痛く感じてしまう程の轟音が轟くが、観戦しているものが衝撃で身を竦めている間に決着はついてしまっていた。

 

「ガウァ!」

「ッ、ルカリオ!?」

 

 力対力。

 その戦いを制したのは、“もろはのずつき”を繰り出したガチゴラスであり、押し負けてしまったルカリオは弾かれるようにして宙に飛ぶ。

 数回転ほど錐もみをしてから、華奢な身体はステージ上に打ち付けられ、普段の凛々しい瞳もグルグルと渦を巻いていた。

 

 数秒、コルニは放心するものの、すぐさま瀕死になっているルカリオをボールに戻し、『お疲れ様』と呟き、相手の男性に視線を戻す。

 

「……ザクロさん。バトル、ありがとうございました!」

「こちらこそ。有意義なバトルでしたよ」

 

 にこやかにほほ笑むザクロという男性。その名前に、ライトは心当たりがあってか、顎に手を当てて暫し思案を巡らせる。イーブイを抱き上げながらであるため、ふんわりとした体毛が首回りに当たって気持ちいいなども一瞬考えたが、本題の方は数秒で解が出る。

 

(ショウヨウジムリーダー……?)

 

 ジーナがミアレシティで口にしていた、【いわ】使いのジムリーダー。

 コルニは、時折ジムリーダーや四天王もバトルシャトーにやって来ると言っていたが、本当にこうして目の前で見る事が出来るとは思いもしなかった。

 有意義且つ、圧倒される時間。

 【いわ】タイプが苦手とする【はがね】と【かくとう】に対し彼がとった戦法とは、圧倒的な攻撃と防御でねじ伏せるというもの。

 恐らくザクロが使用したポケモンはプライベート用の、トレーナー・ザクロとしての手持ちだろうが、それでもジム戦前に臆してしまう程の『鋭さ』と『硬さ』。

 

(これが……ショウヨウジムリーダー・ザクロ……!)

 

 あのコルニのルカリオを終始圧倒するポケモンを所有しているとは、流石ジムリーダーと言える。

 

 そのような事をライトが考えていると、バトルを終えたコルニがライトの下に歩み寄り、それを追う形でザクロも近付いてきた。

 『てへへ……』と頭を掻くコルニに対し、ザクロは『君は……』とライトを目の当たりにして呟く。

 

「ええと……リザードを指示していた少年ですね?」

「あ……はい。ライトって言います」

「そうですか、ライト君。私はザクロ。見て分かるかどうか分かりませんが、これでもショウヨウシティのジムリーダーをやらせてもらっています」

 

 終始丁寧な口調で話を進めていくザクロ。

 すると彼は、腰のベルトのボールに手を掛け、一体のポケモンをその場に繰り出す。中から登場したのは、『かせきポケモン』プテラ。

 レッドも手持ちに加えていた、【いわ】タイプ最速の翼竜。その大きさもさることながら、口に生えそろう鋸のような牙に、イーブイは怯えてライトに怯えた声を上げて助けを求める。

 

「安心して下さい、食べませんよ。それは兎も角、君はジムバッジを集めているのですか?」

「はい。今の所二個ほど……」

「成程……では、私からのアドバイス。コウジンタウンを東に進んでいくと9番道路……人呼んで『トゲトゲ山道』なる道があるのですが、その先に『輝きの洞窟』なる場所があります」

「はぁ……」

「私もよく行くのですが、【いわ】タイプのポケモンが多く生息しており、【いわ】タイプ攻略の経験になると思います。是非、行くことをお勧めしますよ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 何気なしに特訓場所を教えられたライトは、戸惑いながらも立礼をして感謝の意を伝える。

 そして話を終えたザクロはプテラにアイコンタクトをとり、両肩を足で掴まれ、そのまま宙に舞いあがっていく。因みにマントは、先程メイドがそそくさと回収したため、持って帰るという事はなさそうだ。

 

「君の挑戦、楽しみにしています」

「は、はい!」

 

 次第に小さくなっていくザクロに対し、声が聞こえる様にと大きな声を上げるライト。公衆の場で若干恥ずかしい気もするが、言ってしまった後で後悔してもどうにもならないことだ。

 そしてとうとう黒ゴマのように小さくなっていった影を見送り、ライトは視線を地上へと戻す。

 

「あれがザクロさんだよ!初対面の感想は?」

「えっと……真面目って言うか……堅そうって言うか……」

「ほほう!【いわ】タイプとかけた?」

「いや、そんなつもりは全然ないんだけど」

「そう? ……まあ、見ての通りザクロさんは真面目な人なの! だからバトルスタイルも堅実で、【かくとう】の攻めを防ぐほどの防御で時を待ち、【いわ】の鋭い一撃で隙を攻めていくって感じかな?」

 

 端的にザクロのバトルスタイルを口にするコルニの言葉は、非常に有用な情報になる。カントー地方にも『タケシ』という【いわ】使いが居るが、タケシが耐え忍ぶ戦いを好む一方で、ザクロは攻守バランスよい戦法をとると言ったところか。

 だが、実際に戦ってみなければ分からないことだ。

 三個目のジムバッジは【いわ】使い。世間一般的には弱点の多いタイプとされているが、弱点を受けても尚耐え忍ぶほどの防御には目を見張るものがある。

 

(どうやって打ち崩そう……)

 

 考え込んでしまいこむライトを見かね、イーブイは定位置に戻って考えの邪魔にならないようにする。

 顎に手を当て、手持ちのタイプを見直す。

 

(ストライクは【いわ】が凄い苦手……リザードもだ。イーブイは【ノーマル】だから苦手って訳じゃないけど、相手の防御力が……【みず】タイプのヒンバスを入れたい所だけど、ヒンバスは攻めが苦手だし……となると―――)

 

 

 

―――居るじゃないか。絶好タイミングで入ってきた新入りが。

 

 

 

 ***

 

 

 

「リュー!」

「ふふっ、此処が気に入ったの?」

「リュ~♪」

 

 アルトマーレの秘密の庭。

 カノンの一族以外の人間は滅多に入ることのない場所に、最近新たな仲間が加わった。カロス地方でライトが捕まえた、ハクリューのことである。

 凶暴なポケモンなどの居ないアルトマーレでは、自然とレベルの高いハクリューのヒエラルキーは高い方に位置し、自由気ままに過ごすことができるのだ。

 だが、元々ポケモン同士の争いの少ない土地でわざわざ戦うという行為をする必要もなく、のんびりとアルトマーレの周囲を泳いでいるのが今のハクリューだ。

 

 そんなハクリューは、秘密の庭の最奥部に位置する池で水浴びをしていた。自然と人工物が見事に調和している庭は、カロスのそれにも劣る事は無い。

 したがって、美しいハクリューの姿を存分に生かすことのできる背景が整っているが為に、カノンはキャンバスに絵を描かずにはいられなかった。

 

 普段のように芝生の上に立ち、庭をバッグに自由に水浴びをするハクリューを描いている。

 時折、ラティアスがカノンやハクリューにちょっかいを仕掛けてくるも、兄であるラティオスがそんな妹を諌め、アルトマーレの大空へと連れていきカノンの邪魔にならないように気遣ってくれるのだ。

 

 白いキャンバスには緑が多く面積を占めているが、その分中央に佇む青と白が一際目立っていた。

 ギャラドスのような猛々しさは無く、水と一体化するような流麗さがそこには存在しており、昔からそこに在ったかのような調和が絵の中に広がっている。

 

(ライト……今頃何してるんだろ?)

 

 そんな中、ふと思い出したのは幼馴染の事。

 

(……多分、元気でやってるんだろうなァ)

 

 クスっと微笑みながら筆を進めていく。

 そんなカノンをハクリューは首を傾げて不思議がるが、当の本人は気付かずに笑ったままキャンバスを見つめる。

 

 

 

―――彼は、チャンピオンになることを夢だと言った。

 

 

 

―――なら自分の夢は、夢を叶えた彼等の姿をキャンバスに描く事。

 

 

(頑張ってね……応援してるから)

 

 そのような事を思いながら、ふと顔を上げてみる。

 すると眼前には、ニヤニヤと口角を吊り上げているラティアスの姿があった。

 

「な……何、ラティアス……?」

「クゥ~……♪」

「だからなんなの、その笑顔は!?」

「クゥ~!」

「コラ!絶対からかってたでしょ―――っ!」

 

 カノンが声を張り上げると、ラティアスは笑顔をそのままに再び宙へ舞っていく。あの顔は自分をからかっていたものだと理解したカノンは、顔を紅くしながら筆を振り上げた。

 しかし、当のラティアスは既に大空の彼方。はぁっと溜め息を吐いた後は、ベレー帽を被り直してキャンバスに視線を戻す。

 

「もう……あの子ったら……」

 

 友達が増えて嬉しいのか、最近からかってくることが多くなった。カノンにとってははた迷惑なのだが―――。

 

「……これって、元を辿ればライトの所為じゃない!」

「リュ!?」

 

 此処にいない幼馴染に、怒りをぶつけるカノンなのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「っくしょん!」

「……風邪ひいたの?」

「ううん、何か噂された気が……」

「ふ~ん、変なのォ……」

 

 ズビっと鼻水を啜るライトに、コルニは特に関心も無さげに返事をする。

 バトルシャトーを後にして7番道路に戻った二人は、夕暮れも迫った所であることをしようとしていた。

 二人の目の前にはそれぞれポケモンが並んでいるが、ライトの前にはキモリが。コルニの前にはヤンチャムが佇んでいる。

 

「よし……じゃあ、キモリ。これから君の使える技を確認するからね」

「キャモ!」

「ヤンチャム、お願いね!」

「チャム!」

 

 意気込みは充分―――と思われたが、キモリは明らかに弱腰になっており、プルプルと膝が震えていた。

 そんなキモリに苦笑を浮かべながら、優しい声色で伝える。

 

「大丈夫、技出すだけでバトルする訳じゃないから……」

「キャ、キャモ!」

「うん、じゃあいってみよう!」

 

 ライトが意気揚揚と指示を出すと、キモリはどこからともなく木葉を取り出し、それを口元に当てて眠気を誘う音を奏で始める。

 

「これは……“くさぶえ”……ムニャ……そ、そこら辺で……」

「キャモ?」

 

 このままではバトルが始まる前に全員が深い眠りに落ちてしまうと危惧したライトは、寝落ちする前にキモリに止めるように伝える。

 キモリはまだ演奏したりないと言う顔で、渋々木葉をしまう。

 

「じゃあ、次! ―――」

 

 それからというもの、キモリは次々と技を繰り出していった。

 

 

 

―――弱腰のまま放つ、相手に当たらない“はたく”。

 

 

 

―――なよなよとした瞳での“にらみつける”。

 

 

 

―――回復しているかどうか疑わしい“すいとる”。

 

 

 

―――相手に衝突する直前で急ブレーキをかけてしまう“でんこうせっか”。

 

 

 

(……成程。思ってたよりも臆病だ……)

 

 物理技がほぼ機能していないという深刻な状況。幸いなコトに、“すいとる”だけは技として成立している。

 しかし、“すいとる”自体の威力は微々たるもの。これではショウヨウジムのザクロを打ち取れるとは思えない。

 

(どうしよう……う~ん……)

 

 顎に手を当てて考えるライト。そんな主人に対し、申し訳なさそうにしょんぼりとするキモリ。

 だが、何か言いたげな様子で裾を引っ張る為、ライトは思考を止めてキモリを見た。

 

「どうしたの、キモリ?」

「キャ……キャモ」

「もしかして、まだ出してない技があるの?」

「キャモ!」

 

 汚名返上したいとばかりに拳を掲げるキモリに、ライトも笑みを浮かべて『分かった』と答えた。

 するとキモリは軽やかな足取りでヤンチャムの直線状に立ち、グッと体に力を込める。何が来ても良いようにヤンチャムは身構えているが、今迄の攻撃が攻撃だった為、やや油断したような状態だ。

 だが、そんな相手でもふてくされることなくキモリは、技を繰り出す為にのけ反った。

 

 刹那、膨らむキモリの口の端から蒼い炎が漏れ出す。

 

(この技……―――!)

 

「キャ……モォオオオオオオッ!!!」

 

 

 

 

 

 次の瞬間、熱を持たぬ蒼い炎がキモリの口腔から放たれ、芝生の上を駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 


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