ポケの細道   作:柴猫侍

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第五十八話 月に変わって○○よ!!

「ほほう、ブラッキーで来るか……」

 

 ライトの繰り出したポケモンを目の当たりにしたフクジは、フムフムと頷いている。【あく】タイプのブラッキーは、【くさ】・【どく】タイプのウツボットとの相性は至って普通。

 ブラッキーの特徴は、何よりもその耐久力だ。攻撃面は頼り気が無いものの、【HP】、【ぼうぎょ】、【とくぼう】の三つの能力値が優れており、イーブイの進化形の中でも屈指の耐久力を有している。

 更にフクジが目を付けていたのはブラッキーの特性だ。

 それは―――。

 

「成程。“シンクロ”であれば、わたしのウツボットの状態異常の攻撃を牽制できる……そうじゃな」

「っ……」

 

 目論見をまんまと見透かされたライトの眉はピクリと動く。

 しかし、この場面ではライトの選択は最善のものであったとフクジは考え、素直に挑戦者の少年を心の中で賞賛した。

 ブラッキーの特性である“シンクロ”は、自分が相手の攻撃で状態異常になった時、相手にも自分に掛かったものと同じ状態異常にするというものだ。

 つまりウツボットは、ブラッキーに“ねむりごな”や“しびれごな”を喰らわせた場合、自分にもその状態異常に掛かってしまう。

 ただ、【どく】と【もうどく】に関しては、ウツボットが【どく】タイプを有すという都合上、ブラッキーに【どく】を掛けてもシンクロで状態異常が返って来る事は無い。

 

「生半可なパワーではブラッキーを突破できぬじゃろう……ここは素直に、パワーで押させてもらう事にしようかの。“ソーラービーム”!」

 

 フクジの声と共に空を仰ぐウツボットの頭上には、瞬く間に日光を浴びて生成されたエネルギーが凝縮されていく。

 それを目の当たりにしたライトは、ブラッキーにアイコンタクトをとると同時に、人差し指をクイクイと曲げてみせた。

 主人の動作の意図を汲みとったブラッキーは頷き、真正面から解き放たれてきた“ソーラービーム”を真正面から受け止める。

 

「なっ、真正面から!?」

「それに“ソーラービーム”の発射の速さ……日本晴れの影響だね」

 

 【くさ】タイプの特殊技最高峰の威力を誇る”ソーラービーム”。強力な威力を誇る技であるものの、エネルギーのチャージに時間がかかるという欠点がある。

 しかし、天候が晴れている場合は通常よりも早く発射できるという利点があるのだ。

 そんな技を真正面から受けたブラッキーを中心に爆発が起きるものの、煙が晴れていくと四本足でしっかりと大地を踏みしめているブラッキーの姿が垣間見えた。

 

 それだけを見ればかなりの耐久力であることだけが分かるが、観戦している三人は光り輝くブラッキーの体の輪っか模様に目を付けた。

 

「“つきのひかり”……普通なら体力の半分を回復といったところじゃが、晴れならほぼ全回復の技じゃったな。わたしの戦法を逆手にとってきたということか」

 

 顎に生えている髭を撫でながら、ブラッキーが行使している技をずばり言い当てるフクジ。

 タイプ一致の大技を喰らっても尚、この晴れという天候の下であれば“つきのひかり”を一度行使するだけでダメージを無かったものにすることができる。

 しかし、ここまで受け身の姿勢をとっている相手に違和感を覚えるフクジは、ジッとライトの事を見据えた。

 するとここで、ライトが動く。

 

「ブラッキー、“バトンタッチ”! お願い、リザード!」

(なに?)

 

 受け身の姿勢だけをとってブラッキーを後退させたライトの行動に、誰もが首を傾げた。わざわざブラッキーを繰り出したのにも拘わらず、一分もかからずに次なるポケモンに交代させるとは、一体なにを企んでいるのだろうか。

 唯一その答えを知っているライトは、ウツボットに有利なタイプであるリザードを繰り出した。

 咆哮を上げ、尾の先の炎を轟々と燃え盛らせている蜥蜴の姿を目の当たりにしたフクジは、ハンチング帽を深く被る。

 

「一先ずここは……“ねむりごな”じゃ!」

 

 特性が“ようりょくそ”のウツボットは、晴れの下であればリザードよりも早く動ける【すばやさ】を発揮できる。

 幾ら【ほのお】タイプといえど、眠らされてしまえば手も足も出ないことは明白だ。

 【くさ】技の通りは悪いものの、フクジのウツボットは“ヘドロばくだん”を覚えており、眠っている間に三発も喰らわせられれば確実に倒せる威力は有している。

 そのように、迷うことなく“ねむりごな”を指示したフクジであったが、ウツボットの様子に違和感を覚えた。

 何やら、プルプルと震えている様な―――。

 

「どうしたのじゃ、ウツボッ―――」

「キィイイイッ!!」

「これはっ!?」

 

 フクジの指示を聞かず、手に当たる部分の葉を鋭く尖らせて“リーフブレード”を繰り出そうとするウツボットの顔は、憤怒に染まっていた。

 そんなウツボットの目線の先には、晴れの恩恵を受けていつもより炎を熱く、激しく燃え盛らせているリザードが、口腔から一つの炎の塊を口腔に準備しているのが見える。

 

「“だいもんじ”!!!」

 

 次の瞬間、爆発するように解き放たれた炎の塊が、宙を奔る途中で『大』の字に変形した後に、“リーフブレード”で切り裂こうとするウツボットに直撃した。

 先程の“ソーラービーム”とは比べ物にならないほどの爆発と爆炎が巻き起こると、数秒後にはウツボットがドサリとフィールド上へと倒れ込む。

 

「ウツボット、戦闘不能!」

「っし!」

「リザァアア!!」

 

 ガッツポーズをしてみせるライト。一方リザードは、昂ぶった感情を表すように、空へ向けて炎を吐いていた。

 その間、ウツボットをボールに戻すフクジは、『してやられた』というかのような苦々しい笑みを浮かべている。

 

「本命はこっちじゃったか……ブラッキーを繰り出した真の目的は“ちょうはつ”かな?」

「……どうでしょうね」

「はっはっは! そう易々と敵に教える訳にはいかないとな……ならば、また頼んだぞ! ワタッコ!」

 

 ウツボットの次にフクジが繰り出したのは、先発で“にほんばれ”を使ってきた相手だ。フクジがポケモンを場に繰り出したのを確認し、審判が目でライトに合図を送る。

 それを見たライトは、

 

「戻って、リザード! またお願い、ブラッキー!」

 

 ウツボットを“だいもんじ”の一撃で下したリザードを戻し、再びブラッキーを場に繰り出す。

 その目的は、先程と同じく【くさ】タイプに共通する補助技を“ちょうはつ”によって封じるためだ。

 “ちょうはつ”は【あく】タイプの補助技であり、文字通り相手を挑発して怒らせ、攻撃技しか出せなくするというものだ。

 ウツボットは“ちょうはつ”されて憤慨した隙を、晴れの影響で威力の上がっている“だいもんじ”を真面に喰らい、一撃で倒されたのである。

 

 リザードは物理攻撃であれば“ほのおのキバ”。特殊攻撃であれば“だいもんじ”と、【くさ】の弱点を突ける攻撃を物理と特殊のどちらも所持している。

 ここでリザードを失えば、この先に控えているであろうポケモンに勝てないと判断したライトは、安全な試合運びをする為にもう一度ブラッキーを繰り出したのだった。

 

 ポケモンが場に揃ったことで、バトルフィールドには更なる緊張感に包まれる。

 そして、

 

「ワタッコ、“やどりぎのタネ”じゃ!」

「ブラッキー! “ちょうはつ”!」

 

 ワタッコが腕の綿毛の中から種をブラッキーに放つのに対しブラッキーにはというと、尻の方みせて尻尾を振るってみたり、前足を器用に使って『あっかんべー』などと、散々相手を挑発していた。

 単純な【すばやさ】で勝っているワタッコは、“やどりぎのタネ”をブラッキーに命中させたと同時に、目の前で散々挑発してくる相手に憤怒の色を顔に浮かべる。

 一方、ブラッキーの“ちょうはつ”を成功させて、相手の補助技を封じることに成功したライトであるが、その表情は何やら曇っていた。

 

(“やどりぎのタネ”か……これは厄介かな)

 

 みるみるうちにブラッキーの体に巻きついていく蔓のようなもの。【くさ】タイプの補助技の一つである“やどりぎのタネ”は、種を植えつけた相手の体力を徐々に吸い取っていくという、数ある技の中でも【くさ】ならではの技だ。

 長期戦であれば自分の体力が減り、相手に吸い取られていくということから、かなり厳しい試合へと発展してしまうが、すぐにブラッキーを戻す算段であるライトは、その限りではないと言わんばかりに指示を飛ばす。

 

「“バトンタッチ”!」

 

 只の交代ではなく、能力変化までもを引き継ぐ交代技“バトンタッチ”。今は特に能力変化はない為、先程と同じように体力満タンのリザードが場に姿を現す。

 それと同時に、先程まで燦々と降り注いでいた日光の勢いが強まり、フィールド上には心地よい風が吹き始める。

 “にほんばれ”による日差しが強い状況が終了したことを告げる現象に眉を顰めるライトであったが、充分倒せるだけの火力をリザードは有している筈。

 そう信じて、再び最大火力で迎え撃とうと声を張り上げた。

 

「リザード、“だいもんじ”だ!!」

「ワタッコ、“アクロバット”」

 

 再びフィールドを疾走する大の字の炎であったが、ワタッコは素早い動きでリザード翻弄し、”だいもんじ”を見事と回避したのちに突撃してきた。その間にも、”バトンタッチ”によって引き継がれたヤドリギは、リザードの体を拘束し始めてた。

 そして、ワタッコの攻撃を真面に食らってしまうリザードであったが大したダメージは受けていないのか、フルフルと首を振ったのちに闘志滾る瞳をワタッコに向けている。

 

(これは……パワー切れを狙ってるのか!?)

 

 こうしてリザードを翻弄する意味。

 それはリザードの“だいもんじ”のパワー切れを狙い、後続へと繋ごうとしている事だ。リザードが“だいもんじ”を放てるのは多くて五回であり、ウツボットへ放った時と今防がれた回数を引けば、残り三発というところになっている。

 命中率も不安定である中、残弾を減らされるというのは好ましくない状況だ。

 

「なら、“ほのおのキバ”!!」

「“タネマシンガン”じゃ!」

 

 赤熱の牙をむき出しにしてワタッコに飛び掛かっていくリザードだが、その寸前でワタッコは綿毛から無数の種を機関銃のように応酬し、リザードの動きを妨げようとする。

 だが、先程のような二の舞を踏むわけにはいかないライトは、必死の逡巡の中で一つの案を閃き出す。

 

「種ごと燃やすんだ! “だいもんじ”!!」

「リザァアア!!」

「むっ!?」

 

 放たれる種に向かってそのまま“だいもんじ”を解き放つリザード。

 すると、瞬く間に炎は種を伝って、一気に燃え広がっていく。そして、中央で攻撃態勢をとっていたワタッコにも―――。

 

「ワテャアアア!?」

 

 放った種ごとごと炎で焼かれたワタッコは、逃げる間もなく全身煤まみれになりながら地面に落下する。

 ピクピクと痙攣している辺り、今の一撃で体力を全て持っていかれたのだろう。

 

「ワタッコ、戦闘不能!」

「ご苦労さん、ワタッコ」

 

 ワタッコをボールに戻すフクジであるが、その表情に焦燥などは一切感じ取ることができない。

 やはりそこは場数の違いか。手持ちの数が相手に勝られていようと、ここから巻き上げていくのがジムリーダー。

 不敵な笑みを浮かべるフクジは、ボールを大きく放り投げて最後の一体を繰り出す。

 

「それじゃあ、宜しく頼むぞ。ゴーゴート!」

(やっぱりか……)

 

 地響きを鳴らしながらフィールドに姿を現したのは、メェークルの進化形であるゴーゴートだ。

 凛々しい表情を見せる【くさ】タイプのポケモンを目の当たりにしたライトは、一瞬圧倒されるように目を見開くものの、すぐさまグッと拳を握って気合いを入れ直した。

 

「リザード、“りゅうのいかり”!!」

 

 接近戦は危険と判断したライトは、“だいもんじ”ではなく“りゅうのいかり”を選択する。

 理由としては、残弾が少ない“だいもんじ”をそう易々と繰り出していく訳にいかないというものと、“りゅうのいかり”を喰らった相手がどの程度ダメージを喰らうかというのを観察し、大まかな体力を予想する為だ。

 リザードの口腔で収束していたエネルギーは、限界まで収束すると同時にゴーゴートへと解き放たれる。

 

「“エナジーボール”!」

 

 しかし、ゴーゴートに迫っていった光弾は、ゴーゴートが口腔から解き放った淡い緑色の光弾によって相殺される。

 

「くっ……“ドラゴンクロー”で接近!」

 

 フィールドの中央で激突した光弾の爆発によって巻き起こる砂煙。それに乗じてリザードが得意とする接近戦に持ち込もうとするライト。

 ゴーゴートを見た印象では、パワー自体はリザードを凌駕していそうであるものの、体の大きさ的に立ち回りではリザードの方が勝っている筈。

 近づいてからが勝負―――の、筈だった。

 

「ゴーゴート、“じしん”!!」

「ゴォオオオッ!!!」

 

 直後、猛々しい咆哮と共に地響きが鳴ると思ったら、凄まじい揺れが肉迫しようとするリザードを襲う。

 余りに震動にリザードは進むことができず、フィールドの端に佇まっているライトも真面に立てず、何とか膝立ちをしている状態だ。

 

「くっ……リザード! “ドラゴンクロー”を地面に突き立てて!!」

「グルゥ……!」

 

 【ほのお】タイプに効果が抜群な技で攻められているリザードは険しい表情を浮かべるものの、何とかその場に爪を突き立てて、自分を支えようと試みる。

 それを確認したライトは、轟々と鳴り響く地響きに負けないように声を張り上げた。

 

「そのままっ……“だいもんじ”ぃい!!!」

「リザアアアッ!!!」

 

 固定砲台のように、爪を突き立てて自分を支えたまま前方に爆炎を解き放つリザード。疾走していく大の字の炎は、砂煙の中に悠然と佇まっているゴーゴートに迫っていく。

 

(よし、これなら当たる……!!)

 

 軌道は悪くない。

 このまま防がれでもしなければ、確実に“だいもんじ”はゴーゴートに直撃する。命中さえすれば、一撃で倒せるには及ばずとも、大ダメージを与える事には成功するだろう。

 そのような一抹の望みを託し、疾走する炎を見届けるライト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ゴーゴート、“なみのり”じゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、ゴーゴートの頭上で空気中を漂っていた水分が凝縮されていき、一つの水の塊が完成した。

 するとゴーゴートは、躊躇うことなくその水の塊を前方へと解き放つ。

 塊は瞬時に解放されて膨大な水へと変貌し、フィールド上を大波となってリザードに襲いかかっていく。

 途中、大波は“だいもんじ”と衝突して少しばかり蒸発したものの、膨大な水には“だいもんじ”も焼け石に水状態であったのか、瞬時に鎮火されてしまう。

 そのままリザードは為す術もなく大波に攫われていき、フィールドから少し外れたところに生えてある木の幹へと激突する。

 

「グァッ……!」

「リザード!!」

「リザード、戦闘不能!」

 

 効果抜群の技を立て続けに喰らってしまったリザードは、木の幹に激突すると同時に意識を失くし、地面にどさりと崩れ落ちた。

 悲痛な声を上げたライトであったが、最後にはパートナーを労う言葉を掛けながらボールに戻す。

 

(まさか“なみのり”が使えるだなんて……!)

 

 完全に予想外の攻撃に戸惑うライトであったが、深呼吸をすることによって何とか冷静に状況を分析できるまで落ち着いた。

 【みず】タイプの特殊技である“なみのり”。“ハイドロポンプ”などより威力は低いものの、安定した威力とそれなりのPPでよほどの長期戦でなければパワー切れを起こすことはない。

 【じめん】に【みず】と、【くさ】が苦手とするタイプに対して有効な技を覚えるゴーゴート。

 

(ブラッキーでどうやって対抗しよう……)

 

 非常に強力な技が揃っている相手に対しブラッキーは、それほど強力な技が揃っていない。

 無理に攻める戦い方をすれば押し負けるのが目に見えている。

 

(……対抗できる手があるとすれば)

 

 あの技であれば、何とかゴーゴートを倒せる可能性があると判断したライトは、ブラッキーのボールに手を掛ける。

 

「ブラッキー、君に決めた!!」

「ブラァ!!」

 

 気合十分の鳴き声を上げるブラッキー。そんなブラッキーに対しライトは、チロリと舌を出して見せる。

 そして、再びゴーゴートの方へと視線を向けて腕を振るう。

 

「“でんこうせっか”!!」

 

 瞬間、一陣の風となってゴーゴートへと突進していくブラッキーは、ゴーゴートと比べると何回りも小さい体で突進した。

 ゴンッ、と鈍い音を響かせて胴へと激突したブラッキーは、ギリギリと歯を食い縛りながら自分の頭部をゴーゴートの胴へと深くめり込ませようとする。

 しかし、ワタッコから受けた“やどりぎのタネ”によって体力を吸われ疲弊していたために、ふとした瞬間に力が抜けてしまう。

 

「今じゃ、“ウッドホーン”!!!」

 

 次の瞬間、少し跳ねてブラッキーとの距離をとったゴーゴートが、体力を吸われてへばっているブラッキーへと突進していく。

 その際、後方へ突きだすように伸びているツノが淡い緑色に光っているのをライトは見逃さなかった。

 だが、ライトが回避の指示を出すよりも早くゴーゴートの“ウッドホーン”がブラッキーに命中する。

 

「ブラッキー!?」

「ッ……ブラァ!」

 

 “ウッドホーン”で弾き飛ばされたブラッキーであったが、何とか持ちこたえて真紅の瞳をゴーゴートの方へと遣った。

 当のゴーゴートはというと、今にも駆け出せるように前足で砂を払っている。

 

「“つきのひかり”!!」

 

 もう一度同じ技を喰らえば危ないと考えたライトは、回復技である“つきのひかり”を指示した。

 瞬間、ブラッキーは空を仰ぎながら体の輪っか模様を光らせ、体力の回復を図る。

 だが、その隙を見逃すことなどないフクジは、すぐさま攻撃の指示を口にした。

 

「“エナジーボール”じゃ、ゴーゴート!!」

 

 若草色の光弾は一直線に回復を図るブラッキーへと突き進み、見事体に直撃する。しかし、回復したばかりのブラッキーの体力を削り切ることはできずに、当のブラッキーは力強く大地を踏みしめていた。

 だが、フクジは不敵な笑みを浮かべたまま次々と攻撃技を口にする。

 

「“ウッドホーン”!!」

「“つきのひかり”!!」

 

 再び突進してくるゴーゴートに対し、完全に防戦一方となるブラッキー。大地が揺れる程力強くフィールドを駆けるゴーゴートの突進を喰らったブラッキーは、強力な攻撃によって減っていく体力を補おうと再び“つきのひかり”を発動する。

 その光景を目の当たりにしていた三人の表情は、焦燥へと移り変わっていた。

 

「不味い……完全に守りに入ってしまってる……! このままじゃ、いずれ押し切られてしまう……!」

「い、いや! まだ何とかここから切り替えして―――」

「ダメですわ! 只でさえブラッキーには“やどりぎのタネ”を喰らっているのに、回復ばかりに徹するのは余りにもジリ貧……!」

 

 ガンガン攻め続けていくゴーゴート。

 一方、“つきのひかり”で回復し続けるブラッキー。戦況はどう見ても、フクジの方が優勢であった。

 暫くの間、ゴーゴートの猛攻を受け続けていたブラッキーであるが、ある時を境に息を切らしながら疲労を全面に出し始める。

 それを目の当たりにしたフクジは、ジッと立ち尽くしているライトに向かって口を開いた。

 

「……“つきのひかり”はもう使えないのじゃろう? パワー切れじゃ」

「……」

「“つきのひかり”は最大五回。ポイントアップでも使っていなければ、今ので全て力を使い果たしたことになるな」

 

 無言で佇まる少年に、フクジは語る。

 

「回復手段を失えば、最早背水の陣じゃな。中々のタフネス……素直に称賛に値するのう」

「……まだ」

「因みにわたしが何度か指示した“ウッドホーン”という技は、攻撃した際に与えたダメージの半分の自分の体力へと変換できる。この意味が分かるじゃろう?」

 

 ジムリーダーが暗に示すこと。

 それ即ち、挑戦者の―――ライトの敗北。“やどりぎのタネ”によって既に全快しているゴーゴートは、攻撃と同時に回復もできる“ウッドホーン”という技も覚えている。

 強力な技を有していないブラッキーでは、既に突破できないことが確定していた。

 

「また明日もある。今日はこのくらいで―――」

 

 

 

 

 

 ……ガクンッ

 

 

 

 

 

「なッ!?」

「今だ!!! “おんがえし”!!!!!」

「ブラァアアアアアアッ!!!」

 

 刹那、ゴーゴートが膝を着く。その瞬間に主人の指示を聞いたブラッキーは、強く大地を蹴って全身全霊の突進をゴーゴートに叩き込んだ。

 ゴーゴートの巨体を上から襲いかかるブラッキー。次の瞬間、最大威力を発揮した“おんがえし”によって、ゴーゴートが居る場所を中心に地面に罅が入った。

 砂煙が巻き起こると同時に見えなくなっていく二体の姿。

 だが、今の一瞬の攻防を目の当たりにすれば、どちらが勝利を掴みとったのかというのは容易く予想できた。

 

「ゴ……ゴォ~……」

「ゴーゴート、戦闘不能! よって勝者、挑戦者ライト!」

「よっし!! おいで、ブラッキー!!」

「ブラァ~!!」

 

 地面に倒れ込むゴーゴートの上に佇んでいたブラッキーは、主人の呼ぶ声に招かれるがままにフィールド上から走り去っていく。

 一体何が起こったのかと疑問が晴れないフクジは、ゆっくりとした足取りでゴーゴートへと歩み寄る。

 そこで見たものとは―――。

 

「これは……【もうどく】じゃと?」

「はい! ゴーゴートとブラッキーの最初の対面で“どくどく”を撃ったんです。あとは、【もうどく】のダメージが回るまでずっとブラッキーに耐えてもらって……急所に当たったら危なかったんですけど……」

「なんと! これは一本取られたなぁ~!」

 

 ブラッキーを抱きかかえながらフクジに歩み寄るライトは、ゴーゴートがいきなり膝を着いた理由を口にし、それに対しフクジは驚愕の色を顔に浮かべた。

 経過する時間に伴い、与えるダメージが多くなっていく状態異常【もうどく】。“ウッドホーン”で相手の体力が回復していくのを逆手にとり、気付かれないようにじわりじわりと与えていくダメージを増やしていたのだ。

 まさに、耐久が優れているポケモンだからこそ扱える戦法。

 

「はて……じゃが、一体いつにじゃ? わたしにはどのタイミングで“どくどく”を撃たれたのか気付かなかったが……」

「ブラッキーは興奮したり怒ったりすると毒素を含んだ汗を相手に飛ばすっていう記述が、ポケモン図鑑にあったんです。汗なら、気付かれない内に毒を入れられるんじゃないかって……それで“でんこうせっか”で突撃した時にはもう……っていう感じで!」

 

 えへへっ、とはにかむ少年の姿に対し、詰が甘かったかと苦笑を浮かべるフクジ。

 するとフクジは、徐にズボンのポケットの中を漁り、一つのバッジをライトへと差し出した。

 青々強い木葉に水滴が一粒ついているかのようなバッジを目の当たりにし、ライトとブラッキーの目はキラキラと輝き始める。

 

「これがわたしに勝った証……『プラントバッジ』じゃ! これからの君が、伸び伸びと成長する植物のような目覚ましい活躍を見せてくれる事を期待しつつ託したいと思う! 受け取ってくれい!」

「ありがとうございます!!」

 

 一礼してから受け取ったジムバッジをケースに仕舞いこむライト。

 五つ揃ったケースの中身を見ながら、初めてジム戦で相手を倒して勝利を掴みとった貢献者に笑みを浮かべるライト。

 進化して凛々しさが増したブラッキーであるが、今はイーブイの時のような屈託のない太陽の様な笑みを浮かべている。

 

「よく頑張ったね、ブラッキー!」

「ブラァ♪」

 

 

 

 ライト、プラントバッジ獲得。

 




・補足説明
 タイトルの○○に入るのは『毒殺』です。

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