ポケの細道   作:柴猫侍

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第五十九話 必要な物はその都度変わるのが旅

 

 

 『カロス発電所』。

 13番道路―――通称『ミアレの荒野』に存在する発電所であり、『宇宙太陽光』、『地熱』、『火力』、『バイオマス』、『風力』の五つの発電機を用いて、大都市ミアレシティの全世帯の電力を賄えるだけ電気を生み出している。

 荒野ということもあり、北西にあるヒヨクシティとは打って変わって草木はほとんど生えておらず、生き物が暮らす為にはかなり厳しい環境となっていた。

 しかし、このような厳しい環境の中であっても一定のポケモンにとっては、生存競争が他よりも容易いという利点もある。主に【じめん】タイプのポケモンがこの荒野では暮らしているのだ。

 

 そんな荒野に建てられている発電所の中では、作業員が少し慌ただしく計測器を見たり、監視カメラに記録されている映像のチェックを行っていた。

 往来が激しくなる発電所の廊下。その中でも、責任者と思われる壮年の男性が、一人の職員の話を聞いている。

 

「それで……この辺りのポケモンの群れのボスであるガブリアスが、何かと戦っていたんだね?」

「はい。地熱発電機がある方でなんですが……こちらの映像を」

「どれどれ……これはっ!」

 

 職員がタブレットに監視カメラの映像を映し出す。そこには、ガブリアスが空中を羽ばたいている一体の鳥ポケモンに攻撃を仕掛けようとするも、“ドリルくちばし”と思われる攻撃を喰らい、付近の岩に叩き付けられる光景が映っていた。

 ガブリアスといえば、シンオウ地方チャンピオンであるシロナのエースでもあり、強力なポケモンとして知られている【ドラゴン】・【じめん】タイプのポケモンだ。

 

 そんなガブリアスを“ドリルくちばし”で倒せるポケモンなど、鳥ポケモンの中では限られていく。

 更に、昨日から続く発電所の不具合に、映像のポケモンを関連づけるのはそう時間は掛からなかった。

 

「サンダー……伝説の鳥ポケモン……!」

「ええ。ガブリアスを倒した後に地熱発電機の電力を何割か奪い、それからどこかへ飛んで行ったようです……」

「……そうか。とりあえず、一度ポケモンリーグに連絡をつけよう。その間にも発電所の不具合をどうにかしないとね」

「わかりました。それでは、ポケモンリーグに電話を……」

 

 手短に指示を出す責任者は、説明をしてくれた職員が去っていった後に深い溜め息を吐いた。

 サンダーの所為でミアレへの送電にも支障が出てしまったこともあるが、何より13番道路の主ともいえるポケモンが倒されてしまったことにも問題はある。

 主が倒されたことによってヒエラルキーを崩された生態系では、これから少しの間あちこちでいざこざが発生するだろう。

 

(はぁ……13番道路に通る際の注意も、ゲートの方に伝えておかなくては……)

 

 そのように問題が一つ明確になった頃に、既に13番道路を通ってミアレに向かっている子供達が居る事を、男性は知らなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「砂嵐が酷い……」

「確かに」

「同上ですわ」

「砂が口に……」

 

 ヒヨクジムを攻略したライト。

 彼を含めた四人は、その次の日にミアレシティに戻る為に13番道路を通っていた。ライトが残りのバッジを得るためには、一度セントラルカロスにまで戻ってから東に位置するマウンテンカロスへと向かう必要がある。

 そのマウンテンカロスに行くためには何より、カロスの中心都市であるミアレに戻らなくてはいけないという寸法になっていたのだ。

 

 しかし、四人が13番道路に着いたときは強風が巻き起こり、目に砂が入ったりするなどという悪天候。

 ゴーグルなどが欲しい天候であるものの、生憎四人はそのような道具などは有していない。

 だが、気合いで何とかイケるという持論を展開した女子二人組の勧めにより、男子二人組は渋々悪天候の中、道を歩む結果になっていた。

 結果は御覧の通り、後悔するものとなっている。因みにブラッキーは砂が嫌だったのか、ボールの中で待機中だ。

 

「くっ……こんなことになるのなら、防塵ゴーグルをミアレで買っておくのでしたわ……!」

「うん、そうだね……ん?」

 

 ジーナの言葉を聞いていたライトは、自分達に影がかかっていることに気が付いた。徐に上空を見上げると、砂嵐の中を懸命に羽ばたいている緑色のポケモンが一体見える。

 ライトの視線に気付いた他三人も一斉に空を見上げると、突然羽ばたいていた緑色のポケモンが急降下してくるではないか。

 『うおっ!?』と思わずその場から飛び退く面々。急降下してきた物体は、そのまま地面に激突してピクリとも動かない。

 

「……このポケモンは?」

「ちょっと待ってね」

 

 コルニの言葉に、ポケットから図鑑を翳して詳細を検索するライト。

 

『ビブラーバ。しんどうポケモン。2枚のハネを高速で振動させてだす超音波は激しい頭痛をひきおこす』

「タイプは【じめん】・【ドラゴン】……へぇ~、【むし】タイプかと思った」

 

 目を保護するかのようなカバー、そして触覚、手足などの形を考慮するに【むし】タイプが入っていると予想していたライトであったが、実際には【ドラゴン】タイプを有しているらしく、口を開けて驚く。

 しかし、先程地面に激突したビブラーバは動くことが無く、余りの動きの無さを不審に思ったデクシオがビブラーバに歩み寄る。

 

「この子……酷く傷ついているね」

「言われてみれば……キズぐすり要りますの?」

「ああ、お願い」

 

 バッグからキズぐすりを取り出したジーナはそのままデクシオへと手渡す。受け取ったデクシオは慣れた手さばきで、傷が深い場所にキズぐすりのノズルを向け、そのまま液体を噴射した。

 いきなり薬品を吹き付けられたビブラーバは『ビッ!?』と声を上げるが、かなり衰弱しているのか、抵抗することもなくデクシオの治療を受け続ける。

 そして、

 

「よし! これで一安心だね!」

「ビ~……」

「おおっ、目を覚ましたね!」

「良かったらオレンの実があるけど、渡してみる?」

「ああ。栄養もしっかり補給しておかないとね」

 

 バッグからオレンの実を取り出したライトも、デクシオへと木の実を渡す。そして受け取ったデクシオは、そのまま木の実をビブラーバの口へと運んでいく。

 最初こそ、見知らぬ人間に木の実を差し出されて困っていたビブラーバであるが、かなりの空腹であったのか、ある時を境に木の実を貪り始める。

 その様子を見た四人はホッと安堵の息を吐くが―――。

 

「なんで、こんなに傷だらけだったんだろう? 他のポケモンにでも襲われたのかな……?」

「それが可能性としては一番大きいけれど、一体どんなポケモンに……」

 

 顎に手を当てて考え込むライトと、ついでに美味しい水も飲ませてあげるデクシオは共に逡巡する。

 するとその時、空の方から『ブブブッ』と先程耳にした羽音が聞こえてきた為、四人の視線は再び一斉に空の方へと向けられた。

 

「あら、またビブラーバですわ」

「仲間なのかな? 心配してきてくれたのかも!」

「それなら良かった! デクシオ、ビブラーバを……」

「いや、ちょっと待って。様子がおかしい……」

「「「えっ?」」」

 

 空を見上げながら仲間が来たものだと思い込む三人に対し、唯一警戒した眼差しをやって来たビブラーバに向けるデクシオ。

 そうしている間にもやって来た五体のビブラーバは、羽を振動させながら羽ばたき、鋭い瞳をデクシオが抱きかかえるビブラーバへと向ける。

 すると、その中の一体がデクシオへと向けて“りゅうのいぶき”を繰り出してきた。

 

「わあっ!?」

「ちょ……危ないですわね、もう! いきなり襲うだなんて、どういう神経をしていますの!?」

 

 咄嗟にジャンプして避けたデクシオと、真横を通った攻撃に驚愕の色を浮かべながらビブラーバへと抗議するジーナ。

 その間にもじりじりと詰め寄ってくる五体のビブラーバを見てライトは、そっとデクシオの方へと目を遣った。

 

「もしかすると……僕達を、仲間を攫った敵だと勘違いしてるんじゃないかな?」

「……それもあるね。なら……」

 

 デクシオは、そっと地面に保護したビブラーバを置く。その際、置かれたビブラーバは心配そうな顔でデクシオの顔をジッと見つめてくる。だが、自分達の安全の為にもビブラーバの為にもと考えているデクシオは、すぐさま置いたビブラーバから距離をとるように走って離れていく。

 他三人も同様に走って離れていき、保護したビブラーバの行く末を見守ろうと岩陰に隠れた。

 

「(ふんっ! 助けたんですから、もうちょっと手加減してくれていいかと思いますわ!)」

「(まあまあ……)」

 

 機嫌が悪くなるジーナを宥めるデクシオ。

 一方、ライトとコルニは予想外の光景を目の当たりにしていた。

 

「(なんか僕達が助けたビブラーバ……他の子達に襲われてる気が……!)」

「(うん。助けた方がいいんじゃない!?)」

 

 その言葉にデクシオとジーナの二人も岩陰から顔を覗かせると、視線の先で五体のビブラーバに集団での攻撃を喰らっている一体のビブラーバの姿が見えた。

 理由は兎も角、あれでは先程回復させたばかりの体を傷付けてしまい、元も子もなくなると考えたライトは、すぐさま一つのボールに手を掛けて放り投げる。

 

「ハッサム、“バレットパンチ”!!」

「―――ッ!?」

 

 瞬間、一陣の真紅の風がビブラーバへと奔っていき、一体のビブラーバを虐める五体の内の一体を、弾丸のように速い拳で殴りつけた。

 殴打されたビブラーバは、そのまま勢いよく後方へと吹き飛んでいき、運悪く岩に激突して停止してしまう。

 一撃でノックアウトされた仲間を目の当たりにしたビブラーバは、それでも尚制裁を続けようとするも、ギラリと光るハッサムの眼光を目の当たりにし、怖気づいたのか大急ぎで空へと逃げていく。

 

 一仕事終えたハッサムは、地面で前足を頭に乗せてプルプルと震えているビブラーバを腕で抱きかかえ、ライト達が居る場所へと歩んでいった。

 

「お疲れ、ハッサム」

 

 連れて来たビブラーバを受け取るライトは、労いの言葉を掛けた後にハッサムをボールへと仕舞う。

 そして、回復したばかりであったのにも拘わらず、同種に襲撃されたビブラーバはというと、再びボロボロの状態になってしまっていた。

 その姿を目の当たりにしたコルニは、手で口元を抑えて『ひどい……』と震えた声で呟く。

 

「なんでなんだろう? 同じビブラーバなのに……」

「……多分だけど、この子が元トレーナーのポケモンだったからだと思うよ」

「トレーナーの?」

 

 デクシオの言葉に、ビブラーバを抱きかかえるライトのみならず、他の二人も真摯な眼差しでデクシオへと瞳を向ける。

 神妙な面持ちで佇まるデクシオは、如何にも言いにくそうなことをこれから話すという雰囲気を醸し出していたが、意を決したのか口を開いた。

 

「……人間社会に溶け込んだポケモンには、文字通り人に匂いがついてしまう。それが野生だと、僕達には感じ取ることができないほどはっきりとした匂いで現れるんだ。だから、それは群れで行動するポケモン達にとっては邪魔でしかない」

「そんな……それなのにビブラーバが此処に居るってことは……」

「トレーナーに……捨てられたんじゃないかな」

 

 ズキンと心が締め付けられた様に痛むライトは、同時にベルトのボールの一つがカタカタと揺れたように感じた。

 トレーナーの都合で捕まえられ、トレーナーの都合で野生に捨てられる。

 余りにも身勝手な人間の行動が招いた悲劇だ。このビブラーバは一切悪くないにも拘わらず、人間社会で生きる事も出来なければ、野生で群れの一員として生きることもできない。

 

「そんなのって……酷過ぎるよ……」

「……とりあえず、この子は僕達で保護しよう。ミアレのポケモンセンターでちゃんとした治療を受けるべきだと思うから」

 

 そう言って、ライトからビブラーバを預かるデクシオ。

 どこか寂しそうな顔で受け取ったデクシオは、傷ついたビブラーバを優しく抱きしめる。そんなデクシオの感情を読み取ったのか、ビブラーバは静かに目を閉じて体をデクシオへと委ねた。

 

「よし、そうと決まればミアレに向かって急いで行こう!」

「そうだね! 走っていけば、夕方になる前くらいには着く筈だから……わっ!」

 

 溌剌とした声を上げていたコルニであるが、突然西から吹いてくる突風に思わずたじろいでしまう。

 それは他の三人も同じであり、吹き荒れる砂嵐を必死に腕で防いでいた。

 突風が止むと、『やれやれ』といった様子で顔を上げる四人であったが、同時に先程とは比べ物にならないほどの羽音を耳にする。

 恐る恐る砂塵舞う空を見上げれば―――。

 

「あれは……ビブラーバの……」

「む、群れですわね……」

「これはまさか……!」

「……急いで逃げよう!」

 

 頬を膨らませ“りゅうのいぶき”を繰り出そうとするビブラーバの群れを目の当たりにした四人は、大急ぎでミアレのある方向へと走っていく。

 突風によって時折走り辛くもなるが、そのようなことには構わず一心不乱にミアレを目指す。

 その間にもビブラーバたちは、逃げる四人に向かって“りゅうのいぶき”や“だいちのちから”などといった技を繰り出し、自分達の縄張りに入った侵入者を守る人間達を淘汰しようとしていた。

 群れを作るビブラーバの数はおよそ三十体。とてもではないが、真正面から相対するのは得策ではないだろう。

 

 ライトがそう考えている間にも、四人の横に青紫色の炎が奔ったり、地面が爆発を起こしたりと絶え間なく攻撃が続いている。

 

「な、なんでこんな攻撃的なのさ!?」

「くっ、虫よけスプレーさえあれば投げつけてやりますのに!」

「吹き付けるんじゃないの!?」

 

 ジーナの言葉にツッコみを入れる余裕は一応あるライト。

 しかし次の瞬間、地面の小石に躓いたジーナが『ビターンッ!』と派手に転倒し、全員の動きが一瞬止まった。

 ビブラーバは、そんなジーナに狙いを定め、今まさに“りゅうのいぶき”を吹きつけようと照準を合わせている。

 

「ちょ……!」

「ジーナッ!」

「くっ……ヒンバス、“まもる”!」

 

 反射的に放り投げたボールから飛び出してきたのは、この荒野に全く似合わない魚のフォルムをしたポケモン。

 そんなヒンバスは、飛び出る勢いで転んだジーナの上で“まもる”の防御壁を展開し、吹き付けられる“りゅうのいぶき”を完全に防いでみせた。

 たった一匹の魚に防がれると思っていなかったビブラーバ達は一瞬どよめくものの、すぐさま近接戦に切り替え、鋭い牙をむき出しにして襲いかかってくる。

 

 そのような光景を見たライトは、すでにヒンバス一体ではどうにかできる状況ではないと判断し、残りのボールも放り投げた。

 

「ハッサム、“バレットパンチ”! リザード、“ドラゴンクロー”! ジュプトル、“りゅうのいぶき”! ブラッキー、“おんがえし”!」

 

 先制技を指示されたハッサムを皮切りに、ライトの手持ちが総出で野生のビブラーバたちに立ち向かっていく。

 倒れるジーナに“かみくだく”を繰り出そうとしたビブラーバたちは、一体残らずライトの手持ち達の攻撃で吹き飛ばされ、地面に勢いよく落下した。

 『あ、ありがとうございますわ』と礼を言うジーナは、ハッサムに手を取られて立ち上がる。

 そして、そんなジーナの下へ戻っていく三人は、やや苦々しげな笑みを浮かべていた。

 

「これで逃げられなくなったってことだね……」

「仕方がない……全員で戦うしか」

「望むところだよ! さっ、皆出てきて!!」

 

 只一人イキイキとしているコルニは、ルカリオ、ヤンチャム、コジョフー、ワカシャモ、ヘラクロスの五体を荒野へ解き放つ。

 それを見たデクシオもまた、カメール、ロゼリア、ヒノヤコマ、イーブイの四体を繰り出し、空中で羽ばたくビブラーバたちに目を向けた。

 

「むっ……あたくしが転んだ所為でこうなってしまいましたのだから、責任は取らせて頂きますわ……おいでなさい!」

 

 転んだ所為で膝から血を流しているジーナもまた、手持ちを全員繰り出す。フシギソウを始めとし、ビークイン、マリルリ、ニダンギル、サイホーン、イーブイとこの四人の中では唯一六体を揃えている。

 四人が手持ちを繰り出している間にビブラーバたちは、標的の人間達が逃げ出さないように円を描くような陣形をとっていた。

 それを見た四人は、東西南北どこから襲われても対抗できるようにと、背中を合わせてビブラーバたちに相対す。

 

「“メタルクロー”! “りゅうのいかり”! “メガドレイン”! “でんこうせっか”! “どくどく”!」

「“みずのはどう”! “マジカルリーフ”! “ニトロチャージ”! “スピードスター”!」

「“はっぱカッター”! “こうげきしれい”! “バブルこうせん”! “つじぎり”! “がんせきふうじ”! “かみつく”!」

「“はどうだん”! “つっぱり”! “グロウパンチ”! “にどげり”! “メガホーン”!」

 

 一斉に飛んできた指示を理解したポケモン達は、一気にビブラーバたちへと攻撃を仕掛けていく。

 散開して攻撃を仕掛けていくポケモン達に対してビブラーバたちが放つのは、“りゅうのいぶき”や“いわなだれ”、“かみくだく”などという厄介、若しくは単純に強力な技だ。

 しかし、それを上回っていたのが四人の手持ち。個人差はあれど、各自でビブラーバたちを十二分に相手取っている。

 ハッサムとリザードに至っては、ハッサムが“メタルクロー”で挟んで下に放り投げたビブラーバをリザードが“ドラゴンクロー”で追撃するという連携技も見せていた。

 

 ビブラーバの群れに互角以上に対抗する四人と手持ち達。

 だが、全体的な数では向こう側の方が上ということもあり、少しずつであるが四人の手持ちの体力も尽き始めていく。

 

「ヤッコォ……!」

「くっ、ヒノヤコマ! 戻って休んでてくれ!」

「ビークイン! お疲れ様ですわ!」

 

 特に【いわ】を苦手とするポケモンは、“いわなだれ”の直撃を喰らって次々と沈んでいく。

 更にレベルの低いポケモン達も、続く攻撃にどんどん力尽きていき、戦闘不能になっていった。

 だが、時間が経てば経つほど戦えるビブラーバの数も減っていくため、もうひと踏ん張りで逃げ出せるほどにはなりそうだ。

 

「皆! もう少し頑張って!」

 

 “りゅうのいぶき”の追加効果で【まひ】を喰らったポケモン達も居る中で、ライトは激励を送ってポケモン達を応援する。

 そして、ハッサムが一体のビブラーバに“かわらわり”を叩きこんで地面にめり込ませたのを機に、残る数少ないビブラーバが一旦引き下がっていく。

 その光景を見たデクシオは、冷や汗を掻いた顔のまま三人を一瞥して声を張り上げる。

 

「今の内に逃げよう! これなら突破出来るはずだ!」

「うん!」

 

 デクシオの提案に頷く三人は、ポケモンをボールの外に出したままミアレのある方角へと駆け出していく。

 これで一段落―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――かに思われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フルゥァアアアアアアア!!!!!」

 

 突然響き渡る咆哮。

 同時に、周囲で吹き荒ぶ風がだんだん強くなっていき、目を開けるのが困難になってしまう程の砂嵐が発生する。

 

「な……なんですの、この声?」

「分からない……でも、ここは逃げるのが先け―――」

 

 刹那、デクシオの横に佇まっていたカメールが、一瞬通り過ぎた影の攻撃を喰らい空中で錐もみ回転してから地面に落ちる。

 

「カ……カメェ~……」

「カメール!?」

「そんな……一体どこから!?」

 

 余りにも速過ぎる攻撃に唖然とする四人であったが、直後、突風が吹き渡る。それと同時にビブラーバより一回りも二回りも大きい若緑色の皮膚を持つポケモンが、大きく砂煙を上げてライト達の前に立ちはだかる。

 ビブラーバよりもガッシリとした体格を持ち、瞳の部分には荒れ狂う砂嵐を防ぐ為の物と思われる赤色のカバーが付いていた。

 

「っ……あれは!」

『フライゴン。せいれいポケモン。強烈なハネの羽ばたきで砂嵐を起こす。砂漠の精霊と呼ばれる』

「フライゴン……ビブラーバの進化形ですわ……! まさか、群れの首領(ドン)……!?」

 

 図鑑で目の前に佇むポケモンに翳すライトの後ろでは、ジーナが目の前に居るフライゴンこそ、今襲ってきたビブラーバのボスではないのかと疑う。

 そしてそれは、フライゴンの後方より現れる新たなビブラーバの群れを見て確信に変わった。

 満身創痍な中で現れた更なる強敵と、その部下達。否応なしに四人の表情は引きつっていく。

 

「ちょっとちょっと……冗談じゃないって、コレ……!」

「振り切るのは無理そうですわね……」

「……フライゴンって、どのくらい強いの?」

「進化するレベルがレベルだから、かなり……かな」

 

―――ザッ。

 

 すると、不意にハッサムが四人の前に出ていき、左腕を横に突きだした。

 

 

 

『ここは俺に任せろ』

 

 

 

 そう言わんばかりに闘志あふれる瞳を向けてくるハッサムを目の当たりにしたライトは、コクンと頷いてから三人に目を向ける。

 

「……僕とハッサムでフライゴンをなんとかするから、三人はビブラーバたちをお願い」

「え!? で、でも……」

「砂嵐の中でも、ハッサムなら大丈夫。寧ろ好都合だよ」

「……わかった。任せていいんだね?」

 

 砂嵐の状況下、【はがね】を有すハッサムはダメージを受けずに戦う事が可能だ。

 フライゴンをライトとハッサムに任せた三人は、ビブラーバの群れの第二波に備える為、気休めではあるもののキズぐすりを大急ぎでポケモン達に噴射する。

 そして、

 

「フルァアアアッ!!!」

「“メタルクロー”だ、ハッサム!!」

 

 “ドラゴンクロー”を繰り出して飛翔してくるフライゴンに対し、“メタルクロー”で相対すハッサム。

 二体が激突すると、只でさえ砂塵が舞う中で砂煙が巻き起こる。

 

 

 

 激突の轟音が響き、砂塵舞う戦場で第二ラウンドが開始されるのであった。

 


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