ポケの細道   作:柴猫侍

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第六十三話 嵐のような姉

 

 

 

 ミアレシティ・オトンヌアベニュー。

 

 昼下がりの時間帯、四人並んでジュースをストローで飲む者達が歩道を歩んでいた。各々の持つジュースの色は違うものの、全員が美味しそうに飲んでいることから味は悪くないことが分かる。

 彼等が口にするのはオトンヌアベニューにある『しるや』と呼ばれる店で売られている木の実を使ったジュースであり、色に違って味が大きく変わる。

 味は大まかに五種類だ。赤なら辛く、黄なら酸っぱく、青なら渋く、緑なら渋く、桃色なら甘くといったものである。

 だが、共通して木の実特有のフレッシュな香りとほどよい甘みが感じられ、直に木の実を食べるよりも遥かに食べやすくなっていた。

 

―――ズズズズッ……

 

「あっ、もう無くなった」

「……飲むのが早くありません?」

「そう?」

 

 最初にジュースを飲み終えたのはライトであった。

 そんな、病み上がりであるにも拘わらずジム戦の途中で応援しにやって来た少年を呆れた顔でジュースを飲み進めるジーナ。

 無事にデクシオとジーナの二人もジムバッジを獲得できたようであり、こうしてバトル後の疲れを取る為に買い食いのようなことをしていた四人。

 

「ルカリオも飲む?」

「クァンヌ!」

「ビブラーバも飲んでみるかい?」

「ビ~!」

 

 手持ちのポケモンにジュースを飲ませてあげるコルニとデクシオ。コルニのルカリオは兎も角、デクシオはヒヨクシティに居た時は持っていなかったビブラーバを手持ちに加えているが、

 

「すっかり懐いているね、ビブラーバ」

「うん。プラターヌ博士の研究所に預けるっていうのも手だったんだろうけど、折角だしちゃんと育ててあげようと思ってね」

 

 13番道路で保護したビブラーバは、ポケモンセンターで治療を受けた後にデクシオに懐いたようであり、今ではこうして仲が良い光景を他人に見せるほどだ。

 微笑ましい光景に思わず笑みが零れるライト。一度トレーナーに捨てられても尚、こうしてデクシオに懐いていることから人間のことを恨んでいる訳でもなく、ずっと好きであったままだったのだろう。

 自分のジュプトルに関しては、捨てられてから暫くの間人間には懐かなかったものの、今ではこうして手持ちの一体として活躍してくれている。

 

 カントー地方四天王の一人、【あく】タイプ使いのカリン曰く『強いポケモン、弱いポケモン、そんなの人の勝手。本当に強いトレーナーなら、好きなポケモンで勝てる様頑張るべき』という言葉がある以上、『弱いポケモン』などというのはあくまでトレーナーの身勝手な主観であることが分かる。

 最初に強さの違いはあれど、しっかり育ててあげればどんなポケモンであっても強くはなれるのだ。

 良いトレーナーというのは、どんなポケモンの個性を引き出せてあげることのできるトレーナーなのではないだろうか。

 

―――という文章を雑誌で呼んだ事があるライト。

 

 実際に実行するのは難しいだろうが、心しておくことができればモラルの無いトレーナーになることはない。

 名言を思い返すだけで、ちょっと引き締まったような気分になれるのはライトだけではないだろう。

 

 閑話休題。

 

「これからどうする?」

「ああ、そう言えば! ミアレシティの南にあるプランタンアベニューには『いしや』という店があって、進化の石が販売されているんですわよ! そこに行けば、メガストーンも売ってるかもしれませんわよ!」

(……そういう店の名前流行ってるのかな?)

 

 『しるや』にしろ『いしや』にしろ、どちらかというとカントーやジョウトにありそうな店名に思わず苦笑を浮かべるライト。

 

「でも、こっから南って結構遠い気がするけどどうするの?」

「一人の時だったらタクシーを使ってる所ですけれど、この大人数ですしミアレステーションを使って行きましょう。ここら辺からだと二百円ぐらいですわよ」

「ミアレステーション?」

「地下鉄ですわ」

 

 そう言ってから残ったジュースを一気に飲み干したジーナは、駆け足で電車マークが描かれている看板目がけ走っていき、その近くにあった建物の中へと入っていく。

 ジーナを追う三人も軽快な足取りで彼女のことを追いかけていって建物に入ると、中は普通の建物よりも広大な空間が存在しており、階段を下っていくとカラフルな色合いの電車を目にすることができた。

 白を基調とした空間の中で、人が大勢出入りしている電車は非常に目立っており、奥の方にも佇んでいる電車が地下トンネルを往来しているのが垣間見える。

 

「おおっ!」

「これがミアレを周る時の足の一つ! お手頃な価格でミアレのあっちこっちに移動できますわよ!」

「結構適当な説明だね、ジーナ」

「何か言いましたか!?」

「いや」

 

 踏ん反り返ってミアレステーションをアバウトに説明したジーナであったが、アバウトな部分をデクシオに指摘される。

 そこはいつも通りキッとした眼光を向けて黙らせるジーナ。

 そうしている間にミアレステーションを感心しているような瞳で見ているライトの横では、コルニも何故か驚いたような瞳で電車を見つめている。

 

「……あれ? コルニって一度ミアレに来てるよね?」

「うん! だけどその時、駅なんて知らなかったからローラースケートで走りまわってた!」

(体育会系……)

 

 この広大なミアレをローラースケートで走りまわるとは、かなりのマサラ人に負けずとも劣らない体育会系だ。

 カントーやジョウトで電車といったらヤマブキシティとコガネシティを繋ぐリニアぐらいしか無い為、アルトマーレに住んでいるライトには電車などは馴染みがない。

 その為、こうして人生初の電車に興奮気味で瞳を輝かせているのだが、この町で暮らして早十年以上の都会っ子であるデクシオとジーナにはそんなに珍しい物では無い為、早々と切符を買う為の機械の前まで歩んでいく姿がライトの目に映った。

 

 手際よく切符を買った二人に続き、見よう見まねで切符を買う為に金銭を機械に入ようとするが―――。

 

(……路線図が多くて分かんない)

 

 機械の上に用意されている路線図であったが、かなり入り組んでいる図であったが故に、どのくらいの金銭を入れて、どの切符を買えばいいのか分からなく混乱してしまう。

 

 田舎者あるあるを遺憾なく発揮するライトは、暫し放心状態に陥る。

 

 それを見かねたジーナが颯爽と近寄り『これですわ』と、手助けをしてくれた為、後ろに行列を作ってしまうことは阻止できた。

 

(……マサラが恋しいなぁ)

 

 近くの商店街まで徒歩三十分の田舎町であるマサラタウンの事を思い出しながら切符を手に入れたライトは、そのまま改札機に切符を入れて電車へと向かうのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ミアレシティ・プランタンアベニュー。

 ミアレステーションを用いての移動を終えた四人は目的地である『いしや』なる店を探す為、歩道をまったりと歩んでいた。

 

「わあ、漢方薬局だ……漢方売ってるの?」

「ええ。良薬口に苦し……とっても苦いですけど体にいい薬が売っていますわよ。苦いですけれど」

「……そんなに苦いの?」

「悶絶致しますわよ」

「……食べたことあるの?」

「聞かないで下さいまし!」

(食べたんだ……)

 

 詳細は聞かされないものの、漢方を口にして悶絶したことがあるらしいジーナの話を聞いたライトは、とりあえず漢方には手を出さないようにと心に決めた。

 漢方は歳をとってからでいい筈。

 良薬口に苦しともいうが、苦すぎるのは体に毒だとテレビのバラエティでやっていた気がする為だ。というよりも、人が苦い物を嫌うのは苦い=毒という生物の本能的な部分の問題であり―――。

 

「ここですわよ! ここがプランタンアベニューで進化の石などを販売している『いしや』ですわ!」

 

 テレビ番組で店を紹介する時のような雰囲気でいしやを指差すジーナは、勇み足で店内へと入っていく。

 そんなジーナの後を追う三人は、ショーケースの中に石がずらりと並べられている店内に入り、メガストーンがないものかと周囲を見渡す。

 この四人の中でメガストーンを持っているのはコルニのみであり、他三人はキーストーンだけで肝心のメガストーンを有していない。

 もしこの店に売っているのであれば、少しくらい値が張っていても買おうという気概はあるのだが、中々メガストーンを見つけることはできなかった。

 

「う~ん……あの、すみません」

「はい?」

 

 こういう時は店員に訊いた方が早いと考えたライトは、全てを見回るよりも早くカウンターに立っていた男性の店員に声を掛ける。

 

「僕、メガストーンっていう石を探してるんですけど……」

「メガストーン……ですか? すみません、そのような商品はウチには……」

「……そう、ですか」

 

 ガクリと肩を落とすライトを見ていた三人もメガストーンがないことに残念そうに肩を落とし、トボトボと店内から出ていこうとする。

 期待していた分、無かった時の悲壮感というのだろうか。どんよりとした空気を背負いながら店の外に行こうとする四人に、無いと告げた店員も悪いことをしてしまったかというような顔になってしまう。

 だが、無いものは無い。

 無いものを探して店内をうろちょろと歩くのは迷惑極まりない行為であろう。素直に引き下がろうとした四人であったが、

 

「君達。メガストーンを探していると言ったかね?」

「え? あ……はい、そうですけど……」

「成程。やはり君達が腕に着けているのはキーストーンかい。なら話は早いね。これを見てくれたまえ」

 

 突然、店内にひっそりと佇んでいた一人の初老と思われる男性がライトに声を掛ける。糊が解れていい感じに着こまれたスーツを纏っている男性は、右手に携えていた重要な物を入れる様なケースをカチャリと開けた。

 そこには―――。

 

「あっ!」

「全部、わたしの持っている一品物だよ。これが『フシギバナイト』というフシギバナ専用のメガストーン……そしてこれが『リザードナイト』。リザードン専用のメガストーンだね。そして最後に『カメックスナイト』……言わずもがな、カメックス専用のメガストーンだね」

 

 次々と取り出して見せる宝石のような玉に、一同全員が目を丸くして食い入るようにメガストーンを見つめる。

 すると、ジーナが鼻息を荒くしながら他三人よりも一歩前に飛び出す。

 

「そ、それは店の商品か何かなのですの!?」

「いや、最初に言ったようにわたしが持っている物であって、この店の商品じゃあないよ。だけど、わたしは誰かがこれを買ってくれないものかとあちこちに持ち寄ってみているんだよ」

「ほ、本物ですの!?」

「疑うのであれば、君達が着けているキーストーンをこれらに近付けてみると良い。そうすれば一目瞭然だよ」

 

 男性にそう言われたジーナは、左腕に嵌めているメガリングをメガストーンに近付けてみると、メガリングに嵌められているキーストーンが淡く光り始めたのを目にした。

 明らかにこれは共鳴反応。

 本物である可能性が極めて高くなったメガストーンを目の当たりにしたジーナは、テンションMAXで男性に詰め寄っていく。

 

「ち、因みにこれを買うのであれば幾らぐらいなのでしょうか!?」

「百万円だね」

「「「「ひゃッ!!!?」」」」

 

 百万円という規格外の金額に目が飛び出るのではないかという程見開く四人。確かにメガストーンは貴重な物であり、男性が持っている物が一品物というのであれば、その位の値段をするのかもしれない。

 だが百万円という価格は明らかに子供が手を出せる値段でないことは確かだ。

 余りに自分達には現実離れした値段を耳にした四人は、引き攣った笑みを浮かべながら男性の前から後退していく。

 

「……出直してきますわ」

「はははっ、機会があったらまた来ると良い。わたしは此処に居るからね」

 

 すっかり意気消沈して出ていく四人を笑顔で見送る男性。

 『カランカラン』と音を立てて開く扉を潜って外に出た四人は、気分を入れ替える為に空気を肺一杯に吸いこむ。

 そして、

 

「……百万円なんて無理に決まっていますわ」

「お金で解決するのはよくないってことかな」

「はぁ……ん?」

 

 残念そうな声で呟くデクシオとジーナの隣でライトは、不意に鳴り響いたポケギアの着信音に顔を上げて、バッグの中をガサゴソと漁ってポケギアを手に取る。

 そして、画面に映し出されている名前を見て苦笑を浮かべた。

 

「……はい、もしもし」

『おひさぁ―――! 愛しの我が弟、元気ぃ!?』

「うん、元気だけど急にどうしたの?」

 

 姉のブルーの声をポケギアを通じて久し振りに聞くライトは、他三人に『ちょっと』というジェスチャーを見せてから店前から少し離れた所で通話を続けた。

 

『この前試写会でカロスに行くって言ってたじゃない、わたし! 今日その日なのよね~!』

「へぇ~……じゃあ今ミアレに居るの?」

『そうなのよ~……ねっ!」

「えっ? ……ぎゃあああっ!?」

 

 不意に首に回された手と、聞き慣れた声。そして、漂ってくる懐かしい香りに振り返ってみると、ポケギアを耳に当てているブルーの姿が―――。

 

「なんで真後ろに居るの!?」

「ちょっと脅かそうと思ってぇ~!」

「っていうか、なんで僕の居る場所分かるの!?」

 

 ちょっとしたストーカーではないかと疑う程、的確に自分の位置を当てて背後に回ってきた姉に若干引き気味に声を荒げるライト。

 

「知ってる? ピクシーの耳は、一キロ離れた場所で落ちた針の音も聞き分けられるくらい耳が良いって。それでこっそ~り、ってね」

「そ……そうなの? そうなんだ……」

(ホントはポケギアの位置検索サービス使ったんだけどね♪)

 

 キョトンとした顔で一応納得するライト。ブルーの手持ちにピクシーが居るのはライトも既知の事実である為、どこか納得いかない様子でありながらも一応納得する。

 だが本当の所は、ブルーがライトにポケギアをプレゼントする前に、ポケギアの位置検索の許可をしていただけであり、ピクシーには一切手伝ってもらっていない。

 

 そんな姉弟の会話を繰り広げていると、珍しいライトの様子に少し離れた場所で待機していた三人が何事かと駆け寄ってくる。

 

「どうしたの、ライト? その人は……」

「あら? ライトの友達? どうもぉ~、姉のブルーで~す!」

 

 いつもと変わらぬ様子で自己紹介をするブルーに、他三人は唖然とした様子でライトを両腕で抱きしめている状態のブルーを見つめる。

 

「こ……この方がライトの姉の……!」

「あ、えっと……ドラマで何回か拝見させて頂いています」

「わぁ~、ライトのお姉ちゃんって美人さん……!」

「あははっ! どもども~! ウチの弟が迷惑かけてない? 大丈夫? 皆で買い物? いいわよね~、ミアレってなんでも揃ってるし!」

(((勢いが凄い……!)))

 

 弟のライトと比べるとかなりグイグイくる女性に思わず三人は後ずさりしてしまう。

 その間、ライトはというとずっと両腕で抱きしめられて拘束されているままだ。何とかして姉の拘束を解きたいライトは、とある質問を投げかけてみる。

 

「あの、姉さん……試写会は何時から?」

「昼前に終わったわよぉ~! 今は自由時間って感じ!? 帰りのフライトまでは三時間ってとこだけど」

(くっ……結構長い!)

 

 帰りのフライトまで三時間ならば、準備に一時間を要すと仮定するのならば約二時間ブルーは自分と共に居るはずだ。

 友人が居る中で、この破天荒な姉と共に居るのはかなりの精神力を使うことだろう。

 そんな事を思うライトは先程よりも顔を俯かせるが、ふとブルーが『あらっ?』と声を上げる。

 

「ちょっと~! フード千切れてるけどどうしたのよ~!?」

「え? あっ……」

「もう! 身だしなみはちゃんと整えなきゃ駄目でしょ~? 後でブティック連れてったげるから! ライトにぴったりなお洒落な服買ったげる!」

「……うん」

 

 終始ブルーのペースに呑まれているライトは、会ってから数分で疲れ切った表情を浮かべている。

 そんな弟を終始抱きしめるブルーであったが、ふと弟の左腕に嵌められている腕輪に気付き、『うん?』と首を傾げた。

 

「どうしたの、その腕輪? 随分アンティークな感じの着けてるけど……ライトってそういうの好きだったっけ?」

「ううん。これは―――」

 

 かくかくメブキジカ。

 腕に着けていたメガリングに興味を示したブルーに、キーストーンのことやメガストーン、そしてメガシンカの事を説明すると、感心したかのような声を上げる。

 

「へぇ~! それってそういうスーパーアイテム的な感じだったのね!」

「アバウトな解釈だけど……まあ大体合ってる」

「じゃあやってみせて! 私、そのメガシンカっていうの見てみた~い♪」

「いや……あの……ポケモンの方に持たせる方を僕は持っていない感じで」

「え、ないの!? そこに『いしや』ってあるけど売ってたりしないの?」

「まあ売ってる人は居るけど……その……百万円で」

「たっか!? ちょっと、それ法外な感じじゃないわよねぇ~!?」

 

 メガストーンが百万円で売っている事を告げてみるとブルーは眉間に皺を寄せて声を荒げる。

 流石の売れっ子女優であっても、元が一般家庭で生まれたブルーにしてみれば百万円は縁のない値段であるらしい。

 ブルー以外の四人が苦笑いを浮かべている間、顎に手を当てて思案を巡らせるブルー。

 その姿にコルニが『ライトそっくり……』と呟き、他二人も『確かに』と同意する。当のライトはというと、『そんなに似てる?』と納得していない様子だ。

 

「……ライト」

「うん?」

「そのメガストーン売ってる人のとこ連れてって」

「え?」

「ちょ~~~っとだけ値切ってみるから……うふふ」

(……この目は本気だ……!)

 

 意地の悪そうな笑みを浮かべている姉の瞳を見て戦慄するライト。

 昔から、何かにつけて安く物を買おうとしていたブルーの姿を、ライトは覚えていた。その話術に加えて整った容姿で、数々の商品を大分安く買ってきたという実績がこの姉には在る。

 今回もまた―――。

 

(だけど、百万円のは流石に……)

 

 

 

 ***

 

 

 

「一個一万円で買って来たわよぉ~♪」

「……」

「どうしたの、ライト? ほら、確かライトってヒトカゲ選んでたから、このリザードナイトって奴でいいんでしょ?」

「うん……まあ……そうだけど」

 

 店内から指の間にメガストーンを挟めたまま勝ち誇った笑みを浮かべてやって来たブルー。

 どこか遠い所を見る目をしたライトは、ブルーが指に挟んで持ていたサファイヤのような蒼い色を持つ玉を渡されて、それをジッと眺めた。

 玉の中心には黒と深い青が捩じりあうような特徴的な模様が浮かんでおり、ライトが腕に嵌めているメガリングのキーストーンも、リザードナイトに共鳴して淡い光を放つ。

 だが、問題はそこではない。

 

「……どうやって値切ったの?」

「うん? い・ろ・い・ろ♪ それでちょっとだけ安くしてもらったのよぉ~!」

「世間的には99%オフを『ちょっと』とは言わないけど」

「まあ、堅いことは言わないで~! あと、フシギバナイトとカメックスナイトっていうのも買ったけど、これもライトにあげちゃう! 誰にでもあげていいわよ~!」

 

 『誰にでもあげていい』といったブルーは、物欲しそうな瞳で自分達を見つめていたデクシオとジーナの方に『パチッ☆』とウインクをしてみせる。

 二人に渡してあげろというのを何気なしに伝えるブルーにライトは、意外と周りを見ている人物なのだと改めて実感した。実際、そうでなければリーグで三位に入賞する事などできはしないだろう。

 そんな姉の施しに自然と笑みが零れるライトは、満面の笑みでブルーの顔を見つめる。

 

「ありがと、姉さん!」

「ふっふ~ん! お礼もい・い・け・ど……」

「……何してるの?」

 

 自分の頬を人差し指で指し示すブルーに、訝しげな顔を浮かべるライト。

 するとブルーは、ちょんちょんと頬を指で叩いてみせ―――。

 

「メガストーンのお礼は、お姉ちゃんのほっぺにチューって事で!」

「……いや、あの」

 

 かつてない程引き攣った顔で振り返り、背後に佇んでいた三人に助けを求めようとするライト。

 だが、三人はそれぞれ気まずそうな顔でライトから視線を逸らす。

 

「に、逃げちゃ駄目ですわよライト! お姉さまのお願いなんですから!」

「……あの、その……高い買い物もさせちゃったわけだし」

「仲イイね! その……目は逸らしておいた方がいい?」

(……くっ! 逃げられない!!)

 

 完全に助ける気のない三人に歯をギリッと食いしばるライトは、準備万端のブルーの方に顔を向ける。

 今や今やと待ちかねているブルーの視界には、歩道を歩む一般人などは眼中に入っていない。

 一応芸能人なのだから、そこら辺は気を遣った方が良いのではないかと考えたライトであったのだが、ここまで来たら逃げる事などできない。

 十二歳になって、十五歳の女優の姉の頬にキスなど普段など恥ずかしくてできる訳がない。

 だが、こうして恩義ができてしまった以上、一歩も退けなくなったため―――。

 

 

 

(はぁ……もぉ~~~!!!)

 

 

 

 久し振りの姉の頬は柔らかかった。

 




・お知らせ
 レッドのバイトの話は番外編でちょくちょく入れていく予定です。

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