ポケの細道   作:柴猫侍

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第六十九話 『檸檬』という漢字の難しさ

 

 男に伝えるために近寄ろうとすると、男の人は『来るな!』と叫びます。

 私は謝りつつ『すいません、助けて下さい』と男の人に頼もうとすると、『お前じゃない!』と……。

 私は驚き、男の人をじっと見つめます。

 すると男の人は、こう尋ねてきました。

 

『お前には見えないのか? お前の後ろには…―――』

 

 

 

―――顔の無い男ばかりだぞ!

 

 

 

「みゃあ゛ああああああ!!!?」

「ライトォ―――!?」

 

 

 

 ***

 

 

 

 14番道路―――通称『クノエの林道』。ミアレシティの北に位置する道路であり、さらに北に進んでいけばクノエシティがある。

 湿気の多い気候であるため到る所に沼地を見る事ができ、沼地だからこそ生息しているポケモンも数多く見受ける事ができるのだ。

 

 そんな林道のとある場所には、怖い話をしてくれる男性が住んでいる家があり、今日もまた好奇心の強い少女が一人の少年を連れてやって来たのだが、

 

「……」

「アハハハ! ゴメンってば!」

 

 黙ってハッサムに抱き着いているライトに対し、目尻に涙を溜めながら大笑いしているコルニ。

 抱き着かれているハッサムはというと、どうしたものかと困り顔のまま、終始ビクビクと震えている主人の抱擁に応えていた。

 

 つい先程、怖い話をしてくれる男性の怪談をコルニと共に聞いて、清々しい程に絶叫したライトは、【ゴースト】ポケモンに負けず劣らない怨念に満ちた瞳でコルニを見つめている。

 これ以上彼の事を笑えば後で擽りを受ける事が目に見えたコルニは、一旦深呼吸をして息を整えようとするが―――。

 

「ふふっ!」

 

 思わず噴き出すコルニに対し、キッと光る眼光を向けるライト。

 

「あっ、ちょ……なんでこっちに来て……ひゃあああん!」

 

 仕返し執行。

 

 

 

 ***

 

 

 

 伝説の鳥ポケモンがミアレに来たのは既に一昨日の事。

 本当であれば昨日の内にミアレを出発するつもりのライトであったが、リザードンの怪我を考慮して研究所に滞在するのを一日延ばした。

 その結果、疲労もすっかり抜けたリザードンが元気百倍。ついでに、プラターヌが用意してくれたメガストーンを嵌める為の首飾りを首に着け、代わりにバンダナは左腕に巻くようになった。

 

 昨日の出来事はそれともう一つ、デクシオとジーナがライトよりも一日早くミアレを出発したことであろうか。

 

 そんな二人に一日遅れで出発したライトとコルニの二人であるが、コルニがジーナから耳にした怖い家にまず向かい、その結果としてライトはブルーな気持ちになっていた。

 同時に、彼を笑ったコルニは擽りの刑を受け、暫らくひーひーと息を切らしていたが、今ではもう息も整っている。

 

 暗い所が苦手で尚且つ怖い話も苦手であることが判明したライトと、じっとりと額に汗を滲ませているコルニは共に歩みを進めていき、公園のような広場に到着した。

 ポケギアで時間を確認すれば、時刻は既に昼下がり。

 

「ご飯にしようかな」

「そうしよっか! じゃあ、皆出ておいで!」

 

 ボールを一度に全て放り投げる二人。

 同時に飛び出してくる手持ちの面々は、ボールから飛び出した瞬間に各々の行動を取り始める。

 わちゃわちゃと動き回る手持ちであるが、此処は広場。動き回りたい手持ち達の気持ちをくみ取ったライトはクスッと微笑む。

 

「ご飯の用意するから、それまで遊んでていいよ」

「後で呼びに行くからね!」

 

 二人のトレーナーの言葉に元気よく返事をするポケモン達は、広場にある遊具に向かって走り始めたり、眠り始めたりと十人十色な行動を取り始める。

 そんな彼らを見届けた後、二人はバッグの中に在る調理器具を取りだし始め、早速昼食の準備に取り掛かった。

 

 そうしている間、ライトの手持ちはと言うと―――。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ブラッ! ブラブラ!」

「?」

「ブラァ!」

 

 口に木の実を咥えながらハッサムに駆け寄るブラッキーは、顎で林の奥を指し示す。その方向から木の実を拾ってきたといわんばかりのブラッキーの挙動に、暫し顎に鋏を当てて逡巡するハッサム。

 すると、コクンと一度頷いてから林の方に歩み出していく。

 

「グォウ」

 

 そこへ、『どこへ行くんだ』と言わんばかりに制止の声を掛けるリザードン。

 振り返ったハッサムは、そんな彼に身振り手振りを加えて説明する。その間にやって来たジュプトルも話を聞き、大体の事を理解した二体は頷き、先に進んでいくハッサムを追いかけていく。

 

 どうやら、木の実を拾いに行くようだ。

 

 一度、ヒンバスを連れていってみてはどうかと考えるブラッキーであったが、陸上を進むには適していない彼女の体構造を思い出したブラッキーは、先行く三体をスキップしながら追いかけていく。

 たくさん木の実をライトに持って行ってあげれば、きっと彼は喜んでくれるだろう。

 

 たくさん木の実を持っていけば、ライトは喜ぶ。

 

 喜んだライトは、自分をたくさんナデナデしてくれる筈。

 

 そうすれば、どっちもハッピー。

 

「ブラッ♪」

 

 完璧な作戦だ(?)。

 獲らぬジグザグマの物拾い算用な考えを頭に浮かべながら、木の実拾いに精を出そうとするブラッキー。

 すると、そのようなブラッキーの頭にゴチンと何かが落下してくる。

 

「?」

「ジュプト……」

 

 地面に転がるのは木の実。上を見上げれば、既に両腕にたくさんの木の実を抱えているジュプトルの姿が窺える。

 ブラッキーの頭に木の実を落としてしまい申し訳なさそうな顔をするジュプトル。そんな彼に対してふくれっ面になるブラッキーは、落ちてきた木の実をパクリと一口。

 

「ブラァ~……」

「ジュプ……」

 

 どうやら辛い木の実であったようだ。舌を出してひりひりと痛む舌を冷やそうとするブラッキーに対してジュプトルは、モモンの実を差し出す。

 それを一口食べたブラッキーは、未だ舌はひりひりするものの、甘くてジューシーなモモンの実を食べたことにより幸せそうな顔をする。

 

 満足そうなブラッキーを見て一安心するジュプトルは、一旦腕の中の木の実をどうするものかと逡巡した後に、ブラッキーのバンダナに目を付けた。

 首に巻かれるバンダナを一旦解き、そこへ両腕に抱えたたくさんの木の実を入れ、落ちないように気を付けながら再びブラッキーの首へと巻く。

 一昔前の泥棒のような背負い方であるが、この方法であれば一度にたくさんの木の実を持って行ける。

 

 我ながら良い方法だと笑顔になるジュプトルは、背中にたくさん入った木の実の重量をその背中に感じながら、先行くブラッキーと共に新たな木の実探しに向かう。

 

 シュタ。

 

 そこへ木の上から飛び降りたのはハッサム。

 頼れる兄貴分の登場に二人は目を見開き、彼の収穫に期待を膨らませる。

 

 ドサササッ。

 

 ハッサムの象徴ともいえる両腕の鋏が開かれると、鋏の空洞に仕舞われていた木の実が一斉に地面に転がり落ちた。

 オレンやモモン、クラボなどのオーソドックスな木の実から、ロゼルの実などという珍しい木の実も散見できることから、この短時間に様々な場所に向かって拾ってきたのだろう。

 成果は充分。誇らしげな顔を浮かべるハッサムは、ブラッキーがバンダナを風呂敷代わりに使っているのを目の当たりにすると、『自分も』と言わんばかりにバンダナに木の実を詰め込み始める。

 

 各々の分どころか、全員分の木の実を収穫できたのではないかという量を手に入れた一同。

 だが、まだリザードンが帰って来ていない。と言うよりも、他の者達の集める速度が早いだけである為、彼はまだ木の実拾いの最中なのだろう。

 そういう考えに至った一同は、一旦木の実を主人達の下へ持っていこうという考えに至り、広場へと戻ろうとする。

 

 その頃、リザードンは―――。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ヒョイ。

 

 ムシャムシャ。

 

 ゴクン。

 

 腕に抱えている木の実を一つ放り投げ、落ちてくるところを器用に口で捉えるリザードン。

 片腕に抱えている量は十数個程だが、余り多く持つと運び辛いということもあるからか、減らす意味でつまみ食いをしていた。

 これから昼食であるが、この巨体で食べる量が相当なコトを考えれば、今ここである程度腹を満たすのも一理ある筈と考えた上での行動だ。

 

 帰り道を辿りながら進んでいくリザードンは、ノールックで木の実を手に取りながら頬張っていく。

 すると、

 

 ヒョイ。

 

「……?」

 

 今まさに木の実を取ろうとした手が空振り、そのまま空気を握る結果となってしまった。

 それと同時に腕の中の重さが無くなり、何事かと辺りをキョロキョロと見渡すリザードンであったが、ふと奇怪な光景が広がっている事に気付く。

 フヨフヨと漂う木の実が、生い茂る林の奥へと向かって行くではないか。

 

「……」

 

 何か霊的な、若しくはエスパー的な力が働いているのかと考えたリザードンは、まんまと奪われてしまった木の実を追いかけるかどうか思案を巡らせる。

 このまま持っていかれたとしても特別困る事も無いが、こうも簡単に奪われてしまったという事実も面白くは無い。

 とりあえず、木の実を奪おうとしている元凶は一目見ようと考えたリザードンは、忍び足で漂っていく木の実を追っていく。

 

 林の奥へ進んでいけば迷いそうな気もしたが、飛べば万事解決。空から覗けばすぐにでも帰ることはできる。

 そのようなことを考えるリザードンであったが、不意に木の裏へと回り込む木の実に足を止めた。

 

 暫し立ち止まっていると、木の裏からシャリシャリと木の実と齧る音が聞こえてくる。

 まさか、あれだけの量を一度に奪ったのにも拘わらず、奪われた本人が気づいて追いかけてくる事を考慮せずに食事に入るとは中々肝が据わっている相手だ。

 それだけ食い意地が張っているのか、若しくはそれだけ腹を空かせていたか。

 どちらにせよ、顔は見てやろうと再び忍び足で咀嚼音が鳴る場所へと向かって行く。

 

 そして―――。

 

「クゥ~♪」

「……グォウ」

「クゥ~~~!?」

 

 じたばた!

 

 ビタンッ!

 

 一声かけると慌てふためいて逃げようとするポケモン。だが、驚きの余りにそのまま地面に派手に転倒した。

 よく見ると怪我をしている体。翼も見受けられることから、本来は空を飛ぶポケモンであるのか。

 

 だがリザードンは、目の前で慌てふためいているポケモンに既視感を覚え、その場で顎に手を当てて記憶の糸を手繰り寄せようとする。

 こうした所作は主人である少年に似てきたのか。

 それは兎も角、既視感の原因を覚えたポケモンの体の特徴を目で捉える事にするリザードン。

 

 黄と白を基調にした体。

 ジェット機のようなフォルム。

 エメラルドのようなクリンとした瞳。

 胸の三角マーク。

 

「!」

 

 思い出したと言わんばかりに手を叩くリザードン。

 

―――このポケモンは、ラティアスとラティオスに良く似ている。

 

 ラティオスよりかはラティアスに近い体躯をしていることから、ラティアスではないかと推測するリザードン。

 普通のラティアスをイチゴ味に例えるのであれば、この色のラティアスはレモン味だ。そうするとラティオスはブルーハワイ味―――というどうでもよい考えは頭の隅に追いやり、もう一度ラティアスの状態を見てみる。

 

 他のポケモンに襲われたのか、翼の部分に大きな裂傷を負っているラティアス。

 

「……グォウ」

「クゥ……」

「グォ」

「クゥ?」

 

 真ん丸、且つウルウルとした瞳を向けてくるラティアスに対し、地面に落ちていた木の実をかき集めるリザードン。そのまま集めた木の実をスッとラティアスに差し出す。

 その行動に一度首を傾げたラティアスであったが、差し出された木の実とその香りに刺激されたのか、『ぐぅぅううう』と大きい音が鳴り響く。

 

 真っ赤に染まるラティアスに対し、フッと一度微笑を浮かべてからドシンドシンと足音を立てて去っていくリザードン。

 木の実を奪った事を怒るのでもなく、ただ黙って木の実を差し出してくれたリザードンを不思議に思いながら手を伸ばすラティアスの―――。

 

「ドゥルァアアアアア!!!」

「クゥ!?」

 

 後ろの茂みから突然飛び掛かってくるのは、ばけさそりポケモンの『ドラピオン』。その両腕の爪を振りかざし、ラティアスが手を付けようとする木の実を奪うべくラティアスに襲いかかろうとする。

 だが、

 

「ドゥッ!!?」

 

 今まさに攻撃しようとしたところで、大の字を描く爆炎が胴体に直撃し、そのまま後方に吹き飛んでいくドラピオン。

 頭を手で抱えていたラティアスが何事かと炎がやって来た方向に目を向けると、『ぺっ!』と唾を吐くかのごとく残り火を口から吐き出すリザードンの姿が窺えた。

 

 まるで既にドラピオンが襲いかかるのをわかっていたかのような攻撃の速さ。彼がたった今繰り出した“だいもんじ”は、それなりに溜めの時間が必要な技だ。

 しかしそれを知らないラティアスはただ単に、助けてくれたリザードンに向けてキラキラとした瞳を向ける。

 だが、彼女の後ろから再びガサガサと茂みが揺れる音が鳴り響く。

 

 ビクッと体を揺らしたラティアスが恐る恐る後ろを振り返ってみると、【やけど】を負ったドラピオンがリザードンに敵意を含んだ瞳を向けていた。

 そんな相手に対し、再び口腔に炎を溜めるリザードン。

 

 自分を挟んでこれから一戦やり合おうとする二体に戦々恐々とするラティアス。

 だが、

 

 シュ。

 

「?」

 

 不意に投げられた物を手に取るドラピオン。爪の間に挟めた物は、【やけど】を回復させる効果を有すチーゴの実であった。

 一体どういうつもりなのかとリザードンを一瞥するドラピオンであったが、リザードンが己に向けてくる瞳を目の当たりにし、全てを理解する。

 

―――それはくれてやる。だから退け。

 

「……」

 

 負けを認めて退くのは癪だが、たかが十個ほどの木の実だけの為にリザードンを相手取るのは労力に合わないと察したドラピオンは、颯爽と林の奥へと消えていく。

 それを見てホッと息を吐くリザードンは、地面に怯えているラティアスの下へと歩み寄る。

 

「グォウ」

「クゥ? ……クゥ~~~♪」

 

 怯え竦んでいるラティアスに手を差し伸べると、安心したのかリザードンの胸に飛び込むラティアス。

 そのまま頬ずりしてくる相手に困った顔を浮かべるリザードンは、十数秒ほど立ってから力尽くで引き剥がす。

 少し残念そうな顔を浮かべるラティアスであったが、ちょんちょんと翼を差し示す挙動を見せるリザードンにハッとした。

 

 ズキン、と痛む翼に涙目になるラティアス。

 

 潤む彼女の瞳を目の当たりにしたリザードンは周囲を見渡し、綺麗そうな水が溜まっている池を見つけた。

 そこへ手を引いていくリザードンと、素直に手を引かれていくラティアス。傍から見れば、仲の良い兄妹のようにも見える。

 

 すると、着いた途端に水を器用に手で掬い上げ、ラティアスの翼の傷をバシャバシャと洗うリザードン。

 傷口に染み込む水に顔を歪ませるラティアスであったが、為されるがままにジッとしている。

 

 傷口を洗った後は清潔な布で湿気を拭き取りたいところだが、ポケモンであるリザードンが医療道具など―――。

 いや、持っていた。

 昨日洗濯したばかりのバンダナが。

 

「……」

 

 しかしこれはヒヨクシティの祭りで贈り物として受け取ったバンダナ。そのような用途に使って良い物か。

 

 チラッ。

 

「?」

 

 コテン。

 

 不思議そうに首を傾げるラティアスを見て、仕方ないとバンダナを解いてから傷口とその周りに滴る水滴を拭い取る。

 ペタペタとバンダナをタオル代わりに扱って水滴を拭うリザードンであったが、その間にラティアスはジッとリザードンを見つめていた。

 

 カロス地方に来てからというもの、ロクな目に合っていない自分。人間に追われることもあれば、休もうと思った場所で野生のポケモンに襲われたりもした。

 全てはこの体の色だという事は、幼いながらも理解していた彼女。

 普通とは違った体色の所為で、只でさえ数少ない群れから追い出されて天涯孤独になった自分を優しく扱ってくれる者はそうそう居なかった。

 

 無駄に感情に敏感な所為か、自分に歩み寄ってくる者の感情が良く分かってしまう。特に人間に関しては、もやもやとした悪しき感情というものが顕著であった。

 故に人里を離れて各地を転々としていたのだが、こうして優しく接してくれる相手は―――。

 

 ポッ。

 

『リザード~~ン。どこ~~~?』

「!」

 

 不意に響いてくる少年に声にハッとしたリザードンは、俊敏な動きで声が聞こえてきた方向へと羽ばたいていく。

 その際、彼の持ち物であったバンダナは彼の手から零れ、そのままラティアスの目の前へと落ちるのであった。

 

 バンダナを拾い上げて届けようと考えるラティアスであったが、リザードンの向かった先に人間が居ると思うと足が竦んでしまう。

 暫し逡巡していると、一人ポツンと孤立してしまうラティアス。

 彼女はそのままバンダナの端を首の両端に持っていき、

 

「クゥ~~~♪」

 

 自分に身に着けた。

 若干湿っているものの、乾かせばどうにでもなる。ヒラヒラと靡くバンダナを至極気に入ったラティアスは、それを去って行ったリザードンに届けることもなく、フヨフヨと林の奥へと消えていく。

 また彼に会えればと考えながら、意気揚々と。

 

 

 

 ***

 

 

 

「あれ? リザードン、バンダナは……?」

「? ……!」

 

 昼食を摂り終えて片付けしている間、何か物足りないと感じたライトが放った一言に『しまった』と頭を抱えるリザードン。

 恐らくあの場所に置いたままなのだろうと考えたリザードンは、すぐさま探しに行こうとするが、陽気に笑うライトの声に足が止まった。

 特に気にする様子もなく笑うライトは、ゴソゴソとバッグの中から赤い色のバンダナを取り出してリザードンの左腕に巻く。

 

「色々あってもうボロボロだったからね……失くした物はしょうがないし、新しいのあげるよ」

「グォウ……」

「ははっ、そんな気にしなくてもいいって!」

 

 真新しいバンダナを左腕に巻かれたリザードンは申し訳なさそうな顔を浮かべる。

 『気にしなくてもいい』と言われても気にしてしまうのがリザードンの性分だ。だがここは、無理に探しに行くよりは素直に受け取った方が吉と考えた。

 己の注意力の無さに呆れた息を吐くリザードンは、ふと空を仰ぐ。

 

「……?」

 

 

 

 見上げた空には、昼にも拘わらず流星のように空を奔る黄色の影が一つ見えた。

 


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