ポケの細道   作:柴猫侍

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第四十三話 当たらなければどうということはない!

 

 

 

 正午過ぎのショウヨウシティ。今日もまた快晴な天候の下、二人のトレーナーはポケモンセンターで自らの手持ちの回復に努めていた。

 聞き慣れたメディカルマシーンの作動音と共に、ボールの中にポケモン達の体力は一気に回復していく。

 一分もかからない回復は終了し、それぞれの手持ちのボールが入っているケースを持って来るジョーイは、笑顔でカウンターで待機していた少年と少女にそれらを差し出す。

 

「お待ちどおさま! 貴方達のポケモンは、すっかり元気になりましたよ!」

「ありがとうございます、ジョーイさん!」

「いつもお世話になってまーす!」

 

 丁寧に感謝の言葉を口にするライトに対し、フランクな態度でジョーイに接するコルニ。そのような二人に対し、ジョーイは横に居るプクリンと共に立礼して『またのお越しを!』と、カウンターを後にする二人を見送った。

 自動ドアを潜り、外の空気を一杯に吸うライトはショウヨウシティの崖にそびえ立っている建物を視界に映す。

 

(あそこにジムリーダーが……)

 

 今日の目的は、ショウヨウにジムを構えている男―――ザクロを倒してバッジを手に入れる事だ。

 輝きの洞窟である程度バトルへのトラウマを克服したキモリを始めとし、手持ちの全体的なレベルは上がった。

 コルニとの実戦形式での練習試合も怠っておらず、動きや戦略もそれなりに練れている。

 後は、ジム戦で全てを出しきるのみと言ったところ。

 

(……メンバーはどうしよう)

 

 キモリは既に選出すると決めていた。今までのジム戦を考慮するに、使用ポケモンは二体以上と考えられる。

 となると、残りの手持ちの内で誰を選出すべきか。

 ライトの手持ちの中で最も力のあるストライクは【いわ】に弱く、二番手のリザードもまた【いわ】を苦手とする。強引に突破できるかもしれないが、それは相手次第だろう。

 ヒンバスは【みず】であるものの、強力な【みず】技を有してはいない。バトルの仕方も状態異常でじわじわと体力を削っていくというものであるが、ヒンバス自身の耐久はイマイチである為、わざわざヒンバスを選出する必要も見当たらない。

 となると、無難になるのはイーブイだ。【ノーマル】は【いわ】に対し、攻撃面は苦手であるものの防御面では等倍。しかしイーブイは【いわ】に有効な【じめん】技を覚えており、他にも有効な手立ては充分に所持している。

 

(じゃあ、キモリとイーブイと……)

「なーに難しい顔してるの?」

「……ん?え、ああ……ちょっとジム戦のことを……」

「そんな心配しなくたって大丈夫だって! あんなに頑張ったじゃん! きっと行けるよ!」

「もう……他人事みたいに言ってさァ」

「アタシが保障するって! 未来のジムリーダーがさ!」

「……ははッ、そっか」

 

 いい笑顔で言い放つコルニに、先程までの難しい顔を緩ませる。

 余りのいい笑顔に、反論する余地も見いだせない。少し心にゆとりを持てたところで、ライトはグッと背伸びをしてジムへと向けて足を進め始めた。

 誰をバトルで繰り出すのかなど、実際相手を見てみれば事前の選出など意味を為さなくなる場合も充分考えられる。

 タイプ相性だけでなく、実際に瞳に映した相手の戦い方でもだ。

 

 ならば、今することはジム戦を行う場所へと突き進むのみ。

 

「よし……ジム戦頑張るぞォ~!」

「フフッ! その調子その調子!」

 

 目を輝かせて意気込みを口にするライトに、ベルトに装着されているボールもカタカタと揺れて、主人の昂ぶりに呼応する。

 彼等の熱く滾る姿に、コルニも煽るようにライトの背を押してジムへと早く着くように促す。

 直後、背中を押されて一歩前に出たライトは、その勢いのまま全力で走りだした。

 

 早まる鼓動と共に、少年は突き進む。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ぜぇ……はぁ……」

「さ……坂が長かったァ……」

 

 汗を滝のように流し息も絶え絶えとなっている二人。彼等はようやくジムの目の前までやって来たのだが、途中の道の坂の多さに舌を巻いていた。歩きではなくダッシュであったのも相まって、彼らの疲労は凄まじいことになっている。

 それは兎も角、息も絶え絶えとなりながらジムの入り口である岩の門を潜ると、荒々しい自然を表すかのような岩壁が前方にそびえ立っているのが窺えた。

 

 目を凝らしてみると、岩壁には赤・青・黄などカラフルな色合いの突起が着けられているのが確認できる。

 となると、あの岩壁も人工物なのか。

 

 そう考えていたライト達の目の前に、突然黒い影が落下して来た。

 

「―――ようこそ、ショウヨウジムへ。挑戦者の方ですね……おや、君達は……」

「数日振りです、ザクロさん!」

「これはこれはコルニさんと……ライト君、でしたよね? 挑戦者は君ですね?」

「はい!」

「……成程。では、早速こちらへ」

 

 何やら納得したかのように頷いたザクロは、そのまま後ろに振り返って岩壁の下へと進んでいく。

 続くようにライトとコルニもまた、ザクロの背を追う様に足を進めるが、彼が足を止めたと同時に二人も止まった。

 岩壁の前に立ち尽くすザクロ。次の瞬間、ザクロはバッと振り返ってライトを見つめる。

 

「ここはジムであると同時に、ロッククライミングもできる場所でして……」

 

 そう言ってザクロは岩壁の頂上付近を指差す。

 顔を向ければ首が痛くなるほどの高さだ。高さで言えば二十メートルほどであるが、満面の笑みでザクロはとんでもないことを言い出した。

 

「可能であれば挑戦者の方達にもロッククライミングの楽しさを伝えればと、可能であればここを上ってもらう様にしています」

「え゛?」

「勿論、高所恐怖症の方の配慮も忘れてはいません。駄目と言うのであれば、エレベーターもちゃんと用意してありますので、そちらも使って頂けます」

 

 目の前の男の説明を聞きながら、地上と頂上を行ったり来たりするように顔を動かして眺める。

 昔から木登りなどはしていた性質ではあるものの、ロッククライミングなどはしたこともなければ、これほどの高さを上ったことも無い。

 明らかにアマチュアには厳しいであろう高さに、暫しライトは茫然と佇む。

 

「安心して下さい。上らないからと言って挑戦を受けないという訳ではないので。ですが、もし上ったのであれば、栄養たっぷりの木の実を十個ほどプレゼントしますので……」

「……う゛~ん」

(それで悩むんだ……)

 

 木の実と聞いてから、何やら上ろうか上るまいかと頭を抱えて悩み始めるライトに、コルニは思わず苦笑した。

 木の実など、旅をしていれば幾らでも手に入るのだが、それでもライトは欲しいようだ。

 最近、手持ちに食べさせるポケモンフーズに木の実を入れたりと、味や栄養に気を遣っている為、今日の分の木の実を手に入れたいという考えなのだろう。

 

 それから数秒唸った後、ライトはバッと顔を上げて宣言する。

 

「上ります!」

「わかりました。もし、途中で駄目というのであれば、滑り台が各段に配置されているので、そこから滑り下りてからエレベーターで来るようにしてください」

「はい!」

「それでは……上で待っていますよ」

 

 ライトの答えに満足そうに頷いたザクロは、天上の吹き抜け辺りで旋回するように飛翔していたプテラに肩を掴まれ、そのまま舞い上がってフィールドがある頂上へと向かって行った。

 因みに、ザクロが満足そうなのは、ここ最近上ってくれる挑戦者が居なかった為だ。在る者には『ちょっと……厳しいです』と引き気味に言われ、ある者には『ス、スカートですので遠慮させて頂きますわ!』と顔を真っ赤にされて断られ、余りの不人気さに落ち込んでいたところだった。

 

 閑話休題。

 

 上り意志を見せたライトは、自分の頬を両手で叩いて気合いを注入している。そのような少年を見届けたコルニは、いち早くエレベーターに乗り込んで頂上を目指す。

 

「頑張ってね―――ッ!」

「うん!」

 

 準備運動も済んだところで、早速と言わんばかりに岩壁の各所に付けられている突起に手を掛けて上り始める。

 

(あッ、意外といける)

 

 手を掛けてみると、突起にはしっかりと指をはめ込む窪みもあり、足も駆けられるようにと奥行きが十分に確保されていた。

 これならば思ったよりも早く上れると確信したライトの動きは速くなり、次々と手足を突起に掛けてキモリのようにピョンピョンと上に突き進んでいく。

 だが、途中で違和感に気付いた。

 

(あれ? なんか忘れてるような……)

 

 そこまで考えたところで、フードが異常に揺れていることに気付き、『しまった』と言わんばかりにチラリと後ろを振り返った。

 

―――プルプルプル……。

 

「ゴメン、イーブイ! 次の段に行ったらボールに戻すから、それまで我慢して!」

 

 涙目で震えているイーブイを確認したライトは、できるだけ揺らさないように努めながら上っていくのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ドーはドードーのドー……レーはレディバのレー……ミーはミルタンクのミー……」

 

 学校で習った『ポケモン☆ドレミの歌』を口遊みながら天辺を目指すライト。ほぼ無心状態であるが、意外と歌詞はすらすらと出て来るものだ。

 

「ファーはファイヤーのファー……ソーはソーナノのソー……ラーはラッタのラー……シーは『シルバースプレー、定価五百円で~す』のシー、さあう~た~い~ま~……しょお!!」

 

 ちょうど歌い終わった所で、フィールドである頂上に手を掛け、一気に体を上げたライト。

 頑張って足もフィールドへ上げてから立ち上がり周りを見渡すと、既に観戦席に座って待機しているコルニの姿と、うんうんと頷くザクロの姿が在った。

 

「……私が少年の頃はシルバースプレーなどなく、虫よけスプレーだけでした……」

「そうなんですか」

「それが今や、ゴールドスプレーなどの上位互換品が……すみません、関係のない話でしたね」

「いえ、半分僕のせいなので」

 

 シュールな会話を終わらせたところで、ザクロは凛とした顔でライトを見つめる。それが否応なしに、場の緊張感を高めていくがライトは笑みを浮かべていた。

 ロッククライミングで十分すぎるほど身体は温まり、酷使する脳味噌の回転もそれなりに速くなることが期待されそうだからだ。

 これならば、木の実を餌に出されなくてもするべきであるとさえ考えてしまう。

 

 だがそれは、身体能力が元々高いライトであったからこその感想であり、普通の人が行えばバトルどころではない。

 そんな話は別として、ザクロは長い腕を丹念にストレッチで伸ばしながら、ジム戦の説明へと移行する。

 

「前回と差異がなければ、バッジは二個である筈ですが……」

「はい、二個のままです!」

「それならば、今回のジム戦の形式は手持ち三体を使用するシングルバトルです。入れ替えは挑戦者のみ認められます。ですが、技による強制交代は認められているのであしからず」

「わかりました!」

「それでは……まずはこの子です。アマルス!」

 

 放り投げられるボールから岩のフィールドへと姿を現したのは、首長竜を思わせるポケモン。

 宝石のような瞳は透き通っており、見る者の心を惹きこませるようだ。

 見た目は優しそうだが油断は禁物。自分の所持しているバッジに合わせて繰り出されたポケモンが、自分にとって楽勝な相手であるはずがない。

 そう自分に言い聞かせた後に手に取ってサイドスローで投げたボールから出て来るのは―――。

 

「イーブイ、君に決めた!」

 

 【ノーマル】タイプのイーブイ。

 その選出にザクロは『ほう』と声を漏らすも、ただ考えも無しにライトが【ノーマル】を繰り出したのではないと理解する。

 得意はないが、不得意も限りなく無い【ノーマル】。故に、幅広い相手に対して立ち回れるのが強みであり、同時にトレーナーの力量も試される。

 

 不敵な笑みを浮かべるザクロに対し、ゴクリと唾を呑み込むライト。

 

 次の瞬間、フィールドの中央線の延長線上に立っている審判が旗を振り上げた。

 紛れもない試合開始の合図に、ライトはすぐさま咆える。

 

「“しっぽをふる”!」

 

 百八十度その場で回転するイーブイ。空気をたっぷりと含んでフワフワに仕上がっている尻尾を可愛らしく振って、アマルスの【ぼうぎょ】を一段階下げる手段に出た。

 成程、全体的に【ぼうぎょ】の高い【いわ】タイプであるが、無難に相手の能力値を下げるところから出てきたか。

 挑戦者の動きをじっくりと観察した後に、ザクロもまた動く。

 

「“でんじは”です!」

 

 目を見開くライト。

 しかし、相手に背を向けて尻尾を振っているイーブイは、宙を駆ける弱い電撃を避けきる事も出来ず、真面に“でんじは”を喰らってしまう。

 

(状態異常にする技から!? 思ってた攻撃と違う……)

 

 だが、相手が状態異常の攻撃をすると考えていなかった訳ではない。相手を封じる手があれば、自分だって真っ先に使う。

 しかしここでライトが驚いていたのは、“でんじは”という技を繰り出してきた相手が【いわ】タイプであるということ。

 となると―――。

 

「アマルス、“オーロラビーム”!」

(特殊攻撃が得意な【いわ】タイプなのか……―――!?)

 

 直後、アマルスの口腔から解き放たれた虹色の光線を真面に受けるイーブイ。下方に顔を俯かせてから、天を衝くように首を振り上げたため、フィールドには一直線の綺麗な凍結した線が浮かび上がる。

 “でんじは”で【まひ】となり、“オーロラビーム”を喰らったイーブイは苦悶の表情を浮かべた。

 しかし、未だに戦意が引いていない瞳を見れば、まだ戦える事は一目瞭然。

 

 ならばすることは一つ。

 

「イーブイ、“リフレッシュ”!」

「……“リフレッシュ”ですか」

 

 指示を受けたイーブイ。すると、その小さな体は淡い白い光に包まれていき、先程まで体の周りを走っていたスパークが消えていく。

 淡い光も次第に消えていくが、完全に消え去った時、そこには痺れが完全に抜けてニヤリと笑みを浮かべるイーブイの姿があった。

 自分の【まひ】や【どく】、【やけど】を治す技―――“リフレッシュ”。

 

 これで、実質最初のアマルスの行動は無かったことにできる。

 相手の【ぼうぎょ】の能力値は一段階下がっており、攻めるのであればまさに今だ。

 

「“あなをほる”!」

「成程。ならば“しろいきり”です、アマルス」

 

 凄まじい勢いで地面に穴を掘って姿を消していくイーブイに、無理に追撃するのではなく自分の周りの状況を整えるよう指示するザクロ。

 長い首で頷いたアマルスの体からは、靄のような白い煙が溢れ始め、瞬く間にアマルスの周囲がドライアイスの煙が立ち込めているかの如く真っ白な煙で一杯になった。

 

(……“しろいきり”は能力値を変動させる技を無効化にする技だった筈……でも、今は好都合だ!)

 

 これで“しっぽをふる”や“なきごえ”などの能力変動を受けなくなったアマルスであるが、“しろいきり”を繰り出す以前の能力変動までが無かった事になる訳ではない。

 そして、立ち込める白い霧は足元の視界を妨げているに等しいのだ。

 つまり―――。

 

(真下から攻められる!)

「今だ、イーブイ!!」

 

 雲海を突き抜ける様にして地面から飛び出してきたイーブイは、アマルスの胴体を確実に捉えた。

 苦悶の表情を浮かべるアマルスを見るに、効果抜群なのは一目瞭然。先程繰り出した“オーロラビーム”や“しろいきり”を考慮するに、アマルスのタイプは複合だ。

 

(恐らく、【いわ】と【こおり】……!)

 

 本来、【いわ】が苦手とする【くさ】に対して効果抜群を取ることのできる【こおり】。先発をキモリにしていれば、アマルスの【こおり】技にやられていたと冷や汗をかくライト。

 だが、【ノーマル】のイーブイであったからこそ―――ガッツのあるイーブイであったからこそ、耐える事ができて尚且つ反撃に出る事も出来た。

 

「そのまま“かみつく”!」

 

 “あなをほる”からのコンボで、肉迫している相手にそのまま噛み付くイーブイ。しかし、アマルスの胴を噛んだイーブイの眉間には、凄まじい程の皺が寄り、苦悶の表情ともとれる色を浮かべ始めたパートナーに、ライトは何事かと目を見開いた。

 

(まさか……アマルスの体から出る冷気で……!?)

「ッ、すぐに距離をとって!」

 

 叫ぶように指示するライト。

 だがイーブイは離れず―――否、離れることができず、そのままアマルスにかみついたままとなる。

 アマルスの体から溢れだす冷気がイーブイの口の周りを凍てつかせ、技を喰らうとは一味違った苦痛を味あわせているのを理解したライトは、自分の浅慮に心の中で舌打ちした。

 

「アマルス、自分の周りに“こごえるかぜ”です!」

「イーブイ!?」

 

 ザクロの声が響けば、指示通りアマルスの周囲に途轍もない冷気が渦巻き、アマルスを噛みついているイーブイごと冷気の旋風の中へと誘う。

 最早こうなってしまえばどうすることも出来ない。

 数秒の冷気の旋風。それが終わると同時に、冷気の中心に佇んでいたアマルスは何事も無かったかのように澄ました顔を浮かべるが、足元に居るイーブイは身体の到る所に氷を張りつかせてのびていた。

 

「くッ……イーブイ、戻って!」

 

 戦闘不能。

 三対三で戦うルールの下で、ライトは格上である相手に一歩先を行かれてしまった。そのことに、少なからず焦燥と動揺は顔に出る。

 

「さあ、ライト君。二体目のポケモンを」

 

 イーブイをボールに戻して次なるボールを手に取ったライトをザクロは促す。

 するとライトは、かつてない程に険しい顔を浮かべ、ボールを上空に放り投げた。

 

「ストライク!! お願いッ!!」

「ストライク?」

 

 その名に、ザクロは眉をひそめた。

 ストライクは【むし】・【ひこう】であり、【いわ】とは相性が最悪であった筈。血迷ったかとも思える選出に、今度はザクロが動揺を隠せない。

 フィールドに出てきたポケモンを一瞥すれば、ライトが口にした通りストライクが鎌を構えて岩場に佇んでいた。

 

「……どういう作戦かは分かりませんが、堅実に行かせて頂きます。アマルス、“でんじ―――」

「“はがねのつばさ”ァア!!」

「―――は”……!?」

 

 瞬間、大地を蹴って飛翔するストライクの翅が鋼の如く金属光沢を放ち、“でんじは”を繰り出そうとするアマルスに肉迫してきた。

 

 

 

―――速い。

 

 

 

―――いや、速過ぎる……!

 

 

 

 お世辞にも【すばやさ】は高くないアマルスにとって、“はがねのつばさ”を繰り出してくるストライクの俊敏さは次元が違った。

 “でんじは”を繰り出そうと口腔に弱い電気を収束していたアマルスであったが、その隙に淡い水色の胴体に鋼を叩きこまれる。

 【いわ】と【こおり】のどちらの弱点もつく【はがね】タイプの攻撃。

 

 それを、【ぼうぎょ】を一段階下げられているアマルスが受け切れる筈も無く、

 

「……お疲れ様です、アマルス。ゆっくり休んでいてください」

 

 倒れた。

 元々ライトがストライクの弱点である【いわ】と【こおり】に対抗するべく覚えさせていた技。そのどちらもが、アマルスに突き刺さったのだ。

 

「成程。その速さと攻撃力……更に君が持ち出してきたのは、岩をも切り裂く鋼の矛と言ったところでしょうか」

「……相性が」

「?」

「相性が悪くたって、当たらなければどうってことありません……!」

「……その通りですね」

 

 鋭い眼光を浮かべるライトとストライク。

 互いに信頼して過ごしてきた彼等の瞳は、笑ってしまう程に似ている。よほど、あのストライクを信頼しているのだと、ザクロはある種の尊敬の念を抱く。

 でなければ、【いわ】のエキスパートにストライクなど出してくる筈も無い。

 

 ライト達の信頼を確認したところで、ザクロは次なるボールに手を掛けた。

 

「ならば私は、その速さに対抗してみましょう! 硬いだけが岩ではありません……鋭きもまた岩! 出て来なさい、プテラ!!」

「プテラ……!」

 

 ボールから飛び出し、翼を羽ばたかせるのはバトルシャトーや、つい先程も目にした翼竜。

 その【すばやさ】は、ストライクにも勝っているかもしれない。

 俊敏な動きで相手を翻弄しようと考えで繰り出したストライクにとって、同じスピードタイプの相手は相性が悪いことこの上ない。

 【いわ】本来の耐久こそなけれど、その【こうげき】は充分であり、尚且つポケモンの中でも屈指の【すばやさ】。

 対してストライクは【こうげき】と【すばやさ】は高く、他は並といったところ。

 

 つまり―――。

 

((先に攻撃を決めた方が勝つ……!))

 

 速攻型の二体。

 確実な一撃を初めに叩き込んだ方が圧倒的な優位に立つ。それを理解した二人のトレーナーはすぐに動いた。

 

「「”つばめがえし”!!」」

 

 

 

 

 

―――疾風の第二ラウンド、開始

 




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