ポケの細道   作:柴猫侍

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第六十四話 昼ドラのような腹黒さ

 

 

 

 ミアレシティのとある地下施設。

 電灯も少ない薄暗い部屋で病的なまでに白い肌で、尚且つ恰幅のよい男性が眼前の巨大なモニターをマジマジと眼鏡の奥の瞳で見続ける。

 そこには各方面からリアルタイムで送られている映像が映し出されているが、画面に映っていたのは―――。

 

「来たゾ、来たゾ。伝説の三鳥がミアレにやって来てんだゾ」

「首尾よくやれているの? クセロシキ」

「無論。プリズムタワーに仕掛けた装置は正常に作動してるゾ」

 

 カツカツとハイヒールを履いているかのような足音が後ろから響いてくるが、男性は見向きもしないで延々とキーボードを叩きながら画面を凝視する。

 そんな男性の横からデスクに手を着きながら身を乗り出す女性は、画面に映っている炎を纏っているかのような伝説のポケモン―――ファイヤーを見てうっとりとした表情を浮かべた。

 

「ああ……いいわね。このファイヤーこそ、フレア団のシンボルに相応しいのではなくて?」

「ボスの傍らに立つ女としてもか?」

「勿論。では、後はわたくしに任せてもらいます」

「暇があれば他の二体の捕獲もお願いしたいゾ。伝説のポケモンの生命エネルギーは凄い。是非サンプルを……」

「分かっていますわ。わたくしを誰とお思いで?」

 

 落ち着いた声ながらどこか怒気を含むような声を発する女性に、クセロシキと呼ばれた男性が若干表情を強張らせる。

 

(……だからこの女と話すのは苦手なんだゾ)

 

 心の中で溜め息を吐くクセロシキは、画面のファイヤーを満足いくまで眺めてから出入口の方へ向かって行く女性を見届けた後、気分転換の意味でデスクに置かれていたコーヒーを啜る。

 あと十分もしない内にミアレに辿り着く三鳥の姿を眺めながら。

 

 

 

 ***

 

 

 

「……はぁ」

「どうしたの、そんな大きな溜め息吐いて? 溜め息したら幸せ逃げちゃうわよ?」

「いや、うん……まあ」

 

 ブルーに全身コーディネートされたライトは、ブルーの買い物に付き合わされて持たされている荷物を両手に抱えながら、深い溜め息を吐く。

 コルニ達などの他三人は『姉弟の邪魔をしたら悪いから』という理由で別行動をとっているのだが、それが逆にライトの負担を増やしているなど、三人は知る由も無かった。

 

 因みにライトの現在の服装は、白のポロシャツの上に黒を基調としたベスト。そしてベストの襟元には青色のスカーフを巻いていた。

 ボトムズはというと今迄のような半ズボンではなく、黒と灰色基調の大分ゆったり目なズボンを穿かされており、裾は冒険用のお洒落なブーツへインする形式をとっている。

 帽子はシャラシティで買った物を変わらず被っているが、トップスもボトムズも大分印象が変わるようなコーディネートをされている為、お洒落には疎いライトは依然ブルーのコーディネートを着こなすことができていなかった。

 

 一方、弟を存分にコーディネートできたブルーは、満足そうな表情でプリズムタワーの方へと勇み足で突き進んでいる。

 

「一度ちゃんと登ってみたかったのよねぇ~、プリズムタワー! カロスに来るとき、いっつもあんまり時間が無かったから!」

「へぇ~」

「恋人ごっこでもする?」

「結構です」

「はぁ、そうよねぇ……ライトにはカノンちゃんが居るものね……」

「カノンは関係ないでしょ!」

「もお……顔真っ赤にしてカワイイんだからぁ~!」

 

 カノンを引きあいに出されたライトは、オクタンのように顔を紅くして否定するものの、それを見ていたブルーは逆に『カワイイ』とライトを存分に抱きしめる。

 何故か敗北感に苛まれるライトは、どうにでもなってしまえと言わんばかりに諦めた表情で遠い所を眺めるかのような目を浮かべた。

 

「おや? 君は……ライト君でしたよね?」

「え、あっ……シトロンさん! どうも、さっきぶりで……」

 

 だが、ふと聞こえてきた声にハッとした表情を浮かべるライト。

 すぐさま姉の拘束を解いて声が聞こえて来た方向に目を向けると、妹のユリーカと共に道を歩むシトロンの姿が見えた。

 突然のジムリーダーの登場に驚くライトであったが、向こう側は知らない女性を目の当たりにして一体誰なのかと首を傾げる。

 

「えっと、この方は……」

「どうもぉ~、姉のブルーで~す!」

「ああ~、思い出したぁ~! ブイレンジャーの!」

 

 いまいち誰かを認識できない兄に対し、子供であるユリーカはテレビで観たことのある人物を目の前にして鼻息を荒くする。

 そして何故か急に跪き、左腕を胸に当てながら、右手をブルーへと差し伸べた。

 

「ブルーさん、キ―――プッ! お兄ちゃんをシルブプレ!」

「「……シルブプレ?」」

「コ、コラ! ユリーカ! それは止めろっていつも言ってるじゃないか!」

 

 シルブプレの意味が分からずに首を傾げるライトとブルーに対し、シトロンは焦った様子でユリーカを『エイパムアーム』なる発明品でその場から離す。

 エイパムアームに襟元を掴まれてブルーの目の前から離されるユリーカであったが、茶目っ気たっぷりな笑みを見せながらこう言い放つ。

 

「『シルブプレ』は『よろしくお願いします』って意味なの! お兄ちゃんっていっつも機械ばっかり弄ってるから、あたしが代わりにお嫁さんを見つけてあげようと思って!」

「小さな親切、大きなお世話です! 自分の恋人くらい自分で探します!」

「えぇ~……でもブルーさんって女優さんだよ? 『ぎゃくたま』っていうのじゃないの?」

 

 エイパムアームに掴まれたままのユリーカであるが、反省した様子は一切感じられない。

 そんな兄妹の近くで話を聞いていた姉弟の二人組は、感心するかのような表情でウンウンと頷いていた。

 

「へぇ~、じゃあ私って年下の子に逆ナンされてたってコト? ユリーカちゃんっておませさんねぇ~!」

「逆ナン……」

「ライトもどっかでナンパしてくれば?」

「いい!」

「カノンちゃん居るから?」

「ち・が・う!」

(あ~、必死になっちゃって! きゃわうぃ~!)

 

 再び顔を真っ赤にして否定の言葉を口にする弟に萌えるブルーは頬を手で押さえる。他人の前では大人びた様子を見せるこの弟であるが、自分の前では等身大の十二歳を見せてくれるところがいい感じのギャップだ。

 特に、彼の幼馴染のカノンを引き合いに出せば、容易に可愛らしい一面を見せてくれる。

 

 そのような感じで弟に萌えていたブルーであったが、姉の様子を見かねたライトが『それは兎も角』と話を切り変えてきた。

 

「プリズムタワーに行くんじゃなかったの?」

「ん? ああ、そうだったわね! カロスの思い出に―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ピシャアアアアアン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあ!」

「ッ!? 雷!?」

「プ……プリズムタワーに!!」

 

 青天の霹靂とでも言おうか。

 突然轟いた雷鳴に、まだまだ子供のユリーカは驚き、恐怖し、兄の服をがっしりと掴んだ。

 対してライトとブルーの二人はプリズムタワーの天辺に留まった一体のポケモンに目を見開く。

 黄と黒の色を有す、荒々しい雷を体現するかのような姿の鳥ポケモンは、鋭い眼光でミアレをその瞳に映していた。

 

「―――ア゛ァァァアアアア!!!」

「ッ……!」

 

 劈く様な雷鳴をとどろかせるポケモンを目の当たりにしたライトは、すぐさまポケットから図鑑を取り出し、情報を画面に映し出す。

 

『サンダー。でんげきポケモン。電気を操る伝説の鳥ポケモン。普段はカミナリ雲の中で暮らしている。カミナリに撃たれると力が湧いてくる』

「あれが……サンダー!?」

 

 目の前の存在を確かめる様に呟くライトであったが、その瞬間に再び雷がプリズムタワーの天辺に留まっているサンダーに堕ちる。

 すると、周囲の建物の中の電灯が一斉に暗くなり、昼にも拘わらず普段よりも若干暗い印象を与える街に一変した。

 

「ま、まさか……強い落雷の衝撃で停電した!?」

「そんな!? 普通高い建物って避雷針とかで頑丈に……!」

「想定以上の威力だったんでしょう……くッ!」

「シトロンさん!」

「お兄ちゃん!?」

 

 眼鏡の奥に佇む瞳に焦燥を浮かべたシトロンは、慣れない様子でプリズムタワーへと全力疾走していく。

 危険な伝説ポケモンが佇む場所に自ら近づこうとしている兄を見て、心配そうな声を上げるユリーカであったが、一向にシトロンは止まる事は無い。

 恐らく彼は、ミアレのジムリーダーとして街を守る為、サンダーに挑もうとしているのではないか。

 【でんき】タイプのエキスパートである彼が解決に向かうのは妥当であるが、相手が伝説ポケモンである以上、苦戦は必至である筈。

 

「……ライト。ユリーカちゃん任せてもいい?」

「え? ね、姉さん……?」

「あの鳥畜生をちょっと黙らせてくるから」

「……」

「私とライトの姉弟デートを邪魔するなんて許せない! しばいてくるわ!」

(駄目だ、この姉は……!)

 

 姉が正義感で動こうとしているのかと一瞬でも思った自分をバカだと思ったライト。

 破天荒なのは知っていたが、まさか伝説ポケモンにまで喧嘩を売ろうとは。さらに言ってしまえば、実力もそれなりに備わっている為性質が悪い。

 ハイヒールを履いているにも拘わらずかなりの速度で走っていくブルーを茫然とした目で見届けたライトは、近くでブルブルと震えているユリーカの下に近付いて手を握る。

 

「大丈夫だよ。シトロンさんは強いから。なんたって、ジムリーダーだからね」

「……うん」

「ここも危ないかもしれないから、少し離れた場所に行こ?」

 

 不安を拭えないユリーカの手を握ったまま、少しでも流れ弾が飛んでこない場所にユリーカを避難させようと歩み始める。

 だがユリーカは、後ろ髪を引かれるようにプリズムタワーの方に振り返り―――。

 

「あ……」

 

 

 

 炎のような鳥と、氷のような鳥を瞳に映した。

 

 

 

 ***

 

 

 

 地下鉄道にて。

 

「ちょっと! いきなり電車が止まるってどういうことですの!?」

 

 頬を膨らませて急に停止した電車に文句を垂れるジーナ。それは電車に乗っていた他の者達も口にすることであったが、一方では突然止まった電車に不安の色を見せる者達もちらほら。

 

「アナウンスも流れないし……停電でもしたのかな?」

「はぁ~、何時復旧するかなぁ?」

「早く動いて欲しいものですわ!」

 

 各々が言葉を口にする中、車掌室から運転していたと思われる男性が出て来る。

 

「すみません、皆さま! 現在、プリズムタワーへの落雷によって一部区間で停電が起こっています。すぐに復旧できるよう努めますので、そのままお待ちください!」

 

 そんな男性の言葉に各所から不満の声が上がるが、指示に従う他ない者達は溜め息を吐くばかり。

 それはジーナたちも同じであり、早々の復旧を願って待機するのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

(持ち合わせのポケモンでどこまで戦えるか……僕の実力で……伝説のポケモンに!)

 

 インドア派のシトロンは日常生活で走る事はほとんど無い為、こうして全力疾走するのは如何せん体力を使い過ぎるのだが、そんなことは頭の隅に置いたままで街の安全を確保するために疾走していた。

 そんなシトロンが持っているポケモンは、ジム戦で使用したポケモン達だ。これはフルメンバーというには程遠い手持ちであるが、停電によって自動ドアが開くかも解らないプリズムタワーに入る時間は既に無い。

 サンダーはというと、辺り構わずに放電して劈くような鳴き声を上げている。

 もし電撃が家屋に直撃すれば火事になるかもしれない。その危険性を考慮すれば、一秒だって無駄にはできない。

 

「レアコイル、お願いします!!」

「―――」

「サンダーに向かって“マグネットボム”です!!」

「――!」

 

 コイルが三体合体したような見た目のレアコイルは、六つのU字型磁石のような部分の先をサンダーに向けてエネルギーを収束し始める。

 そして、凝縮したエネルギー弾をサンダーに寸分の狂いも無く解き放った。

 “マグネットボム”は【はがね】タイプの技であり【でんき】タイプのサンダーに効果は望めないものの、あれほどの距離が離れている相手に攻撃を与えるには必中技である“マグネットボム”以外選択肢は無い。

 

「ア゛ァァァ!」

「ッ!? “マグネットボム”が!!」

 

 正確無比に放たれた“マグネットボム”であったが、攻撃に気付いたサンダーが辺り構わず放ったいた電撃を飛来してくる光弾に向ける。

 すると次の瞬間、閃光が爆ぜる間に“マグネットボム”は撃ち落とされてしまっていた。

 攻撃を撃ち落とされてしまったのもそうだが、サンダーに鋭い眼光を向けられたシトロンの表情は強張る。

 

(これが……伝説のポケモンの“プレッシャー”……!? 恐怖で足が……!)

 

 ゴクリと唾を呑み込むシトロンの足はガクガクと震えている。幾らジムリーダーといえど、つい最近就任したばかりの年端もいかない少年だ。

 歴史に名を刻むほどの強大な存在を目の当たりにした時の状態としては、シトロンの姿は妥当なものであった。

 だが彼はジムリーダー。自分の足を殴って震えを止めるシトロンは、頬を叩いてサンダーを睨みつける。

 

「来い! ミアレジムリーダーの僕が相手だ!!」

「……」

 

 咆哮するシトロンにあからさまな苛立ちを見せるサンダーは、プリズムタワーの天辺から飛び立つ。

 そしてサンダーの嘴の周りに視認できるほどの風の流れが生まれる。

 今まで聞こえていた耳を劈くような音とは裏腹に、鼓膜を震わせるような音を響かせるサンダーの嘴を包み込む気流。

 

「あれは……“ドリルくちばし”!? レアコイル、“トライアタック”で迎撃です!」

「―――!」

 

 シトロンの指示を受けたレアコイルは、赤、青、黄の三色の光弾を生み出し、滑空するように向かって来るサンダーに“トライアタック”を繰り出す。

 真っ直ぐ滑空してくるサンダー。

 このままの軌道であれば“トライアタック”は命中する。

 そう考えた時であった。

 

 突然、滑空途中で回転するサンダーは向かって来る“トライアタック”を器用に回避する。標的に命中しなかった光弾はプリズムタワーの鉄骨の部分に命中し、爆発を起こす。

 

(あれを避けるなんて……なんて動体視力なんだ!?)

「くっ、レアコイル! “ラスター―――」

「キュウコン、“おにび”!」

「ッ!!」

 

 突然飛来してくる青と紫の禍々しい色合いの炎に、思わず滑空を止めて回避に専念するサンダー。

 迎撃しようと身構えていたシトロンは思わぬ援護射撃に振り返り、誰がサンダーに攻撃をしたのか確認した。

 

「あ、貴方は……さっきの!?」

「どもぉ~! お手伝いに来ちゃった感じぃ!?」

「あ、危ないですよ! ここは僕に任せて―――」

「大丈夫よ」

「ッ……!」

 

 突然響いたドスの効いたブルーの声に体を硬直させるシトロン。

 そんな声を出したブルーはカツカツとハイヒールによる足音を響かせながら、翼を羽ばたかせて滞空しているサンダーに目を向けた。ブルーの横にはいつでも“かえんほうしゃ”が放てるように準備しているキュウコンの姿があるが、サンダーはキュウコンよりもブルーの方に得も言えぬ感覚を覚えていた。

 

「……伝説のポケモンだかなんだか知らないけど、私の自由時間潰した罪は重いわよ」

「……」

「私が好きな戦法知ってる? 知らないなら教えたげるわ」

「?」

 

 次の瞬間、サンダーの瞳には不気味な程に満面な笑みを浮かべる人間の女の姿が映った。

 それを見た時、一瞬だけサンダーの羽ばたきが止まるほどの―――。

 

 

 

「状態異常で真面に動けなくしてから……じわじわと嬲っちゃう奴よ……!」

 

 

 

「―――ア゛ァアアアア!!!」

 

 得も言えぬ恐怖感に陥ったサンダーはすぐさま“10まんボルト”をブルー目がけて解き放つ。

 それを見たブルーはパチンとフィンガースナップをしてキュウコンに合図を出した。

 “かえんほうしゃ”を放とうとするキュウコン。

 だが、

 

「ッ!?」

「ッ……別の方向から攻撃!?」

 

 突然真横から飛んできた“かえんほうしゃ”にサンダーの“10まんボルト”は中途半端に放たれ、収束していた電気もブルーに届く前に拡散して攻撃の体を為さなくなる。

 驚くサンダーだが、驚きを顔に浮かべるのはブルーやシトロンもだった。

 すぐに攻撃が来た方向に目を遣ると、そこにはサンダーと同じく伝説のポケモンと呼ばれる火の鳥が翼をはためかせている。

 

「ッ……ファイヤー……!?」

「そんなバカな……なんでミアレに!?」

「―――ファァァアアアアアア!!!」

 

 炎が羽の役割を果たす翼を大きく広げ、サンダーに威嚇する意味で鳴き声を上げるファイヤー。

 殺気立った様子で睨みあう二体は、共に攻撃を繰り出そうと体や口腔にエネルギーを収束し始める。

 だがその瞬間、二体の間を切り裂くように凍てつく冷気を放つ一条の光線が横切る。

 咄嗟に回避した二体。凍てつく冷気を放つ光線はというと、一瞬で地面に氷壁を生み出し、周囲の気温を一気に下げた。

 

 伝説の二体に喧嘩を売るポケモン。それは既に、姿を見ずとも正体は分かり切っていた。地面に氷壁を生み出すほどの“れいとうビーム”を繰り出せるポケモンなど早々居ない。

 

「……ったく、もう……怪獣映画じゃないんだから……!」

「フリーザー……!? そんな、伝説の三体がミアレに……!?」

「ヒュォオオオアアアア!!!」

 

 羽ばたく度に氷の結晶を辺りに散らすのは、伝説の鳥ポケモンの一体『フリーザー』。だが、散らばる氷の結晶はサンダーやファイヤーの辺りにくると、一瞬にして解けて消えてなくなった。

 

 

 

―――伝説の三体が、この大都市(ミアレ)に。

 

 

 

(リーグから連絡は届いていた……今年は三体がカロスに来ている年だって。でも、なんでこのミアレに……!? いや、それよりも街に被害を出さない為に……!)

「……すみません、ブルーさん。街を守る為に、微小な力しか持っていない僕に力を貸してくれないでしょうか!?」

「全然オッケー! っていうか、このままじゃイッシュに帰る飛行機に乗れないしね……いや、それだったらいっそ」

「あ、あの……」

「ん? ああ、ゴメンゴメン! ちゃんと手伝うからね!」

「は、はぁ……ありがとうございます」

 

 『本当にこの人は大丈夫なのだろうか』という疑問を頭の片隅に追いやったシトロンは、睨みあう三体に目を向ける。

 互いにテリトリーを争う三体が一堂に会せば、伝説の名に違わぬ大技の応酬となり、辺りに凄まじい被害が出る事はポケモンリーグ本部から伝えられていた。

 なんとか、そうなる前に三体を引きはがしたい所だが―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――わたくしパキラは、伝説の三体が睨みあっている現場に到着致しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

「あ……貴方は……!」

 

 不意に響く声。淡々としながらも腹の奥底に響くような重い威圧感を感じさせるプレッシャーに、ブルーやシトロンのみならず伝説の三鳥も、突如現れた女性に目を向けた。

 大人の雰囲気を漂わせるロザリオ色の髪を靡かせる女性は、サングラスの奥の瞳を光らせながらボールを一つ取り出す。

 プロ仕様のボールであるハイパーボールから繰り出されたのは、湾曲するツノを二本有すダークな色合いのポケモン―――『ヘルガー』。

 

 現れたのが誰だかイマイチ分からないブルーは首を傾げているものの、知っているシトロンは希望に満ちた瞳で現れた女性を見つめる。

 

「パキラさん……カロスリーグ四天王のパキラさん! 来てくれたんですね!」

「四天王? ……成程ね」

 

 漂うプレッシャーの意味を理解したブルーは、ニヤリと笑みを浮かべる。

 それと同時に四天王―――チャンピオンに追随するポケモンリーグの四人のトレーナーの一人であるパキラは、余裕ある表情で視線を伝説の三鳥に向けた。

 

 その瞬間、三体の伝説のポケモンはパキラの向けてきた笑みに悪寒を覚える。剥き出しの脊髄に舌を這わせられたような、身震いするような悪寒を。

 伝説の三体が悪寒を覚えている間、パキラは標的をファイヤーに定めながらこう言い放った。

 

 

 

「四天王パキラ。市民の平和を守る大義の下、伝説の三鳥(貴方達)との戦闘を開始することを此処に宣言致します」

 

 

 

―――サングラスのブリッジを押す手の影で、ドス黒い笑みを浮かべながら。

 


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