ポケの細道   作:柴猫侍

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第三十九話 ツン九割、デレ一割

「コジョフー、“ヨガのポーズ”!」

「コジョー……!」

 

 コルニの指示を受けたコジョフーを、その場で精神統一を図り自らの【こうげき】を一段階高めようと試みる。

 だが、そのような動かなくなった相手を見逃すはずもなく、ザングースは“ブレイククロー”で仕留めようとコジョフーに接近してきた。

 

「“すなかけ”!」

「ブィ!」

「ザッ……!?」

 

 しかし、ザングースの目の前に立ちはだかるようにして現れたイーブイが、肉迫してくるザングースに背中を向け、そのまま後ろ脚を使って砂煙を巻き上げる。

 砂や小石の混ざった砂煙はザングースの顔面に直撃し、それでも尚“ブレイククロー”を放ったザングースであったが、視界を潰された上での攻撃は小さな二体の体に当たる事は無かった。

 

「ブネェイク!」

「ブイッ!?」

 

 だが、ザングースの攻撃を避けたイーブイに対し、ハブネークが“まきつく”を繰り出してくる。

 小さな体を締め付けるのは、イーブイの何回りも大きい巨体であり、単純な力でイーブイは勝つことができず、振り解く事も出来ない。

 苦しそうに顔を歪めるイーブイ。しかし、次の瞬間にはハブネークの眼前に駆けてきた影が一つ―――。

 

「“おうふくビンタ”!」

「コジョ―――ッ!」

「ブネッ!? ハブァ!? ブネェ!?」

 

 乾いた音を周囲に響かせながら、ハブネークの頬に“おうふくビンタ”を繰り出すコジョフー。

 右へ左へ顔を向けるハブネークの頬は、“ヨガのポーズ”で【こうげき】を一段階上げたコジョフーの攻撃を真面に喰らい、真っ赤に染まり上がっていた。

 絶え間ない攻撃に思わずハブネークは締め付ける力を弱めてしまい、その間に拘束されていたイーブイは抜け出す。

 

「“あなをほる”!」

 

 ハブネークの拘束から抜け出したイーブイへ出したライトの指示は“あなをほる”であり、すぐさまイーブイは多量の土を宙にまき散らしながらその場に穴を掘って地面に潜っていく。

 そのようなイーブイを狙っていたザングースであったが、寸での所でザングースの爪は潜っていく小さな体を捉えられず、その場で空振りして体勢を崩した。

 攻撃対象を見失ったザングースは、すぐさま標的をハブネークに攻撃し続けているコジョフーに変え、“きりさく”を当てようと地面を蹴って駆け出す。

 

 当のコジョフーは、背後から近づいてきているザングースに気付く事は無く、そのまま“おうふくビンタ”のフィニッシュをハブネークに決めた。

 数回頬を叩かれたハブネークは目尻に涙を浮かべ、『この野郎!よくもやってくれたな!』と言わんばかりに“ポイズンテール”を眼前の狐に繰り出すが、一連の流れをコルニはしっかりと見ており、溌剌とした声で指示を出す。

 

「コジョフー、“みきり”!」

「コジョッ!」

 

 キラリと瞳が光ったコジョフーは、俊敏な動作でその場にしゃがみ、眼前から振るわれる毒の尾と、背後から振るわれる鋭い爪による斬撃をすかした。

 “まもる”と同様、相手の攻撃を完全に無効化する技である“みきり”。前者は絶対防御壁を以て攻撃を無効化するのに対し、後者は相手の攻撃を見極めて回避するというものだ。

 つまり、完全に攻撃を阻むわけではないので―――。

 

「ブネッ!?」

「ザンッ!?」

 

 攻撃をすかされたハブネークとザングースの両者は、互いにコジョフーに繰り出した攻撃を受け合う結果となった。

 『ドゴンッ!』と痛々しい音と共に左右に吹き飛んでいく両者は、そろそろ満身創痍であるのか、息も絶え絶えとなってコジョフーを睨みつける。

 しかし、ザングースに関してはそろそろ冷静さを取り戻して戦意を喪失してきたのか、自分達を圧倒する小さなポケモンを前に、若干逃げ腰のような体勢を取り始めた。

 対してハブネークは、最早ザングースなどはどうでもよく、自分をコケにした相手をどうにかしてやりたいという感情を瞳に映しだし、『アチョー!』とでも言いそうな片足で立つ構えをとっているコジョフーに攻撃を仕掛けようと身構える。

 怒りで頭に血が上っているハブネークは、コジョフー以外に目がいっていなかった。それはつまり、先程穴に潜ったイーブイの事を忘れているという事と同義であり―――。

 

「今だ、イーブイ!」

「ブィ!!」

「ハッブゥ!?」

 

 直後、真下の地面から飛び出してきたイーブイの突進を受けるハブネークは、予想外のタイミングの攻撃に為す術も無く、効果抜群の技を喰らってしまった挙句宙に放り出され、数秒してから地面にドスンと落下した。

 攻撃を終えたイーブイは、自分の体毛に付着している土を落とそうと体を熱心に振るっており、辺りにはパラパラと砂やら小石やらが巻き散っていく。

 

 今の光景を目の当たりにしていたザングースは、地面に落ちてから動かない宿敵を目の当たりにして、その場から大急ぎで逃げ出していく。

 対して、数秒気絶していたハブネークは漸く意識を取り戻し、戦意を喪失し、細長い体を必死にくねらせながらザングースとは逆の方向に逃走を図った。

 

 そんな野生のポケモン達に、イーブイとコジョフーの二体は臨戦態勢を解き、自らの主の下へと駆けて行く。

 テトテトと歩み寄っていく二体の姿には先程の勇猛さなど欠片も残っておらず、イーブイに至っていた『褒めて褒めて!』と言わんばかりのドヤ顔で、ライトの前でお座りをする。

 無邪気に笑みを浮かべるパートナーに苦笑するライトであったが、ご褒美に撫でるのは後回しにし、すぐさまイーブイを抱え上げた。

 

「コルニ!」

「分かってる!セレナちゃんでしょ!?」

「うん! すぐに迎えに行こう!」

「オッケー!」

 

 バトルの余波に巻き込まれないようにと、この場から逃げていってもらった少女。彼女を迎えに行くために、バトルの熱も冷めやらぬまま、セレナが向かって行ったであろう方向に駆けだす二人。

 

 その時であった。

 

 遠くの岩陰で、爆音が鳴り響いたのは。

 

 

 

 ***

 

 

 

「―――ッ!!」

「マネッ……ロォ!!」

 

 白銀の体毛を靡かせ角を振るうポケモン―――アブソルと、無数の長い触手を振るってアブソルを叩き潰そうとするポケモン―――カラマネロは激突していた。

 アブソルが“きりさく”を繰り出すのに対し、カラマネロもまた触手で“きりさく”を繰り出し、互いの体を切りつけようと試みる。

 

 数度の交錯の後に、“きりさく”の激突を制したのはアブソルであった。

 一回りも二回りも体の大きいカラマネロの体を、そのスラリとした華奢な肢体に秘められている膂力を以てして、数メートルほど後方に吹き飛ばす。

 だが、カラマネロは額の辺りに汗を掻きながらも、背後の岩壁に叩き付けられないようにと地面に鋭い二本の触手を突き立てる。

 

「グルルルッ……!」

「マ~ネ~ロ~……!」

 

 牙をむき出しにして威嚇するアブソルに対し、カラマネロもまた無数の触手を蠢かし『いつでも攻撃できるぞ』ということを示してみせた。

 アブソルの背後には、セレナが【こんらん】が解けてグッタリとしているコマちゃんを抱きかかえており、流れ弾が飛んでくるのではないかという位置に座り込んでいる。

 だが、セレナは勇猛果敢にカラマネロに挑むアブソルの姿を目の当たりにし、畏怖すると同時に不思議な安心感を抱き、それらによる虚脱感によって動くこともままならなかったのだ。

 

 この野生のアブソルが自分を救ってくれる義理などはない筈。

 実際、その通りであり、このアブソルがセレナを助けたのも単なる気まぐれでしかないのである。

 以前であれば、この崖上の8番道路で覇権を争うポケモンの名を上げれば、第一にタツベイの最終進化形であるボーマンダが名を上げていたが、先日の落盤事故に際して少々住処を変えてしまった。

 その為、ここ最近は少々縄張りの変動が発生し、このカラマネロがボーマンダの後釜を狙うようになるのだが、気に喰わないアブソルが度々それを阻止するために動いている。

 

 今回セレナを助けたのも、その一環に過ぎない。

 

 ただ、自分の邪魔ばかりをするアブソルをカラマネロも快くは思っておらず、機会さえあればいつか潰してやろうと考えていた。

 

 

 

―――それが今。

 

 

 

「マーネ……」

「フゥッ!!」

「ネッ……ロォ!!」

「ガゥ!?」

 

 カラマネロが攻撃を繰り出そうとした瞬間に、アブソルが“ふいうち”を叩きこんでくるも、それに合わせてカラマネロが長い二本の触手を扱い、懐に入ってきたアブソルに“イカサマ”を放つ。

 今までとは桁違いの威力の技に、腹部に触手を叩きこまれたアブソルは肺から空気が全て抜ける様な感覚を覚えたものの、地面に激突する前に宙返りをして体勢を整える。

 

 カラマネロの繰り出した“イカサマ”は、相手の【こうげき】に依存する【あく】タイプの技。平凡な力しかないカラマネロであるが、【こうげき】が突出して秀でているアブソルの能力を利用したのは、彼の知能が高いことを暗に示していた。

 一方、アブソルは【こうげき】は高いものの、耐久面ではやや難のあるポケモンであり、

強力な技を一撃でも真面に喰らってしまえば沈んでしまう程だ。

 つまり、今のカラマネロの“イカサマ”は、アブソルにとっては致命傷に近い一撃であり、少々不味い事態になってきたとでも言おうか。

 

「グ……グルゥ……!」

「マ~ネ~ロ~!」

 

 膝を笑わせているアブソルに対し、カラマネロは不敵な笑みを浮かべながら触手を蠢かせている。

 圧倒的な力が逆に利用されてしまうとは、アブソルは想像もしていなかった。

 それだけに屈辱的な気分を味わされるも、生憎プライドの高いこのアブソルはすぐに逃げる事を選択せずに、そのままカラマネロとの戦闘を続行しようとする。

 

 角にエネルギーを蓄え、そのまま“きりさく”をカラマネロへと繰り出そうと肉迫しようと試みるアブソル。

 カラマネロは、『飛んで火に居る夏の虫』と言わんばかりにほくそ笑み、全身にオレンジ色の闘気のようなオーラを纏い始めた。

 攻撃の速さでは僅かにアブソルの方が上回り、岩をにさえも裂傷を刻むほどの斬撃を眼前の相手へと繰り出す。

 

 空を切る音と共に放たれる斬撃。

 だがそれは、ワンテンポ遅れてカラマネロが繰り出した“ばかぢから”と激突し、周囲には衝突の余波で砂煙が舞う。

 

「……えッ?」

 

 降り注ぐ小石と砂に思わず目を細めていたセレナであったが、吹き荒れる旋風が止むと同時に目を開け、視界に映る光景に茫然としてしまった。

 アブソルとカラマネロを中心として地面が大きく陥没しており、それでも尚立ち続けているカラマネロが、ボロボロになったアブソルの後ろ脚を触手で絡め取り、宙吊りの状態にしている。

 

「ッ……グルァ!!」

 

 宙吊りにされるアブソルは、満身創痍でありながらも鋭い眼光をカラマネロへと注ぎ、勝ち誇ったかのように口角を吊り上げる相手へ再び“きりさく”を放つ。

 『シュパァアアン!』と乾いた音が鳴り響き、攻撃を受けたカラマネロは思わず瞼を閉じた。

 しかし―――。

 

「マネロォ―――ッ!」

「ガッ……!?」

 

 次の瞬間には、不敵な笑みを浮かべたカラマネロが宙吊りにしていたアブソルを、そのまま硬い地面へと叩き付ける。

 叩きつけられた瞬間に目を見開いたアブソルは、体力が限界まで削られ、その場から動くこともままならなくなり、グッタリと倒れたままになってしまう。

 先程、カラマネロは“ばかぢから”を繰り出した。本来であれば自分の【こうげき】と【ぼうぎょ】を一段階下げてしまう技であるのだが、特性“あまのじゃく”を持つこのカラマネロは逆にその二つの能力を一段階上げる結果となり、今のアブソルの“きりさく”を喰らっても尚ピンピンとしていたのである。

 

 毎度の事、自分を邪魔してくれた相手を下せたことにカラマネロは終始笑みを浮かべ、ここからどうしてやろうものかと触手をウネウネと蠢かす。

 

「ていッ!」

「マネッ!?」

 

 しかし、今まさにアブソルを弄ぼうとしていたカラマネロにモンスターボールが命中し、赤い光が大きな体躯を包み込んでいき、数秒後にはカラマネロはボールの中へ閉じ込められた。

 ボールが飛んできた方向には、投球直後のフォームで佇まっているセレナが『当たった……』と、茫然としながら呟いている。

 右へ左へと揺れるモンスターボール。だが、次の瞬間、ボール全体には亀裂が入り、中に閉じ込められていたカラマネロが飛び出し、自分へとボールを投げてきたセレナへと敵意を露わにする。

 

 鋭い眼光にセレナは寒気を感じたものの、少しでも時間を稼げるように。そして、可能であればカラマネロを捕獲し、これ以上戦ったアブソルが追い打ちをかけられるようなことにならないようにと、貯金をはたいて買ったモンスターボールを次々と投擲する。

 

「ていッ!ていッ!」

「マネェ~!」

 

 しかし、次々と投げるボールはカラマネロの触手によって弾かれるか、若しくは真っ二つに切り裂かれるかであり、先程のようにボールの中へ閉じ込めることはできない。

 どんどん少なくなっていくボールの数に焦燥を浮かべながら、バッグから最後のモンスターボールを取り出し、全力で投擲した。

 

「てやぁ!」

「ネロッ!」

「あッ……」

 

 最後に投げたモンスターボールは、カラマネロの“サイコカッター”により、身体に触れる事も無く両断される結果に終わってしまった。

 最後の一つを破壊されたことに慌てふためくセレナは、他に仕える道具がないものかと、バッグの中身を地面にぶちまける。

 

「な、何かないかな!? 何かないかな!? あッ!」

 

 メモ帳などの小道具がぶちまけられる中、煌びやかに日の光を反射する白いボールが一つ。

 

「プ、プレミアボール……!」

 

 捕獲用ボール十個以上購入のおまけとして付属してくるボール。

 性能はモンスターボールと同程度で心許ないが、それでもないよりはマシだとばかりに、大急ぎでプレミアボールを手に取って、すぐさま顔を上げた。

 だが、その瞬間にセレナの体は凍ったかのようにピタリと動かなくなる。

 彼女の大きな瞳に映っていたのは、触手を振りかざし、自分の邪魔をしようとした少女を叩き潰そうとするカラマネロの姿。

 手に取ったプレミアボールも、思わず地面に零してし―――。

 

 

 

 

 

「ルカリオ、“はどうだん”!」

「ストライク、“とんぼがえり”!」

 

 

 

 

 

 振り下ろされようとした触手を打ち弾いくのは、水色のエネルギー弾。視界外からの攻撃に、カラマネロはセレナから標的を“はどうだん”が飛来した方向へと目を遣る。

 だが、振り向いた瞬間に胴体に俊敏な動きで突進してくる影に気付き、すぐさま触手を振るうもあえなく回避されて攻撃を許してしまう。

 

「シェァア!!」

「カッ……!」

 

 【エスパー】・【あく】の複合タイプを有するカラマネロに対してストライクが繰り出したのは、どちらにも効果が抜群な【むし】タイプの技。

 硬い甲殻を持つ体でカラマネロに突撃したストライクは、しなやかな身のこなしで攻撃の反動で、指示を出したライトの目の前まで舞い戻る。

 その間にカラマネロは、弱点であるタイプの攻撃を真面に受け、暫しは我慢するもののそのまま気絶して倒れてしまった。

 

「……ふぅ、ナイス!ストライク!」

「シャア!」

「お疲れ、ルカリオ!いい狙撃だったよ!」

「クァン!」

 

 セレナの迎えに来たライトとコルニの二人は、互いのエースに対して労いの言葉を投げかけ、その後すぐに地面にへたり込んでいるセレナの下へ駆け出す。

 

「セレナちゃん、大丈夫!?」

「は、はい……でも……」

「でも?」

 

 未だに茫然としながらも、駆け寄ってくるライトに対しある方向を指差すセレナ。指の先を辿っていくと、そこには傷だらけで倒れているアブソルの姿があり、ライトはハッと息を飲んだ。

 すぐさまアブソルの下に駆け寄り、バッグの中からキズぐすりを取り出し、取っ手を握ってからノズルをアブソルに向けて中身を噴射する。

 

「ッ……流石にこれじゃ心許ないか!」

「ライト! いいキズぐすりあるけど使う!?」

「いや、だったらポケモンセンターに連れてった方が早そうだよ!」

 

 キズぐすりをアブソルに噴射するものの、思っている以上の効果は得られずに、ライトは眉間に皺を寄せる。

 素人目から見てもかなり無理をして戦っていたように窺えるアブソルは、一刻も早い回復が必要であり、キズぐすりやいいキズぐすりで回復するよりも、ポケモンセンターに存在するメディカルマシーンで回復した方が早いという結論に至った。

 

「あ……あの……」

「ん? ……あッ」

 

 アブソルを心配するように歩み寄ってくるセレナの手に握られていた物に、ライトは目を大きく見開いた。

 

「ねえ、セレナちゃん! もし君がいいならなんだけど―――」

 

 

 

 ***

 

 

 

 コウジンタウン・ポケモンセンター。

 

「お待たせいたしました! 貴方のアブソルは元気になりましたよ!」

「あ、ありがとうございます!ジョーイさん!」

 

 ポケモンセンターのカウンターで、セレナは二つのボールが入ったケースをジョーイから受け取る。

 ホッとした顔でそれらを受け取ったセレナは、すぐさま中に居るポケモン達を自分の目の前に繰り出す。

 

「ヤッコォ!」

「……」

「良かったぁ……コマちゃん、と……」

 

 普通のモンスターボールから飛び出てきたコマちゃんは、すぐさまセレナの肩にとまるものの、プレミアボールから出てきたアブソルはプイッとセレナから顔を逸らす。

 あの時、傷ついたアブソルをこうしてポケモンセンターに連れてくる為に、ライトはセレナにアブソルの捕獲を提案してみたのだ。

 彼女はすぐさま了承し、残ったプレミアボールでアブソルを捕獲し、そのまま三人でコウジンタウンに向かって来たのである。

 

 そして無事に辿り着き、こうしてポケモンセンターで二体を回復できたのだが―――。

 

「あの……アブソル? 助けてくれてアリガト……それでね、傷が酷かったからポケモンセンターで回復するのに捕まえたんだけど……」

「……」

「よ、よかったらわたしの手持ちに……」

「ガウッ」

「あッ……」

 

 差し伸ばしたセレナの手は、アブソルの前足によって『ペチンッ』と弾かれる。明らかに拒否の示す反応に、セレナは若干涙目になって後ろで待っていてくれているライトとコルニの二人を見つめた。

 すると、苦笑を浮かべるライトがセレナの下に歩みより、頬を掻きながらどうにか言葉を紡ぎ始める。

 

「えっと……まあ、ちゃんと戦ってゲットした訳じゃないから、まだセレナちゃんのことを自分のトレーナーとして認めてくれてないんだと思う」

「じゃあ……野生に返した方が……」

「……アブソルと一緒に居たいかを決めるのは、セレナちゃんだよ。例え今は認めてくれてなくても、いつかは認めてくれる筈だから」

「あ……う……」

「どうしたい?」

 

 できるだけ優しい声色で問いかけるライトに、セレナは頭を抱えて悩み始める。将来、強いトレーナーになりたい彼女としては、今の内にでもアブソルのような強いポケモンを手持ちに入れたい所でもあるが、ああも懐いてくれないとなると、今の内に野生に戻してあげた方がいいのではないかとも考えた。

 

「で、でも……」

「でも?」

「……助けてもらったから、お礼もちゃんと返してあげたい。そしていつか、わたしがトレーナーであったことが良い事だったって、思えるようにお世話してあげたい……」

「……ふふっ! じゃあ、しっかりお世話してあげたらいいと思うよ」

 

 最後の一押しにセレナの顔はパァッと明るくなり、未だにそっぽを向いているアブソルの下に駆け寄った。

 手を差し伸ばすと、再び前足で弾かれてしまうものの、それにめげずにセレナは満面の笑みでアブソルに話しかける。

 

「わたしはセレナって言うの! それでこっちはコマちゃん! これからよろしくね!」

「ガウッ!?」

「貴方の名前はアブソルでしょ? じゃあ、ニックネームは……アブちゃん? アブアブ? ソルソル? ん~……ソルちゃんがいいかな!」

「ガウッ!」

 

 『何を勝手にニックネームを決めている!』と言わんばかりに咆えるアブソルであったが、『よろしくね、ソルちゃん!』と満面の笑みで挨拶してくる少女に乱暴を働くこともできず、不承不承といった様子で再びそっぽを向いた。

そのような光景に穏やかな微笑みを見せるライトの横に、コルニはゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「……まあ、結果オーライ?」

「……そうだね」

「どうしたの? そんな昔を懐かしむような顔してさァ~」

「いや、なんか昔の僕のストライクに似てるなって思ってさ」

「アブソルが?」

「うん」

「ふ~ん……なんか意外。ライトのストライクって、『主様絶対!』みたいな雰囲気がバンバンに出てたから」

「そう?」

 

 クスクスと小さな笑いを含みながら会話を続けるライトは、腰のベルトのボールを一つ取り出す。

 そのボールの中に入っているのは、パーティのエースであるストライクだ。

 誕生日にブルーがプレゼントしてくれて、旅のメンバーの中では最古参に位置するストライクも、最初から懐いてくれた訳ではない。

 それこそ鋭い鎌を振るわれ、流血沙汰になることもしばしばあった。だが、ゆっくりと時間を重ねていくうちに打ち解けあい、今のような関係になったのである。

 

「……きっと、上手くいく筈だよね? セレナちゃんとアブソル」

 

 ボールに向かって小さく呟くと、反応してくれているのかカタカタと揺れる。

 

(そうだよ。だって、僕と君だって仲良くなれたんだから……―――)

 

 

 

 ***

 

 

 

 その日の夕方、『ホテル・コウジン』にて―――。

 

「コラ、セレナ! また勝手にあっちこっち行って! 心配したんだから!」

「ご、ごめんなさ―――いッ!」

「まったく……ん? その子は?」

「あッ……ジャジャーン! 新しくわたしの手持ちになった、ソルちゃん! とっても強いの……ってソルちゃん! わたしのお菓子勝手に食べないで―――ッ!」

「アッハッハ! いいわよ!じゃんじゃんセレナを懲らしめてやって!」

「マ、ママッ!? そんなァ~!」

 

 

 

 とある家庭で、家族が一人増えたと言う。

 


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