ポケの細道   作:柴猫侍

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番外編 マサラの三人

 

 

 カントー地方・マサラタウン。

 真っ白、始まりの色。

 そんな言葉が似合うような街はお世辞にも都会とは言えない、しかし緑が非常に豊かな街であった。

 カントー地方に住む人々に、『マサラタウン』と訊けば大多数の人は『オーキド研究所がある場所』や『元カントーチャンピオン・レッドの故郷』など、意外と多くの答えが返ってくる。

 

 その中、ここ最近増えてきている返答はこれだ。

 

『若手女優・ブルーの故郷』

 

 映画の本場・イッシュ地方のポケウッドでここ最近活躍している女優のブルーの生まれた地であるマサラタウン。

 カントーの有名女優で言えば、まず始めにヤマブキシティにジムを構える『ナツメ』を口にする者も居るが、ブルーはここ最近地方中にその名を響かせ始めている。

 

 マサラ出身の少年レッドがカントー地方最年少チャンピオンの記録を塗り替え、早三年。彼とライバル関係にあった弟を持っているナナミは、自宅でハピナスと共にテレビに向かっていた。

 時刻は午後七時と、テレビ業界で言えば『ゴールデンタイム』と呼ばれる視聴率の上がりやすい時間帯。

 放送されるのは老若男女問わないジャンルの番組であるが、その中でもポケモンコーディネイターであるナナミは一つの番組を毎週見ていた。

 

 それは―――。

 

『キラキラー! くるくる~……ミラクル☆ルチアの! コンテストスカウト―――ッ!』

 

 オープニング曲である『アピール☆ラブ』をバックミュージックに、太陽のような笑顔で決めポーズを決める少女。

 チルタリスと一緒に移る彼女―――ルチアは、パートナーのチルタリスに合わせる様な青と白を基調にした衣装で、画面に堂々と映っている。

 彼女はホウエン地方で有名なコンテストアイドルだ。

 

 言わば、ホウエン地方のみならず小さな女の子たちの憧れであり、多くの若い男性を魅了するルチアがメインパーソナリティの番組。

 それが『ミラクル☆ルチアのコンテストスカウト』なのである。

 

 ポケモンコーディネイターのナナミは、他地方のコーディネイターがどういうものであるのかを知りたく、毎週録画までしてこの番組を視聴していた。

 熱心に画面を眺めるナナミであったが、玄関の方から聞こえてくる音にフッと振り返る。

 

「お爺ちゃん、お帰り~」

「ただいまァ~、フゥ~……今日も疲れたわい」

「ハッピ~」

「おお、スマンなハピナス」

 

 研究所から帰ってきたのはナナミの祖父であり、同時にポケモン研究の権威であるオーキド・ユキナリだ。

 片手に持っていた研究資料が入っていると思われるバッグを、玄関まで迎えに行ったハピナスに手渡し、ナナミがテレビを観ているリビングまでやって来る。

 

「おお、ナナミ。またそれを見ているのか?」

「う~ん」

「はぁ……儂としては、ニュースが見たいんじゃがのう」

「えぇ~……お爺ちゃん、今日のこの番組のゲスト知らないの?」

「ゲスト?ゲストがなんなんじゃ」

「見てればわかるって」

 

 コーヒーを飲みながら熱心に画面を見つめるナナミ。画面では、ルチアがいつものようにオープニングトークを進めているが、ここで動きが現れた。

 

『そして、今回はゲストをお呼びしています! 先週は、カロス出身のエルちゃんでしたが……今回はなんと、女優さんです! イッシュから来て頂きました! どうぞ!』

『ど~もォ~♪』

『本日のゲストは、イッシュのポケウッドで大活躍の若手女優・ブルーちゃんです!』

 

 画面のはしから忙しない様子で映ってきたのは、黒いワンピースというシックな装い、且つ茶髪ロングの女性―――と思いきや、年齢的にはまだ少女に入る人物。

 予想外の人物にオーキドは目が点になる。

 

「ブルーじゃと!?」

「うん。先週の次回予告で見たから、今回は絶対見なくちゃって」

 

 三年前、レッドやグリーンと共にマサラタウンを旅立っていったトレーナーの一人で、リーグ三位の実績を有す少女は、コンテストアイドルの横でニコニコと微笑んでいる。

 

『番組、もう百回超えてやっていますけれども、女優の方のゲストは初めてかもしれません!』

『え、本当ですか!? 光栄って言うか、他の方達になんか申し訳ないっていうか……』

『何を言ってるんですか! そこはドラマや映画の演技のように、堂々として頂ければと……』

『アハハッ! そんなこと言われたら、はっちゃけちゃいますよォ~?』

『ウフフ! え~、今回はそんな元気なブルーちゃんとこのミナモシティを歩いて、新たなコンテストアイドルを探す為に各所を巡りたいと思います!』

『よろしくお願いしま~す!』

 

 流石、女優をやっているだけあって弾んだ会話で番組を最初から盛り上げていくブルーに、オーキドはやれやれと頭を掻く。

 自分の孫とは別の方面で有名になっている少女には、色々な意味で呆れた溜め息しか出ない。

 なんやかんやで知名度的には、三人の中で最も高いかもしれない。

 折角そんな彼女が番組にゲストで出ていることもあり、オーキドは白衣を脱いで椅子に座り、テレビを観賞するための体勢に入る。

 そうこうしている内に、番組は最初の他愛ない会話に入った。

 

『え~、まず簡単な経歴から紹介させて頂きます。生まれはカントー地方のマサラ出身ですね?』

『はい! 凄い田舎なところなんですけど……』

『いやいや! 自然が豊かってことは、野生のポケモン達とのふれあいも多いのではと』

『いや、自然多すぎて! ちょっとした秘境的な……アハハッ!』

 

 ある種自虐ネタのように、マサラタウンの田舎具合を口にする。

 否定できないと言わんばかりに、画面を見つめているナナミとオーキドは笑う。

 

『そんなブルーちゃんは、なんと十二歳の頃にカントー地方のポケモンリーグで三位の好成績! このころは、もうバリバリのポケモントレーナーで?』

『そうですね! なんていうか、その時期が一番暴れていた感じですね!』

『あ、暴れ……ですか!?』

『そうです! 暴れてました!』

 

 グッといい笑顔でカメラ目線を決めるブルー。

 確かに暴れていた。色々と。

 画面の端では、イメージ画像なのか荒ぶるケンタロスの画像が映っている。

 

『このように、ポケモントレーナーとして活躍していたブルーちゃんも……あの有名な女優であるナツメさんに誘われて女優になったんですよね?』

『はい! もう、今となってはこの業界での先輩で……ホントお世話になってます!』

『ナツメさん、女性なのにカッコいいですよね! 才色兼備、クールビューティー☆アクトレス! って感じで! そんな方に誘われ、今ではポケウッド期待の新人とされており、イッシュ地方のアンケートで期待の若手女優ランキングでは見事一位を獲得!』

『いえいえ……そんな……』

『さらに更に、日曜七時から放送されている『進化戦隊 ブイレンジャー』のブイグレイシア役に抜擢! 他にもドラマや映画でヒロインに抜擢されるなど、目覚ましい活躍を見せているブルーちゃんですが……最近はどうですか?』

『いや、ホント……忙しいのが楽しいですね!』

 

 満面の笑みで語るブルー。一体、本当であるのか嘘であるのか真意は分からないが、実際は半々だろうとオーキドは予想する。

 その理由は―――。

 

『でも、最近家族全員で過ごせないのがですねェ~、ちょっと……』

『あァ~……家族は何人で?』

『えェ~と……始めは父と母と弟とで四人ですね! 今はちょっと父の都合の関係やらでバラバラなんですけど』

『弟さんいらっしゃるんですか?』

『はい、居ますよ! 三つ下の!』

 

 やはり来たか、と苦笑を浮かべるオーキド。

 ブルーの話は、その大半が弟であるライトに関係するのだ。

 

『三つ下って言うと……十二歳! おお、是非コンテストに興味を持っていただきたいところ!』

『でも、うちの弟はバトル方面なんで……』

『いや、大丈夫です! いっちゃいましょう! 今度!』

『いっちゃいます!? いっちゃいますか!?』

 

 まるで女子高生のようなノリでトークを進めていくルチアとブルーの二人。ルチアは普段、一人で番組を進める時はタメ口なのであるが、ゲストが来ている時は例外的に敬語になるのだ。

 それでも、同年代の女性となると会話が弾むのか、溌剌とした笑みを浮かべながら会話に華を咲かせている。

 ブルーもまた、普段オーキドや幼馴染には絶対使わない敬語を用いているが、これも社会人として過ごしているのが理由なのだろう。

 

 すると、テレビを眺めている二人の視線が、画面右上に浮かんだテロップの『マネージャーが激白!』という部分に向かう。

 

『え~……ここで、ブルーちゃんのマネージャーさんから、ある情報を仕入れております!』

『え、ちょ、なんですか!? もしかしてスキャンダラスな!?』

『大丈夫です! え~『よく、食事などを一緒にさせていただくのですが、その時の会話の半分は弟の事。ブラコンなのはいいですが、もう少し自重して頂きたい。特に、大御所さんの休憩時間にまで弟の事を語るのはちょっと……』だ、そうです!』

『アハハハハッ!』

 

 口を手で覆って大笑いするブルーと、『ブラコンなんですか!?』と笑いながら問いかけるルチア。

 ここまで来ると番組冒頭の大人な雰囲気はどこへやら。年相応な明るい雰囲気のまま、番組は進行していく。

 先程までのテロップは『ブルー。まさかのブラコン!?』に代わっている。

 

『いや、だって……えッ、皆さん弟って可愛くないですか!?』

『具体的にはどこら辺が……?』

『小っちゃい頃はもうコロコロで~! 『お姉ちゃ~ん!』ってたどたどしい足取りでこっちに来て……素直な感じで! 今はもう、なんか反抗期的な……ガッツリじゃないんですけど、私のテンションについてこれなくて『ちょっと……』みたいに距離取られちゃうんですけど、それが面白くってからかっちゃうんですよね!』

『べた惚れですね! どんな感じの……』

『あッ、写メありますよ! 見ます?』

『ああ、それはもう是非……!』

 

 カメラに映らないように、ブルーが取り出した機器の画面を眺める二人。写真を見たルチアは、『あッ、可愛い~!』とブルーの弟を見た感想を端的に述べた。

 

『なんて言うか……ブルーちゃんが男装すればこんな感じなのかなぁ~っていう子です! これはもう是非コンテストに誘ってみたい感じですけれど……!』

『でも今、カロス地方に留学してて……本人はリーグ目指してますね!』

『それはつまり、ブルーちゃんの意志を継ぐように優勝目指してって言う感じで……』

『アハハッ! そんな大層な感じじゃないですけど、まあ姉として優勝してほしいところですね!』

 

 赤裸々に弟への想いを語るブルーの姿は、一部の者にとっては見慣れた光景だ。

 デレているのが明らかに見て取れる。

 

 そのような、番組開始のゲストとの軽いトークを数分間ほど進めていたルチアであったが、ふと足を止めてブルーを呼び止めた。

 

『ここまで楽しいトークをさせて頂いたんですけれど、もう目的地に到着しました! 今回、新たなコンテストアイドルをスカウトするのはこちら! ホウエン地方で最も大きいデパートと言われているミナモデパートで~す!』

『わァ~! 大きいデパートですねェ!』

『昨年、開業三十週年ということで大々的に感謝セールなどがニュースとなりましたが、食品や洋服、日用雑貨に加えてトレーナーの必需品も揃えられている、ここに来ればない物は無いとまで言われております! 今日はそんなミナモデパートにやって来ている人達をターゲットにやっていきましょ~!』

『イェーイ!』

 

 当たり障りのない番組の進行だが、美少女二人が常に画面に映っていることもあり、華は十分すぎるほどだ。

 次第にカメラは退いていき、デパートの中へ入っていく二人。その際、ブルーは茶目っ気たっぷりでカメラに向かい投げキッスをしてから、手を振った。

 

 ここまで来たところで画面はデパートの紹介映像に切り替わり、実際に買い物をしている人や一緒に訪れるポケモン達が画面に映る。

 カントーでのデパートと言えば、タマムシシティのタマムシデパートだろうが、ミナモデパートはそれよりも一回りか二回りほど大きい。

 オーキドの近くでは、『私も行ってみたいなァ~』などの言葉を漏らすナナミがハピナスのゆで卵の様につるつるな頭を撫でる。

 そんなハピナスに対し、オーキドの頭髪はまだまだ現役だ。流石、ポケモン研究会の権威と言うだけはある(?)。

 

「あァ~、そう言えばナナミ。お前、大学の夏休みはまだ終わらんのか?」

「大学の夏休みは長いんですゥ~。なに、お爺ちゃんは私にさっさとタマムシに帰って欲しいって思ってるの?」

「いやァ、そういう訳じゃないじゃがのう……」

「むぅ……研究手伝ってるのに……私の卒業論文のついでに」

「お前はまだ一年生じゃろうが」

 

 孫と祖父の会話は、終始孫のペースに祖父が飲まれる形となった。

 ナナミが予定している卒業論文は、『ポケモンのなつき進化について』だ。弟がトキワジムリーダーに就任したのに対し、ナナミは祖父のように研究者の道を進んでいる。

 そんな彼女の論文の内容は、ラッキーがハピナスに、イーブイがエーフィになどの“なつき”という特殊条件で進化するポケモンについてのことなのだが、内容が内容である為ササッと書くことの出来ないものだ。

 その為、現役研究者であるオーキドの下で、論文を書くための材料集めの為に彼の研究を、タマムシ大学の夏休みを利用して手伝っている。

 

「ふぅ……でも、なつき進化の事例が少ない、レベル進化との差別化も問題だし……エーフィもブラッキーもなつき進化で、その差別化も……一応時間帯での違いってことにされるけど、なつきだけと時間帯も関係するのも色々と……」

「……お前も苦労してるんじゃのう」

「お爺ちゃんも、なんで大々的にカントー地方は全部百五十匹って言ったのかしら……」

 

 ジト目で見つめてくる孫。

 『調べが足りないんじゃない?』と言わんばかりの目であるが、必死の弁解をオーキドは口にする。

 

「ここ二、三年でポケモンの生息地は大きく変わっておるのじゃ。カントーも昔は百五十匹だったという訳じゃよ」

「ふ~ん……不思議な不思議な生き物……ポケモン様様だね、お爺ちゃん」

「全くじゃ。お蔭で、研究テーマが尽きる事がないわい」

 

 二人同時に溜め息を吐く。

 研究テーマが多いという事は、研究者にとって喜ばしいことなのだろうが、余りに多いと辟易してしまうのは想像に難くない。

 研究が進んできたのも、ここ最近の話。新たな発見に次ぐ新たな発見により、研究テーマは加速度的に増えている。卒業論文を書かなければいけない大学生には嬉しい話だ。

 

 閑話休題。

 

「もう少し、資料が欲しいんだけど……お爺ちゃん、いい人知らない? なつき進化を研究してる人から、こう……資料を融通してもらったりとか」

「本職にせがむんじゃないわ、全く……」

「はぁ……じゃあ、なつき進化するポケモンを持ってる人は……」

「それは数えたらキリがないわ」

「う~ん……あッ、そうだ! お爺ちゃんが図鑑を渡して旅してる子にレポート頼んだりとか」

「そんなの儂も欲しいくらいじゃわ!」

「むむッ……」

 

 何とかして、資料を集める事はできないかと逡巡するナナミ。

 蟀谷を指でグリグリと揉みながら、良い案はないものかとテレビを眺める。画面には、ルチアとブルーのインタビューを受けている、少女のトレーナーが映っていた。

 

「ブルーちゃん……ブルーちゃん? ……弟……そうだ!」

「うぉッ!? 急にどうしたんじゃ?」

「私、ブルーちゃんの弟のライト君にレポート頼んでみるわ! 旅してるって言ってたから、ちょうどいいし!」

「なにィ!?」

「そうと決まったら、早速ブルーちゃんにライト君の電話番号教えてもらわなきゃっと……」

「お……おォい! ナナミ!」

 

 嬉々とした表情でリビングから飛び出ていくナナミの片手には、ポケギアがしっかりと握られている。

 これからブルーに電話を掛けるなり、メールで番号を聞くなりすることは容易に想像できた。

 図鑑を渡し、ポケモンも託し、それでもレポートが送られてくることが余りないオーキドからしてみれば、余りにも図太いと言うか―――。

 

「折角なら、儂にも頼ませてくれ―――ッ!」

 

 

 

 研究者は、色々と大変なのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 シロガネ山。

 其処は、ベテラントレーナーでさえ登山を躊躇う凶暴なポケモンの巣窟。もし入ると言うのであれば、付近に建てられているポケモンリーグに入山許可証を発行してもらわなければならないのだ。

 だが、発行してもらうためにもある程度の条件は必要であり、最低での地方のバッジ八つ全てを手に入れている程度の実力が無ければ、足を踏み入れる事は許されない。

 

 だが、そのような山で二、三年ほど過ごしているポケモントレーナーが一人。

 

「い~い湯~だな~……」

「ピカチュ♪」

「ヴィ~ヴィヴヴァヴァ~……」

「ピカチュ♪」

 

―――ブクブクブクブク……

 

 『アハハン♪』という合いの手が付きそうなハーモニーを唱えていた少年であったが、口元まで天然の温泉に浸からせることにより、泡が弾ける音しか聞こえなくなる。

 彼の横では、パートナーであるピカチュウが頭にタオルを乗せて、主人同様天然温泉に身を浸らせていた。

 シロガネ山に在るこの秘湯は、別名『ファイヤー温泉』とも呼ばれ常時発火性の高いガスが纏っているものの、傷を癒す成分がたっぷりであり、入れば瞬く間に疲れも吹っ飛ぶ知る人ぞ知る秘湯だ。

 温泉に入る彼の周りには、彼のパートナーであるポケモン達が一緒になって浸かっているものの、リザードンだけは離れた場所で待機している。

 

 更には、シロガネ山に住んでいるポケモン達も、この天然の温泉に身を浸らせており、全員が間の抜けた顔でグデーっと温泉の淵にある石に寄りかかっていた。

 リングマやヒメグマ、ドードリオなどを始めとしたポケモンの他に、ムウマやバンギラス、果てにはハガネールも。

 普段凶暴な彼等が、こうしてゆったりと温泉に浸かっているのは一重に、唯一この場にいるトレーナーが関係している。

 

 生ける伝説・レッド。

 

 彼こそが、このシロガネ山における首領なのだ。長い間、山で修行している間に叩きのめされてきたポケモンは、否応なしに彼と彼の手持ち達を首領と崇める。

 本人たちのあずかり知らぬ場所で。

 レッドにしてみれば、『平和だなァ~……』と呟く程度のことだ。

 

 だが、

 

「何がいい湯だな、だ。お前はよォ」

「痛い」

 

 ガンッ、と頭を何かで叩かれたレッドは、ゆったりとした動きで背後に居る人物を視界に入れた。

 

「……エッチ」

「誰がエッチだ。野郎の裸なんざ見ても嬉しくねえんだよ、馬鹿レッド」

「そういう馬鹿グリーンはごはんを持ってきてくれたんだね、ありがとう」

「感謝しろッ! なに『当たり前だろ?』みたいな顔で手を差し伸べてんだ!」

 

 レッドの前に現れたのは、現在トキワジムのジムリーダーを務めている幼馴染のグリーンであった。

 彼が持ってきたのは、年がら年中山籠もりしているレッドの為の食糧だ。

 だが、ここまで食糧を届けに来るためにはかなり面倒な手続きを踏まなければならない為、グリーンの労力は凄まじいことになっている。

 

「ニートまっしぐらのお前に食糧届けに来てる俺の身にもなってみろ!」

「……ニートじゃない。将来の夢は、専業主夫だから」

「実質ニートじゃねえか!」

「……全国の専業主婦&主夫の方々に謝れ」

「あ、すみません……ってなるか、コラッ! お前限定で言ってんだよ!」

「……どうでもいいから、ご飯プリーズ」

「やるかッ! その状態のお前に!」

「……じゃあいいよ。グリーンの黒歴史を皆に教えるから」

「おいおいおいおいッ! なにしようとしてんだ!?」

 

 ギャーギャーと騒ぎ立てる二人(主にグリーン)を、温泉に浸かっているピカチュウは『うるせーなァ……』と言わんばかりにジト目で睨む。

 ラプラスは既に逆上せて陸に上がり、カビゴンはプカプカと水面を漂い、プテラとエーフィに関してはカビゴンの腹の上で寝ている。

 

 

 

 腐れ縁な二人はその後も騒ぎ続け、後でピカチュウの“10まんボルト”を喰らうのだった。

 

 





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