ポケの細道   作:柴猫侍

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第五十六話 名前も声も知らないあいつ

 

 

「贈り物はどれがいいかな……」

 

 ヒヨクシティのとある店の中で並べられている商品を眺めているライト。今日が年に一度の祭りということもあり、店からしても書き入れ時だったのだろう。道を共に歩いていた四人は、店員に誘われるがままに店の中に入っていった。

 特に統一性のない商品が並んでいるが、逆に言えば豊富なラインナップがあるということであり、贈り物を選ぶには最適の場所だ。

 勿論、ここで良い物が見つからないのであれば他の店に行こうとも考えているライトであったが、一先ずはこの店で探す事にしていた。

 

 主に多いのはアクセサリーであるが、自分のパートナーに似合うような物を見つけられるかどうか。

 う~んと顎に手を当てながら思案を巡らせる。

 

「……別にアクセサリーとかじゃなくてもいいのかなぁ?」

「それでもいいんじゃない?」

「あ、デクシオ……」

 

 しかめっ面を浮かべるライトに歩み寄ってきたのは、小さい紙袋を携えるデクシオ。プラターヌに通じるような爽やかな笑みを浮かべながらやって来た彼の傍らには、ゼニガメではない亀ポケモンが佇んでいた。

 ふさふさとした耳と尻尾を生やすポケモンは、きりっとした顔でライトの方を見つめてくる。

 

「この子って、ゼニガメが進化した子?」

「ああ、そうだよ。ショウヨウに着く前には進化したんだ」

「ほうほう……」

 

 ヒトカゲがリザードに進化したように深みを増した皮膚を有すポケモンに図鑑を翳す。一応、カントーでも有名なポケモンであるため、名前だけであれば知っているポケモンではある。

 

『カメール。かめポケモン。ふさふさの毛で覆われた大きな尻尾は、長生きするほど深い色合いに変わる。甲羅のキズは強者の証』

「強そうだね! 他にはどんなポケモン居るの?」

「う~ん……スボミーがロゼリアに進化して、ヤヤコマもヒノヤコマに進化したんだ。最近捕まえたのはイーブイかな。ライトはどうなの?」

「僕はハッサムとリザード、ヒンバス、イーブイ、ジュプトルの五体だよ」

「ハッサム? ああ、ストライクが進化したんだね。ハッサムのタイプは、カロスのどのジムでも通用すると思うから、少し羨ましいよ」

「へぇ~、そうなんだ」

 

 更にデクシオの話を聞けば、ライトの獲得していないジムのタイプは【くさ】、【フェアリー】、【エスパー】、【こおり】であるらしく、その全てにおいてハッサムは相性的には有利らしい。

 エースが存分に活躍できそうな今後に『おおっ!』と声を上げるライトであったが、今日問題であるのは祭りでの贈り物だ。

 今後の手持ちとの関係を親密にしていくためには、是非ともいい物を贈りたいところであるが―――。

 

「因みにデクシオは何を贈るつもりなの?」

「僕かい? みんなの団結力を高めたいから、ポケモンにも着けられるバンドを買ってみたよ」

「バンドかぁ……」

 

 下手にそれぞれに合った物を買うよりも、統一感のある贈り物をするというのもまた一つの手だと納得する。

 『じゃあ僕は少し外で皆の買い物を待ってるよ』というデクシオを見送った後に、再び買い物に戻るライト。

 ネックレス、ブレスレット、イヤリングなど豊富なアクセサリーの他に、ハンカチやポケモン用の洋服なども取り揃えられているが、統一感のありそうな物はない。

 

「う~ん……」

「お客様、どうかなされましたか?」

「えっ? あっ、はい……ポケモンへの贈り物をどうしようかなって」

 

 唸っていた少年を見かねてやってきた女性の店員。このまま一人で悩んでいても良い案は浮かんでこないだろうと考えたライトは、素直に贈り物のことを口にした。

 この祭りが年に一回行われる盛大なものであるのならば、店もその都度自分のように悩んでいる客へのアドバイスはしているだろうという考えの下だ。

 打ち明けるライトに対し、笑顔を浮かべる店員。

 

「はい、畏まりました! どういった物をお探しだったりとかはございますか?」

「えっと……統一感が出そうな物で……」

「アクセサリーなどの装飾品といった感じで?」

「はい。あと、あんまり高過ぎない値段でお願いします……」

 

 子供の自分が贈り物の為に万単位の金を払うことはできないので、苦笑を浮かべながらそのことを伝えるライト。

 すると店員は『はい!』と溌剌とした返事を返し、店の少し奥へと消えていく。

 何か持って来るのだろうかと予測を立てるライトであったが、案の定何かを持ってきた店員を見て、目を見開いた。

 店員が持ってきたのは、色とりどりの布のような物。

 

「それでは、このバンダナなどはいかがでしょうか? 今、祭りの最中ですので通常よりもお安い価格で販売させて頂いております。一つに付き、六百円ほどですが……」

「う~ん……じゃあ、それでお願いします」

「畏まりました! それでは他の色のバンダナもある場所へとご案内しますので、どうぞこちらへ!」

 

 手持ち分だけを買うとすると合計三千円になる訳だが、そこは自分の小遣いから奮発すればいいだけの話だ。

 意外とすんなり決まった贈り物。手持ちに似合う色を探す為、ライトは店員に案内されていくのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ふぅ……これから何する?」

 

 時刻は午後四時を過ぎ、誓いの樹の下に居る係員に購入した贈り物を預けた四人。現在彼等は、祭りが開催されるまでの時間つぶしに再び街の方へと戻っている。

 その為に高台の方から海岸の方の街に戻るモノレールに乗っているのだが、コルニは年甲斐も無くはしゃいでいた。隣では苦笑を浮かべるライトであるが、内心は興奮しているといった状態だ。

 開けた土地を高い場所から見下ろす。

 ある方向に目を遣れば、一面草原である中に佇む一本の巨木。また、ある方向に目を遣れば賑やかな街並みの向こうで日光を反射させている美しい海。

 やや日も落ち始めているのもあり、少しばかり赤みを増し始める海はルビーのような輝きを放っている。

 そんな幻想的な風景を眺めながらライトの問いに反応したのはジーナであった。

 

「そうですわね……折角ですし、皆でポケモンバトルでも致しません? その後は、親睦を深める意味でポケモン達も交えて夕食……そして万全を期して祭りへ!」

「うん、それがいいんじゃないかな」

「オッケーオッケー!」

「じゃあ、そうしよっか」

 

 ジーナの提案にのる三人。

 聞くところによれば、デクシオとジーナは既にヒヨクジムを攻略しているらしく、ジムバッジの数で言えば全員同数ということになる。

 一つ違う事と言えば、ライトの四つ目のジムバッジを賭けたジム戦は、通常のバトルよりも熾烈を極めていたということか。

 だが、そのことについてデクシオとジーナの二人は知る由もなく、ライトとコルニの二人も話していない。

 

 それは兎も角、ポケモンバトルをすることになった四人は、どういう形式でバトルをするかについて話し合っていた。

 

「どうします? 四人も居る事ですし、シングルのトーナメント形式にするか……それともダブルバトルにするかですわね」

「ダブルでいいんじゃない?」

「じゃあ、どうやって決めますの? やはりここはグーパーですか?」

 

 拳を掲げてニヤリと微笑むジーナ。無言で肯定する男子二人に対しコルニは、『おっ、いいねいいね!』と意気揚揚と拳を突きだす。

 そして全員が拳を出したのを出したのを確認しジーナが、口を開いた。

 

「それでは恐縮ながら、あたくしが掛け声をやらせて頂きますわ……グッとパーでわかれましょう! ……って、ライト! 何を茫然としてるんですの!?」

「……いや、タイミングが……」

 

 四人の中で唯一茫然としていたライト。否、茫然というよりは唖然とした様子且つ困惑した表情を浮かべるライトは、とあることを口にする。

 

「マサラでは『グーパだよ』で、アルトマーレでは『グットッパ』だったから……」

「……あるあるだね」

 

 じゃんけんを用いての組み分けあるあるの一つ・『地方で掛け声が違う』が遺憾なく発揮された瞬間であった。

 それを冷静に捉えたデクシオは、『しょうがないよ』と一言フォローする。

 

 その後、ライトはしっかりとカロス式の組み分けを教えてもらうのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 結果的には男子組と女子組に別れた二人は、街の広場に必ずといっていいほど存在するバトルコートを求めて、モノレールを降りた後に街を散策していた。

 あと数時間で祭りが始まるという事もあり、ライト達が来た時よりも街は活気を帯びている。

 祭りというと、ライトの頭の中では『わっしょい!』という風な勢いのあるものが浮かべられていたが、カロスの方であるとどうやらクリスマスやバレンタインなどのイベントと同じような感じであるらしい。

 因みに、アルトマーレに来てからクリスマスなどの際は、専らカノンの家族と共に過ごすことが多いライト。バレンタインには何度か義理チョコも貰ったことがある。

 

(そう言えば、夏になったら水上レースがあるんだっけか……今年は誰が優勝するんだろう?)

 

 地元の祭りのことを思い浮かべつつ、バトルコートを探索するライト。

 すると町案内の看板を眺めていたデクシオが声を上げる。

 

「皆、バトルコートはあっちにあるらしいよ」

「おっ、じゃあ早速行ってみよう!」

 

 デクシオの指差す方向に向けて駆け出す女子二人。行動力がある二人の背中を眺めながら男子二人はのんびりと追いかけていく。

 因みにライトのイーブイは贈り物選びの時からボールの中で待機中である。できるだけサプライズになればいいと考えるライトの心意気によるものだ。

 だが、心なしか首回りが寂しいと感じたライトは、歩いている途中でイーブイをボールの中から繰り出して直ぐにフードの中へと納める。

 

「よしっ」

「ブイッ!」

 

 装着完了と言わんばかりのきりっとした顔を浮かべるライト。イーブイも、数時間振りのフードに嬉しそうな顔を浮かべる。

 

『わぁ―――ッ!!!』

「……ん? なんだろう、あの歓声?」

「誰かがバトルしているんじゃないかな?」

 

 不意に遠方より聞こえてくる歓声に何事かと駆け足で、女子二人が向かった先に行くライト達。

 だんだん道が開けていくと広場の一角にあるバトルコートの周りに人だかりができているのが見える。恐らく、デクシオの言う通り既に誰かがポケモンバトルをしているのだろう。

 女子二人は既にギャラリーの一員となって、繰り広げられているバトルに夢中になって観戦していた。

 

「クリムガン、“ばかぢから”だっ!!」

 

 バトルコートの両端で佇んでいるトレーナーの二人。その内、『クリムガン』と呼ばれる赤と青基調の皮膚を有すドラゴンポケモンが、蛙のような姿のポケモンに向かって、剛腕を振り回した。

 だが、蛙のポケモンはその場でバク転をして、クリムガンの攻撃を回避する。相手を捉える事の出来なかったクリムガンは、すぐさま追撃しようと周囲をキョロキョロと見渡すが、先程まで目の前に居たポケモンを見つける事ができない。

 

「クリムガン、腕! 腕!」

「? ……グァ!?」

 

 トレーナーの声を聞いたクリムガンは、言われた通りに振り抜いた状態のままの腕を見てみる。

 するとそこには、腕を組んで悠然と佇んでいる蛙ポケモンの姿が在った。

 余りにも軽快な動きに、周囲の歓声はヒートアップしていく。

 

「くそっ、“ドラゴンクロー”で攻撃だ!」

「グォア!」

「躱せ」

 

 エネルギーを収束させて、自分の片腕に佇んでいる相手を仕留めようとしたクリムガンであったが、直前に蛙ポケモンのトレーナーの指示によって飛んだ蛙ポケモンに躱されてしまう。

 空を切る結果となった攻撃の勢いのままその場で一回転するクリムガンに対し、蛙ポケモンは宙で錐もみ回転をしながら、シュタッと華麗に着地する。

 

「ゲッコウガ、“れいとうビーム”」

「コウガッ!」

 

 『ゲッコウガ』と呼ばれたポケモンは、両手で印を組む動作を見せるや否や、両腕を前に突きだして掌から冷気が凝縮された一条の光線をクリムガンに解き放つ。

 【こおり】タイプの技である“れいとうビーム”は、【ドラゴン】タイプであるクリムガンに効果が抜群だ。

 しかし、余りのゲッコウガの動きの速さに付いていくことができなかったクリムガンは、そのまま直撃を喰らってしまう。

 

 『パキパキ』と凍てつくような音が響くこと数秒。冷気によって発生した靄が晴れると、氷漬けになっているクリムガンの姿が露わになり、ギャラリーの歓声は今までで一番大きくなった。

 戦闘不能になったクリムガンをボールに戻すトレーナーに対し、ゲッコウガに指示を出していたトレーナーは『ふうっ』と一息吐いて歩み出す。

 

「よくやった」

「コウガッ」

 

 短い労いの言葉を掛けた後、リターンレーザーをゲッコウガに照射してボールの中へと戻す。

 そのままゲッコウガのトレーナーである灰色の髪の少年は、スタスタとバトルコートを足早に去っていく。

 その様子は、既に此処に用事はないというかのような態度だ。良識的なトレーナーであれば、バトルを終えた相手と握手をする筈だが―――。

 

「なーんか、スカした人ですわね……」

「まあ、そういう人も居るってことじゃないかな?」

 

 ゲッコウガのトレーナーの事を余り良く思っていないらしいジーナは、『ふんっ』と鼻を鳴らして目を細めて去っていく少年を見つめる。

 そんなジーナを宥めるデクシオは、バトルコートの周りを確認して、次にバトルを行おうとしているトレーナーたちが居ない事を確認した。

 

 同時に、いつでもバトルに臨めると言わんばかりに準備運動をするライトとコルニの二人を手招き、バトルコートへと進んでいく。

 するとギャラリーからは『おお、行くのか!?』や『坊主と嬢ちゃんたち、頑張れや!』などといった声援が飛んで来るため、四人は若干恥ずかしそうな顔を浮かべながらボールに手を掛ける。

 

「ようし、おい来なさい! マリルリ!」

「ル~リ~!」

「初陣だよ! ファイト、ヘラクロス!」

「ヘラッ!」

 

 女子組が繰り出してきたのはマリルリとヘラクロスの二体。となると、こちらが繰り出して行きたい選択肢の中に【くさ】が含まれる為、ライトが繰り出したのは―――。

 

「ジュプトル、お願い!」

「ジュプト! ジュプト!」

「え、ちょ、どうしたの!?」

 

 繰り出すや否や、涙目になりながらライトに抱き着いてくるジュプトル。過去のまだまあバトルがトラウマだった頃を彷彿とさせる姿に、ライトとコルニは目が点になる。

 ジュプトルが、凄まじい速さで首を横に振っている辺り、どうやらバトルをしたくないという意思が窺えた。

 だが、これまでに何度も戦って来てシャラジムでは二体を撃破するなどの活躍を見せているジュプトルが、今更このように怯える筈は無さそうだが、このままでは埒が明かないとライトは溜め息を吐く。

 

「……なんか分かんないけど、今日は戦いたくないの?」

「ジュプトッ!」

「明日は大丈夫?」

「ジュプトッ!」

 

 二つの質問のどちらにも首を縦に振るジュプトル。ヒヨクジムの【くさ】タイプ封じの一環として、粉系の技を封じるために同じ【くさ】タイプであるジュプトルを投入しようとしていたライトは、一応明日のジム戦への戦意があることを確認出来たジュプトルをボールの中へ戻した。

 勢いを削がれたライトは、苦笑を浮かべながらも別のボールに手を掛けて放り投げる。

 

「なら、リザード! 君に決めた!」

「リザァ!」

「ライトがリザードなら僕は……ロゼリア! 頼んだよ!」

「ロゼェ~!」

 

 猛々しく咆哮を上げて場に登場するリザードの一方で、舞い落ちる花弁のように華麗に地面に着地するロゼリア。

 着地したロゼリアは、左手を前にして腹部に当て、右手を後ろに回すと同時に丁寧に一礼する。

 そのような二体の登場に、ギャラリーの歓声はヒートアップしていく。

 

「よーし、リザード! ヘラクロスに“だいもんじ”!」

「させませんわ! マリルリ、“バブルこうせん”をリザードに!」

「“マジカルリーフ”だ、ロゼリア! リザードを援護して!」

「ふふ~んだ! あたしのヘラクロス舐めないでよね! “メガホーン”で突破しちゃえ!」

 

 四人のトレーナーの指示が交錯し、バトルコートの中では四体のポケモンが豪快なバトルを繰り広げる。

 初っ端から混戦のバトルに、先程のクリムガンVSゲッコウガのバトルと同等以上に盛り上がるギャラリー。

 そんな者達を、少し離れた場所から眺めていたゲッコウガのトレーナーは、興味が失せたかのように鼻を鳴らして、その場から颯爽と去っていく。

 

―――『ジュプト! ジュプト!』

 

 彼の脳裏を過っていたのは、繰り出されたのにも拘わらず戦闘を拒否するジュプトルの姿。それだけを見れば、只の臆病なポケモンとだけ考えていただろうが、少年はある一瞬を見逃さなかった。

 

 

 

 怯えた目ではっきりと、自分の方を一瞥したのだ。

 

 

 

「……ふんっ」

 

 仮に、あのジュプトルと自分が想像しているポケモンが同一個体であったとしても、今の自分には何ら関係のないことだ。

 そう言わんばかりに鼻を鳴らして去っていく少年の腰には、既に六つのボールが携えられていた。

 少し傷が入っている五つのボールと、一つだけ新品のような輝きを放つボールを携えながら―――。

 

 

 

 ***

 

 

 

 時刻は回って午後八時。

 誓いの樹の下では、用意した贈り物を自分の手に持って立つトレーナー、そして主役であるポケモンが一緒に並んで立っている。

 木の根元に設置されている台座には、ライト達に祭りの事を教えてくれた老人が佇んでおり、何か偉い人であるのかとライトは首を傾げた。

 

「あのお爺さんって誰なのかなぁ?」

「あら、御存じありませんの? あのご老人が、ヒヨクジムのジムリーダーであるフクジさんですわよ」

「えっ!?」

 

 ジーナに驚きの事実を聞いたライトは、思わず声を上げてしまう。

 そう言われれば、ヒヨクジムのジムリーダーは老人であるとコンコンブルに教えられていたのを思い出す。

 だからといって、通りすがりの老人をジムリーダーだと断定するのも到底無理な話である為ライトは、『そうなのかぁ~』と納得するようにウンウンと頷く。

 その間にも祭りの準備は最終段階に入り、贈り物は全て持ち主の下へと渡された。

 

「うむ……では、我々トレーナーとポケモンの絆がより一層深まるようこの誓いの樹の下、祭りを始めるとしよう! みんなでカウントダウンじゃ!」

『5! 4! 3! 2! 1!』

 

 係員の声のリードを受けながらカウントダウンする者達。

 明るい歓喜に満ちた声が夜の空に木霊し、最後のカウントを終えた瞬間に台座のレバーを倒すフクジ。

 その瞬間、誓いの樹に飾り付けられていた電飾が、根元の方から輝きを放ち始める。

 これだけの巨木に電飾を付けるとなると、相当の労力が強いられたのではないかという考えが一瞬頭を過ったが、たちまちそれを忘れてしまう程の感動が目の前には在った。

 

「うわぁ……」

 

 自然と出てしまう感嘆の息。

 それはこの場に居る全員がそうであり、煌々と輝きを放つカロス一の巨木に誰しもが感動を覚えていた。

 近くで見ても美しいが、遠くから眺めても綺麗であることは容易に想像できる。

 

―――夜の帳の中で煌々と輝きを放つ、生命の樹

 

 今頃海岸側に住んでいる住民は、この誓いの樹を存分に目で楽しんでいる事だろう。

 うっとりと誓いの樹を眺めていたライトであったが、辺りが騒がしくなってくることに気が付いた。

 どうやら既に、ポケモンへの贈り物を渡し始めているらしい。嬉々とした表情を浮かべる人とポケモンの姿を目の当たりにし、すぐさま周りに佇んでいるパートナーに目を向けるライト。

 

「へへっ、皆ちょっと待ってね!」

 

 屈託のない笑みを浮かべながら贈り物の箱の包装紙を剥がしていくライトに、五体のポケモン達はそわそわとし始める。

 果たして自分の主人は、自分達に何をくれるのかと期待に満ちた表情を浮かべながら―――。

 

「はい、バンダナ! 皆のイメージに合わせて、色は一つずつ違うよ!」

 

 ライトが取り出したのは、色彩豊かなバンダナの数々。

 満面の笑みでライトの下に歩み寄るイーブイ、ジュプトル、ヒンバスの三体に対し、リザードとハッサムは終始落ち着いた様子で待機している。

 『ははっ! ちょっと待ってね!』と三体を制止するライトは、銀色に輝くバンダナを一つ手に取ってハッサムの首へと巻きつけた。

 

「まずはシャラジムでのMVPに……なんてね!」

「……」

 

 ライトの言葉に照れて、頬を鋏でポリポリと掻くハッサム。

 そんなエースを見届けた後、次に手に取ったのは黄緑色のバンダナだ。

 

「これはジュプトルの分! 似合ってるよ!」

「ジュプト!」

 

 バンダナを首に巻かれたジュプトルは、至極ご機嫌な様子を見せる。

 その次に手に取ったのは藍色。それを渡すのは、キラキラと目を輝かせている魚ポケモンだ。

 

「藍色はヒンバス! 首には……無理そうだから、前ヒレのところに巻くね!」

「ミ!」

「次は黒色だけど……これはリザードの分!」

 

 ヒンバスの前ヒレにバンダナを巻いた後、黒色のバンダナをリザードの首に巻きつけるライト。

 リザードは、自分の首に巻かれたバンダナを爪でスッと撫でた後、喜んでいるのかいないのかギリギリ分からない表情を浮かべる。

 そして、最後に残っているのは最年少のイーブイの分であるが、それにしては随分と数は残っていた。

 

「アルトマーレに居る子の分とか、これからの子の分とかも合わせて買ってみたんだけど……」

「ブイッ!」

「イーブイのはこれ! 黄色!」

 

 残る色のバンダナからライトが見せつけたのは、イーブイの元気を象徴するかのような黄色のバンダナだ。

 気に入ったのか、かつてない程目を輝かせてバンダナを見つめるイーブイは、膝立ちしているライトの膝に前足を乗せ、尚且つ尻尾を凄まじい勢いで右へ左へと振っていた。

 

「そんな慌てないでって……よしっ! これでオッケーっと!」

「ブイ~♪ ブイ―――ッ!!」

「はははっ! そんなはしゃいだら危ないよ?」

 

 バンダナを巻かれた途端、全力で芝生の上を疾走していくイーブイの元気さにライトは苦笑いを浮かべた。

 これだけ喜んでもらえるのなら、祭りに参加した十二分に意義があると断言できる。

 誓いの樹の下から離れる様にして走っていくイーブイは、モノレールで降りた先にある海沿いの街が見える丘に辿り着く。

 煌々と照らされている誓いの樹の下とは打って変わり、街は海の上に浮かんでいるかのように優しい光を放つ満月によって淡く照らし出されていた。

 

 心躍るがままに街と海、そして月を一望しているイーブイ。

 

「もう、イーブイったら……落ちたら危ない……よ?」

 

 丘の上で悠然と佇むイーブイをゆったりとした足取りで追いかけていたライトとその手持ち達であったが、突然輝き出すイーブイの体に唖然とする。

 誓いの樹の電飾でも、海の上で輝く月の光でもない。

 

 それは違うこと無き、イーブイ自身の体から発せられる神秘の光。

 

 小さかった身体は徐々に大きくなっていき、スラリとした体躯へと変貌していく。ブースターやサンダース、シャワーズなどで目立つ首回りには何も無く、全体的に華奢な印象を受ける体。

 次の瞬間、イーブイだったポケモンの体を包んでいた光が爆ぜると、漆黒の体毛を有すポケモンの姿が露わになる。

 耳や足の根元、尻尾には、月のように光を放つ輪っかの模様があり、進化の光が消え失せても尚、煌々とした美しい光を放っていた。

 

「わぁ……」

『ブラッキー。げっこうポケモン。月の波動を受けて進化したポケモン。満月の夜や興奮した時は、全身の輪っか模様は黄色く光る』

 

 月光の下、街を眺めているブラッキーに自然と図鑑を翳していたライトは、興奮した足取りで進化したパートナーの下へと駆けつける。

 するとブラッキーは、振り返って真紅の瞳をライトに向けてきた。

 

「イーブイ……ううん、ブラッキー! 進化したん―――」

「ブラァ―――ッ!!」

「あ゛あっ、意外と重いっ!?」

 

 歩み寄ってくる主人の下へ満面の笑みのまま“でんこうせっか”で飛び込むブラッキー。それを受け止めようとしたライトであったが、イーブイの時の約四倍になった体重を支えることはできなかった。

 飛び込まれた勢いのまま丘をゴロゴロと転がっていくライトとブラッキー。

 その途中でハッサムとリザードが受け止めてくれたことにより、何とか止まる。

 

「……ふふっ、あははっ! これからよろしくね、ブラッキー!」

「ブラァ♪」

 

 

 

 

 

 芝生の上で大の字になって寝転がる少年。

 ここまで来るのに夢中過ぎて気付かずにいたようだが、どうやら彼は、パートナーの進化という新たなる扉の鍵を既にゲットしていたらしい。

 

 夜空に佇む月は、扉を開いた彼等を祝福するかのごとく一層輝きを増しているように見えた。

 

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